【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例にのみ限定されるものではない。
【0056】
使用する試薬は特に明記のないものについては、和光製を使用した。
【0057】
(PQQ分析)
PQQは以下の装置を用いて同定した。
装置: 島津製作所、高速液体クロマトグラフィー、Lc−20A
カラム:YMC−Pack ODS−Tms(5マイクロm)、150X4.6mm I.D.
測定温度:40℃
検出 :260nmにおける吸光度
溶離液 :100mM CH
3COOH/100mM CH
3COONH
4(30/70,pH5.1)
溶出速度:1.5mL/min
【0058】
(イオンクロマトグラフィー)
PQQアルカリ塩のカチオン分析はダイオネクス製のイオンクロマトグラフィーで分析した。
Naイオンはホリバ社製ナトリウムイオンメーターで計測した。
(粉末X線回折測定条件)
装置 :株式会社RIGAKU製RINT2500
X線 :Cu/管電圧40kV/管電流100mA
スキャンスピード:4.000°/min
サンプリング幅 :0.020°
【0059】
〔参考例:PQQジナトリウム塩、PQQトリナトリウム塩、及びPQQフリー体の調製〕
原料のPQQは特許第2692167号公報の培養法で得た。得られたカラム精製後、pH7で塩化ナトリウムを加えると赤い固体を得た。この固体を50%エタノールで洗浄し、塩化ナトリウムを除去して、PQQトリナトリウム塩を得た。
【0060】
PQQ20gを含む含水PQQトリナトリウム塩の固体60gをイオン交換水500mLとエタノール500mLの混合液に加えた。この時、固体は溶け切っていなかった。ここに室温下で塩酸を加え、溶液のpHを3.5にした。塩酸の添加は約2時間かけてゆっくり滴下して行った。その後、2日間攪拌した。濾過して含水PQQジナトリウム塩(Na
2PQQ)の結晶を収率99mol%で得た。
【0061】
このPQQジナトリウム3gを水1Lに溶かし、塩酸を加えて溶液のpH1にした。赤い固体が析出した。これを濾過し、2N塩酸で洗い、水洗した。減圧乾燥してPQQフリー体を収率85mol%で得た。以下の実験はこれらの原料を使用した。
【0062】
〔実施例1:PQQテトラナトリウム塩(Na
4PQQ)〕
〔単結晶作製〕
PQQジナトリウム2g/L水溶液500μLと25%水酸化ナトリウム水溶液100μLを混合した。この時、pHは13.4であった。この溶液を2mLのチューブに入れ、ゆっくりとメタノール1000μLを加え、2層にした。この溶液を室温で置いたところ、4日後、赤色の結晶が析出した。この結晶を取り出し、単結晶X線構造解析装置(株式会社リガク社製VariMax with RAPID system)を用いて下記の条件にて、単結晶X線構造解析を行った。
X線源 :CuK(λ=1.54187Å)
管電圧 :40kV
管電流 :30mA
測定温度 :−180℃(吹付低温装置使用)
カメラ長 :127.4mm
振動角 :10°
露光時間 :200sec/deg
全測定枚数 :90枚(360枚×3シリーズ)
全測定時間:51時間57分(読み取り・消去時間を含む)。
【0063】
ピロロキノリンキノンテトラナトリウム塩結晶組成物構造を
図1(ORTEP)、
図2(ORTEP)、
図3、及び表3に示す。また、表4に単結晶パラメーターを示す。なお、
図3は、1つの結晶格子内に4つのPQQテトラナトリウム塩の結晶が存在することを示しておいる。また、
図2(b)は結晶格子内の2つのPQQテトラナトリウム塩の配置状態を示しており、
図1及び
図2(a)は、結晶格子内に含まれる1つのPQQテトラナトリウム塩の構造だけを示している。
【0064】
【表3】
PQQテトラナトリウム塩の結晶の原子座標
Beq:等価等方性温度因子
この結晶構造は粉末X線回折データに変換して、結晶構造も確認できる。X線構造解析ソフトMercuryを使用して単結晶で得られたデータを変換した。
【0065】
【表4】
【0066】
この構造は単位格子内にPQQ骨格4に対し、ナトリウム16、水34の割合で含む結晶であった。すなわち、PQQ骨格1あたり、ナトリウム4、水8.5に相当する。PQQ骨格のカルボン酸とイミダゾールの水素原子が抜け、ナトリウムとイオン結合していた。アルカリ条件においてもPQQ構造は壊れていないことが分かった。
【0067】
〔実施例2 メタノール添加再結晶〕
PQQジナトリウム0.2gを水100mLに加え、25%水酸化ナトリウム水溶液40gを混合した。この時のpHは13.5であった。ここにメタノール600mL加え、室温で2日置いておいたところ、赤い結晶が析出した。この溶液を濾過し、2−プロパノールで洗い、減圧乾燥した。赤い結晶0.10g得た。実施例2より、実施例1の結晶の合成はスケールを上げても可能であることが示された。
【0068】
〔実施例3 エタノール添加再結晶 Na/PQQ=4〕
PQQジナトリウム0.69gを水14mLに加え、25%水酸化ナトリウム水溶液16.9gを混合した。この時のpHは13.5であった。ここにエタノール30mL加え、室温で1日置いておいたところ、赤い結晶が析出した。この溶液を濾過し、エタノールで洗い、減圧乾燥した。赤い結晶0.98gを得た。
図4に粉末X線回折結果を示す。
図4に示す様に、2θピークとして5.89°,11.72°,12.43°,13.59°,18.09°,23.93°,26.50°,29.40°,及び43.77°にピークが確認できた。このように得られた固体は結晶性物質であった。このピークより、実施例3により得られた結晶は実施例1の結晶とほぼ同じ構造をとっていることが分かった。
【0069】
〔実施例4 蒸発合成 Na/PQQ=4〕
PQQジナトリウム0.37gを100mLに加え、25%水酸化ナトリウム水溶液0.32gを混合し、室温で1時間攪拌した。この時のpHは11であった。その後、エバポレーターで水を蒸発により除いて、0.41gの茶色の固体を得た。
図5に粉末X線回折結果を示す。
図5に示す様に、2θピークとして5.82°,11.67°,12.35°,13.52°,16.31°,18.01°,23.88°,26.44°,29.33°,29.99°,及び43.75°にピークが確認できた。このように得られた固体は結晶性物質であった。色は異なっているが、このピークより、実施例4により得られた結晶は実施例1の結晶とほぼ同じ構造をとっていることが分かった。
【0070】
〔実施例5:PQQテトラリチウム塩(Li
4PQQ)〕
PQQフリー体0.72gを水50mLに加えた。ここに1mol/kgに調製した水酸化リチウム水溶液を8g加えたところ、懸濁液から均一な液に変わった。この際、溶液のpHは11だった。この溶液を300mLのナスフラスコに入れ、エバポレーターで水をすべて飛ばした。さらに減圧乾燥器によって乾燥して黒色の固体0.79gを得た。
【0071】
イオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用してLi/PQQを算出した結果4であることが分かった。液体クロマトグラフィーのチャートから分解物はなく、アルカリ性でも安定であることが分かった。なお、リチウムイオンはカルボン酸とイミダゾール環のプロトンと交換して塩を形成していた。
【0072】
XRD分析から2θ21.28°,31.82°,33.49°,34.79°,34.86°にピークを示す結晶性の物質であった。
【0073】
〔実施例6:PQQジナトリウムジリチウム塩(Li
2Na
2PQQ)〕
PQQジナトリウム0.38gを水50mLに加えた。ここに1mol/kgに調製した水酸化リチウム水溶液を2g加えたところ、懸濁液から均一な液に変わった。この際、溶液のpHは11だった。この溶液を300mLのナスフラスコに入れ、エバポレーターで水をすべて飛ばした。さらに減圧乾燥器によって乾燥して黒赤色の固体0.38gを得た。
【0074】
イオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用してLi/PQQ、Na/PQQを算出した結果、Li/PQQ=2、Na/PQQ=2であることが分かった。液体クロマトグラフィーのチャートから分解物はなく、アルカリ性でも安定であることが分かった。
【0075】
XRD分析から2θ30.02°,31.88°,33.55°,36.91°にピークを示す結晶性の物質であった。
【0076】
〔実施例7:PQQテトラカリウム塩(K
4PQQ)〕
PQQフリー体0.72gを水50mLに加えた。ここに1mol/kgに調製した水酸化カリウム水溶液を8g加えたところ、懸濁液から均一な液に変わった。この際、pHは11だった。この溶液を300mLのナスフラスコに入れ、エバポレーターで水をすべて飛ばした。さらに減圧乾燥器によって乾燥して黒色の固体0.89gを得た。
【0077】
イオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用してK/PQQを算出した結果、4であることが分かった。液体クロマトグラフィーのチャートから分解物はなく、アルカリ性でも安定であることが分かった。
【0078】
XRD分析から2θ24.49,26.11,27.38、28.04°にピークを示す結晶性の物質であった。
【0079】
〔実施例8:PQQテトラナトリウム塩(Na
4PQQ)/PQQトリナトリウム塩(Na
3PQQ)〕
PQQジナトリウム0.75gを水50mLに加え、25wt%水酸化ナトリウム0.48gを混合した。この溶液を300mLのナスフラスコに入れ、エバポレーターで水をすべて飛ばした。さらに減圧乾燥器によって乾燥して、固体0.87gを得た。
【0080】
イオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用してNa/PQQを算出した結果、テトラナトリウム塩とトリナトリウム塩が混在していることが分かった。液体クロマトグラフィーのチャートから分解物はなく、アルカリ性でも安定であることが分かった。
【0081】
XRD分析から2θ26.44に小さなピークを示すアモルファスの物質であった。
【0082】
〔参考例1 蒸発合成 Na/PQQ=7〕
PQQジナトリウム0.37gを10mlに加え、25%水酸化ナトリウム水溶液0.80gを混合し、室温で0.5時間攪拌した。その後、エバポレーターにより溶媒を除いて、黄緑色の析出固体0.82gを得た。
図6に粉末X線回折結果を示す。
図6に示す様に、2θ5.77,7.00,9.52,21.44,22.25,32.35,37.48及び、その他多くのピークが確認できた。参考例1により得られた固体は結晶性物質であった。このピークより、参考例1により得られた固体が実施例1の結晶と異なる構造を有することが分かった。参考例1により得られた個体はPQQテトラカリウム塩と過剰の水酸化カリウムが存在する状態であると考えられる。
【0083】
〔参考例2 過剰カリウムPQQテトラカリウム塩(K
5PQQ)〕
ピロロキノリンキノンフリー体0.72gを水50mLに加えた。ここに1mol/kgに調製した水酸化カリウム水溶液を10g加えたところ、懸濁液から均一な液に変わった。pHは11.5だった。この溶液を300mlのナスフラスコに入れ、エバポレーターで水をすべて飛ばした。さらに減圧乾燥器によって乾燥して黒色の固体1.04gを得た。
【0084】
イオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用してK/PQQを算出した結果、5であることが分かった。液体クロマトグラフィーのチャートから分解物はなく、得られた個体はアルカリ性でも安定であることが分かった。参考例2により得られた個体はPQQテトラカリウム塩と過剰の水酸化カリウムが存在する状態であると考えられる。XRD分析から2θ30.23°にピークを示すが、ピーク強度が弱く結晶性の低い物質であった。
【0085】
〔比較例1:PQQジナトリウム塩(Na
2PQQ)及び比較例2:PQQトリナトリウム塩(Na
3PQQ)〕
比較例1のPQQジナトリウム塩(Na
2PQQ)及び比較例2PQQトリナトリウム塩(Na
3PQQ)としては、参考例で作製したものを用いた。
【0086】
〔アスコルビン酸との反応性試験〕
表5に示す各PQQ塩を1g/Lになるように水に溶かした。この溶液1mLに100g/Lアスコルビン酸水溶液0.5mL加え、2時間後、1日後、2日後の状態を観察した。
【0087】
【表5】
【0088】
実施例と比較例との対比より、PQQテトラアルカリ塩はアスコルビン酸と混合した際に変色、析出物がなく、安定であることがわかった。なお、長期間ではNa
4PQQの溶解した溶液及びK
4PQQの溶解した溶液は色の変化は生じにくいことが分かった。
【0089】
〔溶解性試験〕
表6に示す各PQQ塩50mgを過飽和になるように水0.5mL加えた。なお、この濃度で溶けてしまう場合は水を減らした。その後、溶液に対し室温23℃で超音波をかけた。この溶液を遠心分離器にかけ、上澄みをリン酸バッファー(pH7.4 GIBCO社製)を用いて、260nmにおける吸光度が0〜1の範囲となるように希釈して、UV測定した。この吸収より溶解度を算出した。なお、UV測定には、HITACHI製U−2000spectrometerを使用した。その結果を表6に示す。
【0090】
【表6】
【0091】
実施例と比較例との対比より、PQQが4個のカチオンを有すると溶解度は非常に大きくなり、PQQテトラアルカリ塩が溶解しやすいことがわかった。さらに、PQQテトラリチウム塩はPQQテトラナトリウム塩より溶解しやすいことがわかった。
【0092】
〔溶解速度試験〕
表7に示す各PQQ塩1mgをアクリル製吸光度測定セルに加え、水2mLを加え、450nmの吸光度を測定した。なお、UV測定には、HITACHI製U−2000spectrometerを使用した。全てのサンプルが溶けて均一になった吸光度を100として以下に時間変化を示す。
【表7】
【0093】
実施例と比較例との対比より、PQQテトラナトリウム塩はPQQジナトリウム塩と比べ溶解速度が速いことが分かった。また、PQQジナトリウム塩とPQQテトラナトリウム塩を混合することで溶解速度を変えることができることも分かった。さらに詳細にみると混合物は1分後からの30分後の溶解量の変化が1種類の塩を用いた場合より大きく、混合塩とすることにより時間的な溶解量の変化を制御できることが分かった。
【0094】
〔比較例3 pH3.1でのエタノール再結晶〕
PQQジナトリウム2gを水900mLに溶かした、塩酸を使用してpHを3.1にした。ここにエタノールを900mL加え、冷蔵庫で1晩置いた。赤い固体が析出していた。この固体をイオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用して分析した結果、Na/PQQは2でPQQジナトリウム塩であった。回収率98%であった。このpHではPQQテトラナトリウム塩は得られなかった。
【0095】
〔比較例4 pH7.5でのエタノール再結晶〕
PQQジナトリウム4gを水900mLに溶かした水酸化ナトリウムとリン酸を使用してpHを7.5にした。ここにエタノールを900mL加え、冷蔵庫で1晩置いた。赤い固体が析出していた。この固体をイオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用して分析した結果、Na/PQQは3でPQQジナトリウム塩であった。回収率95%であった。このpHではPQQテトラナトリウム塩は得られなかった。
【0096】
本出願は、2012年8月17日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2012−181103)、及び2012年11月22日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2012−256485)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。