特許第6160164号(P6160164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

特許6160164燃料電池用電極の製造方法、及び燃料電池用膜電極接合体の製造法
<>
  • 特許6160164-燃料電池用電極の製造方法、及び燃料電池用膜電極接合体の製造法 図000002
  • 特許6160164-燃料電池用電極の製造方法、及び燃料電池用膜電極接合体の製造法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160164
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】燃料電池用電極の製造方法、及び燃料電池用膜電極接合体の製造法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20170703BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20170703BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20170703BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20170703BHJP
   B01J 23/648 20060101ALI20170703BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   H01M4/88 K
   H01M4/86 B
   H01M4/90 X
   H01M8/10
   B01J23/648 M
   B01J27/24 M
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-67025(P2013-67025)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-192019(P2014-192019A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年2月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/基盤技術開発/酸化物系非貴金属触媒」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】太田 健一郎
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4655167(JP,B2)
【文献】 特開2013−073752(JP,A)
【文献】 特開2012−009196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/88
H01M 4/86
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非白金触媒からなる触媒物質、導電粒子及び高分子電解質を含み、且つ前記導電粒子の比表面積が前記触媒物質の比表面積よりも小さい燃料電池用電極の製造方法であって、
前記導電粒子と第1の高分子電解質とを溶媒に分散させて第1の触媒インクを作製する第1工程と、
前記第1の触媒インクを乾燥させて前記導電粒子を前記第1の高分子電解質で包埋する第2工程と、
乾燥させた前記第1の触媒インクに前記触媒物質を添加した混合物と第2の高分子電解質とを溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製する第3工程と、
前記第2の触媒インクを転写シート上に塗布し、塗布した前記第2の触媒インク上にガス拡散層を配置し、前記ガス拡散層を配置した前記第2の触媒インクを乾燥させて電極触媒層を作製し、作製した前記電極触媒層から前記転写シートを剥離して前記電極触媒層及び前記ガス拡散層が積層した燃料電池用電極を形成する第4工程と、を有することを特徴とする燃料電池用電極の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程では、前記導電粒子に対する前記第1の高分子電解質の重量比が10−4以上で且つ0.1未満の範囲内となるように前記第1の触媒インクを乾燥させることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程では、前記第1の触媒インクを30℃以上で且つ140℃未満の温度で乾燥させることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項4】
前記第3の工程では、乾燥された前記第1の触媒インクに前記触媒物質を添加して無溶媒で混合した混合物と前記第2の高分子電解質とを溶媒に分散させて前記第2の触媒インクを作製することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項5】
前記第3の工程では、乾燥された前記第1の触媒インクに前記触媒物質を添加して無溶媒で混合した前記混合物に50℃以上で且つ180℃以下の温度で熱処理を行い、熱処理を行った前記混合物と前記第2の高分子電解質とを溶媒に分散させて前記第2の触媒インクを作製することを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項6】
前記触媒物質は、固体高分子形燃料電池の正極として用いられる酸素還元電極用の電極活物質であって、タンタル、ニオブ、チタン及びジルコニウムの少なくとも1つの遷移金属元素を含むものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項7】
前記触媒物質は、前記遷移金属元素の炭窒化物を、酸素を含む雰囲気中で部分酸化したものであることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用電極の製造方法
【請求項8】
高分子電解質膜を一対の電極で挟持した燃料電池用膜電極接合体の製造方法であって、
前記一対の電極のうち、正極側の電極が、前記請求項1から7のいずれか1項に記載の燃料電池用電極の製造方法で製造されることを特徴とする燃料電池用膜電極接合体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極の製造方法、及び燃料電池用膜電極接合体の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素を含む燃料ガスと、酸素を含む酸化剤ガスとに触媒を含む電極で水の電気分解の逆反応を起こさせ、熱と同時に電気を生み出す発電システムである。この発電システムは、従来の発電方式と比較して、高効率で低環境負荷、低騒音などの特徴を有し、将来のクリーンなエネルギー源として注目されている。また、この発電システムは、用いるイオン伝導体の種類によってタイプがいくつかあり、イオン伝導体としてプロトン伝導性高分子膜を用いたものは、固体高分子形燃料電池と呼ばれる。
【0003】
燃料電池の中でも固体高分子形燃料電池は、室温付近で使用可能なことから、車載用電源や家庭据置用電源などへの使用が有望視されており、近年、様々な研究開発が行われている。固体高分子形燃料電池は、膜電極接合体(以下、MEA(Membrane and Electrode Assembly)と称すことがある)と呼ばれる高分子電解質膜の両面に一対の電極を配置した接合体を、前記電極の一方に水素を含有する燃料ガスを供給し、前記電極の他方に酸素を含む酸化剤ガスを供給するためのガス流路を形成した一対のセパレーター板で挟持した電池である。ここで、燃料ガスを供給する電極を燃料極、酸化剤を供給する電極を空気極と呼んでいる。これらの電極は、一般に、白金系の貴金属などの触媒物質を担持したカーボン粒子と高分子電解質を積層してなる電極触媒層と、ガス通気性及び電子伝導性を兼ね備えたガス拡散層と、からなる。
【0004】
固体高分子形燃料電池の実用化に向けての課題は、出力密度や耐久性の向上などが挙げられるが、最大の課題は低コスト化である。現在の固体高分子形燃料電池には、高価な白金が電極触媒(触媒物質)として用いられており、本格普及には、代替材料の開発が強く求められている。特に、空気極では、燃料極よりも多くの白金を使用しているため、空気極において高い酸素還元触媒能を示す白金代替材料(非白金触媒)の開発が盛んである。
【0005】
非白金触媒を触媒物質とする技術としては、例えば、特許文献1には、鉄(遷移金属)の窒化物と貴金属の混合物を電極触媒として用いる技術が記載されている。また、例えば、特許文献2には、モリブデン(遷移金属)の窒化物を電極触媒として用いる技術が記載されている。さらに、特許文献3には、非白金触媒を触媒物質として用いる技術が記載されている。この特許文献3に記載の技術では、白金触媒から電極を製造する際の手法(特許文献4、5などに記載の手法)を用いて、非白金触媒から電極を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−44659号公報
【特許文献2】特開2005−63677号公報
【特許文献3】特開2008−270176号公報
【特許文献4】特公平2−48632号公報
【特許文献5】特開平5−36418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載の技術では、酸素還元能が不充分となり、また、触媒物質が溶解する可能性があった。それゆえ、特許文献1、2に記載の技術では、非白金触媒を触媒物質として用いることで、発電特性が低下してしまう可能性があった。また、上記特許文献3に記載の技術では、白金触媒から電極を製造する際の手法を用いて、非白金触媒から電極を製造している。そのため、上記特許文献3に記載の技術では、非白金触媒を触媒物質とする電極の製造に適していないという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記のような点に着目し、非白金触媒を触媒物質として用いつつ、高い発電特性を示す燃料電池用電極の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、該燃料電池用電極を備えた燃料電池用膜電極接合体の製造法を提供すること他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者は、鋭意検討を重ねた結果、上記課題を解決すべく、本発明を完成するに至った。
本発明の一態様の燃料電池用電極の製造方法は、非白金触媒からなる触媒物質、導電粒子及び高分子電解質を含み、且つ前記導電粒子の比表面積が前記触媒物質の比表面積よりも小さい燃料電池用電極の製造方法であって、前記導電粒子と第1の高分子電解質とを溶媒に分散させて第1の触媒インクを作製する第1工程と、前記第1の触媒インクを乾燥させて前記導電粒子を前記第1の高分子電解質で包埋する第2工程と、乾燥させた前記第1の触媒インクに前記触媒物質を添加した混合物と第2の高分子電解質とを溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製する第3工程と、前記第2の触媒インクを転写シート上に塗布し、塗布した前記第2の触媒インク上にガス拡散層を配置し、前記ガス拡散層を配置した前記第2の触媒インクを乾燥させた後に、前記転写シートを剥離して燃料電池用電極を形成する第4工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、前記第2工程では、前記導電粒子に対する前記第1の高分子電解質の重量比が10−4以上で且つ0.1未満の範囲内となるように前記第1の触媒インクを乾燥させてもよい。
さらに、前記第2工程では、前記第1の触媒インクを30℃以上で且つ140℃未満の温度で乾燥させてもよい。
【0011】
また、前記第3の工程では、前記第2工程で乾燥された前記第1の触媒インクに前記触媒物質を添加して無溶媒で混合した混合物と前記第2の高分子電解質とを溶媒に分散させて前記第2の触媒インクを作製してもよい。
さらに、前記第3の工程では、前記第2工程で乾燥された前記第1の触媒インクに前記触媒物質を添加して無溶媒で混合した混合物に50℃以上で且つ180℃以下の温度で熱処理を行い、熱処理を行った前記導電粒子、前記触媒物質及び前記第1の高分子電解質と第2の高分子電解質とを溶媒に分散させて前記第2の触媒インクを作製してもよい。
【0012】
また、前記触媒物質は、固体高分子形燃料電池の正極として用いられる酸素還元電極用の電極活物質であって、タンタル、ニオブ、チタン及びジルコニウムの少なくとも1つの遷移金属元素を含むものであってもよい。
さらに、前記触媒物質は、前記遷移金属元素の炭窒化物を、酸素を含む雰囲気中で部分酸化したものであってもよい。
【0013】
発明の一態様の燃料電池用膜電極接合体の製造方法は、高分子電解質膜を一対の電極で挟持した膜電極接合体の製造方法であって、前記一対の電極のうち、正極側の電極が、上記の燃料電池用電極の製造方法で製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様では、導電粒子を第1の高分子電解質で包埋する。それゆえ、本発明の一態様では、導電粒子表面のプロトン伝導性を向上でき、反応活性点を増加できる。その結果、本発明の一態様では、非白金触媒を触媒物質として用いつつ、高い発電特性を示す燃料電池用電極の製造方法を提供できる。また、本発明の一態様は、該燃料電池用電極を備えた燃料電池用膜電極接合体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】固体高分子形燃料電池11の分解断面図である。
図2】膜電極接合体12の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態に係る膜電極接合体及びその製造方法、並びに固体高分子形燃料電池について説明する。なお、本発明は、以下に記載の膜電極接合体に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれるものである。
【0018】
(固体高分子形燃料電池11の構成)
まず、本実施形態の固体高分子形燃料電池11の構成について説明する。
図1は、固体高分子形燃料電池11の分解断面図である。
図1に示すように、固体高分子形燃料電池11は、膜電極接合体12と、膜電極接合体12を挟持している一対のセパレーター10と、を備える。
【0019】
図2は、本実施形態の膜電極接合体12を示す断面模式図である。
図2に示すように、膜電極接合体12は、高分子電解質膜1と、高分子電解質膜1を挟持する一対の電極触媒層2、3(空気極側の電極触媒層2、燃料極側の電極触媒層3)と、を備える。また、電極触媒層2、3の外側には、ガス拡散層4、5(空気極側のガス拡散層4、燃料極側のガス拡散層5)を備える。そして、電極触媒層2とガス拡散層4とは空気極(カソード。正極)6を構成し、電極触媒層3とガス拡散層5とは燃料極(アノード。負極)7を構成する。空気極6(以下、単に電極と称すことがある)は、非白金触媒からなる触媒物質、導電粒子及び高分子を含む。導電粒子の比表面積は、触媒物質の比表面積よりも小さい。
【0020】
セパレーター10は、ガス流通用のガス流路8と、冷却水流通用の冷却水流路9と、を備える。電極6側のセパレーター10のガス流路8は、酸化剤ガス(例えば、酸素)を含むガスを供給する。一方、燃料極7側のセパレーター10のガス流路8は、燃料ガス(例えば、水素ガス)を供給する。固体高分子形燃料電池11は、酸化剤ガスと燃料ガスとを触媒の存在下で電極反応させることで、電極6と燃料極7との間に起電力を生じる。
なお、本実施形態では、固体高分子形燃料電池11として、単セル構造の燃料電池を形成する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、セパレーター10を介して複数のセルを積層した固体高分子形燃料電池11を形成するようにしてもよい。
【0021】
(電極6の製造方法)
次に、本実施形態の電極6の製造方法について説明する。
電極6は、以下の第1工程〜第4工程を有する製造方法により製造される。
第1工程:導電粒子と第1の高分子電解質とを溶媒に分散させて第1の触媒インクを作製する工程。
第2工程:作製した第1の触媒インクを乾燥(乾燥処理)させて導電粒子を第1の高分子電解質で包埋する工程。
【0022】
第3工程:乾燥させた第1の触媒インクに触媒物質を添加した混合物と第2の高分子電解質とを溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製する工程。
第4工程:作製した第2の触媒インクを転写シート(基材)上に塗布し、塗布した第2の触媒インク上にガス拡散層4を配置し、ガス拡散層4を配置した第2の触媒インクを乾燥(乾燥処理)させて電極触媒層2を作製し、作製した電極触媒層2から転写シートを剥離して電極触媒層2及びガス拡散層4が積層した電極6を形成する工程。
【0023】
本発明の発明者は、第1の触媒インクを乾燥させて導電粒子を第1の高分子電解質で包埋することで(第2工程)、導電粒子表面のプロトン伝導性を高めることができ、これにより、反応活性点を増加できることを見出し、本発明に至った。したがって、第1工程で第1の触媒インクを作製し、作製した第1の触媒インクの導電粒子を第1の高分子電解質で包埋して導電粒子表面のプロトン伝導性を高めることで、反応活性点を増加できる。
【0024】
ちなみに、第1の触媒インクの導電粒子に第1の高分子電解質による包埋を行わない従来の電極6の製造方法では、電極触媒層2の形成時に、比表面積の大きい触媒物質が高分子電解質で優先的に包埋されるため、導電粒子表面のプロトン伝導性が低く、反応活性点を増加させることはできない。また、この従来の電極6の製造方法でも、高分子電解質を高濃度にすることで、導電粒子表面のプロトン伝導性を高めることもできるが、触媒物質に対しては過剰な量の添加となり、発電特性を向上させることは困難である。
【0025】
また、第2工程では、第1の触媒インクを乾燥させて導電粒子を第1の高分子電解質で包埋する際に、乾燥後の導電粒子と第1の高分子電解質との重量比を、第1のインク触媒のインク組成の設定で制御できる。導電粒子と第1の高分子電解質との重量比は、1:10−4以上で且つ1:0.1未満の範囲内であることが好ましい。それゆえ、第2工程では、導電粒子に対する第1の高分子電解質の重量比は、10−4以上で且つ0.1未満の範囲内となるように第1の触媒インクを乾燥させる。導電粒子に対して、第1の高分子電解質の重量比が10−4に満たない場合にあっては、導電粒子表面のプロトン伝導性が変化せず、反応活性点を増加させることが困難であることから、発電特性が向上しない可能性がある。また、導電粒子に対して、第1の高分子電解質の重量比が0.1以上の場合にあっては、反応活性点へのガス拡散性が阻害され、発電特性が向上しない可能性がある。言い換えると、本実施形態では、導電粒子に対する第1の高分子電解質の重量比が10−4以上であるため、導電粒子表面のプロトン伝導性を向上でき、反応活性点を増加でき、発電特性を向上できる。また、本実施形態は、導電粒子に対する第1の高分子電解質の重量比が0.1未満であるため、反応活性点へのガス拡散性を向上でき、発電特性を向上できる。それゆえ、本実施形態では、発電特性をより適切に向上できる。
【0026】
また、第2工程では、第1の触媒インクを乾燥させて導電粒子を第1の高分子電解質で包埋する際に、第1の触媒インクを30℃以上で且つ140℃未満の温度で乾燥させる。それゆえ、本実施形態では、第1の触媒インクをより適切に乾燥できる。
本発明の発明者は、乾燥させた第1の触媒インクに触媒物質を添加した混合物と第2の高分子電解質とを溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製する際に、乾燥させた第1の触媒インクの触媒物質(第1の高分子電解質で包埋された導電粒子)と添加された触媒物質とを無溶媒で混合することで(第3工程)、反応活性点が増加することを見出し、本発明に至った。ちなみに、第1の触媒インクの触媒物質と添加された触媒物質とを無溶媒で混合する工程を実施しない方法にあっては、触媒物質と導電粒子の接触性が低く、反応活性点を増加せることが困難であることから、発電特性が向上しない可能性がある。言い換えると、本実施形態では、触媒物質と導電粒子の接触性が高く、反応活性点が増加する。それゆえ、本実施形態では、発電特性をより適切に向上できる。
【0027】
また、第3工程では、乾燥させた第1の触媒インクの触媒物質と添加した触媒物質とを無溶媒で混合した混合物に熱処理を行い、熱処理を行った混合物と第2の高分子電解質とを溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製することが好ましい。熱処理を行わない場合、第2の触媒インクを作製する工程で、反応活性点が減少する可能性がある。熱処理の温度は、50℃以上で且つ180℃以下であることが好ましい。熱処理の温度が50℃に満たない場合には、第2の触媒インクを作製する工程で、導電粒子を包埋する第1の高分子電解質が溶媒に溶解し、また、形成した反応活性点の減少によって発電特性が向上しない可能性がある。また、熱処理の温度が180℃を超える場合には、導電粒子を包埋する第1の高分子電解質のプロトン伝導性が低下し、発電特性が向上しない可能性がある。言い換えると、本実施形態では、熱処理の温度が50℃以上であるため、導電粒子を包埋する第1の高分子電解質が溶媒に溶解することを抑制し、また、反応活性点を増加でき、発電特性を向上できる。また、本実施形態では、熱処理の温度が180℃を超えるため、導電粒子を包埋する第1の高分子電解質のプロトン伝導性を向上でき、発電特性を向上できる。それゆえ、本実施形態では、発電特性をより適切に向上できる。
【0028】
本発明の発明者は、第2の触媒インクを転写シート上に塗布し、塗布した第2の触媒インク上にガス拡散層4を配置することで(第4工程)、乾燥後に得られる電極触媒層2のクラックが抑制され、これにより、反応活性点を増加できることを見出し、本発明に至った。非白金触媒は白金触媒よりも活性が低い。それゆえ、従来の白金触媒を用いたMEAと同等の発電特性を得るためには、従来の白金触媒を用いたMEAよりも第2の触媒インクの塗布量を増やす必要がある。しかしながら、多量の第2の触媒インクを乾燥させる場合、電極触媒層2とガス拡散層4との密着性が弱くなり、発電特性が著しく低下する問題がある。したがって、第2の触媒インクを転写シート上に塗布した後、塗布した第2の触媒インク上にガス拡散層4を配置することで、電極触媒層2とガス拡散層4との密着性が高められ、高い発電特性を得ることができる。
【0029】
触媒物質としては、電極6に一般的に採用されている非白金触媒を用いることができる。好ましくは、固体高分子形燃料電池のカソード(正極)として用いられる酸素還元電極用の電極活物質であって、タンタル、ニオブ、チタン及びジルコニウムの少なくとも1つの遷移金属元素を含む物質を用いることができる。これにより、本実施形態では、高い酸素還元性能が得られ、発電特性をより適切に向上できる。より好ましくは、遷移金属元素の炭窒化物を、酸素を含む雰囲気中で部分酸化した物質を用いることができる。具体的には、タンタル炭窒化物を、酸素を含む雰囲気中で部分酸化した物質(TaCNO)を用いることができる。TaCNOの比表面積は、凡そ1m/g以上で且つ100m/g以下である。これにより、本実施形態では、高い酸素還元性能が得られ、発電特性をより適切に向上できる。
【0030】
導電粒子としては、微粒子状で導電性を有し、且つ触媒物質に浸食されないものであればどのようなものも採用できる。しかしながら、電極6に一般的に用いられている炭素粒子は、起動停止時における高電位腐食が生じる問題点があるため、導電粒子としては、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウムの少なくとも1つの遷移金属元素を含む物質を用いることが望ましい。また、より好ましくは、遷移金属元素の炭窒化物や窒化物、酸窒化物を採用できる。遷移金属元素の炭化物や窒化物、酸化物は、物質自体の触媒活性は低いものの、高電位腐食が生じにくいため、導電粒子として好適に用いることができる。
【0031】
次に、膜電極接合体12及び固体高分子形燃料電池11についてより詳細に説明する。
高分子電解質膜1としては、プロトン伝導性を有するものであればよい。例えば、フッ素系高分子電解質膜、炭化水素系高分子電解質膜を用いることができる。フッ素系高分子電解質膜としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)、旭硝子(株)製Flemion(登録商標)、旭化成(株)製Aciplex(登録商標)、ゴア社製Gore Select(登録商標)などを用いることができる。特に、フッ素系高分子電解質膜として、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質膜としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質膜を用いることができる。
【0032】
電極触媒層2は、第1の触媒インク及び第2の触媒インク(以下、まとめて触媒インクと称すことがある)を用いて形成される。触媒インクは、少なくとも触媒物質、第1の高分子電解質または第2の高分子電解質(以下、まとめて高分子電解質と称すことがある)並びに溶媒を含む。触媒インクの高分子電解質としては、プロトン伝導性を有するものであればよい。例えば、高分子電解質膜1と同様の材料を用いることができる。より具体的には、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料などを用いることができる。特に、デュポン社製Nafion(登録商標)系材料を好適に用いることができる。また、炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどの電解質を用いることができる。なお、高分子電解質は、電極触媒層2と高分子電解質膜1との密着性を考慮すると、高分子電解質膜1と同一の材料を用いることが好ましい。また、第1の高分子電解質と第2の高分子電解質とは、同一の材料を用いてもよく、異なる材料を用いてもよい。
【0033】
触媒インクの溶媒としては、触媒物質担持粒子や高分子電解質を浸食することがなく、高分子電解質を流動性の高い状態で溶解または微細ゲルとして分散できるものあればよい。しかしながら、揮発性の有機溶媒が少なくとも含まれていることが望ましい。例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノ―ル、2−プロパノ―ル、1−ブタノ−ル、2−ブタノ−ル、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、ペンタノ−ルなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジブチルエーテルなどのエーテル系溶剤、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジアセトンアルコール、1−メトキシ−2−プロパノールなどの極性溶剤などを用いることができる。また、触媒インクの溶媒は、1種単独または2種以上を組み合わせて(混合させたものを)用いてもよい。
【0034】
また、触媒インクの溶媒としては、低級アルコールを用いてもよい。しかしながら、低級アルコールは発火の危険性が高い。そのため、低級アルコールを触媒インクの溶媒として用いる場合には、低級アルコールと水との混合溶媒にすることが好ましい。さらに、触媒インクの溶媒としては、例えば、高分子電解質となじみがよい水が添加されていてもよい。水の添加量は、高分子電解質が分離して白濁を生じたり、ゲル化したりしない程度であればどのようなものでもよい。また、第1の触媒インクの溶媒と第2の触媒インクの溶媒とは、同一の材料を用いてもよく、異なる材料を用いてもよい。
なお、触媒インクには、触媒物質や導電粒子を分散させるために、さらに、分散剤が含まれていてもよい。分散剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤などを用いることができる。
【0035】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテルカルボン酸塩、エーテルカルボン酸塩、アルカノイルザルコシン、アルカノイルグルタミン酸塩、アシルグルタメート、オレイン酸・N−メチルタウリン、オレイン酸カリウム・ジエタノールアミン塩、アルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、特殊変成ポリエーテルエステル酸のアミン塩、高級脂肪酸誘導体のアミン塩、特殊変成ポリエステル酸のアミン塩、高分子量ポリエーテルエステル酸のアミン塩、特殊変成リン酸エステルのアミン塩、高分子量ポリエステル酸アミドアミン塩、特殊脂肪酸誘導体のアミドアミン塩、高級脂肪酸のアルキルアミン塩、高分子量ポリカルボン酸のアミドアミン塩、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどのカルボン酸型界面活性剤、ジアルキルスルホサクシネート、スルホこはく酸ジアルキル塩、1,2−ビス(アルコキシカルボニル)−1−エタンスルホン酸塩、アルキルスルホネート、アルキルスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホネート、直鎖アルキルベンゼンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ポリナフチルメタンスルホネート、ポリナフチルメタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホネート−ホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホネート、アルカノイルメチルタウリド、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、セチル硫酸エステルナトリウム塩、ステアリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイル硫酸エステルナトリウム塩、ラウリルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩などのスルホン酸型界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩、硫酸アルキル塩、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、アルキルポリエトキシ硫酸塩、ポリグリコールエーテルサルフェート、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、硫酸化油、高度硫酸化油などの硫酸エステル型界面活性剤、リン酸(モノまたはジ)アルキル塩、(モノまたはジ)アルキルホスフェート、(モノまたはジ)アルキルりん酸エステル塩、りん酸アルキルポリオキシエチレン塩、アルキルエーテルホスフェート、アルキルポリエトキシ・りん酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、りん酸アルキルフェニル・ポリオキシエチレン塩、アルキルフェニルエーテル・ホスフェート、アルキルフェニル・ポリエトキシ・りん酸塩、ポリオキシエチレン・アルキルフェニル・エーテルホスフェート、高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩、高級アルコールリン酸ジエステルジナトリウム塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛などのりん酸エステル型界面活性剤などを用いることができる。
【0036】
カチオン界面活性剤としては、例えば、ベンジルジメチル{2−[2−(P−1,1,3,3−テトラメチルブチルフェノオキシ)エトキシ]エチル}アンモニウムクロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、テトラデシルアミン酢酸塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂トリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、1−ヒドロキシエチル−2−牛脂イミダゾリン4級塩、2−ヘプタデセニルーヒドロキシエチルイミダゾリン、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン塩酸塩、トリエタノールアミンモノステアレートギ酸塩、アルキルピリジウム塩、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリアクリルアミドアミン塩、変成ポリアクリルアミドアミン塩、パーフルオロアルキル第4級アンモニウムヨウ化物などを用いることができる。
【0037】
両性界面活性剤としては、例えば、ジメチルヤシベタイン、ジメチルラウリルベタイン、ラウリルアミノエチルグリシンナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、アミドベタイン、イミダゾリニウムベタイン、レシチン、3−[ω−フルオロアルカノイル−N−エチルアミノ]−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、N−[3−(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]−N,N−ジメチル−N−カルボキシメチレンアンモニウムベタインなどを用いることができる。
【0038】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、オレイン酸ジエタノールアミド(1:1型)、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールヤシアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコール牛脂アミン、ポリエチレングリコール牛脂プロピレンジアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ジメチルステアリルアミンオキサイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、ポリビニルピロリドン、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリットの脂肪酸エステル、ソルビットの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、砂糖の脂肪酸エステルなどを用いることができる。
【0039】
上記の界面活性剤の中でもアルキルベンゼンスルホン酸、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩などのスルホン酸型の界面活性剤は、カーボンの分散効果、分散剤の残存による触媒性能の変化などを考慮すると、分散剤として好適に用いることができる。
【0040】
また、触媒インクには、必要に応じて分散処理を行うようにしてもよい。触媒インクの粘度と粒子のサイズとは、触媒インクの分散処理の条件によって制御できる。分散処理は、様々な装置を用いて行うことができる。そのため、分散処理の方法は、特に限定されるものではない。例えば、分散処理には、ボールミルやロールミルによる処理、せん断ミルによる処理、湿式ミルによる処理、超音波分散処理などを用いることができる。また、遠心力で攪拌を行うホモジナイザーなどを用いてもよい。
【0041】
触媒インク中の固形分含有量は、多すぎると触媒インクの粘度が高くなるため、電極触媒層2表面にクラックが入りやすくなる。一方、触媒インク中の固形含有量は、少なすぎると成膜レートが非常に遅く、生産性が低下してしまう。したがって、触媒インク中の固形含有量は、1〜50質量%であることが好ましい。また、固形分は、触媒物質と炭素粒子と過酸化物分解触媒と高分子電解質とからなるが、固形分のうち炭素粒子の含有量を多くすると、同じ固形分含有量でも触媒インクの粘度は高くなる。一方、固形分のうち炭素粒子の含有量を少なくすると、同じ固形分含有量でも触媒インクの粘度は低くなる。したがって、固形分に占める炭素粒子の割合は10〜80質量%が好ましい。また、触媒インクの粘度は、0.1〜500cP(0.0001〜0.5Pa・s)程度が好ましく、さらに好ましくは5〜100cP(0.005〜0.1Pa・s)がよい。また、触媒インクの分散時に分散剤を添加することで、触媒インクの粘度を制御することもできる。
【0042】
また、触媒インクには、電極触媒層2に細孔を形成するために、さらに、造孔剤が含まれていてもよい。造孔剤は、電極触媒層2の形成後に除去する。造影剤としては、酸、アルカリ、水に溶ける物質、ショウノウなどの昇華する物質、熱分解する物質などを用いることができる。例えば、水で溶ける物質を用いた場合には、発電時に発生する水で造影剤を除去するようにしてよい。
【0043】
酸、アルカリ、水に溶ける物質としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウムなどの酸可溶性無機塩類、アルミナ、シリカゲル、シリカゾルなどのアルカリ水溶液に可溶性の無機塩類、アルミニウム、亜鉛、スズ、ニッケル、鉄などの酸またはアルカリに可溶性の金属類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸一ナトリウムなどの水溶性無機塩類、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの水溶性有機化合物類などを用いることができる。また、造孔剤は、1種単独あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0044】
第1の高分子電解質で包埋した導電粒子は、導電粒子と第1の高分子電解質とを溶媒に分散させた第1の触媒インクを基材(転写シート)に塗布し、塗布した第1の触媒インクを乾燥させることで作製できる。転写シートとしては、転写性がよい材質を用いることができる。例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂を用いることができる。また、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレートなどの高分子シート、高分子フィルムを用いることができる。触媒インクの塗布方法としては、ドクターブレード法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ロールコーティング法、スプレー法などを用いることができる。例えば、ドクターブレード法は、触媒インクの量が多く、乾燥で得られる電極触媒層2の厚膜化が容易であるため、好ましい。また、第1の高分子電解質で包埋した導電粒子は、第1の高分子電解質で包埋した導電粒子は、乾燥雰囲気中に第1の触媒インクを噴霧(スプレー)し、噴霧した第1の触媒インクを乾燥させることによっても作製できる。
【0045】
ガス拡散層4、5としては、ガス拡散性と導電性とを有する材質を用いることができる。例えば、カーボンクロス、カーボンペーパー、不織布などのポーラスカーボン材を用いることができる。
セパレーター10としては、カーボンタイプあるいは金属タイプのものなどを用いることができる。固体高分子形燃料電池11では、ガス供給装置、冷却装置など、その他付随する装置を組み立てることにより、セパレーター10を製造できる。
【0046】
(実施例)
次に、本実施形態の電極6の製造方法(第1〜第4工程)について、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明する。なお、本発明は、以下に記載の実施例に限定されない。
(第1工程:第1の触媒インクの調製)
第1工程では、導電粒子(TaCN、比表面積2m/g)と、20質量%高分子電解質溶液(商品名:Nafion(登録商標)、デュポン社製。第1の高分子電解質)とを溶媒中で混合した。導電粒子と第1の高分子電解質との質量比は、1:0.01とした。また、溶媒は、超純水と1−プロパノ−ルとを含むものとした。超純水と1−プロパノ−ルとの体積比は、1:1とした。続いて、第1工程では、導電粒子と20質量%高分子電解質溶液とを混合した溶媒にボールミルで分散処理を行った。これにより、第1工程では、第1の触媒インクを作製した。ボールミルのポット及びボールとしては、ジルコニア製のものを用いた。第1の触媒インクの固形分含有量は、14質量%とした。
【0047】
(第2工程:第1の高分子電解質で包埋した導電粒子の形成方法)
第2工程では、ドクターブレードにより、第1の触媒インクを基材上に塗布した。基材としては、PTFEシートを用いた。続いて、第2工程では、塗布した第1の触媒インクを大気雰囲気中80℃で5分間乾燥させた。これにより、第2工程では、第1の高分子電解質で包埋した導電粒子を作製した。続いて、第2工程では、第1の高分子電解質で包埋した導電粒子、つまり、乾燥させた第1の触媒インクを基材上から回収した。
【0048】
(第3工程:第1の高分子電解質で包埋した導電粒子と触媒物質との混合及び熱処理)
第3工程では、第1の高分子電解質で包埋した導電粒子と、触媒物質(TaCNO、比表面積10m/g)とをボールミルで混合した。これにより、第3工程では、乾燥させた第1の触媒インクに触媒物質を添加した。ボールミルのポット及びボールとしては、ジルコニア製のものを用いた。導電粒子と触媒物質との質量比は、1:1とした。第1の高分子電解質で包埋した導電粒子と触媒物質とは、無溶媒で混合した。
【0049】
(第3工程:第2の触媒インクの調製)
続いて、第3工程では、第1の高分子電解質で包埋した導電粒子と、乾燥させた第1の触媒インクに触媒物質を添加した混合物に熱処理を加えたものと、20質量%高分子電解質溶液(第2の高分子電解質)とを溶媒中で混合した。導電粒子と、触媒物質、第2の高分子電解質の質量比は、1:1:0.7とした。溶媒は、超純水と1−プロパノ−ルとを含むものとした。超純水と1−プロパノ−ルとの体積比は、1:1とした。続いて、第3工程では、混合した溶媒にボールミルで分散処理を行った。これにより、第3工程では、第2の触媒インクを作製した。ボールミルのポット及びボールには、ジルコニア製のものを用いた。第2の触媒インクの固形分含有量は、14質量%とした。
【0050】
(第4工程:電極6の作製方法)
第4工程では、ドクターブレードにより、第2の触媒インクを転写シート(基材)上に塗布した。転写シートとしては、PTFEシートを使用した。続いて、第4工程では、塗布した第2の触媒インク上に、ガス拡散層4として目処め層が形成されたカーボンペーパーを配置した。続いて、第4工程では、カーボンペーパを配置した第2の触媒インクを大気雰囲気中80℃で10分間乾燥させた。これにより、第4工程では、電極触媒2を作製した。続いて、第4工程では、作製した電極触媒層2から転写シートを剥離した。これにより、第4工程では、電極触媒層2及びガス拡散層4が積層した電極6を作製した。電極触媒層2の厚さは、触媒物質担持量が10mg/cmになるように調節した。
【0051】
(比較例)
(触媒インクの調製)
導電粒子と触媒物質と20質量%高分子電解質溶液とを溶媒中で混合した。導電粒子と触媒物質と高分子電解質との質量比は、1:1:0.7とした。また、溶媒は、超純水と1−プロパノ−ルとを含むものとした。超純水と1−プロパノ−ルとのを体積比は、1:1とした。続いて、第1工程では、混合して作製した混合物にボールミルで分散処理を行った。これにより、触媒インクを調製した。ボールミルのポット及びボールとしては、ジルコニア製のものを用いた。また、触媒インクの固形分含有量は、14質量%とした。
【0052】
(電極6の作製方法)
実施例と同様の手法で、作製した触媒インクを基材に塗布し、塗布した触媒インクを乾燥させた。これにより、電極触媒層2を作製した。電極触媒層2の厚さは、触媒物質担持量が10mg/cmになるように調節した。基材としては、実施例と同じ転写シート(PETシート)を使用した。続いて、作製した電極触媒層2の上にガス拡散層4として目処め層が形成されたカーボンペーパーを配置した。これにより、電極6を作製した。
【0053】
(実施例及び比較例の燃料極7の作製方法)
白金担持量が50質量%である白金担持カーボン触媒(商品名:TEC10E50E、田中貴金属工業製)と、20質量%高分子電解質溶液とを溶媒中で混合した。白金担持カーボン中のカーボンと高分子電解質との質量比は、1:1とした。また、溶媒は、超純水、1−プロパノ−ルを含むものとした。超純水と1−プロパノ−ルとの体積比は、1:1とした。続いて、混合して作製した混合物にボールミルで分散処理を行った。分散時間は60分間とした。これにより、触媒インクを作製した。また、触媒インクの固形分含有量は、10質量%とした。続いて、電極6と同様の手法で、作製した触媒インクを基材に塗布し、塗布した触媒インクを乾燥させた。これにより、電極触媒層3を作製した。電極触媒層3の厚さは、触媒物質担持量が0.3mg/cmになるように調節した。続いて、作製した電極触媒層3の上にガス拡散層5として目処め層が形成されたカーボンペーパーを配置した。これにより、電極触媒層3及びガス拡散層5が積層した燃料極7を作製した。
【0054】
(実施例及び比較例の膜電極接合体12の作製方法)
実施例及び比較例で作製した電極6、及び燃料極7を5cmの正方形に打ち抜いた。続いて、高分子電解質膜1(商品名:Nafion(登録商標名)、デュポン社製)の両面に対面するように転写シートを配置した。続いて、転写シートを配置した高分子電解質膜1に130℃、10分間の条件でホットプレスを行った。これにより、膜電極接合体12を作製した。続いて、作製した膜電極接合体12を一対のセパレーター10で挟持した。これにより、単セルの固体高分子形燃料電池11を作製した。
【0055】
(評価)
(評価条件)
実施例で作製した電極6を用いた固体高分子形燃料電池11と、比較例で作製した電極6を用いた固体高分子形燃料電池11との発電特性評価を行った。発電特性評価は、燃料電池測定装置を用いて、セル温度80℃で、燃料極7(アノード)及び空気極6(カソード)ともに100%RHの条件のもとで行った。発電特性評価では、燃料ガスとして純水素を用い、酸化剤ガスとして純酸素を用いて、流量一定による流量制御を行った。
【0056】
(測定結果)
実施例で作製した固体高分子形燃料電池11は、比較例で作製した固体高分子形燃料電池11よりも、優れた発電性能を示した。特に、0.6V付近の発電性能が向上し、実施例で作製した固体高分子形燃料電池11は、比較例で作製した固体高分子形燃料電池11に比べて、約4.7倍の発電性能を示した。これは、実施例で作製した固体高分子形燃料電池11では、導電粒子を第1の高分子電解質で包埋することで導電粒子表面のプロトン伝導性が高められ、反応活性点が増加したためと推察される。また、実施例で作製した固体高分子形燃料電池11は、電極触媒層2とガス拡散層4との密着性が高く、これにより、高い発電特性が得られたと推察される。これに対して、比較例で作製した固体高分子形燃料電池11は、導電粒子と触媒物質及び高分子電解質を一段階で溶媒中に分散させるため、導電粒子よりも比表面積の大きい触媒粒子に対して高分子電解質が優先的に吸着されることで、導電粒子表面では十分なプロトン伝導性が確保されなかったためと推察される。また、比較例で作製した固体高分子形燃料電池11は、電極触媒層2とガス拡散層4との密着性が低く、これにより、発電特性が低下したと推察される。
本実施形態では、図1、2の空気極(電極)6が燃料電池用電極を構成する。また、図1、2の膜電極接合体12が燃料電池用膜電極接合体を構成する。
【0057】
(本実施形態の効果)
本実施形態は、次のような効果を奏する。
(1)第1工程では、導電粒子と第1の高分子電解質とを溶媒に分散させて第1の触媒インクを作製する。続いて、第2工程では、第1の触媒インクを乾燥させて導電粒子を第1の高分子電解質で包埋する。続いて、第3工程では、乾燥させた第1の触媒インクに非白金触媒からなる触媒物質を添加した混合物と第2の高分子電解質とを溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製する。続いて、第4工程では、第2の触媒インクを転写シート上に塗布し、塗布した第2の触媒インク上にガス拡散層4を配置し、ガス拡散層4を配置した第2の触媒インクを乾燥させて電極触媒層2を作製し、作製した電極触媒層2から転写シートを剥離して電極触媒層2及びガス拡散層4が積層した電極6を形成する。
【0058】
これにより、本実施形態では、導電粒子を第1の高分子電解質で包埋する。それゆえ、本実施形態では、導電粒子表面のプロトン伝導性を向上でき、反応活性点を増加できる。その結果、本実施形態では、非白金触媒を触媒物質として用いつつ、高い発電特性を示す電極6を提供できる。
【0059】
(2)第2工程では、導電粒子に対する第1の高分子電解質の重量比が10−4以上で且つ0.1未満の範囲内となるように第1の触媒インクを乾燥させる。
これにより、本実施形態では、導電粒子に対する第1の高分子電解質の重量比が10−4以上であるため、導電粒子表面のプロトン伝導性を向上でき、反応活性点を増加でき、発電特性を向上できる。また、本実施形態は、導電粒子に対する第1の高分子電解質の重量比が0.1未満であるため、反応活性点へのガス拡散性を向上でき、発電特性を向上できる。それゆえ、本実施形態では、発電特性をより適切に向上できる。
【0060】
(3)第2工程では、第1の触媒インクを30℃以上で且つ140℃未満の温度で乾燥させる。
これにより、本実施形態では、第1の触媒インクをより適切に乾燥できる。
(4)第3の工程では、乾燥された第1の触媒インクに触媒物質を添加して無溶媒で混合した混合物と第2の高分子電解質とを溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製する。
これにより、本実施形態では、触媒物質と導電粒子の接触性が高く、反応活性点が増加する。それゆえ、本実施形態では、発電特性をより適切に向上できる。
【0061】
(5)第3の工程では、乾燥された第1の触媒インクに触媒物質を添加して無溶媒で混合した混合物に50℃以上で且つ180℃以下の温度で熱処理を行う。続いて、第3の工程では、熱処理を行った導電粒子、触媒物質及び第1の高分子電解質と第2の高分子電解質とを溶媒に分散させて第2の触媒インクを作製する。
これにより、本実施形態では、熱処理の温度が50℃以上であるため、導電粒子を包埋する第1の高分子電解質が溶媒に溶解することを抑制し、また、反応活性点を増加でき、発電特性を向上できる。また、本実施形態では、熱処理の温度が180℃を超えるため、導電粒子を包埋する第1の高分子電解質のプロトン伝導性を向上でき、発電特性を向上できる。それゆえ、本実施形態では、発電特性をより適切に向上できる。
【0062】
(6)触媒物質は、固体高分子形燃料電池11の正極として用いられる酸素還元電極用の電極活物質であって、タンタル、ニオブ、チタン及びジルコニウムの少なくとも1つの遷移金属元素を含むものである。
これにより、本実施形態では、発電特性をより適切に向上できる。
(7)触媒物質は、遷移金属元素の炭窒化物を、酸素を含む雰囲気中で部分酸化したものである。
これにより、本実施形態では、発電特性をより適切に向上できる。
【0063】
(8)電極6は、上記(1)〜(7)の製造方法で製造した。
これにより、本実施形態では、高い発電特性を示す電極6を提供できる。
(9)一対の電極6、7のうち、正極側の電極6を上記(8)の電極6とした。
これにより、本実施形態では、膜電極接合体12の製造コストをより低減できる。
【0064】
(10)膜電極接合体12は、上記(9)の膜電極接合体12の製造方法で製造した。
これにより、本実施形態では、高い発電特性を示す電極6を備えた膜電極接合体12を提供できる。
(11)固体高分子形燃料電池11は、上記(10)の膜電極接合体12を備える。
これにより、本実施形態では、高い発電特性を示す電極6を備えた固体高分子形燃料電池11を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の一態様は、触媒物質、導電粒子及び高分子電解質を含み、且つ導電粒子の比表面積が触媒物質の比表面積よりも小さい燃料電池用電極の製造方法であって、導電粒子を第1の高分子電解質で包埋する工程を備えることを特徴とする。これにより、本発明の一態様では、導電粒子表面のプロトン伝導性を向上でき、反応活性点を増加できる。それゆえ、本発明の一態様では、高い発電特性を示す燃料電池用電極を提供できる。
【0066】
また、本発明の一態様は、触媒物質、導電粒子及び高分子電解質を含み、且つ導電粒子の比表面積が触媒物質の比表面積よりも小さい燃料電池用電極の製造方法であって、第2の触媒インクを転写シートに塗布し、塗布した触媒インク上にガス拡散層を配置する工程を備えることを特徴とする。これにより、本発明の一態様では、塗布した触媒インク上にガス拡散層を配置することで、電極触媒層とガス拡散層との密着性を高めることができる。その結果、本発明の一態様では、高い発電特性を示す燃料電池用電極を提供できる。また、本発明の一態様は、該燃料電池用電極を備えた燃料電池用膜電極接合体の製造方法、燃料電池用膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池を提供できる。
したがって、本発明の一態様では、触媒物質に非白金触媒を使用した燃料電池用電極において、従来の燃料電池用電極の製造方法よりも、触媒物質の潜在能力を引き出すことができる、という顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0067】
1 固体高分子電解質膜
2 電極触媒層
3 電極触媒層
4 ガス拡散層
5 ガス拡散層
6 空気極(燃料電池用電極)
7 燃料極
8 ガス流路
9 冷却水流路
10 セパレーター
11 固体高分子形燃料電池
12 膜電極接合体(燃料電池用膜電極接合体)
図1
図2