(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6159320
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】ハロゲン非含有ポリマーブレンド
(51)【国際特許分類】
C08K 5/04 20060101AFI20170626BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20170626BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
C08K5/04
C08L71/00
C08L77/00
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-517861(P2014-517861)
(86)(22)【出願日】2012年6月28日
(65)【公表番号】特表2014-518307(P2014-518307A)
(43)【公表日】2014年7月28日
(86)【国際出願番号】FI2012050681
(87)【国際公開番号】WO2013001168
(87)【国際公開日】20130103
【審査請求日】2015年5月18日
(31)【優先権主張番号】20115693
(32)【優先日】2011年6月30日
(33)【優先権主張国】FI
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503429205
【氏名又は名称】イオンフェイズ オサケユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100167623
【弁理士】
【氏名又は名称】塚中 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】ユッカ ヒルベルグ
(72)【発明者】
【氏名】ユッカ マキ
【審査官】
繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−046023(JP,A)
【文献】
特開平04−339849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテル系ポリマー、または、ポリエーテル−ブロックポリマーの群より選択されるコポリマーの1つ以上を含む、イオン性電荷伝導を可能とするハロゲン非含有ポリマーブレンドであって、
弱配位性アニオンとアルカリ金属カチオンとを含む、特定のハロゲン非含有イオン性錯体または塩の1つ以上をさらに含み、
前記弱配位性アニオンは、ビス(オキサラト)ホウ酸アニオンであり、
前記カチオンはNaおよびKより選択されることを特徴とするハロゲン非含有ポリマーブレンド。
【請求項2】
ポリエーテル系ポリマーまたはコポリマーの量は、前記ブレンドの10〜99質量%であることを特徴とする請求項1に記載のブレンド。
【請求項3】
前記イオン性錯体または塩は、前記ホストポリマーを含む前記ポリマーブレンドに、0.002〜0.05ミリモル/グラムの量で存在することを特徴とする請求項1または2に記載のブレンド。
【請求項4】
フィラーとして、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル系ポリウレタン、およびそれらのコポリマーの群より選択されるポリマー材料をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のブレンド。
【請求項5】
ポリエーテル系ポリマーまたはコポリマーとフィラーポリマーとの比は、10:90〜90:10であることを特徴とする請求項4に記載のブレンド。
【請求項6】
エチレン酸コポリマーの中和により形成されるアイオノマーの1つ以上をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のブレンド。
【請求項7】
アイオノマーの含有量は、前記ブレンドの1〜50質量%であることを特徴とする請求項6に記載のブレンド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの前記ブレンドの、イオン伝導材料の成分として使用。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかの前記ポリマーブレンドを、添加剤として含むことを特徴とするハロゲン非含有イオン伝導樹脂材料。
【請求項10】
単一構造の形態であり、
前記ブレンドが、他のポリマー材料または非ポリマー材料の1つ以上と均一に混合されて、押出射出成形により、所望の構造に形作られることを特徴とする請求項9に記載の樹脂材料。
【請求項11】
単一層のままで、または積層構造として、タイルまたはマットの形態の寸法的に安定したカバー構造の形態で存在することを特徴とする請求項9または10に記載の樹脂材料。
【請求項12】
前記構造が、請求項1〜7のいずれかに記載の前記ブレンドで形成される少なくとも2つのポリマー層を含み、1つ以上の層がイオン伝導性であることを特徴とする請求項9または11に記載の樹脂材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の典型的な特性を有するにもかかわらず、イオン伝導性を有するハロゲン非含有静電気散逸性ポリマーブレンドに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス産業の製品の使用および製造の増加に伴い、静電気放電(ESD)の防止と、樹脂中の静電気の制御がますます重要になってきている。様々な調査に基づけば、静電気に関連する事件は、毎年、エレクトロニクス製造産業単独で250億USドル超の損失をもたらしていると推定されている。構成部分が、多くの理由のためESDに対して敏感になってきているため、この数値は増加している。また、化学および食品産業のバルク包装およびハンドリングにおいても大きなリスクがあり、充填および放出の間に、ESDによって商品の爆発が起こる可能性がある。ESDに関連する爆発のために、人命が失われたケースが多くある。静電気散逸性ポリマーの他の適用領域は、例えば、家庭用電子機器、および、自動車産業、主に車の内部における防塵である。
【0003】
電気伝導性樹脂は、細かく分離された伝導性カーボンブラック、伝導性カーボン繊維、または他の伝導性粒子をベース樹脂に添加することによって製造することができる。ポリマーおよび伝導性粒子のコンポジットの使用を妨げる重要な要因の一つは、材料からの伝導性粒子の抽出である。これが、例えばクリーンルーム環境および食品包装において、カーボンブラックを含む材料の使用を妨げる。これらの伝導性の粒子または繊維は、電気伝導性を与えるためにポリマーマトリックス中で接続され、且つ、均一に分散されなければならない。伝導性の閾値レベルがシャープ(パーコレーションカーブ)であるので、所謂静電気散逸性範囲、即ち1E6−1E11(1×10
6〜1×10
11)Ωの表面抵抗(IEC61340)内であるコンポジット材料を作るのは非常に困難である。電気伝導性ポリマーのその他の課題は、ESD安全性のために、材料を常に接地しなければならないことである。接地接続が失われると、材料は非常に危険になる。
【0004】
また、帯電防止材料、即ち、湿気を吸収する双極性オリゴマーを使用することによって、樹脂を伝導性にする試みが行われてきた。これらの材料に関連する問題は、移行性、非耐久性、相対湿度に対する伝導度の高い感受性、およびプロセス中および製品自体内の両方での不安定性を含む。
【0005】
また、例えばポリアニリンに基づく本質的に導電性のポリマー(intrinsically conductive polymer:ICP)を製造する試みがなされてきた。公知の電気伝導性ポリマーは、それらの構造に起因して、熱可塑性樹脂に混合した際の乏しい機械的特性、毒性を有し、さらにそれらの熱安定性は非常に限られている。
【0006】
また、本来的静電気散逸性ポリマー(inherently dissipative polymer:IDP)として知られているイオン伝導性ポリマーは、静電気抑制ポリマーの群の異なる種類を表す。抵抗率を低減することは特定のポリマー環境でのイオン電荷移動度に基づいている。一般に、イオン伝導性は、複雑な現象であり、存在するためにイオン錯体とポリマー構造の特定の型を必要とする。使用されるポリマーフレームは、例えばポリエーテルからなる。多数の特許が、このトピック範囲で公開されている。これらの中で、イオン伝導性は、一般に、リチウム塩、例えばLiClO
4をポリマーに添加することによって製造されてきた。他の可能な添加剤は、酸などのイオン化可能な種々の化合物が挙げられる。
【0007】
特許文献1によれば、電気伝導性ポリマーは、有機スルホン酸にポリアニリンを混合することにより得られる。しかしながら、このような添加剤はポリマーブレンドを完全に黒ずんだものにし、それらの使用を制限する。
【0008】
同様に、特許文献2では、通常のポリマー内に、約50%の量でフルオロスルホン化ポリアニリンを混合し、ルイス酸または有機チタン酸を用いて他のポリマー内にこれを組み込むことによって、当該通常のポリマーを電気伝導性にすることができることが記載されている。
【0009】
高分子電解質の典型的な欠点は、乏しい機械的特性および化学物質への乏しい耐性を含む。さらに、アニオンおよびカチオンは、材料から抽出することがあり、それが材料の使用を制限し、特に、一般的に使用されるハロゲンまたはハロゲン化イオンの場合には環境問題を引き起こす。抽出されるリチウムイオンは、食品包装用途で問題となる。
【0010】
さらなる選択肢は、アイオノマーの使用を含む。特許文献3には、ポリエーテルアミドと、アイオノマーなどの適当なブレンドポリマーとの帯電防止混合物が記載されている。デュポンの特許文献4によれば、二つの異なるアイオノマーから調製されたブレンドは、大量のアルカリカチオンにカルボン酸基を多量に含有するアイオノマーを混合することにより、帯電防止性を有することができる。中和度が増すことによってアイオノマーによる水の吸着が増加し、そして高い中和度は、例えばプロセスを複雑にする。
【0011】
膨大な量のイオン伝導性ポリマーブレンドまたは組成物が、過去に特許されている。しかしながら、塩素またはフッ素を含有する塩が伝導性を向上させることが知られているように、ハロゲンがこれらの組成物の本質的な部分を形成している。
【0012】
特許文献5(Ciba Speciality Chemicals)には、イオン伝導性ポリマーと、別の相溶性の良いポリマーと、ハロゲン塩、すなわち過塩素酸ナトリウムと、を含有するブレンドが記載されている。さらに、特許文献6(Sanyo Chemicals)には、0.01〜2.00質量%のアルカリ金属ハロゲン化物またはアルカリ土類金属ハロゲン化物が混合物に導入された際に、どのようにしてポリエーテルエステルアミドおよびアルカリ金属から電気伝導性樹脂が得られるかが記載されている。実施例によれば、金属塩の推奨される量が、準備される材料の5〜30質量%までである。
【0013】
特許文献7では、伝導性を向上させるいずれの塩も利用しないポリマーブレンドが記載されている。同様に、特許文献8(Tejin Ltd)には、エポキシ基で修飾した0〜40重量%のポリオレフィンを追加的にさらに有する電気伝導性ポリマーブレンドが、10〜2500ppmのアルカリ金属添加物と、ポリエステルと、ポリエーテルエステルアミドとからどのようにして製造されるかが開示されている。当該特許文献には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属をポリマー内へ導入する方法について言及がない。さらに、特許文献9(Ato Chimie)では、ポリエーテルエステルアミドおよびポリオレフィンから、十分に強く、所謂タバコ灰試験による静電防止要求を満たす電気伝導性ブレンドを製造することが可能であることが述べられている。当該特許文献では、アルカリ金属またはアルカリ土類金属イオンの使用の言及がない。また、特許文献10(Toray Industries)では、ポリエーテルエステルアミドおよびアイオノマーの耐熱ブレンドが記載されている。アイオノマーは、1価、2価、または3価の金属イオンを、アルファオレフィンおよびベータ不飽和カルボン酸のポリマーに添加することによって調整されることが当該特許文献に言及されている。ブレンドの電気伝導性について言及されていない。
【0014】
一方、特許文献11(Chemetall)には、ビス(オキサラト)ホウ酸アルカリ金属錯体を添加剤として用いて、中でも伝導性を向上させることが記載されている。しかしながら、イオン伝導性ポリマーは、当該出願には記載されていない。
【0015】
ハロゲン含有製品が環境に有害なだけでなく、これらの製品を取り扱う人々の健康に有害であることが知られているように、ハロゲン非含有(ハロゲンフリー)の代替物を開発することがますます重要になっている。
【0016】
さらに、公知の多くの組成物およびブレンドは、製造後に比較的高い水分を吸収し、その結果、測定された伝導率は、少なくとも部分的に水の伝導率からもたらされる。これは、乾燥した環境によって、伝導率の大幅な低下が生じることを意味する。したがって、安定した伝導性を与える組成物およびブレンドの必要性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5928565号明細書
【特許文献2】米国特許第6149840号明細書
【特許文献3】米国特許第5369179号明細書
【特許文献4】米国特許第5179168号明細書
【特許文献5】欧州特許第0829520号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0613919号明細書(米国特許第5652326号明細書)
【特許文献7】米国特許出願公開第2004/171752号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第0915506号明細書
【特許文献9】独国特許出願公開第3242827号明細書
【特許文献10】特開昭58−015554号公報
【特許文献11】欧州特許出願公開第1934235号明細書
【発明の概要】
【0018】
本発明の目的は、従来技術に関連する欠点の重要性を取り除き、または少なくとも減少させ、また、新規なイオン伝導性のゼロハロゲンポリマーブレンドを提供することである。
【0019】
特に、本発明の目的は、イオン伝導性(即ち、イオン性伝導性)を、ハロゲン非含有塩を用いて向上させ且つ安定化させたポリマーブレンドを提供することである。
【0020】
さらに、本発明の目的は、熱に許容可能でリサイクル可能なポリマーブレンドであって、イオン伝導性が本質的に湿度に対して独立しているポリマーブレンドを提供することである。
【0021】
本発明は、ゼロハロゲン塩錯体を、ポリマー、特にポリマーブレンドのイオン伝導性を向上させるために使用することができるという考えに基づいている。本発明は、そのような、イオン伝導性を有するポリマーブレンドに関する。選択される塩は、ブレンドをハロゲン非含有(ハロゲンフリー)にする。
【0022】
より具体的には、本発明のブレンドは、請求項1の特徴部分に記載されていることにより特徴付けられる。
【0023】
さらに、ブレンドの使用は、請求項10に記載されていることにより特徴付けられ、当該ブレンドを含むハロゲン非含有イオン伝導性樹脂材料は、請求項11の特徴部分に記載されていることにより特徴付けられる。
【0024】
大きな利益が本発明を用いて得られる。したがって、本発明は、例えば、樹脂製品の添加剤として使用することができ、静電気制御を向上させる特性を有する最終製品を提供することが可能であるポリマーブレンドを提供する。このブレンドにいわゆるベース樹脂を混合する場合、その変化は、IEC61340−2−3に従う表面抵抗測定を用いれば、静電気散逸性範囲(1E6−1E11(1×10
6〜1×10
11)Ω)である表面抵抗において達成される。
【0025】
ポリマーブレンドは、柔軟剤または従来の帯電防止剤などの移行化合物を含まず、そのイオン伝導性は安定している。本発明によるブレンドが、静電気散逸性ポリマーを形成するために他のポリマー内にブレンドされた際、煤状パーコレーションは、材料内に必要とされない。材料は、多数のポリマーとの高い相溶性と、優れた機械的特性と有する。
【0026】
得られた製品はハロゲン非含有であり、これは、環境価値がますます重要になり、また法令がより厳格になっているので、大きな利点である。これは、ハロゲン非含有製品の市場価値を高めるだけでなく、リサイクルを容易にする。本発明で利用されるハロゲン非含有塩は、従来技術のハロゲン含有塩と比較して、使用が安全である。
【0027】
さらに、本発明を用いて得られた製品は再利用することができる。当該製品は、現在市場に出回っている製品とは逆に、改善された熱的安定性に起因して、特性を失うことなく、再処理によりよく耐えることができるからである。
【0028】
本発明で使用される塩は、ハロゲン非含有であることに加えて、ポリマーのイオン伝導性を大きく向上させる。これらは、ポリマーブレンド内で機能的成分として使用されて、ESD保護のために最適な範囲内にある特性を提供し、また、変化する条件においても安定したレベルでこの特性を維持する。これは、本発明のブレンドが、多くの公知の製品とは逆に、異なる環境条件において一定の静電気散逸性特性に示される改良された湿度独立性を有するからである。
【0029】
例えば、フィルム、シート、繊維、パイプ、ホース、多数の目的のコーティングおよび成形部分を作るために、押出用途で本発明による材料を使用することが可能である。それは、エレクトロニクスおよび化学製品の包装のための柔軟且つ堅固な包装、床コーティング、ならびに繊維用途に適した例である。これらにおいて、ブレンドの良好な機械的特性を利用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明を、詳細な説明を参照して詳しく記載する。
【0031】
本発明は、イオン伝導を可能とするハロゲン非含有ポリマーブレンド(即ち、イオン伝導性ブレンド)に関する。ハロゲン非含有ポリマーブレンドは、ポリエーテル系ポリマーまたはコポリマーの1つ以上を含むか、或いは、エチレン酸コポリマーの中和により形成される1つ以上のアイオノマーが加わった前記ポリエーテル系ポリマーまたは前記コポリマーを含む。ポリエーテル系ポリマーおよびコポリマーは、ポリマー鎖セグメント運動とイオンホッピング環境とを促進する好ましい構造を有し、コポリマーは、ポリエーテル−ブロックポリマーまたはポリエーテル系ポリウレタンの群より選択される。
【0032】
ポリエーテル−ブロックポリマーの例としては、ポリエーテルブロックアミド、特にポリエーテルブロックおよびポリアミドと本質的に等しい部分から構成されるポリエーテルブロックアミドと、ポリエーテルブロックおよびポリオレフィンブロックを含むポリマーと、ポリエーテルブロックおよびポリエステルブロックを含むポリマーと、ポリエーテルブロックおよびアクリル酸エステルブロックを含むポリマーと、が挙げられる。
【0033】
ポリエーテルブロックは、ポリエチレンオキシドから選択されることが好ましく、最適にはポリエチレングリコールである。
【0034】
本発明のブレンドは、ブレンドの、好ましくは10〜99質量%、より好ましくは10〜80質量%、さらに好ましくは25〜70質量%の量でこの/これらのポリエーテル系ポリマーを含有する。
【0035】
ブレンドは、弱配位性アニオンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属のカチオンとを有する1つ以上の特定のハロゲン非含有イオン性錯体を含み、当該ハロゲン非含有イオン性錯体は上記ポリマー構造体内で解離可能な錯体を形成する。
【0036】
前記弱配位アニオンは、二座配位子のホウ素中心錯体の群より選択され、二座配位子は、−COOHおよび−OHより、または任意にそれらの塩より選択される少なくとも2つの反応基を含有するC2〜C8脂肪族または芳香族の有機化合物の群から選択される。
【0037】
例示的なアニオンは、(マロナト、オキサラト)ホウ酸、ビス(マロナト)ホウ酸、ビス(オキサラト)ホウ酸、(グリコラト、オキサラト)ホウ酸、ビス(グリコラト)ホウ酸、(ラクタト、オキサラト)ホウ酸、ビス(ラクタト)ホウ酸、(オキサラト、サリチラト)ホウ酸、ビス(サリチラト)ホウ酸、(オキサラト、タルトラト)ホウ酸、ビス(タルトラト)ホウ酸、(オキサラト、カテコラト)ホウ酸、ビス(カテコラト)ホウ酸が挙げられる。好適な選択は、ビス−アニオンである。さらにより好ましくは、上記弱配位性アニオンは、シュウ酸およびホウ酸のビス塩、即ち、ビス(オキサラト)ホウ酸アニオンである。最も適当には、カチオンは、リチウムを除くアルカリ金属の群より選択され、好ましくは、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムを含み、最も好ましくは、数あるリチウム塩が例えばNaおよびK塩より一般的に毒性があるので、NaおよびKである。
【0038】
上述の利点に加えて、これらのイオン性錯体または塩は、問題になっているポリマータイプに対して不活性であるというさらなる利点を有する。
【0039】
イオン性錯体または塩は、ホストポリマーを含むポリマーブレンドの、特に最終ブレンドの0.002〜0.05ミリモル/グラムの量で存在することが好ましく、より好ましくはブレンドの0.03ミリモル/グラム未満で存在する。上記の量を添加することで、高いイオン伝導性および優れた機械的特性が同時に得られる。
【0040】
用語「ハロゲン非含有」は、ハロゲンが0%の含有量で添加されることを意味することを意図する。ブレンドの必須成分は、ほんの僅かなハロゲンを含有してもよいが、しかしながら、このハロゲンの含有量は検出可能なレベルを下回っており(通常の分析手順を使用する)、最も好適には、50ppmの含有量未満である。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によれば、ブレンドは、上記の成分に加えて、フィラーポリマーとして、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル系ポリウレタン、およびそれらのコポリマーの群より選択されるポリマー材料を含んでいる。
【0042】
したがって、本発明のこの実施形態によれば、本ブレンドは、配位可能な官能基(例えば、エーテル、エステル、アミド、および他のカルボニル基)を有する、少なくとも2つの異なるポリマーを含有し、そのうちの「第1」は、少なくともエーテル基を含有し、「第2」は、少なくともカルボニル基を含有する。また、ブレンドは、前記官能基と配位可能な塩またはイオン錯体を含有し、それによってより安定したブレンドを与える。第1ポリマーと第2ポリマーとの比は、好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは30:70〜90:10、最も好ましくは50:50〜70:30である。
【0043】
上述したように、ブレンドは、第1ポリマーおよび任意の第2ポリマーに加えて、エチレンとアクリル酸もしくはメタクリル酸とのコポリマーまたはターポリマーのポリマーであることが好ましい少なくとも1つのアイオノマー、または任意の他の公知のアイオノマーを含み得る。アイオノマーの含有量は、ブレンドの1〜50質量%が好ましく、より好ましくは10〜50質量%、最も好ましくは10〜30質量%である。
【0044】
最終化合物、即ち、ベースホストポリマー内の相互貫入ネットワーク(interpenetrated network:IPN)としても知られる共連続ネットワークを形成するイオン伝導性ポリマーブレンドの混合物は、異なる押出転換装置を用いて、フィルム、シート、成形品または射出成形品に転換することができる。この混合物は、転換前に別個の押出プロセスで、または転換プロセス中に形成することができる。
【0045】
本発明によるポリマーブレンドのメルトインデックスは、2160gの重量を用いて190℃の温度で測定して、典型的に3〜50g/10minである。メルトインデックスは、ブレンドで使用されるポリマーの性質および特性に依存して変化する。ポリマーブレンドの体積抵抗率(ASTM D−257またはIEC60093)は10
5Ω・mと低い。ポリマーブレンドの吸水率は、典型的には24時間浸漬で10質量%未満である。
【0046】
静電気散逸性ポリマーブレンドを調製するための本発明によるプロセスは、二軸スクリュー押出機などの適当な機器を用いてポリマー成分の融点以上の高温で成分を混合することを含む。溶融温度は典型的には150〜300℃の間である。塩は、一般に、ブレンド内にそのまま或いは他の材料との混合物としてのいずれかで導入される。
【0047】
以下において、本発明を、実施例を用いてさらに説明するが、それは本発明の範囲を限定するものではない。
【0048】
以下の測定により証明されるように、本発明の材料は、ハロゲン非含有であることを特徴とし、当該技術分野で公知の他の材料と比較して、一般的なポリマー相溶性だけでなく、熱安定性とイオン伝導性に関して改良された特性を示す。また、イオン伝導性は、変化する周囲条件下で使用される静電気散逸性材料用に最も重要な特性である、安定した性能を与える、実用的な湿度独立性を示す。
【0049】
[実施例1]
98部のポリエーテルブロックアミド(約50部のポリエチレングリコールおよび約50部のポリアミド−12から構成される)と、2部のビス−オキサラトホウ酸カリウムとをWerner−Pfleiderer二軸スクリュー押出機を用いて180℃で一緒に混合し、続いて、水中ペレット製造機で粒状にして、実施例1(Ex1と略す)と命名されるポリマーを得た。まず80℃で3時間乾燥し、次いで10RH%、20℃で48時間調整した粒状物の体積抵抗率は、1×10
5であった。Ex1粒状物の熱特性および電気特性は、表1および2にまとめた。
【0050】
[実施例2]
55部のポリエーテルブロックアミド(約50部のポリエチレングリコールおよび約50部のポリアミド−12から構成される)と、36部のグリコール変性ポリエチレンテレフタレートと、5部のスチレン−メチルメタクリレート共重合体と、4部のビス−オキサラトホウ酸カリウムとをWerner−Pfleiderer二軸スクリュー押出機を用いて220℃で一緒に混合し、続いて、水中ペレット製造機で粒状にして、実施例2(Ex2)と命名されるポリマーを得た。まず80℃で3時間乾燥し、次いで10RH%、20℃で48時間調整した粒状物の体積抵抗率は、2×10
5であった。Ex2粒状物の熱特性および電気特性は、表1〜3にまとめた。
【0051】
[比較例1]
ビス−オキサラトホウ酸カリウムを過塩素酸ナトリウム一水和物に置き換えた以外、実施例1に記載したのと同じ手順を用いて、比較例1(CE1と略す)と命名されるポリマーを得た。まず80℃で3時間乾燥し、次いで10RH%、20℃で48時間調整した粒状物の体積抵抗率は、1×10
5であった。CE1粒状物の熱特性および電気特性は、表1および2にまとめた。
【0052】
[比較例2]
ビス−オキサラトホウ酸カリウムを過塩素酸ナトリウム一水和物に置き換えた以外、実施例2に記載したのと同じ手順を用いて、比較例2(CE2)と命名されるポリマーを得た。まず80℃で3時間乾燥し、次いで10RH%、20℃で48時間調整した粒状物の体積抵抗率は、2×10
5であった。CE2粒状物の熱特性および電気特性は、表1〜3にまとめた。
【0053】
[比較例3]
ビス−オキサラトホウ酸カリウムをp−トルエンスルホン酸カリウムに置き換えた以外、実施例2に記載したのと同じ手順を用いて、比較例3(CE3)と命名されるポリマーを得た。まず80℃で3時間乾燥し、次いで10RH%、20℃で48時間調整した粒状物の体積抵抗率は、1×10
6であった。CE3粒状物の熱特性および電気特性は、表1〜3にまとめた。
【0057】
[実施例3および4、比較例4〜6]
本発明の散逸材料の性能および特性を評価するために、上記実施例の材料を、シート押出により最終製品に変換した。例示的な材料(マスターバッチ)は、表4に表されるようなホストポリスチレンとドライブレンドされ、最終材料(実施例3および4の材料、並びに比較例4〜6の材料)を得た。ポリスチレンシートの電気的特性を表5および6にまとめた。
【0063】
本発明によるポリマーブレンドの電気伝導率は、例えば、市販の帯電防止化合物、軟化剤または他の低分子吸湿性化合物を用いることで大きく向上することができる。