【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/基盤技術開発/酸化物系非貴金属触媒」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記第2工程で、上記第1工程で上記触媒物質を分散させた場合には上記触媒物質と上記第1の高分子電解質との質量比が1:0.01〜1:30の範囲内となるように、上記第1工程で上記炭素粒子を分散させた場合には上記炭素粒子と上記第1の高分子電解質との質量比が1:0.1〜1:20の範囲内となるように、上記第1の触媒インクを乾燥処理することを特徴とする請求項1に記載した燃料電池用電極の製造方法。
上記第2工程で、上記第1の触媒インクを30℃以上140℃以下の温度で乾燥処理することを特徴とする請求項1または請求項2に記載した燃料電池用電極の製造方法。
上記第3工程で、上記第2工程で乾燥処理された上記第1の触媒インクに、炭素粒子または触媒物質の他方を添加して無溶媒で混合してなる、上記触媒物質、上記炭素粒子および上記第1の高分子電解質を、第2の高分子電解質と共に溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した燃料電池用電極の製造方法。
上記第3工程で、上記第2工程で乾燥処理された上記第1の触媒インクに、炭素粒子または触媒物質の他方を添加して無溶媒で混合し、次いで上記第1の高分子電解質で包埋された触媒物質または炭素粒子の一方と、添加された炭素粒子または触媒物質の他方とを50℃以上180℃以下の温度で熱処理してなる、上記触媒物質、上記炭素粒子および上記第1の高分子電解質を、第2の高分子電解質と共に溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製することを特徴とする請求項4に記載した燃料電池用電極の製造方法。
上記触媒物質は、固体高分子形燃料電池の正極として用いられる酸素還元電極用の電極活物質であって、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウムから選択される少なくとも一つの遷移金属元素を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用電極の製造方法。
高分子電解質膜を一対の電極で挟持した膜電極接合体の製造方法であって、上記一対の電極のうちの正極側の電極が請求項8に記載の電極からなることを特徴とする燃料電池用膜電極接合体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、触媒物質に酸化物系非白金触媒を用いても高い発電特性を示す燃料電池用電極、及びその燃料電池用電極を使用する燃料電池用膜電極接合や固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様である第1の燃料電池用電極の製造方法は、触媒物質、炭素粒子および高分子電解質を含み、かつ上記触媒物質の比表面積が上記炭素粒子よりも小さい燃料電池用電極の製造方法であって、上記触媒物質または上記炭素粒子の一方を第1の高分子電解質と共に溶媒に分散させて第1の触媒インクを作製する第1工程と、上記第1の触媒インクを乾燥させて上記触媒物質または上記炭素粒子の一方を上記第1の高分子電解質で包埋する第2工程と、上記第2工程で乾燥処理された第1の触媒インクに、上記触媒物質または上記炭素粒子の他方を添加してなる上記触媒物質、上記炭素粒子および上記第1の高分子電解質を、第2の高分子電解質と共に溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製する第3工程と、上記第2の触媒インクを転写シートに塗布し、塗布した上記第2の触媒インク上にガス拡散層を配置させ、乾燥処理後に上記転写シートを剥離して電極を形成する第4工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
また第2の態様として、上記第1の態様に対し、上記第2工程で、上記第1工程で上記触媒物質を分散させた場合には上記触媒物質と上記第1の高分子電解質との質量比が1:0.01〜1:30の範囲内となるように、上記第1工程で上記炭素粒子を分散させた場合には上記炭素粒子と上記第1の高分子電解質との質量比が1:0.1〜1:20の範囲内となるように、上記第1の触媒インクを乾燥処理するようにしても良い。
【0012】
また第3の態様として、上記第1又は第2の態様に対し、上記第2工程で、上記第1の触媒インクを30℃以上140℃以下の温度で乾燥処理するようにしても良い。
また第4の態様として、上記第1〜第3のいずれかの態様に対し、上記第3工程で、上記第2工程で乾燥処理された上記第1の触媒インクに、炭素粒子または触媒物質の他方を添加して無溶媒で混合してなる、上記触媒物質、上記炭素粒子および上記第1の高分子電解質を、第2の高分子電解質と共に溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製するようにしても良い。
【0013】
また第5の態様として、上記第4の態様に対し、上記第3工程で、上記第2工程で乾燥処理された上記第1の触媒インクに、炭素粒子または触媒物質の他方を添加して無溶媒で混合し、次いで上記第1の高分子電解質で包埋された触媒物質または炭素粒子の一方と、添加された炭素粒子または触媒物質の他方とを50℃以上180℃以下の温度で熱処理してなる、上記触媒物質、上記炭素粒子および上記第1の高分子電解質を、第2の高分子電解質と共に溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製するようにしても良い。
【0014】
また第6の態様として、第1〜第5のいずれかの態様に対し、上記触媒物質は、固体高分子形燃料電池の正極として用いられる酸素還元電極用の電極活物質であって、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウムから選択される少なくとも一つの遷移金属元素を含むようにしても良い。
また第7の態様として、第6の態様に対し、上記触媒物質は、上記遷移金属元素の炭窒化物を、酸素を含む雰囲気中で部分酸化したものであっても良い。
【0015】
また第8の態様の燃料電池用電極は、第1〜第7のいずれかの態様に記載の製造方法により製造されていることを特徴とする。
また第9の態様の燃料電池用膜電極接合体の製造方法は、高分子電解質膜を一対の電極で挟持した膜電極接合体の製造方法であって、上記一対の電極のうちの正極側の電極が請求項8に記載の電極からなることを特徴とする。
【0016】
また第10の態様の燃料電池用膜電極接合体は、第9の態様に記載の製造方法により製造されていることを特徴とする。
また第11の態様の固体高分子形燃料電池は、第10の態様に記載の膜電極接合体が一対のセパレーターで狭持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の態様によれば、高分子電解質および触媒物質と炭素粒子を備える電極触媒層において、炭素粒子よりも小さい比表面積の触媒物質に対して高分子電解質を包埋し、触媒表面のプロトン伝導性を高めることで反応活性点を増加させることが出来る。この結果、出力性能の向上した電極の製造方法および電極並びに膜電極接合体、固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【0018】
または、触媒物質よりも大きい比表面積の炭素粒子に対して高分子電解質を包埋し、炭素粒子の比表面積を小さくする処理を行う。これによって炭素粒子の比表面積を調整することで、電極触媒層の形成時に、触媒表面のプロトン伝導性も高められる。その結果、反応活性点が増加し、出力性能の向上した電極の製造方法および電極並びに膜電極接合体、固体高分子形燃料電池を提供することができる。
そして、触媒インクを転写シートに塗布した後にガス拡散層を配置させ、乾燥処理後に得られる電極触媒層とガス拡散層との密着性を高め、出力性能の向上した電極を製造可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態に係る膜電極接合体およびその製造方法、固体高分子形燃料電池について説明する。
なお、本発明は、以下に記載の膜電極接合体に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれるものである。
【0021】
まず、本発明の実施形態に係る膜電極接合体の例について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る膜電極接合体12を示す断面模式図である。
図1に示されるように、本発明の実施形態に係る膜電極接合体12は、高分子電解質膜1と、高分子電解質膜1を挟持する空気極側の電極触媒層2と、燃料極側の電極触媒層3を備え、更に外側には空気極側のガス拡散層4と、燃料極側のガス拡散層5を備える。電極触媒層2とガス拡散層4とで空気極(カソード)6が構成され、電極触媒層3とガス拡散層5とで燃料極(アノード)7が構成される。
【0022】
また、ガス拡散層4、5の外側には、導電性でかつ不透過性の材料よりなるセパレーター10がそれぞれは位置され、各セパレーター10はガス流通用のガス流路8と、冷却水流通用の冷却水流路9とを備えている。
燃料極7側のセパレーター10のガス流路8からは燃料ガスとして、例えば水素ガスが供給される。一方、空気極6側のセパレーター10のガス流路8からは、酸化剤ガスとして、例えば酸素を含むガスが供給される。燃料ガスの水素と酸素ガスとを触媒の存在下で電極反応させることにより、燃料極と空気極の間に起電力を生じることができる。
【0023】
固体高分子形燃料電池11の固体高分子電解質膜1、電極触媒層2、3およびガス拡散層4、5は,
図2に示すように、一組のセパレーター10により狭持されている。固体高分子形燃料電池11は単セル構造の燃料電池であるが、セパレーター10を介して複数のセルを積層して固体高分子形燃料電池とすることもできる。
【0024】
次に、本発明の実施形態に係る膜電極接合体12の製造方法について説明する。
本実施形態では、膜電極接合体12の電極のうち、空気極側の電極6の製造方法を例に挙げて説明する。すなわち、本実施形態の膜電極接合体12は、以下の第1工程〜第4工程を有する製造方法により製造される。
ここで、本実施形態の燃料電池用電極は、触媒物質、炭素粒子および高分子電解質を含む。また上記触媒物質の比表面積が上記炭素粒子よりも小さいものを使用するものとする。
【0025】
第1工程:触媒物質または該触媒物質より比表面積の大きい炭素粒子の一方を第1の高分子電解質と共に溶媒に分散させて第1の触媒インクを作製する工程。
第2工程:第1の触媒インクを乾燥させて触媒物質または炭素粒子の一方を第1の高分子電解質で包埋する工程。
【0026】
第3工程:第2工程の後に第1の触媒インクに対し炭素粒子または触媒物質の他方を添加してなる、触媒物質、炭素粒子および上記第1の高分子電解質を、第2の高分子電解質と共に溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製する工程。すなわち、第1の触媒インクに対し炭素粒子または触媒物質の他方を添加し、その後、第2の高分子電解質と共に溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製する。
第4工程:第2の触媒インクを基材上に塗布し、塗布した第2の触媒インク上にガス拡散層を配置させ、乾燥処理後に基材を剥離して電極を形成する工程。
【0027】
本発明者は、炭素粒子よりも比表面積の小さい触媒物質を上記第1工程で用いた場合には、第1の触媒インクを乾燥させて触媒物質を第1の高分子電解質で包埋することで、触媒表面のプロトン伝導性を高められ、これにより、反応活性点を増加できることを見出し、本発明に至った。従って、第1工程で第1の触媒インクを作製した後、第1の触媒インクの触媒物質を第1の高分子電解質で包埋して触媒表面のプロトン伝導性を高めることで、反応活性点を増加することができる。
【0028】
上記第1工程及び第2工程を行わないで第1の高分子電解質による包埋を行わない電極触媒層の製造方法では、電極触媒層の形成時に、比表面積の大きい炭素粒子が高分子電解質で優先的に包埋されるため、触媒表面のプロトン伝導性が低く、反応活性点を増加させることはできない。この製造方法でも、高分子電解質を高濃度にすることで触媒表面のプロトン伝導性を高めることもできるが、炭素粒子に対しては過剰な量の添加となり、出力性能を向上させることは困難である。
【0029】
また、第2工程で第1の触媒インクを乾燥させて触媒物質を第1の高分子電解質で包埋する際に、乾燥後の触媒物質と第1の高分子電解質との質量比を、インク組成の設定で制御することができる。触媒物質と第1の高分子電解質との質量比は、1:0.01〜1:30の範囲内であることが好ましい。触媒物質に対して、第1の高分子電解質の質量比が0.01に満たない場合にあっては、触媒表面のプロトン伝導性が変化せず、反応活性点を増加させることが困難であることから、出力性能が向上しない場合がある。また、触媒物質に対して、第1の高分子電解質の質量比が30を超える場合にあっては、反応活性点へのガス拡散性が阻害され、出力性能が向上しない場合がある。
【0030】
本発明者は、第1工程で触媒物質を使用し、第2工程で乾燥処理された第1の触媒インクに炭素粒子を添加して第2の触媒インクを作製することを選択した場合、第1の触媒インクの触媒物質(第1の高分子電解質で包埋された触媒物質)と添加された炭素粒子とを無溶媒で混合した後、第2の触媒インクを作製することで、反応活性点が増加することを見出し、本発明に至った。この工程を実施しない場合にあっては、触媒物質と炭素粒子の接触性が低く、反応活性点を増加せることが困難であることから、出力性能が向上しない場合がある。
【0031】
また、上記の場合、無溶媒で混合させる工程の後に熱処理の工程を備えることが好ましい。この熱処理の工程を実施しない場合にあっては、第2の触媒インクを作製する工程で、反応活性点が減少する場合がある。この熱処理の工程にあっては、温度が50℃以上180℃以下であることが好ましい。乾燥させる温度が50℃に満たない場合にあっては、第2の触媒インクを作製する工程で、触媒物質を包埋する第1の高分子電解質が溶媒に溶解し、また、形成した反応活性点の減少によって出力性能が向上しない場合がある。また、乾燥させる温度が180℃を超える場合にあっても、触媒物質を包埋する第1の高分子電解質のプロトン伝導性が低下し、出力性能が向上しない場合がある。
【0032】
本発明者は、第1工程で炭素粒子を使用して触媒物質より比表面積の大きい炭素粒子を第1の高分子電解質を包埋することを選択した場合には、炭素粒子の比表面積を小さくでき、これにより、第2の触媒インクを作製する第3工程において、触媒表面のプロトン伝導性を高められ、反応活性点を増加できることを見出し、本発明に至った。炭素粒子に対する高分子電解質の包埋を行わない従来の電極触媒層の製造方法では、電極触媒層の形成時に、比表面積の大きい炭素粒子に高分子電解質が優先的に包埋されるため、触媒表面のプロトン伝導性が低くなり、反応活性点を増加させることはできない。
【0033】
また、第1工程で炭素粒子を選択し第1の触媒インクを乾燥させて炭素粒子を第1の高分子電解質で包埋する際に、乾燥後の炭素粒子と第1の高分子電解質との質量比を、インク組成の設定で制御することができる。炭素粒子と第1の高分子電解質との質量比は、1:0.1〜1:20の範囲内であることが好ましい。炭素粒子に対して、第1の高分子電解質の質量比が0.1に満たない場合にあっては、炭素粒子の比表面積を小さくすることが困難であることから、出力性能が向上しない場合がある。また、炭素粒子に対して、第1の高分子電解質の質量比が20を超える場合にあっては、触媒物質に対しては過剰な量の添加となり、反応活性点へのガス拡散性が阻害され、出力性能が向上しない場合がある。
【0034】
本発明者は、第1工程で炭素粒子を使用し第2工程で乾燥処理された第1の触媒インクに触媒物質を添加して第2の触媒インクを作製することを選択する場合には、第1の触媒インクの炭素粒子(第1の高分子電解質で包埋された炭素粒子)と添加された触媒物質とを無溶媒で混合した後、第2の触媒インクを作製することで、反応活性点を増加できることを見出し、本発明に至った。この工程を実施しない場合にあっては、炭素粒子と触媒物質の接触性が低く、反応活性点を増加せることが困難であることから、出力性能が向上しない場合がある。
【0035】
また、上記の場合、無溶媒で混合させる工程の後に熱処理の工程を備えることが好ましい。この熱処理の工程を実施しない場合にあっては、第2の触媒インクを作製する工程で、反応活性点が減少する場合がある。この熱処理の工程にあっては、温度が50℃以上180℃以下であることが好ましい。乾燥させる温度が50℃に満たない場合にあっては、第2の触媒インクを作製する工程で、炭素粒子を包埋する第1の高分子電解質が溶媒に溶解し、また、形成した反応活性点の減少によって出力性能が向上しない場合がある。また、乾燥させる温度が180℃を超える場合にあっても、炭素粒子を包埋する第1の高分子電解質のプロトン伝導性が低下し、出力性能が向上しない場合がある。
【0036】
本発明者は、転写シートに触媒インクを塗布し、その塗布した触媒インク上にガス拡散層を配置させることで、乾燥処理後に得られる電極触媒層のクラックが抑制され、これにより、反応活性点を増加できることを見出し、本発明に至った。非白金触媒は白金触媒よりも活性が低く、従来の白金触媒を用いたMEAに匹敵する発電特性を得るには、従来よりも触媒インクの塗布量を増やす必要がある。しかし、ガス拡散層上で多量の触媒インクを乾燥処理した場合はガス拡散層との密着性が弱くなり、発電特性が著しく低下する問題がある。従って、第4工程で第2の触媒インクを転写シートに塗布した後、塗布した第2の触媒インク上にガス拡散層を配置させ、ガス拡散層との密着性を高めることで、高い発電特性を得ることができる。
【0037】
本実施形態に係る触媒物質は、一般的に用いられているものを使用することができる。好ましくは、空気極における白金代替材料として固体高分子形燃料電池の正極として用いられる、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウムから選択される、少なくとも一つの遷移金属元素を含む物質が使用できる。
また、より好ましくは、これら遷移金属元素の炭窒化物を、酸素を含む雰囲気中で部分酸化した物質が使用できる。具体的には、タンタル炭窒化物(TaCN)を、酸素を含む雰囲気中で部分酸化した物質(TaCNO)であり、その比表面積は、凡そ1m
2/g以上20m
2/g以下である。
【0038】
以下、さらに詳細に本発明の実施形態に係る膜電極接合体12および固体高分子形燃料電池11について説明する。
高分子電解質膜1としては、プロトン伝導性を有するものであればよく、フッ素系高分子電解質膜、炭化水素系高分子電解質膜を用いることができる。フッ素系高分子電解質膜としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などを用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質膜としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質膜を用いることができる。中でも、高分子電解質膜としてデュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。炭化水素系高分子電解質膜としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質膜を用いることができる。特に、高分子電解質膜1として、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。
【0039】
また、電極触媒層は、触媒インクを用いて高分子電解質膜の両面に形成される。触媒インクは、少なくとも高分子電解質および溶媒を含む。
上述の触媒インクに含まれる高分子電解質としては、プロトン伝導性を有するものであればよく、高分子電解質膜と同様の材料を用いることができ、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料などを用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質を用いることができる。特に、フッ素系高分子電解質として、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。なお、電極触媒層と高分子電解質膜の密着性を考慮すると、高分子電解質膜1と同一の材料を用いることが好ましい。
【0040】
また、本実施形態で使用する高分子電解質には、触媒物質または炭素粒子の一方を包埋する第1の高分子電解質と、第1の高分子電解質で包埋した触媒物質または炭素粒子の他方と混合される第2の高分子電解質があるが、両者はともに同一の高分子電解質でもよく、また、異なる高分子電解質でもよい。
【0041】
本実施形態の炭素粒子は、一般的にカーボン粒子が使用される。カーボン粒子の種類は、微粒子状で導電性を有し、触媒におかされないものであれば限定されるものではないが、カーボンブラックやグラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレンを用いることができる。カーボン粒子の粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると電極触媒層2および3のガス拡散性が低下したり、触媒の利用率が低下したりするので、10〜1000nm程度が好ましい。さらに好ましくは、10〜100nmがよい。
【0042】
触媒インクの分散媒として使用される溶媒は、触媒物質担持粒子や高分子電解質を浸食することがなく、高分子電解質を流動性の高い状態で溶解または微細ゲルとして分散できるものあれば特に限定されるものではない。しかしながら、揮発性の有機溶媒が少なくとも含まれていることが望ましい。触媒インクの分散媒として使用される溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、ペンタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテルなどのエーテル系溶剤、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1−メトキシ−2−プロパノールなどの極性溶剤などを用いることができる。また、上述の溶剤のうち二種以上を混合させたものを用いてもよい。
【0043】
また、触媒インクの分散媒として使用される溶媒として、低級アルコールを用いたものは発火の危険性が高い。触媒インクの分散媒として低級アルコールを用いる場合は、水との混合溶媒にするのが好ましい。さらに、高分子電解質となじみがよい水が含まれていてもよい。水の添加量は、高分子電解質が分離して白濁を生じたり、ゲル化したりしない程度であれば特に制限されるものではない。
【0044】
また、触媒インクの分散媒として使用される溶媒には、第1の触媒インクの溶媒と、第2の触媒インクの溶媒とがあるが、両者はともに同一の溶媒でもよく、また、異なる溶媒でもよい。
触媒物資や炭素粒子を分散させるために、触媒インクに分散剤が含まれていても良い。分散剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤などを挙げることができる。
【0045】
上記アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテルカルボン酸塩、エーテルカルボン酸塩、アルカノイルザルコシン、アルカノイルグルタミン酸塩、アシルグルタメート、オレイン酸・N−メチルタウリン、オレイン酸カリウム・ジエタノールアミン塩、アルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、特殊変成ポリエーテルエステル酸のアミン塩、高級脂肪酸誘導体のアミン塩、特殊変成ポリエステル酸のアミン塩、高分子量ポリエーテルエステル酸のアミン塩、特殊変成リン酸エステルのアミン塩、高分子量ポリエステル酸アミドアミン塩、特殊脂肪酸誘導体のアミドアミン塩、高級脂肪酸のアルキルアミン塩、高分子量ポリカルボン酸のアミドアミン塩、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどのカルボン酸型界面活性剤、ジアルキルスルホサクシネート、スルホこはく酸ジアルキル塩、1,2−ビス(アルコキシカルボニル)−1−エタンスルホン酸塩、アルキルスルホネート、アルキルスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホネート、直鎖アルキルベンゼンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ポリナフチルメタンスルホネート、ポリナフチルメタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホネート−ホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホネート、アルカノイルメチルタウリド、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、セチル硫酸エステルナトリウム塩、ステアリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイル硫酸エステルナトリウム塩、ラウリルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩などのスルホン酸型界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩、硫酸アルキル塩、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、アルキルポリエトキシ硫酸塩、ポリグリコールエーテルサルフェート、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、硫酸化油、高度硫酸化油などの硫酸エステル型界面活性剤、リン酸(モノまたはジ)アルキル塩、(モノまたはジ)アルキルホスフェート、(モノまたはジ)アルキルりん酸エステル塩、りん酸アルキルポリオキシエチレン塩、アルキルエーテルホスフェート、アルキルポリエトキシ・りん酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、りん酸アルキルフェニル・ポリオキシエチレン塩、アルキルフェニルエーテル・ホスフェート、アルキルフェニル・ポリエトキシ・りん酸塩、ポリオキシエチレン・アルキルフェニル・エーテルホスフェート、高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩、高級アルコールリン酸ジエステルジナトリウム塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛などのりん酸エステル型界面活性剤などが挙げられる。
【0046】
上記カチオン界面活性剤としては、例えば、ベンジルジメチル{2−[2−(P−1,1,3,3−テトラメチルブチルフェノオキシ)エトキシ]エチル}アンモニウムクロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、テトラデシルアミン酢酸塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂トリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、1−ヒドロキシエチル−2−牛脂イミダゾリン4級塩、2−ヘプタデセニルーヒドロキシエチルイミダゾリン、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン塩酸塩、トリエタノールアミンモノステアレートギ酸塩、アルキルピリジウム塩、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリアクリルアミドアミン塩、変成ポリアクリルアミドアミン塩、パーフルオロアルキル第4級アンモニウムヨウ化物などが挙げられる。
【0047】
上記両性界面活性剤としては、例えば、ジメチルヤシベタイン、ジメチルラウリルベタイン、ラウリルアミノエチルグリシンナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、アミドベタイン、イミダゾリニウムベタイン、レシチン、3−[ω−フルオロアルカノイル−N−エチルアミノ]−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、N−[3−(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]−N,N−ジメチル−N−カルボキシメチレンアンモニウムベタインなどが挙げられる。
【0048】
上記非イオン界面活性剤としては、例えば、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、オレイン酸ジエタノールアミド(1:1型)、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールヤシアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコール牛脂アミン、ポリエチレングリコール牛脂プロピレンジアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ジメチルステアリルアミンオキサイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、ポリビニルピロリドン、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリットの脂肪酸エステル、ソルビットの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、砂糖の脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0049】
上記の界面活性剤の中でもアルキルベンゼンスルホン酸、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩などのスルホン酸型の界面活性剤は、カーボンの分散効果、分散剤の残存による触媒性能の変化などを考慮すると、分散剤として好適に用いることができる。
【0050】
また、触媒インクは必要に応じて分散処理が行われる。触媒インクの粘度と、粒子のサイズとを、触媒インクの分散処理の条件によって制御することができる。分散処理は、様々な装置を採用して行うことができる。特に、分散処理の方法は限定されるものではない。例えば、分散処理としては、ボールミルやロールミルによる処理、せん断ミルによる処理、湿式ミルによる処理、超音波分散処理などが挙げられる。また、遠心力で攪拌を行うホモジナイザーなどを採用してもよい。
【0051】
触媒インク中の固形分含有量は、多すぎると触媒インクの粘度が高くなるため、電極触媒層表面2および3にクラックが入りやすくなる。一方、触媒インク中の固形含有量が、少なすぎると成膜レートが非常に遅く、生産性が低下してしまう。したがって、触媒インク中の固形含有量は、1〜50質量%であることが好ましい。また、固形分は、触媒物質および炭素粒子と過酸化物分解触媒と高分子電解質からなるが、固形分のうち、炭素粒子の含有量を多くすると、同じ固形分含有量でも粘度は高くなる。一方、固定分のうち、炭素粒子の含有量を少なくすると、同じ固形分含有量でも粘度は低くなる。したがって、固形分に占める炭素粒子の割合は10〜80wt%が好ましい。また、触媒インクの粘度は、0.1〜500cP(0.0001〜0.5Pa・s)程度が好ましく、さらに好ましくは5〜100cP(0.005〜0.1Pa・s)がよい。また触媒インクの分散時に分散剤を添加することで、粘度の制御をすることもできる。
【0052】
また、触媒インクに造孔剤が含まれていてもよい。造孔剤は、電極触媒層の形成後に除去することで、細孔を形成することができる。酸やアルカリ、水に溶ける物質や、ショウノウなどの昇華する物質、熱分解する物質などを挙げることができる。造孔剤が、温水で溶ける物質であれば、発電時に発生する水で取り除いてよい。
【0053】
酸やアルカリ、水に溶ける造孔剤としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウムなどの酸可溶性無機塩類、アルミナ、シリカゲル、シリカゾルなどのアルカリ水溶液に可溶性の無機塩類、アルミニウム、亜鉛、スズ、ニッケル、鉄などの酸またはアルカリに可溶性の金属類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸一ナトリウムなどの水溶性無機塩類、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの水溶性有機化合物類などが挙げられる。また、上記造孔剤は1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0054】
本実施形態の電極触媒層の製造方法において、第1の高分子電解質で包埋した触媒物質または炭素粒子の一方は、触媒物質または炭素粒子の他方と、第1の高分子電解質を溶媒に分散させた第1の触媒インクを転写シートに塗布し、乾燥させることで得られる。または、乾燥雰囲気中にスプレーすることでも高分子電解質で包埋した触媒物質または炭素粒子が直接得られる。
【0055】
本実施形態の電極触媒層の製造方法において、第1の高分子電解質で包埋した触媒物質または炭素粒子と、第2の高分子電解質とを第2の溶媒に分散させた第2の触媒インク、または第1の高分子電解質で包埋した炭素粒子または触媒物質と、第2の高分子電解質とを第2の溶媒に分散させた第2の触媒インクから電極触媒層を作製する工程にあっては、触媒インクは転写シート上に塗布され、塗布した第2の触媒インク上にガス拡散層を配置させ、乾燥工程を経て電極触媒層が形成される。
このとき、触媒インクを転写シート上に塗布する、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ロールコーティング法、スプレー法などを採用することができる。例えば、ドクターブレード法は触媒インクの量が多く、乾燥で得られる電極触媒層の厚膜化が容易であるため、好ましい。
【0056】
転写シートは転写性がよい材質であればよく、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂を用いることができる。また、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレートなどの高分子シート、高分子フィルムを転写シートとして用いることができる。
【0057】
ガス拡散層としては、ガス拡散性と導電性とを有する材質を用いることができる。例えば、カーボンクロス、カーボンペーパー、不織布などのポーラスカーボン材を用いることができる。
セパレーターとしては、カーボンタイプあるいは金属タイプのものなどを用いることができる。固体高分子形燃料電池11は、ガス供給装置、冷却装置など、その他付随する装置を組み立てることにより製造することができる。
【0058】
本実施形態における固体高分子形燃料電池用電極の製造方法について、以下に具体的な実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明は下記実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0059】
「実施例1」
〔第1の触媒インクの調製〕
触媒物質(TaCNO、比表面積12m
2/g)と20質量%高分子電解質溶液(商品名:Nafion(登録商標)、デュポン社製)を溶媒中で混合し、ボールミルで分散処理を行った。ボールミルのポット、ボールにはジルコニア製のものを用いた。触媒インクの組成比は、触媒物質と高分子電解質の質量比で1:0.25とした。溶媒は超純水、1−プロパノールを体積比で1:1とし、固形分含有量は14質量%とした。PTFEシートを第1の触媒インクの乾燥用の基材として使用した。
【0060】
〔高分子電解質で包埋した触媒物質の形成方法〕
ドクターブレードにより、第1の触媒インクを基材上に塗布し、そして大気雰囲気中80℃で5分間乾燥させた。その後、高分子電解質で包埋した触媒物質を基材上から回収した。
【0061】
〔高分子電解質で包埋した触媒物質と、炭素粒子との混合および熱処理〕
高分子電解質で包埋した触媒物質と、炭素粒子(Ketjen Black、商品名:EC−300J、ライオン社製、比表面積800m
2/g)をボールミルにて無溶媒で混合した。ボールミルのポット、ボールにはジルコニア製のものを用いた。高分子電解質で包埋した触媒物質と、炭素粒子の組成比は、質量比で1:1とした。
【0062】
〔第2の触媒インクの調製〕
高分子電解質で包埋した触媒物質と、炭素粒子の混合物に熱処理を加えたものと、20質量%高分子電解質溶液を溶媒中で混合し、ボールミルで分散処理を行った。ボールミルのポット、ボールにはジルコニア製のものを用いた。触媒インクの組成比は、触媒物質と、炭素粒子、高分子電解質の質量比が1:1:0.8としたものを第2の触媒インクとした。溶媒は超純水、1−プロパノールを体積比で1:1とし、固形分含有量は14質量%とした。PTFEシートを転写シートとして使用した。
【0063】
〔空気極用電極の作製方法〕
ドクターブレードにより、第2の触媒インクを転写シートに塗布し、ガス拡散層として目処め層が形成されたカーボンペーパー4を塗布した第2の触媒インク上に配置し、そして大気雰囲気中80℃で10分間乾燥させた。電極触媒層2の厚さは、触媒物質担持量が10mg/cm
2になるように調節し、空気極側の電極6を作製した。
【0064】
「実施例2」
〔第1の触媒インクの調製〕
炭素粒子(Ketjen Black、商品名:EC−300J、ライオン社製、比表面積800m
2/g)と過酸化物分解触媒(炭酸セリウム(III))と、20質量%高分子電解質溶液(ナフィオン:登録商標、デュポン社製)を溶媒中で混合し、ボールミルで分散処理を行った。ボールミルのポット、ボールにはジルコニア製のものを用いた。触媒インクの組成比は、炭素粒子と高分子電解質の質量比で1:0.5とした。溶媒は超純水、1−プロパノールを体積比で1:1とし、固形分含有量は14質量%とした。PTFEシートを第1の触媒インクの乾燥用の基材として使用した。
【0065】
〔高分子電解質で包埋した炭素粒子の形成方法〕
ドクターブレードにより、第1の触媒インクを基材上に塗布し、そして大気雰囲気中80℃で5分間乾燥させた。その後、高分子電解質で包埋した炭素粒子を基材上から回収した。
〔高分子電解質で包埋した炭素粒子と、触媒物質との混合および熱処理〕
高分子電解質で包埋した炭素粒子と、触媒物質(TaCNO、比表面積12m
2/g)をボールミルにて無溶媒で混合した。ボールミルのポット、ボールにはジルコニア製のものを用いた。炭素粒子と、触媒物質の組成比は、質量比で1:0.05:1とした。
【0066】
〔第2の触媒インクの調製〕
高分子電解質で包埋した炭素粒子と、触媒物質の混合物に熱処理を加えたものと、20質量%高分子電解質溶液を溶媒中で混合し、ボールミルで分散処理を行った。ボールミルのポット、ボールにはジルコニア製のものを用いた。触媒インクの組成比は、触媒物質および炭素粒子、高分子電解質の質量比が1:1:0.8としたものを第2の触媒インクとした。溶媒は超純水、1−プロパノールを体積比で1:1とし、固形分含有量は14質量%とした。PTFEシートを転写シートとして使用した。
【0067】
〔空気極用電極の作製方法〕
ドクターブレードにより、第2の触媒インクを転写シートに塗布し、ガス拡散層として目処め層が形成されたカーボンペーパー4を塗布した第2の触媒インク上に配置し、そして大気雰囲気中80℃で10分間乾燥させた。電極触媒層2の厚さは、触媒物質担持量が10mg/cm
2になるように調節し、空気極側の電極6を作製した。
【0068】
「比較例」
〔触媒インクの調製〕
触媒物質と炭素粒子および20質量%高分子電解質溶液を溶媒中で混合し、ボールミルで分散処理を行った。ボールミルのポット、ボールにはジルコニア製のものを用いた。触媒インクの組成比は、触媒物質と炭素粒子および高分子電解質の質量比が1:1:0.8としたものを触媒インクとした。溶媒は超純水、1−プロパノールを体積比で1:1とした。また、固形分含有量は14質量%とした。基材には、実施例1および実施例2と同じ転写シートを使用した。
【0069】
〔空気極用電極の作製方法〕
実施例1および実施例2と同様の手法で、転写シートに触媒インクを塗布し、乾燥させた。ガス拡散層として目処め層が形成されたカーボンペーパー4を乾燥して得た電極触媒層2の上に配置した。電極触媒層の厚さは触媒物質担持量が10mg/cm
2になるように調節し、空気極側の電極6を作製した。
【0070】
〔燃料極用電極の作製〕
白金担持量が50質量%である白金担持カーボン触媒(商品名:TEC10E50E、田中貴金属工業製)と、20質量%高分子電解質溶液を溶媒中で混合し、ボールミルで分散処理をおこなった。分散時間を60分間としたものを触媒インクとした。触媒インクの組成比は、白金担持カーボン中のカーボンと、高分子電解質は質量比で1:1とし、溶媒は超純水、1−プロパノールを体積比で1:1とした。また、固形分含有量は10質量%とした。電極触媒層2と同様の手法で、基材に触媒インクを塗布し、乾燥させた。ガス拡散層として目処め層が形成されたカーボンペーパー5を乾燥して得た電極触媒層3の上に配置した。電極触媒層の厚さは触媒物質担持量が0.3mg/cm
2になるように調節し、燃料極側の電極7を作製した。
【0071】
(膜電極接合体の作製)
実施例1、実施例2および比較例において作製した空気極側電極6と、燃料極側電極7を5cm
2の正方形に打ち抜き、高分子電解質膜(商品名:Nafion(登録商標名)、デュポン社製)の両面に対面するように転写シートを配置し、130℃、10分間の条件でホットプレスを行い、膜電極接合体12を得た。得られた膜電極接合体12を一対のセパレーター10で挟持し、単セルの固体高分子形燃料電池を作製した。
【0072】
(評価)
〔評価条件〕
燃料電池測定装置を用いて、セル温度80℃で、アノードおよびカソードともに100%RHの条件で発電特性評価を行った。燃料ガスとして純水素、酸化剤ガスとして純酸素を用い、流量一定による流量制御を行った。
【0073】
(測定結果)
実施例1、実施例2で作製した膜電極接合体は、比較例で作製した膜電極接合体よりも優れた発電性能を示した。特に0.6V付近の発電性能が向上し、実施例1は比較例と比べて約5.4倍、実施例2は比較例と比べて約6.0倍の発電性能を示した。これは、実施例1では、触媒物質を高分子電解質で包埋することで触媒表面のプロトン伝導性が高められ、反応活性点が増加したためと推察した。また、実施例2では、炭素粒子の比表面積が調整されることで触媒表面のプロトン伝導性も高められ、反応活性点が増加したためと推察した。更に、実施例1、実施例2で作製した空気極用電極は、電極触媒層とガス拡散層との密着性は高く、高い発電特性が得られたと推察した。これに対して、比較例では、触媒物質と炭素粒子および高分子電解質を一段階で溶媒中に分散させるため、触媒物質よりも比表面積の大きい炭素粒子に対して高分子電解質が優先的に吸着したことで、触媒物質の表面では十分なプロトン伝導性が確保されなかったためと推察した。また、比較例で作製した空気極用電極は、電極触媒層とガス拡散層との密着性は低く、発電特性が低下したと推察した。