(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スタンパ又はマスターの賦形面に、ブラスト加工、ドライエッチング加工又はウェットエッチング加工によって、前記補助用凹凸形状に対応する形状が形成されたことを特徴とする請求項6に記載の成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[成形体の第一実施形態]
図1において、本実施形態の成形体1は、液滴(図示せず)に対する転落性を備えたプラスチック製の表面構造を有している。
ここで、成形体とは、型を用いた圧縮成形や射出成形などによって、所定の形状に製作された物体といった意味である。また、前記の所定の形状は、特に限定されるものではなく、たとえば、キャップ、中栓、注ぎ口、ノズルなどのように特殊な形状でもよく、また、板状、シート状、フィルム状などであってもよい。
【0017】
尚、本実施形態では、プラスチック製の表面構造を有しているが、これに限定されるものではなく、たとえば、ガラス製の表面構造を有していてもよい。
また、プラスチック製又はガラス製の表面構造とは、表面構造となる部分が、プラスチック又はガラスからなる、あるいは、プラスチック及び/又はガラスを含むといった意味である。したがって、表面構造となる部分は、プラスチックやガラスの他に、たとえば、金属などを有していてもよい。
【0018】
また、成形体1は、上記表面構造が、凹凸形状2を有し、凹凸形状2の表面の少なくとも一部が、凹凸形状2より小さな補助用凹凸形状3を有している。
尚、本実施形態では、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3は、後述するように、スタンパ11を用いたホットエンボス法によって一緒に転写されるが、これに限定されるものではない。たとえば、予め補助用凹凸形状3が形成された表面に、凹凸形状2が転写されたり、あるいは、予め凹凸形状2が転写された表面に、補助用凹凸形状3が形成されてもよい。
【0019】
(凹凸形状)
凹凸形状2は、複数の並設された凸部21及び複数の並設された凹部22を有している。凸部21は、厚さ方向の断面形状がほぼ矩形状であり、頂面が細長いほぼ矩形状である。また、凹部22は、隣り合う凸部21によって形成されており、厚さ方向の断面形状がほぼ矩形状である。
上記の凹凸形状2は、凸部21の頂面の幅(適宜、頂幅と略称する。)がw
1であり、隣り合う凸部21どうしのピッチがp
1であり、隣り合う凸部21どうしのギャップがg
1(g
1=p
1−w
1)である。
【0020】
尚、凹凸形状2の構造は、上記ライン&スペース形状に限定されるものではなく、たとえば、
図2(a)に示すピラーアレイ形状や、
図2(b)に示すホールアレイ形状でもよい。
また、凸部21及び凹部22は、厚さ方向の断面形状が、ほぼ矩形状であるが、これに限定されるものではなく、たとえば、
図3(a)に示す頂面を所定の方向に傾けた形状、
図3(b)に示すほぼ台形状、
図3(c)に示す針形状、又は、
図3(d)に示す山形状などの、様々な形状であってもよい。尚、
図3においては、補助用凹凸形状3を省略してある。
さらに、複数の凸部21及び凹部22は、それぞれ同じ形状としてあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、図示してないが、異なる形状であってもよい。
【0021】
(補助用凹凸形状)
補助用凹凸形状3は、凹凸形状2の表面に形成されており、凹凸形状2より小さい。この補助用凹凸形状3は、
図4に示すように、通常、表面粗さによる任意の形状を有する凸部及び凹部からなっている。ここで、
図4に示す粗さ曲線は、一例であり、これに限定されるものではない。
【0022】
尚、本実施形態では、凹凸形状2のほぼ全面に補助用凹凸形状3が形成されているが、これに限定されるものではなく、凹凸形状2の一部に(たとえば、凸部21の頂面に)、補助用凹凸形状3が形成されていてもよい。
また、凹凸形状2より小さな補助用凹凸形状3とは、凹凸形状2の頂幅w
1、深さh
1及びピッチp
1に対して、補助用凹凸形状3の凸部の頂幅w
2(頂は、通常、湾曲しているので、微小である。)、深さh
2(算術平均粗さRa(=h
2)とも呼ばれる。)及びピッチp
2(局部山頂の平均間隔RSm(=p
2)とも呼ばれる。)が、w1>w
2、h
1>h
2、p
1>p
2であることをいう。
【0023】
また、成形体1は、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3の部分が、同一の成形用プラスチック材料からなり、かつ、表面構造が残留ひずみ成分が実質的に存在しない構成としてある。すなわち、成形体1は、転写成形により形成された二重凹凸構造を持つプラスチック成形体である。そして、成形体1の表面構造は、後述するように、転写成形によって形成されるので、実質的に残留ひずみが存在しない。
尚、たとえば、表面構造となる部分がガラス製である場合、このガラスの表面側に、同一の成形用ガラス材料からなる、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3の部分が形成される。
また、実質的に残留ひずみが存在しない、とは、後述するように、k≦1.10の場合をいう。
【0024】
次に、上記構成の成形体1の作用、及び、好ましい構成などについて、図面を参照して説明する。
まず、表面に微細構造があると撥液性が高くなることが知られており、この現象について、接触角に関するWenzelの理論とCassieの理論がある。
図5(a)は、Wenzelの理論によるWenzelモードの概略図を示しており、見かけの接触角θ
*は、下記の式(1)となる。
cosθ
*=r×cosθ
E 式(1)
尚、θ
Eは、平板上での接触角(初期の接触角とも呼ばれる。)である。
上記の式(1)において、rは、凹凸度(=接触面積/投影面積)とも呼ばれ、ピッチが狭く、パターンが深いほど、rは大きくなる。
【0025】
図5(b)は、Cassieの理論によるcassieモードの概略図を示しており、見かけの接触角θ
*は、下記の式(2)となる。
cosθ
*=φ
s−1+φ
s×cosθ
E 式(2)
尚、θ
Eは、平板上での接触角(初期の接触角とも呼ばれる。)である。
上記の式(2)において、面積比φ
sは、φ
s=接触面積/投影面積であり、ピッチが広く、パターン凸部の頂幅が狭いほど、φ
sは小さくなる。
【0026】
ここで、撥液性については、WenzelモードとCassieモードのいずれの状態でも、撥液性が向上することは知られているが、転落性及び繰り返し転落性を向上させるためには、Wenzelモードではなく、Cassieモードを安定的に維持する、すなわち、凸部21どうし間のエアポケット(凹部22にエアがある状態とも呼ばれる。)を安定に維持することが有効であると、本願発明の発明者等は考えるに至った。すなわち、Wenzelモードは液相と固相の界面が大きく、結果、界面に働く物理的な吸着力も大きくなるので、接触角は大きく撥液はしているが、液滴が容易に転落することはない。Cassieモードは界面が小さいため、液滴が転落する際乗り越えなければならないエネルギー障壁が低く、容易に転落し、何度でも繰り返し転落すると考えた。
【0027】
そして、発明者等は、安定的にCassieモードを維持するための条件を探索するため、液滴のエネルギーに関する下記の式(3)を用いて、シミュレーションを行った。
G/((9π)
1/3×V
2/3×σ
LV)=(1−cosθ
*)
2/3×(2+cosθ
*)
1/3 式(3)
尚、Gは、基板上に置かれた液滴のエネルギー
Vは、液滴の体積
σ
LVは、液-気相間の表面張力
また、シミュレーションの条件は、
パターン:ライン&スペース形状
凸部頂幅:20μm
パターン深さ:50μm
とした。
【0028】
上記の式(3)のシミュレーションによれば、
図6(a)に示すように、θ
E=94°では、Wenzelモードの方が常に安定であり、転落性、繰り返し転落性は低いと考えられる、しかし、
図6(b)に示すように、初期の接触角を向上させ、θ
E=105°では、φ
s≧0.5の範囲において、Cassieモードの方が常に安定であり、転落性、繰り返し転落性の向上が期待出来ることが分かった。すなわち、凹凸形状2の表面に補助用凹凸形状3を刻設することにより、補助用凹凸形状3の効果によって、初期の接触角を向上させることができれば、凹凸形状2によりCassieモードが常に安定的な領域を作り出せると推察された。
尚、ポリプロピレン製の平板に対する市販の醤油の初期の接触角θ
Eは、θ
E=94°である。
【0029】
次に、ポリプロピレン製の平板に対する醤油の転落性、繰り返し転落性の向上を考察する。
第一に、補助用凹凸形状3について考える。
液滴の初期の接触角θ
Eを、θ
E=94°とすると、液滴は補助用凹凸形状3に対して、Cassieモード又はWenzelモードのいずれかを取ると考えられる。Cassieモードの場合、上記の式(2)のシミュレーションにより、
図7(a)に示すように、φ
s2≦0.80であると、見かけの接触角θ
*は、θ
*≧105°となる。
尚、φ
s2の下限は、通常、0.001である(φ
s2≧0.001)。この理由は、φ
s2が0.001より小さいと、凸部の頂幅w
2が狭くなり外力に対する耐久性が著しく低下し、実用的では無くなるからである。
【0030】
また、Wenzelモードの場合、上記の式(1)のシミュレーションにより、
図7(b)に示すように、r≧3.5であると、見かけの接触角θ
*は、θ
*≧105°となる。
尚、rの上限は、通常、20.0である(r≦20.0)。この理由は、rが20.0より大きいとアスペクト比(=深さh
2÷凸部の頂幅w
2)が大きくなり、スタンパの製作コストが莫大になり実用的では無くなるからである。
上記の条件を満足する補助用凹凸形状3を凹凸形状2の表面に成形すれば、初期の接触角をθ
E≧105°に向上させることができる。
【0031】
第二に、凹凸形状2について考える。
補助用凹凸形状3によりCassieモードが常に安定的に形成されると仮定できるので、以後、凹凸形状2による液滴の挙動はすべてCassieモードをとると考える。
ここで、Cassieモードをとる液滴に対して、
図8に示すように、φ
s1≦0.5の場合、見かけの接触角はθ
*≧130°となり、液滴はほぼ球状に盛り上がるため、液相と固相の界面が小さくなり、結果、物理的な吸着力が小さくなり、転落性及び繰り返し転落性が向上する。
尚、φ
s1の下限値は0.001である(φ
s1≧0.001)。この理由は、φ
s1が0.001より小さいと凸部の頂幅w
1が狭くなり外力に対する耐久性が著しく低下し、実用的では無くなるからである。
【0032】
さらに、凹凸形状2のギャップg
1が、g
1≦300μmである方がよく、これにより、液滴の自重によるCassieモードからWenzelモードへの遷移を回避することができる。すなわち、凹凸形状2のギャップg
1(
図1参照)には、上限値がある。この理由は、ギャップg
1が長くなると、液滴高さH(
図5(a)参照)による液滴重さを毛管力が支えられなくなり、液滴はギャップ内に侵入し、CassieモードからWenzelモードへ遷移する。ここで、
図9に示すように、g
1≦300μmであると、液滴高さH≧ほぼ10mmの液滴にも耐えることができる。
尚、g
1の下限は、通常、1μmである(g
1≧1μm)。この理由は、g
1が1μmより小さいと、凸部の頂幅w
1も狭くなるため、外力に対する耐久性が著しく低下し、実用的で無くなるからである。
【0033】
上述のシミュレーション結果から、成形体1は、好ましくは、凹凸形状2の面積比φ
s1が、0.001≦φ
s1≦0.50であり、かつ、凹凸形状2のギャップg
1が、1μm≦g
1≦300μmであり、さらに、補助用凹凸形状3の面積比φ
s2が、0.001≦φ
s2≦0.80である、又は、補助用凹凸形状3の凹凸度rが、3.5≦r≦20.0であるとよい。
このようにすると、転落性、及び、繰り返し転落性に優れた成形体を得ることができる。
【0034】
以上説明したように、成形体1は、液滴に対して、Cassieモードを維持することができ、転落性を向上させることができる。特に、Cassieモードを維持することによって、凹凸形状2のギャップ内に微量の液滴も残らないので、液滴に対する繰り返し転落性を向上させることができる。
【0035】
[成形体の第二実施形態]
図10(a)において、本実施形態の成形体は、中栓1aであり、この中栓1aは、液体100を収納するボトル本体(図示せず)に取り付けられている。
また、本実施形態では、液体100を醤油としてあるが、液体100は、特に限定されるものではなく、たとえば、水、ソース、清涼飲料水、ケチャップ等の食品、化粧水あるいは薬品などであってもよい。
尚、
図10においては、中栓1aは、その要部を図示しており、図示してないが、回動式の蓋部などを有していてもよい。
【0036】
中栓1aは、注出口唇部101を有しており、注出口唇部101は、ほぼ円環形状の上面102、及び、ほぼ垂直方向に沿った側面103を有している。この上面102は、上述した凹凸形状2及び補助用凹凸形状3を有する表面構造とほぼ同じ表面構造(図示せず)を有している。
また、上面102の表面構造は、第一実施形態の表面構造と比べると、凸部21及び凹部22が、中栓1aの中心軸に対して、同心円となるように形成されている。
【0037】
ここで、好ましくは、中栓1aは、同一の成形用プラスチック材料からなるとよい。このようにすると、構造を単純化でき、製造原価のコストダウンを図ることができる。
尚、本実施形態では、中栓1aが、同一の成形用プラスチック材料からなる構成としてあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、中栓1aの注出口唇部101の表面構造のみを同一の成形用プラスチック材料からなる構成としてもよい。このようにすると、表面構造に関して、構造を単純化でき、製造原価のコストダウンを図ることができる。
【0038】
また、本実施形態では、中栓1aが、熱可塑性樹脂からなる構成としてあるが、これに限定されるものではない。たとえば、ガラス、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂であってもよい。このようにしても、上述した凹凸形状2及び補助用凹凸形状3を有する表面構造を形成することができる。
尚、上記の近傍とは、表面からの深さが約0.1mm〜数mmの領域といった意味である。
【0039】
上記構成の中栓1aは、液体100を注ぐ際、
図10(b)に示すように、傾けられ、液体100が注がれる。
次に、液体100を注ぐことを停止する際、
図10(c)に示すように、液体100は、上面102から転落するので、良好な液切れを実現することができる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の中栓1aによれば、第一実施形態の成形体1とほぼ同様の効果、すなわち、Cassieモードを維持することができ、転落性、及び、繰り返し転落性を向上させることができるといった効果によって、良好な液切れを実現することができる。したがって、中栓1aは、ほぼ永久的に液だれを防止することができる。
尚、本実施形態では、成形体が、液体100を流すための中栓1aであるが、これに限定されるものではなく、たとえば、図示してないが、キャップ、注ぎ口又はノズルなどであってもよい。
【0041】
[成形体の製造方法の一実施形態]
また、本発明は、成形体の製造方法の発明としても有効である。
本実施形態の成形体の製造方法は、上述した成形体1の製造方法であって、凹凸形状2及びこの凹凸形状2より小さな補助用凹凸形状3に対応する賦形面が形成されたスタンパ11を用いて、被転写体としてのプラスチック基板10に、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3を形成する転写工程を有する方法としてある。
また、本実施形態では、転写工程において、ホットエンボス法を用いているが、これに限定されるものではなく、たとえば、射出成形法、UVインプリント法、又は、圧縮成形法などを用いてもよい。
【0042】
次に、本実施形態の成形体の製造方法を行う成形装置7について、図面を参照して説明する。
図11(a)において、成形装置7は、スタンパ11、上型71、下型72、冷却板73、及び、光源74などを備えている。
上型71及び下型72は、プレス手段(図示せず)に取り付けられ、下型72が昇降する。
【0043】
上記の上型71は、水平方向に往復移動する冷却板73、冷却板73の下方に、上下方向に移動可能に取り付けられたスタンパ11、及び、冷却板73の上方に取り付けられた、加熱手段としての光源74などを有している
尚、プラスチック基板10は、熱可塑性樹脂からなっている。
また、冷却板73は、内部に冷却水を循環させる流路(図示せず)が形成されていて、効率よく冷却することができる。
【0044】
ここで、好ましくは、スタンパ11の賦形面に、ブラスト加工、ドライエッチング加工又はウェットエッチング加工によって、補助用凹凸形状3に対応する形状が形成されるとよい。このようにすると、補助用凹凸形状3に対応する形状を容易に形成することができる。
尚、本実施形態では、後述するように、ブラスト加工によって、補助用凹凸形状3に対応する形状をスタンパ11の賦形面に形成してある。
【0045】
また、スタンパ11は、通常、上面に黒色膜75を有しており、光源74からの赤外線を効率よく吸収する。これにより、スタンパ11の賦形面は、赤外線の輻射加熱によって均一かつ迅速に加熱される。
尚、黒色膜75の代わりにメッキ皮膜を有する構成としてもよい。
また、黒色膜75として、シリコーン系黒色塗料などが挙げられる。また、メッキ皮膜として、無電解Niメッキ、黒色Crメッキなどが挙げられる。
【0046】
次に、本実施形態の成形体の製造方法、及び、成形装置7の動作などについて、図面を参照して説明する。
まず、成形装置7は、初期状態として、
図11(a)に示すように、光源74が消灯しており、冷却板73が光源74の下方に位置し、スタンパ11が、収容スペース内の下方に位置し、プラスチック基板10が下型72に載置されている。
【0047】
次に、成形装置7は、
図11(b)に示すように、冷却板73が光源74の下方から移動し、光源74が点灯し、赤外線をスタンパ11に照射し、スタンパ11を輻射加熱する(加熱工程)。
【0048】
次に、成形装置7は、
図11(c)に示すように、光源74が消灯し、冷却板73が光源74の下方に移動し、下型72が上昇する。この際、まず、プラスチック基板10がスタンパ11の賦形面と接触し、転写が開始され、下型72がさらに上昇し、スタンパ11(スタンパ11の黒色膜75)が冷却板73と接触した後に、転写が終了する(転写工程)。また、スタンパ11が冷却板73と接触すると、スタンパ11の冷却が開始され、続いて、転写が終了した後、冷却されたスタンパ11によって、プラスチック基板10の冷却が開始され、その後、プラスチック基板10の冷却が終了する(冷却工程)。
【0049】
ここで、本実施形態の成形体の製造方法は、上述したように、転写工程において、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3に対応する賦形面が形成されたスタンパ11を用いて、一回の転写によって、プラスチック基板10に、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3を形成するので、生産性などを向上させることができる。
すなわち、たとえば、特許文献4のように、凹凸形状2を形成した後、エッチングやシリカ粒子含有塗料の塗布によって補助用凹凸形状3を形成する製造方法と比べると、本実施形態の成形体の製造方法は、生産性を向上させることができ、また、製造設備のコストを削減することができる。
【0050】
次に、成形装置7は、
図11(d)に示すように、下型72が降下し、スタンパ11の賦形面とプラスチック基板10の転写面との接触した状態が解除され、成形体1が離型される(離型工程)。その後、成形体1は、下型72から次工程に搬送される。
尚、本実施形態の成形体の製造方法は、上述したように、加熱工程、転写工程、冷却工程及び離型工程を有している。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の成形体の製造方法によれば、転写工程において、スタンパ11を用いて、一回の転写によって、プラスチック基板10に、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3を形成するので、生産性などを向上させることができる。
【0052】
[スタンパの一実施形態]
また、本発明は、スタンパの発明としても有効である。
図12において、本実施形態のスタンパは、上述した成形体1の製造に用いられるスタンパであり、賦形面(
図12において、光源側と反対側の面)に、凹凸形状12を有し、凹凸形状12の表面の少なくとも一部が、凹凸形状12より小さな補助用凹凸形状13を有する。
尚、凹凸形状12は、成形体1の凹凸形状2を転写するためのものであり、補助用凹凸形状13は、成形体1の補助用凹凸形状3を転写するためのものである。
【0053】
(凹凸形状)
凹凸形状12は、複数の並設された凸部121及び複数の並設された凹部122を有している。凸部121は、厚さ方向の断面形状がほぼ矩形状であり、頂面が細長いほぼ矩形状である。また、凹部122は、隣り合う凸部21の間に形成されており、厚さ方向の断面形状がほぼ矩形状である。
上記の凹凸形状12は、凸部121の頂面の幅(適宜、頂幅と略称する。)がw
3であり、隣り合う凸部121どうしのピッチがp
3であり、隣り合う凸部121どうしのギャップがg
3(g
3=p
3−w
3)である。
【0054】
(補助用凹凸形状)
補助用凹凸形状13は、凹凸形状12の表面に形成されており、凹凸形状12より小さい。この補助用凹凸形状13は、
図13に示すように、通常、表面粗さによる任意の形状を有する凸部及び凹部からなっている。ここで、
図13に示す粗さ曲線は、一例であり、これに限定されるものではない。
【0055】
尚、凹凸形状12より小さな補助用凹凸形状13とは、凹凸形状12の頂幅w
3、深さh
3及びピッチp
3に対して、補助用凹凸形状13の凸部の頂幅w
4(頂は、通常、湾曲しているので、微小である。)、深さh
4(算術平均粗さRa(=h
4)とも呼ばれる。)及びピッチp
4(局部山頂の平均間隔RSm(=p
4)とも呼ばれる。)が、w
3>w
4、h
3>h
4、p
3>p
4であることをいう。
また、上述した成形体1の各寸法に対して、凹凸形状12の頂幅w
3=凹凸形状2のギャップg
1、深さh
3=深さh
1、及び、ピッチp
3=ピッチp
1の関係がほぼ成立する。
【0056】
ここで、スタンパ11は、ブラスト加工によって、補助用凹凸形状3に対応する形状(すなわち、補助用凹凸形状13)をスタンパ11の賦形面に形成してある。このようにすると、補助用凹凸形状3に対応する形状を容易に形成することができる。
尚、スタンパ11は、上記構成に限定されるものではなく、たとえば、フォトリソグラフィーにより凹凸形状12が形成されたエポキシ樹脂製マスターに対し、ブラスト加工又はドライエッチング加工を行い、表面に補助用凹凸形状13を形成し、このマスターを母型に電鋳を行うことによりスタンパ11を製造してもよい。
【0057】
以上説明したように、本実施形態のスタンパ11によれば、補助用凹凸形状3に対応する形状(すなわち、補助用凹凸形状13)を容易に形成することができる。また、スタンパ11の製造原価のコストダウンを図ることができる。
【0058】
「残留ひずみ」
次に、上述した残留ひずみについて説明する。
一般的に、残留ひずみが、プラスチック又はガラス製の基板表面に刻設された表面構造(すなわち、凹凸形状及び補助用凹凸形状)にあると、経時あるいは表面温度が上昇した際に、凍結されたひずみが復元し、表面構造の寸法変化が発生する。
本発明において、残留ひずみによる寸法変化が発生すると、所期の撥液性、転落性、繰り返し転落性が得られなくなる。また、転写成形により基板表面に凹凸形状を成形する場合、表面が溶融した状態で凹凸形状に賦形されるので、残留ひずみは発生しない。
【0059】
しかし、ブラスト加工、エッチング加工により凹凸形状を成形する場合、表面には延伸及び圧縮の外力が加わり、表面近傍は分子配向が発生し、密度が増加する。この密度の増加により、表面は硬くなり、かつ、密度増加分に対応する残留ひずみが発生する。このように、残留ひずみの発生と硬さの増加は同じ原因で発生しているので、残留ひずみを硬さで定量化することができる。
そこで、基板表面の局所的な硬さを測定する方法として、ナノインデンテーション法を採用し、後述するように、実施例及び比較例に対して、評価試験を行った。
次に、この評価試験の方法について説明する。
【0060】
<評価試験方法>
評価試験方法は、以下の通りである。
まず、
図14の表1の成形条件で成形された表面構造を持つ基板に対し、下記の装置を用いて硬さの指標である『Indentation Young’s Modules(E
IT)』(インデンテーション ヤング率(E
IT))を測定する。
次に、成形体の表面構造部分の硬さ(E
IT)と表面構造が成形されていない部分の硬さ(E
IT0)を測定し、E
ITとE
IT0の比k(=E
IT/E
IT0)を算出する。
そして、k>1.10の場合、表面構造部分は硬く、残留ひずみが存在すると判定する。なお、通常、その後のクリープで寸法変形が発生する。
また、k≦1.10の場合、表面構造部分に残留ひずみは実質的に存在しないと判定する。なお、通常、その後、寸法変形は発生しない。
【0061】
使用する装置などは、以下のとおりである。
装置:Elionix 社製ENT-2100(S/N:H39-070)
圧子:ベルコビッチ圧子 No.5964
Max Load(最大荷重):0.03mN
Loading Rate(負荷速度):0.06mN/min
Unloading Rate(除荷速度):0.06mN/min
Pause(保持時間):60s
【0062】
Indentation Young’s Modules(E
IT)は、下記の式(4)により算出する。
【数1】
なお、式(4)において、
E
IT :Indentation Young’s Modules
E
r :All Young’s modulus
E
i :Young’s modulus of Diamond
ν :Poisson’s ratio of test sample
ν
i :Poisson’s ratio of Diamond
である。
【実施例1】
【0063】
実施例1の成形体は、正方形の平板(基板)であり、
図14の表1に示すように、
材料が、PP(プライムポリマーJ246M)であり、大きさが、縦58mm×横50mm×厚さ3mmであり、成形法は、スタンパ11を用いた転写成形(ホットエンボス法)であった。
・凹凸形状2は、形状が、ライン&スペースであり、頂幅w
1が、20μmであり、ピッチp
1が、100μmであり、ギャップg
1が、80μmであり、面積比φ
s1が、0.2であった。
・補助用凹凸形状3は、形状が、ピラーアレイであり、頂幅w
2が、50nmであり、ピッチp
2が、100nmであり、ギャップg
2が、50nmであり、深さh
2が、500nmであり、ピッチp
1が、100μmであり、
面積比φ
s2が、0.25であり、凹凸度rが、11であった。
【0064】
実施例1の成形体に対し、
図15の表2に示すように、残留ひずみの有無を評価した。
評価パラメータとしては、k≦1.10の場合、残留ひずみ無し(○)とし、k>1.10の場合、残留ひずみ有り(×)とした。
実施例1の成形体は、残留ひずみ無し(○)であった。
【0065】
また、実施例1の成形体に対し、
図15の表2に示すように、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3を評価した。
評価パラメータとしては、凹凸形状2の面積比φ
s1が、0.001≦φ
s1≦0.50であるとき、範囲内(○)とし、この条件を満足しないとき、範囲外(×)とした。
また、凹凸形状2のギャップg
1が、1μm≦g
1≦300μmであるとき、範囲内(○)とし、この条件を満足しないとき、範囲外(×)とした。
また、補助用凹凸形状3の面積比φ
s2が、0.001≦φ
s2≦0.80であるとき、範囲内(○)とし、この条件を満足しないとき、範囲外(×)とした。
また、補助用凹凸形状3の凹凸度rが、3.5≦r≦20.0であるとき、範囲内(○)とし、この条件を満足しないとき、範囲外(×)とした。
実施例1の成形体は、面積比φ
s1=○、ギャップg
1=○、面積比φ
s2=○、凹凸度r=○であった。
【0066】
また、実施例1の成形体に対し、
図15の表2に示すように、寸法変化、転落性及び繰り返し転落性に関する性能を評価した。
寸法変化の評価パラメータとしては、成形直後(約30分後)と24時間経過後の寸法を比較し、形状が変化していない場合、形状変化なし(○)とし、形状が変化している場合(±5%を超えて寸法が変化している場合)、形状変化あり(×)とした。
実施例1の成形体は、形状変化なし(○)であった。
【0067】
実施例1の成形体に対し、
図15の表2に示すように、転落性を評価した。
転落性の評価パラメータとして、
図14の表1に示す実施例1の成形体の上に、実液(純水、醤油、及び、中濃ソース)を滴下し、成形体を徐々に傾けて行った際の、液滴が転落を開始した時の角度である転落角を測定した。なお、滴下量及び測定するための装置は、以下の通りであった。
滴下量:
・純水: 17mg
・醤油: 14mg
・中濃ソース: 16mg
装置: 協和界面科学社製DropMaster700
そして、転落角≦20°を転落性良好(○)とし、転落角>20°を転落性不良(×)と判定した。
実施例1の成形体は、上記の各実液に対して、転落角≦20°(○)であった。
【0068】
実施例1の成形体に対し、
図15の表2に示すように、繰り返し転落性を評価した。
繰り返し転落性の評価パラメータとして、
図14の表1に示す実施例1の成形体を20°に傾けて固定し、実液(上記の純水、醤油、中濃ソース)を繰り返し滴下した。なお、液滴が成形体に固着し、転落しなくなった時の滴下回数がn(nは自然数。)のとき、繰り返し転落可能回数をn−1とした。また、繰り返し転落性が良い場合、この繰り返し転落可能回数n−1は大きい値を取る。
そして、繰り返し転落可能回数≧50回の場合、繰り返し転落性良好(○)と判定し、繰り返し転落可能回数<50回の場合、繰り返し転落性不良(×)と判定した。
実施例1の成形体は、上記の各実液に対して、繰り返し転落可能回数≧50回(○)であった。
上述したように、実施例1の成形体は、各評価項目において、良好な結果を得た。
【0069】
「比較例1」
比較例1の成形体は、実施例1の成形体と比べると、
図14の表1に示すように、成形方法が異なっている点が相違した。すなわち、比較例1の成形体は、転写成形(ホットエンボス法)にて、凹凸形状2を成形後、ブラスト加工により補助用凹凸形状3を成形した。なお、本比較例1の他の構成は、実施例1とほぼ同様とした。また、
図14の表1において、「←」は、左に同じ、といった意味である。
したがって、実施例1と同様の構成部分については、その詳細な説明を省略する。
【0070】
比較例1の成形体に対して、実施例1と同様に、各評価を行った。
比較例1の成形体は、
図15の表2に示すように、
残留ひずみの有無については、k>1.10であり、残留ひずみ有り(×)であった。
また、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3については、面積比φ
s1=○、ギャップg
1=○、面積比φ
s2=○、凹凸度r=○であった。なお、比較例1は、後述するように、寸法変化するが、成形直後(約30分後)と24時間経過後において、面積比φ
s1=○、ギャップg
1=○、面積比φ
s2=○、凹凸度r=○であった。
また、寸法変化については、形状変化あり(×)であった。
また、転落性については、上記の各実液に対して、転落角≦20°(○)であった。
また、繰り返し転落性については、上記の各実液に対して、繰り返し転落可能回数≧50回(○)であった。
【0071】
「参考例1」
参考例1の成形体は、実施例1の成形体と比べると、
図14の表1に示すように、凹凸形状2の頂幅w
1が0.2μmであり、ピッチp
1が250μmであり、ギャップg
1が249.8μmであり、面積比φ
s1が0.0008である点が相違した。なお、本参考例1の他の構成は、実施例1とほぼ同様とした。
したがって、実施例1と同様の構成部分については、その詳細な説明を省略する。
【0072】
参考例1の成形体に対して、実施例1と同様に、各評価を行った。
参考例1の成形体は、
図15の表2に示すように、
残留ひずみの有無については、k≦1.10であり、残留ひずみ無し(○)であった。
また、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3については、面積比φ
s1=×、ギャップg
1=○、面積比φ
s2=○、凹凸度r=○であった。
また、寸法変化については、形状変化なし(○)であった。
また、転落性については、上記の各実液に対して、転落角≦20°(○)であった。
また、繰り返し転落性については、上記の各実液に対して、繰り返し転落可能回数≧50回(○)であった。
ただし、参考例1の成形体は、評価テスト中に、パターンの一部が欠落した。
【0073】
「参考例2」
参考例2の成形体は、実施例1の成形体と比べると、
図14の表1に示すように、凹凸形状2の頂幅w
1が0.5μmであり、ピッチp
1が1.3μmであり、ギャップg
1が0.8μmであり、面積比φ
s1が0.38である点が相違した。なお、本参考例2の他の構成は、実施例1とほぼ同様とした。
したがって、実施例1と同様の構成部分については、その詳細な説明を省略する。
【0074】
参考例2の成形体に対して、実施例1と同様に、各評価を行った。
参考例2の成形体は、
図15の表2に示すように、
残留ひずみの有無については、k≦1.10であり、残留ひずみ無し(○)であった。
また、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3については、面積比φ
s1=○、ギャップg
1=×、面積比φ
s2=○、凹凸度r=○であった。
また、寸法変化については、形状変化なし(○)であった。
また、転落性については、上記の各実液に対して、転落角≦20°(○)であった。
また、繰り返し転落性については、上記の各実液に対して、繰り返し転落可能回数≧50回(○)であった。
ただし、参考例2の成形体は、評価テスト中に、パターンの一部が欠落した。
【0075】
「参考例3」
参考例3の成形体は、実施例1の成形体と比べると、
図14の表1に示すように、凹凸形状2の頂幅w
1が20μmであり、ピッチp
1が100μmであり、ギャップg
1が80μmであり、面積比φ
s1が0.2である点、及び、補助用凹凸形状3の頂幅w
2が10nmであり、ピッチp
2が400nmであり、ギャップg
2が390nmであり、深さh
2が10000nmであり、面積比φ
s2が0.0006であり、凹凸度rが3.5である点が相違した。なお、本参考例3の他の構成は、実施例1とほぼ同様とした。
したがって、実施例1と同様の構成部分については、その詳細な説明を省略する。
【0076】
参考例3の成形体に対して、実施例1と同様に、各評価を行った。
参考例3の成形体は、
図15の表2に示すように、
残留ひずみの有無については、k≦1.10であり、残留ひずみ無し(○)であった。
また、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3については、面積比φ
s1=○、ギャップg
1=○、面積比φ
s2=×、凹凸度r=○であった。
また、寸法変化については、形状変化なし(○)であった。
また、転落性については、上記の各実液に対して、転落角≦20°(○)であった。
また、繰り返し転落性については、上記の各実液に対して、繰り返し転落可能回数≧50回(○)であった。
ただし、参考例3の成形体は、評価テスト中に、パターンの一部が欠落した。
【0077】
「参考例4」
参考例4の成形体は、実施例1の成形体と比べると、
図14の表1に示すように、凹凸形状2の頂幅w
1が20μmであり、ピッチp
1が100μmであり、ギャップg
1が80μmであり、面積比φ
s1が0.2である点、及び、補助用凹凸形状3の頂幅w
2が10nmであり、ピッチp
2が100nmであり、ギャップg
2が90nmであり、深さh
2が500nmであり、面積比φ
s2が0.01であり、凹凸度rが3である点が相違した。なお、本参考例4の他の構成は、実施例1とほぼ同様とした。
したがって、実施例1と同様の構成部分については、その詳細な説明を省略する。
【0078】
参考例4の成形体に対して、実施例1と同様に、各評価を行った。
参考例4の成形体は、
図15の表2に示すように、
残留ひずみの有無については、k≦1.10であり、残留ひずみ無し(○)であった。
また、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3については、面積比φ
s1=○、ギャップg
1=○、面積比φ
s2=○、凹凸度r=×であった。
また、寸法変化については、形状変化なし(○)であった。
また、転落性については、上記の各実液に対して、転落角≦20°(○)であった。
また、繰り返し転落性については、上記の各実液に対して、繰り返し転落可能回数≧50回(○)であった。
ただし、参考例4の成形体は、評価テスト中に、パターンの一部が欠落した。
【0079】
以上、本発明の成形体、成形体の製造方法及びスタンパについて、好ましい実施形態などを示して説明したが、本発明に係る成形体、成形体の製造方法及びスタンパは、上述した実施形態などにのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、中栓1aの注出口唇部101の構造は、上記に限定されるものではなく、様々な形状であってもよい。すなわち、たとえば、図示してないが、側面103も、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3を有する表面構造とほぼ同じ表面構造を有していてもよい。また、上面102と側面103とが面取りされており、この面取りされた表面も、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3を有する表面構造とほぼ同じ表面構造を有していてもよい。
【0080】
また、本実施形態の成形体の製造方法は、スタンパ11を用いて、一回の転写によって、凹凸形状2及び補助用凹凸形状3を形成する方法としてあるが、成形体1の製造方法は、これに限定されるものではなく、たとえば、射出成形によって、凹凸形状2を有するシート状又はフィルム状の成形体1を成形し、次に、この成形体1に、ローラ状のスタンパを用いて補助用凹凸形状3を圧縮成形してもよい。