【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
(参考例1)透過率の算出
本明細書において各化合物のナノ濾過膜透過率とは、各化合物を溶解した液体(原液)を分離膜に通じ、濾過を行った場合に、濾液に含まれる各化合物の濃度を、原液に含まれる各化合物の濃度で除した値を指す。各化合物のナノ濾過膜透過率は、透過流束、液体の温度、pHなどに影響を受けるため、本実施例でナノ濾過膜透過率を測定する際には、透過流束0.5m/日、温度25℃、pH5に制御した。なお、透過流束(m/日)は、透過流量(m
3/日)を、分離膜の有効面積(m
2)で除した値である。また、溶液のpHは硫酸または水酸化ナトリウムを使用してナノ濾過膜の濾過に先立って調整した。
【0026】
(参考例2)セルロース含有バイオマス由来糖液の作製工程
セルロース含有バイオマスとして、稲わらを用いた。前記稲わらを4mmの目開きを有するスクリーンで粒度を制御しながらカッターミルを用いて粉砕した。粉砕後、水に浸し、撹拌しながら180℃で5分間オートクレーブ処理(日東高圧株式会社製)した。その際の圧力は10MPaであった。得られたスラリーに、トリコデルマ・リーセイ由来のセルラーゼ製剤(アクセルレース・デュエット、Genencor社製)を、スラリー中の固形物乾燥重量に対し、酵素タンパク質乾燥重量で100分の1の量を添加し、50℃で24時間糖化反応を行った。その後、フィルタプレス処理(薮田産業株式会社製、MO−4)を行い、未分解セルロースあるいはリグニンを分離除去したセルロース含有バイオマス由来の糖液を得た。更に、本糖液を細孔径0.22μmの精密濾過膜に供することにより、ミクロンオーダーの不溶性粒子を除去した。このようにして得られたセルロース含有バイオマス由来糖液を、以下の実施例にて使用した。
【0027】
(参考例3)各化合物の分析条件
1.糖類分析条件
糖液中のグルコース、キシロース濃度は、下記に示す高速液体クロマトグラフィー条件で、標品との比較により定量した。
機器:ACQUITY UPLC システム(Waters社製)
カラム:ACQUITY UPLC BEH Amide 1.7μm 2.1×100mm Column(Waters社製)
移動相:A液;80% アセトニトリル+0.2%TEA、B液;30% アセトニトリル+0.2% TEA
流速:0.3mL/min
温度:55℃。
【0028】
2.酢酸分析条件
糖液中の発酵阻害物質である酢酸の濃度は、下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。
機器:日立高速液体クロマトグラフ Lachrom elite(株式会社日立製作所製)
カラム:GL‐C610H‐S (株式会社日立製作所製)
移動相:3mM 過塩素酸
反応液:ブロモチモールブルー溶液
検出方法:UV‐VIS検出器
流速 移動相:0.5mL/min 反応液:0.6mL/min
温度:60℃。
【0029】
3.芳香族化合物分析条件
糖液中の発酵阻害物質であるHMF、バニリンの濃度は、下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。
機器:日立高速液体クロマトグラフ Lachrom elite(株式会社日立製作所製)
カラム:Synergi 2.5μm Hydro‐RP 100A(Phenomenex社製)
検出方法:Diode Array 検出器
流速:0.6mL/min
温度:40℃。
【0030】
4.エタノール分析条件
糖液中のエタノール濃度は、下記に示すGC条件で、標品との比較により定量した。
機器:Shimadzu GC−2010(株式会社島津製作所製)
カラム:TC−1(内径0.53mm、長さ15m、膜厚1.50μm(GL サイエンス株式会社製)
検出方法:FID。
【0031】
(参考例4)モデル糖液のナノ濾過膜処理
モデル糖液として、単糖であるグルコースおよびキシロースをそれぞれ20g/L、発酵阻害物質である酢酸、HMF、バニリンをそれぞれ0.5g/Lずつ含む水溶液を調整した。本モデル糖液を、ナノ濾過膜(UTC−60、東レ株式会社製)を用いて、クロスフロー方式による濾過に供した。クロスフロー濾過条件は、液温25℃、膜面線速度20cm/秒とし、操作圧は透過流束が0.5m/日となるように適宜調節した。また、膜分離装置はスパイラルモジュールの濾過小型試験機として使用できる小型の平膜ユニット(GE Osmonics社製“SEPA CF−II”、有効膜面積140cm
2)を使用した。なお、濾液側の濃度は安定するのに時間がかかるため、20分間濾液の液を原水側に戻し、20分経過後の安定した濾液をサンプリングし、参考例1にしたがって透過率を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0032】
(実施例1)比誘電率が17以上の有機液体化合物を含む糖液のナノ濾過膜処理
参考例4記載のモデル糖液中に、25℃における比誘電率が17以上の有機液体化合物であるエタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、グリセリン、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、エチレングリコール、アセトン、アセトニトリル、アクリロニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドのうちいずれか1種類を、5g/Lの濃度で含むこと以外は、参考例4と同様の方法で濾過を行った。参考例1にしたがって透過率を求めた結果を表1に示す。
【0033】
(比較例1)比誘電率が17未満の有機液体化合物を含む糖液のナノ濾過膜処理
参考例4記載のモデル糖液中に、25℃における比誘電率が17未満の有機液体化合物(括弧内は25℃における比誘電率の数値)であるテトラヒドロフラン(THF、7.5)、ベンジルアルコール(11.9)、1−ヘキサノール(12.7)、2−ヘキサノール(11.1)、シクロヘキサノール(15.9)のうちいずれか1種類を、5g/Lの濃度で含むこと以外は、参考例4と同様の方法で濾過を行った。参考例1にしたがって透過率を求めた結果を表1に示す。
【0034】
表1から明らかなように、有機液体化合物を含まないモデル糖液(参考例4)に対し、有機液体化合物を含む場合では、有機液体化合物の25℃における比誘電率が17以上である場合(実施例1)に限り、顕著に単糖であるグルコース、キシロースの透過率が低減することが判明した。また単糖透過率の低減効果は、含まれる有機液体化合物の比誘電率が高くなれば高くなるほど、更に高められることが判明した。一方、有機液体化合物を含む場合であっても、有機液体化合物の25℃における比誘電率が17未満の場合(比較例1)では、単糖透過率の低減はほとんど見られないことも判明した。なお、発酵阻害物質である酢酸、HMF、バニリンの透過率に関しては、いずれの場合もほとんど変化がなかった。
【0035】
【表1】
【0036】
(実施例2)有機液体化合物の濃度の影響
参考例4記載のモデル糖液中に、誘電率が17以上の有機液体化合物であるエタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、グリセリン、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、エチレングリコール、アセトン、アセトニトリル、アクリロニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドのうちいずれか1種類を、50ppm、500ppm、5000ppm、10000ppmの各濃度で含む水溶液を調整し、それぞれについて参考例4と同様の方法で濾過を行った。参考例1の方法に従い、グルコース、キシロースの透過率を求めた結果を表2に示す。参考例4の結果および表2から明らかなように、モデル糖液中に誘電率が17以上の有機液体化合物を含む場合では、50ppmの濃度で単糖透過率低減の効果があった。また、この効果は、有機液体化合物の濃度が高くなれば高くなるほど更に高められたが、5000ppmでほぼ頭打ちとなることが明らかとなった。
【0037】
【表2】
【0038】
(実施例3)セルロース含有バイオマス由来糖液のエタノール発酵後の蒸留残渣液のナノ濾過膜処理
参考例2の方法により得られたセルロース含有バイオマス由来糖液を用いたエタノール発酵および蒸留を行って得られる蒸留残渣液に含まれる発酵の残糖を回収することを目的として、蒸留残渣液のナノ濾過膜処理について検討した。まず前培養として、表3に示す培地5mLをフィルター滅菌(ミリポア株式会社製“ステリフリップ”、平均細孔径0.22μm)し、試験管中で30℃にてパン酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)を一晩振とう培養した。前培養液よりパン酵母を遠心分離により回収し、滅菌水15mLでよく洗浄した。洗浄したパン酵母を、参考例2の方法により得られたセルロース含有バイオマス由来糖液100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコで24時間振とう培養した(本培養)。本培養液より固形物を遠心分離により除去し、さらに精密濾過膜(ミリポア株式会社製“ステリカップ”、平均細孔径0.22μm)に供して清澄なセルロース糖発酵残渣液を得た。更にセルロース糖発酵残渣液を、ロータリーエバポレータを用いて蒸留し、得られたセルロース糖由来蒸留残渣液を、参考例4と同様の方法で濾過を行った。セルロース糖蒸留残渣液中の糖(グルコース、キシロース)およびエタノール濃度と、参考例1の方法に従い、グルコース、キシロース、酢酸、HMF、バニリンの透過率を求めた結果を表4に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
(比較例2)モデル蒸留残渣液のナノ濾過膜処理
モデル蒸留残渣液として、実施例3記載のセルロース糖蒸留残渣液と等濃度のグルコース、キシロース、酢酸、HMF、バニリンを含む水溶液を、試薬を用いて調整した。前記モデル蒸留残渣液を、参考例4と同様の方法で濾過を行った。参考例1の方法に従い、各化合物の透過率を求めた結果を表4に示す。
【0041】
表4から明らかなように、エタノールを含むセルロース糖蒸留残渣液では、エタノールを全く含まないモデル蒸留残渣液と比較して単糖のナノ濾過膜透過率が低減することが判明した。一方で、発酵阻害物質である酢酸、HMF、バニリンのナノ濾過膜透過率に変化は見られなかった。
【0042】
【表4】
【0043】
(比較例3)様々な糖を含むモデル糖液のナノ濾過膜処理
モデル糖液として、マンノース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、キシリトール、ソルビトールをそれぞれ10g/Lずつ、発酵阻害物質である酢酸、HMF、バニリンをそれぞれ0.5g/Lずつ含む水溶液を使用すること以外、参考例4と同様の方法でろ過を行った。参考例1にしたがって透過率を求めた結果を表5に示す。
【0044】
(実施例4)エタノール、エチレングリコール存在下における様々な糖を含むモデル糖液のナノろ過膜処理
比較例3記載のモデル糖液中に、25℃における比誘電率が17以上の有機液体化合物であるエタノール、エチレングリコールのうちいずれか1種類を、5g/Lの濃度で含むこと以外は、比較例3と同様の方法で濾過を行った。参考例1にしたがって透過率を求めた結果を表5に示す。
【0045】
【表5】
【0046】
表5から明らかなように、エタノール、エチレングリコールのうちいずれか1種類を含モデル糖液では、エタノールやエチレングリコールを含まないモデル糖液と比較して単糖のナノ濾過膜透過率が低減することが判明した。一方で、発酵阻害物質である酢酸、HMF、バニリンのナノ濾過膜透過率に変化は見られなかった。