特許第6160071号(P6160071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160071
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】インダクタ
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20170703BHJP
【FI】
   H01F17/04 F
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-265528(P2012-265528)
(22)【出願日】2012年12月4日
(65)【公開番号】特開2014-110394(P2014-110394A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大休寺 新
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−077302(JP,A)
【文献】 特開2006−278412(JP,A)
【文献】 特開2012−044150(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02597656(EP,A1)
【文献】 特開2004−047942(JP,A)
【文献】 特開平10−172832(JP,A)
【文献】 特開平02−224306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1フランジ、第2フランジ、および当該第1フランジと当該第2フランジとの間に設けられた柱部を備え、磁性体からなるドラムコアと、
導電性を有し、前記柱部の周りに巻き回されてコイルを形成するワイヤと、
少なくとも前記コイルを包囲するように配置されたリングコアとを備え、
前記第1フランジと前記リングコアの間には、前記コイルに電流を流すことにより発生する磁束の一部が外部に漏れ出すエアギャップが形成されており、
前記柱部は、前記第1フランジに近い側において、前記第2フランジに近い側の少なくとも一部よりも断面積が小さい部分を有している、インダクタ。
【請求項2】
前記柱部の外周面は、前記第1フランジ側と前記第2フランジ側との間を直線的に延びる傾斜面とされている、請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記リングコアは、前記第2フランジに対して隙間なく接している、請求項1または2に記載のインダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルを形成するワイヤが巻き回されるドラムコアの外側にリングコアが配置された構成を有するインダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のインダクタは、一対のフランジの間に柱部を有するドラムコアを備えている。柱部の外周には導電性を有するワイヤが巻き回されてコイルを形成する。リングコアはドラムコアおよびコイルを包囲するように配置される。一対のフランジの一方とリングコアの間にはエアギャップが形成されており、ワイヤに電流を流すことにより生ずる磁束を当該エアギャップから外部に漏らすようにしている。磁気飽和を生じにくくし、定格電流の値を高めるためである(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−6939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成においては、磁束を積極的に漏らす結果、エアギャップが形成されている側のフランジの近傍と、エアギャップが形成されていない側のフランジの近傍との間で、磁束密度に不均一性が生ずることが避けられない。インダクタの使用条件によっては、当該不均一性がトリガとなり、ドラムコア内で急速に磁気飽和が進行し、所定の動作特性が発揮できなくなる場合がある。このため定格電流値を幾分低めに設定することが求められる。
【0005】
よって本発明は、ドラムコアとリングコアの間にエアギャップが形成されているインダクタにおいて、局所的な磁気飽和の発生を抑制し、定格電流値を向上しうる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明がとりうる一態様は、インダクタであって、
第1フランジ、第2フランジ、および当該第1フランジと当該第2フランジとの間に設けられた柱部を備え、磁性体からなるドラムコアと、
導電性を有し、前記柱部の周りに巻き回されてコイルを形成するワイヤと、
少なくとも前記コイルを包囲するように配置されたリングコアとを備え、
前記第1フランジと前記リングコアの間にはエアギャップが形成されており、
前記柱部は、前記第1フランジに近い側において、前記第2フランジに近い側の少なくとも一部よりも断面積が小さい部分を有している。
【0007】
コイルに電流を流すことで発生する磁束の一部がエアギャップから外部に漏れ出すことは、第1フランジの付近における磁束密度の低下要因となる。しかしながら、上記のように柱部の第1フランジに近い側において、第2フランジに近い側よりも断面積の小さい部分を有することにより、当該部分において磁束密度が高くなり、エアギャップによる磁束密度低下の影響が相殺される。
【0008】
結果として柱部全体にわたり磁束密度を均一化することができるため、柱部における局所的な磁気飽和の発生を抑制することができる。したがって定格電流値を幾分高めに設定してもインダクタを安定動作させることができる。
【0009】
前記柱部の外周面は、前記第1フランジ側と前記第2フランジ側との間を直線的に延びる傾斜面とされている構成としてもよい。例えばドラムコアにフェライトを用いる場合、成型には切削加工を要する。このような構成によれば加工が容易であり、製造コストを抑制することができる。
【0010】
前記リングコアが前記第2フランジに対して隙間なく接している構成においては、第1フランジに近い側と第2フランジに近い側との磁束密度の不均一性が顕著となる。したがって本発明の効果がより良好に発揮される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ドラムコアとリングコアの間にエアギャップが形成されているインダクタにおいて、局所的な磁気飽和の発生を抑制し、定格電流値を向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るインダクタの構成を示す斜視図である。
図2】インダクタの内部構成を比較例と比較して示す断面図である。
図3】変形例に係るインダクタの構成を示す斜視図である。
図4】ドラムコアの変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態について以下詳細に説明する。なお以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係るインダクタ1の外観を示す斜視図である。インダクタ1は、ドラムコア2、コイル3、およびリングコア4を備えている。図2は、図1における線II−IIに沿う断面図であり、(a)はドラムコア2のみの断面を、(b)はインダクタ1全体の断面を示している。
【0015】
図2の(a)に示すように、ドラムコア2は、第1フランジ21、第2フランジ22、および柱部23を備えている。柱部23は、第1フランジ21と第2フランジ22の間に設けられている。ドラムコア2は、フェライトなどの磁性体からなる。
【0016】
図1および図2の(a)に示すように、第1フランジ21と第2フランジ22は、それぞれ円板状の外観を呈しており、互いに平行に延びている。柱部23は、第1フランジ21および第2フランジ22の延びる向きと実質的に直交する向きに延びる中心軸Cを有している。
【0017】
図2の(b)に示すように、コイル3は、銅などの導電性を有する線材の周囲に絶縁被膜を形成したワイヤが、ドラムコア2の柱部23の周りに巻き回されて形成されている。
【0018】
図1および図2の(b)に示すように、リングコア4は、コイル3を包囲するようにドラムコア2の径方向外側に配置される。リングコア4は、フェライトなどの磁性体からなり、磁気シールドとして機能する。リングコア4の上端部4aとドラムコア2の第1フランジ21の間には、エアギャップ5が形成されている。リングコア4の下端部4bは、ドラムコア2の第2フランジ22と隙間なく接触している。
【0019】
図1に示すように、エアギャップ5には接着剤注入部51が形成されている。この接着剤注入部51より接着剤が注入されることにより、ドラムコア2とリングコア4が接着される。
【0020】
図2の(a)に示すように、ドラムコア2の柱部23の外周面は傾斜面とされており、柱部23は、第2フランジ22から第1フランジ21に向かって徐々に径小となる。すなわち柱部23は、第1フランジ21に近い側において、第2フランジ22に近い側よりも断面積が小さい部分を有している。
【0021】
図2の(c)は、比較例に係るドラムコア102の断面を示している。ドラムコア102は、第1フランジ121、第2フランジ122、および柱部123を備えている。柱部123は、第1フランジ121と第2フランジ122の間に設けられている。ドラムコア102の柱部123の外周面は、柱部123の中心軸C1と平行に延びている。したがって柱部123の断面積は、その位置によらず一定となる。
【0022】
図2の(d)は、このようなドラムコア102を備える、比較例に係るインダクタ101の断面図である。ワイヤがドラムコア102の柱部123の周りに巻き回されてコイル103を形成している。リングコア104は、コイル103を包囲するように、ドラムコア102の径方向外側に配置されている。リングコア104の上端部とドラムコア102の第1フランジ121の間には、エアギャップ105が形成されている。ワイヤおよびリングコア104は、それぞれ上記のワイヤ3およびリングコア4と同じものである。
【0023】
コイル103に電流を流すと、磁束が発生する。磁束の一部は、磁気飽和を抑制するために形成されたエアギャップ105から外部に漏れ出す。一方、第2フランジ122の側にはエアギャップが形成されていないため、柱部123の第2フランジ122に近い側において磁束密度が相対的に高くなる。インダクタ101の使用条件によっては、この磁束密度の不均一性がトリガとなって磁束の「渋滞」が生じ、ドラムコア102内で急速に磁気飽和が進行することがある。その場合、インダクタ101としての所定の動作特性が発揮できなくなってしまう。また磁束密度の不均一性に起因して磁気飽和の局所的に発生するため、インダクタ101を安定動作させるための定格電流値を幾分低めに設定する必要がある。
【0024】
一方、本実施形態のドラムコア2においては、リングコア4との間にエアギャップ5が形成されている第1フランジ21に近い側の断面積が、リングコア4との間にエアギャップが形成されていない第2フランジ22に近い側の断面積よりも小さくなるように、柱部23が形成されている。すなわち柱部23の第1フランジ21に近い側は、磁束経路の断面積が小さくなるために、磁束密度が高くなりやすい部位となる。
【0025】
コイル3に電流を流すことで発生する磁束の一部がエアギャップ5から外部に漏れ出すことは、第1フランジ21の付近における磁束密度の低下要因となる。しかしながら上記のように、柱部23の第1フランジ21に近い側において磁束密度を高めることでその影響が相殺され、柱部23全体にわたり磁束密度を均一化することができる。
【0026】
結果として柱部23における局所的な磁気飽和を抑制することができる。したがって定格電流値を幾分高めに設定してもインダクタ1を安定動作させることができる。
【0027】
柱部23の外周面の傾斜角は、インダクタ1の仕様(各部の寸法や定格電流値など)により異なるため、磁気シミュレーションを行なうことによって適宜に定められる。
【0028】
上記の実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0029】
リングコア4の下端部4bは、必ずしも第2フランジ22に対して隙間なく接触させることを要しない。例えば図3に示す変形例に係るインダクタ1Aのように、コイル3を形成するワイヤが導出される開口4cが第2フランジ22の付近に形成されたリングコア4Aを備える構成としてもよい。この場合、第2フランジ22付近にも磁束密度の低下要因が存在することから、柱部23の第1フランジ21に近い側において磁束密度を高める必要性が幾分低くなる。すなわち柱部23の外周面の傾斜角を幾分小さくすればよい。
【0030】
柱部23の第1フランジ21に近い側において、第2フランジに近い側の少なくとも一部よりも断面積が小さい部分を有している限りにおいて、ドラムコア2の形状は上記に示したものに限られない。例えば、柱部23の外周面は、必ずしも第1フランジ21と第2フランジ22の間を直線的に延びる傾斜面であることを要しない。
【0031】
例えば、図4の(a)に示すドラムコア2Aの柱部23Aのように、外周面が曲面のみによって形成される構成としてもよい。第1フランジ21に近い側において柱部23Aがくびれていることにより、第2フランジ22に近い側の一部よりも断面積が小さい部分が形成されている。
【0032】
図4の(b)に示すドラムコア2Bの柱部23Bのように、段状に形成された外周面を有する構成としてもよい。当該外周面は、柱部23Bの中心軸に平行に延びる面のみから形成されている。柱部23Bの第1フランジ21に近い側が径小とされることにより、第2フランジ22に近い側よりも断面積が小さい部分が形成されている。
【0033】
図4の(c)に示すドラムコア2Cの柱部23Cのように、その中心軸と平行に延びる面と曲面の組合せによって柱部23Cの外周面が形成される構成としてもよい。柱部23Cの第1フランジ21に近い側の一部がくびれていることにより、第2フランジ22に近い側よりも断面積が小さい部分が形成されている。
【0034】
図4の(d)に示すドラムコア2Dの柱部23Dのように、その中心軸と平行に延びる面と直線的に延びる傾斜面の組合せによって柱部23Dの外周面が形成される構成としてもよい。第2フランジ22に近い側の径が第1フランジ21に向かって径小とされることにより、第1フランジ21に近い側において、第2フランジ22に近い側の一部よりも断面積が小さい部分が形成されている。
【0035】
図4の(b)に示す柱部23Bのように外周面を段状に形成する場合において、径小部と径大部の境界となる段部は、必ずしも第1フランジ21および第2フランジ22と平行に延びていることを要しない。図4の(e)に示すドラムコア2Eの柱部23Eのように、段部が螺旋状に延びている構成としてもよい。第1フランジ21に近い側ほど径小とされることにより、第2フランジ22に近い側の一部よりも断面積が小さい部分が形成されている。
【0036】
上記の実施形態に係るドラムコア2にフェライトを用いる場合、成形には切削加工を要する。ドラムコア2を図2の(a)に示した形状とすれば加工が容易であり、製造コストを抑制することができる。
【0037】
すなわち上記の実施形態に係るドラムコア2は、第1フランジ21、第2フランジ22、および柱部23が同一素材からなり、かつ相互の境界が物理的・物性的に連続しているモノリシックな構造を有している。しかしながら、第1フランジ21、第2フランジ22、および柱部23が同一または異なる材料からなる独立した部材として形成され、接着または溶着により一体とされる構成としてもよい。
【0038】
リングコア4は、必ずしもドラムコア2全体を包囲するように配置されることを要しない。所望の磁気シールド効果を発揮しうる限りにおいて、少なくともコイル3を包囲していればよい。
【0039】
上記の説明における「上」「下」という表現は、図面を参照した説明において便宜上用いたに過ぎず、製品の使用時における方向を限定する意図ではない。「上」および「下」は、それぞれ第1フランジ21に近い側、第2フランジ22に近い側と言い換えることができる。
【符号の説明】
【0040】
1:インダクタ、2:ドラムコア、3:コイル、4:リングコア、5:エアギャップ、21:第1フランジ、22:第2フランジ、23:柱部
図1
図2
図3
図4