(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160371
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】可変絞り形静圧軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 32/06 20060101AFI20170703BHJP
F16C 29/02 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
F16C32/06 A
F16C29/02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-178869(P2013-178869)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-48863(P2015-48863A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】新美 匡俊
【審査官】
中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−087875(JP,A)
【文献】
特開平01−238715(JP,A)
【文献】
特開昭48−099541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 32/06
F16C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受面に設けられた静圧ポケットと、
前記静圧ポケットに流体を供給する流体供給手段と、
前記流体供給手段から前記静圧ポケットに至る流体の流路を形成する流体流路と、
前記流体流路の途中に設けられ、流体の流量を絞って前記静圧ポケットに流入させる可変絞りを備え、
前記可変絞りは、
流体貯留室と、
中央部に突起面を備えた流体供給室と、
前記流体供給室と前記流体貯留室の間を仕切り、自らの厚さ方向と直交する面が前記突起面と所定の隙間を隔てて正対するダイアフラムと、
前記突起面に前記静圧ポケットへ連通する流路を備え、前記ダイアフラムと前記突起面の隙間の開度により絞り量を調整する可変絞り形静圧軸受において、
板状で、貫通開口を備え、外周部に突起部を備え、前記突起部が前記ダイアフラムの外周部と接するように前記流体貯留室の内部に配置される減衰パッドと、
前記減衰パッドを前記ダイアフラムの方向へ押付ける減衰パッド押付手段を備え、
前記減衰パッドの前記突起部を除く部位と前記ダイアフラムの間の隙間を、前記減衰パッド押付手段により調整することで前記ダイアフラムの減衰性を調整する可変絞り形静圧軸受。
【請求項2】
前記貫通開口は前記減衰パッドの中央から放射状に所定の半径まで伸びる複数の溝であり、
前記減衰パッドの中央部が前記溝で分離されてパッド片が構成され、前記パッド片毎に前記減衰パッド押付手段を備える請求項1に記載の可変絞り形静圧軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアフラム式可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイアフラム式可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受において、ダイアフラムの振動減衰性を大きくして静圧ポケットと可変絞りを含む流体回路の振動を減衰するために、ダイアフラムの可動方向と垂直な面の中央部に可変絞り部を備え、可変絞り部側のダイアフラムの外周部とダイアフラム保持部材の間に狭い隙間を設けて、隙間に差動流体を充満しておくことでダイアフラムの振動を抑制する技術がある。(特許文献1の
図7)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−196655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の従来技術では、所望の減衰性能を得るためには、ダイアフラムとダイアフラム保持部材の間の隙間の距離が所定の寸法である必要があり、ダイアフラム式可変絞りの構成部材の寸法精度を高精度とする必要がある。また、ダイアフラムは静圧軸受の作動時にはある程度変形しており、この変形度合いは供給圧力、静圧ポケット内圧力、ダイアフラム式可変絞り構成部の寸法などにより異なる。このため、あらかじめ所定の隙間を設定しても、実使用状態では最適な隙間でなく所望の減衰性能を発揮できない恐れがある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、使用条件に影響されないで、実使用時に所望の減衰性能を持つダイアフラム式可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、軸受面に設けられた静圧ポケットと、前記静圧ポケットに流体を供給する流体供給手段と、前記流体供給手段から前記静圧ポケットに至る流体の流路を形成する流体流路と、前記流体流路の途中に設けられ、流体の流量を絞って前記静圧ポケットに流入させる可変絞りを備え、前記可変絞りは、流体貯留室と、中央部に突起面を備えた流体供給室と、前記流体供給室と前記流体貯留室の間を仕切り、自らの厚さ方向と直交する面が前記突起面と所定の隙間を隔てて正対するダイアフラムと、前記突起面に前記静圧ポケットへ連通する流路を備え、前記ダイアフラムと前記突起面の隙間の開度により絞り量を調整する可変絞り形静圧軸受において、板状で、貫通開口を備え、外周部に突起部を備え、前記突起部が前記ダイアフラムの外周部と接するように前記流体貯留室の内部に配置される減衰パッドと、前記減衰パッドを前記ダイアフラムの方向へ押付ける減衰パッド押付手段を備え、前記減衰パッドの前記突起部を除く部位と前記ダイアフラムの間の隙間を、前記減衰パッド押付手段により調整することで前記ダイアフラムの減衰性を調整することである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記貫通開口は前記減衰パッドの中央から放射状に所定の半径まで伸びる複数の溝であり、前記減衰パッドの中央部が前記溝で分離されてパッド片が構成され、前記パッド片毎に前記減衰パッド押付手段を備えることである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、可変絞り形静圧軸受の作動中に、減衰パッド押付手段により、減衰パッドの突起部を除く部位とダイアフラムの間の隙間を調整することができる。このため、ダイアフラム式可変絞り形静圧軸受の作動状態に応じて隙間を調整することができ、所望の減衰性能を持つダイアフラム式可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受を実現できる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、減衰パッドの中央部が溝で分離されてパッド片を構成しているので、パッド片の変形が容易で、ダイアフラムの方向への変位量も大きくできる。このため、パッド片とダイアフラムの間の隙間の調整代を大きくでき、大きな減衰性能の調整範囲を備えるダイアフラム式可変絞りを備えた可変絞り形静圧軸受を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態のスライドテーブル装置の全体構成を示す概略図である。
【
図3】
図2のB部の詳細図でダイアフラム式可変絞りの詳細を示す図である。
【
図5】作動時のダイアフラム式可変絞りの詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、本発明をテーブル送り装置に使用した事例で説明する。
図1に示すように、テーブル送り装置1はベース10のスライド部にテーブル2を摺動自在に搭載し、テーブル2の両端の下部に1対の裏板5を取り付けることによりX軸方向のみに移動可能にした構造である。
【0012】
図2に示すように、テーブル2のベース10に対向する面には、2箇所の下向きの静圧ポケット2aと、横向きに対向する1対の静圧ポケット2cを備えている。静圧ポケット2a、2cには可変絞り3が連通しており、可変絞り3には各々管路4が連通している。管路4にはポンプ11(流体供給手段)が連結しており流体を供給する。
裏板5にも静圧ポケット5aを上向きに備えており、静圧ポケット5aには可変絞り3が連通しており、可変絞り3には各々管路4が連通している。
【0013】
図3に可変絞り3の詳細を示す。可変絞り3は、可変絞りベース31の上面31aにキャップ32が固定され、その内側にはダイアフラム33が配置され、ダイアフラム33の外周部に自らの突起部34aが接するように減衰パッド34が搭載された構造をしている。キャップ32には押しねじ35(減衰パッド押付手段)がねじ結合しており、押しねじ35をねじ込むことで減衰パッド34はダイアフラム33の方向へ移動する。移動した減衰パッド34の突起部34aは、ダイアフラム33の外周部をベース31の上面31aに押付ける。
【0014】
図4に示すように、減衰パッド34は、中央部に穴34b(貫通開口)を備え、穴34bを基点として放射状に外周方向に伸びる複数の溝34c(貫通開口)により複数のパッド片34dに分離された構造である。押しねじ35はパッド片34d毎に1個配置されており、減衰パッド34とダイアフラム33が接触した後に、さらに押しねじ35をねじ込むことで、パッド片34dをダイアフラム33の方向へ撓ませることができる。
【0015】
以上の構造により、可変絞りベース31とダイアフラム33に囲まれた流体供給室31eと、キャップ32とダイアフラム33に囲まれた流体貯留室32aが構成される。可変絞りベース31は、流体供給室31eの中央部に突起面31bと吐出口31cとを備えている。流体貯留室32aには流路32cを経由して管路4が連通し、流体供給室31eには流路31dと流路32cを経由して管路4が連通し、吐出口31cはテーブル2の流入路2bを経由して静圧ポケット2aと連通している。
【0016】
可変絞り形静圧軸受の作動について、
図5に基づき説明する。
管路4に流体が供給されると流路32cを経由して流体貯留室32aに流体が流入し、ダイアフラム33と減衰パッド34の間の隙間t
3にも充満する。一方、流路32cと流路31dを経由して流体供給室31eに流体が充満し、さらに、流体供給室31e内の流体はダイアフラム33と突起面31bの間の隙間と吐出口31cを経由して静圧ポケット2aに流量Q
0で流入する。静圧ポケット2a内からは、静圧ポケット2aとベース10の間隔t
1から流出する流量Q
0の流体が流出する。
【0017】
以上のことが、テーブル2の水平方向に設置された静圧ポケット2eと裏板5の静圧ポケット5a部においても同様に起きる。この結果として、ベース10とテーブル2は静圧ポケット2a部で間隔t
1を備えた状態で保持される。
【0018】
この時、管路4に供給される流体の圧力をP
0とすると、流体貯留室32aと流体供給室31e内の圧力はP
0となる。静圧ポケット2a内の圧力は、ダイアフラム33と突起面31bの間の隙間により絞られるため低下しP
1となる。このため、ダイアフラム33は突起面31bの方向に押される力を受け変位する。ダイアフラム33と突起面31bの間の隙間は、ダイアフラム33の両面に作用する圧力P
0と吐出口31cに作用する静圧ポケット2aの圧力P
1により発生する力と、ダイアフラム33の弾性回復力とが釣り合う隙間t
2となる。
【0019】
この状態でテーブル2に下向きの負荷が加わると、テーブル2が下方に移動するため静圧ポケット2aの間隔t
1が狭くなり、間隔t
1からの流体の流出量が減少し、静圧ポケット2a内の圧力が上昇するため、静圧ポケット2aに連通する吐出口31cの圧力も上昇する。そうすると、ダイアフラム33の吐出口31cに対向する面の受ける上向きの力が大きくなり、ダイアフラム33は上方に移動し、ダイアフラム33と突起面31bの間の隙間t
2が大きくなる。結果として、隙間t
2と吐出口31cを経由して静圧ポケット2aに流入する流量が増加する。これにより、静圧ポケット2aとベース10の間隔t
1から流出する流量を増加させる必要があるため、静圧ポケット2aとベース10の間隔t
1の減少を防止する作用が働く。つまり、負荷に対する間隔t
1の変動を少なくする(剛性を大きくする)作用が働く。
【0020】
上述のように、可変絞り形静圧軸受の作動中には、ダイアフラム33の中立位置は中央部が突起面31bの方向に所定量だけ変位している位置となる。この変位量は、供給圧力、ポケット内圧力、突起面31bと流体貯留室32aと流体供給室31eの受圧面積などにより変動する。
【0021】
ここで、静圧ポケットと可変絞りを含む流体回路に振動が発生した場合には、ダイアフラムがその厚さ方向に振動し、流体回路の減衰性が小さい場合その振動が増大し、可変絞り形静圧軸受に悪影響を与える。これを防止するために、ダイアフラム部にスクイズフィルムダンパを備えてダイアフラムの減衰性を大きくすることが行われている。スクイズフィルムダンパの減衰性はスクイズ膜の厚さにより異なり、スクイズ膜が薄い程大きくなる。
【0022】
図5に示すように、本実施例では、ダイアフラム33と減衰パッド34の間の隙間t
3をスクイズ膜としているので、押しねじ35をねじ込むことにより減衰パッド34の各パッド片34dをダイアフラム33の方向へ適宜変位させて、スクイズ膜である隙間t
3を変動させることができる。可変絞り形静圧軸受の作動中には、ダイアフラム33の中央部が突起面31bの方向に変位し、この変位の量は使用条件により異なる。可変絞り形静圧軸受の作動中に、押しねじ35のねじ込み位置を調整することで、パッド片34dとダイアフラム33の隙間を所望の隙間t
3に設定できる。この結果、使用条件に応じて押しねじ35のねじ込み位置を調整することで、所望の減衰性を備えた可変絞り形静圧軸受を実現できる。
【符号の説明】
【0023】
2:テーブル 2a:静圧ポケット 3:可変絞り 4:管路 10:ベース 31:可変絞りベース 31a:上面 31b:突起面 31e:流体供給室 32:キャップ 32a:流体貯留室 33:ダイアフラム 34:減衰パッド 34a:突起部 34b:穴 34c:溝 34d:パッド片 35:押しねじ