(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160457
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】ロジン変性セルロース、ロジン変性セルロースミクロフィブリル及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 3/10 20060101AFI20170703BHJP
【FI】
C08B3/10
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-245527(P2013-245527)
(22)【出願日】2013年11月28日
(65)【公開番号】特開2014-129518(P2014-129518A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2016年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2012-261853(P2012-261853)
(32)【優先日】2012年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】釜谷 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】引地 健介
(72)【発明者】
【氏名】竹内 秀治
(72)【発明者】
【氏名】井岡 浩之
(72)【発明者】
【氏名】田井 則之
【審査官】
三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−106251(JP,A)
【文献】
特表平11−513425(JP,A)
【文献】
Carbohydrate Research,2011年,346,p.2024-2027
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースの水酸基の一部がロジン系化合物の酸無水物とエステル結合してなるロジン変性セルロースであり、セルロースの変性率が1.0〜20%であり、X線結晶回折による結晶化度が40以上であることを特徴とするロジン変性セルロース。
【請求項2】
セルロースミクロフィブリルの水酸基の一部がロジン系化合物の酸無水物とエステル結合してなるロジン変性セルロースであり、セルロースの変性率が1.0〜20%であり、X線結晶回折による結晶化度が40以上であることを特徴とするロジン変性セルロースミクロフィブリル。
【請求項3】
請求項1に記載のロジン変性セルロースを用いてなる請求項2に記載のロジン変性セルロースミクロフィブリル。
【請求項4】
セルロースの水酸基の一部がロジン系化合物の酸無水物とエステル結合してなり、セルロースの変性率が1.0〜20%であり、X線結晶回折による結晶化度が40以上であることを特徴とするロジン変性セルロースの製造方法。
【請求項5】
ロジン系化合物の酸無水物及びセルロースを、有機溶媒中でエステル化させる請求項4に記載のロジン変性セルロースの製造方法。
【請求項6】
セルロースミクロフィブリルの水酸基の一部がロジン系化合物の酸無水物とエステル結合してなり、セルロースの変性率が1.0〜20%であり、X線結晶回折による結晶化度が40以上であることを特徴とするロジン変性セルロースミクロフィブリルの製造方法。
【請求項7】
ロジン系化合物の酸無水物及びセルロースミクロフィブリルを、有機溶媒中でエステル化させる請求項6に記載のロジン変性セルロースミクロフィブリルの製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載のロジン変性セルロースを、分散機を用いて分散・混練する請求項6に記載のロジン変性セルロースミクロフィブリルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロジン変性セルロース、ロジン変性セルロースミクロフィブリル及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースミクロフィブリルはセルロース分子の集合体であり、セルロースミクロフィブリルの集合体がセルロース繊維を形成する。近年、セルロースミクロフィブリルを高分子複合材料の補強材として使用する試みが多くなされている(特許文献1)。一般にセルロースミクロフィブリルはパルプ等のセルロース繊維を機械的にせん断することにより得られるが、セルロースミクロフィブリルは親水性が非常に高いため、セルロースミクロフィブリルを用いた成型物では耐水性に問題があり、耐水性の向上が大きな課題となっている。
【0003】
耐水性を向上させる方法としては、たとえば、ミクロフィブリル化セルロースの水性分散液にカチオン性微粒子を添加する方法が提案されている(特許文献2)。当該方法はミクロフィブリル化セルロースの水性分散液の濾水性を向上させると共に、ミクロフィブリル化セルロース表面に適度な疎水性を付与することにより耐水性を向上させようとするものであった。しかしながら、当該方法によれば、ミクロフィブリル化セルロース表面に疎水性が付与されるものの、成形物の耐水性を向上させるまでには至っていない。
【0004】
また、セルロースナノファイバーの水酸基をカルボン酸で化学修飾することで補強効果に優れたセルロースナノファイバーが提案されている(特許文献3)。しかし、特許文献3で提案されている酢酸やプロピオン酸等の低級カルボン酸類との化学修飾では、十分な耐水性を付与できなかった。
【0005】
さらに、セルロースの水酸基とロジン酸塩化物をイオン液体中で反応させて、ロジン構造を付与した疎水化セルロースが提案されている(非特許文献1)。当該方法で得られた疎水化セルロースは、イオン液体中でセルロースを完全に溶解させて反応を進行させるため、結晶化度が著しく低下しており、セルロースの高結晶性由来の特性が失われるという問題があった。また、得られる疎水化セルロースは色調が劣る、更に、ロジン酸塩化物に由来する塩素が該セルロース中に残存しやすいなどの不利がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−266630号公報
【特許文献2】特開2009−96834号公報
【特許文献3】特開2011−184816号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】許ら(Xuetang Xu et al.),イオン液体中でのセルロースデヒドロアビエテートの合成(Synthesis of cellulose dehydroabietate in ionic liquid)、カーボハイドレート リサーチ(Carbohydrate Research),346(2011),p.2024−2027
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、疎水効果および結晶性に優れたロジン変性セルロース、ならびに該ロジン変性セルロースミクロフィブリルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、疎水性に優れたロジン系化合物をセルロース表面へ修飾することができれば、少量の表面修飾量であっても優れた疎水効果が得られ、前記課題を解決しうると考えた。しかし、一般的に、ロジン系化合物は、親水性の材料と混合することが容易でなく、また、その嵩高さに起因して、セルロースの分解を抑制できるような低温条件でセルロース類と反応させることは困難であるため、セルロースの水酸基と反応させる疎水化剤としてはあまり検討されていなかった。そこで、本発明者は、鋭意検討した結果、特定のロジン系化合物を用いて、セルロースを特定の変性率で化学修飾することで、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、セルロースの水酸基の一部がロジン系化合物の酸無水物とエステル結合してなるロジン変性セルロースであって、セルロースの変性率が1.0〜20%であり、X線結晶回折によるセルロースの結晶化度が40以上であることを特徴とするロジン変性セルロース;セルロースミクロフィブリルの水酸基の一部がロジン系化合物の酸無水物とエステル結合してなるロジン変性セルロースミクロフィブリルであって、セルロースの変性率が1.0〜20%であり、X線結晶回折によるセルロースの結晶化度が40以上であることを特徴とするロジン変性セルロースミクロフィブリル;セルロースの水酸基の一部がロジン系化合物の酸無水物とエステル結合してなる、セルロースの変性率が1.0〜20%であり、X線結晶回折による結晶化度が40以上であることを特徴とするロジン変性セルロースの製造方法;セルロースミクロフィブリルの水酸基の一部がロジン系化合物の酸無水物とエステル結合してなり、セルロースの変性率が1.0〜20%であり、X線結晶回折による結晶化度が40以上であることを特徴とするロジン変性セルロースミクロフィブリルの製造方法に係る。
【発明の効果】
【0011】
本発明のロジン変性セルロースおよび該セルロースミクロフィブリルは、少量の変性率であっても優れた疎水性を示し、各種の有機溶媒への分散性に優れ、合成樹脂への分散性改善効果が期待できる。さらに、当該セルロースの変性率を高めた際に、色調は殆ど変化せず、高い耐吸湿性も示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のロジン変性セルロースは、セルロースの水酸基の一部がロジン系化合物の酸無水物とエステル結合してなるロジン変性セルロースであって、セルロースの変性率が1.0〜20%であり、X線結晶回折によるセルロースの結晶化度が40以上であることを特徴とする。原料として使用されるセルロース(以下、成分(A1)という)は、特に限定されず公知の物を使用することができる。具体的には、木材、綿花、竹、麻及びケナフ等の植物由来のパルプ、ホヤなどの動物由来及び植物由来の天然繊維、古紙等から得られるセルロースが挙げられる。成分(A1)はX線回折パターンにおいて、Iβ型の結晶ピークを有する。セルロースI型は、Iα型結晶とIβ型結晶の複合結晶であり、反応後もIβ型結晶を主成分とする。
【0013】
本発明に用いられるロジン系化合物の酸無水物(以下、成分(B)という)は、成分(A1)の水酸基との反応性、ならびに得られるロジン変性セルロースおよび該セルロースミクロフィブリルの色調および結晶化度を考慮して、必須選択されたものである。ここで、ロジン系化合物(以下、成分(b)という)としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の天然ロジン、天然ロジンを蒸留して得られる蒸留ロジン、天然ロジンを水素化して得られる水添ロジン、天然ロジンを重合して得られる重合ロジン、天然ロジンを不均化して得られる不均化ロジン、天然ロジンを不飽和カルボン酸で変性して得られる不飽和カルボン酸変性ロジン等が挙げられる。不飽和カルボン酸変性ロジンとしては、マレイン化ロジン、フマル化ロジン、アクリル化ロジン等が挙げられる。なお、ロジン系化合物としては、蒸留、水素化、重合、不均化、不飽和カルボン酸変性等の各操作の2つ以上を組み合わせて得られるロジン系化合物を用いることもできる。これらのロジン系化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
成分(B)の製造法としては、特に限定されず、各種公知の方法を採用することができ、例えば、脱水剤を用いて前記成分(b)を脱水縮合する方法、又は無水酢酸などの低級カルボン酸無水物中で前記成分(b)を反応させる方法などが良く知られている。
【0015】
成分(A1)の分解を抑制しつつ、成分(B)を成分(A1)の水酸基と反応させる方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することが出来る。該エステル化は、例えば、所定の反応容器中で、成分(A1)、成分(B)および前記成分と反応しない有機溶剤からなるスラリー液を、25℃〜200℃、好ましくは50〜190℃で反応させればよい。該有機溶剤としては、反応後十分に除去できるものが好ましい。使用可能な有機溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン等の飽和脂肪族系溶剤、トルエン、キシレン、ピリジン等の芳香族系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶剤、ジメチルスルホキシド等のスルホン系溶剤、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤等が挙げられる。
【0016】
上記の反応における成分(A1)と成分(B)の仕込み比率は、格別限定されないが、通常はOH基/COOCO基(当量比)が0.5〜120程度、好ましくは1〜60となるように各仕込み量を決定すればよい。該反応の追跡は、IR分析又は熱分解GC/MS分析により行うことができる。
【0017】
本発明のロジン変性セルロースミクロフィブリルは、前記のようにして得られたロジン変性セルロースを機械的処理することによって得ることもできる。機械的処理方法としては、セルロース繊維をミクロフィブリル化できれば、特に制限はなく、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、振動ミル、ホモミキサー、リファイナー、グラインダー、押し出し機、遊星ミル処理、ビーズミル、ジェットミル、ボールミル等、公知の方法を利用することができる。なお、機械的処理条件としては、特に制限はなく、使用する装置の種類に応じて、適宜設定することができる。また、機械的処理方法としては、湿式法、乾式法が挙げられるが、ミクロフィブリル化を促進するには、湿式法で行うのが好ましい。湿式法では、溶媒を添加するが、該溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン、ピリジン、アセトン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0018】
また、本発明のロジン変性セルロースミクロフィブリルは、前記の機械的処理により、成分(A1)を粉砕しながら、成分(B)と反応させても製造できる。
【0019】
さらに、本発明のロジン変性セルロースミクロフィブリルは、出発原料として成分(A1)の代わりにセルロースミクロフィブリル(以下、成分(A2)という)を使用して、成分(B)とエステル化させても製造できる。なお、成分(A2)は、成分(A1)を機械的処理することにより得られる。成分(A2)の繊維径は、通常、3〜1000nmであることが好ましく、3〜100nmであることがより好ましい。成分(A2)としては、例えば、(株)ダイセル製のセリッシュ等が挙げられる。
【0020】
上記の成分(A1)および(A2)は、通常は水を含んでいるが、含水状態では、有機溶剤中で成分(A1)又は(A2)の凝集が起こりやすく、また、成分(B)と水が反応してしまうなどの不利がある。係る観点から、成分(B)との反応に際しては、予め成分(A1)および(A2)を脱水処理することが好ましい。該脱水方法としては、例えば、水との混和性のある極性溶剤を用いて水を置換する方法を採用できる。該極性溶剤としては、成分(B)と反応しないものが好ましく、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。更に、他の脱水方法として、成分(A1)又は成分(A2)に、該極性溶剤および有機溶剤を併用添加して、共沸脱水しても良い。
【0021】
上記のようにして、本発明のロジン変性セルロースおよびロジン変性セルロースミクロフィブリルが得られる。該ロジン変性(成分(A1)又は成分(A2)に対する成分(B)との反応)は、一般式(1)で表される反応式に従うと考えられる。
【0022】
一般式(1):
R−CO−O−CO−R + OH−Cel → RCOO−Cel + RCOOH
(式中のRはロジン残基を、Celはセルロース残基、又はセルロースミクロフィブリル残基を示す。)
【0023】
本発明のロジン変性セルロース及びロジン変性セルロースミクロフィブリルは全体の水酸基のうち、ロジン系化合物のカルボキシル基により修飾される変性率が1.0〜20%であり、好ましくは1.5〜15%である。変性率が1.0%より小さい場合は、ロジン変性セルロースや該セルロースミクロフィブリルの疎水化が不十分となる。そのため、有機溶媒あるいは合成樹脂中での分散が悪くなる、有機溶媒中でロジン変性セルロースの凝集物が発生するなど、添加剤としては使用できなくなる。また、変性率が20%より大きい場合は、有機溶媒に一部または全て溶解し分散体が得られない。また、合成樹脂中でセルロースの繊維の形状が保持されないため、合成樹脂の機械的強度が低下する傾向がある。
【0024】
また、本発明のロジン変性セルロース及び該セルロースミクロフィブリルの結晶化度は、X線結晶回折の測定により得られ、その値が40以上であることが好ましい。結晶化度が40未満となると、吸湿量が増加し、また、セルロースの高結晶性由来の特性である力学的強度が低下する傾向がある。なお、ロジン変性セルロース及びロジン変性セルロースミクロフィブリルの結晶化度は、用いる成分(A1)又は(A2)の種類に依存するため、該結晶化度の上限値は一義的に決定できないが、通常は95程度である。
【0025】
以下、本発明を実施例及び比較例により、具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
(セルロースの変性率)
セルロースの変性率は、セルロースの繰返し単位である無水グルコース中の3個の水酸基がロジンとエステル結合している程度(以下、置換度(DS)という)から求められる。DSは熱分解GC/MS分析により算出した。なお、測定はトリメチルシリジルアゾメタンを加え15分放置した後、下記装置を用いて、熱分解温度450℃で行った。
(熱分解GC/MS分析装置:
熱分解装置:PY−2020D(FRONTIER LAB製)
GC/MS:HP6890/5973(アジレント・テクノロジー(株)製)
カラム:UA−5(FRONTIER LAB製))
熱分解GC/MS分析より定量されたロジン化合物の含有量から式1を用いて、DSを求める。次いで、得られたDSから式2を用いて、セルロースの変性率を算出した。
(式1) DS=(A/299)/{(100−A)/162}
(A:定量されたロジン化合物の含有量(重量%)、299:ロジンの分子量、162:グルコースの分子量)
(式2) 変性率(%)=DS÷3×100
【0027】
(セルロースの結晶化度)
セルロースの結晶化度は、X線結晶回折(装置:RINT−2000((株)リガク製)により算出した。なお、測定は電圧40kV、電流50mA、スキャンスピード:2°/分で行った。
得られた回折像全体の面積に対する結晶部分の割合として、式3により算出した。
(式3) 結晶化度(%)={(結晶部分の面積)/(X線回折像全体の面積)}×100
【0028】
実施例1
セルロースミクロフィブリルであるセリッシュKY100G((株)ダイセル製)500gにアセトン5000gを加え、撹拌後、ろ過する作業を繰り返し2回行い、アセトン置換セルロースミクロフィブリル(6.7%セルロース含有)を得た。得られたアセトン置換セルロースミクロフィブリル15g(セルロース重量1g)にキシレン50g、定法により合成したロジン酸無水物(荒川化学工業(株)製)を0.36g加え、アセトンを系外に抜きつつ、140℃まで昇温し、3時間反応させた。反応後、ろ過して、キシレンでの3回洗浄により残留ロジン分を除去した後、更にヘキサンで3回洗浄した。減圧乾燥して、ロジン変性セルロースミクロフィブリルを得た。得られた変性セルロースミクロフィブリルの変性率は2.7%であり、結晶化度は60%であった。
【0029】
実施例2
ロジン酸無水物の量を1.8gにした以外は実施例1と同様の手順で、ロジン変性セルロースミクロフィブリルを得た。得られた変性セルロースミクロフィブリルの変性率は4.0%であり、結晶化度は60%であった。
【0030】
実施例3
ロジン酸無水物の量を3.6gにした以外は実施例1と同様の手順で、ロジン変性セルロースミクロフィブリルを得た。得られた変性セルロースミクロフィブリルの変性率は5.0%であり、結晶化度は60%であった。
【0031】
実施例4
ロジン酸無水物の量を10.9gにした以外は実施例1と同様の手順で、ロジン変性セルロースミクロフィブリルを得た。得られた変性セルロースミクロフィブリルの変性率は7.7%であり、結晶化度は60%であった。
【0032】
実施例5
実施例1で得られたアセトン置換セルロースミクロフィブリル15g(セルロース重量1g)にピリジン1.4g、キシレン50g、定法により合成したロジン酸無水物を10.9g加え、105℃まで昇温し、3時間反応させた。反応後、ろ過して、キシレンでの3回洗浄により残留ロジン分を除去した後、更にヘキサンで3回洗浄した。減圧乾燥して、ロジン変性セルロースミクロフィブリルを得た。得られた変性セルロースミクロフィブリルの変性率は13.0%であり、結晶化度は56%であった。
【0033】
実施例6
ロジン酸無水物の量を21.8gにした以外は実施例5と同様の手順で、ロジン変性セルロースミクロフィブリルを得た。得られた変性セルロースミクロフィブリルの変性率は19.0%であり、結晶化度は52%であった。
【0034】
実施例7
セリッシュKY−100Gの代わりに、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)(平均繊維長0.9mm、平均繊維径20μm)を用いて、実施例4と同様の手順で行った。得られた変性セルロースの変性率は1.7%であり、結晶化度は55%であった。
【0035】
実施例8
実施例7と同様のロジン変性セルロース2g、NMP20g、ジルコニアビーズ(0.3mm)160gを遊星型ボールミル(フリッチュ・ジャパン製)の専用容器に入れ、回転数400rpmで1時間粉砕させた。得られた変性セルロースミクロフィブリル(平均繊維長4μm、平均繊維径95nm)の変性率は1.7%であり、結晶化度は54%であった。
【0036】
比較例1
ロジン酸無水物を加えずに、実施例1と同様の手順で行った。得られたセルロースミクロフィブリルの変性率は0%であり、結晶化度は58%であった。
【0037】
比較例2
ロジン酸無水物の量を0.18gにした以外は実施例1と同様の手順で、ロジン変性セルロースミクロフィブリルを得た。得られたセルロースミクロフィブリルの変性率は0.8%であり、結晶化度は59%であった。
【0038】
比較例3
ピリジンの量を4.2gにした以外は、実施例6と同様の手順で、ロジン変性セルロースミクロフィブリルを得た。得られた変性セルロースミクロフィブリルの変性率は22.0%であり、結晶化度は39%であった。
【0039】
比較例4
実施例1で得られたアセトン置換セルロースミクロフィブリル15g(セルロース重量1g)にピリジン1.4g、キシレン50g、定法により合成したロジン酸塩化物を1.4g加え、105℃まで昇温し、3時間反応させた。反応後、ろ過し、濾過残渣をキシレンで3回洗浄して残留ロジン分を除去した後、更にヘキサンで3回洗浄した。減圧乾燥して、ロジン変性セルロースミクロフィブリルを得た。得られたセルロースミクロフィブリルの変性率は5.0%であり、結晶化度は55%であった。
【0040】
比較例5
ロジン酸塩化物の量を4.2gにした以外は比較例4と同様の手順で、ロジン変性セルロースミクロフィブリルを得た。得られたセルロースミクロフィブリルの変性率は10.0%であり、結晶化度は48%であった。
【0041】
比較例6
ロジン酸塩化物の量を12.6gにした以外は比較例4と同様の手順で、ロジン変性セルロースミクロフィブリルを得た。得られたセルロースミクロフィブリルの変性率は22%であり、結晶化度は35%であった。
【0042】
比較例7
セリッシュKY−100Gの代わりに、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)(平均繊維長0.9mm、平均繊維径20μm)を用いて、比較例1と同様の手順で行った。得られた変性セルロースの変性率は0%であり、結晶化度は56%であった。
【0043】
比較例8
セリッシュKY−100Gの代わりに、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)(平均繊維長0.9mm、平均繊維径20μm)を用いて、比較例4と同様の手順で行った。得られた変性セルロースの変性率は4.0%であり、結晶化度は52%であった。
【0044】
各実施例及び比較例で得たサンプルを、以下の試験方法で測定し結果を表1に示した。
【0045】
(評価用シートの作成方法)
各実施例及び比較例で製造したロジン変性セルロースミクロフィブリル0.5gを有機溶剤または水4.5gでスラリー液を調製した。スラリー液をろ紙にて減圧濾過した後、0.2MPa、80℃で1分間プレスし、評価用シートを作成した。
【0046】
(色調)
ロジン変性セルロースおよびロジン変性セルロースミクロフィブリルの色調変化(着色すると褐色化)を目視観察し、未変性原料の色調と比較して、ほとんど変化がない物を○、若干変化した物を△、明らかに変化した物を×とした。
【0047】
(キシレン分散性)
キシレンを用い、各サンプルを1重量%のスラリー液を調製した。該スラリー液を超音波分散した際、目視にて、分散が十分な物を○、分散せず凝集した物を×、溶解した物を溶解とした。
【0048】
(吸湿試験)
疎水化の程度を表すために、得られたセルロースミクロフィブリルをシート化し、各サンプルを相対湿度90%、温度50℃条件下、24時間暴露し、重量増加率(%)を求めた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のロジン変性セルロース又は該セルロースミクロフィブリルは、優れた疎水性を示すことから、樹脂との混練・分散により、耐水性に優れる成型物を提供できる。なお、適用可能な樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリルニトリルスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネートなどが挙げられる。