特許第6160608号(P6160608)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6160608急加熱工法用フラックス及び急加熱工法用ソルダペースト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160608
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】急加熱工法用フラックス及び急加熱工法用ソルダペースト
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20170703BHJP
【FI】
   B23K35/363 C
   B23K35/363 E
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-265959(P2014-265959)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-123999(P2016-123999A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年4月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角石 衛
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 一博
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−290277(JP,A)
【文献】 特開平1−148488(JP,A)
【文献】 特開平8−332592(JP,A)
【文献】 特表2009−542019(JP,A)
【文献】 特開平5−92296(JP,A)
【文献】 米国特許第6217671(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジンと、グリコールエーテル系の溶剤と、有機酸と、チキソ剤を含み、
前記溶剤は、沸点が200℃以下のグリコール系の低沸点溶剤で、前記低沸点溶剤の含有量を20重量%以上40重量%以下とし、前記低沸点溶剤を、溶剤全体のうち、60重量%以上含有し
前記有機酸は常温固体で、前記有機酸の含有量を5重量%以上15重量%以下とし、
はんだ合金を急加熱工法により加熱した際の飛散を防止し
ことを特徴とする急加熱工法用フラックス。
【請求項2】
前記低沸点溶剤は、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルである
ことを特徴とする請求項1に記載の急加熱工法用フラックス。
【請求項3】
はんだ合金と、請求項1または2に記載のフラックスが混合された
ことを特徴とする急加熱工法用ソルダペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザリフロー等の急加熱工法で用いられる急加熱工法用フラックス、及び、急加熱工法用ソルダペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
ソルダペーストは、はんだ合金の粉末とフラックスとが混合されて生成される。従来、ソルダペーストを使用したはんだ付けでは、リフロー炉と称される加熱炉が使用されてきた。
【0003】
リフロー炉を使用したはんだ付けでは、ソルダペーストが塗布され、電子部品等の接合対象物がソルダペーストに載せられた基板を、数分程度の時間ではんだ合金が溶融する温度域まで加熱し、はんだ合金を溶融させていた。
【0004】
これに対し、接合対象物が載せられたソルダペーストにレーザを照射してはんだ合金を溶融させるレーザリフローと称す技術が提案されている。レーザリフローでは、局所的な加熱が行えることから、リフロー炉と比較して、電子部品の全体に熱を加えることなく実装が可能である。
【0005】
レーザリフローでは、加熱箇所が数秒程度の時間ではんだ合金の溶融温度域まで急加熱される。このような急加熱が行われることで、フラックスの飛散の発生が起こりやすく、それにより、溶融したはんだの飛散の発生も顕著であった。
【0006】
そこで、はんだ合金の融点よりも沸点が高い溶剤を含有させたフラックスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−100737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
はんだ合金の融点より沸点が高い溶剤を含有させたフラックスと、はんだ合金が混合されたソルダペーストでは、ソルダペーストにレーザが照射されてはんだ合金が溶融する温度域まで加熱された場合、フラックス中の溶剤の揮発が抑えられる。
【0009】
しかし、溶融したソルダペースト中に揮発せずに残留した溶剤が急加熱により突沸し、溶融したはんだ合金が飛散する可能性があった。溶融したはんだ合金が飛散すると、接合対象物の周囲にはんだ合金が付着する可能性があった。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、はんだ合金の飛散を抑えることが可能な急加熱工法で用いられる急加熱工法用フラックス、及び、急加熱工法用ソルダペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、はんだ合金を溶融させる温度域で揮発するような低い沸点を持つ溶剤を含有させたフラックスを使用したソルダペーストでは、レーザリフローのような急加熱を行っても、はんだ合金の飛散が抑えられることを見出した。
【0012】
本発明は、ロジンと、グリコールエーテル系の溶剤と、有機酸と、チキソ剤を含み、溶剤は、沸点が200℃以下のグリコール系の低沸点溶剤で、低沸点溶剤の含有量を20重量%以上40重量%以下とし、低沸点溶剤を、溶剤全体のうち60重量%以上含有し、有機酸は常温固体で、有機酸の含有量を5重量%以上15重量%以下とし、はんだ合金を急加熱工法により加熱した際の飛散を防止した急加熱工法用フラックスである。
【0013】
また、低沸点溶剤は、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルの中から選択されることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、はんだ合金と、フラックスが混合され、フラックスは、ロジンと、グリコールエーテル系の溶剤と、有機酸と、チキソ剤を含み、溶剤は、沸点が200℃以下のグリコール系の低沸点溶剤で、低沸点溶剤の含有量を20重量%以上40重量%以下とし、低沸点溶剤を、溶剤全体のうち60重量%以上含有した急加熱工法用ソルダペーストである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフラックスでは、融点が200℃を超えるはんだ合金と混合されたソルダペーストとして使用される場合、はんだ合金を溶融させる温度域でフラックス中の溶剤が揮発する。これにより、溶融した状態のはんだ合金中に溶剤が残留せず、レーザリフロー等の急加熱工法で急加熱を行っても、はんだ合金の飛散が抑えられる。
【0016】
また、融点が200℃以下のはんだ合金と混合されたソルダペーストとして使用される場合、はんだ合金を溶融させる温度域でフラックス中の溶剤が完全には揮発しないが、溶剤は溶剤の沸点より低い温度でも揮発が始まり、残留する溶剤の量が一定値より少なくなることにより、はんだ合金の飛散が抑えられる。
【0017】
急加熱工法はレーザリフローだけでなく、急加熱を行う方法であれば良い。急加熱によるはんだ付け方法として、レーザリフロー、ハロゲンランプ、ヒートガン等による熱風加熱、基板の裏側からはんだごてによる加熱等が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<本実施の形態のフラックスの組成例>
本実施の形態のフラックスは、ロジンと、グリコールエーテル系の溶剤と、有機酸と、チキソ剤を含む。本実施の形態のフラックスは、はんだ合金の粉末と混合されてソルダペーストが生成される。
【0019】
溶剤は、フラックス中の固形分を溶かす。溶剤は、沸点が200℃以下のグリコール系の低沸点溶剤で、フラックス中の低沸点溶剤の含有量を20重量%以上40重量%以下とする。低沸点溶剤としては、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル等が挙げられる。
【0020】
また、溶剤は、沸点が200℃を超える高沸点溶剤を更に含有しても良い。高沸点溶剤を含有する場合、溶剤全体のうち、低沸点溶剤の含有量を60重量%以上とする。
【0021】
高沸点溶剤としては、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0022】
ロジンは、有機酸等の活性剤成分を熱から保護して、活性剤成分の揮発を抑制する。ロジンとしては、水添ロジン、酸変性ロジン、重合ロジン、ロジンエステルなどが挙げられる。ロジンの含有量は、40重量%以上60重量%以下とした。
【0023】
チキソ剤は、チキソ性の付与のために添加され、ソルダペーストに粘性を付与する。チキソ剤としては、高級脂肪酸アマイド、高級脂肪酸エステル、ひまし硬化油などが挙げられる。チキソ剤の含有量は、5重量%以上10重量%以下とした。
【0024】
有機酸は、はんだ合金およびはんだ付けする対象の酸化膜を除去するために、フラックスにおける活性剤成分として添加される。有機酸としては、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸など、常温固体の有機酸が好ましい。有機酸の含有量は、5重量%以上15重量%以下とした。
【0025】
本実施の形態のフラックスは、その他の添加剤として、ハロゲンなどの有機酸以外の活性剤、酸化防止剤、界面活性剤、消泡剤等をフラックスの性能を損なわない範囲で適宜添加しても良い。
【0026】
本実施の形態のソルダペーストは、上述した組成のフラックスと、はんだ合金の粉末が混合されて生成される。本例におけるソルダペーストは、はんだ合金の組成がSn−3Ag−0.5Cu(各数値は重量%)であるはんだ合金の粉末と、フラックスが混合されて生成される。Sn−3Ag−0.5Cuのはんだ合金の融点は217℃であり、低融点溶剤の沸点より高い。
【0027】
また、本実施の形態のソルダペーストは、はんだ合金の組成がSn−57Bi(各数値は重量%)であるはんだ合金の粉末と、フラックスが混合されて生成される。Sn−57Biのはんだ合金の融点は139℃であり、低融点溶剤の沸点より低い。尚、本発明はこのはんだ合金に限定するものではない。
【実施例】
【0028】
以下の表に示す組成で実施例と比較例のフラックスを調合し、実施例及び比較例のフラックスを使用してソルダペーストを調合して、はんだボールの抑制効果について検証した。ソルダペーストは、はんだ粉末とフラックスの割合を、はんだ粉末:フラックス=89:11で混合した。
【0029】
(a)測定方法
試験装置 :JAPAN UNIX(登録商標) ULD−730
レーザ照射径:0.8mm
パッドサイズ:0.8×0.8mm 材質:Cu
照射条件:照射出力を1W/secの割合で1.5Wまで出力を上げ、照射開始から3秒後に停止。
ソルダペーストを0.1mm厚のマスクで印刷供給した。
測定回数はN=4で、測定値の平均で判定した。
(b)判定基準
◎:はんだボールの数が0〜5個
○:はんだボールの数が6〜10個
×:はんだボールの数が11個以上
【0030】
組成の含有量と評価結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
低沸点溶剤を含み、高沸点溶剤を含まず、フラックス中における低沸点溶剤の含有率を所定の範囲で変化させた実施例1〜実施例6では、はんだ合金の組成がSn−3Ag−0.5Cuのとき、はんだボールの発生数は、何れも0〜5個に抑えられた。
【0033】
これは、はんだ合金の融点が217℃であり、はんだ合金を溶融させる温度域でフラックス中の溶剤が揮発し、溶融した状態のはんだ合金中に溶剤が残留せず、レーザリフローで急加熱を行っても、はんだ合金の飛散が抑えられるためと考えられる。
【0034】
低沸点溶剤と高沸点溶剤を含み、全溶剤中における低沸点溶剤の含有比を所定値以上とした実施例7〜実施例9では、はんだ合金の組成がSn−3Ag−0.5Cuのとき、はんだボールの発生数は、何れも0〜5個に抑えられた。
【0035】
溶剤に高沸点溶剤を含んでいる場合、はんだが溶融した状態で溶剤が残留していると考えられるが、低沸点溶剤は揮発することで残留する溶剤の量が少ないため、飛散を引き起こしにくくなっていると考えられる。
【0036】
そこで、実施例1〜実施例6のフラックスと、はんだ合金の組成がSn−57Biの融点が139℃のはんだ合金とを混合させたソルダペーストで実施した結果、はんだボールの発生数は、0〜5個、あるいは6〜10個に抑えられた。これは、はんだ合金を溶融させる温度域でフラックス中の溶剤が完全には揮発しないが、溶剤は溶剤の沸点より低い温度でも揮発が始まり、残留する溶剤の量が一定値より少なくなることにより、はんだ合金の飛散が抑えられるためと考えられる。
【0037】
また、実施例7〜実施例9では、はんだ合金の組成がSn−57Biであっても、はんだボールの発生数は、6〜10個に抑えられた。
【0038】
これに対し、高沸点溶剤を含み、低沸点溶剤を含まない比較例1〜比較例3では、はんだ合金の組成がSn−3Ag−0.5Cuのとき、はんだボールの発生数は、何れも11個以上であった。
【0039】
これは、はんだ合金の融点が217℃であり、はんだ合金を溶融させる温度域でフラックス中の溶剤が揮発せず、溶融した状態のはんだ合金中に溶剤が残留して、レーザリフローで急加熱を行うと、はんだ合金が飛散するためと考えられる。
【0040】
また、比較例1〜比較例3では、はんだ合金の組成がSn−57Biであっても、はんだボールの発生数は、何れも11個以上であった。
【0041】
低沸点溶剤と高沸点溶剤を含むが、全溶剤中における低沸点溶剤の含有比を所定値未満とした比較例4では、はんだ合金の組成がSn−3Ag−0.5Cuのとき、はんだボールの発生数は、何れも11個以上であった。また、比較例4では、はんだ合金の組成がSn−57Biであっても、はんだボールの発生数は11個以上であった。
【0042】
以上の結果から、フラックス中の低沸点溶剤の含有量を20重量%以上40重量%以下とすると、所望の効果が得られることが判る。また、低沸点溶剤と高沸点溶剤を含有する場合、溶剤全体のうち、低沸点溶剤の含有量を60重量%以上とすると、所望の効果が得られることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、レーザリフロー、ハロゲンランプ、ヒートガン等による熱風加熱、基板の裏側からはんだごてによる加熱等の急加熱工法を適用した電子部品のはんだ付けに適用される。