(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態.
<電力変換装置>
図1に例示するように、電力変換部1はスイッチング素子Su1,Su2,Sv1,Sv2,Sw1,Sw2を備えている。また
図1では、電源線LHが正極端P1に接続され、電源線LLが負極端P2に接続されている。これらの正極端P1および負極端P2の間には、正極端P1の電位を高電位とする直流電圧が印加される。スイッチング素子Su1,Su2は、電源線LH,LLの間で互いに直列に接続される。またスイッチング素子Su1,Su2の間の点は交流線Puに接続される。スイッチング素子Sv1,Sv2とスイッチング素子Sw1,Sw2とについても同様であり、スイッチング素子Sv1,Sv2の間の点が交流線Pvに接続され、スイッチング素子Sw1,Sw2の間の点が交流線Pwに接続される。
【0021】
以下、スイッチング素子Su1,Sv1,Sw1を総称してスイッチング素子Sx1とも呼び、スイッチング素子Su2,Sv2,Sw2を総称してスイッチング素子Sx2とも呼び、交流線Pu,Pv,Pwを総称して交流線Pxとも呼ぶ。またここでは、スイッチング素子Sx1はスイッチング素子Sx2よりも電源線LH側に配置されるので、以下では、スイッチング素子Sx1を上側のスイッチング素子Sx1とも呼び、スイッチング素子Sx2を下側のスイッチング素子Sx2とも呼ぶ。
【0022】
スイッチング素子Sx1,Sx2は例えばMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)電界効果トランジスタ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、接合型トランジスタ等である。
【0023】
またスイッチング素子Sx1,Sx2には、例えば、それぞれダイオードDx1,Dx2が並列に接続される。ダイオードDx1,Dx2は、その順方向が電源線LLから電源線LHへと向かうように、設けられる。なお、スイッチング素子Sx1,Sx2が電源線LLから電源線LHに向けて導通可能であれば、これらのダイオードDx1,Dx2を設けなくても構わない。
【0024】
これらのスイッチング素子Sx1,Sx2は、制御部3によってスイッチング信号が入力される。言い換えれば、スイッチング素子Sx1,Sx2は制御部3によって制御される。この制御によって、電力変換部1が適切に動作して、直流電圧を交流電圧へと変換する。なおここでは、直流電圧を三相交流電圧に変換する三相の電力変換部1が例示されているものの、単相であってもよく、三相以上であってもよい。
【0025】
図1の例示では、交流線Pu,Pv,Pwには負荷2が接続されている。この負荷2は例えばモータであり、電力変換部1によって印加される交流電圧に応じて回転する。
【0026】
<駆動装置>
次に、スイッチング素子Sx1,Sx2を駆動するために駆動装置について説明する。
図2は、一対のスイッチング素子Sx1,Sx2と、これを駆動する駆動装置との概念的な構成の一例を示している。また
図2の例示では、コンデンサC1を用いて、電源線LH,LLの間の直流電圧Vdcを示している。このコンデンサC1は実際に設けられても良い。このようなコンデンサC1は平滑コンデンサあるいはスナバコンデンサなどとして機能することができる。
【0027】
以下では、スイッチング素子Sx1,Sx2の電源線LH側の電極を第1電極と呼び、電源線LL側の電極を第2電極と呼ぶ。
【0028】
図2に示すように、スイッチング素子Sx1の制御電極と第2電極との間には、駆動回路DRx1が設けられている。駆動回路DRx1は端子P11,P12を有しており、端子P11は、抵抗Rx1を介して、スイッチング素子Sx1の制御電極に接続され、端子P12はスイッチング素子Sx1の第2電極に接続される。駆動回路DRx1は、制御部3からスイッチング信号を入力し、これをスイッチング素子Sx1の制御電極へと出力する。この制御電極はスイッチング素子Sx1のオン/オフを司る。より詳細には、スイッチング素子Sx1の制御電極に印加される制御電圧Vg1がオン電圧を超えると、スイッチング素子Sx1がオンする。また制御電圧Vg1がオン電圧を下回ると、スイッチング素子Sx1はオフする。
【0029】
抵抗Rx1は、いわゆるゲート抵抗として機能することができ、例えば制御電圧Vg1の発振などを抑制することができる。なお抵抗Rx1は設けられていなくても構わない。
【0030】
スイッチング素子Sx2の制御電極と第2電極との間には、駆動回路DRx2が設けられている。なお、駆動回路DRx2、端子P21,P22および抵抗Rx2は、駆動回路DRx1、端子P11,P12および抵抗Rx1と同様であるので、繰り返しの説明を避ける。
【0031】
駆動回路DRx2には、直流電源E1が接続されている。直流電源E1の低電位端は、後述の調整部40を介して、スイッチング素子Sx2の第2電極と駆動回路DRx2とに共通して接続されており、高電位端は駆動回路DRx2に接続される。この直流電源E1は駆動回路DRx2へと動作電圧を印加する。
【0032】
駆動回路DRx2は、
図3に示すように、駆動用スイッチ素子DS1,DS2を備えている。なお、駆動回路DRx1の内部構成の一例は駆動回路DRx2と同じであるので、
図3においては、駆動回路DRx1としての符号も付記される。
【0033】
駆動回路DRx2について説明すると、駆動用スイッチ素子DS1,DS2は、直流電源E1の高電位端と低電位端との間で互いに直列に接続されている。ここでは、駆動用スイッチ素子DS1は駆動用スイッチ素子DS2よりも直流電源E1の高電位端側に配置されている。駆動用スイッチ素子DS1,DS2を接続する接続点は、端子P21として機能し、駆動用スイッチ素子DS1とは反対側の駆動用スイッチ素子DS2の電極は、端子P22として機能する。
【0034】
駆動用スイッチ素子DS1,DS2は、制御部3からスイッチング信号を受け取って、互いに排他的にオンする。例えば駆動用スイッチ素子DS1がオンし、駆動用スイッチ素子DS2がオフすると、駆動回路DRx2に入力される動作電圧を、抵抗Rx2を介して、スイッチング素子Sx2の制御電極へと印加することができる。これにより、スイッチング素子Sx2の制御電圧Vg2がオン電圧を超えることになり、スイッチング素子Sx2がオンする。一方で、駆動用スイッチ素子DS1がオフし、駆動用スイッチ素子DS2がオンすると、スイッチング素子Sx2の制御電極が、抵抗Rx2を介して、スイッチング素子Sx2の第2電極に短絡する。これにより、制御電圧Vg2がオン電圧を下回ることになり、スイッチング素子Sx2がオフする。
【0035】
図2の例示では、直流電源E1と駆動回路DRx2の間において、直流電源E1に並列に接続されたコンデンサCx2が設けられている。このコンデンサCx2は動作電圧を平滑することができる。なお、コンデンサCx2は設けられていなくても構わない。
【0036】
駆動回路DRx1には、ブートコンデンサCx1が接続されている。ブートコンデンサCx1の低電位端は、スイッチング素子Sx1の第2電極と駆動回路DRx1とに共通して接続されており、高電位端は駆動回路DRx1に接続される。このブートコンデンサCx1の両端電圧が、動作電圧として、駆動回路DRx1に印加される。
【0037】
駆動回路DRx1の内部構成の一例は、駆動回路DRx2と同様であるので、ここでは繰り返しの説明を避ける。
【0038】
ブートコンデンサCx1の高電位端と、直流電源E1の高電位端との間には、ブートダイオードDx10が設けられている。ブートダイオードDx10は、その順方向が直流電源E1からブートコンデンサCx1へと向かうように、設けられる。ブートダイオードDx10は、ブートコンデンサCx1が直流電源E1側へと放電することを防止できる。
【0039】
このような回路によれば、スイッチング素子Sx2をオンすることで、直流電源E1を用いてブートコンデンサCx1を充電することができる。より具体的には、スイッチング素子Sx2のオンにより、直流電源E1、ブートダイオードDx10、ブートコンデンサCx1およびスイッチング素子Sx2を有する充電経路に電流(以下、充電電流とも呼ぶ)が流れて、ブートコンデンサCx1が充電される。
【0040】
このようなブートコンデンサCx1の充電は、電力変換部1の通常運転(直流電圧を三相交流電圧に変換する運転)に先立って、実行される。ブートコンデンサCx1が充電されないと、駆動回路DRx1に動作電圧を印加できずにスイッチング素子Sx1の制御ができないからである。以下では、この充電を初期充電動作とも呼ぶ。
【0041】
図2の例示では、ブートコンデンサCx1の高電位端と直流電源E1の高電位端との間には、抵抗Rx10が設けられている。抵抗Rx10はブートダイオードDx10と直列に接続されている。この抵抗Rx10は、ブートコンデンサCx1の充電の際に、直流電源E1からブートコンデンサCx1へと流れる突入電流を抑制することができる。なお、例えばブートコンデンサCx1の静電容量が小さいために、抵抗Rx10がなくても突入電流が問題にならない場合には、抵抗Rx10は設けられていなくても構わない。
【0042】
ここで、調整部40が設けられていない場合の、ブートコンデンサCx1の初期充電動作において発生しえるスイッチング素子Sx1の誤動作について、説明する。まず、ブートコンデンサCx1を充電すべく、制御部3はスイッチング素子Sx2をターンオンさせる。
図4は、スイッチング素子Sx2をターンオンさせるときの各電圧の一例を模式的に示している。
【0043】
図4に示すように、時点t1において、制御電圧Vg2が立ち上がってオン電圧Vonを超える。これにより、スイッチング素子Sx2はターンオンする。このターンオンに伴って、スイッチング素子Sx2の両端電圧V2は低下してほぼ零に至るのに対して、スイッチング素子Sx1の両端電圧V1は増大して、直流電圧Vdcとほぼ同じ値を採る。これは、スイッチング素子Sx2のオンにより、スイッチング素子Sx1単体で直流電圧Vdcを支持することになるからである。なお、
図4は模式的な図であり、制御電圧Vg1および両端電圧V1は、実際には傾斜して立ち上がる。
【0044】
このようにスイッチング素子Sx1の両端電圧V1が増大すると、
図5に示すように、スイッチング素子Sx1の第1電極と制御電極との間の寄生容量C11を介して電流i11が流れる。この電流i11は、電源線LHから寄生容量C11を経由しつつ、次の2つの経路を経由して、スイッチング素子Sx1の第2電極へと流れ得る。第1経路は、抵抗Rx1、および、駆動回路Dx1のうち端子P11,P12の間の部分(駆動用スイッチ素子DS2の寄生容量または抵抗分、ならびに、パターン配線の寄生容量など)を含む経路であり、第2経路は、スイッチング素子Sx1の制御電極と第2電極との間の寄生容量C12を含む経路である。
【0045】
さて、通常運転に先立つブートコンデンサCx1の初期充電動作においては、駆動回路DRx1には未だ動作電圧が供給されずに、動作していない。よって、駆動用スイッチ素子DS2はハイインピーダンスである。なお駆動用スイッチ素子DS2はハイインピーダンスであるものの、実際には抵抗分や寄生容量を介して、駆動用スイッチ素子DS2にわずかに電流が流れ得る。また、駆動用スイッチ素子DS2がハイインピ−ダンスなので寄生容量C12にも大きな電流が流れる。制御電極と第2電極間が、通常運転のオフ状態よりもハイインピーダンスとなる。よって、寄生容量C11を介して電流i11が流れると、制御電極と第2電極間がハイインピーダンスである為、スイッチング素子Sx1の制御電極には、この電流i11とハイインピーダンスとによる電圧が印加されることになるので、この電圧が制御電圧Vg1となる。そして、制御電圧Vg1がスイッチング素子Sx1のオン電圧を超えると、スイッチング素子Sx1がターンオンする。
図4の例示では、制御電圧Vg1がオン電圧を超えているので、スイッチング素子Sx1がターンオンする。
【0046】
これにより、スイッチング素子Sx1,Sx2の両方がオンすることになる。よって、電源線LHからスイッチング素子Sx1,Sx2を介して電源線LLへと短絡電流が流れる。直流電圧Vdcは、駆動回路DRx1,DRx2の動作電圧に比して十分に大きく、しかも、短絡電流が流れる経路(スイッチング素子Sx1,Sx2)には大きな抵抗が存在しないので、この短絡電流は比較的大きい。
【0047】
図4の例示では、スイッチング素子Sx2を流れる電流I2は、スイッチング素子Sx1のオンに伴って、増大する。なお、スイッチング素子Sx2には、ブートコンデンサCx1を充電する充電電流と、短絡電流とが流れるので、電流I2は短絡電流と充電電流との和である。そして、制御電圧Vg1が低減に転じ、時点t2においてオン電圧Vonを下回ると、スイッチング素子Sx1がターンオフする。これにより、短絡電流は零となり、スイッチング素子Sx2には充電電流のみが流れる。よって、時点t2以後において、電流I2は充電電流と一致する。
【0048】
以上のように、ブートコンデンサCx1の初期充電動作において、スイッチング素子Sx1が誤動作してオンすると、比較的大きな短絡電流が流れる。このような短絡電流は望ましくない。
【0049】
なお、通常運転においては、スイッチング素子Sx2がターンオンする際のスイッチング素子Sx1の駆動用スイッチ素子DS2は、ローインピーダンスである。なぜなら、通常運転においては、スイッチング素子Sx1,Sx2は相互に排他的にオンするように制御されるので、スイッチング素子Sx2をターンオンするときには、スイッチング素子Sx1はオフしているからである。つまり、スイッチング素子Sx2をターンオンするときには、駆動用スイッチ素子DS2がオンしているのである。よって、スイッチング素子Sx2のターンオンの際に電流i11が流れた(
図5参照)としても、インピーダンスという観点では、通常運転における制御電圧Vg1の増大量は、初期充電動作における制御電圧Vg1の増大量に比べて小さい。
【0050】
そこで、本実施の形態では、ブートコンデンサCx1の初期充電動作において、スイッチング素子Sx2のターンオンに伴って流れる上記電流の最大値を低減することを企図するのである。
【0051】
本実施の形態にかかる駆動装置では、
図2に示すように、調整部40が設けられる。調整部40は、スイッチング素子Sx2がオフ状態からオン状態へと移行する期間における、スイッチング素子Sx2の両端電圧V2の、時間に対する低下率を調整する。つまり、スイッチング素子Sx2がターンオンする際の両端電圧V2の立ち下がりの傾斜を調整する。なお両端電圧V1,V2の和は直流電圧Vdcと等しいので、調整部40は、両端電圧V1の立ち上がりの傾斜を調整することにもなる。
【0052】
図6は、ブートコンデンサCx1の充電を行なうために、スイッチング素子Sx2をターンオンしたときの、スイッチング素子Sx2の両端電圧V2と、スイッチング素子Sx1の両端電圧Vx1との一例を模式的に示している。ここでは、ブートコンデンサCx1の充電を行なう前の状態において、スイッチング素子Sx1,Sx2の一組には直流電圧Vdcが印加されており、スイッチング素子Sx1,Sx2の各々には、直流電圧Vdcに応じた電圧が印加されている。
【0053】
そして、スイッチング素子Sx2がターンオンするときに、スイッチング素子Sx2の両端電圧V2は時間の経過と共に低下して、ほぼ零に至る。両端電圧V1,V2の和が直流電圧Vdcとなるので、両端電圧V1は、両端電圧V2の低下に応じて増大し、直流電圧Vdcとほぼ等しい値を採る。
【0054】
調整部40は、この両端電圧V2の低下率を調整する。より詳細には、通常運転におけるスイッチング素子Sx2の両端電圧V2の低下率の最大値よりも、ブートコンデンサCx1の初期充電動作における両端電圧V2の変化率の最大値の方を、小さくする。
図6では、通常運転における両端電圧V1,V2が破線で示され、初期充電動作における両端電圧V1,V2が実線で示されている。
【0055】
調整部40の動作は、次のように言い換えることもできる。即ち、初期充電動作においてスイッチング素子Sx2のターンオンに要する時間を、通常運転に比して長くする。或いは、初期充電動作におけるスイッチング素子Sx2のターンオン速度を、通常運転に比して低減する、とも説明できる。
【0056】
これにより、初期充電動作における両端電圧V2は比較的緩やかに低減し、同様に、両端電圧V1は比較的緩やかに増大する。
【0057】
これを実現すべく、調整部40は、例えば抵抗R40とスイッチ素子S40とを備えている。抵抗R40は、スイッチング素子Sx2の制御電極と、直流電源E1との間に設けられている。より詳細には、スイッチング素子Sx2をオンするための経路(直流電源E1と駆動用スイッチ素子DS1と抵抗Rx2とスイッチング素子Sx2とを含む経路)に設けられる。
図2の例示では、抵抗R40は、直流電源E1の低電位端と、駆動回路DRx2との間に設けられている。
【0058】
スイッチ素子S40は、例えばMOS電界効果トランジスタなどであって、抵抗R40と並列に接続されており、例えば制御部3によって制御される。制御部3は、ブートコンデンサCx1の初期充電動作において、スイッチ素子S40をオフさせた状態で、スイッチング素子Sx2をターンオンさせる。
【0059】
よって、ブートコンデンサCx1の初期充電動作においては、スイッチング素子Sx2をオンするための経路の抵抗値は、抵抗R40の抵抗値の分、比較的大きくなる。この抵抗値が大きいと、スイッチング素子Sx2の制御電圧Vg2は緩やかに増大する。これにより、スイッチング素子Sx2の両端電圧V2も緩やかに低減することになる。ひいては、スイッチング素子Sx1の両端電圧V1も緩やかに増大することになる。
【0060】
そして、両端電圧V1が緩やかに増大すると、これに起因して流れる電流i11の最大値を低減することができる。
図7は、スイッチング素子Sx2のターンオンの際の両端電圧V1と電流i11との一例を模式的に示している。
【0061】
本実施の形態と異なって、両端電圧V1が比較的急峻に増大すると、これに応じて寄生容量C11の両端電圧も比較的速やかに増大することになる。つまり、電流i11の最大値が比較的大きくなる(
図7の破線の電流i11参照)。
【0062】
このように電流i11が大きくなる理由については、次のようにも説明できる。即ち、制御電圧に比べて直流電圧Vdcが非常に大きい場合、寄生容量C11の電圧は、スイッチング素子Sx1の両端電圧V1とほぼ同じであると考えることができる。よって、スイッチング素子Sx1の両端電圧V1の変化が急峻であれば、寄生容量C11の電圧の変化も急峻であり、急峻な電圧変化をもたらすには、電流i11も急峻である。したがって、両端電圧V1の増大率が大きいほど、電流i11のピークが大きくなる。
【0063】
一方で、両端電圧V1が比較的緩やかに増大すると、これに応じて電流i11の最大値が比較的に小さくなる(
図7の実線の電流i11参照)。ひいては、電流i11に起因するスイッチング素子Sx1の制御電圧Vg1の増大を抑制することができる。よって、スイッチング素子Sx1が誤動作してオンすることを抑制できる。これにより、短絡電流を抑制して、ブートコンデンサCx1を充電できる。
【0064】
次に、制御部3は、通常運転を開始する前に、スイッチ素子S40をオンする。これにより、通常運転において、スイッチング素子Sx2のターンオンの際に、両端電圧V2の低下率を高めることができる。言い換えれば、スイッチング素子Sx2を速やかにターンオンすることができる。これは、スイッチング損失を小さくするという観点で望ましい。
【0065】
なお、通常運転にてスイッチング素子Sx2をターンオンする際には、上述したように駆動用スイッチ素子DS2がローインピーダンスであるので、電流i11に起因する制御電圧Vg1の増大は問題になりにくい。
【0066】
以上のように、本実施の形態では、よりスイッチング素子Sx1の誤動作が生じやすい初期充電動作では、ターンオン時のスイッチング素子Sx2の両端電圧V2の低下率を小さくして、スイッチング素子Sx1の誤動作を抑制し、スイッチング素子Sx1の誤動作が生じにくい通常運転では、ターンオン時のスイッチング素子Sx2の両端電圧V2の低下率を高くして、スイッチング素子Sx2の高速スイッチングを実現するのである。
【0067】
なお、
図2のように、スイッチ素子S40と抵抗R40とで調整部40を形成すれば、簡単な構成で調整部40の機能を実現することができる。
【0068】
また、上述の例では、駆動回路DRx1は駆動用スイッチ素子DS1,DS2を有しているものの、駆動用スイッチ素子DS1に替えて、プルアップ抵抗が設けられても良い。これによっても、スイッチング素子Sx1を駆動することができる。
【0069】
また、上述の例では、スイッチング素子Sx2を1回オンすることで、ブートコンデンサCx1を充電している。しかるに、これに限らず、スイッチング素子Sx2のオン/オフを繰り返し切り替えることで、ブートコンデンサCx1を間欠的に充電しても良い。
【0070】
また、上述の例では、直流電源E1の低電位端は、調整部40を介してスイッチング素子Sx2の第2電極に接続されているものの、調整部40を迂回して、直接に、スイッチング素子Sx2の第2電極に接続されていても良い。
【0071】
<調整部40の位置A>
スイッチング素子Su2,Sv2,Sw2の第2電極は、共通して電源線LLに接続されている(
図1も参照)。よって電源線LLに印加される電位が、スイッチング素子Su2,Sv2,Sv2の制御電圧Vg2の基準として機能する。したがって、低電位端が電源線LLに接続される直流電源E1を、各スイッチング素子Su2,Sv2,Sw2の駆動回路DRx2の動作電源として、共通に用いることができる。
【0072】
さらに、調整部40は、3つの駆動回路DRu2,DRv2,DRw2の各々と直流電源E1との間に設けられていてもよい。換言すれば、調整部40は駆動回路DRu2,DRv2,DRw2に対して共通に設けられてもよい。
【0073】
この場合、スイッチング素子Sx2のいずれをオンしても、対応するブートコンデンサCx1の充電経路には、調整部40が介在するので、そのスイッチング素子Sx2の両端電圧V2の低下率の最大値を小さくすることができる。よって、対応する両端電圧V1の増大率の最大値を低減でき、以ってスイッチング素子Sx1の誤動作を低減できる。
【0074】
しかも、調整部40を共通して用いるので、駆動回路DRx2のそれぞれに対応して調整部40を設ける場合に比べて、製造コストを低減することができる。
【0075】
<調整部40の位置B>
図8の例示では、調整部40は、駆動回路DRx2とスイッチング素子Sx2との間に設けられている。この構造によれば、直流電源E1の両端電圧が駆動回路DRx2の動作電圧として機能する。つまり、直流電源E1と駆動回路DRx2との間に抵抗R40およびスイッチ素子S40を設ける必要がない。したがって、これらに起因する駆動回路DRx2の動作電圧の低下を回避できる。
【0076】
以下、参考例として他の駆動装置について説明する。
【0077】
参考例.
図9は、参考例にかかる電力変換装置の概念的な一例を示す図である。本参考例では、スイッチング素子Su2,Sv2,Sw2にそれぞれ並列に接続される抵抗Ru3,Rv3,Rw3が設けられている。以下では、抵抗Ru3,Rv3,Rw3を総称して抵抗Rx3とも呼ぶ。一方で、スイッチング素子Sx1に対しては、抵抗が設けられていない。
【0078】
抵抗Ru3,Rv3,Rw3は十分に大きい抵抗値を有しており、通常運転においてスイッチング素子Sx2がオフしているときに、抵抗Rx3を流れる電流は十分に小さい。これにより、抵抗Rx3は、スイッチング素子Sx2のオン/オフのスイッチング機能を実質的に阻害しない。
【0079】
また抵抗Rx3が設けられているので、通常運転前において、スイッチング素子Sx1,Sx2の両方がオフしているときの、スイッチング素子Sx2の両端電圧V2をより小さくすることができる。その理由について、正確性を犠牲にして簡易に説明すると、抵抗Rx3を設けることで、スイッチング素子Sx2と抵抗Rx3との一組の合成抵抗値を低減することができるので、両端電圧V2を低減できるのである。
【0080】
ここでは、抵抗Rx3の抵抗値を次のように設定する。即ち、ブートコンデンサCx1の初期充電動作の前におけるスイッチング素子Sx2の両端電圧V2が、直流電圧Vdcのk(0<k<0.5)倍となるように、設定される。一例として、直流電圧Vdcが300Vである場合に、両端電圧V2が50Vとなるように、抵抗Rx3の抵抗値が設定される。
【0081】
この状態で、ブートコンデンサCx1を充電すべく、スイッチング素子Sx2をターンオンすると、スイッチング素子Sx1の両端電圧V1は250Vから300Vへと変化する。
【0082】
このように、スイッチング素子Sx1の両端電圧V1を比較的高い領域で変化させることができる。
【0083】
図10は、寄生容量C11の静電容量と、スイッチング素子Sx1の両端電圧V1との関係を示す模式的な図である。
図10から理解できるように、寄生容量C11の静電容量は、両端電圧V1が大きいほど小さい。
【0084】
本参考例では、抵抗Rx3を設けることにより、両端電圧V1を比較的高い領域で変化させることができるので、寄生容量C11の静電容量を低減することができる。そして、寄生容量C11の静電容量が小さいほど、スイッチング素子Sx2のターンオンに起因して、寄生容量C11を流れる電流が小さい。これは、寄生容量C11の静電容量が小さいほど、両端電圧V1の増大に応じて寄生容量C11の電圧を増大させるのに必要となる電流が、小さくて済むからである。
【0085】
この参考例では、スイッチング素子Sx2を1回オンすることにより、ブートコンデンサCx1を充電している。ただし、これに限らない。ブートコンデンサCx1の初期充電動作において、スイッチング素子Sx2を繰り返しスイッチングしても構わない。このときスイッチング素子Sx2がオフする期間を調整することで、スイッチング素子Sx2の両端電圧V2を小さい範囲で変化させることができる。例えば制御電圧を10Vとすると、スイッチング素子Sx2の両端電圧V2を0V〜(10V+1V)の範囲内で変化させることができる。このとき、スイッチング素子Sx1の両端電圧V1は(300V−(10V+1V))〜300Vの範囲内で変化することとなり、さらに寄生容量C11の静電容量を小さくすることができる。よって、スイッチング素子Sx2のターンオンに起因するスイッチング素子Sx1の誤動作を更に抑制することができる。