特許第6160365号(P6160365)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三星ダイヤモンド工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6160365-加工装置 図000002
  • 特許6160365-加工装置 図000003
  • 特許6160365-加工装置 図000004
  • 特許6160365-加工装置 図000005
  • 特許6160365-加工装置 図000006
  • 特許6160365-加工装置 図000007
  • 特許6160365-加工装置 図000008
  • 特許6160365-加工装置 図000009
  • 特許6160365-加工装置 図000010
  • 特許6160365-加工装置 図000011
  • 特許6160365-加工装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160365
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】加工装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20170703BHJP
   B23D 1/10 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   H01L21/304 601Z
   B23D1/10
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-174808(P2013-174808)
(22)【出願日】2013年8月26日
(65)【公開番号】特開2015-43381(P2015-43381A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2016年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】堀井 良吾
【審査官】 内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−203221(JP,A)
【文献】 特開2011−238672(JP,A)
【文献】 特開2005−001042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23D 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜層が形成された基板の前記薄膜層の一部を除去して前記基板に溝を形成する、パターニング加工を行う加工装置であって、
先端に刃先を備えるパターニングツールと、
鉛直方向に長手方向を有する第1の部分を有し、前記刃先を鉛直下方に向けた状態を保って前記パターニングツールを前記第1の部分の下端部において保持するパターニングヘッドと、
前記パターニングヘッドを鉛直方向において付勢する付勢手段と、
前記パターニングヘッドの自重をキャンセルする自重キャンセル手段と、
前記パターニングヘッドの前記第1の部分の一部を水平面内において囲驍するガイド部を有するとともに、前記パターニングヘッドの前記第1の部分の表面に設けられた複数の噴出孔のそれぞれから前記ガイド部の対向する面に向けてエアを噴出することにより、前記パターニングヘッドを前記ガイド部に対し非接触な状態にて保持しつつ前記ガイド部に沿って鉛直方向に案内する静圧案内手段と、
を備え
前記パターニング加工の際の前記基板に対する前記パターニングツールの相対移動方向を第1の方向とするとき、前記複数の噴出孔のうち、少なくとも、前記パターニングヘッドの前記第1の方向に垂直な面の最も上側および最も下側に設けられてなる噴出孔の内部に、両端部における圧力状態に応じて自在にかつ自律的に開閉する可変バルブを備える、ことを特徴とする加工装置。
【請求項2】
請求項に記載の加工装置であって、
前記可変バルブが、
中空円筒状のコイルバネであるバネ部材と、
円筒状をなしており、一方端側に十字状の溝部を有するとともに他方端側に円錐台状の突起部を有してなり、かつ、前記溝部の中心と前記突起部の間に流路を有し、前記突起部に前記バネ部材が接続されてなる絞り部材と、
円筒状をなしており、一方端側に円錐台状の切り欠き部を有してなるとともに前記切り欠き部の底部から長手方向に沿って前記バネ部材が挿嵌される空隙を有し、かつ、前記空隙と他方端側との間に流路を有する本体部とを備え、前記絞り部材の突起部と前記本体部の切り欠き部とが対向して配置されていることを特徴とする加工装置。
【請求項3】
請求項に記載の加工装置であって、
前記複数の噴出孔のうち前記可変バルブが設けられてなるものをバルブ付き噴出孔とするとき、前記可変バルブは、前記バルブ付き噴出孔において前記本体部の前記他方端側が前記ガイド部と対向するように設けられてなり、
前記バルブ付き噴出孔において前記本体部の前記他方端側近傍の圧力が低下したとき、前記バネ部材が縮んで前記切り欠き部と前記突起部との間の間隔が狭くなる、
ことを特徴とする加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルコパイライト系薄膜太陽電池などの製造に用いる加工装置に関し、特に、薄膜層の一部を除去してパターニングを行う加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CIS(CuInSe)やCIGS(Cu(In1−xGa)Se)といったカルコパイライト系薄膜太陽電池は、例えば、ソーダガラスなどのガラス基板に、裏面電極となるモリブデン(Mo)膜をスパッタリングで成膜し、係るモリブデン膜の上に、CISもしくはCIGSからなるp型の光吸収層、CdSからなる高抵抗バッファ層、ITOなどからなるn型の酸化物透明導電膜(TCO)層を、それぞれに適した成膜法で順次に成膜することによって作製される。
【0003】
ただし、係る製造プロセスの途中において、基板上に形成された複数の太陽電池セル間の絶縁を確保するために、先に形成された薄膜層の一部を直線状に除去して絶縁用の(セル分離用の)加工溝(加工痕)を形成するパターニング加工が行われる。係るパターニング加工には、ガラス基板上に形成されたMo層をパターニングするP1工程と、P1工程の後、Mo層上に形成されたCIGS光吸収層をパターニングするP2工程と、P2工程の後、CIGS光吸収層上に形成されたTCO層をパターニングするP3工程とがある。
【0004】
このうち、P1工程はレーザー光により行われるが、P2、P3工程はパターニングツールとも称される溝加工ツールによってメカニカルに行われるのが一般的である。係るメカニカルスクライビングにおいては、通常、溝加工ツールの先端部に設けられた刃先を基板に接触させた状態で溝加工ツールを基板に対して水平に相対移動させることにより、溝加工ツールが接触した部分の薄膜層を除去することで、基板に加工溝を形成する。
【0005】
しかしながら、基板は必ずしも平坦ではなく、多少の反りや撓みを有することがある。それゆえ、単に刃先の高さを一定に保って溝加工ツールを相対移動させるだけでは、刃先と基板との接触が十分ではなく、あるいは刃先が基板に全く接触せず、加工溝を良好に形成できない箇所が生じ得る。そのため、反りや撓みのある基板に対応すべく、あらかじめ基板の凹凸(高さ位置分布)を測定しておき、係る凹凸に従ってツールの高さ位置を違えることにより基板とツールとの高さ方向における相対的な位置関係を一定に保って加工を行う態様が、従来より周知である。
【0006】
あるいは、加工溝の加工精度を高めるべく、溝加工ツールが基板に与える力が一定に保たれるように制御を行いつつ加工を行う装置もすでに公知である(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された装置においては、溝加工ツールを保持するスクライブヘッドに、溝加工ツールを加圧するエアシリンダが設けられており、刃先が基板を押圧する力が一定となるように、エアシリンダが溝加工ツールに与える力が調整される。これにより、直線的できれいな加工溝が形成されるようになっている。
【0007】
また、水平に配置された四角柱状のガイド体を囲驍する態様にて無底直方体状の可動体を設け、該可動体の内部からガイド体の表面に向けて静圧気体を噴出させることで生じる静圧により、可動体をガイド体に沿って非接触状態で支持、案内する静圧気体直線案内装置もすでに公知である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−155151号公報
【特許文献2】特開2004−60833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
溝加工ツールにより基板表面に加工溝を形成する場合、理想的には、薄膜層を所望の加工溝の幅で除去するのに最低限必要な力が、基板に対する刃先の相対移動方向において刃先から基板に(より詳細には、刃先と接触する薄膜層に)加わればよい。基板に対し必要以上の力が加わると、溝加工で除去しようとする薄膜層の下のMo層を損傷させたり、溝加工ツールを不必要に摩耗させたりするため好ましくない。また、係る相対移動方向に直交する方向(以下、直交方向)において刃先から基板に作用する力は、直接に加工に利用される力ではないので、加工が確実に実現される限りにおいて、できるだけ小さいことが望ましい。
【0010】
ただし、その一方で、溝加工ツールに不要な摩擦力が作用すると、刃先から基板に不要に大きな力が作用してしまったり、あるいは、基板と刃先との接触状態が不十分となって、確実な加工が実現されない場合がある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、所望の加工溝を確実に形成することができる加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、薄膜層が形成された基板の前記薄膜層の一部を除去して前記基板に溝を形成する、パターニング加工を行う加工装置であって、先端に刃先を備えるパターニングツールと、鉛直方向に長手方向を有する第1の部分を有し、前記刃先を鉛直下方に向けた状態を保って前記パターニングツールを前記第1の部分の下端部において保持するパターニングヘッドと、前記パターニングヘッドを鉛直方向において付勢する付勢手段と、前記パターニングヘッドの自重をキャンセルする自重キャンセル手段と、前記パターニングヘッドの前記第1の部分の一部を水平面内において囲驍するガイド部を有するとともに、前記パターニングヘッドの前記第1の部分の表面に設けられた複数の噴出孔のそれぞれから前記ガイド部の対向する面に向けてエアを噴出することにより、前記パターニングヘッドを前記ガイド部に対し非接触な状態にて保持しつつ前記ガイド部に沿って鉛直方向に案内する静圧案内手段と、を備え、前記パターニング加工の際の前記基板に対する前記パターニングツールの相対移動方向を第1の方向とするとき、前記複数の噴出孔のうち、少なくとも、前記パターニングヘッドの前記第1の方向に垂直な面の最も上側および最も下側に設けられてなる噴出孔の内部に、両端部における圧力状態に応じて自在にかつ自律的に開閉する可変バルブを備える、ことを特徴とする。
【0014】
請求項の発明は、請求項に記載の加工装置であって、前記可変バルブが、中空円筒状のコイルバネであるバネ部材と、円筒状をなしており、一方端側に十字状の溝部を有するとともに他方端側に円錐台状の突起部を有してなり、かつ、前記溝部の中心と前記突起部の間に流路を有し、前記突起部に前記バネ部材が接続されてなる絞り部材と、円筒状をなしており、一方端側に円錐台状の切り欠き部を有してなるとともに前記切り欠き部の底部から長手方向に沿って前記バネ部材が挿嵌される空隙を有し、かつ、前記空隙と他方端側との間に流路を有する本体部とを備え、前記絞り部材の突起部と前記本体部の切り欠き部とが対向して配置されていることを特徴とする。
【0015】
請求項の発明は、請求項に記載の加工装置であって、前記複数の噴出孔のうち前記可変バルブが設けられてなるものをバルブ付き噴出孔とするとき、前記可変バルブは、前記バルブ付き噴出孔において前記本体部の前記他方端側が前記ガイド部と対向するように設けられてなり、前記バルブ付き噴出孔において前記本体部の前記他方端側近傍の圧力が低下したとき、前記バネ部材が縮んで前記切り欠き部と前記突起部との間の間隔が狭くなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1ないし請求項の発明によれば、パターニングヘッドはガイドと非接触な状態に保たれるので、加工の際にパターニングヘッドが鉛直方向に上下動する場合であっても、パターニングヘッドとガイド部との間で摩擦が生じることはなく、それゆえ、パターニングツールの基板の表面凹凸に対する追随性、もしくは、パターニングツールが基板に対して与える押圧力(付勢力)の安定性が、良好に確保される。
【0017】
特に、請求項2ないし請求項4の発明によれば、特段の制御要素を設けずとも、噴出孔からのエアの噴出を自律的に制御することが出来る。
【0018】
特に、請求項4の発明によれば、パターニングヘッドの垂直部が傾斜姿勢にある場合であっても、ガイド部との間で非接触状態が保たれる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】加工装置100の構成を概略的に示す斜視図である。
図2】加工装置100に備わるパターニングヘッド8の近傍部分を拡大した側面図YZ側面図である。
図3】加工装置100に備わるパターニングヘッド8の近傍部分を拡大したZX断面図である。
図4】加工装置100の機能的構成を示すブロック図である。
図5】加工装置100において静圧案内機構を構成するパターニングヘッド8の垂直部8aとガイド7cとの要部外観斜視図である。
図6】垂直部8aのみの要部外観斜視図である。
図7】垂直部8aに設けられたエア噴出機構8cの構成を概略的に示す斜視図である。
図8】静圧案内機構全体における圧力のバランスが保たれ、パターニングヘッド8の姿勢が安定しているときの垂直部8aを通る加工装置100のZX要部断面図である。
図9】パターニング加工の途中、ステージ2がX軸正方向に移動することによりパターニングヘッド8が基板Wに対してX軸負方向に相対移動するときの垂直部8aを通る加工装置100のZX要部断面図である。
図10】可変バルブ30の構成を示す断面図である。
図11】バネ部材32の図示を省略した可変バルブ30の要部外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<装置構成と基本動作>
図1は、本発明の実施の形態に係る加工装置100の構成を概略的に示す斜視図である。図2図3は、加工装置100に備わるパターニングヘッド(スクライブヘッド)8の近傍部分を拡大した2つの側面図(YZ側面図およびZX断面図)である。図4は、加工装置100の機能的構成を示すブロック図である。
【0021】
本実施の形態に係る加工装置100は、概略的にいえば、ガラスなどの下地基板上に薄膜層を形成してなる加工対象基板(以下、単に基板とも称する)Wの薄膜層を部分的に除去する加工を行う装置である。例えば、加工装置100は、CIS(CuInSe)やCIGS(Cu(In1−xGa)Se)といったカルコパイライト系薄膜太陽電池の製造プロセスにおいて、いわゆるP2工程に使用することが出来る。
【0022】
なお、P2工程までのカルコパイライト系薄膜太陽電池の代表的な製造プロセスは、以下の工程を含んでいる。加工装置100は、このうちの工程iv)に好適な装置である。
【0023】
i)ガラス基板の上にMo層を形成する;
ii)複数の太陽電池セル間の絶縁を確保するために、レーザー光の照射によってMo層を直線状に除去することにより複数の直線状の加工溝(P1ライン)を形成するパターニング加工を行う(P1工程);
iii)P1ラインが形成されたMo層の上にCIGS光吸収層を形成する;
iv)P1ラインから一定距離を保ちつつパターニングツールを移動させてCIGS光吸収層を除去することにより、P1ラインに沿った(P1ラインの形状に倣った)複数の直線状の加工溝(P2ライン)を形成するパターニング加工を行う(P2工程)。
【0024】
本実施の形態に係る加工装置100は、基台1の上に、ステージ2と、ヘッド移動機構3とを主として備える。なお、図1においては、詳細を後述するパターニングツール(スクライブツール)10による加工方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、鉛直方向をZ軸方向とする右手系のXYZ座標を付している。
【0025】
ステージ2は、ガラスからなり、その上面に基板Wを固定できるようになっている。ステージ2に対する基板Wの固定は、ステージ2の上面に設けられた図示しない吸引孔を含む公知の吸引手段2a(図4)によって実現される。また、ステージ2は、例えばボールネジ機構やリニアモータ機構などの図1においては図示しない公知の駆動手段2b(図4)によってX軸方向に進退自在とされてなる。本実施の形態に係る加工装置100においては、係るステージ2のX軸方向の移動によって、パターニングツール10によるX軸方向への加工が実現される。
【0026】
ヘッド移動機構3は、Y軸方向およびZ軸方向におけるパターニングヘッド8の移動を担う部位である。ヘッド移動機構3は、Y軸方向において互いに離間する1対の支柱4(4a、4b)と、支柱4a、4bによって支持されることによってステージ2の上方においてY軸方向に延在するガイドバー5と、Y軸方向に移動自在なY軸移動部6と、Z軸方向に移動自在なZ軸粗動部7と、Z軸粗動部7に保持されたパターニングヘッド8とを主として備える。
【0027】
Y軸移動部6は、概略、YZ平面に平行な板状をなしており、X軸方向負側の面に設けられた一対の被ガイド部6a、6bがガイドバー5に設けられた一対のガイド5a、5bに案内されることによってY軸方向に移動自在とされてなる。また、Y軸移動部6は、X軸方向正側の面に一対のガイドバー6c、6dを備える。
【0028】
Z軸粗動部7は、概略、YZ平面に平行な板状をなしており、そのX軸方向負側の面に設けられた一対の被ガイド部7a、7bが、Z軸方向に延在する態様にてY軸移動部6に設けられた一対のガイドバー6c、6dに案内されることによってZ軸方向に移動自在とされてなる。
【0029】
Z軸方向におけるZ軸粗動部7の動作はボールネジ機構により実現される。すなわち、Z軸方向に延在させて設けられたボールねじ7dがモータ7eによって駆動されることで、一対の被ガイド部7a、7bが一対のガイドバー6c、6dによってZ軸方向に案内される。
【0030】
また、Z軸粗動部7のX軸方向正側の面には、Z軸方向に延在する貫通孔7hを有するガイド7cが付設されてなる。ガイド7cは、後述するように、パターニングヘッド8の動作をZ軸方向に制限するために設けられてなる。
【0031】
なお、図2および図3においては図示を省略するが、同様に、Y軸方向におけるY軸移動部6の動作も、モータ6e(図4)を有するボールネジ機構により実現される。
【0032】
パターニングヘッド8は、概略、ZY平面に平行でZ軸方向に長手方向を有する矩形状の垂直部8aとXY平面に平行でY軸方向に長手方向を有する矩形状の水平部8bとを有しており、かつ、YZ側面視において、L字状をなしている。垂直部8aの下端部分にはパターニングツール10を保持するツールホルダ8hが着脱自在に付設されてなる。なお、後述するように、パターニングヘッド8は、傾斜姿勢を採ることがあり、その際には垂直部8aは必ずしも垂直状態ではなく、水平部8bは必ずしも水平状態ではないが、係る状態の場合も、便宜上、両部分をそれぞれ垂直部8aおよび水平部8bと称することとする。
【0033】
垂直部8aは、そのXY断面が矩形状をなしている。また、垂直部8aは、そのZ軸方向において、水平部8bと接合されてなる上端側近傍とツールホルダ8hが付設されてなる下端側近傍とを除いた部分が、Z軸粗動部7に付設されてなるガイド7cの貫通孔7hに、非接触状態で挿嵌されてなる。換言すれば、垂直部8aは、微小な間隙Δを介してガイド7cに囲驍されてなる。係る間隙は5μm〜20μm程度であるのが好ましい。
【0034】
このような構成および配置関係を有するパターニングヘッド8の垂直部8aとZ軸粗動部7のガイド7cとは、静圧案内機構を構成してなる。すなわち、垂直部8aとガイド7cとは、垂直部8aからのエアの噴出に伴い発生する静圧によって互いに非接触状態を保ちつつ、パターニングヘッド8の動作をZ軸方向に制限するようになっている。図2および図3においては詳細な図示を省略するが、垂直部8aのガイド7cに囲驍された部分のうち、両図において斜線を付してなる範囲に、エア供給源15(図4)から供給されるエア(空気)を垂直部8aから貫通孔7hに向けて噴出するエア噴出機構8cが設けられてなる。
【0035】
一方、水平部8bの上方には、最下端部に押圧部9aを有するエアシリンダ9が設けられており、エアシリンダ9が加圧することで、押圧部9aがパターニングヘッド8の水平部8bを上方からZ軸負方向へと押圧するようになっている。係る態様にて押圧部9aがパターニングヘッド8を押圧することで、パターニングツール10が基板Wに与える力が調整できるようになっている。エアシリンダ9の加圧状態は、電空レギュレータ14(図4)によって制御される。
【0036】
なお、本実施の形態に係る加工装置100において実現される、エアシリンダ9の押圧部9aがパターニングヘッド8を押圧する動作は、あくまでパターニングヘッド8を付勢する動作の一態様である。それゆえ、エアシリンダ9は付勢手段の一態様であって、エアシリンダ9がパターニングヘッド8に与える押圧力は、上位概念的にいえば、パターニングヘッド8を付勢する付勢力である。
【0037】
さらに、水平部8bには、Z軸粗動部7との間に自重キャンセルバネ8dが設けられている。自重キャンセルバネ8dは、Z軸方向に延在する態様にて設けられており、パターニングヘッド8に対しZ軸正方向に力(弾性力)を加えることで、パターニングツール10およびツールホルダ8hを含めたパターニングヘッド8の自重(Z軸負方向に作用する重力)をキャンセルするようになっている。
【0038】
なお、図1ないし図3においては、一のZ軸粗動部7に対し一のパターニングヘッド8(およびエアシリンダ9)を設けた構成を例示しているが、一のZ軸粗動部7に対し、Y軸方向に列設させる態様にて複数のパターニングヘッド8を設ける態様であってもよい。
【0039】
パターニングツール10の一方端側には刃先10aが形成されてなる。刃先10aはパターニングツール10の本体部分と一体に形成されている。刃先10aの幅は、形成しようとする加工溝の幅によっても異なるが、数十μm〜数百μm程度が好適である。
【0040】
パターニングツール10は種々の形状を取り得る。例えば、刃先10aに向かうに従って先細となる形状などが好適な一例である。
【0041】
また、図示は省略するが、ヘッド移動機構3にはさらに、レーザー変位計が設けられる。例えば、レーザー変位計は、Z軸粗動部7のX軸方向正側の面に付設された保持アームに保持されることによって、X軸方向においてパターニングツール10よりも前方(正側)となる位置に配置されるのが好適である。レーザー変位計は、基板Wを載置したステージ2がX軸方向を移動する間に、基板Wの表面の表面形状変化を、換言すれば、局所的な凹凸(高さ位置)変化を断続的もしくは連続的に計測するために設けられる。レーザー変位計により取得されたデータ(複数の形状計測位置と当該位置における基板Wの高さ位置とのデータセット)は、形状データ13cとして記憶部13に記憶される(図4)。レーザー変位計としては、公知のものを適用可能である。
【0042】
一方、図4に示すように、加工装置100は、コントローラ11と、電空レギュレータ14と、エア供給源15と、入力操作部21と、表示部22とをさらに備える。
【0043】
コントローラ11は、加工装置100における種々の動作や演算等を担う。コントローラ11は、CPU、RAM、ROMなどのコンピュータハードウェアにより実現される機能的構成要素として、加工制御部12を備える。
【0044】
またコントローラ11は、例えばハードディスクなどからなる記憶媒体である記憶部13を備える。記憶部13には、加工装置100を動作させるためのプログラム13aと、個々の加工を行う際の加工条件が記述された加工レシピ13bと、基板Wの表面形状(高さ位置)のデータである形状データ13cと、加工時にエアシリンダ9の押圧部9aがパターニングヘッド8を押圧する力である押圧力を記述した押圧力データ13dとが主に記憶される。プログラム13aがCPUにおいて実行されることにより、機能的構成要素としての加工制御部12が実現され、該加工制御部12が機能することによって、加工装置100の種々の動作が実現される。
【0045】
加工制御部12は、吸引手段2aによる基板Wの吸引固定、駆動手段2bによるステージ2の移動、モータ6e、7eによるY軸移動部6やZ軸粗動部7の移動、エアシリンダ9によるパターニングヘッド8の押圧動作、エア噴出機構8cにおけるエア噴出動作、あるいはさらに、レーザー変位計による基板Wの計測など、基板Wに対する加工処理動作全般の制御を担う。
【0046】
形状データ13cは、レーザー変位計によって取得される、基板Wの表面の局所的な高さ位置が記述されたデータである。また、押圧力データ13dは、基板Wを加工する際に押圧部9aがパターニングヘッド8に与える押圧力の大きさが記述されたデータである。押圧力は、一定値として定められる態様であってもよいし、X軸に対する関数として定められる態様であってもよい。後者の場合、押圧力を、形状データ13cに基づいて特定される、基板Wの局所的な表面形状の違いに応じて局所位置ごとに違えるようにすることも可能である。
【0047】
そして、電空レギュレータ14は、押圧部9aがパターニングヘッド8に与える押圧力を押圧力データ13dに基づいて制御する。
【0048】
エア供給源15は、静圧案内機構において垂直部8aをガイド7cに対して非接触状態に保つべく、垂直部8aから噴出させるためのエアを供給する部位である。
【0049】
入力操作部21は、加工装置100のオペレータが加工装置100に対して種々の操作指示やデータを入力するためのインターフェースである。また、表示部22は、加工装置100の処理メニューや動作状況などを表示するためのものである。なお、入力操作部21と表示部22がタッチパネルなどによって構成されることにより、一体化されていてもよい。
【0050】
以上のような構成を有する加工装置100においては、概略、加工レシピ13bの記述内容に基づく加工制御部12の制御によって、ステージ2に基板Wを吸引固定させ、かつ、パターニングツール10の先端に備わる刃先10aを基板Wの表面に接触(当接)させた状態で、あらかじめ取得あるいは設定された形状データ13cや押圧力データ13dの記述内容に従って、ステージ2をX軸方向に移動させることにより、つまりは、パターニングツール10を基板Wに対してX軸方向に相対的に移動させることにより、当接部分の薄膜層を剥離除去して基板Wに対しX軸方向に沿った直線状の加工溝を形成することが出来る。
【0051】
例えば、パターニングヘッド8をY軸方向に所定ピッチで移動させる都度、ステージ2をX軸方向に移動させることによって、互いに平行かつ真直な直線状の複数の加工溝を形成することが出来る。
【0052】
また、形成予定ラインの形状が曲線的である場合には、X軸方向へのステージ2の移動に、パターニングヘッド8のY軸方向への移動が重畳されるようになっていてもよい。
【0053】
なお、加工を行っている間のパターニングツール10と基板Wとの接触状態の維持は、エアシリンダ9による押圧によってパターニングヘッド8をZ軸方向に動作させる(上下動させる)ことによって実現される。係る場合においては、両者のZ軸方向における相対的な位置関係が一定に保たれるように、エアシリンダ9が与える押圧力が形状データ13cに従って調整されてもよいし、押圧力をあらかじめ押圧力データ13dに記述されてなる大きさで保たれるようになっていてもよい。
【0054】
一方、パターニングヘッド8の水平方向における保持は、静圧案内機構によって実現される。すなわち、パターニングヘッド8は、ガイド7cに対し非接触な状態を保ちつつ水平保持されてなる。
【0055】
<静圧案内機構>
次に、本実施の形態に係る加工装置100が備える静圧案内機構の詳細について説明する。図5は、加工装置100において静圧案内機構を構成するパターニングヘッド8の垂直部8aとガイド7cとの要部外観斜視図である。図6は、垂直部8aのみの要部外観斜視図である。図7は、垂直部8aに設けられたエア噴出機構8cの構成を概略的に示す斜視図である。
【0056】
図5に示すように、パターニングヘッド8の垂直部8aは、その周囲をガイド7cに囲驍されてなる。ただし、垂直部8aの上端側は露出しており、その露出部分のX軸方向負側には、垂直部8aの内部にエア供給源15から供給されるエアを導入する供給孔H0が設けられてなる。供給孔H0には、他方端をエア供給源15に接続されてなる図示しない供給管が接続される。
【0057】
また、図6および図7に示すように、パターニングヘッド8の垂直部8aのガイド7cに囲驍されてなる部分には、複数の噴出孔H1a〜H1h、H2a〜H2h、H3a〜H3hが設けられてなる。ただし、図7においては、噴出孔は黒い点として表現している。また、図7に示すように、それぞれの噴出孔は、垂直部8aの内部で流路Fによって供給孔H0と接続されてなる。ただし、図7においては図示の簡単のため、流路Fは一点鎖線として表現している。これら供給孔H0、噴出孔H1a〜H1h、H2a〜H2h、H3a〜H3h、および、流路Fが、垂直部8aにおいてエア噴出機構8cを構成している。供給孔H0、噴出孔H1a〜H1h、H2a〜H2h、H3a〜H3h、および、流路Fの径(内径)は、0.01mm〜数mm程度が好適である。
【0058】
図6および図7に示すように、本実施の形態においては、噴出孔は3段に分けて設けられている。Z軸方向正側(供給孔H0に近い側)より1段目には噴出孔H1a〜H1hが設けられており、2段目には噴出孔H2a〜H2hが設けられて、3段目には噴出孔H3a〜H3hが設けられている。
【0059】
また、噴出孔H1a、H2a、H3aは、垂直部8aのX軸方向負側の面8a1に設けられており、噴出孔H1b、H1c、H1d、H2b、H2c、H2d、H3b、H3c、H3dは、垂直部8aのY軸方向正側の面8a2に設けられており、噴出孔H1e、H2e、H3eは、垂直部8aのX軸方向正側の面8a3に設けられており、噴出孔H1f、H1g、H1h、H2f、H2g、H2h、H3f、H3g、H3hは、垂直部8aのY軸方向負側の面8a4に設けられている。
【0060】
係る噴出孔の配置は、垂直部8aのZ軸方向に沿った4つの面8a1〜8a4の大きさに応じて定められればよい。図6および図7に例示する本実施の形態に係る加工装置100においては、垂直部8aのX軸方向に垂直な面8a1および面8a3はY軸方向に垂直な面8a2および面8a4よりも小さい(細い)ことに、つまりは、垂直部8aが上面視(XY平面視)でX軸方向に長手方向を有する細長い長方形状となっていることに対応して、面8a1および面8a3には噴出孔が各段1つずつのみ設けられてなり、面8a2および面8a4には噴出孔が各段3つずつ設けられてなる。垂直部8aの形状によっては、各面に異なる個数の噴出孔が設けられてもよい。
【0061】
エア噴出機構8cにおいては、エア供給源15より供給されるエアが、XY正負方向に向けて、より具体的には、各方向において垂直部8aと対向するガイド7cの貫通孔7hの内壁面に向けて、噴出される。このとき、供給孔H0を通じて供給されるエアの流量は全ての噴出孔で同じである。係る状態において垂直部8aとガイド7cとの間に発生する静圧によって(それぞれの噴出孔と対向するガイド7cの貫通孔7hの内面との間に発生する静圧のバランスによって)、垂直部8aが貫通孔7hと非接触な状態を保ちつつ水平保持される状態が実現される。
【0062】
係る構成のエア噴出機構8cを備えることにより、本実施の形態に係る加工装置100においては、パターニングヘッド8の垂直部8aとガイド7cとの間に発生させた静圧によって、パターニングヘッド8は絶えずガイド7cと非接触な状態に保たれる。それゆえ、加工の際にパターニングヘッド8がZ軸方向に上下動する場合であっても、パターニングヘッド8とガイド7cとの間にガイド7cとの間で摩擦が生じることはなく、それゆえ、パターニングツール10の基板Wの表面凹凸に対する追随性、もしくは、パターニングツール10が基板Wに対して与える押圧力(付勢力)の安定性が、良好に確保されるようになっている。
【0063】
<可変バルブによる静圧変動の抑制>
上述のように、本実施の形態に係る加工装置100においては、静圧案内機構によってパターニングヘッド8を非接触で水平保持するようになっている。当然ながら、係る水平保持状態が良好に実現されるには、静圧案内機構全体における圧力のバランスが保たれる必要がある。
【0064】
図8は、静圧案内機構全体における圧力のバランスが保たれ、パターニングヘッド8の姿勢が安定しているときの垂直部8aを通る加工装置100のZX要部断面図である。これは例えば、パターニングヘッド8が静止しているときなどが該当する。係る場合においては、図8に示すように、面8a1に設けられた噴出孔H1a、H2a、および、H3aと、面8a3に設けられた噴出孔H1e、H2e、および、H3eは、同じ大きさの間隙Δを保ってガイド7cの貫通孔7hの内面と対向している。なお、図8においては図示を省略しているが、係る場合においては、面8a2および面8a4と貫通孔7hとの間も、同じ大きさの間隙Δが保たれている。
【0065】
ただし、加工装置100においては、パターニング加工の際、パターニングヘッド8の下端部に備わるパターニングツール10の刃先10aが、外力として基板Wから摩擦力(抵抗力)を受けることに起因して、パターニングヘッド8の垂直部8aに対しトルクが作用する。パターニングヘッド8は、係るトルクが作用した状態においても非接触に水平保持される必要がある。
【0066】
しかも、図6および図7に例示するように、加工装置100において、静圧案内されるパターニングヘッド8の垂直部8aが上面視(XY平面視)で細長い長方形状となっている場合には、垂直部8aのX軸方向に垂直な面8a1および面8a3に設ける噴出孔の数は、垂直部8aのY軸方向に垂直な面8a2および面8a4に設ける噴出孔の数よりも少なくせざるを得ない。係る場合、パターニングヘッド8のX軸方向における水平保持状態の維持は、Y軸方向における水平保持状態の維持よりも難しい。
【0067】
図9は、パターニング加工の途中、ステージ2がX軸正方向に移動することによりパターニングヘッド8が基板Wに対してX軸負方向に相対移動するときの垂直部8aを通る加工装置100のZX要部断面図である。
【0068】
図9に示す場合においては、パターニングヘッド8の垂直部8aに、刃先10aと基板Wとの間に作用する摩擦力に起因したトルクがZX面内に沿って作用した結果として、垂直部8aが傾斜姿勢となっている。より詳細には、垂直部8aのX軸方向負側の面8a1において最も上方に設けられてなる噴出孔H1aと、X軸方向正側の面8a3において最も下方に設けられてなる噴出孔H3eとが、図8に示すパターニングヘッド8が安定姿勢にあるときよりもガイド7cに接近する一方、X軸方向負側の面8a1において最も下方に設けられてなる噴出孔H3aと、X軸方向正側の面8a3において最も上方に設けられてなる噴出孔H1eとが、パターニングヘッド8が安定姿勢にあるときよりもガイド7cから離間した状態となっている。
【0069】
垂直部8aが図8に示した安定姿勢から図9に示した傾斜姿勢へと変化するとき、ガイド7cに接近した噴出孔H1aと噴出孔H3eの近傍における静圧は増大する一方、ガイド7cから離間した噴出孔H3aと噴出孔H1eの近傍における静圧が低下する。すなわち、各噴出孔において実現されている静圧のバランスが崩れてしまう。すると、噴出孔H3aと噴出孔H1eとから噴出されるエアは、X軸方向における垂直部8aの水平保持に寄与し難くなり、垂直部8aの保持は、残る噴出孔H1a、H2a、H2e、H3eが担うことになる。しかしながら、噴出孔H3aと噴出孔H1eの近傍における静圧の低下により流路Fにおけるエアの圧力も低下してしまうため、垂直部8aに作用するトルクの大きさと静圧案内機構で実現される静圧の大きさとの関係によっては、非接触状態を保つことが困難となり、垂直部8aがガイド7cと接触してしまうことも起こり得る。
【0070】
そのような不具合が生じることを避けることを目的として、本実施の形態に係る加工装置100においては、エア噴出機構8cを構成する噴出孔のうち、少なくとも、パターニング加工を行う際にパターニングヘッド8の垂直部8aの姿勢が変化すると近傍において静圧の変動が生じる可能性のあるものに、両端部における圧力状態に応じて自律的かつ連続的に開閉する可変バルブ30(図10参照)を設けてなる。以下、可変バルブ30が設けられた噴出孔を特に、可変バルブ付き噴出孔と称する。
【0071】
例えば、図6および図7に例示する場合であれば、少なくとも、垂直部8aのX軸方向において対向する面8a1と面8a3において最も上に位置する噴出孔H1a、H1eと、最も下に位置する噴出孔H3a、H3eとが可変バルブ付き噴出孔とされるのが好適である。もちろん、面8a1および面8a3に備わる全ての噴出孔が、あるいは、エア噴出機構8cに備わる全ての噴出孔が、可変バルブ付き噴出孔とされる態様であってもよい。
【0072】
図10は、係る可変バルブ30の構成を示す断面図である。なお、図10においては、噴出孔H1aに可変バルブ30が設けられた様子を示しているが、他の噴出孔に設けられる場合も、可変バルブ30の構成および配置は、図10に例示する場合と同様である。図11は、バネ部材32(図10参照)の図示を省略した可変バルブ30の要部外観図である。
【0073】
可変バルブ30は主として、本体部31と、バネ部材32と、絞り部材33とから構成される。好ましくは、本体部31の側面と、対応する噴出孔の内面とにはともにネジ切りがなされており、本体部31が噴出孔に対して螺合される。
【0074】
本体部31は、円筒状をなす部材であり、その長手方向の一方端側には円錐台状の切り欠き部31aが設けられてなるとともに、該切り欠き部31aの底部から長手方向に沿って、バネ部材32を挿嵌可能な円筒状の空隙31bが設けられてなる。また、本体部31の他方端側から空隙31bにかけては、長手方向に平行であり空隙31bに比して径の小さい流路f1が設けられてなる。すなわち、本体部31は、空隙31bと流路f1とが連続する構成、つまりは、その一方端側から他方端側にかけて貫通した構成を有してなる。
【0075】
バネ部材32は、本体部31の空隙31bの内径に見合う外径と空隙31bの長さに見合う全長(自然長)を有する中空円筒状のコイルバネである。
【0076】
絞り部材33は、一方端側に上面視十字状の溝部33aが設けられてなるとともに、他方端側が円錐台状の突起部33bとされてなり、かつ、該突起部33bにおいてバネ部材32に接続された、円筒状の部材である。絞り部材33は、その突起部33bが、本体部31の切り欠き部31a内に収まるように形成されてなる。また、絞り部材33の内部には、溝部33aの十字部分の交点から突起部33bにかけて流路f3が設けられてなる。この流路f3は、絞り部材33の突起部33bが切り欠き部31aに当接した状態になった場合でも流路Fから流路f1へのエアの流れを保証するべく設けられてなる。
【0077】
なお、少なくとも可変バルブ30が設けられる噴出孔については、流路Fよりもわずか内径が大きくなっており、係る内径の差によって形成されてなる段差34によって、絞り部材33の動きが拘束されるようになっている。
【0078】
また、流路Fにエアを供給していないときに、バネ部材32が絞り部材33を段差34に向かって押圧した状態とするために、本体部31、バネ部材32、絞り部材33のサイズは、それらを組み付けた際、バネ部材32がその自然長から所定の長さだけ圧縮された状態になるように、設定されている。本体部31の切り欠き部31aと絞り部材33との間に空隙が形成され、係る空隙は絞り部材33と噴出孔の内面との隙間とともに流路f2として機能するようになっている。なお、絞り部材33の溝部33aは、バネ部材32によって絞り部材33が段差34に押圧された状態でも、流路Fから流路f2へのエアの流れを保証するべく設けられてなる。そしてこのような構成により、絞り部材33の位置に応じて切り欠き部31aと絞り部材の突起部33bとの間隔が変化し、絞り部材33がバネ部材32側に位置するほど、切り欠き部31aと絞り部材の突起部33bとの間隔が狭くなり、流路Fから流路f1へのエアの経路が絞られるようになっている。
【0079】
以上の構成を有する可変バルブ30は、本体部31の流路f1の側が垂直部8aの側面側と面一となるように、設置対象とされた噴出孔に挿嵌されてなる。係る可変バルブ30においては、流路Fにおけるエアの圧力と当該噴出孔の外部近傍における圧力(静圧)との大小関係に応じて、絞り部材33が変位するとともにバネ部材32が伸縮するようになっている。
【0080】
具体的には、流路Fのエアの圧力をS1とし、空隙31bの圧力をS2とし、当該噴出孔の外部近傍における(本体部31の他方端側における)圧力(静圧)をS3とし、溝部33a側から見た絞り部材33の面積をA1、突起部33bの先端の面積をA2とし、バネ部材32のバネ定数をk、バネ部材32の自然長から圧縮されている長さをxとするとき、絞り部材33はバネ部材32側から受ける力と流路F側から受ける力が釣り合う位置に移動し、式1の関係が成り立つ。
kx+S2A2=S1A1 …(式1)
なお、空隙31bの圧力S2は流路f1を介してつながっている噴出孔の外部近傍の圧力S3の値によって変動し、S3の増減に応じてS2も変化する。圧力S1と圧力S3が一定である限りは、式1を満たす位置で絞り部材が一定の位置を保ち、供給孔H0を通じて垂直部8a内に供給されたエアは、流路f3、流路f2、空隙31b、流路f1を経て噴出孔から噴出される。例えば、図8に示すような安定姿勢にあるときには、各噴出孔における圧力S3がほぼ同じ値である。
【0081】
一方、圧力S2が低下するとS1とS2の値の差(圧力差)に応じてバネ部材32が縮み、これによって流路f2が狭まる。そして、圧力差が一定のしきい値以上となった場合には、つまりは、バネ部材32の縮みが所定値に到達した場合、絞り部材33の突起部33bは本体部31の切り欠き部31aと接触し、流路f2は完全に塞がれてしまうこととなる。
【0082】
加工装置100においては、このような作用の可変バルブ30が、上述のように、少なくとも、パターニングヘッド8の垂直部8aのX軸方向において対向する面8a1と面8a3において最も上に位置する噴出孔H1a、H1eと、最も下に位置する噴出孔H3a、H3eとに設けられてなる。
【0083】
パターニング加工を行っていない時など、垂直部8aが図8に示すような安定姿勢にあるときは、全ての可変バルブ付き噴出孔においてS1、S2およびS3はほぼ同じ一定の値となっている。
【0084】
一方、パターニング加工を行っているときなど、パターニングツール10に作用する加工抵抗によって垂直部8aが図9に示した傾斜姿勢にあるときは、ガイド7cに接近することで噴出孔H1aと噴出孔H3eにおける静圧S3は増加し、これらの噴出孔内の圧力S2も増加する一方で、ガイド7cから離間することで噴出孔H3aと噴出孔H1eにおける静圧S3が低下し、これらの噴出孔内の圧力S2も低下することとなる。静圧S3が増加した噴出孔H1aと噴出孔H3eでは、静圧S3と同時に圧力S2も増加し、流路f2が広くなるため、静圧S3の増加に応じてエアの供給が増加する。一方、静圧S3が低下した噴出孔H3aと噴出孔H1eでは、静圧S3と同時に圧力S2も低下し、流路f2が狭くなるため、静圧S3の低下に応じてエアの供給が絞られる。つまり、ガイド7cに接近した噴出孔では静圧が増加し、ガイド7cから離間した噴出孔では静圧が低下するように可変バルブ30が動作することとなる。その結果として、垂直部8aは傾斜姿勢ではあるものの、非接触状態で保持され続けることになる。
【0085】
よって、図6および図7に例示するようにパターニングヘッド8の垂直部8aがX軸方向に長手方向を有する上面視(XY平面視)で細長い長方形状となっている場合であっても、少なくとも垂直部8aのX軸方向に垂直な面の最も上および最も下に位置する噴出孔に上述の可変バルブ30を設けておくことで、加工装置100においては、パターニングツール10の基板Wの表面凹凸に対する追随性、もしくは、パターニングツール10が基板Wに対して与える押圧力(付勢力)の安定性が、良好に確保されるようになっている。
【0086】
しかも、上述のように、可変バルブ30の動作は、単にその両端における圧力S1、S3にのみ依存するので、自律的かつ連続的である。このことは、すなわち、可変バルブ30の動作に特段の制御要素は不要であるということを意味している。
【0087】
なお、パターニング加工の終了後など、パターニングツール10に対し作用していた外力が解除されると、垂直部8aは傾斜姿勢から安定姿勢に戻る。すると、S1とS2の圧力差は解消されて、全ての噴出孔の周りにおける静圧は再び等しくなる。
【0088】
以上、説明したように、本実施の形態に係る加工装置においては、下方にパターニングツールが保持されてなるパターニングヘッドの垂直部とこれを囲驍するガイドとの隙間に、垂直部に設けたエア噴出機構によってエアを噴出し、静圧を発生させることによって、パターニングヘッドは絶えずガイドと非接触な状態に保たれる。それゆえ、加工の際にパターニングヘッドがZ軸方向に上下動する場合であっても、パターニングヘッドとガイドとの間で摩擦が生じることはなく、それゆえ、パターニングツールの基板の表面凹凸に対する追随性、もしくは、パターニングツールが基板に対して与える押圧力(付勢力)の安定性が、良好に確保されるようになっている。
【0089】
しかも、パターニングヘッドの垂直部の外面に備わるエア供給機構からのエアの噴出孔のうち、少なくとも、パターニング加工を行う際のパターニングヘッドの相対移動方向に垂直な面の最も上側および最も下側に設けられた噴出孔に、垂直部外面側の圧力が垂直部内部の流路側における圧力よりも小さくなった場合にエアの流量を自律的に制限する可変バルブを設けておくことで、パターニングヘッドの垂直部が傾斜姿勢にある場合であっても、ガイドとの間で非接触状態が保たれるようになっている。
【符号の説明】
【0090】
1 基台
2 ステージ
3 ヘッド移動機構
6 Y軸移動部
7 Z軸粗動部
7c ガイド
8 パターニングヘッド
8c エア噴出機構
8d 自重キャンセルバネ
8h ツールホルダ
9 エアシリンダ
9a 押圧部
10 パターニングツール
10a 刃先
11 コントローラ
30 可変バルブ
31 本体部
32 バネ部材
33 絞り部材
100 加工装置
F (エア噴出機構の)流路
f1、f2、f3 (可変バルブの)流路
H1a〜H1h、H2a〜H2h、H3a〜H3h 噴出孔
W 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11