特許第6160245号(P6160245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160245
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/06 20060101AFI20170703BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20170703BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20170703BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   F16D28/00 A
   B60T7/12 C
   F02D29/00 G
   F02D29/02 K
   F02D29/00 F
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-111121(P2013-111121)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-228132(P2014-228132A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(72)【発明者】
【氏名】田丸 大輔
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−238291(JP,A)
【文献】 特開平1−122740(JP,A)
【文献】 特開2012−183868(JP,A)
【文献】 特開平2−159421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/06
B60T 7/12
F02D 29/00
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動軸とマニュアルトランスミッションの入力軸との間に設けられ、前記駆動軸と前記入力軸間を断接するマニュアル式のクラッチと、
前記駆動軸と前記入力軸間のクラッチトルクを可変にするクラッチトルク可変部と、
前方の障害物との衝突可能性を判定する衝突可能性判定部と、
前記衝突可能性判定部が前記障害物と衝突する可能性が有ると判定した場合に、前記障害物との衝突を回避する減速度である衝突回避減速度を演算し、前記衝突回避減速度に基づいて、前記クラッチトルク可変部を制御して前記クラッチトルクを減少させて、前記障害物との衝突を回避する衝突回避処理を実行する衝突回避部と、を有する車両用駆動装置。
【請求項2】
前記衝突回避部は、車両の減速度が前記衝突回避減速度となるように、前記クラッチトルク可変部を制御して前記クラッチトルクを減少させる請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記衝突回避部は、前記エンジンの回転速度が低下して前記エンジンが停止する可能性が有る場合に、前記クラッチトルク可変部を制御して、前記クラッチを切断状態とする請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記衝突回避部は、前記衝突可能性判定部が前記障害物と衝突する可能性が有ると判定した場合には、前記クラッチが接続されている状態において、前記エンジンにおいてフューエルカットを実行する請求項3に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記クラッチトルク可変部によって前記クラッチを接続状態とする請求項4に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
制動力を発生する制動力発生部を有し、
前記衝突回避部は、前記衝突可能性判定部が前記障害物と衝突する可能性が有ると判定した場合には、前記制動力発生部において制動力を発生させる請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記クラッチを操作するクラッチ操作部を有し、
前記クラッチトルク可変部は、前記クラッチを切断する方向に前記クラッチ操作部を駆動する請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項8】
運転者に前記クラッチトルク可変部の作動を報知する報知部を有する請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突防止機能を備えたマニュアルトランスミッション用の車両用駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、オートマチックトランスミッションを搭載した車両において、自車両が加速状態において、前方障害物が安全距離よりも近づいた場合に、駆動輪に伝達される駆動力が小さくなるようにオートマチックトランスミッションを変速する衝突防止技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−321389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マニュアルトランスミッションを備えた車両では、運転者が変速段を選択するため、特許文献1に示されるような衝突防止技術を適用することができない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、衝突防止機能を備えたマニュアルトランスミッション用の車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するためになされた、請求項1に係る発明は、エンジンの駆動軸とマニュアルトランスミッションの入力軸との間に設けられ、前記駆動軸と前記入力軸間を断接するマニュアル式のクラッチと、前記駆動軸と前記入力軸間のクラッチトルクを可変にするクラッチトルク可変部と、前方の障害物との衝突可能性を判定する衝突可能性判定部と、前記衝突可能性判定部が前記障害物と衝突する可能性が有ると判定した場合に、前記障害物との衝突を回避する減速度である衝突回避減速度を演算し、前記衝突回避減速度に基づいて、前記クラッチトルク可変部を制御して前記クラッチトルクを減少させて、前記障害物との衝突を回避する衝突回避処理を実行する衝突回避部と、を有する。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記衝突回避部は、車両の減速度が前記衝突回避減速度となるように、前記クラッチトルク可変部を制御して前記クラッチトルクを減少させる。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記衝突回避部は、前記エンジンの回転速度が低下して前記エンジンが停止する可能性が有る場合に、前記クラッチトルク可変部を制御して、前記クラッチを切断状態とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の発明において、前記衝突回避部は、前記衝突可能性判定部が前記障害物と衝突する可能性が有ると判定した場合には、前記クラッチが接続されている状態において、前記エンジンにおいてフューエルカットを実行する。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の発明において、前記クラッチトルク可変部によって前記クラッチを接続状態とする。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項1〜請求項5に記載の発明において、制動力を発生する制動力発生部を有し、前記衝突回避部は、前記衝突可能性判定部が前記障害物と衝突する可能性が有ると判定した場合には、前記制動力発生部において制動力を発生させる。
【0012】
請求項7に係る発明は、請求項1〜請求項6に記載の発明において、前記クラッチを操作するクラッチ操作部を有し、前記クラッチトルク可変部は、前記クラッチを切断する方向に前記クラッチ操作部を駆動する。
【0013】
請求項8に係る発明は、請求項1〜請求項7に記載の発明において、運転者に前記クラッチトルク可変部の作動を報知する報知部を有する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、障害物と衝突する可能性が有る場合に、衝突回避部は、クラッチトルク可変部を制御する。これにより、例えば、クラッチトルク可変部が、クラッチトルクを減少させることにより、駆動輪に伝達されるエンジントルクが減少又は0となる。このため、エンジントルクによる車両の加速が抑制又は停止され、或いは車両が減速し、車両の前方の障害物への衝突が回避される。また、衝突回避部は、クラッチトルク可変部を制御してクラッチトルクを減少させる。これにより、駆動輪に伝達されるエンジントルクが減少し又は0となる。このため、エンジントルクによる車両の加速が抑制又は停止され、或いは車両が減速し、車両の前方の障害物への衝突が回避される。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、エンジンの回転速度が低下してエンジンが停止する可能性が有る場合に、衝突回避部は、クラッチトルク可変部を制御して、クラッチを切断状態とする。これにより、エンジンが停止することに起因するブレーキ倍力装置の停止やパワーステアリングの操作力(ステアリング補助力)のアシスト停止が回避される。このため、安全に車両を減速・停止させることができる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、障害物と衝突する可能性が有ると場合に、衝突回避部は、クラッチが接続されている状態において、エンジンにおいてフューエルカットを実行する。これにより、車両にエンジンブレーキが作用し、車両を減速させることにより、車両の前方の障害物への衝突を回避することができる。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、衝突回避部は、クラッチトルク可変部によってクラッチを接続状態とする。これにより、確実に車両にエンジンブレーキを作用させることができる。
【0019】
請求項6に係る発明によれば、障害物と衝突する可能性が有る場合に、衝突回避部は、制動力発生部において制動力を発生させる。このため、制動力の発生により、確実に車両を減速・停止させることができる。
【0020】
請求項7に係る発明によれば、クラッチトルク可変部は、クラッチを切断する方向にクラッチを操作するクラッチ操作部を駆動する。これにより、簡単な構造により、クラッチトルクを可変に制御することができる。
【0021】
請求項8に係る発明によれば、報知部は、運転者にクラッチトルク可変部の作動を報知する。これにより、運転者にクラッチトルク可変部が作動を知覚させることにより、運転者に衝突可能性が有ることを知覚させることができ、運転者の注意を喚起させることができる。また、運転者にクラッチトルク可変部の作動を知覚させることにより、クラッチトルク可変部の作動による車両の挙動の変化に起因する運転者の違和感を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態の車両用駆動装置の構成を示す構成図である。
図2】クラッチストロークとクラッチトルクとの関係を表した「クラッチトルクマッピングデータ」である。
図3】ブレーキ装置、マスタシリンダ、バキュームブースタ、及び調圧装置を示した説明図である。
図4図1のA視図であり、クラッチ操作装置の説明図である。
図5】「衝突回避処理」のフローチャートである。
図6】車両の走行時における、経過時間と、速度、前方障害物との相対速度、回転速度、トルク、及びクラッチストロークとの関係を表したタイムチャートである。
図7】車両の走行時における、経過時間と、速度、前方障害物との相対速度、回転速度、トルク、及びクラッチストロークとの関係を表したタイムチャートである。
図8】車両の発進時における、経過時間と、速度、前方障害物との相対速度、回転速度、トルク、及びクラッチストロークとの関係を表したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(車両の説明)
図1に基づき、車両用駆動装置1について説明する。図1は、エンジン2を備えた車両100の車両用駆動装置1の概略を示している。図1において、太線は各装置間の機械的な接続を示し、破線による矢印は制御用の信号線を示している。
【0024】
図1に示すように、車両100には、エンジン2、クラッチ3、マニュアルトランスミッション4、デファレンシャル装置17が、この順番に、直列に配設されている。また、デファレンシャル装置17には、車両100の駆動輪Wrr、Wrlが接続されている。
【0025】
車両100は、アクセルペダル81及びクラッチペダル61を有している。アクセルペダル81は、エンジン2が出力するエンジントルクTeを可変に操作するものである。アクセルペダル81には、アクセルペダル81の操作量であるアクセル開度Acを検出するアクセルセンサ82が設けられている。
【0026】
クラッチペダル61(クラッチ操作部)は、後述するクラッチトルクTcを可変として、クラッチ3を操作するためのものである。車両100は、クラッチペダル61の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダ63を有している。マスタシリンダ63には、マスタシリンダ63のストローク、つまり、クラッチペダル61の操作量(以下、適宜クラッチストロークClと表す)を検出するクラッチセンサ62が設けられている。
【0027】
エンジン2は、ガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を使用するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等である。エンジン2は、駆動軸21、スロットルバルブ22、エンジン回転速度センサ23、燃料噴射装置28を有している。駆動軸21は、ピストンにより回転駆動されるクランクシャフトと一体的に回転する。このように、エンジン2は、駆動軸21にエンジントルクTeを出力し、駆動輪Wrr、Wrlを駆動する。なお、エンジン2がガソリンエンジンである場合には、エンジン2のシリンダヘッドには、シリンダ内の混合気を点火するための点火装置(不図示)が設けられている。
【0028】
スロットルバルブ22は、エンジン2のシリンダに空気を取り込む経路の途中に設けられている。スロットルバルブ22は、エンジン2のシリンダに取り込まれる空気量(混合気量)を調整するものである。燃料噴射装置28は、エンジン2の内部に空気を取り込む経路の途中やエンジン2のシリンダヘッドに設けられている。燃料噴射装置28は、ガソリンや軽油等の燃料を噴射する装置である。
【0029】
エンジン回転速度センサ23は、駆動軸21に隣接する位置に配設されている。エンジン回転速度センサ23は、駆動軸21の回転速度であるエンジン回転速度Neを検出して、その検出信号を制御部10に出力する。なお、本実施形態では、エンジン2の駆動軸21は、後述するクラッチ3の入力部材であるフライホイール31に連結している。
【0030】
クラッチ3は、エンジン2の駆動軸21と後述のマニュアルトランスミッション4の入力軸41との間に設けられている。クラッチ3は、運転者によるクラッチペダル61の操作により、駆動軸21と入力軸41とを接続又は切断するとともに、駆動軸21と入力軸41間におけるクラッチトルクTc(図2示)を可変とするマニュアル式のクラッチである。クラッチ3は、フライホイール31、クラッチディスク32、クラッチカバー33、ダイヤフラムスプリング34、プレッシャプレート35、クラッチシャフト36、レリーズベアリング37、スレーブシリンダ38を有している。
【0031】
フライホイール31は、円板状であり、駆動軸21に連結している。クラッチシャフト36は、入力軸41に連結している。クラッチディスク32は、円板状であり、その外周部の両面に摩擦材32aが設けられている。クラッチディスク32は、フライホイール31と対向して、クラッチシャフト36の先端に軸線方向移動可能且つ回転不能にスプライン嵌合している。
【0032】
クラッチカバー33は、扁平な円筒状の円筒部33aと、この円筒部33aの一端から回転中心方向に延在する板部33bとから構成されている。円筒部33aの他端は、フライホイール31に連結している。このため、クラッチカバー33は、フライホイール31と一体に回転する。プレッシャプレート35は、中心に穴が開いた円板状である。プレッシャプレート35は、フライホイール31の反対側において、クラッチディスク32と対向して軸線方向移動可能に配設されている。プレッシャプレート35の中心には、クラッチシャフト36が挿通している。
【0033】
ダイヤフラムスプリング34は、リング状のリング部34aと、このリング部34aの内周縁から、内側に向かって延出する複数の板バネ部34bとから構成されている。板バネ部34bは、内側方向に向かって徐々に、板部33b側に位置するように傾斜している。板バネ部34bは、軸線方向に弾性変形可能となっている。ダイヤフラムスプリング34は、板バネ部34bが軸線方向に圧縮された状態で、プレッシャプレート35とクラッチカバー33の板部33bとの間に配設されている。リング部34aは、プレッシャプレート35と当接している。板バネ部34bの中間部分は、板部33bの内周縁と接続している。ダイヤフラムスプリング34の中心には、クラッチシャフト36が挿通している。
【0034】
レリーズベアリング37は、図示しないクラッチ3のハウジングに取り付けられている。レリーズベアリング37に中心には、クラッチシャフト36が挿通し、軸線方向移動可能に配設されている。レリーズベアリングは、互いに対向し、相対回転可能な第一部材37aと第二部材37bとから構成されている。第一部材37aは、板部33bの先端と当接している。
【0035】
スレーブシリンダ38には、液圧により進退するプッシュロッド38aを有している。プッシュロッド38aの先端は、レリーズベアリング37の第二部材37bと当接している。スレーブシリンダ38とマスタシリンダ63とは、液圧配管39により接続されている。
【0036】
クラッチペダル61が踏まれていない状態では、マスタシリンダ63及びスレーブシリンダ38のいずれにも液圧は発生していない。この状態では、クラッチディスク32は、プレッシャプレート35を介して、ダイヤフラムスプリング34によって、フライホイール31に付勢されて押し付けられている。このため、摩擦材32aとフライホイール31との摩擦力、及び摩擦材32aとプレッシャプレート35との摩擦力により、フライホイール31、クラッチディスク32、及びプレッシャプレート35が一体回転し、駆動軸21と入力軸41とが一体回転する接続状態となっている。
【0037】
一方で、クラッチペダル61が踏まれると、マスタシリンダ63に液圧が発生し、スレーブシリンダ38にも液圧が発生する。すると、スレーブシリンダ38のプッシュロッド38aがレリーズベアリング37をダイヤフラムスプリング34側に押圧する。すると、板バネ部34bが板部33bの内周縁との接続部分を支点として変形し、クラッチディスク32をフライホイール31に付勢する付勢力が小さくなり、遂には0となる。
【0038】
図2に示すように、マスタシリンダ63のストロークであるクラッチストロークClが増大するにつれて、クラッチ3が駆動軸21から入力軸41に伝達するクラッチトルクTcは小さくなり、上記付勢力が0となると、クラッチトルクTcは0となり、クラッチ3は完全切断状態となる。このように、本実施形態のクラッチ3は、クラッチペダル61が踏まれていない状態では、クラッチ3が接続状態となる、ノーマルクローズドクラッチである。
【0039】
なお、以下の説明において、摩擦材32aがフライホイール31やプレッシャプレート35と接触を開始する状態を、クラッチ3の係合開始と称する。また、クラッチトルクTcが急激に上昇することを、クラッチ3の急係合と称する。
【0040】
マニュアルトランスミッション4は、駆動軸21と駆動輪Wrr、Wrlの間に設けられている。マニュアルトランスミッション4は、入力軸41及び出力軸42を有している。入力軸41は、クラッチ3の出力部材であるクラッチシャフト36と連結し、エンジン2からのエンジントルクTeが入力される。出力軸42は、駆動輪Wrr、Wrlに回転連結されている。マニュアルトランスミッション4は、入力軸41と出力軸42との間において、入力軸回転速度Ni(入力軸41の回転速度)を出力軸回転速度Noで除した変速比がそれぞれ異なる複数の変速段を選択的に切り替える有段変速機である。
【0041】
マニュアルトランスミッション4は、運転者のシフトレバー45の操作を、選択機構を作動させる力に変換するシフト操作機構47を備えている。運転者は、シフトレバー45を操作することにより、上述の変速段を選択するともに、マニュアルトランスミッション4を入力軸41と出力軸42とが回転連結していないニュートラル状態にすることができる。
【0042】
出力軸42に隣接する位置には、出力軸42の回転速度(出力軸回転速度No)を検出する出力軸回転速度センサ46が設けられている。出力軸回転速度センサ46によって検出された出力軸回転速度Noは、制御部10に出力される。
【0043】
制御部10は、車両100を統括制御するものである。制御部10は、CPU、RAM、ROMや不揮発性メモリー等で構成された記憶部(いずれも不図示)を有している。CPUは、図5に示すフローチャート対応したプログラムを実行する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものである。記憶部は上記プログラムや図2に示すマッピングデータを記憶している。
【0044】
制御部10は、ドライバのアクセルペダル81の操作に基づくアクセルセンサ82のアクセル開度Acに基づいて、運転者が要求しているエンジン2のトルクである要求エンジントルクTerを演算する。そして、制御部10は、要求エンジントルクTerに基づいて、スロットルバルブ22の開度Sを調整し、吸気量を調整するとともに、燃料噴射装置28の燃料噴射量を調整し、点火装置を制御する。
【0045】
これにより、燃料を含んだ混合気の供給量が調整され、エンジン2が出力するエンジントルクTeが要求エンジントルクTerに調整されるとともに、エンジン回転速度Neが調整される。
【0046】
車両100は、障害物検知装置15を有している。障害物検知装置15は、車両100前方の障害物を検知する装置であり、例えば、ステレオカメラ、ミリ波レーダ、赤外線レーザレーダ等である。障害物検知装置15は、車両100の運転席の前部やバンパー等に前方を向いて取り付けられている。
【0047】
制御部10(衝突可能性判定部)は、出力軸回転速度センサ46及び障害物検知装置15からの検知情報に基づいて、車両100が前方の障害物に衝突する可能性が有るか否かを判定する。具体的には、まず、制御部10は、出力軸回転速度センサ46からの検知信号に基づいて、車両100の車速(以下自車速Vownと略す)を演算する。次に、制御部10は、障害物検知装置15からの検知情報に基づいて、障害物までの相対距離を演算する。
【0048】
次に、制御部10は、障害物までの相対距離と、自車速Vownに基づいて、車両100が障害物に衝突する可能性があるか否かを判定する。車両100が障害物に衝突する可能性が有るか否かを判定する技術は、特開平11−321389号公報、特開2006−168629号公報、特開2012−192776号公報等に詳細に記載されている周知技術であるので、ここではこれ以上の説明を割愛する。
【0049】
車両100は、スピーカやディスプレー、ウォーニングランプ等の報知装置16を備えている。報知装置16は制御部10と通信可能に接続されている。
【0050】
(ブレーキ装置)
図1図3に示すように、車両は、ブレーキ装置Bfl、Bfr、Brl、Brr、ブレーキペダル56、マスタシリンダ58、バキュームブースタ59、調圧装置53を備えている。
【0051】
図3に示すように、ブレーキ装置Bfl、Bfr、Brl、Brrは、各車輪Wfl、Wfr、Wrl、Wrrと一体回転するブレーキディスクBDfl、BDfr、BDrl、BDrrと、ブレーキディスクBDfl、BDfr、BDrl、BDrrにブレーキパッド(不図示)を押し付けて摩擦制動力を発生させるキャリパーCfl、Cfr、Crl、Crrを備えている。ブレーキ装置Bfl、Bfr、Brl、Brrには、マスタシリンダ58により生成される「マスタ圧」により、上記ブレーキパッドをブレーキディスクBDfl、BDfr、BDrl、BDrrに押し付けるホイールシリンダWCfl、WCfr、WCrl、WCrrが設けられている。
【0052】
マスタシリンダ58は、ブレーキペダル56に入力された操作力により、「マスタ圧」を発生させる装置である。バキュームブースタ59は、エンジン2のインテークマニホールドと接続し、インテークマニホールドから供給される負圧により、ブレーキペダル56に入力された操作力を増大させてマスタシリンダ58に出力する装置である。
【0053】
調圧装置53は、マスタシリンダ58から供給されるブレーキフルードの「マスタ圧」を増圧又は減圧して、ホイールシリンダWCfl、WCfr、WCrl、WCrrに「ホイールシリンダ圧」を供給するものであり、周知のアンチロックブレーキ制御や横滑り防止制御を実現するものである。マスタシリンダ58とホイールシリンダWCrr、WCrlは、配管51及び調圧装置53を介して連通している。マスタシリンダ58とホイールシリンダWCfr、WCflは、配管52及び調圧装置53を介して連通している。
【0054】
ここで、調圧装置53について、4つのホイールシリンダのうち1つ(WCfr)に「ホイールシリンダ圧」を供給する構成について説明し、他の構成については同様であるため説明を省略する。調圧装置53は、保持弁531、減圧弁532、リザーバ533、ポンプ534、及びモータ535を備えている。保持弁531は、常開型の電磁弁であり、制御部10により開閉が制御される。保持弁531は、一方が配管52に接続され、他方がホイールシリンダWCfr及び減圧弁532に接続されるように設けられている。つまり、保持弁531は、調圧装置53の入力弁である。
【0055】
減圧弁532は、常閉型の電磁弁であり、制御部10により開閉が制御される。減圧弁532は、一方がホイールシリンダWCfr及び保持弁531に接続され、他方がリザーバ533に接続されている。減圧弁532が開状態となると、ホイールシリンダWCfrとリザーバ533が連通する。
【0056】
リザーバ533は、ブレーキフルードを貯蔵するものであり、減圧弁532、及びポンプ534を介して配管52に接続されている。ポンプ534は、吸い込み口がリザーバ533に接続され、吐出口が逆止弁zを介して配管52に接続されるよう設けられている。ここでの逆止弁zは、ポンプ534から配管52への流れを許容し、その逆方向の流れを規制する。
【0057】
ポンプ534は、制御部10の指令に応じたモータ535の作動によって駆動されている。ポンプ534は、アンチロックブレーキ制御の減圧モード時においては、ホイールシリンダWCfr内のブレーキフルード又はリザーバ533内に貯められているブレーキフルードを吸い込んでマスタシリンダ58に戻している。
【0058】
このように、調圧装置53は、ブレーキペダル56の操作に関わらず、「ホイールシリンダ圧」を調整し、ブレーキ装置Bfl、Bfr、Brl、Brrにおける制動力を減少させるとともに、ブレーキ装置Bfl、Bfr、Brl、Brrにおいて制動力を発生させることができる。制御部10は、「マスタ圧」、車輪速度の状態、及び前後加速度に基づき、各電磁弁531、532の開閉を切り換え制御し、モータ535を必要に応じて作動してホイールシリンダWCfrに付与する「ホイールシリンダ圧」を調整し、アンチロックブレーキ制御や横滑り防止制御を実行する。
【0059】
(クラッチ操作装置)
以下に、図4を用いて、クラッチ操作装置60について説明する。クラッチ操作装置60は、クラッチ3を操作するものである。図4に示すように、クラッチ操作装置60は、クラッチペダル61、クラッチセンサ62(図1示)、マスタシリンダ63、シャフト64、ドリブンギヤ65、ドライブギヤ66、モータ67、クラッチドライバ68、ターンオーバースプリング69、蓄電部71を有している。
【0060】
シャフト64は、車両100に回動可能に取り付けられている。シャフト64には、クラッチペダル61が取り付けられている。このような構造により、クラッチペダル61は、車両100に回動可能に取り付けられている。シャフト64には、ドリブンギヤ65が取り付けられている。ドライブギヤ66は、ドリブンギヤ65と噛合する。なお、ドリブンギヤ65のほうが、ドライブギヤ66よりも歯数が多く、またギヤ径も大きい。
【0061】
モータ67は、クラッチペダル61にクラッチペダル61の回動方向のトルクを付与するものである。なお、回動方向には、クラッチペダル61が原位置に復帰する方向及びこれと逆方向の両方が含まれる。モータ67には、直流モータ及び交流モータの両方が含まれる。
【0062】
ターンオーバースプリング69は、クラッチペダル61を踏み込み方向と反対側に付勢し、クラッチペダル61を踏み込み前の原位置に復帰させるものである。図4に示す実施形態では、ターンオーバースプリング69は、シャフト64に巻回され、一端がシャフト64に固定され、他端が車両100に固定された、巻回スプリングである。ターンオーバースプリング69は、コイルスプリングであっても差し支え無い。
【0063】
蓄電部71は、電気を蓄電するものであり、バッテリ及びキャパシタの両方が含まれる。蓄電部71は、車両100に元々搭載されているバッテリであっても差し支え無い。クラッチドライバ68は、モータ67及び蓄電部71と電気的に接続している。クラッチドライバ68は、制御部10と通信可能に接続している。クラッチドライバ68は、制御部10からの指令に基づいて、蓄電部71から供給された電流からモータ67に供給する駆動電流に変換し、モータ67を駆動する。
【0064】
モータ67の駆動によって、運転者のクラッチペダル61の操作に関わらず、クラッチペダル61を揺動させることにより、クラッチストロークClを任意に制御することができ、クラッチトルクTcを任意に制御することができるようになっている。ドリブンギヤ65、ドライブギヤ66、モータ67、クラッチドライバ68、及び蓄電部71によって、クラッチトルクTcを可変にする「クラッチトルク可変部」が構成されている。
【0065】
(衝突回避処理)
以下に、図5に示すフローチャートを用いて、「衝突回避処理」について説明する。イグニッションがONとされ、車両100が走行可能な状態となると「衝突回避処理」が開始し、プログラムはS11に進む。
【0066】
S11において、制御部10(衝突可能性判定部)が、衝突可能性が有ると判断した場合には(S11:YES)、プログラムをS21に進め、衝突可能性が無いと判断した場合には(S11:NO)、S11の処理を繰り返す。
【0067】
S21において、制御部10は、衝突回避減速度αsを演算する。具体的には、下式(1)に基づいて、衝突回避減速度αsが演算される。
αs=(−0.5・((Vfwd /3.6)2 −(Vown /3.6)2 ) /(d1−Lr+(Vown /3.6)・tb))/g …(1)
αs:衝突回避減速度
Vfwd:障害物速度
Vown:自車速
d1:停止時の目標とする前方障害物との距離(設定値)
Lr:前方障害物との距離
tb:空走時間(設定値)
【0068】
なお、障害物速度Vfwdや前方障害物との距離Lrは、障害物検知装置15からの検知情報に基づいて、制御部10が演算する。空走時間tbは、現在から後述の衝突を回避するための制御であるS23、S42、S52が開始されるまでの時間である。なお、衝突回避減速度αsを演算する方法については、特開平11−321389号公報に開示されているので、これ以上の説明は割愛する。S21が終了すると、プログラムはS22に進む。
【0069】
S22において、制御部10が、クラッチトルクTcの減少によって衝突を回避できると判断した場合には(S22:YES)、プログラムをS23に進め、クラッチトルクTcの減少によって衝突を回避できないと判断した場合には(S22:NO)、プログラムをS31に進める。なお、クラッチトルクTcを0としたとしても、車両100が衝突回避減速度αsとならない場合には、衝突が回避できないと判断される。
【0070】
S23において、制御部10(衝突回避部)は、クラッチドライバ68に制御信号を出力することにより、モータ67を駆動して、車両100がS21において演算された衝突回避減速度αsとなるように、クラッチトルクTcを減少させる。S23が終了すると、プログラムはS61に進む。
【0071】
S31において、制御部10が、エンジンストール(エンジン2の停止)の可能性が有ると判断した場合には(S31:YES)、プログラムをS32に進め、エンジンストールの可能性が無いと判断した場合には(S31:NO)、プログラムをS41に進める。なお、制御部10が、エンジン回転速度Neが規定回転速度(例えば700r.p.m.)を下回ったを判断した場合には、エンジンストールの可能性が有ると判断される。
【0072】
S32において、制御部10は、クラッチドライバ68に制御信号を出力することにより、クラッチトルクTcを0として、クラッチ3を切断する。S32が終了すると、プログラムはS52に進む。
【0073】
S41において、制御部10が、クラッチ3が完全係合で無いと判断した場合には(S41:YES)、プログラムをS42に進め、クラッチ3が完全係合であると判断した場合には(S41:NO)、プログラムをS43に進める。クラッチ3が完全係合で無いと状態とは、クラッチトルクTcが最大値で無い状態であり、クラッチ3が半クラッチ状態や、クラッチ3が切断されている状態を指し、S23の処理が実行されている場合や、運転者がクラッチペダル61を踏んでいる場合によって起こる。
【0074】
S42において、制御部10は、クラッチドライバ68に制御信号を出力することにより、クラッチトルクTcを最大値にして、クラッチ3を完全係合とする。S42が終了すると、プログラムはS43に進む。
【0075】
S43において、制御部10(衝突回避部)は、スロットルバルブ22を閉じるとともに、燃料噴射装置28における燃料噴射を停止させ(フューエルカット)、エンジン2において所謂エンジンブレーキを発生させる。S43が終了すると、プログラムはS51に進む。
【0076】
S51において、制御部10が、エンジンブレーキの発生により衝突を回避できると判断した場合には(S51:YES)、プログラムをS61に進め、エンジンブレーキの発生により衝突を回避できないと判断した場合には(S51:NO)、プログラムをS52に進む。なお、エンジンブレーキを発生させたとしても、車両100が衝突回避減速度αsとならない場合には、衝突が回避できないと判断される。
【0077】
S52において、制御部10(衝突回避部)は、調圧装置53(図3示)に制御信号を出力することにより、車両100が衝突回避減速度αsとなるように、ブレーキ装置Bfl、Bfr、Brl、Brrにおいて制動力を発生させる。S52が終了すると、プログラムはS61に進む。
【0078】
S61において、報知装置16は、制御部10からの指令に基づいて、衝突回避制御が介入している旨の報知を行う。S61が終了すると、プログラムはS62に進む。
【0079】
S62において、制御部10が、衝突可能性が無くなったと判断した場合には(S62:YES)、プログラムをS63に進め、衝突可能性が有ると判断した場合には(S62:NO)、プログラムをS21に戻す。
【0080】
S63において、制御部10は、S23、S43、S52の処理のうち実行されている処理を停止させる。S63が終了すると、プログラムはS11に戻る。
【0081】
(車両走行時における衝突回避処理1)
以下に、図6に示すタイムチャートを用いて、車両100の走行時における衝突回避処理について説明する。車両100と前車等の障害物との相対距離が縮まり(図6の(1))、衝突可能性が有ると判断された場合には(図5のS11でYESと判断)(図6のT1)、クラッチトルクTcが減少する制御が開始される(図6の(2)、図5のS23)。すると、エンジントルクTによる車両100の加速が抑制又は停止され、或いは車両100が減速する(図6の(5))。
【0082】
図6のT1〜T2までの間、クラッチトルクTcは、車両100が衝突回避減速度αsとなるように制御される。車両100と前車等の障害物との相対距離が大きくなる等(図6の(3))、衝突可能性が無くなった場合には(図6のT2、図5のS62でYESと判断)、クラッチトルクTcが減少する制御が停止され(図6の(4)、図5のS63)、クラッチトルクTcは運転者のクラッチペダル61に基づく、クラッチトルクとなる。
【0083】
(車両走行時における衝突回避処理2)
以下に、図7に示すタイムチャートを用いて、車両100の走行時における衝突回避について説明する。車両100と前車等の障害物との相対距離が縮まり(図7の(1))、衝突可能性が有ると判断され(図5のS11でYESと判断)、クラッチトルクTcの減少では、衝突が回避できないと判断された場合には(図5のS22でNOと判断)(図7のT1)、クラッチ3が接続された状態でエンジンブレーキが発生する(図7の(2))。すると、車両100は減速する(図7の(6))。
【0084】
エンジンブレーキの発生だけで、衝突が回避できない場合には(図5のS51でNOと判断)、制動力が発生する(図7の(3))。エンジン回転速度Neが低下し(図7の(4))、エンジンストールの可能性が有る場合には(図5のS31でYESと判断)(図7のT2)、クラッチ3が切断される(図7の(5)、T3)。そして、車両が停車し(図7のT4)、衝突可能性が無くなった場合には(図5のS62でYESと判断)、衝突を回避するための各種処理が停止される(図5のS63)。
【0085】
(車両発進時における衝突回避処理)
以下に、図8に示すタイムチャートを用いて、車両100の発進時における衝突回避について説明する。運転者がクラッチペダル61を離して、クラッチトルクTcを増大させて(図8の(1)、T1)、車両100が発進を開始した場合に(図8の(2))、車両100と前車等の障害物との相対距離が縮まり(図8の(3))、衝突可能性が有ると判断された場合には(図8のT2、図5のS11でYESと判断)、クラッチトルクTcが減少する制御が開始される(図8の(4))。すると、駆動輪Wrr、Wrlの伝達されるエンジントルクTeが減少又は0となるので、車両100が減速する(図8の(5))。
【0086】
そして、障害物との相対距離が広がる等(図8の(6))、衝突可能性が無くなった場合には(図8のT3、図5のS62でYESと判断)、クラッチトルクTcの減少制御が停止される(図8の(7)、図5のS63)。
【0087】
(本実施形態の効果)
以上の説明から明らかなように、障害物と衝突する可能性が有る場合に(図5のS11でYESと判断)、制御部10(衝突回避部)は、モータ67(クラッチトルク可変部)を制御してクラッチトルクTcを減少させる(図5のS23、図6の(2)、図8の(4))。これにより、駆動輪Wrr、Wrlに伝達されるエンジントルクTeが減少し又は0となる。このため、エンジントルクTeによる車両100の加速が抑制又は停止され、或いは車両100が減速し、車両100の前方の障害物への衝突が回避される。
【0088】
また、エンジン回転速度Neが低下してエンジン2が停止する可能性が有る場合に(図5のS31でYESと判断)、制御部10(衝突回避部)は、モータ67(クラッチトルク可変部)を制御して、クラッチ3を切断状態とする(図5のS32、図7の(5))。これにより、エンジン2が停止することに起因するバキュームブースタ59(ブレーキ倍力装置)の動作の停止やパワーステアリングの停止が回避される。このため、安全に車両100を減速・停止させることができる。
【0089】
また、障害物と衝突する可能性が有ると場合に(図5のS11でYESと判断)、制御部10(衝突回避部)は、クラッチ3が接続されている状態において、エンジン2においてフューエルカットを実行する(図5のS43、図7の(2))。これにより、車両100にエンジンブレーキが作用し、車両100を減速させることにより、車両100の前方の障害物への衝突を回避することができる。
【0090】
また、制御部10(衝突回避部)は、エンジンブレーキを発生させる場合に、クラッチ3が完全係合でない場合に(図5のS41でYESと判断)、モータ67(クラッチトルク可変部)を制御して、クラッチ3を接続状態とする。これにより、確実に車両100にエンジンブレーキを作用させることができ、車両100を確実に減速させることができる。
【0091】
また、障害物と衝突する可能性が有る場合に(図5のS11でYESと判断)、制御部10(衝突回避部)は、調圧装置53を制御することにより、ブレーキ装置Bfl、Bfr、Brl、Brr(制動力発生部)において制動力を発生させる(図5の52、図7の(3))。このため、制動力の発生により、確実に車両100を減速・停止させることができる。
【0092】
また、モータ67はクラッチペダル61を駆動して、クラッチトルクTcを可変に制御する。これにより、特別な油圧回路やクラッチディスク32をフライホイール31やプレッシャプレート35から離接させる機構等を設ける必要が無く、簡単な構造により、クラッチトルクTcを可変に制御することができる。
【0093】
また、報知装置16(報知部)は、運転者に衝突回避制御の介入(クラッチトルク可変部の作動)を報知する(図5のS61)。これにより、運転者に衝突回避制御の介入を知覚させることにより、運転者に衝突可能性が有ることを知覚させることができ、運転者の注意を喚起させることができる。また、運転者に衝突回避制御の介入を知覚させることにより、衝突回避制御の介入による車両100の挙動の変化に起因する運転者の違和感を低減させることができる。
【0094】
(別の実施形態)
以下に、以上説明した実施形態と異なる実施形態について説明する。
以上説明した実施形態では、モータ67の回転軸67aは、ドライブギヤ66及びドリブンギヤ65を介して、シャフト64に回転連結している。しかし、モータ67の回転軸67aが直接、シャフト64に連結している実施形態であっても差し支え無い。本実施形態では、モータ67の回転軸67aは、ドライブギヤ66及びドリブンギヤ65によって、モータ67が出力するトルクが増大されてシャフト64に伝達されるので、小型なモータ67を用いることができる。或いは、モータ67が出力するトルクが、直接クラッチペダル61に付与される実施形態であっても差し支え無い。
【0095】
以上説明した実施形態では、モータ67がクラッチペダル61を回動させることにより、クラッチトルクTcを可変に制御している。しかし、クラッチトルクTcを回転に制御する機構(クラッチトルク可変部)は、これに限定されず、例えば、マスタシリンダ63によって生成される液圧を増減させる油圧回路や、アクチュエータによってクラッチディスク32をフライホイール31やプレッシャプレート35から離接させる機構等であっても差し支え無い。
【0096】
以上説明した実施形態では、クラッチペダル61の操作力は、マスタシリンダ63、液圧配管39及びスレーブシリンダ38を介して、レリーズベアリング37に伝達させる。しかし、クラッチペダル61の操作力が、ワイヤ、ロッド、ギヤ等の機械的要素を介して、レリーズベアリング37に伝達される実施形態であっても差し支え無い。
【0097】
以上説明した実施形態では、クラッチセンサ62は、マスタシリンダ63のストローク量を検出している。しかし、クラッチセンサ62は、クラッチペダル61の操作量やマスタシリンダ63のマスタ圧、スレーブシリンダ38のストロークや液圧、レリーズベアリング37のストローク量を検出するセンサであっても差し支え無い。
【0098】
以上説明した実施形態では、制御部10は、出力軸回転速度センサ46によって検出された出力軸回転速度Noに基づいて、自車速Vownを演算している。しかし、制御部10が、車輪の回転速度を検出する車輪速度センサによって検出された車輪回転速度や、その他車輪と連動して回転する軸の回転速度を検出するセンサに基づいて、自車速Vownを演算する実施形態であっても差し支え無い。
【0099】
以上説明した実施形態では、クラッチ3に運転者の操作力を伝達するクラッチ操作部材は、クラッチペダル61である。しかし、クラッチ操作部材は、クラッチペダル61に限定されず、例えば、クラッチレバーであっても差し支え無い。同様に、アクセル開度Acを調整するアクセルペダル81の代わりに、例えば、アクセル開度Acを調整するアクセルグリップであっても差し支え無い。そして、本実施形態の車両用駆動装置を、自動二輪車やその他車両に適用しても、本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。
【0100】
以上説明した実施形態では、単一の制御部10が、エンジン2を制御するとともに、図5に示す「衝突回避処理」を実行する。しかし、エンジン制御部が、エンジン2を制御し、エンジン制御部とCAN(Controller Area Network)等の通信手段で接続された制御部10が「衝突回避処理」を実行する実施形態であっても差し支え無い。
【符号の説明】
【0101】
2…エンジン、3…クラッチ、4…マニュアルトランスミッション、10…制御部(衝突可能性判定部、衝突回避部)、16…報知装置(報知部)、41…入力軸、42…出力軸、53…調圧装置(制動力発生部)、61…クラッチペダル(クラッチ操作部)、60…クラッチ操作装置(クラッチトルク可変部)、6…モータ(クラッチトルク可変部)、68…クラッチドライバ(クラッチトルク可変部)、Bfl、Bfr、Brl、Brr…ブレーキ装置(制動力発生部)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8