特許第6160026号(P6160026)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160026
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】フェライト焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/11 20060101AFI20170703BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20170703BHJP
   C04B 35/26 20060101ALI20170703BHJP
   C04B 41/83 20060101ALI20170703BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   H01F1/11 120
   H01F41/02 G
   C04B35/26
   C04B41/83 A
   C04B41/83 D
   C04B41/85 B
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-98522(P2012-98522)
(22)【出願日】2012年4月24日
(65)【公開番号】特開2013-229360(P2013-229360A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年1月23日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】塚本 直人
(72)【発明者】
【氏名】山下 保英
(72)【発明者】
【氏名】皆地 良彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真史
(72)【発明者】
【氏名】姫野 南奈郎
(72)【発明者】
【氏名】縄 和明
(72)【発明者】
【氏名】矢島 弘一
【審査官】 小池 秀介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−166868(JP,A)
【文献】 特公昭52−020498(JP,B1)
【文献】 特開2006−156789(JP,A)
【文献】 特開昭50−055609(JP,A)
【文献】 特開平10−125519(JP,A)
【文献】 特開平01−295406(JP,A)
【文献】 特開平07−115013(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/067592(WO,A1)
【文献】 特開平09−027433(JP,A)
【文献】 特開平05−047528(JP,A)
【文献】 特開平07−249514(JP,A)
【文献】 特開平05−226140(JP,A)
【文献】 特開昭58−190006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 1/00− 1/117
41/00−41/10
C04B 35/26
41/83
41/85
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフェライト粒子から成るフェライト素体を準備する工程と、
前記フェライト素体の表面で、前記フェライト粒子間の隙間に浸透するように含浸相を形成する工程と、
前記フェライト粒子および前記含浸相の双方が露出するまで、前記フェライト素体の表面を研磨する工程と、
前記フェライト粒子および前記含浸相の双方が露出する前記フェライト素体の表面に、最終被覆層を形成する工程と、を有するフェライト焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記フェライト粒子および前記含浸相の双方が露出する前記フェライト素体の表面に、プライマー処理を施した後に、前記最終被覆層を形成する請求項に記載のフェライト焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト磁石およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、フェライト磁石からの粒子等の放出を抑制できるフェライト磁石およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト磁石は、酸化鉄を主成分とするセラミックスから構成され、比較的優れた磁気特性を有し、しかも安価であるため、種々の用途に用いられている。
【0003】
また、このようなフェライト磁石の表面に被覆層を形成することで、フェライト磁石の特性を向上させること、あるいは、他の特性を付与することが行われている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、フェライト磁石の表面を遠赤外線放射物質で被覆したマグネットが記載されている。また、特許文献2には、フェライト磁石の表面を非磁性物質で被覆した吸着用磁石が記載されている。
【0005】
上記の特許文献1および2では、顔料を含む塗料の塗布、溶射法、粉体塗装等により、フェライト磁石の表面を被覆している。
【0006】
ところで、ハードディスクドライブ(HDD)の磁気ヘッド駆動用のボイスコイルモータ(VCM)に組み込まれる磁石には、ディスク表面の潤滑材が汚染されないように、該磁石からの粒子の脱落等に起因する発塵やイオンの放出を抑制することが求められる。このようなVCM用途の磁石として、フェライト磁石を組み込む場合には、以下のような問題があった。
【0007】
フェライト磁石はセラミックスであり、複数のフェライト粒子から構成され、これらの粒子が粒界や空隙を介して結合されている。そのため、フェライト磁石に対し振動や衝撃が加わると、比較的容易に、フェライト磁石を構成するフェライト粒子が脱落する場合や、熱などにより、ガスが放出される場合がある。そのため、該フェライト磁石をHDDの磁気ヘッド駆動用VCMとして用いることが困難であるという問題があった。
【0008】
なお、特許文献1および2に示されているように、フェライト磁石の表面を被覆することが考えられる。しかしながら、このような被覆層は、フェライト磁石の表面を覆っているだけで、フェライト粒子同士を結びつけるものではない。そのため、表面に被覆層を有するフェライト磁石に対し振動や衝撃が加わると、被覆層の脱落とともに、フェライト粒子の脱落やガスの放出が発生するという問題があった。
【0009】
また、特許文献3では、磁石の脆性の改善と表面保護とを同時に図るために、希土類磁石に樹脂剤を含浸硬化させた後に、めっきや塗装などの表面処理を行い被覆層を形成することが提案されている。しかしながら、特許文献3に示す技術を、たとえば磁気ヘッドなどの小型機器のVCMなどに用いられるフェライト磁石などに適用しようとしても、保護層と含浸用樹脂剤との密着性などが問題となり、やはり、フェライト磁石に対し振動や衝撃が加わると、被覆層の脱落とともに、フェライト粒子の脱落やガスの放出が発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開昭62−109407号公報
【特許文献2】特開平1−295406号公報
【特許文献3】特開平1−243507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、フェライト磁石からの粒子等の放出を抑制できるフェライト磁石およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るフェライト磁石は、
複数のフェライト粒子から成るフェライト素体と、
前記フェライト素体の表面で、前記フェライト粒子間に導入される含浸相と、
前記フェライト素体の最外表面に形成される最終被覆層とを有するフェライト磁石であって、
前記含浸相と前記最終被覆層との境界では、前記最終被覆層が、前記フェライト粒子および前記含浸相の双方に接触していることを特徴とする。
【0013】
本発明では、フェライト素体に形成された含浸相は、フェライト粒子と共にフェライト素体の表面に露出するように、フェライト粒子間の隙間に入り込んでいる。すなわち、含浸相は、フェライト粒子間に存在している。その結果、複数のフェライト粒子は含浸相を通じて連結して固定されるため、フェライト粒子の脱落を効果的に抑制することができる。
【0014】
さらに本発明では、含浸相と最終被覆層との境界では、最終被覆層が、フェライト粒子および含浸相の双方に接触するように、フェライト素体の外表面を覆っている。このため、フェライト素体の外表面から最終被覆層の最外表面までの層の厚みを薄く形成することが容易になり、フェライト素体の磁気特性を最大限に発揮させながら、フェライト粒子自体の脱落や、フェライト素体内部からの放出ガスを良好に防止することができる。
【0015】
また、含浸相と最終被覆層との境界では、最終被覆層が、フェライト粒子および含浸相の双方に接触するように、フェライト素体の外表面を覆っているため、含浸相と最終被覆層との境界では、フェライト粒子が、これらを強固に接合するための楔のような機能を果たし、これら三者の密着性が向上する。この点からも、フェライト粒子自体の脱落や、フェライト素体内部からの放出ガスを良好に防止することができる。
【0016】
好ましくは、前記含浸相は、Si、Al、Mg、Ca、Fe、Cl、Fのいずれか一つ以上の無機成分を含む相、あるいはアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂のうちから選ばれる少なくとも一つ以上を含む相である。これらの中でも、前記含浸相としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂が好ましく、特に好ましくはシリコーン樹脂である。このような成分を含む相を含浸相として用いることで、フェライト粒子自体の脱落防止や、フェライト素体内部からの放出ガスや、溶出イオンを良好に防止することができる共に、割れや欠けなどのチッピング防止の効果も図れる。
【0017】
好ましくは、前記最終被覆層は、パリレン、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂のいずれかで構成してある。さらに好ましくは、前記最終被覆層は、パリレン、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂で構成してあり、特に好ましくは、パリレンで構成してある。このように構成することで、フェライト粒子自体の脱落や、フェライト素体内部からの放出ガスや、溶出イオンを良好に防止することができる共に、割れや欠けなどのチッピング防止の効果も図れ、さらには、エッジ膜剥離などの不都合も生じない。
【0018】
また、本発明に係るフェライト磁石の製造方法は、
複数のフェライト粒子から成るフェライト素体を準備する工程と、
前記フェライト素体の表面で、前記フェライト粒子間の隙間に浸透するように含浸相を形成する工程と、
前記フェライト粒子および前記含浸相の双方が露出するまで、前記フェライト素体の表面を研磨する工程と、
前記フェライト粒子および前記含浸相の双方が露出する前記フェライト素体の表面に、最終被覆層を形成する工程と、を有する。
【0019】
本発明に係るフェライト磁石の製造方法によれば、本発明のフェライト磁石を容易に製造することができる。また、本発明の方法では、含浸相を形成した後に、研磨工程を採用しているために、含浸相を形成する前に、研磨工程を行う従来技術に比較して、割れや欠けなどのチッピング防止の効果に優れている。
【0020】
前記フェライト粒子および前記含浸相の双方が露出する前記フェライト素体の表面に、プライマー処理を施した後に、前記最終被覆層を形成してもよい。この場合には、フェライト粒子および含浸相に対する最終被覆層の密着力がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は本発明の一実施形態に係るフェライト磁石の模式図である。
図2図2図1のII部分の拡大概略断面図である。
図3図3(A)〜図3(C)は図2に示すフェライト磁石の製造過程を示す要部概略断面図である。
図4図4は本発明の他の実施形態に係るフェライト磁石の要部拡大概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0023】
(フェライト磁石)
図1に示すように、本実施形態に係るフェライト磁石1は、フェライト素体10を有する。図2に示すように、フェライト素体10の最外表面は、最終被覆層30で覆われている。本実施形態では、最終被覆層30はフェライト素体10の表面全体に形成されていることが好ましい。
【0024】
(フェライト素体10)
上記のフェライト磁石1を構成するフェライト素体10は、ハードフェライトあるいはソフトフェライトであれば、組成は特に限定されないが、本発明は、特にハードフェライトの場合に効果が大きい。
【0025】
フェライト素体10は、主成分としてのフェライト成分と、添加成分と、を有していることが好ましい。
【0026】
また、フェライト素体10は、複数のフェライト粒子11を有している。このフェライト粒子に添加成分が固溶していてもよいし、添加成分がフェライト粒子間の粒界に存在する成分(粒界成分)として含まれていてもよい。本実施形態では、粒界成分として、SiO、CaO、アルミナ等が例示される。
【0027】
フェライト素体10を構成するフェライト粒子11の形状は、特に限定されず、円形でも扁平形状でも良いが、本実施形態では、扁平形状である。各粒子11の扁平方向(長手方向)の平均粒径は、特に限定されないが、本実施形態では、0.1〜2μmである。
【0028】
本実施形態では、フェライト素体10は緻密質であり、粒子11間には空孔等の空隙が少ないことが好ましいが、下述するように、粒子11間の隙間には、含浸相20が形成される。
【0029】
(含浸相20)
含浸相20は、Si、Al、Mg、Ca、Fe、Cl、Fのいずれか一つ以上の無機成分を含む相、あるいはアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂のうちから選ばれる少なくとも一つ以上を含む相で構成してあり、好ましくは無機成分を主成分とする相である。無機成分を主成分としていれば、金属で構成されていてもよいし、酸化物で構成されていてもよいし、これらの複合物で形成されていてもよい。
【0030】
また、含浸相が酸化物で構成されている場合には、SiO、AlO、MgO、CaO、FeO等を含むことが好ましい。
【0031】
本実施形態では、含浸相20は、Si酸化物を含むことが好ましい。このようにすることで、含浸相20のイオン透過性を低くすることができ、素体10から発生するイオンの外部への放出を効果的に抑制できるとともに、フェライト粒子11および最終被覆層30との密着性も高めることができる。
【0032】
図2に示すように、含浸相20は、フェライト素体10の内部に含浸されており、フェライト粒子11間を結びつけるように存在している。
【0033】
(最終被覆層30)
最終被覆層30は、本実施形態では、含浸相20とは別材料にて別工程で形成される。最終被覆層30は、パリレン、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂のいずれかで構成してあるが、好ましくは、パリレン、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂で構成してあり、さらに好ましくはパリレンで構成してある。パリレンは、パラキシレン系ポリマーの総称で、ベンゼン環がCHまたはCFを介して繋がった構造を有し、安定した結晶性ポリマーであり、蒸着重合により成膜が可能であり、微細隙間にも成膜が可能であるという特徴を有する。
【0034】
図2に示すように、最終被覆層30の厚みt1は、厚さt1方向に沿ったフェライト粒子11の平均粒径よりも大きいことが好ましい。本実施形態では、最終被覆層30の厚みt1は、フェライト素体10を構成する粒子11の最外表面から最終被覆層30の最外表面までの層の厚みに略一致し、その厚みは、最終被覆層30の材質などに応じて変化し、最終被覆層30がパリレンの場合には、最小で1〜10μmは、好ましくは3〜8μm、さらに好ましくは5〜8μmである。また、最終被覆層30が、エポキシ樹脂あるいはポリイミド樹脂などのように塗布法により形成される樹脂であれば、10〜30μmが好ましい。
【0035】
なお、図2では、所定方向に配向してあるフェライト粒子11の短手方向が最終被覆層30の厚みt1の方向に一致するが、最終被覆層30が素体10を被覆する位置によっては、フェライト粒子11の長手方向が最終被覆層30の厚みt1の方向に一致したり、それ以外もあり得る。
【0036】
(最終被覆層30と含浸相20との境界)
本実施形態において、最終被覆層30と含浸相20との境界40では、最終被覆層30が、フェライト粒子11および含浸相20の双方に接触している。含浸相20の含浸深さt2は、フェライト粒子11における所定方向(被覆層30の厚さt1と同じ方向)平均粒径の3倍以上であることが好ましく、素体10の全体厚みが薄い場合には、素体10の全体厚みと同じでも良い。
【0037】
最終被覆層30と含浸相20との境界40では、素体10の最外表面に位置するフェライト粒子11のほとんど(80%以上、好ましくは90%以上)が最終被覆層30に接触している。その状態を別の観点からとらえれば、次のように説明できる。最終被覆層30と含浸相20との境界40では、最終被覆層30の内面の内、80%以上、好ましくは90%以上の面積割合で、フェライト粒子11に接触し、その面積割合の上限は、含浸相20との接触面積の最小面積割合に基づき決定され、好ましくは10%以下、さらに好ましくは1%以下である。なお、素体10の最外表面に位置するフェライト粒子11の一部の粒子は、最終被覆層30に対して食い込んで配置してある。
【0038】
フェライト粒子間に存在する領域が含浸部であるか否かは、たとえば、以下のようにして判断することができる。
【0039】
まず、フェライト素体を、フェライト素体と含浸相との界面に垂直な面で切断する。その切断面に対し、走査型電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡に付属のエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を用いて、含浸相に含まれる無機成分を構成する金属元素の含有割合の分布から判断することができる。
【0040】
具体的には、切断面に現れるフェライト粒子間の領域に対して面分析、線分析、点分析等を行い、得られた該金属元素の分布から、該金属元素が特定量存在している領域を含浸相と規定する。
【0041】
本実施形態では、上述したように、含浸相にはSi酸化物が含まれることが好ましい。一方、フェライト素体の添加成分として、Si酸化物が含まれる場合がある。添加成分としてのSi酸化物は、通常、フェライト粒子間の粒界に粒界成分として存在している。
【0042】
このような場合、上記の手法によりSiの分布が得られても、含浸相に由来するSiと、粒界成分に由来するSiとの区別は困難である。そこで、以下に示す手法を用いることが好ましい。
【0043】
まず、フェライト素体の中心付近に位置するフェライト粒子間に存在する領域(粒界等)において、含浸相に含まれる金属元素MAと、含浸相には含まれないが添加成分には含まれる金属元素MBと、の含有割合を、上記の手法により算出する。そして、これらの元素のモル換算での含有比率(MA/MB)を1とする。
【0044】
フェライト素体の中心付近に位置するフェライト粒子間には、含浸相に由来する金属元素MAが含浸していないあるいはほとんど含浸していないと仮定すると、該フェライト粒子間に存在する領域における金属元素MAおよびMBは粒界成分にのみ由来していると考えられる。
【0045】
そうすると、含浸相由来の金属元素が存在している領域では、MAの含有割合が増加し、MBの含有割合は変化しないため、該領域における含有比率(MA/MB)は1よりも大きくなる。
【0046】
この手法を用いることで、含浸相に含まれる金属元素と、添加成分に含まれる金属元素と、が重複する場合であっても、含浸相を規定することができる。なお、含浸相に含まれる金属元素と、添加成分に含まれる金属元素と、が重複しない場合であっても、この手法を用いて、含浸相を規定してもよい。
【0047】
(フェライト磁石の製造方法)
次に、本実施形態に係るフェライト磁石の製造方法の一例を説明する。
【0048】
まず、フェライト素体の原料を準備する。原料としては、酸化鉄、酸化亜鉛等の酸化物を用いてもよいし、焼成後に酸化物となるような各種化合物を用いてもよい。また、必要に応じて、添加成分の原料を準備する。準備した原料を仮焼してもよい。
【0049】
次に、準備した原料と、バインダ樹脂等とを混合し、その混合物を公知の成形方法により所定の形状に成形する。本実施形態では板状に成形し、フェライト素体の成形体を得る。なお、必要に応じて、成形に適した形態とするために粉砕、造粒等を行ってもよい。また、この成形体に対し、必要に応じて脱バインダ処理等を行ってもよい。
【0050】
次に、得られた成形体を焼成し、焼結体(図3(A)に示すフェライト素体10)を得る。焼成条件は特に制限されず、公知の条件で行えばよい。得られたフェライト素体に対して、含浸相を形成する。
【0051】
まず、フェライト素体10の外表面を洗浄して乾燥させる。素体10の外表面に存在する粒子11の表面およびそれらの隙間に存在する油分や水分を除去するためである。洗浄する方法は特に制限されないが、たとえば、スポンジ等で洗浄し、さらに超音波洗浄等を行ってもよい。洗浄後、洗浄に用いた溶媒をフェライト素体から除去する。
【0052】
次に、含浸相を形成するための原料(封孔処理剤)を準備する。本実施形態では、含浸相はSi酸化物を含むため、少なくともSi酸化物の前駆体を含む封孔処理剤を準備する。Si酸化物の前駆体としては、特に制限されないが、Si化合物が好ましい。封孔処理剤としては、具体的には、シリコーン樹脂、シリコンアルコキシド、環状シロキサン、シラン、ポリシラザンなどが例示される。また、封孔処理剤は、フェライト粒子11の間の隙間に確実に含浸させるために、液状あるいはガス状の原料として準備することが好ましい。
【0053】
本実施形態では、封孔処理剤としては、シリコーン樹脂を用いる。封孔処理に際しては、洗浄および乾燥後の素体10を、真空タンクの内部に投入し、その後に減圧し、素体10のポア(粒子11と粒子11との隙間)中に残った空気を取り除く。その後、減圧用のバルブを閉め、別のラインから封孔処理剤を注入し、フェライト素体全体を浸漬させた状態で、タンク内部を大気圧に戻し、その後に加圧することで、封孔処理剤の浸透を促進させる。
【0054】
その後に、タンクの内部からフェライト素体10を取り出し、表面についた余剰な封孔処理剤をスピンドライなどで吹き払う、またはリンスするなどしてもよい。さらにその後に、常温放置、もしくは加熱処理することで、図3(B)に示すように、素体10の少なくとも表面付近において、粒子11間の隙間で封孔処理剤が硬化して含浸相20が形成される。また、素体10の外表面にも被覆含浸相20aが形成される。
【0055】
次に、本実施形態では、外表面にも被覆含浸相20aが形成された素体10を、たとえばバレル研磨、ラップ研磨、サンドブラスト、砥石研磨などの表面処理により研磨処理を行う。この研磨条件は、図3(B)および図3(C)に示すように、素体10の外表面に形成してある被覆含浸相20aが除去されて、フェライト粒子11および含浸相20の双方が露出するまでの条件である。研磨の際には、被覆含浸相20aから飛び出しているフェライト粒子11aも研磨により除去される。
【0056】
その後に、図2に示すように、最終被覆層30が、フェライト粒子11および含浸相20の双方が露出するフェライト素体10の表面に形成される。図2に示す状態では、含浸相20と最終被覆層30との境界40では、最終被覆層30が、フェライト粒子11および含浸相20の双方に接触している。
【0057】
得られたフェライト磁石は、フェライト粒子の脱落やガス放出、イオン溶出が抑制されているため、高い洗浄度が求められるクリーン環境に好適である。具体的には、HDDの磁気ヘッド駆動用VCM用途に好適である。
【0058】
(実施形態の作用効果)
本実施形態では、フェライト素体10に形成された含浸相20は、フェライト粒子11と共にフェライト素体10の表面に露出するように、フェライト粒子11間の隙間に入り込んでいる。すなわち、含浸相20は、フェライト粒子11間に存在している。その結果、複数のフェライト粒子11は含浸相を通じて連結して固定されるため、フェライト粒子11の脱落を効果的に抑制することができる。
【0059】
さらに本実施形態では、含浸相20と最終被覆層30との境界では、最終被覆層30が、フェライト粒子11および含浸相20の双方に接触するように、フェライト素体10の外表面を覆っている。このため、フェライト素体11の外表面から最終被覆層30の最外表面までの層の厚みt1を薄く形成することが容易になり、フェライト素体10の磁気特性を最大限に発揮させながら、フェライト粒子11自体の脱落や、フェライト素体10内部からの放出ガス、イオン溶出を良好に防止することができる。
【0060】
また、含浸相20と最終被覆層30との境界では、最終被覆層30が、フェライト粒子11および含浸相20の双方に接触するように、フェライト素体10の外表面を覆っているため、含浸相20と最終被覆層30との境界では、フェライト粒子11が、これらを強固に接合するための楔のような機能を果たし、これら三者の密着性が向上する。この点からも、フェライト粒子11自体の脱落や、フェライト素体内部からの放出ガス、イオン溶出を良好に防止することができる。また最終被覆層30をパリレンで構成することで、特に、エッジ膜剥離などの不都合を有効に低減することができる。
【0061】
さらに本実施形態に係るフェライト磁石の製造方法によれば、含浸相を形成した後に、研磨工程を採用しているために、含浸相を形成する前に、研磨工程を行う従来技術に比較して、割れや欠けなどのチッピング防止の効果に優れている。
【0062】
(別実施形態)
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0063】
たとえば図4に示すように、フェライト粒子11から成るフェライト素体10の表面に、バレル研磨などの表面処理を行うことなく、パリレン成膜を行い、含浸相200と最終被覆層300とをパリレンにより同時に形成しても良い。この実施形態の場合には、バレル研磨を必要とすることなく、含浸相200と最終被覆層300とを同時に形成できるため、製造工程がシンプルになる。また、前述した実施形態に比べれば、多少、粒子脱落、組立ハンドリング時の割れ欠けの点で劣るが、図4に示す実施形態においても、フェライト粒子自体の脱落防止や、フェライト素体内部からの物質放出(イオン、ガス)を良好に防止することができる共に、割れや欠けなどのチッピング防止の効果も図れる。
【0064】
なお、本発明のさらに別の実施形態として、フェライト粒子11および含浸相20の双方が露出するフェライト素体10の表面に、プライマー処理を施した後に、最終被覆層30を形成してもよい。この場合には、フェライト粒子11および含浸相20に対する最終被覆層30の密着力がさらに向上する。プライマー処理は、最終被覆層30の材質などに応じて決定され、最終被覆層がパリレンの場合には、プライマー処理としては、オゾン洗浄、イトロ処理、シラン処理、脱脂洗浄を用いることが好ましい。
【0065】
また、最終被覆層がエポキシ樹脂またはポリイミド樹脂の場合には、プライマー処理としては、市販のプライマー、オゾン洗浄、イトロ処理、シラン処理、脱脂洗浄を用いることが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0067】
(実施例1)
試料1
まず、フェライト素子として、公知の方法で製造されたハードフェライト磁石(異方性フェライト磁石、円盤型、直径24mm、厚み1.3mm、表面積1000mm、質量2.98g)を準備した。
【0068】
このフェライト素体の表面および隙間(ポア)に存在する油分や水分を除去するため、アセトンで洗浄し、その後乾燥した。
【0069】
洗浄・乾燥後のフェライト素体を、真空タンクに投入し、1torrまで減圧し、ポア中に残った空気を取り除いた。その後、減圧用のバルブを閉め、別のラインから封孔処理剤を注入し、フェライト素体全体を浸漬させた。このとき、封孔処理剤としては、シリコーン樹脂(HS−100、株式会社ディーアンドディー製)を用いた。
【0070】
フェライト素体が、封孔処理剤に十分に浸漬された状態で、タンク内の圧力を大気圧に戻し、ポア中に、封孔処理剤を浸透させた。さらに、タンク内の圧力を5kg/cmまで加圧することで、封孔処理剤の浸透を促した。
【0071】
封孔処理剤が十分に浸透したフェライト素体をタンクから取り出し、余剰封孔処理剤を除去するため、IPA(イソプロピルアルコール、純正化学株式会社製)を用いてフェライト素体の表面を洗浄した。洗浄後のフェライト素体を、150℃−15分の条件で熱処理し、フェライト素体の表面および内部(ポア中)に残存している封孔処理剤を硬化させ、含浸相を形成した。
【0072】
封孔処理を経た後、含浸相が形成されたフェライト磁石を、バレル装置(RH−50、株式会社チップトン製)に投入し、図3(C)に示すようにフェライト粒子および含浸相の双方が露出するように、バレル研磨により表面処理を行った。バレル研磨の条件としては、研磨石:HS−5使用(30kg/RH−50投入)、砥材:なし、コンパウンド:なし、水:15L、ワーク数:500枚投入、回転数:30rpm、処理時間:300分、R付け量:R=0.2である。なお、さらに、バレル研磨後のフェライト磁石の表面を電子顕微鏡で観察し、フェライト磁石表面にフェライト粒子および含浸相の双方の表面が出ていることを確認した。
【0073】
表面処理を経た後、フェライト粒子および含浸相の双方の表面が出ているフェライト磁石に対し、エポキシ樹脂(XNR3640LC、ナガセケムテックス株式会社製)を用いて、塗布法により被覆処理を行い、膜厚10μmの最終被覆層を形成した。
【0074】
<発塵量(LPC試験)>
最終的に得られたサンプルを、水中(超純水500mlが入ったビーカー)に配置し、28kHz−5minの条件で超音波を照射し、試料から水中へ脱離した浮遊粉塵(>0.5μmサイズ)を液中パーティクルカウンター(LPC、PMS社製、下限50pcs/cc、上限30000pcs/cc)にて測定した。本実施例では、発塵量は、1640以下を良好とし、より好ましくは600以下、さらに好ましくは320以下とした。結果を表1に示す。
【0075】
<ワレ・カケの発生率>
表面処理後のサンプル(同様の条件で作製されたサンプル20個)に対して、目視検査を行い、ワレ・カケの発生率を測定した。ここで、ワレとは、破断部が1mm以上の欠損をいい、カケとは、破断部が1mm未満の欠損をいう。本実施例では、ワレ・カケの発生率は45%以下を良好とし、より好ましくは15%以下を良好し、さらに好ましくは5%以下とした。結果を表1に示す。
【0076】
<膜剥離の発生率>
最終被覆層を形成後のサンプル(同様の条件で作製されたサンプル20個)に対し、フェライト磁石の角(エッジ部分)の表面を光学顕微鏡で観察し、膜剥離の発生率を測定した。ここで、膜剥離とは、最終被覆層が捲れているか、あるいは最終被覆層が形成されていない場合をいう。本実施例では、膜剥離の発生率は55%以下を良好し、より好ましくは15%以下を良好し、より好ましくは5%以下とした。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、試料1では、シリコーン樹脂により形成された含浸相が、バレル研磨によるフェライト素体に対する衝撃を緩和し、ワレ・カケの発生を有効に防止することができる。
【0079】
また、本発明に係る試料1では、封孔処理後のフェライト素体に対して、図3(C)に示すようにフェライト粒子および含浸相の双方が露出するように表面処理(バレル研磨)が施されている。その結果、通常均一な被覆処理が困難とされるフェライト磁石のエッジ部分においても、適度に露出した含浸相の存在により、容易に被覆処理を行うことができる。また、こうして形成された最終被覆層は、図2に示すようにフェライト粒子および含浸相の双方に接する構成となっており、最終被覆層とフェライト素体との密着性に優れる。そのため、最終的に得られるフェライト磁石において発塵量および膜剥離の発生率を有効に低減することができる。
【0080】
試料2〜6
試料2〜6は、表1に示すように封孔処理、表面処理および被覆処理の何か1つ以上の処理を行わなかった以外には、試料1と同様にしてサンプルを作製し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
表1に示すように、試料2〜6では、封孔処理、表面処理および被覆処理の何か1つ以上の処理が行われていないため、発塵量、ワレ・カケの発生率および膜剥離の発生率の何れか1つ以上の測定結果が悪化している。
【0082】
試料7
試料7は、試料1の封孔処理後の表面処理代えて、封孔処理前の表面処理を行った以外には、試料1と同様にしてサンプルを作製し、同様の評価を行った。同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
表1に示すように試料7では、表面処理後にワレ・カケが多発している。これは、表面処理を行ったフェライト素体には含浸相が形成されていないことから、表面処理に伴うフェライト素体への衝撃を緩和しワレ・カケを抑制するという、含浸相の効果が得られなかったことに起因すると考えられる。
【0084】
また、表1に示すように試料7では、最終的に得られたサンプルにおいて、試料1と比較して発塵量が悪化しており、膜剥離も多発している。これは、被覆処理に先立ち、含浸処理後のフェライト素体に対して、フェライト粒子および含浸相の双方を露出させる表面処理を行わなかったため、得られた試料7において最終被覆層がフェライト粒子および含浸相の双方に接する構成とはならず、最終被覆層とフェライト素体との密着性が悪化したことに起因すると考えられる。
(実施例2)
【0085】
試料21〜24
次に、以下に示す試料21〜24のフェライト磁石を作製した。各試料の評価結果を表2に示す。
【0086】
試料21は、実施例1の試料1で用いた封孔処理剤に代えて、シリコンアルコキシド(テトラエトキシシシラン、株式会社ADEKA製)を用いた以外には、実施例1の試料1と同様にしてサンプルを作製し、同様の評価を行った。
【0087】
試料22は、実施例1の試料1で用いた封孔処理剤に代えて、嫌気性アクリルモノマー(PMS−10E、ヘンケル社製)を用い、余剰封孔処理剤の除去として遠心脱水(50rpm)後、水洗いを行い、さらに硬化処理は行わなかった以外には、実施例1の試料1と同様にしてサンプルを作製し、同様の評価を行った。
【0088】
試料23は、実施例1の試料1で用いた封孔処理剤に代えて、熱硬化性アクリルモノマー(レジノール90C、ヘンケル社製)を用いた以外には、実施例1の試料1と同様にしてサンプルを作製し、同様の評価を行った。
【0089】
試料24は、実施例1の試料1で用いた封孔処理剤に代えて、ポリシラザン(V110、クラリアントジャパン社製)を用いた以外には、実施例1の試料1と同様にしてサンプルを作製し、同様の評価を行った。
【0090】
【表2】
【0091】
表2に示すように、封孔処理剤の種類を変えた場合であっても、試料1と同様に封孔処理を行った場合には、封孔処理を行わなかった場合(試料2)と比較して、発塵量、ワレ・カケの発生率および膜剥離の発生率のいずれもが低減されることが確認された(試料21〜24)。
【0092】
なお、表2に示すように、試料21では、他の試料(試料1および22〜24)と比較して、発塵量、ワレ・カケの発生率および膜剥離の発生率の低減の効果が劣ることが確認された。これは、封孔処理剤として、シリコンアルコキシドを用い含浸相を形成したことにより、含浸処理後のフェライト素体の膜質が硬くなり過ぎてしまい、当該含浸相が表面処理によるフェライト素体に対する衝撃を十分に緩和できなかったことに起因すると考えられる。
【0093】
(実施例3)
試料31〜38
次に、以下に示す試料31〜38のフェライト磁石を作製した。各試料の評価結果を表3に示す。
【0094】
試料31および32は、実施例1の試料1で形成した最終被覆層の膜厚に代えて、表3に示す膜厚とした以外には、実施例1の試料1と同様にしてサンプルを作製し、同様の評価を行った。
【0095】
試料33〜35は、実施例1の試料1で用いた被覆処理剤に代えて、ポリイミド樹脂(セミコファイン、東レ社製)を用い、最終被覆層の膜厚を表3に示す膜厚とした以外には、実施例1の試料1と同様にしてサンプルを作製し、同様の評価を行った。
【0096】
試料36〜38は、実施例1の試料1で用いた被覆処理剤に代えて、パリレン(パリレン−C、日本パリレン社製)を用い、最終被覆層の膜厚を表3に示す膜厚とし、実施例1の塗布法に代えて、気層による蒸着法により最終被覆層を形成した以外には、実施例1の試料1と同様にしてサンプルを作製し、同様の評価を行った。
【0097】
【表3】
【0098】
表3に示すように、封孔処理の後、表面処理し、被覆処理を行った場合には、被覆処理剤や最終被覆層の厚みを変えた場合であっても、試料1と同様の効果が得られることが確認された。特に、最終被覆層の厚みを厚くすることで、発塵率および膜剥離を有効に低減できることが確認された(試料31〜38)。
【符号の説明】
【0099】
1,100… フェライト磁石
10… フェライト素体
11… フェライト粒子
20,200… 含浸相
30,300… 最終被覆層
40… 境界
図1
図2
図3
図4