特許第6160486号(P6160486)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160486
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】扁平多葉形断面繊維を用いた織物
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/00 20060101AFI20170703BHJP
   D01F 6/60 20060101ALI20170703BHJP
   D06C 15/00 20060101ALI20170703BHJP
   A41D 31/00 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   D03D15/00 B
   D01F6/60 321A
   D06C15/00
   A41D31/00 501C
   A41D31/00 502B
   A41D31/00 503F
   A41D31/00 H
   A41D31/00 503Z
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-533033(P2013-533033)
(86)(22)【出願日】2013年6月19日
(86)【国際出願番号】JP2013066793
(87)【国際公開番号】WO2014021013
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2016年5月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-172064(P2012-172064)
(32)【優先日】2012年8月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山中 健志
(72)【発明者】
【氏名】高永 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】井田 隆史
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/050973(WO,A1)
【文献】 特開2003−147656(JP,A)
【文献】 特開2000−220047(JP,A)
【文献】 特開2004−060064(JP,A)
【文献】 特開2011−074539(JP,A)
【文献】 特開2005−139575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00−27/18
A41D 31/00
D01F 6/60
D06C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面または両面にカレンダー加工が施された織物であって、カレンダー加工後の織物の経糸または/および緯糸を構成するポリアミド繊維が、単繊維繊度0.5〜2.5dtexで、総繊度5〜50dtexであり、単繊維の断面形状が、葉部を〜10個有した扁平多葉形であり、該扁平多葉形の凸部頂点のうち任意の2点を結ぶ最長の線分を線分A(その長さをαとする)と、該線分Aに平行な線でかつ最外の頂点を含む接線で構成される外接四角形(隣合う辺で構成される角の角度は90°)の他の線分B(その長さをβとする)とで表される扁平度(W)(α/β)が1.5〜3.0であり、かつカバーファクターが1200〜2500であることを特徴とする織物。
【請求項2】
カレンダー加工前の織物に用いられるポリアミド繊維が、単繊維繊度0.4〜2.2dtexで、総繊度4〜44dtexであり、単繊維の断面形状が、〜10葉の扁平多葉形であり、該扁平多葉形の凸部頂点のうち任意の2点を結ぶ最長の線分Aの長さをaとし、該線分Aに平行な線でかつ最外の頂点を含む接線で構成される外接四角形(隣合う辺で構成される角の角度は90°)の他の線分Bの長さをbとし、該扁平多葉形のなす凹凸のうち最も大きな凹凸で、隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線分Cの長さをcとし、該凸部に挟まれた凹部の底点から凸部の頂点間を結ぶ線分Cに下ろした垂線Dの長さをdとするとき、下記式を同時に満足するようにしたポリアミド繊維であることを特徴とする請求項1記載の織物。
・扁平度(F)(a/b)=1.5〜3.0
・異形度(F)(c/d)=1.0〜8.0
【請求項3】
引裂強力が5.0N以上で、初期通気度が1.0cc/cm/s以下であることを特徴とする請求項1または2記載の織物。
【請求項4】
洗濯50回後の通気度が1.0cc/cm/s以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の織物。
【請求項5】
初期通気度と洗濯50回後の通気度との差が0.4cc/cm/s以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の織物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の織物を少なくとも一部に用いた縫製品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の織物を少なくとも一部に用いたダウンシエルまたはダウンジャケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量薄地であり、高強度、低通気性および優れた光沢感を有する織物に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、細繊度の扁平多葉形断面ポリアミド繊維からなる、軽量薄地、高強度、低通気性および優れた光沢感を有する織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今のアウトドアブームに代表されるように、消費者のレジャー志向は年々高まっている。特に、スポーツ衣料用途については、アウトドアスポーツの普及に伴って、その需要が年々増加し、テント、寝袋および帆布等の資材用途や、衣料等の軽量化および薄地化に対する要求が高くなってきている。スポーツ衣料用途の織物には高強力が求められ、特に引裂強力や摩耗強力の向上が求められる。特にラミネート加工のような膜加工を施す場合は織物の糸滑りがおきにくいため、引裂強力が低下しやすい傾向にあり、ますます基布の引裂強力の向上が望まれている。
【0003】
これまで、ダウンウエアやスポーツ用素材などに、軽量化や薄地化を狙いとして、その機械特性が優れていることから、ポリエステルマルチフィラメント、ナイロンマルチフィラメント、またはこれらの複合合繊からなる織物も、前記織物に多く使われてきた。これらの織物は、ソフトで軽量で、防風性、撥水性および堅牢性等に優れているため、コート、ブルゾン、ゴルフウエアおよびスポーツ用アウトドアウエア等に多く使用されている。
【0004】
高強度、軽量化および薄地化の問題を解決する例として、特許文献1では、合成マルチフィラメントで構成される織物であって、前記織物は、少なくとも片面にカレンダー加工が施されることにより、合成マルチフィラメントの少なくとも一部においてモノフィラメントが重なり合った状態で圧縮されているものであり、前記モノフィラメントがY字或いは十字断面形状を呈した、前記合成マルチフィラメントの繊度が7dtex〜44dtexであり、前記織物のカバーファクターが1300〜2200であることを特徴とする織物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−196213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の方法で得られた織物は、反射光がそろってしまいギラツキとスジ感のある光沢となっており、機能性とともに製品における光沢感といった意匠性の点では不十分なものであった。このように、従来技術において、高強度、軽量化および薄地化の要求特性を満たしている織物であっても、光沢感については十分に考慮されておらず、優雅で上品な光沢の織物は得られなかった。さらに、先行技術では、布帛を繰り返し洗濯すると、通気度の低下が大きく、例えばダウンジャケットのシエルとして使用した場合、ダウン抜けが発生するなど十分な機能の持続性が得られなかった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、さらには、ダウンジャケット、ウインドブレーカー、ゴルフウエアおよびレインウエアなどに代表されるスポーツウエア、カジュアルウエアや婦人紳士衣料の側地に好適に用いられる軽量薄地であり、高強度、低通気性および優れた光沢感を有する織物、その織物を少なくとも一部に用いた縫製品、およびその織物を少なくとも一部に用いたダウンシエルおよびダウンジャケットを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の織物は、主として、次の構成を有する。すなわち、
(1)片面または両面にカレンダー加工が施された織物であって、カレンダー加工後の織物の経糸または/および緯糸を構成するポリアミド繊維が、単繊維繊度0.5〜2.5dtexで、総繊度5〜50dtexであり、単繊維の断面形状が、葉部を〜10個有した扁平多葉形であり、該扁平多葉形の凸部頂点のうち任意の2点を結ぶ最長の線分を線分A(その長さをαとする)と、該線分Aに平行な線でかつ最外の頂点を含む接線で構成される外接四角形(隣合う辺で構成される角の角度は90°)の他の線分B(その長さをβとする)とで表される扁平度(W)(α/β)が1.5〜3.0であり、かつカバーファクターが1200〜2500であることを特徴とする織物。
【0009】
(2)カレンダー加工前の織物に用いられるポリアミド繊維が、単繊維繊度0.4〜2.2dtex、総繊度4〜44dtexであり、単繊維の断面形状が、〜10葉の扁平多葉形であり、該扁平多葉形の凸部頂点のうち任意の2点を結ぶ最長の線分Aの長さをaとし、該線分Aに平行な線でかつ最外の頂点を含む接線で構成される外接四角形(隣合う辺で構成される角の角度は90°)の他の線分B長さをbとし、該扁平多葉形のなす凹凸のうち最も大きな凹凸で、隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線分Cの長さをcとし、該凸部に挟まれた凹部の底点から凸部の頂点間を結ぶ線分Cに下ろした垂線Dの長さをdとするとき、下記式を同時に満足するようにしたポリアミド繊維を用いたことを特徴とする上記(1)記載の織物。
・扁平度(F)(a/b)=1.5〜3.0
・異形度(F)(c/d)=1.0〜8.0
【0010】
(4)洗濯50回後の通気度が1.0cc/cm/s以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の織物。
【0011】
(5)初期通気度と洗濯50回後の通気度との差が0.4cc/cm/s以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の織物。
【0012】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の織物を少なくとも一部に用いた縫製品。
【0013】
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の織物を少なくとも一部に用いたダウンシエルまたはダウンジャケット。
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軽量薄地であり、高強度、低通気性、およびギラツキやスジ感のない優れた光沢感を有する織物が得られる。さらには、ダウンジャケット、ウインドブレーカー、ゴルフウエアおよびレインウエアなどに代表されるスポーツウエア、カジュアルウエアや婦人紳士衣料などの側地に好適に使用することができる織物が得られる。また、本発明によれば、本発明の織物を一部に用いた縫製品が得られる。さらには、本発明の織物を一部に用いたダウンシエルおよびダウンジャケットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の織物を例示する織物側断面の図面代用SEM写真である。
図2図2は、本発明の織物を構成する単繊維断面形状の概形例を示す断面図である。
図3図3は、本発明の実施例で使用した紡糸口金吐出孔形状を示す模式断面図である。
図4図4は、比較例で使用した紡糸口金吐出孔形状を示す模式断面図である。
図5図5は、比較例で得られたY断面繊維織物の模式側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の織物を構成するポリアミドは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結されたポリマーであり、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6,10)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン4,6)ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン5,6)、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)と線状脂肪族ジカルボン酸との縮合重合型ポリアミドなど、および、これらの共重合体もしくはこれらの混合物が挙げられる。染色性および発色性の点から、ナイロン6とナイロン66が好ましく、より好ましくはナイロン6である。
【0017】
前記のポリアミドの重合度は、織物要求特性により適宜設定すればよいが、98%硫酸相対粘度で2以上であることが好ましく、さらに好ましくは3以上である。98%硫酸相対粘度を3以上にすることにより、紡糸時に単繊維の断面形状が、6〜10葉の扁平多葉形を形成し、扁平度および異形度を特定の範囲に制御し安定紡糸して得ることができるのである。なかでも、98%硫酸相対粘度は3.3以上であることがより好ましい。98%硫酸相対粘度の上限としては曳糸性の観点から7以下であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の目的を損なわない範囲の量と種類であれば、耐熱性などの生産性向上のための添加剤(光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、末端基調節剤および染色性向上剤等)が添加されていてもよいし、機能性付与のための添加剤(紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤、接触冷感剤および抗菌剤等)が添加されてもよい。しかしながら、製糸性や耐久性を低下してしまうため、添加剤の平均粒子径は、1μm以下とすることが好ましく、白色顔料も含めて無機粒子の添加は限定されるものではないが、繊維中2.0質量%以下となる量であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい態様である。
【0019】
次に、本発明の織物を構成するカレンダー加工後のポリアミド繊維について、更に詳しく説明する。
【0020】
本発明の織物を構成するカレンダー加工後のポリアミド繊維の単繊維の断面形状は、葉部を〜10個有した扁平多葉形であり、扁平度(W)1.5〜3.0を有していることが必要である。
【0021】
図1は、本発明の織物を例示する織物側断面のSEM写真(倍率600倍)である。図1の如く、カレンダー加工後の織物表面に位置するポリアミド単繊維(例えば1〜3)は、平滑な状態となっている。そのため、前記の扁平度(W)の決定に際しては、織物表面に位置していないポリアミド単繊維(例えば、4〜6)をカレンダー加工後のポリアミド繊維の単繊維とした。また、扁平度は、織物表面に位置していない任意5本のポリアミド単繊維を選択し、それぞれ測定した値の平均値を用いた。
【0022】
ここで言う扁平度(W)とは、図2に示した単繊維断面形状の概形例のように、該扁平多葉形の凸部頂点のうち任意の2点を結ぶ最長の線分Α(その長さをαとする)とし、該線分Αに平行な線でかつ最外の頂点を含む接線で構成される外接四角形(隣合う辺で構成される角の角度は90°)の他の線分Β(その長さをβとする)とするとき、α/βを扁平度と定義する。扁平度(W)(α/β)を1.5〜3.0にすることにより、作製される織物において、単繊維同士が空隙の少ない状態で重なり合い、通気性を低減させることができる。また、扁平度がこの範囲では、優れた光沢感と実用に耐えうる十分な強度を同時に発現することが可能となる。扁平度が1.5未満の場合は、表面積が減少し十分な光沢感を発現することができない。扁平度が3.0を超える場合は、ポリマーの異方性が高くなりぎらぎらとした光沢となり、さらに、実用に耐えうる十分な強度を得ることができない。扁平度は、好ましくは1.5〜2.8である。
【0023】
また、ここで言う葉部の数は、繊維断面の変曲点の個数を2で除した値である。すなわち、多葉断面は、通常葉部を構成する凸状部と葉部間に挟まれた凹部が交互に存在し、それぞれが変曲点を有するので、その変曲点の個数を2で除することにより葉部の数を数えることができる。図1の如く、カレンダー加工後の織物表面に位置するポリアミド単繊維(例えば、1〜3)は、平滑な状態となっている。そのため、前記葉部の数決定に際しては織物表面に位置していないポリアミド単繊維(例えば、4〜6)をカレンダー加工後のポリアミド繊維の単繊維とした。
【0024】
また、葉部の個数は、織物表面に位置していない任意5本のポリアミド単繊維を選択し、それぞれ測定した値の平均値を用いた。葉部を6〜10個有することにより、良好な光沢感を得ることができる。特に、葉部を6〜8個有する場合は、優雅な光沢を発現し好ましく、8個有する場合は、高級感のある光沢を発現することができさらに好ましい態様である。葉部の個数が6個未満の場合は、ギラツキがあり人工的な光沢となり、スジのように見える。葉部の個数が10個を超える場合、光が散乱しぼやけた光沢となり、十分な光沢が得られない。
【0025】
かかる範囲の扁平度(W)と葉部の個数とすることにより、単繊維の動きを拘束しやすく、カレンダー加工により圧縮固定化されることにより、単繊維同士の凹凸が重なり合うとともに、空隙の少ない状態で重なり合い通気度抑制効果が増し、通気度を低減させることができる。例えば、Y断面や十字断面では、単繊維の重なる方向によっては凹部と凸部が重なり合い目ずれが抑制される部分(領域O)も存在するが、単繊維の重なる方向によっては凹部と凹部が重なり合い目ずれが生じやすくなる部分(領域X)も相応に形成されるので、結果として、通気度が増加したり目ずれを起こしたりしてしまう(図5)。また、本発明の織物は、単繊維断面が適度な凹凸を有するため、カレンダー加工により織物表面が均一に平滑な状態になりやすく、良好な光沢感を得ることができるのである。
【0026】
本発明の織物を構成するカレンダー加工後のポリアミド繊維の単繊維繊度は、0.5〜2.5dtexであることが必要である。単繊維繊度をかかる範囲にすることにより、実用に耐えうる十分な強度および低通気性を有する織物が得られる。単繊維繊度が0.5dtex未満の場合は、実用に耐えうる十分な強度が得られず、2.5dtexを超える場合は、低通気性が得られない。単繊維繊度は、好ましくは0.5〜2.0dtexである。
【0027】
また、その総繊度は、ダウンウエアやスポーツ用素材として用いる際の織物の軽量性の観点から、5〜50dtexであることが必要である。総繊度をかかる範囲にすることにより、軽量薄地で実用に耐えうる十分強度を有する織物が得られる。総繊度が5dtex未満の場合は、実用に耐えうる十分な強度を有する織物が得られず、総繊度が50dtexを超える場合は、軽量薄地の織物が得られない。総繊度は、好ましくは5〜45dtexであり、さらに好ましくは5〜35dtexである。
【0028】
ここで言う総繊度は、次のように測定した。すなわち、織物の状態で経もしくは緯方向に100cm間隔で2本の線を引き、その織物を経もしくは緯糸それぞれに分解し、分解糸に1/10g/dtexの荷重をかけ2点間の長さ(Lcm)を測定した。2点間(L)で糸を切り、その重さ(Wg)を測定し下式により繊度を算出した。
【0029】
・ 総繊度(織物分解糸)=W/L×1000000(dtex)
また、単繊維繊度は、前記総繊度をフィラメント数で除した値である。
【0030】
次に、本発明の織物を構成するカレンダー加工前の織物に用いられるポリアミド繊維について、更に詳しく説明する。
【0031】
本発明の織物を構成するカレンダー加工前の織物に用いるポリアミド繊維の単繊維の断面形状は、6〜10葉の扁平多葉形であり、扁平度(F)(a/b)=1.5〜3.0、異形度(F)(c/d)=1.0〜8.0であることが好ましい。さらに、単繊維の断面形状が6〜10葉であると、良好な光沢感を得ることが容易となる。特に、断面形状が6〜8葉の範囲は、優雅な光沢を発現するのでさらに好ましく、8葉の扁平多葉形は、高級感のある光沢を発現するので最も好ましい態様である。
【0032】
ここで言う扁平度(F)と異形度(F)とは、図2に示した単繊維断面形状の概形例のように、該扁平多葉形の凸部頂点のうち任意の2点を結ぶ最長の線分Aの長さをaとし、該線でかつ最外の頂点を含む接線で構成される外接四角形(隣合う辺で構成される角の角度は90°)の他の線分B長さをbとし、該扁平多葉形のなす最も大きな凹凸で、隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線分Cの長さをcとし、該凸部に挟まれた凹部の底点から凸部の頂点間を結ぶ線分Cに下ろした垂線Dの長さをdとするとき、a/bを扁平度、c/dを異形度と定義する。糸条を構成する単繊維の断面形状について、光学顕微鏡を用いた断面写真(400倍)から任意に5本の単糸を選択し、a/b、c/dを算出し、その平均値を扁平度(F)、異形度(F)とする。
【0033】
扁平度(F)(a/b)を1.5〜3.0にすることにより、作製される織物において、単繊維同士が空隙の少ない状態で重なり合い、通気性を低減させることができる。また、扁平度がこの範囲では、優れた光沢感と実用に耐えうる十分な強度を同時に発現することが可能となる。扁平度は、好ましくは1.5〜2.8である。
【0034】
異形度(F)(c/d)は、該扁平多葉形において、葉と葉の間にある凹部の大きさを表しており、異形度(F)が大きくなると凹部が浅く、異形度(F)が小さいと凹部は深いことを意味している。織物形成時の単繊維同士の空隙を小さく保ち、重なりやすく低通気性効果を上げるためには、異形度(F)は8.0以下にすることが好ましい。
【0035】
一方、単繊維を形成するポリアミドの強度を保つために、異形度(F)は1.0以上にすることが好ましい。光沢感と風合いの点から、さらに好ましい異形度(F)は2〜7である。
【0036】
あらかじめ、かかる範囲の扁平度(F)と異形度(F)である扁平多葉断面糸を用いることにより、単繊維の動きを拘束しやすく、カレンダー加工により圧縮固定化されることにより、単繊維同士の凹凸が重なり合うとともに、空隙の少ない状態で重なり合い通気度抑制効果が増し、通気度を抑制することができる。さらには、単繊維断面が多葉形であるため、単繊維の重なり合う方向に関わらず、必ず単繊維の凹凸が噛みこみ織物の目ずれを抑制することで洗濯後においても抜群の通気度抑制効果を発揮する。さらには、単繊維断面が適度な凹凸を有するため、カレンダー加工により織物表面が均一に平滑な状態になりやすく、良好な光沢感を得ることが容易となる。
【0037】
本発明の織物を構成するカレンダー加工前の織物に用いるポリアミド繊維の単繊維繊度は、0.4〜2.2dtexであることが好ましい。単繊維繊度が0.4dtex未満の場合、細すぎるために実用に耐えうる十分な強度が得られにくい。また、単繊維繊度が2.2dtexを超える場合は、低通気性が得られにくい。単繊維繊度は、さらに好ましくは0.4〜1.8dtexである。
【0038】
また、その総繊度は、ダウンウエアやスポーツ用素材として用いる際の織物の軽量性の観点から、4〜44dtexであることが好ましい。総繊度が4dtex未満の場合は、実用に耐えうる十分な強度を有する織物が得られにくい。総繊度が44dtexを超える場合は、軽量薄地の織物が得られにくい。総繊度は、さらに好ましくは4〜40dtexであり、より好ましくは4〜31dtexである。
【0039】
本発明の織物は、上記の扁平多葉形断面ポリアミド繊維を経糸または/および緯糸に用いる。また、その繊維形態は、加工糸や撚糸など一般的な合成繊維と同様の公知の方法で製造されるものを用いることができる。
【0040】
織物の製造は、一般的な合成繊維と同様の公知の方法(製織と染色)で製造される。次に、好ましい製造方法を例示する。
【0041】
製織工程では、まず、経糸用織機ビームを作成する。即ち、荒巻整経機で整経ビームを作成後、サイジングが必要な場合はサイザーを経由して糊付けし、ビーマーを用いて、所要糸本数の織機ビームを作成する。サイジングが不必要な場合は、整経ビームからビーマーにて直接織機ビームを作成しても構わない。また、ワーパーサイザーを用いて直接サイジングビームを作成後、織機ビームを作成することも可能である。続いて、織機ビームを、リージング、ドローイングを行って織機に仕掛け、緯糸を打ち込んで製織する。
【0042】
織機は、ウォータージェットルーム織機、エアージェットルーム織機、レピア織機およびグリッパー織機などの種類があるが、いずれの織機で製造してもよい。織物組織は、織物の使用される用途によって平組織、綾組織、朱子組織やそれらの変化組織、あるいはそれらの混合組織のいずれであっても構わないが、低通気性を高めるためには拘束点の多い平組織が好ましい。また、ダウンプルーフ用生地、アウトドア用生地およびウインドブレーカー用生地などにおいて、引裂強力を高める必要がある場合には、格子柄を構成する組織が好ましく、さらにはリップストップ部を有するリップストップ組織が好ましい。
【0043】
本発明の織物は、カバーファクター(以下、CFと略すことがある。)が1200〜2500であることが必要である。CFをかかる範囲にすることにより、軽量薄地で低通気度を有する織物が得られる。CFが1200未満の場合、軽量薄地の織物が得られるが、低通気性に満足するものになりにくい。また、CFが2500を超える場合、低通気性は得られるものの、軽量薄地の織物が得られにくい。ここで言う、カバーファクター(CF)は、下記の式により計算されたものである。
・CF=T×(DT)1/2+W×(DW)1/2
式中、TおよびWは、織物の経密度および緯密度(本/2.54cm)を示し、DTおよびDWは、織物を構成する経糸および緯糸の総繊度(dtex)を示す。
【0044】
染色工程では、精練加工、プレセット加工、染色加工および仕上げセットを実施する。染色は、ポリアミド繊維に使用される酸性染料、含金染料を好ましく用いることができる。そして、染色後、機能付与を目的とした機能加工を施してもよい。機能剤を付与する加工は、機能剤を浸漬法(パディング法)等で付与した後、乾燥、キュアリングする。例えば、ダウンプルーフ用、アウトドア用およびウインドブレーカー用の場合は、機能付与としてカレンダー加工、撥水加工を施し、その撥水剤としては、有機フッ素化合物系、シリコーン系、パラフィン系などの撥水処理剤を用いることができる。
【0045】
本発明の織物は、片面あるいは両面にカレンダー加工を施していることが必要である。カレンダー加工は、通常のカレンダー加工機を用い、最近では熱カレンダー加工方式が一般的である。所望の値の通気度を有する織物は、繊維の熱収縮率、生機密度と、加熱およびプレス加工での加熱温度、プレス圧力および処理時間等の加工条件とを適宜選択することで得られる。これらの条件は互いに関連し合うが、繊維の熱収縮率を勘案した上で通常加熱ロール温度130℃以上210℃以下、加熱ロール荷重98kN以上149kN以下、布走行速度10〜30m/minの範囲で適宜設定すればよい。
【0046】
本発明の織物の引裂強力は、5.0N以上であることが好ましく、より好ましくは6.0N以上である。ここで言う引裂強力の方向は、扁平多葉形断面のポリアミド繊維を経糸として用いた場合は、タテ方向の引裂強力を指し、扁平多葉形断面のポリアミド繊維を緯糸として用いた場合は、ヨコ方向の引裂強力を指す。また、扁平多葉形のポリアミド繊維を経糸と緯糸に用いた場合は、タテ方向およびヨコ方向の引裂強力を指す。引裂強力を5.0N以上とすることにより、実用に耐えうる十分な強度を有する織物が得られる。軽量薄地かつ高強度の織物が得られる点で、引裂強力は40N以下であることが好ましく、30N以下であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明の織物の通気度(初期通気度と表すことがある)は、1.0cc/cm/s以下であることが好ましく、より好ましくは0.8cc/cm/s以下である。通気度を1.0cc/cm/s以下とすることにより、低通気性に優れる織物が得られる。ダウンウエア、ダウンジャケットおよびスポーツウエアなどの側地に用いる場合、空気が出入りすることによるふくらみ、しぼみの変形が容易になる適度な低通気性を得るには通気度を0.3cc/cm/s以上とすることが望ましい。
【0048】
また、本発明の織物の洗濯50回後の通気度は、1.0cc/cm/s以下であることが好ましく、より好ましくは0.9cc/cm/s以下である。洗濯50回後の通気度が1.0cc/cm/s以下であれば、洗濯中の織物からのダウン抜け、洗濯後の織物の目ずれによるダウン抜けが起こらず、ダウンプルーフ性に優れた織物が得られる。一方、洗濯50回後の通気度が1.0cc/cm/sを超えるとダウン抜けが起こりやすく、また、織物の目ずれにより織物表面にムラ感が現れダウンジャケット等の品質を大きく落とす原因になり得る。
【0049】
本発明の織物は、あらかじめ前述の範囲の扁平度(F)と異形度(F)の扁平多葉断面糸を用いることにより、さらに単繊維の動きを拘束しやすく、カレンダー加工により圧縮固定化されることにより、単繊維同士の凹凸が重なり合うとともに、空隙の少ない状態で重なり合い通気度抑制効果が増し、通気度を抑制することができる。さらには、単繊維断面が多葉形であるため、単繊維の重なり合う方向に関わらず、必ず単繊維の凹凸が噛みこみ織物の目ずれを抑制することで洗濯後においても抜群の通気度抑制効果を発揮する。例えば、Y断面繊維や十字断面繊維では、単繊維の重なる方向によっては凹部と凹部が重なり合い目ずれが生じやすくなる部分が形成され、通気度が増加したり目ずれを起こしたりしてしまう(図5)。
【0050】
さらに、本発明の織物は、初期通気度と洗濯50回後の通気度との差が0.4cc/cm/s以下であることが好ましい。本発明の織物は、前述の範囲の扁平度(F)と異形度(F)の扁平多葉断面糸を用い、前述の範囲のCFの織物とすることにより、洗濯後において低通気性を持続可能であり、単繊維同士の凹凸による目ずれ抑制効果により、高光沢で均一な織物の表面を持続することができダウンジャケット等の品質を保つことができる。
【0051】
本発明の織物は、軽量薄地であり、高強度、低通気性およびギラツキやスジ感のない優れた光沢感を有する織物が得られる。さらには、ダウンジャケット、ウインドブレーカー、ゴルフウエアおよびレインウエアなどに代表されるスポーツ、カジュアルウエアや婦人紳士衣料などの側地に好適に使用することができる織物が得られる。
【0052】
本発明の縫製品は、その一部に本発明で得られる織物を用いることを特徴とする。その用途は限定されないが、ダウンジャケット、ウインドブレーカー、ゴルフウエアおよびレインウエアなどに代表されるスポーツウエア、カジュアルウエアや婦人紳士衣料などである。
【0053】
また、本発明のダウンシエルおよびダウンジャケットは、本発明で得られる織物を少なくとも一部に用いることを特徴とするものである。
【実施例】
【0054】
次に、実施例により本発明の織物について詳細に説明する。実施例中の各測定値は、次の方法に従った。
【0055】
A.相対粘度
試料を秤量し、98質量%濃硫酸に試料濃度(C)が1g/100mlとなるように溶解し、その溶液をオストワルド粘度計を用いて25℃の温度での落下秒数(T1)を測定する。試料を溶解していない98質量%濃硫酸の25℃の温度での落下秒数(T2)を同様に測定し、試料の98%硫酸相対粘度(ηr)を、下式により算出した。
・(ηr)=(T1/T2)+{1.891×(1.000−C)}。
【0056】
B.総繊度と単繊維繊度
(a)ナイロン6繊維
枠周1.125mの検尺機に繊維試料を、1/30cN×表示デシテックスの張力で400回巻かせを作成する。105℃の温度で60分間乾燥しデシケーターに移し、20℃の温度、55RH環境下で30分放冷し、かせの質量を測定して得られた値から10000m当たりの質量を算出し、ナイロン6の場合は公定水分率を4.5%として繊維の総繊度を算出した。測定は4回行い、平均値を総繊度とした。また、得られた総繊度をフィラメント数で割り返した値を単繊維繊度とした。
【0057】
(b)織物分解糸
織物の状態で経もしくは緯方向に100cm間隔で2本の線を引き、その線内の織物の経糸もしくは緯糸を分解する。次に、測定荷重を決めるために仮総繊度を算出する。得られた分解糸に、2gの荷重をかけ、2点間の長さ(Lcm)を測定後、2点間(Lcm)で切断、その重さ(Wg)を測定、下式により仮総繊度を算出した。次に、仮総繊度に対し、1/10g/dtexの荷重をかけ、上記同様に2点間の長さ、重さを測定、下式により総繊度を算出した。
・総繊度(織物分解糸)=W/L×1000000(dtex)
また、得られた総繊度をフィラメント数で割り返した値を単繊維繊度(dtex)とした。同様の測定を5回繰り返し、その平均を結果に記載した。
【0058】
C.ナイロン6繊維の断面形状
光学顕微鏡を用い400倍の倍率で、断面形状を観察し、該扁平多葉形の凸部頂点のうち任意の2点を結ぶ最長の線分A、該線分Aに平行な線でかつ最外の頂点を含む接線で構成される外接四角形(隣合う辺で構成される角の角度は90°)の他の線分B、該扁平多葉形のなす最も大きな凹凸において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線分C、該凸部に挟まれた凹部の底点から凸部の頂点間を結ぶ線分Cに下ろした垂線D、それぞれの長さを測定し、次式より算出した。
・扁平度(F)=(a/b)a:線分Aの長さ、b:線分Bの長さ
・ 異形度(F)=(c/d)c:線分Cの長さ、d:線分Dの長さ
上記方法に従い扁平度(F)および異形度(F)を算出し、任意に選んだ5本の平均値を糸条の扁平度(F)および異形度(F)とした。
【0059】
D.織物の断面形状
倍率600倍のSEMによる、織物の断面写真から繊維断面形状を観察し下記の方法に従い扁平度(W)および凹凸数を決定した。織物を構成する単糸のうちカレンダー加工した表面に露出していないものから任意に5本選択して評価し、その平均値をポリアミド繊維の扁平度(W)および変曲点の個数とした。
【0060】
(a)扁平度(W)
該扁平多葉形の凸部頂点のうち任意の2点を結ぶ最長の線分Α(その長さをαとする)、該線分Αに平行な線でかつ最外の頂点を含む接線で構成される外接四角形(隣合う辺で構成される角の角度は90°)の他の線分Β(その長さをβとする)するとき、α/βを扁平度(W)と定義する(図2参照)。
【0061】
(b)葉部の数
繊維断面の変曲点の個数を2で除した値と定義する。
【0062】
E.引裂強力
織物の引裂強力は、JIS L 1096(2010)8.14.1に規定されている引裂強さJIS法D法(湿潤時グラブ法)に準拠して、経緯の両方向において測定した。
【0063】
F.目付け
織物の目付は、JIS L 1096(2010)8.3.1正量に準拠して測定した。
【0064】
G.通気度
織物の通気度は、JIS L 1096(2010)8.26.1に規定されている通気性A法(フラジール形法)に準拠して測定した。
(a)初期通気度
洗濯未実施の織物について、通気度を3回測定し、その平均値により評価した。
(b)洗濯50回後の通気度
織物の洗濯は、JIS L 1096(2010)8.64.4の織物の寸法変化に記載されているF−2法に準拠して実施した。洗濯50回は洗濯−脱水−乾燥を50回繰り返した場合である。織物の洗濯50回後の通気度は、洗濯50回後の通気度を3回測定しその平均値により評価した。
【0065】
H.光沢感
織物の光沢感について、熟練者5人の視覚により比較例1と相対評価し、以下5段階判定した。片側のみカレンダー加工した織物については、カレンダー加工した側について、評価した。4点以上を合格とした。
5:高級感のある優雅な光沢がある。
4:マイルドな光沢がある。
3:通常の光沢(比較例1)。
2:弱いギラツキ感やスジ感がある。
1:ギラツキ感やスジ感がある。
【0066】
I.ダウン抜け評価
織物のダウン抜け評価は、洗濯50回後の織物を用い、内部に40gの羽毛を詰め込んだ35cm×35cmのサンプルを作製し(縫い目は樹脂によってシーリングする)、この試料を、タンブル乾燥機に入れ、JIS L 1076(2010)A法に規定されたゴム管5本と共に、加熱せずに60分間運転する。運転終了後、サンプルを取り出して羽毛の抜け出し程度を視覚にて判定した。次の5段階判定を実施した。4点以上を合格とした。
5:3本以下
4:4〜10本
3:11〜30本
2:31〜50本
1:51本以上
J.総合評価
光沢度およびダウン抜け評価を加算し、8点以上を合格とした。
【0067】
[実施例1]
(ナイロン6扁平八葉断面繊維の製造)
相対粘度3.5のナイロン6を使用し、紡糸温度285℃で図3(a)に示した形状(スリットの幅:0.07mm、スリットの長さの比:e/f=5/2)をした吐出孔の紡糸口金から溶融吐出させた後、冷却し、給油し、交絡した後に、2800m/minのゴデローラーで引き取り、続いて1.4倍に延伸した後に155℃の温度で熱固定し、巻取速度3500m/minで33dtex26フィラメントのナイロン6扁平八葉断面繊維を得た。
【0068】
得られたナイロン6繊維の断面写真から扁平度(F)および異形度(F)を算出した。その結果を、表1に示す。
【0069】
(22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維の製造)
相対粘度3.0のナイロン6を使用し、紡糸温度280℃で丸孔の紡糸口金から溶融吐出させた後、冷却し、給油し、交絡した後に2480m/minのゴデローラーで引き取り、続いて1.7倍に延伸した後に155℃の温度で熱固定し、巻取速度4000m/minで22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を得た。
【0070】
(織物の製造)
該ナイロン6扁平八葉断面繊維を緯糸に用い、22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、経密度188本/2.54cm、緯密度135本/2.54cmに設定し平組織で製織した。
【0071】
得られた生機地を常法に従って、1リットル当たり2gの苛性ソーダ(NaOH)を含む溶液でオープンソーパーにより精練し、シリンダー乾燥機を用いて120℃の温度で乾燥し、次いで170℃にてプレセット、ジッガー染色機にて染色し、フッ素系樹脂化合物を浸漬(パディング法)、乾燥(温度120℃)、仕上げセット(温度175℃)した。その後、カレンダー加工(加工条件:シリンダー加工、加熱ロール表面温度180℃、加熱ロール加重147kN、布走行速度20m/min)を織物の両面に1回施し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。本織物の織物側断面のSEM写真を図1に示す。
【0072】
[実施例2]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、ナイロン6扁平八葉断面繊維の紡糸温度280℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で33dtex26フィラメントのナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0073】
[実施例3]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、ナイロン6扁平八葉断面繊維の紡糸温度275℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で33dtex26フィラメントのナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0074】
参考例4]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、紡糸口金の吐出孔形状(図3(b),スリットの幅:0.07mm、スリットの長さの比:g/h=5/2)を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、33dtex26フィラメントのナイロン6扁平六葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0075】
[実施例5]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、紡糸口金の吐出孔形状(図3(c),スリットの幅:0.07mm、スリットの長さの比:i/j=5/2)を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、33dtex26フィラメントのナイロン6扁平十葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0076】
[実施例6]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、ナイロン6扁平八葉断面繊維のフィラメント数を20に変更し、また総繊度を22dtexにしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、22dtex20フィラメントのナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0077】
[実施例7]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、ナイロン6扁平八葉断面繊維のフィラメント数を40に変更し、また総繊度を44dtexにしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、44dtex40フィラメントのナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0078】
[実施例8]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、ナイロン6扁平八葉断面繊維のフィラメント数を12に変更し、また総繊度を22dtexにしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、22dtex12フィラメントのナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0079】
[実施例9]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、ナイロン6扁平八葉断面繊維のフィラメント数を58に変更し、また総繊度を44dtexにしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、44dtex58フィラメントのナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0080】
[実施例10]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、ナイロン6扁平八葉断面繊維のフィラメント数を8に変更し、また総繊度を11dtexにしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、11dtex8フィラメントのナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0081】
[実施例11]
カレンダー加工(加工条件:シリンダー加工、加熱ロール表面温度180℃、加熱ロール加重147kN、布走行速度20m/min)を織物の片面に1回施したこと以外は、実施例1と同様の方法で織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0082】
[実施例12]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、実施例1と同様の方法で、33dtex26フィラメントのナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、得られたナイロン6扁平八葉断面繊維を緯糸に用い、経密度220本/2.54cm、緯密度160本/2.54cmに設定し平組織で製織したこと以外は、実施例1と同様の方法で織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0083】
[実施例13]
リップストップタフタ組織としたこと以外は、実施例1と同様の方法で織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2に示す。良好な織物であった。
[実施例14]
カレンダー加工において、加熱ロール加重を74kNとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。カレンダーが弱く、光沢感、ダウン抜け評価では実施例1に劣るものの、良好な織物を得た。
【0084】
[実施例15]
実施例1と同様の方法で、33dtex26フィラメントのナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、得られたナイロン6扁平八葉断面繊維を経糸に用い、22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を緯糸に用い、経密度190本/2.54cm、緯密度160本/2.54cmに設定し平組織で製織したこと以外は、実施例1と同様の方法で織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0085】
[実施例16]
実施例1と同様の方法で、33dtex26フィラメントのナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、得られたナイロン6扁平八葉断面繊維を経および緯糸に用い、経密度190本/2.54cm、緯密度135本/2.54cmに設定し平組織で製織したこと以外は、実施例1と同様の方法で織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。良好な織物であった。
【0086】
[比較例1]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、緯糸に22dtex20filの丸断面ポリアミド繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。特に、得られた織物は、丸断面のポリアミド繊維を使用したので、カレンダー加工後も、フィラメント同士の重なりが小さく、圧縮状態が良くなかったため通気度に劣り、ダウン抜け評価で劣るものであった。
【0087】
[比較例2]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、Y字形状の吐出孔を有した紡糸口金(図4(a)、スリットの幅:0.07mm、スリットの長さk:0.5mm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、33dtex24フィラメントのナイロン6Y断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。得られた織物は、洗濯50回後の通気度が大幅に低下し、ダウン抜け評価で劣るものであった。さらに光沢感について、ギラツキのある光沢となり、得られた織物は、ギラツキ感があるのみならず、スジ感もあるものであり、優雅で上品な光沢の織物は得られなかった。
【0088】
[比較例3]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、十字形状の吐出孔を有した紡糸口金(図4(b)、スリットの幅:0.07mm、スリットの長さl:0.5mm)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、33dtex24フィラメントのナイロン6十字断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。得られた織物は、比較例2と同様に洗濯50回後の通気度が大幅に低下し、ダウン抜け評価で劣り、光沢感について、ギラツキのある光沢となり、得られた織物は、ギラツキ感があるのみならず、スジ感もあるものであり、優雅で上品な光沢の織物は得られなかった。
【0089】
[比較例4]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、相対粘度2.5のナイロン6を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で33dtex26フィラメント、扁平度(F)が1.3のナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。扁平度(W)も低く、光沢感で不十分だったほか、洗濯50回後の通気度が劣り、ダウン抜け評価がやや劣る結果となった。
【0090】
[比較例5]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、相対粘度4.0のナイロン6を使用し、紡糸温度を275℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、33dtex26フィラメント、扁平度(F)が3.5のナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。扁平度(W)が高いためにギラツキ感が強い織物となった。
【0091】
[比較例6]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、紡糸口金の吐出孔形状を変更した(図4(c).スリットの幅:0.07mm、スリットの長さの比:m/n=5/2)こと以外は、実施例1と同様の方法で、33dtex26フィラメントのナイロン6扁平十二葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。丸断面に近いために、洗濯50回後の通気度が高くなり、ダウン抜け評価が劣るほか、マイルドな光沢感が得られなかった。
【0092】
[比較例7]
22dtex20フィラメントのナイロン6丸断面繊維を経糸に用い、紡糸口金の吐出孔数を5に変更し、また総繊度を22dtexにしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、22dtex5フィラメントのナイロン6扁平八葉断面繊維を製造し、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。単繊維繊度が太いために、ダウン抜け評価で十分な結果が得られなかった。
【0093】
[比較例8]
カバーファクターを976としたこと以外は、実施例1と同様の方法で、織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。密度が低いため、初期通気度が劣り、ダウン抜け評価が劣るものとなった。
【0094】
[比較例9]
カレンダー加工を織物に施さないこと以外は、実施例1と同様の方法で織物を得た。得られた織物の物性および評価結果を表2と3に示す。フィラメント同士の重なりが不十分となり、ダウン抜け評価で劣るものとなった。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
表2と3の結果から明らかなように本発明の実施例による織物は、繊維概形を扁平形に保つことで高強度を有し、また、多数の葉部を有することから、ポリアミド単繊維の動きを拘束しやすく、カレンダー加工により圧縮固定化されることで単繊維同士の凹凸が重なり合うとともに、空隙の少ない状態で重なり合い通気度に優れ、ダウン抜けが抑制できる織物であった。さらには、織物を構成する単繊維断面が適度な凹凸を有するため、カレンダー加工により織物表面が均一に平滑な状態となり高級感のある優雅な光沢が得られた。その優れた特徴を有することから、例えば、ダウンウエア、ダウンジャケットおよびスポーツウエアなどの側地を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の織物は、軽量薄地であり、高強度、低通気性、優れた光沢感に優れており、ダウンウエア、ダウンジャケットおよびスポーツウエアなどの側地に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0100】
1〜3:カレンダー加工後の織物表面に位置するポリアミド単繊維
4〜6:織物表面に位置していないポリアミド単繊維
A:扁平多葉形の凸部頂点のうち任意の2点を結ぶ最長の線分
B:線分Αに平行な線でかつ最外の頂点を含む接線で構成される外接四角形(隣合う辺で構成される角の角度は90°)の他の線分
C:扁平多葉形のなす最も大きな凹凸で、隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線分
D:凸部に挟まれた凹部の底点から凸部の頂点間を結ぶ線分Cに下ろした垂線
e:実施例1で使用する扁平八葉形状の吐出孔のスリットの長さ
f:実施例1で使用する扁平八葉形状の吐出孔のスリットの長さ
g:参考例4で使用する扁平六葉形状の吐出孔のスリットの長さ
h:参考例4で使用する扁平六葉形状の吐出孔のスリットの長さ
i:実施例5で使用する扁平十葉形状の吐出孔のスリットの長さ
j:実施例5で使用する扁平十葉形状の吐出孔のスリットの長さ
k:比較例2で使用するY字形状の吐出孔のスリット長さ
l:比較例3で使用する十字形状の吐出孔のスリット長さ
m:比較例6で使用する扁平十二葉形状の吐出孔のスリットの長さ
n:比較例6で使用する扁平十二形状の吐出孔のスリットの長さ
領域O:単繊維の凹部に隣接する単繊維の凸部が重なりあう領域
領域X:単繊維の凹部と隣接する単繊維の凹部が重なりあう領域
図1
図2
図3
図4
図5