(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160183
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】十字軸式自在継手及び十字軸式自在継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16D 3/41 20060101AFI20170703BHJP
B62D 1/20 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
F16D3/41 M
B62D1/20
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-77831(P2013-77831)
(22)【出願日】2013年4月3日
(65)【公開番号】特開2014-202262(P2014-202262A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 正治
(72)【発明者】
【氏名】小森 宏道
【審査官】
上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−095737(JP,A)
【文献】
特開2010−002043(JP,A)
【文献】
特公昭47−012561(JP,B1)
【文献】
特開2000−170786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/41
B62D 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ二股に分かれた先端部を有し、該二股の先端部の対向する位置のそれぞれに貫通孔部を有する一対のヨークと、
略有底円筒状のベアリングカップを有し、該ベアリングカップの底部を前記二股の先端部の外側に向け、該底部が前記先端部の外側表面から凹んだ凹部を形成する位置で前記貫通孔部のそれぞれに圧入された軸受と、
4つの先端部が前記軸受のそれぞれに嵌入され、前記一対のヨークを連結する十字軸とを備え、
前記凹部の周囲の前記貫通孔部から孔内へ張り出したカシメ部が形成された十字軸式自在継手において、
前記十字軸とベアリングカップの底部は接触しており、
前記カシメ部は、円周方向の離れた位置に複数ずつ設けられ、前記底部と非接触であって、前記カシメ部と前記底部の間に所定の隙間があり、
前記軸受は、単列で周方向に配置された複数のニードルを有し、前記ニードルの少なくとも一方の端面は前記ベアリングカップから離間しており、
前記十字軸の嵌入部が、前記軸受に対して全長にわたって中間ばめで嵌入されていることを特徴とする十字軸式自在継手。
【請求項2】
前記軸受はシェル形ニードル軸受であることを特徴とする請求項1に記載の十字軸式自在継手。
【請求項3】
前記底部中央には、前記十字軸に向かって突出した凸部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の十字軸式自在継手。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の十字軸式自在継手の製造方法において、
前記カシメ部を形成する前記ヨークの部分を平面状に形成し、
前記カシメ部を形成するカシメ治具に、前記凹部の深さに対応して、前記カシメ部が前記底部と非接触の所定深さまでカシメられたときに前記ヨーク表面に当接するストッパーを設け、
前記カシメ治具を前記ヨークの前記平面状の部分に押し当て、該ストッパーが前記ヨークに当接したところでカシメを終了させることを特徴とする十字軸式自在継手の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の十字軸式自在継手の製造に用いるカシメ治具において、
前記カシメ部が前記底部と非接触の所定深さまでカシメられたときに前記ヨーク表面に当接するストッパーを備えることを特徴とする十字軸式継手用カシメ治具。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の十字軸式自在継手を備えたことを特徴とするステアリング装置用中間シャフト。
【請求項7】
請求項6に記載のステアリング装置用中間シャフトを備えたことを特徴とするステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置等に用いられる十字軸式自在継手、十字軸式自在継手の製造方法、十字軸式自在継手の製造に用いるカシメ治具、十字軸式自在継手を備えたステアリング装置用中間シャフト、及び十字軸式自在継手を備えたステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対のヨークの間に十字軸を介装して連結し、一対のヨークの相対的な角度変化を許容しながら一方のヨークから他方のヨークへトルクを伝達する十字軸式自在継手があり、ステアリング装置の中間シャフト等に用いられている。
【0003】
このような十字軸式自在継手において、ヨークに形成された貫通孔部内に配置され、十字軸端部を覆うベアリングカップを備え、ベアリングカップと十字軸との間にスライディングブッシュを介在させることで十字軸とヨークとを相対回転し易くしつつ、貫通孔部の一部から孔内へ張り出してベアリングカップの底部に接したカシメ部を設けることでベアリングカップ等がヨークから抜け出るのを防止するものがある(特許文献1参照)。
【0004】
また、十字軸とヨークとの間に十字軸の端部を覆うベアリングカップを有するニードル軸受を介在させることで、十字軸とヨークとを相対回転し易くしつつ、貫通孔部の一部から孔内へ張り出してベアリングカップの底部に接したカシメ部を設けることでベアリングカップがヨークから抜け出るのを防止するものがある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許3、733、668号
【特許文献2】実願平5−66741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の十字軸式自在継手においては、カシメ部がベアリングカップを十字軸に押圧するように形成されているため、ベアリングカップの底部と十字軸の先端部との接触圧が高くなり、摩擦力が大きくなることで、十字軸とヨークとの相対回転を重くしていた。十字軸とヨークとの相対回転が重くなると、十字軸式自在継手の作動トルクが大きくなり、車両用ステアリング装置においては、ハンドルの戻り性能等に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0007】
ベアリングカップの底部と十字軸の先端部とを接触させないように微小隙間を設けることも可能であるが、部品が小さいために組立性が悪く、十字軸とベアリングカップが相対移動することでガタが生じるおそれもある。当該ガタは、車両用ステアリング装置においては、操舵フィーリングを悪化させる要因となる。また、ニードル軸受を用いる場合にはニードル周辺の隙間を詰めることによりガタ詰めを行うことができるが、当該ガタ詰めによっても十字軸式自在継手の作動トルクが大きくなるため、車両用ステアリング装置においてはハンドルの戻り性能等に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0008】
このように、十字軸式自在継手においては、ガタを防止しようとすると十字軸式自在継手の作動トルクが大きくなり、作動トルクを小さくしようとするとガタが生じ易くなるといった背反があり、ガタを防止することと作動トルクを小さくすることとの両立は困難であった。
【0009】
このような問題に鑑みて、本発明は、ガタを抑制しながらも作動トルクが過度に大きくなるのを防ぐ十字軸式自在継手、十字軸式自在継手の製造方法、及び十字軸式自在継手用カシメ治具、並びに、操舵フィーリングが良く、操舵後のハンドル戻り性能を確保したステアリング装置用中間シャフト及びステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明では、
それぞれ二股に分かれた先端部を有し、該二股の先端部の対向する位置のそれぞれに貫通孔部を有する一対のヨークと、
略有底円筒状のベアリングカップを有し、該ベアリングカップの底部を前記二股の先端部の外側に向け、該底部が前記先端部の外側表面から凹んだ凹部を形成する位置で前記貫通孔部のそれぞれに圧入された軸受と、
4つの先端部が前記軸受のそれぞれに嵌入され、前記一対のヨークを連結する十字軸とを備え、
前記凹部の周囲の前記貫通孔部から孔内へ張り出したカシメ部が形成された十字軸式自在継手において、
前記十字軸とベアリングカップの底部は接触しており、
前記カシメ部は
、円周方向の離れた位置に複数ずつ設けられ、前記底部と非接触であ
って、前記カシメ部と前記底部の間に所定の隙間があり、
前記軸受は、単列で周方向に配置された複数のニードルを有し、前記ニードルの少なくとも一方の端面は前記ベアリングカップから離間しており、
前記十字軸の嵌入部が、前記軸受に対して全長にわたって中間ばめで嵌入されているものとする。
【0011】
これにより、ベアリングカップの底部と十字軸との間に隙間を設けた場合に生じるガタを防ぎつつ、ベアリングカップの底部と十字軸の先端部との接触圧が高くなるのを防いで、作動トルクの小さい十字軸式自在継手を提供することができる。前記カシメ部が前記ベアリングカップを押圧しなければ前記カシメ部と前記底部とは接触していても良いが、非接触とすることで確実に押圧しないものとすることができる。
また、十字軸の側面と軸受との間に生じるすきまによって生じるガタの発生を防止することができる。また、外部からの衝撃などによってベアリングカップがカシメ部に当接しても軸受が傾きにくくなり、十字軸に対して軸受が傾くのを防ぐことができる。
【0012】
好ましくは、前記軸受をシェル形ニードル軸受とする。
【0013】
これにより、軸受の径方向の寸法を小さくしながら、高い許容荷重と高い許容回転数を持たせることが可能となり、軸受の取り付けも容易となる。なお、「シェル形ニードル軸受」とは、薄い板材から外輪を形成し、当該外輪内部に複数の針状ころを配置した軸受を指す。
【0018】
また、好ましくは、前記底部中央には、前記十字軸に向かって突出した凸部を形成する。
【0019】
これにより、前記底部と前記十字軸との接触部の径方向の寸法を小さくし、当該接触部の摩擦によって生じる回転抵抗を小さくすることができる。
【0020】
また、上記課題を解決するために本発明では、上記の十字軸式自在継手の製造方法において、
前記カシメ部を形成する前記ヨークの部分を平面状に形成し、
前記カシメ部を形成するカシメ治具に、前記凹部の深さに対応して、前記カシメ部が前記底部と非接触の所定深さまでカシメられたときに前記ヨーク表面に当接するストッパーを設け、
前記カシメ治具を前記ヨークの前記平面状の部分に押し当て、該ストッパーが前記ヨークに当接したところでカシメを終了させる。
【0021】
これにより、容易かつ確実にカシメ部と底部との非接触を確保して、十字軸式自在継手の作動トルクを低下させることができる。
【0022】
また、上記課題を解決するために本発明では、上記の十字軸式自在継手の製造に用いるカシメ治具において、
前記カシメ部が前記底部と非接触の所定深さまでカシメられたときに前記ヨーク表面に当接するストッパーを備えるものとする。
【0023】
このカシメ治具により、容易かつ確実にカシメ部と底部との非接触を確保して、十字軸式自在継手の作動トルクを低下させることができる。
【0024】
また、上記課題を解決するために本発明では、ステアリング装置用中間シャフトが上記十字軸式自在継手を備えたものとする。
【0025】
これにより、当該中間シャフトを備えたステアリング装置は、ガタの発生を防ぎ、操舵フィーリングが良く、また、十字軸式自在継手の作動トルクが小さくなり、操舵後のハンドル戻り性能が確保される。なお、「ステアリング装置用中間シャフト」とは、車両等に用いられるステアリング装置において操舵トルクの伝達経路内に配置されるシャフト状の部材を指す。
【0026】
また、上記課題を解決するために本発明では、ステアリング装置が上記ステアリング装置用中間シャフトを備えたものとする。
【0027】
これにより、当該ステアリング装置は、ガタの発生を防ぎ、操舵フィーリングが良く、また、十字軸式自在継手の作動トルクが小さくなり、操舵後のハンドル戻り性能が確保される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ガタを抑制しながらも作動トルクが過度に大きくなるのを防ぐ十字軸式自在継、十字軸式自在継手の製造方法、及び十字軸式自在継手用カシメ治具、並びに、操舵フィーリングが良く、操舵後のハンドル戻り性能を確保したステアリング装置用中間シャフト及びステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本願の実施形態に係る十字軸式自在継手を備えた車両用ステアリング装置を示す斜視図である。
【
図2】本願の実施形態に係る十字軸式自在継手を備えた車両用ステアリング装置用中間シャフトの平面及び断面を示す図である。
【
図3】本願の実施形態に係る十字軸式自在継手の平面及び断面を示す図である。
【
図4】本願の実施形態に係る十字軸式自在継手のヨーク及びニードル軸受を示す拡大断面図である。
【
図5】本願の実施形態に係る十字軸式自在継手の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】本願の実施形態に係る十字軸式自在継手のカシメ部の形成方法を示す図である。(a)はカシメ部を形成する様子を示す断面図であり、(b)はカシメ治具の拡大底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本願の実施形態に係る十字軸式自在継手を
図1ないし4を参照しつつ説明する。
図1は本願の実施形態に係る十字軸式自在継手を備えた車両用ステアリング装置1を示す斜視図である。
【0031】
図1に示すように、本願の実施形態に係る十字軸式自在継手を備えた車両用ステアリング装置1は、ステアリングホイール2と、ステアリングホイール2からの操舵トルクを伝達する不図示のステアリングシャフトと、ステアリングシャフトを回転可能に支持するステアリングコラム3と、ステアリングコラム3に取り付けられ操舵をアシストする電動モータ4と、ステアリングシャフトに連結し操舵トルクを伝達する中間シャフト5と、中間シャフト5に連結したピニオン軸6と、ピニオン軸6の回転に伴って軸方向に往復移動する不図示のラック軸を収容したステアリングギヤ7と、ラック軸の軸力を舵輪に伝えて舵輪を転舵させるタイロッド8a、8bとを有している。
【0032】
図2は、中間シャフト5の平面及び断面を示す図である。平面と断面との境界は2点鎖線によって示している。
図2に示すように、中間シャフト5は、車両後方側(
図2に向かって右側)に配置された雄シャフト9と車両前方側(
図2に向かって左側)とを有し、雄シャフト9の車両前方側に雌シャフト10の車両後方側が操舵トルクを伝達可能、かつ、軸方向に相対移動可能に外嵌している。
【0033】
雄シャフト9の車両後方側端部には二股の先端部を有するヨーク11aが形成されており、ヨーク11aは、さらに車両後方側に配置された二股の先端部を有するヨーク11bに十字軸12を介して連結され、本実施形態に係る十字軸式自在継手13を構成している。ヨーク11bはステアリングシャフトに連結される。ヨーク11a及びヨーク11bは、鍛造、鋳造、板金加工などの製法を用いて、鉄系、アルミ系などの金属材料から形成することができる。
【0034】
雌シャフト10の車両前方側にも二股の先端部を有するヨーク14aが形成されており、ヨーク14aは、さらに車両前方側に配置されたヨーク14bに十字軸15を介して連結され、十字軸式自在継手16を構成している。ヨーク14bは
図1に示すピニオン軸6に連結される。
【0035】
図3は、本願の実施形態に係る十字軸式自在継手13の平面及び断面を示す図である。平面と断面との境界は2点鎖線によって示している。ヨーク11a及び11bは、二股の先端部を互いに90°ずらして向き合っており、二股の先端部にはそれぞれ貫通孔17a、17b、17c、17d(17c、17dは不図示)が形成されており、貫通孔17aないし17dには十字軸12の先端がそれぞれ挿入されている。
【0036】
貫通孔17aないし17dの周壁面と十字軸12の対応する先端との間にはニードル軸受18a、18b、18c、18d(18dは不図示)が介装されている。貫通孔17aないし17dの縁部分には、それぞれニードル軸受18aないし18dの移動を制限するカシメ部19が4箇所形成されている。
【0037】
図4は、ヨーク11a及びニードル軸受18aを示す拡大断面図である。ニードル軸受18aは、ベアリングカップ20の底部をヨーク11aの回転中心軸線から離れる側(ヨーク11aの外側)に向けて配置され、ベアリングカップ20の底部はヨーク11aの外側表面(
図4の上面)から凹んだ位置に配置され、凹部を形成している。
【0038】
カシメ部19は、貫通孔17aの縁をカシメにより変形させて貫通孔17aの孔内に張り出すように形成されており、ニードル軸受18aの移動を制限し、ニードル軸受18aがヨーク11aから抜け出るのを防いでいる。ニードル軸受18aは、貫通孔17aに圧入されており、当該圧入によっても移動は制限されているが、カシメ部19を設けることで2重安全構造としている。本実施形態においてカシメ部19は、径方向に対向する位置に4箇所形成されている(
図3参照)。
【0039】
ニードル軸受18aは、略有底円筒状をしたベアリングカップ20と、このベアリングカップ20の内側に複数配列されたニードル21とから形成された、保持器の無い総ころ形のシェル形ニードル軸受である。ベアリングカップ20は、底部中央に十字軸12側へ向けて突出した凸部22が形成されており、凸部22は十字軸12の端面に接している。凸部22と十字軸12とが接することでベアリングカップ20と十字軸12との端面とが干渉することで生じるガタを防ぐことができる。十字軸12の端面全体がベアリングカップ20の底部に接する構成とすることもできるが、凸部22を設けることでベアリングカップ20の底部と十字軸12との接触部の径方向の寸法を小さくして十字軸12とベアリングカップ20との相対回転における摩擦による回転抵抗を低減することができる。
【0040】
ベアリングカップ20の開口側端部23は十字軸12と接触しない程度にすぼまっており、ベアリングカップ20の内部に異物が侵入するのを防いでいる。ベアリングカップ20は、鋼板を絞り加工した後、熱処理を行って表面を硬化させ、ニードル21が転動する内径の軌道面の耐久性を向上させるのが好ましい。
【0041】
上述のように十字軸12はニードル軸受18aに中間ばめにて嵌入されているため、ニードル21は、十字軸12の径方向(
図4の左右方向)においては、略隙間ゼロに組み付けられているが、十字軸12の軸方向(
図4の上下方向)においては、上部のみベアリングカップ20の底面に接し、下部はベアリングカップ20の開口側端部23との間に隙間を設けているため、ニードル21は、当該隙間の範囲内で十字軸12の軸方向に移動できる。上述のように、円周上の離れた位置にカシメ部19を複数箇所設けているため、仮にニードル軸受18aが軸方向に移動してカシメ部19に当接してもニードル軸受18aが傾くのを防止することができ、ニードルとベアリングカップ20の内周面との間を略隙間ゼロ状態に保つことができる。
【0042】
カシメ部19は、ベアリングカップ20との間に隙間を設けて配置されており、カシメ部19とベアリングカップ20とは非接触となっている。これにより、ベアリングカップ20はカシメ部によって十字軸12側へ押圧されず、ベアリングカップ20の底部と十字軸12の先端部との接触圧が高くならないため、当該接触圧の上昇によってベアリングカップ20と十字軸12との相対回転が過度に重くなることはない。また、過剰な予圧を防止できるため、ベアリングの耐久性の向上を図ることができる。特に上述のようにニードル21が略隙間ゼロで拘束される場合には、カシメによる作動トルクの変動が顕著となるため、より効果を発揮し、ステアリング装置1においては、ガタ感が無く、操舵安定性が良く、ハンドル戻りも良いものとなる。なお、カシメ部19とベアリングカップ20は、ベアリングカップ20の底部が十字軸12の先端部に押圧されないのであれば接していてもよいが、上述のように隙間を設けることでベアリングカップ20の底部が十字軸12の先端部に押圧されるのを確実に防ぐことができる。
【0043】
図5は、本願の実施形態に係る十字軸式自在継手13の製造方法を示す図である。本願の実施形態に係る十字軸式自在継手13の製造は、初めに十字軸12、ヨーク11a、11b、ニードル軸受18aないし18d、及びカシメ治具24を準備し(S1)、不図示の保持具を用いてヨーク11aに形成された貫通孔17a、17c内に中心を合わせて十字軸12の端部を配置する(S2)。そして、不図示の軸受圧入装置を用いてヨーク11aの外側から内側(
図4では上側から下側)へ向かってニードル軸受18a、18cをそれぞれ所定の位置まで圧入する(S3)。
図4に示すように、十字軸12は、先端の外周部に面取り加工が施されており、ニードル21も端部外周部に面取り加工が施されているため、ニードル軸受18a、18cと、十字軸受12との間に多少の芯ズレが生じても圧入することができる。その後、ヨーク11aと同様に、ヨーク11bに形成された貫通孔17b、17d内に、中心を合わせて十字軸12の先端を配置し(S4)、ニードル軸受18b、18dを所定の位置まで圧入する(S5)。最後に、カシメ治具24を用いてカシメ部19を形成して終了する(S6)。
【0044】
図6は、本願の実施形態に係る十字軸式自在継手13のカシメ部19の形成方法を示す図である。(a)はカシメ部19を形成する様子を示す断面図である。(b)はカシメ治具24の拡大底面図である。カシメ部19は、カシメ治具24を用いて形成する。カシメ治具24は、下部先端に突起25とストッパー26とが形成されている。
【0045】
カシメ部19の形成は、カシメ治具24の突起25をヨーク11aの貫通孔17a周縁の所定箇所に押し当てることによって行う。各カシメ部19の形成は、カシメ治具24のストッパー26がヨーク11a表面に当接したところで終了する。これにより、カシメ部19とニードル軸受18aのベアリングカップ20との間に確実に隙間を設けることができ、十字軸式自在継手の作動トルクの上昇を安定して抑制することができる。なお、他のニードル軸受18b、18c、18dも同様にカシメ部19を形成することができる。また、
図2に示した車両前方側(
図2に向かって左側)の十字軸式自在継手16も本実施形態に係る十字軸式自在継手13と同様に製造することができる。
【0046】
以上、具体的な実施形態を示して本願発明を説明したが、本願発明はこれに限定されるものではなく、種々の改良、変更が可能である。
【0047】
例えば、軸受は、保持器の無い総ころ形のシェル形ニードル軸受に限らず、保持器を有するシェル型ニードル軸受、ソリッド形ニードル軸受、玉軸受、ころ軸受、すべり軸受などを用いることができる。
【0048】
また、軸受と十字軸とは、中間ばめに限らず、すきまばめ、締まりばめとすることもできる。
【0049】
カシメ部の形状も上記実施形態に示すものに限られず、例えば貫通孔の全周に亘って形成されていてもよい。また、カシメ部の数は適宜変更することができ、1箇所とすることもできるし、複数個所とすることもできる。それに合わせて、カシメ治具の形状も変更することができる。
【0050】
ベアリングカップの底部に形成された凸部は、ベアリングカップとは別体として形成された円盤状の部品を取り付けても良いし、また、作動トルクによっては凸部を設けなくても良い。
【0051】
ベアリングカップ内に異物が侵入するのを防止するために、十字軸とベアリングカップとの間の隙間を覆うシールを設けても良い。
【0052】
ヨークと十字軸との配置及びニードル軸受の圧入は、ヨーク11b側を先に行っても良く、また、全てのニードル軸受の圧入が終わってからカシメ部を形成するのではなく、ニードル軸受の圧入が終わったところからカシメ部を形成しても良い。
【0053】
以上のように、本発明によれば、ガタを抑制しながらも作動トルクが過度に大きくなるのを防ぐ十字軸式自在継手及び十字軸式自在継手の製造方法、並びに、操舵フィーリングが良く、操舵後のハンドル戻り性能を確保したステアリング装置用中間シャフト及びステアリング装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 車両用ステアリング装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリングコラム
4 電動モータ
5 中間シャフト
6 ピニオン軸
7 ステアリングギヤ
8a、8b タイロッド
9 雄シャフト
10 雌シャフト
11a、11b、14a、14b ヨーク
12、15 十字軸
13、16 十字軸式自在継手
17a、17b、17c、17d 貫通孔
18a、18b、18c、18d ニードル軸受
19 カシメ部
20 ベアリングカップ
21 ニードル
22 凸部
23 開口側端部
24 カシメ治具
25 突起
26 ストッパー