(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
照明、看板、ソーラーパネル、分電盤、電力計メーター、スマートメーター、ガスメーター、水道計メーター、無線基地局、またはアンテナの透明カバーである請求項1に記載の屋外設置用透明成形体。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光エネルギーの有効利用やLEDに代表される照明器具の普及、無線インフラ社会の整備化が進み、これらに関連し屋外に設置されるデバイスがより一層増加している。
これらのデバイスにおいては、LED、有機EL等の光源を覆う、透明または半透明の照明カバー、太陽光発電用ソーラーパネルを覆う透明カバー、液晶、計器等を覆う各種メーターカバー等、光の透過性や表示デバイスの視認性が必要とされるため、透明性が必要なカバー部材を有することがある。
このような透明カバー部材には、透明材料が使用されるが、加工が容易であることや、軽量化の観点からガラスよりも熱可塑性樹脂を用いることが望ましい(特許文献1〜4)。
しかしながら、通常、使用される熱可塑性樹脂は、屋外環境における様々な環境条件に弱いため、比較的長時間使用されることが想定される上記デバイスにおいては耐久性の面で不十分であった。
例えば、透明樹脂として最も一般的なアクリル樹脂は、耐衝撃性が低いために容易に割れが発生する。加えて、耐熱性や難燃性に劣るため、電子電気デバイス用のカバーとしては適さない。
【0003】
一方、ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性に優れ、自己消火性も有し、高分子材料の中では比較的耐候性に優れた材料であるものの、屋外で使用される場合のように、長時間、紫外線に曝されると表面の黄変や亀裂により透明性が低下し、機械物性も低下する。そういった紫外線による樹脂の劣化を抑制するために、つまり、耐候性を付与するために有効なのが紫外線吸収剤を配合する方法であり、自動車ヘッドランプレンズ、オートバイ風防、建材用シート材料など、広く適用されている(特許文献5〜6)。
紫外線吸収剤の有効量は、一般的に熱安定剤や離型剤などの他の添加剤よりも多く、結果として耐候性を付与したポリカーボネート樹脂組成物に配合されている添加剤の割合は高くなる。それに対応して加工時の揮発分も多くなり、そのため射出成形時に金型付着物が多くなり、成形品外観に大きな欠点をもたらす。
この問題を解決する方法として、金型の定期的な掃除が有効であるが、十分な清掃を安全に行うためには運転を停止する必要があり生産効率が低下する。また、紫外線吸収剤の配合量を少なくする手法も非常に有効であるが、少なくし過ぎると屋外で使用可能な耐候性を保持できなくなる。
【0004】
さらに、照明、看板、ソーラーパネル、分電盤、電力計メーター、スマートメーター、ガスメーター、水道計メーター、無線基地局、アンテナの透明カバーなどの透明カバーに屋外で使用される場合、透明カバー内側の表示デバイスの視認性確保は非常に重要である。耐候性が十分でないポリカーボネート樹脂による透明成形体は屋外での使用環境においては紫外線劣化により、成形品表面に微小クラックが発生し、そのクラックに水垢や微小ゴミが付着して視認性が悪くなる。ポリカーボネート樹脂による透明成形体の屋外使用環境における防汚性に関して、有効な手段はこれまで見い出されていなかった。
自動車ヘッドランプレンズ、オートバイ風防などは屋外で長時間使用されるが、高い耐候性を保持するため、アクリル系ハードコートを施すのが一般的であるが、生産コストが向上するというデメリットが発生する。
また、特定の構成単位を含有するポリカーボネートコポリマーを含み、かつ特定のケイ素含有量としたポリカーボネート樹脂組成物が屋外設置用成形体として提案されているが(特許文献7)、この樹脂組成物は広く一般的に使用されているビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂組成物に比べ、著しく原料コストが高い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
[ポリカーボネート樹脂]
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるポリカーボネート樹脂である。ここで用いる二価フェノールの具体例としては、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。これら二価フェノールは単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0011】
前記二価フェノールのうち、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を主たる二価フェノール成分とすることが好ましく、全二価フェノール成分中好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上がビスフェノールAであるものが望ましい。最も好ましいのは、二価フェノール成分が実質的にビスフェノールAである芳香族ポリカーボネート樹脂である。
【0012】
ポリカーボネート樹脂を製造する基本的な手段を簡単に説明する。カーボネート前駆体としてホスゲンを用いる溶液法では、通常酸結合剤および有機溶媒の存在下に二価フェノール成分とホスゲンとの反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンや第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることができ、分子量調節剤として例えばフェノールやp−tert−ブチルフェノールのようなアルキル置換フェノール等の末端停止剤を用いることが望ましい。反応温度は通常0〜40℃、反応時間は数分〜5時間、反応中のpHは10以上に保つのが好ましい。
カーボネート前駆体として炭酸ジエステルを用いるエステル交換法(溶融法)は、不活性ガスの存在下に所定割合の二価フェノール成分と炭酸ジエステルとを加熱しながら撹拌し、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法である。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応させる。また反応を促進するために通常のエステル交換反応触媒を用いることができる。このエステル交換反応に用いる炭酸ジエステルとしては例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等があげられ、特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0013】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量で表して1.7×10
4〜3.0×10
4が好ましく、1.8×10
4〜2.6×10
4が特に好ましい。射出成形で成形する際は、成形温度も低く設定可能で、ポリカーボネート樹脂の熱劣化が抑えられるため溶融流動性のよい低粘度の樹脂が望ましいが、あまりに低粘度過ぎるとポリカーボネート樹脂の特徴である衝撃強度が保持できない。逆に高粘度過ぎる流動性が悪いため、成形温度を高く設定する必要があり、ポリカーボネート樹脂が熱劣化してしまう。
ここで、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、オストワルド粘度計を用いて塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(η
sp)を次式に挿入して求めたものである。
η
sp/c=[η]+0.45×[η]
2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10
−4M
0.83
c=0.7
【0014】
[紫外線吸収剤]
本発明において樹脂組成物は紫外線吸収剤を含有する。紫外線吸収剤としては特定のヒドロキシフェニルトリアジン系化合物が使用される。2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(へキシル)オキシ−フェノール(市販品としてはBASF(株)社製、Tinuvin1577ED(商品名)が例示される)および/または2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[2−(2−エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール(市販品としてはADEKA(株)社製、アデカスタブLA−46(商品名)が例示される)である。
これらヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.02〜2.5重量部であり、好ましくは0.05〜2.2重量部であり、より好ましくは0.1〜2重量部であり、さらに好ましくは0.1〜1.5重量部である。含有量が0.02重量部より少ない場合には、十分な耐候性が得られず、2.5重量部を超えると屋外設置用透明成形体の高温成形耐熱性が悪化する。
【0015】
[リン系熱安定剤]
本発明において樹脂組成物は
2,4−ジ−tert−ブチルフェニル骨格を有するリン系熱安定剤を含有する。リン系熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられる。
【0016】
具体的に
は、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイ
ト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイ
ト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等が挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用することができ
る。
【0017】
好ましくは、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイトが使用され、特に好ましくはテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが使用される。
これらリン系熱安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.005〜0.1重量部であり、好ましくは0.008〜0.08重量部、特に好ましくは0.01〜0.06重量部である。含有量が0.005重量部より少ない場合には目的とするポリカーボネート樹脂の高温帯での安定化効果が少なくなり、0.1重量部を超えると成形品の耐沸水性やヘイズに悪影響を及ぼす。
【0018】
本発明において樹脂組成物には、本発明の目的が損なわれない量の硫黄系熱安定剤を使用することができる。該熱安定剤としては、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)、ジラウリル−3、3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3、3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3、3’−チオジプロピオネート等が挙げられ、なかでもペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ジラウリル−3、3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3、3’−チオジプロピオネートが好ましい。特に好ましくはペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)である。該チオエーテル系化合物は住友化学工業(株)からスミライザーTP−D(商品名)およびスミライザーTPM(商品名)等として市販されており、容易に利用できる。樹脂組成物中の硫黄系熱安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001〜0.2重量部が好ましい。
本発明において樹脂組成物には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を本来持つべき特性を損なわない範囲で含有することができる。
【0019】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えばトリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートおよび3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上で使用することができる。なかでも、ペンタエリスリトール骨格を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく使用される。特に、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
これらヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、好ましくは0.01〜0.3重量部であり、より好ましくは0.02〜0.25重量部、特に好ましくは0.03〜0.2重量部である。
【0020】
[脂肪酸エステル系離型剤]
本発明において樹脂組成物は脂肪酸エステル系離型剤が含有する。脂肪酸エステル系離型剤は、溶融成形時において樹脂成形品の金型からの離型性を向上させる。
脂肪酸エステル系離型剤としては、炭素原子数1〜20の一価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸とのエステル及び炭素原子数1〜25の多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の離型剤が使用される。
【0021】
一価アルコールと飽和脂肪酸とのエステルとしては、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート等が挙げられ、なかでもステアリルステアレートが好ましい。
多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、グリセリンモノベヘネート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ビフェニルビフェネ−ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート等のジペンタエリスルトールの全エステルまたは部分エステル等が挙げられる。
【0022】
これらの脂肪酸エステル系離型剤は1種または2種以上が使用される。上記脂肪酸エステルのなかでも、一価アルコールと飽和脂肪酸とのエステルおよびグリセリンと飽和脂肪酸とのトリエステルの混合物、グリセリンモノステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、グリセリントリステアレーとステアリルステアレートとの混合物が好ましく使用される。
脂肪酸エステル系離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.05〜0.5重量部であり、好ましくは0.08〜0.4重量部、特に好ましくは0.1〜0.3重量部である。含有量が0.05重量部より少ない場合には、良好な離型性が得られず、0.5重量部を超えると屋外設置用透明成形体の高温成形耐熱性が悪化する。脂肪酸エステル系離型剤は、当該業者で知られるその他の離型剤とも併用可能であるが、併用した場合でも脂肪酸エステル系離型剤の含有量は0.05〜0.5重量部であり、離型剤の主成分であることが好ましい。
【0023】
[パーフルオロアルカン
スルホン酸金属塩難燃剤]
本発明において樹脂組成物はパーフルオロアルカン
スルホン酸金属塩を含有する。パーフルオロアルカン
スルホン酸金属塩は、難燃性を向上させる。
パーフルオロアルカンスルホン酸金属塩としては、好ましくはパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ土類金属塩等が挙げられ、より好ましくは炭素数4〜8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ金属塩、炭素数4〜8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。
パーフルオロアルカンスルホン酸金属塩の具体例としては、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸のテトラエチルアンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、特に、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好ましい。
パーフルオロアルカン
スルホン酸金属塩の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物100重量部に対して、0.005〜0.2重量部であり、好ましくは0.01〜0.15重量部、特に好ましくは0.02〜0.1重量部である。含有量が0.005重量部を下回る場合には十分な難燃性が得られにくく、0.2重量部を超えると熱安定性や耐加水分解性、耐沸水性が低下しやすく、さらにはポリカーボネート樹脂の特徴である透明性が損なわれる(Hazeが上昇する)。
【0024】
[ブルーイング剤]
本発明において樹脂組成物は、屋外設置用透明成形体に成形した場合、ポリカーボネート樹脂や紫外線吸収剤に基づく黄色味を打ち消すために、ブルーイング剤を含有す
る。ブルーイング剤としてはポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアントラキノン系染料が入手容易であり好ましい。
【0025】
ブルーイング剤としては、例えば一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレットB」、三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーG」、住友化学工業(株)製「スミプラストバイオレットB」]、一般名Solvent Violet31[CA.No 68210;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンバイオレットD」]、一般名Solvent Violet33[CA.No 60725;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーJ」]、一般名Solvent Blue94[CA.No 61500;商標名 三菱化学(株)製「ダイアレジンブルーN」]、一般名SolventViolet36[CA.No 68210;商標名 バイエル社製「マクロレックスバイオレット3R」]、一般名Solvent Blue97[商標名バイエル社製「マクロレックスブルーRR」]、および一般名SolventBlue45[CA.No 61110;商標名 サンド社製「テトラゾールブルーRLS」]、が代表例として挙げられる。
【0026】
これらブルーイング剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、好ましくは0.00001〜0.001重量部であり、より好ましくは0.00001〜0.0003重量部であり、さらに好ましくは0.00005〜0.00025重量部、特に好ましくは0.0001〜0.0002重量部である。あまりに多量のブルーイング剤を含有するとブルーイング剤の吸収が強くなり、視感透過率が低下してくすんだ成形品となる。また、紫外線吸収剤等が添加されている場合、ポリカーボネート樹脂が濃黄色に着色してしまうため、少量のブルーイング剤含有だと、黄色を青色で打ち消すことが出来ず、結果として屋外設置用透明成形体が黄色に着色してしまい、外観上好ましくない。
【0027】
[熱線吸収能を有する化合物]
本発明において樹脂組成物は、本発明の目的が損なわれない量の熱線吸収能を有する化合物を使用することができる。該化合物としてはフタロシアニン系近赤外線吸収剤、ATO、ITO、酸化イリジウムおよび酸化ルテニウムなどの金属酸化物系近赤外線吸収剤、ホウ化ランタン、ホウ化セリウムおよびホウ化タングステンなどの金属ホウ化物系近赤外線吸収剤などの近赤外吸収能に優れた各種の金属化合物、ならびに炭素フィラーが好適に例示される。更にメタリック顔料(例えば金属酸化物被覆板状充填材、金属被覆板状充填材、および金属フレークなど)も主として熱線を反射し熱線遮蔽能を発現する。かかるフタロシアニン系近赤外線吸収剤としてはたとえば三井化学(株)製MIR−362が市販され容易に入手可能である。炭素フィラーとしてはカーボンブラック、グラファイト(天然、および人工のいずれも含み、さらにウイスカーも含む)、カーボンファイバー(気相成長法によるものを含む)、カーボンナノチューブ、およびフラーレンなどが例示され、好ましくはカーボンブラックおよびグラファイトである。これらは単体または2種以上を併用して使用することができる。
【0028】
フタロシアニン系近赤外線吸収剤は、ポリカーボネート樹脂100重量部あたり好ましくは0.0005〜0.2重量部、より好ましくは0.0008〜0.1重量部、さらに好ましくは0.001〜0.07重量部である。金属酸化物系近赤外線吸収剤および金属ホウ化物系近赤外線吸収剤は、ポリカーボネート樹脂に対して0.1〜200ppm(重量割合)の範囲が好ましく、0.5〜100ppmの範囲がより好ましい。炭素フィラーはポリカーボネート樹脂に対して0.05〜5ppm(重量割合)の範囲が好ましい。またメタリック顔料は、ポリカーボネート樹脂100重量部あたり好ましくは0.0001〜1重量部、より好ましくは0.0005〜0.8重量部である。
本発明において樹脂組成物には、さらに本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱安定剤、帯電防止剤、他の難燃剤、蛍光増白剤、顔料、光拡散剤、強化充填剤、他の樹脂やエラストマー等を含有することができる。
【0029】
[屋外設置用透明成形体]
本発明の屋外設置用透明成形体は、前述の樹脂組成物を成形してなる成形体である。好ましくは平均厚み0.5〜6mmの成形体である。平均厚みとは、以下のように測定した値の平均値である。成形体が平板の場合は、以下の9点の厚みの平均値である。
(1)平板の重心点の厚み(1点)、および
(2)重心点を中心に角度45度の間隔で周辺線に向かって放射状に直線を8本引き、周辺線との交点と重心との結ぶ線上の中点の厚み(8点)を測定する。
なお、成形体が箱型である場合は、各平板部分で上記(1)(2)と同様の測定を行う。
【0030】
成形体が平板状ではあるが完全な平板でない場合(例えばレンズのような形状の場合)は、
(1’)重心点の厚み(1点)、
(2’)重心点を中心に角度45度の間隔で周辺線に向かって放射状に糸や紐のようなフレキシブルな線上物を用いて面上部に沿って線を8本引き、周辺線との交点と重心とを結ぶ線上の中点の厚み(8点)、
を測定する。
平均厚みが0.5mm未満の場合は、屋外設置用機器の透明カバー材料としては、剛性・耐衝撃性等の機械物性が不十分であるため、長期使用によって成形体が濁りやすく視認性が著しく低下する傾向にある。一方、6mmを超える場合は、本発明の成形体成形時にヒケやソリが発生しやすく、寸法精度に著しく劣る傾向になるほか、ヒケやソリを低減するため射出成形する際に保圧力、保圧時間、冷却時間などを延ばして対策すると成形機内でのポリカーボネート樹脂の滞留時間が長くなり、樹脂の熱分解による機械物性の低下や色相悪化(黄変)が起こり易くなる。このような視点より、平均厚みは0.7〜5mmがより好ましく、0.8〜4mmがさらに好ましい。
【0031】
本発明の屋外設置用透明成形体は、ヘイズ(Haze)値が1.5以下であることが好ましい。このようなヘイズ値を示す屋外設置用成形体を用いることで、視認性が向上し、例えば、光源、表示デバイス、スイッチ等のカバーとして好適に用いることができる。このような観点より、上記のヘイズ値は1.2以下であることがより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましく、0.8以下であることが特に好ましい。
また、屋外設置用透明成形体は、耐候促進試験(ブラックパネル温度63℃、雨あり(18分/120分)の条件)で、3000hr処理をして、処理後の曇り度(Haze)と処理前の曇り度の差(ΔHaze)が8.5以下
であり、8以下
が好ましく、7.5以下がさらに好ましい。
さらに、屋外設置用透明成形体は、耐候促進試験(ブラックパネル温度63℃、雨あり(18分/120分)の条件)で、3000hr処理をして、処理前後の黄色変化度(ΔYI)が10以下が好ましく、9.5以下がより好ましく、9以下がさらに好ましい。
【0032】
本発明の屋外設置用透明成形体は、照明、看板、ソーラーパネル、分電盤、電力計メーター、スマートメーター、ガスメーター、水道計メーター、無線基地局、アンテナの透明カバー等に用いることができる。
本発明は、屋外設置用透明成形体の成形材料として前記樹脂組成物を用いることを特徴とする該成形体の、透明性、耐候性、耐衝撃性、高温耐熱性、湿熱安定性、難燃性または防汚性を向上させる方法を包含する。また本発明は、屋外設置用透明成形体の成形材料として前記樹脂組成物を用いることを特徴とする射出成形時の金型付着物を低減させる方法を包含する。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお評価は下記の方法で実施した。
【0034】
(1)透明性:
各実施例で得たペレットを日本製鋼所製射出成形機J85−ELIIIを用いて、シリンダー温度350℃、金型温度85℃、2分サイクルにて成形して得た成形板(縦80mm×横65mm×厚み3mm)について、日本電色(株)製NDH−2000型を用いて、ISO14782に準じてHazeを測定した。Hazeの数値が大きいほど光の拡散が大きく、透明性に劣ることを示す。
【0035】
(2)耐候性:
各実施例で得たペレットを日本製鋼所製射出成形機J85−ELIIIを用いて、シリンダー温度350℃、金型温度85℃、2分サイクルにて成形して得た成形板(縦80mm×横65mm×厚み3mm)について、スガ試験機株式会社製サンシャインウェザオメーターWEL−SUN−HC−Bを用い、ブラックパネル温度63℃、雨あり(18分/120分)の条件で、3000hr処理をした。耐候促進試験3,000hr処理前後で成形品のYI(黄色度)を測定し、黄色変化度(ΔYI)を評価した。評価機器として日本電色(株)製SE2000型を用いてC光源、視野角2°、透過法で測定した。
【0036】
(3)防汚性(視認性):
各実施例で得たペレットを日本製鋼所製射出成形機J85−ELIIIを用いて、シリンダー温度350℃、金型温度80℃、2分サイクルにて成形して得た成形板(縦80mm×横65mm×厚み3mm)について、スガ試験機株式会社製サンシャインウェザオメーターWEL−SUN−HC−Bを用い、ブラックパネル温度63℃、雨あり(18分/120分)の条件で、3000hr処理をした。評価は日本電色(株)製NDH−2000型を用いて、ISO14782に準じて測定し、処理前後のHazeと、その変化(ΔHaze)を下記式にて求めた。ΔHazeが大きいほど防汚性に劣り、視認性が悪い事を示す。
ΔHaze=処理後の成形板のHaze−処理前の成形板のHaze
【0037】
(4)耐沸水性:
各実施例で得たペレットを日本製鋼所製射出成形機J85−ELIIIを用いて、シリンダー温度350℃、金型温度80℃、1分サイクルにて成形して得た成形板(縦90mm×横50mm×厚み2mm)を、ヤマト科学(株)製オートクレーブSN510を使用して、温度120℃、湿度100%の条件で11時間処理した。処理前のHazeを、日本電色(株)製NDH−2000型を用いて、ISO14782に準じて測定し、処理前後のHazeと、Hazeの変化(ΔHaze)を下記式にて求めた。ΔHazeが大きいほど耐沸水性に劣る事を示す。ΔHazeは好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下である。
ΔHaze=処理後の成形板のHaze−処理前の成形板のHaze
【0038】
(5)高温耐熱性:
各実施例で得たペレットを日本製鋼所製射出成形機J85−ELIIIを用いて、シリンダー温度365℃、金型温度80℃、1分サイクルにて成形して得た成形板(縦90mm×横50mm×厚み2mm)と10分滞留後に得られる成形板の色相変化(ΔE)を求めた。ΔE
は1.0以下、より好ましくは0.5以下である。各成形板の色相(L、a、b)値はJIS K−7105に従って、C光源反射法で測定され、色相変化(ΔE)は下記式により求められる。色相変化が大きいほど高温耐熱性に劣る事を示す。
ΔE={(ΔL)
2+(Δa)
2+(Δb)
2}
1/2
「滞留前の成形板」の色相:L、a、b
「滞留後の成形板」の色相:L’、a’、b’
ΔL:L−L’
Δa:a−a’
Δb:b−b’
【0039】
(6)金型付着物:
各実施例で得たペレットを日本製鋼所製射出成形機J85−ELIIIを用いて、シリンダー温度370℃、金型温度85℃、1.5分サイクルにて成形して得た成形板(縦80mm×横65mm×厚み3mm)を成形した。成形を連続して200ショット行った後、金型可動部側の成形品型内ならびに固定部側の成形品が接する部分をさらしで拭いた際にさらしの表面着色状態を確認した。
○:さらしにほとんど着色が認められない
△:さらしにわずかな着色がある
×:さらしに著しい着色がある
【0040】
(7)難燃性評価(UL94):
各実施例で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、日本製鋼所製射出成形機J85−ELIIIを用いてシリンダー温度310℃、金型温度90℃の条件下で射出成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さ3.0mm及び6.0mmのUL試験用試験片を成形した。難燃性の評価は、UL試験用試験片を、温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して行なった。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間やドリップ性から難燃性を評価する方法であり、良好な順にV−0、V−1及びV−2と表す規格である。表中、UL試験用試験片の厚さ3.0mm及び6.0mmの両方についてV−0規格を満たすものをV−0、両方についてV−2規格を満たすものをV−2、どちらか一方がNGの場合はNGと評価した。
【0041】
[実施例1]
常法によりビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量20,900のポリカーボネート樹脂粉粒体(PC−1)100部に、紫外線吸収剤として2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(へキシル)オキシ−フェノール(UV−1)0.3部、下記リン系熱安定剤(P−1)0.05部、離型剤として下記脂肪酸エステル系離型剤(R−1)0.3部、下記パーフルオロアルカン
スルホン酸金属塩難燃剤(FR−1)0.02部、およびブルーイング剤として下記式(I)で示される化合物を0.00015重量部を添加し、タンブラーにて充分混合した後に、30mmΦベント式二軸押出成形機により温度290℃、真空度4.7kPaでペレット化した。
【0042】
【化1】
【0043】
[実施例2〜15、比較例1〜10]
表1記載の各種材料を表1記載の量使用する以外は、実施例1と同様の操作を行った。その評価結果を表1に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
表1記載の各記号は下記の化合物を示す。
【0049】
(ポリカーボネート樹脂粉粒体)
PC−1;ビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量20,900の芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライトL−1225WS)
PC−2;ビスフェノールAとホスゲンを界面重合法で重合して得た粘度平均分子量23,900の芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライトL−1250WP)
【0050】
(紫外線吸収剤)
UV−1;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(へキシル)オキシ−フェノール(BASF(株)社製:Tinuvin1577ED)
UV−2;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[2−(2−エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール(ADEKA(株)社製:アデカスタブLA−46)
UV−3;2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(BASF(株)社製:Tinuvin329)
UV−4;2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール(BASF(株)社製:Tinuvin326)
【0051】
(リン系熱安定剤)
P−1;主成分テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト(クラリアントジャパン(株)製:ホスタノックスP−EPQ)
P−2;トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(BASF(株):Irgafos168)
【0052】
(脂肪酸エステル系離型剤)
R−1;ぺンタエリスリトールテトラステアレート(エメリーオレオケミカルズ(株)製:ロキシオールVPG861)
【0053】
(パーフルオロアルカン
スルホン酸金属塩難燃剤)
FR−1;パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(大日本インキ社製:メガファックF−114P)