(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6159969
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】多方向飛来塩分捕集器、及び多方向飛来塩分調査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/02 20060101AFI20170703BHJP
【FI】
G01N1/02 F
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-148803(P2013-148803)
(22)【出願日】2013年7月17日
(65)【公開番号】特開2015-21796(P2015-21796A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】萩野 晃平
【審査官】
東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−107958(JP,A)
【文献】
特開2010−210274(JP,A)
【文献】
特開2005−264716(JP,A)
【文献】
実開平05−059292(JP,U)
【文献】
実開昭56−10838(JP,U)
【文献】
特開2012−163374(JP,A)
【文献】
米国特許第3914979(US,A)
【文献】
岩崎英治・小島靖弘・高津惣太・長井正嗣,塩分捕集器具の設置方向と飛来塩分の関係,構造工学論文集,日本,土木学会,2010年 3月,Vol.56A,616-629
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00− 1/44
E01D 1/00
G01N 17/00−17/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛来方向別に分けて飛来塩分を捕集する飛来塩分捕集器であって、
少なくとも側面及び底面で構成される中空の筐体と、該筐体の上部に取り付けられる屋根材と、を備え、
前記筐体の内部には隔壁が設けられ、該隔壁で仕切られることで筐体内部に2以上の隔室が形成され、
前記隔室を構成する前記側面には、捕集窓が設けられるとともに、該捕集窓には、飛来塩分を捕集し得る捕集布が設置され、
前記隔室を構成する前記底面には、通気孔が設けられ、
前記側面に設置された2以上の前記捕集布は、それぞれ異なる方向を向いて配置されたことを特徴とする多方向飛来塩分捕集器。
【請求項2】
調査地点における飛来塩分量を、飛来方向別に分けて調査する方法であって、
前記調査地点に、多方向飛来塩分捕集器を設置する工程と、
前記多方向飛来塩分捕集器に設置された2以上の捕集布を回収する工程と、
前記回収した前記捕集布に付着した塩分に基づいて、飛来塩分量を推定する工程と、を備え、
前記多方向飛来塩分捕集器は、少なくとも側面及び底面で構成される中空の筐体と、該筐体の上部に取り付けられる屋根材と、を具備し、
前記筐体の内部には隔壁が設けられ、該隔壁で仕切られることで筐体内部に2以上の隔室が形成され、
前記隔室を構成する前記側面には、捕集窓が設けられるとともに、該捕集窓には、飛来塩分を捕集し得る捕集布が設置され、
前記隔室を構成する前記底面には、通気孔が設けられ、
前記側面に設置された2以上の前記捕集布は、それぞれ異なる方向を向いて配置され、
回収した前記捕集布の配置方向と、該捕集布に基づいて推定した飛来塩分量と、を関連付けることによって、飛来方向別に分けて飛来塩分量を把握し得ることを特徴とする多方向飛来塩分調査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、飛来塩分の調査技術に関するものであり、より具体的には多方向から飛来してくる塩分を、それぞれ飛来方向別に分けて調査することができる多方向飛来塩分捕集器、及び多方向飛来塩分調査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飛来塩分は、海面上から上昇した海塩粒子が陸域まで飛来するものである。この飛来塩分が海岸近くにあるコンクリート構造物の表面に付着すると、内部に浸透して鉄筋を腐食膨張させ、その構造耐力を低下させる。また、海岸近くの橋梁に飛来塩分が付着すると、橋梁の主部材である鋼材を腐食させ、その結果部材厚が低減し、やはりその構造耐力が低下する。したがって、海岸近くに橋梁等の構造物を建設する場合、腐食の影響を考慮したうえで計画・設計することが望ましく、これにあたっては飛来塩分量の調査を行うことが一般的であった。
【0003】
また、飛来塩分は構造物の部材を腐食させるだけでなく、農作物の成長にも影響を与えることが指摘できる。本願の発明者は、実験の結果、飛来塩分が農作物の成長に影響を与え、特に生育の早期段階に受ける飛来塩分は成長に著しい影響を及ぼすことを見出した。
【0004】
飛来塩分量を調査することは、種々の影響を判断することができるので極めて有益である。これまでも、土研タンク法やドライガーゼ法といった手法によって飛来塩分調査は行われてきた。土研タンク法は、10cm×10cmのステンレス板に付着した塩分を雨水とともに回収して飛来塩分量を把握する手法で、一方のドライガーゼ法は、同じく10cm×10cmのガーゼに付着した塩分を回収して飛来塩分量を把握する手法である。いずれの場合も屋外に設置して飛来塩分を捕集するが、ドライガーゼ法の場合は直接雨水がかからないように屋根など覆いの下でガーゼを吊り下げている。
【0005】
ドライガーゼ法は、JIS規格であることからこれまでも広く利用されており、例えば特許文献1でも本手法について示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−163374
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図5は、従来のドライガーゼ法を示す説明図である。この図に示すように、四阿状に形成された屋根体の下に設置された飛来塩分収集器Csによって、飛来塩分を捕集するのが従来のドライガーゼ法である。飛来塩分収集器Csは、内径10cm×10cmの枠材(例えばステンレス製)2枚でドライガーゼを挟み込んだ構造で、主に2方向(図では正面からと背面からの2方向)の飛来塩分を捕集する。
【0008】
従来のドライガーゼ法は、2方向の飛来塩分を調査する方法であることから、あらかじめ塩分が飛来する方向を把握しておく必要があった。しかしながら、入り組んだ湾内では季節によって、あるいは時間帯によって風向きは大きく変化する。このような土地で農作物を作る者が飛来塩分を調査しようとすると、従来のドライガーゼ法では不十分な結果しか得られない。例えば、その農作物が生育早期段階を迎える季節に、従来のドライガーゼ法で調査したとする。そして、ドライガーゼが対象とした方向では飛来塩分が少ないという結果が得られ、実際には異なる方向から多くの塩分が飛来したとする。この場合、調査結果に基づいて当該地においてこの農作物を作ったとすると、生育早期に飛来塩分を受けることとなり、その結果農作物は著しい影響を受けることとなる。
【0009】
つまり、多方向からの飛来塩分が想定される場合、従来のドライガーゼ法では不十分であった。あくまで従来のドライガーゼ法で対応しようとすると、ドライガーゼが多方向を向くように多数の飛来塩分収集器Csを設置しなければならい。これでは、設置手間がかかるだけでなく、調査の手間もかかるうえ、材料費や人件費がかさみコスト高となり現実的とはいえない。
【0010】
そこで、多方向に向く複数のドライガーゼを備えた飛来塩分収集器Csを、設置することが考えられる。
図6は多角形筺体を用いた飛来塩分収集器Csを示す図であり、(a)はその平面図、(b)は側面図である。この図に示すうように、平面視正八角形の筺体の側面には、それぞれドライガーゼDgが取り付けられている。すなわち
図6の飛来塩分収集器Csは、8方向を向く8枚のドライガーゼDgを備えている。これによれば、一つの飛来塩分収集器Csを設置するだけで、8方向の飛来塩分量を調査することができる。しかしながら、
図6(a)の矢印で示すように、一つのドライガーゼDgを通過して他のドライガーゼDgに塩分を付着させるケースが考えられ、この飛来塩分収集器Csでは正しく調査できないおそれがある。
【0011】
本願発明の課題は、上記問題を解決することであり、すなわち多方向からの飛来塩分量の調査が可能であって、しかも多数の飛来塩分収集器を設置することなく効率的な飛来塩分調査が可能であり、さらに方向別の飛来塩分量を的確に推定し得る多方向飛来塩分捕集器、及び多方向飛来塩分調査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、多方向を向く複数の捕集布(来塩分を捕集する布で、例えばドライガーゼ等)を具備するとともに、捕集布を通過した気流が他のドライガーゼに影響を与えないよう隔室が形成された飛来塩分収集器を利用する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0013】
本願発明の多方向飛来塩分捕集器は、飛来方向別に分けて飛来塩分を捕集するものであり、側面及び底面で構成される中空の筐体、この筐体の上部に取り付けられる屋根材を備えたものである。筐体の内部には隔壁が設けられており、また筐体内部には隔壁で仕切られた隔室が複数形成されている。隔室を構成する側面には捕集窓が設けられ、この捕集窓には飛来塩分を捕集する捕集布が設置されている。一方、隔室を構成する底面には、それぞれ通気孔が設けられている。なお、複数の隔室(の側面)に設置された複数の捕集布は、それぞれ異なる方向を向いて配置されている。
【0014】
本願発明の多方向飛来塩分調査方法は、調査地点における飛来塩分量を飛来方向別に分けて調査する方法であり、調査地点に多方向飛来塩分捕集器を設置する工程、多方向飛来塩分捕集器に設置された2以上の捕集布を回収する工程、回収した捕集布に付着した塩分に基づいて飛来塩分量を推定する工程を備えた方法である。この方法で用いる多方向飛来塩分捕集器は、側面及び底面で構成される中空の筐体と、この筐体の上部に取り付けられる屋根材を具備している。そして、この筐体の内部には隔壁が設けられ、隔壁で仕切られた2以上の隔室が形成されている。また、隔室を構成する側面には捕集窓が設けられ、この捕集窓には飛来塩分を捕集し得る捕集布が設置されており、さらに隔室を構成する底面には通気孔が設けられている。なお、複数の隔室(の側面)に設置された複数の捕集布は、それぞれ異なる方向を向いて配置されている。2以上の捕集布を回収することで、捕集布の配置方向と、捕集布に基づいて推定した飛来塩分量を関連付けることによって、飛来方向別に分けて飛来塩分量を把握する。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の多方向飛来塩分捕集器、及び多方向飛来塩分調査方法には、次のような効果がある。
(1)一つの飛来塩分収集器を設置するだけで、多方向からの飛来塩分量を方向別に推定することができる。その結果、効率的な調査が可能となり、しかも従来に比べてコストも軽減できる。
(2)筐体内部には隔壁で仕切られた隔室が形成されており、捕集布(例えばドライガーゼ)は隔室ごと設けられた捕集窓に設置されている。従って、対象とする方向の飛来塩分のみを回収できるので、方向別の飛来塩分量を的確に推定することができる。
(3)筐体内部の隔室には通気孔が設けられているので、隔室に入った気流はスムーズに筐体外部に排出される。したがって、筐体には不要な外力(風力)が作用することがなく、長期にわたって使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本願発明の多方向飛来塩分捕集器を示す斜視図。
【
図2】(a)は筐体を側方から見た側面図、(b)は筐体を上方から見た平面図。
【
図3】隔壁でと隔室を説明するために側面を透視した筐体の斜視図。
【
図4】(a)は6つの側面からなり平面視6角形の筐体を示す平面図、(b)は1つの側面210からなり平面視円形の筐体を示す平面図。
【
図6】(a)は多角形筺体を用いた飛来塩分収集器を示す平面図、(b)は多角形筺体を用いた飛来塩分収集器を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明の多方向飛来塩分捕集器、及び多方向飛来塩分調査方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0018】
1.全体概要
図1は、本願発明の多方向飛来塩分捕集器100を示す斜視図である。多方向飛来塩分捕集器100は、少なくとも筐体200及び屋根材300(便宜上、破線で示す。)によって構成され、支柱400等を利用して支持される。あるいは、屋根材300が別途支持されている場合は、その屋根材300に筐体200を添架することとし、支柱400等を省略することもできる。
【0019】
筐体200は、複数の側面210で囲まれた中空構造となっており、その内部には隔壁220で仕切られた隔室230が設けられている。また、それぞれの側面210には、塩分を捕集することができる捕集布240(例えば、ドライガーゼ等)が設置されている。
図1に示すように、筐体200を構成する複数の側面210は、それぞれ異なる方向を向いて配置されており、したがって捕集布240も異なる方向を向くこととなり、この結果、多方向からの飛来塩分を捕集することができる。
【0020】
以下、本願発明を構成する要素ごとに詳述する。なお、ここでは筐体200が4つの側面210(捕集布240)と4つの隔室230で構成される場合で説明しているが、5つ以上の側面と5つ以上の隔室230によって、あるいは3つの側面と3つの隔室230によって、筐体200を構成することもできる。
【0021】
2.屋根材
屋根材300は、筐体200に設けられる捕集布240を雨水から守るものであり、
図1に示すように板状のものとすることもできるし、いわゆる傾斜屋根の形状とすることもできる。なお、屋根材300を傾斜させる場合は、捕集布240による飛来塩分の捕集の障害とならないよう留意する必要がある。
【0022】
3.筐体
図2は、筐体200を構成する側面210と底面250を示す詳細図であり、(a)は筐体200を側方から見た側面図、(b)は筐体200を上方から見た平面図である。筐体200の外形は、少なくとも
図2に示す側面210と底面250で構成されており、既述のとおり内部には隔壁220で仕切られた隔室230が設けられている。
【0023】
(側 面)
側面210は、薄肉の板状部材で構成され、その中央付近には捕集窓260が設けられている。この捕集窓260は、板状部材をくりぬいて設けられたものであり、ここにメッシュ状の捕集布240が設置される。つまり塩分を含む風は、側面210のうち捕集布240を通過することができ、このとき塩分は捕集布240に付着するわけである。なお捕集布240の設置は、釘やピンなどを利用して側面210に取り付けることもできるし、接着剤などを利用して側面210に貼り付けることもできる。
【0024】
(底 面)
図2(a)や
図2(b)に示すように、筐体200の底部には底面250が設けられている。この底面250は、側面210と同様、薄肉の板状部材で構成されており、後に詳しく説明する隔室230内に少なくとも一つは配置されるように通気孔250aが設けられている。なお、底面250と対向する筐体200の頂部には、底面250と同様の部材により天井面を設けることもできるが、多方向飛来塩分捕集器100が
図1に示すような屋根材300を備える場合は、この天井面を省略することもできる。
【0025】
(隔壁と隔室)
図3は、隔壁220と隔室230を説明するために側面210を透視した筐体200の斜視図である。この図に示すように、隔壁220は、側面210に囲まれた空間を分割するように配置され、この隔壁220によって分割された空間がそれぞれ隔室230となる。ひとつの筐体200には複数の隔室230が設けられ、例えば
図3の場合、4つの側面210からなる平面視四角形の対角線上に側面210が配置されることによって、平面視三角形の隔室230が4つ設けられている。
【0026】
図3から分かるように、ぞれぞれの隔室230は側面210、隔壁220、及び底面250に囲まれた空間であり、それぞれ捕集布240と通気孔250aを具備している。したがって、塩分を含む風の流れは次のようになる。すなわち、外部から捕集布240を通って隔室230内に侵入した風は、隔壁220や屋根材300(あるいは天井面)に遮られて底面250の通気孔250aへ移動し、ここを出口として再び外部へ流れ出る。この結果、塩分を含む風は、風の方向に正対する捕集布240のみを通過することとなり、他の捕集布240を通過することはない。つまり、捕集布240が捕集した塩分量は、その捕集布240に正対する方向から飛来した塩分のみによるものであり、そのため飛来方向別に分けた塩分量を正確に調査することができるわけである。
【0027】
(他の筐体形状)
既述のとおり、本願発明の多方向飛来塩分捕集器100に用いる筐体200は、側面210が4つのものに限られない。
図4は、他の筐体形状を示す平面図で、(a)は6つの側面210からなり平面視6角形の筐体200を示す平面図、(b)は1つの側面210からなり平面視円形の筐体200を示す平面図である。これらの図に示すように、複数の捕集布240を具備するとともに、それぞれの捕集布240が異なる方向を向いて配置され、しかも捕集布240に対応する数だけ隔室230と通気孔250aが設けられていれば、筐体200は種々の平面形状を選択することができる。また、筐体200を構成する側面210の数も、筐体200の平面形状に応じて適宜設計でき、
図4(a)の場合は6角形として6つの側面210で、
図4(b)の場合は円形として1つの側面210で筐体200を構成している。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本願発明の多方向飛来塩分捕集器、及び多方向飛来塩分調査方法は、農作物への影響調査に限らず、沿岸にある防風林への影響調査など、植生全般に対する影響調査として利用することができる。さらに、沿岸にある橋梁をはじめとする土木構造物や建築構造物への影響調査にも好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
100 多方向飛来塩分捕集器
200 筐体
210 側面
220 隔壁
230 隔室
240 捕集布
250 底面
250a 通気孔
260 捕集窓
300 屋根材
400 支柱
Cs 収集器
Dg ドライガーゼ