特許第6160621号(P6160621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧

特許6160621ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩及びその結晶、これらの製造方法、並びに、組成物
<>
  • 特許6160621-ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩及びその結晶、これらの製造方法、並びに、組成物 図000016
  • 特許6160621-ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩及びその結晶、これらの製造方法、並びに、組成物 図000017
  • 特許6160621-ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩及びその結晶、これらの製造方法、並びに、組成物 図000018
  • 特許6160621-ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩及びその結晶、これらの製造方法、並びに、組成物 図000019
  • 特許6160621-ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩及びその結晶、これらの製造方法、並びに、組成物 図000020
  • 特許6160621-ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩及びその結晶、これらの製造方法、並びに、組成物 図000021
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160621
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩及びその結晶、これらの製造方法、並びに、組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20170703BHJP
   A61K 31/375 20060101ALI20170703BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20170703BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20170703BHJP
   A23L 33/145 20160101ALI20170703BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170703BHJP
   A61P 31/04 20060101ALN20170703BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20170703BHJP
   A61P 1/16 20060101ALN20170703BHJP
   A61K 8/49 20060101ALN20170703BHJP
   A61P 31/10 20060101ALN20170703BHJP
   A61P 27/12 20060101ALN20170703BHJP
   A61P 17/02 20060101ALN20170703BHJP
   A61P 37/08 20060101ALN20170703BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20170703BHJP
【FI】
   C07D471/04 102
   C07D471/04CSP
   A61K31/375
   A61K31/4745
   A61P3/02
   A23L33/145
   A61Q19/00
   !A61P31/04
   !A61P43/00 107
   !A61P1/16
   !A61P43/00 111
   !A61K8/49
   !A61P31/10
   !A61P27/12
   !A61P17/02
   !A61P37/08
   !A61P35/00
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-530563(P2014-530563)
(86)(22)【出願日】2013年8月14日
(86)【国際出願番号】JP2013071914
(87)【国際公開番号】WO2014027669
(87)【国際公開日】20140220
【審査請求日】2016年6月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-181103(P2012-181103)
(32)【優先日】2012年8月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-256485(P2012-256485)
(32)【優先日】2012年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池本 一人
【審査官】 伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0313164(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/007633(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/055796(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/070649(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/039474(WO,A1)
【文献】 浦上 貞治ら,微生物培養法で生産した補酵素PQQの理化学的性質,ビタミン,1993年,Vol.67, No.9,p.485-491
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A23L
A61K
A61P
A61Q
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式()で表される、ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩を含む、結晶
【化1】
(式(3)中、Mは、各々独立に、Li、K、Na、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種であり、Mの少なくとも1つがNaである。)
【請求項2】
粉末X線回折においてCu−Kαを用いた際に、2θのピークが、5.89±0.4°,11.72±0.4°,12.43±0.4°,13.59±0.4°,18.09±0.4°,23.93±0.4°,26.50±0.4°,29.40±0.4°に現れる、請求項に記載の結晶。
【請求項3】
単結晶X線構造分析により測定される以下のディメンジョン:
単位格子寸法
a=21.6072(5)Å
b=6.80401(17)Å
c=30.1070(7)Å
V=4426.20(18)Å
を有する、請求項1又は2に記載の結晶。
【請求項4】
下記式(1)で表される、ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩
【化2】
(式(1)中、Mは、各々独立に、Li、K、Na、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種である。)
及び/又は、請求項のいずれか1項に記載の結晶と、
アスコルビン酸と、
を含む、組成物。
【請求項5】
ピロロキノリンキノン及び/又はピロロキノリンキノンアルカリ塩と、水酸化ナトリウムと、を強アルカリ性条件下で混合させる混合工程を有する、ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程における強アルカリ性条件が、pH10〜14である、請求項に記載のピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩の製造方法。
【請求項7】
前記混合工程後、得られるピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩の貧溶媒を添加する析出工程をさらに有する、請求項5又は6に記載のピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩の製造方法。
【請求項8】
下記式(3)で表される、ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩
【化3】
(式(3)中、Mは、各々独立に、Li、K、Na、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種であり、Mの少なくとも1つがNaである。)
、請求項のいずれか1項に記載の結晶、及び/又は、請求項に記載の組成物を含む、食品。
【請求項9】
下記式(3)で表される、ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩
【化4】
(式(3)中、Mは、各々独立に、Li、K、Na、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種であり、Mの少なくとも1つがNaである。)
、請求項のいずれか1項に記載の結晶、及び/又は、請求項に記載の組成物を含む、化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩及びその結晶、これらの製造方法、並びに、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロロキノリンキノンは式(2)で表される。
【化1】
【0003】
ピロロキノリンキノン(以下、「PQQ」又は「フリー体」ともいう。)は新しいビタミン(補酵素)等としての機能を有する可能性があることが知られており、健康補助食品、化粧品などに有用な物質として注目を集めている。PQQは細菌に限らず、真核生物のカビ、酵母に存在し、補酵素として重要な働きを行っている。また、PQQが、近年までに細胞の増殖促進作用、抗白内障作用、肝臓疾患予防治療作用、創傷治癒作用、抗アレルギ−作用、逆転写酵素阻害作用及びグリオキサラ−ゼI阻害作用−制癌作用など多くの生理活性を有することが明らかにされている。
【0004】
これまでに、ピロロキノリンキノンにアルカリ金属イオンが1〜3つ付いた、モノアルカリ塩、ジアルカリ塩、及びトリアルカリ塩が知られている。これまでに報告されているPQQのアルカリ塩は水溶性物質として知られているが、実際には溶解性は低く、また、フリー体の溶解性はさらに低いものである。これまでに結晶として構造決定されたアルカリ塩はジナトリウム塩(非特許文献1)である。同様にジナトリウム塩の結晶多形も知られている(特許文献1)。
【0005】
これまでにPQQはアルカリ性で分解すると考えられてきたため、アルカリ条件での結晶化物に対する構造については検討されていない(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/007633号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】JACS, 103巻, 5599〜5600頁(1981)
【非特許文献2】ビタミン67巻9号1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、ピロロキノリンキノン及びその塩は、溶解性が低いため、高濃度の水溶液を作ることは難しい。しかしながら、水溶液は食品、医薬品分野で提供する際に最も使用されるため、PQQが高濃度で溶解し、析出しない水溶液が求められている。
【0009】
また、PQQの分離精製を行う上でも溶解性が低いと、溶解させるために大量の溶媒(特に水)が必要になり、大きな装置が必要になる、また、廃液量が多くなる等の弊害を有している。
【0010】
また、ピロロキノリンキノンはアスコルビン酸と反応することにより変色しやすいという問題がある。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、特別な試薬を必要とせず、溶媒に対する溶解性が高く、高濃度のピロロキノリンキノン水溶液を得ることができ、アスコルビン酸を併用しても変色し難く、さらに高品質で純度の高いピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩及びその結晶、これらの簡単な製造方法、並びに、組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、所定の構造を有するピロロキノリンキノンの塩であれば、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
下記式(1)で表される、ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩。
【化2】
(式(1)中、Mは、各々独立に、Li、K、Na、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種である。)
〔2〕
前項〔1〕に記載のピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩を含む、結晶。
〔3〕
上記式(1)中のMの少なくとも1つがNaである、前項〔2〕に記載の結晶。
〔4〕
粉末X線回折においてCu−Kαを用いた際に、2θのピークが、5.89±0.4°,11.72±0.4°,12.43±0.4°,13.59±0.4°,18.09±0.4°,23.93±0.4°,26.50±0.4°,29.40±0.4°に現れる、前項〔2〕又は〔3〕に記載の結晶。
〔5〕
単結晶X線構造分析により測定される以下のディメンジョン:
単位格子寸法
a=21.6072(5)Å
b=6.80401(17)Å
c=30.1070(7)Å
V=4426.20(18)Å
を有する、前項〔2〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の結晶。
〔6〕
前項〔1〕に記載のピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩、及び/又は、前項〔2〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の結晶と、
アスコルビン酸と、
を含む、組成物。
〔7〕
ピロロキノリンキノン及び/又はピロロキノリンキノンアルカリ塩と、アルカリ金属化合物と、を強アルカリ性条件下で混合させる混合工程を有する、ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩の製造方法。
〔8〕
アルカリ金属化合物が水酸化ナトリウムである、前項〔7〕に記載のピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩の製造方法。
〔9〕
前記混合工程における強アルカリ性条件が、pH10〜14である、前項〔7〕又は〔8〕に記載のピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩の製造方法。
〔10〕
前記混合工程後、得られるピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩の貧溶媒を添加する析出工程をさらに有する、前項〔7〕〜〔9〕いずれか1項に記載のピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩の製造方法。
〔11〕
ピロロキノリンキノン及び/又はピロロキノリンキノンアルカリ塩と、アルカリ金属化合物と、を強アルカリ性条件下で混合させる混合工程を有する、ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩の結晶の製造方法。
〔12〕
前項〔1〕に記載のピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩、前項〔2〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の結晶、及び/又は、前項〔6〕に記載の組成物を含む、食品。
〔13〕
前項〔1〕に記載のピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩、前項〔2〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の結晶、及び/又は、前項〔6〕に記載の組成物を含む、化粧品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶媒に対する溶解性が高く、高濃度のピロロキノリンキノン水溶液を得ることができ、アスコルビン酸を併用しても変色し難く、高品質で純度の高いピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩及びその結晶、これらの製造方法、並びに、組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1により得られたPQQテトラナトリウム塩結晶組成物構造(ORTEP)である。
図2】実施例1により得られたPQQテトラナトリウム塩結晶組成物構造(ORTEP)である。
図3】実施例1により得られたPQQテトラナトリウム塩結晶組成物構造である。
図4】実施例3により得られたPQQテトラナトリウム塩の粉末X線回折結果である。
図5】実施例4により得られたPQQテトラナトリウム塩の粉末X線回折結果である。
図6】参考例1により得られたPQQナトリウム塩の粉末X線回折結果
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0017】
〔ピロロキノリンキノンテトラナトリウム塩〕
本実施形態に係るピロロキノリンキノンテトラナトリウム塩(以下、「PQQテトラアルカリ塩」ともいう。)は、式(1)で表される。
【化3】
(式(1)中、Mは、各々独立に、Li、K、Na、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種である。)
【0018】
PQQテトラアルカリ塩の有するアルカリ金属Mは、各々独立に、Li、K、Na、Rb、及びCsからなる群より選ばれる1種である。PQQテトラアルカリ塩に含まれるアルカリ金属の種類は1種であってもよく、又は2種以上であってもよい。このなかでも、アルカリ金属が1種であるPQQテトラアルカリ塩が好ましい。アルカリ金属が1種であるPQQテトラアルカリ塩は、PQQのフリー体から作製しやすい傾向にある。また、2種以上のアルカリ金属を含むPQQテトラアルカリ金属も好ましい。2種以上のアルカリ金属を含むPQQテトラアルカリ塩としては、特に限定されないが、例えば、ジナトリウム塩が市販されているため原料が入手しやすいので、ナトリウムとその他のアルカリ金属イオンを含むPQQテトラアルカリ塩が好ましい。
【0019】
本実施形態に係るPQQテトラアルカリ塩は、重量割合で50質量%以下であれば、水、溶媒又はアルカリ金属化合物を含んでいてもよい。
【0020】
〔結晶〕
本実施形態に係る結晶は、上記ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩を含む。このなかでも、上記式(1)中のMの少なくとも1つがNaであるピロロキノリンキノンテトラナトリウム塩が好ましく、上記式(1)中のMの全てがNaであるピロロキノリンキノンテトラナトリウム塩がより好ましい。
【0021】
上記ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩は、純度、安定性の観点からから結晶であることが好ましい。ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩が結晶であるかどうかは顕微鏡、粉末X線回折(以下、XRDと略すことがある)、単結晶X線解析、及び/又は電子線回折等で確認することが可能である。
【0022】
本実施形態に係るPQQテトラナトリウム塩の結晶は、粉末X線回折においてCu−Kαを用いた際に、2θのピークが、5.89±0.4°,11.72±0.4°,12.43±0.4°,13.59±0.4°,18.09±0.4°,23.93±0.4°,26.50±0.4°,29.40±0.4°に現れることが好ましい。
【0023】
粉末X線回折による回折角2θの測定は、例えば、下記の測定条件で行うことができる。その他、モノクロメータが装着された一般的な粉末X線回折装置で観測することもできる。
(測定条件)
装置 :株式会社RIGAKU製RINT2500
X線 :Cu/管電圧40kV/管電流100mA
スキャンスピード:4.000°/min
サンプリング幅 :0.020°
【0024】
単結晶X線構造分析により測定される本実施形態に係るPQQテトラナトリウム塩の結晶は例えば以下のディメンジョンを有することが好ましい。
単位格子寸法
a=21.6072(5) Å
b=6.80401(17) Å
c=30.1070(7) Å
V=4426.20(18) Å
【0025】
本実施形態に係るPQQテトラナトリウム塩の結晶の、単結晶X線構造分析における各ピークの相対強度は、下記表2の評価基準に従って、表1で表すことができる。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
最大強度を有するピークに対するパーセンテージとして相対強度を算出する。
【0028】
〔ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩及びその結晶の製造方法〕
本実施形態に係るPQQテトラアルカリ塩及びその結晶の製造方法は、PQQ、又は、PQQアルカリ塩(以下、まとめて「PQQ類」ともいう。)と、アルカリ金属化合物と、を強アルカリ性条件下で混合させる混合工程を有する。なお、混合工程は、溶媒存在下で行うことができる。
【0029】
PQQ類とアルカリ金属化合物との混合割合は、PQQ類1モルに対して、アルカリ金属化合物3.5〜10000モルが好ましく、4〜1000モルがよりこのましく、4〜700モルがさらに好ましい。混合割合が3.5モル以上であることにより、PQQ類がより溶解する傾向にある。また、混合割合が10000モル以下であることにより、アルカリ性が高くなり過ぎず、実用上優れる傾向にある。
【0030】
アルカリ金属化合物としてナトリウム化合物を用いる場合には、PQQ類とナトリウム化合物との混合割合は、PQQ類1モルに対して、ナトリウム化合物3.5〜100000モルが好ましく、4〜1000モルがよりこのましく、4〜700モルがさらに好ましい。混合割合が上記範囲内であることにより、PQQテトラアルカリ塩がより析出しやすい傾向にある。
【0031】
混合工程後、溶解度を下げることで塩又は塩の結晶を析出させ、その後、溶媒を除去することができる。溶解度を下げる方法としては、具体的には、−20〜200℃で凍結乾燥、減圧乾燥、及び/又は加熱乾燥等の方法によって溶媒を除去する方法、貧溶媒を加えて塩又は塩の結晶を析出させる方法等が挙げられる。特に、PQQイオン1に対してナトリウムイオンが4の場合、析出し易いため好ましい。なお、溶解度を下げる条件、すなわち析出条件により、好ましい混合割合が変わることもある。
【0032】
(PQQ類)
使用しうるPQQ類としては、特に限定されないが、例えば、PQQのフリー体、PQQモノアルカリ塩、PQQジアルカリ塩、PQQトリアルカリ塩が挙げられる。このようなPQQ類としては、特に限定されないが、具体的には、PQQの、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウム、若しくはルビジュウムの塩、又はPQQのアンモニウム塩が挙げられる。このなかでもより好ましくは、PQQの、フリー体、ナトリウム、カリウムの塩であり、最も手に入れやすいPQQのナトリウム塩が特に好ましい。なお、塩としてはモノ、ジ、トリのどれでもよい。このなかでも、好ましくはジナトリウム塩である。PQQ類は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。このなかでもジナトリウム塩は安定性が高く、フリー体モノアルカリ体より溶解度が高いため、PQQテトラアルカリ塩をより効率よく得ることができる傾向にある。
【0033】
これらのPQQ類原料は有機化学的合成法及び発酵法などにより製造することが可能である。原料に用いるPQQの塩は結晶でもよいし、非晶質でもよい。また、不純物を含んでいてもよい。
【0034】
(アルカリ金属化合物)
使用するアルカリ金属化合物としては、特に限定されないが、例えば、
水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム、水酸化ルビジューム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、炭酸ルビジューム、重炭酸リチウム、重炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸セシウム、重炭酸ルビジューム、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、ナトリウムアルコキシド、セシウムアルコキシド、ルビジュームアルコキシドである。このなかでも、より好ましくは水酸化ナトリウムである。安価である水酸化ナトリウムを用いることにより、毒性のないナトリウムイオンからなるPQQテトラナトリウム塩をより効率よく得ることができる傾向にある。
【0035】
混合工程において用いうる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジプロピレングリコール、メトキシプロピレングリコール、メトキシエチレングリコール、メトキシジプロピレングリコール、メトキシジエチレングリコール等が挙げられる。このなかでも水又は水と他の溶媒との混合溶媒が好ましい。
【0036】
混合工程における、強アルカリ性条件は、pH10〜14が好ましく、pH12〜14がより好ましく、pH13〜14がさらに好ましい。このpHは目安で、共存する塩等の影響で好ましいpHが変わる場合もある。pHを調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、混合工程における溶液に、酸又はアルカリを加えることが挙げられる。酸又はアルカリとしては、特に限定されないが、例えば、無機、有機、どちらでも使用できる。
【0037】
アルカリとしては、特に限定されないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、水酸化ルビジュウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、炭酸ルビジュウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸水素ルビジュウム、炭酸水素ナトリウム、コリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド等が挙げられる。
【0038】
また、酸としては、特に限定されないが、例えば、リン酸、ホウ酸、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、クエン酸等が挙げられる。
【0039】
塩の形成を溶媒中で行う際の反応温度は、特に制限がないが、−20〜140℃が好ましく、−10〜90℃がより好ましく、0〜70℃がさらに好ましい。塩の形成を溶媒中で行う際に必要な時間は、混合速度、攪拌、温度、濃度等によって変化するが、10分〜7日間が好ましく、30分〜5日間がより好ましく、1時間〜3日間がさらに好ましい。PQQ類に対するナトリウム等のアルカリ金属化合物の付加が進み、アルカリ金属の付加数が増えるに従い、得られるPQQアルカリ塩の水への溶解性は向上する。
【0040】
水、または有機溶媒中で形成したPQQテトラアルカリ塩は、乾燥、濃縮、温度低下、貧溶媒添加、塩析、又はpH変化によって、析出等させて得ることができる。このなかでも、混合工程後、得られるPQQテトラアルカリ塩の貧溶媒を添加する析出工程をさらに有することが好ましい。貧溶媒は使用する混合工程中の溶媒に応じて選択する必要がある。
【0041】
貧溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水溶性有機溶媒を用いることができる。水溶性有機溶媒としては、特に限定されないが、具体的には、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジプロピレングリコール、メトキシプロピレングリコール、メトキシエチレングリコール、メトキシジプロピレングリコール、メトキシジエチレングリコール等が挙げられる。このなかでも、好ましくはアルコールである。PQQテトラアルカリ塩が溶媒に溶けた状態から、貧溶媒として水溶性有機溶媒を加えることで、PQQテトラアルカリ塩の溶解度を下げ、塩又は塩の結晶を析出させることができる。
【0042】
なお、PQQテトラアルカリ塩は、PQQ類とナトリウム化合物を接触させてPQQ類が溶けている溶媒に対してPQQ類が溶けにくい溶媒(貧溶媒)を加えて溶解度を下げることでも作製することができる。
【0043】
以下、入手しやすく、溶解性の高い塩の一例として、PQQテトラナトリウム塩の好ましい具体的な製造方法について説明する。
【0044】
PQQジナトリウム塩を水に溶解させる。原料溶解時のpHは特に限定されない。使用しやすいのはpH3から14であることが望ましく、より好ましくは5から13である。pH調整の為にアルカリ性のナトリウム化合物溶液を加えて調整してもよい。この時の温度は0から140℃であれはよく、この溶液にナトリウム化合物を加え、pHを10以上にすることで4ナトリウム塩を調製することができる。反応時間は特に制限がないが、5分から1週間ぐらいで行うことができる。スケールが小さい場合は短時間ですむが、大きな場合は長時間必要である。このときの温度は−20から140℃で使用すれはよく、好ましくは0から80℃である。反応した液は乾固、若しくは再結晶で塩を固体として得ることができる。本実施形態では必ずしも固体である必要はない。再結晶させる溶媒は水または有機溶媒中で行えばよい。得られた固体は常圧、減圧で乾燥すればよい。
【0045】
また、入手しやすく、溶解性の高い塩の一例として、PQQテトラカリウム塩の好ましい具体的な別の製造方法について説明する。
【0046】
PQQフリー体を水に懸濁させる。この時の温度は0から140℃であれはよく、この溶液に水酸化カリウム化合物を加え、テトラカリウム塩を調製することができる。反応時間は特に制限がないが、5分から1週間ぐらいで行うことができる。スケールが小さい場合は短時間ですむが、大きな場合は長時間必要である。このときの温度は−20から140℃で使用すれはよく、好ましくは0から80℃である。反応した液は乾固、若しくは再結晶で塩を固体として得ることができる。再結晶させる溶媒は水または有機溶媒中で行えばよい。得られた固体は常圧、減圧で乾燥すればよい。
【0047】
本実施形態に係るPQQテトラアルカリ塩には目的物であるPQQテトラアルカリ塩以外に原料のPQQ類が混じっていても構わない。原料のPQQ類を含むことにより、溶解度、溶解速度を制御することが容易となる傾向にある。PQQテトラアルカリ塩とPQQ類との混合割合は目的に応じて設計することができる。PQQテトラアルカリ塩とPQQ類との混合割合は、使用しやすいのは重量比でPQQ類1に対して、PQQテトラアルカリ塩0.01〜100が好ましく、0.02〜50がより好ましく、0.05〜20がさらに好ましい。
【0048】
〔組成物〕
本実施形態に係る組成物は、上記PQQテトラアルカリ塩、及び/又は、上記PQQテトラナトリウム塩の結晶と、アスコルビン酸と、を含む。
【0049】
本実施形態に係るPQQテトラアルカリ塩は、ヒト又は動物向けに医薬、化粧品、機能性食品、又は飼料等の有効成分とすることができる。即ち、皮膚外用剤、注射剤、経口剤、坐剤等の形態、或いは、日常食する飲食物、栄養補強食、各種病院食等の形態で提供可能である。尚、調製の際に使用される添加剤としては、液剤としては水、果糖、ブドウ糖等の糖類、落下生油、大豆油、オリーブ油等の油類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類を用いることができる。錠剤、カプセル剤、顆粒剤などの固形剤の賦型剤としては乳糖、ショ糖、マンニット等の糖類、滑沢剤としてはカオリン、タルク、ステアリン酸マグネシウム等、崩壊剤としてデンプン、アルギン酸ナトリウム、結合剤としてポリビニルアルコール、セルロース、ゼラチン等、界面活性剤としては脂肪酸エステル等、可塑剤としてグリセリン等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。必要に応じて溶解促進剤、充填剤等を加えてもよい。
【0050】
本実施形態に係るPQQテトラアルカリ塩の組成物には原料のPQQ類が混じっていても構わない。混合されていることで溶解度、溶解速度を制御することが容易となる。混合割合は目的に応じて設計することができる。PQQテトラアルカリ塩とPQQ類との混合割合は、使用しやすいのは重量比でPQQ類1に対して、PQQテトラアルカリ塩0.01〜100が好ましく、0.05〜20がより好ましく、0.1〜10がさらに好ましい。
【0051】
本実施形態に係るPQQテトラアルカリ塩の組成物は、溶媒又はアルカリ化合物を含んでいてもよい。溶媒又はアルカリ化合物の含有量は、特に限定されないが、重量割合で、50質量%以下が好ましく、0〜40質量%がより好ましく、0〜30質量%がさらに好ましい。
【0052】
本実施形態に係るPQQテトラアルカリ塩は、単独でも、他の素材と組み合わせても使用できる。組み合わせ可能な素材としては、コエンザイムQ10,ビタミンB、ビタミンC(アスコルビン酸)又はビタミンE等のビタミン類、アミノ酸類、アスタキサンチン、α−カロテン、β−カロテン等のカロテノイド類、ドコサヘキサエン酸又はエイコサペンタエン酸等のω3脂肪酸類、アラキドン酸等のω6脂肪酸類などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
特にアスコルビン酸は混合した際に水が接触すると変質しやすいが、本実施形態のPQQテトラアルカリ塩とアスコルビン酸を混合する場合は安定である。PQQテトラアルカリ塩とアスコルビン酸との混合比は、重量比で、PQQテトラアルカリ塩1に対してアスコルビン酸0.01から200が好ましい。この範囲より低い比では変質作用はより小さくなる傾向にある。
【0054】
本実施形態に係る食品及び化粧品は、上記ピロロキノリンキノンテトラアルカリ塩、その結晶、及び/又は、上記組成物を含む。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例にのみ限定されるものではない。
【0056】
使用する試薬は特に明記のないものについては、和光製を使用した。
【0057】
(PQQ分析)
PQQは以下の装置を用いて同定した。
装置: 島津製作所、高速液体クロマトグラフィー、Lc−20A
カラム:YMC−Pack ODS−Tms(5マイクロm)、150X4.6mm I.D.
測定温度:40℃
検出 :260nmにおける吸光度
溶離液 :100mM CHCOOH/100mM CHCOONH(30/70,pH5.1)
溶出速度:1.5mL/min
【0058】
(イオンクロマトグラフィー)
PQQアルカリ塩のカチオン分析はダイオネクス製のイオンクロマトグラフィーで分析した。
Naイオンはホリバ社製ナトリウムイオンメーターで計測した。
(粉末X線回折測定条件)
装置 :株式会社RIGAKU製RINT2500
X線 :Cu/管電圧40kV/管電流100mA
スキャンスピード:4.000°/min
サンプリング幅 :0.020°
【0059】
〔参考例:PQQジナトリウム塩、PQQトリナトリウム塩、及びPQQフリー体の調製〕
原料のPQQは特許第2692167号公報の培養法で得た。得られたカラム精製後、pH7で塩化ナトリウムを加えると赤い固体を得た。この固体を50%エタノールで洗浄し、塩化ナトリウムを除去して、PQQトリナトリウム塩を得た。
【0060】
PQQ20gを含む含水PQQトリナトリウム塩の固体60gをイオン交換水500mLとエタノール500mLの混合液に加えた。この時、固体は溶け切っていなかった。ここに室温下で塩酸を加え、溶液のpHを3.5にした。塩酸の添加は約2時間かけてゆっくり滴下して行った。その後、2日間攪拌した。濾過して含水PQQジナトリウム塩(NaPQQ)の結晶を収率99mol%で得た。
【0061】
このPQQジナトリウム3gを水1Lに溶かし、塩酸を加えて溶液のpH1にした。赤い固体が析出した。これを濾過し、2N塩酸で洗い、水洗した。減圧乾燥してPQQフリー体を収率85mol%で得た。以下の実験はこれらの原料を使用した。
【0062】
〔実施例1:PQQテトラナトリウム塩(NaPQQ)〕
〔単結晶作製〕
PQQジナトリウム2g/L水溶液500μLと25%水酸化ナトリウム水溶液100μLを混合した。この時、pHは13.4であった。この溶液を2mLのチューブに入れ、ゆっくりとメタノール1000μLを加え、2層にした。この溶液を室温で置いたところ、4日後、赤色の結晶が析出した。この結晶を取り出し、単結晶X線構造解析装置(株式会社リガク社製VariMax with RAPID system)を用いて下記の条件にて、単結晶X線構造解析を行った。
X線源 :CuK(λ=1.54187Å)
管電圧 :40kV
管電流 :30mA
測定温度 :−180℃(吹付低温装置使用)
カメラ長 :127.4mm
振動角 :10°
露光時間 :200sec/deg
全測定枚数 :90枚(360枚×3シリーズ)
全測定時間:51時間57分(読み取り・消去時間を含む)。
【0063】
ピロロキノリンキノンテトラナトリウム塩結晶組成物構造を図1(ORTEP)、図2(ORTEP)、図3、及び表3に示す。また、表4に単結晶パラメーターを示す。なお、図3は、1つの結晶格子内に4つのPQQテトラナトリウム塩の結晶が存在することを示しておいる。また、図2(b)は結晶格子内の2つのPQQテトラナトリウム塩の配置状態を示しており、図1及び図2(a)は、結晶格子内に含まれる1つのPQQテトラナトリウム塩の構造だけを示している。
【0064】
【表3】
PQQテトラナトリウム塩の結晶の原子座標
Beq:等価等方性温度因子
この結晶構造は粉末X線回折データに変換して、結晶構造も確認できる。X線構造解析ソフトMercuryを使用して単結晶で得られたデータを変換した。
【0065】
【表4】
【0066】
この構造は単位格子内にPQQ骨格4に対し、ナトリウム16、水34の割合で含む結晶であった。すなわち、PQQ骨格1あたり、ナトリウム4、水8.5に相当する。PQQ骨格のカルボン酸とイミダゾールの水素原子が抜け、ナトリウムとイオン結合していた。アルカリ条件においてもPQQ構造は壊れていないことが分かった。
【0067】
〔実施例2 メタノール添加再結晶〕
PQQジナトリウム0.2gを水100mLに加え、25%水酸化ナトリウム水溶液40gを混合した。この時のpHは13.5であった。ここにメタノール600mL加え、室温で2日置いておいたところ、赤い結晶が析出した。この溶液を濾過し、2−プロパノールで洗い、減圧乾燥した。赤い結晶0.10g得た。実施例2より、実施例1の結晶の合成はスケールを上げても可能であることが示された。
【0068】
〔実施例3 エタノール添加再結晶 Na/PQQ=4〕
PQQジナトリウム0.69gを水14mLに加え、25%水酸化ナトリウム水溶液16.9gを混合した。この時のpHは13.5であった。ここにエタノール30mL加え、室温で1日置いておいたところ、赤い結晶が析出した。この溶液を濾過し、エタノールで洗い、減圧乾燥した。赤い結晶0.98gを得た。図4に粉末X線回折結果を示す。図4に示す様に、2θピークとして5.89°,11.72°,12.43°,13.59°,18.09°,23.93°,26.50°,29.40°,及び43.77°にピークが確認できた。このように得られた固体は結晶性物質であった。このピークより、実施例3により得られた結晶は実施例1の結晶とほぼ同じ構造をとっていることが分かった。
【0069】
〔実施例4 蒸発合成 Na/PQQ=4〕
PQQジナトリウム0.37gを100mLに加え、25%水酸化ナトリウム水溶液0.32gを混合し、室温で1時間攪拌した。この時のpHは11であった。その後、エバポレーターで水を蒸発により除いて、0.41gの茶色の固体を得た。図5に粉末X線回折結果を示す。図5に示す様に、2θピークとして5.82°,11.67°,12.35°,13.52°,16.31°,18.01°,23.88°,26.44°,29.33°,29.99°,及び43.75°にピークが確認できた。このように得られた固体は結晶性物質であった。色は異なっているが、このピークより、実施例4により得られた結晶は実施例1の結晶とほぼ同じ構造をとっていることが分かった。
【0070】
〔実施例5:PQQテトラリチウム塩(LiPQQ)〕
PQQフリー体0.72gを水50mLに加えた。ここに1mol/kgに調製した水酸化リチウム水溶液を8g加えたところ、懸濁液から均一な液に変わった。この際、溶液のpHは11だった。この溶液を300mLのナスフラスコに入れ、エバポレーターで水をすべて飛ばした。さらに減圧乾燥器によって乾燥して黒色の固体0.79gを得た。
【0071】
イオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用してLi/PQQを算出した結果4であることが分かった。液体クロマトグラフィーのチャートから分解物はなく、アルカリ性でも安定であることが分かった。なお、リチウムイオンはカルボン酸とイミダゾール環のプロトンと交換して塩を形成していた。
【0072】
XRD分析から2θ21.28°,31.82°,33.49°,34.79°,34.86°にピークを示す結晶性の物質であった。
【0073】
〔実施例6:PQQジナトリウムジリチウム塩(LiNaPQQ)〕
PQQジナトリウム0.38gを水50mLに加えた。ここに1mol/kgに調製した水酸化リチウム水溶液を2g加えたところ、懸濁液から均一な液に変わった。この際、溶液のpHは11だった。この溶液を300mLのナスフラスコに入れ、エバポレーターで水をすべて飛ばした。さらに減圧乾燥器によって乾燥して黒赤色の固体0.38gを得た。
【0074】
イオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用してLi/PQQ、Na/PQQを算出した結果、Li/PQQ=2、Na/PQQ=2であることが分かった。液体クロマトグラフィーのチャートから分解物はなく、アルカリ性でも安定であることが分かった。
【0075】
XRD分析から2θ30.02°,31.88°,33.55°,36.91°にピークを示す結晶性の物質であった。
【0076】
〔実施例7:PQQテトラカリウム塩(KPQQ)〕
PQQフリー体0.72gを水50mLに加えた。ここに1mol/kgに調製した水酸化カリウム水溶液を8g加えたところ、懸濁液から均一な液に変わった。この際、pHは11だった。この溶液を300mLのナスフラスコに入れ、エバポレーターで水をすべて飛ばした。さらに減圧乾燥器によって乾燥して黒色の固体0.89gを得た。
【0077】
イオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用してK/PQQを算出した結果、4であることが分かった。液体クロマトグラフィーのチャートから分解物はなく、アルカリ性でも安定であることが分かった。
【0078】
XRD分析から2θ24.49,26.11,27.38、28.04°にピークを示す結晶性の物質であった。
【0079】
〔実施例8:PQQテトラナトリウム塩(NaPQQ)/PQQトリナトリウム塩(NaPQQ)〕
PQQジナトリウム0.75gを水50mLに加え、25wt%水酸化ナトリウム0.48gを混合した。この溶液を300mLのナスフラスコに入れ、エバポレーターで水をすべて飛ばした。さらに減圧乾燥器によって乾燥して、固体0.87gを得た。
【0080】
イオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用してNa/PQQを算出した結果、テトラナトリウム塩とトリナトリウム塩が混在していることが分かった。液体クロマトグラフィーのチャートから分解物はなく、アルカリ性でも安定であることが分かった。
【0081】
XRD分析から2θ26.44に小さなピークを示すアモルファスの物質であった。
【0082】
〔参考例1 蒸発合成 Na/PQQ=7〕
PQQジナトリウム0.37gを10mlに加え、25%水酸化ナトリウム水溶液0.80gを混合し、室温で0.5時間攪拌した。その後、エバポレーターにより溶媒を除いて、黄緑色の析出固体0.82gを得た。図6に粉末X線回折結果を示す。図6に示す様に、2θ5.77,7.00,9.52,21.44,22.25,32.35,37.48及び、その他多くのピークが確認できた。参考例1により得られた固体は結晶性物質であった。このピークより、参考例1により得られた固体が実施例1の結晶と異なる構造を有することが分かった。参考例1により得られた個体はPQQテトラカリウム塩と過剰の水酸化カリウムが存在する状態であると考えられる。
【0083】
〔参考例2 過剰カリウムPQQテトラカリウム塩(KPQQ)〕
ピロロキノリンキノンフリー体0.72gを水50mLに加えた。ここに1mol/kgに調製した水酸化カリウム水溶液を10g加えたところ、懸濁液から均一な液に変わった。pHは11.5だった。この溶液を300mlのナスフラスコに入れ、エバポレーターで水をすべて飛ばした。さらに減圧乾燥器によって乾燥して黒色の固体1.04gを得た。
【0084】
イオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用してK/PQQを算出した結果、5であることが分かった。液体クロマトグラフィーのチャートから分解物はなく、得られた個体はアルカリ性でも安定であることが分かった。参考例2により得られた個体はPQQテトラカリウム塩と過剰の水酸化カリウムが存在する状態であると考えられる。XRD分析から2θ30.23°にピークを示すが、ピーク強度が弱く結晶性の低い物質であった。
【0085】
〔比較例1:PQQジナトリウム塩(NaPQQ)及び比較例2:PQQトリナトリウム塩(NaPQQ)〕
比較例1のPQQジナトリウム塩(NaPQQ)及び比較例2PQQトリナトリウム塩(NaPQQ)としては、参考例で作製したものを用いた。
【0086】
〔アスコルビン酸との反応性試験〕
表5に示す各PQQ塩を1g/Lになるように水に溶かした。この溶液1mLに100g/Lアスコルビン酸水溶液0.5mL加え、2時間後、1日後、2日後の状態を観察した。
【0087】
【表5】
【0088】
実施例と比較例との対比より、PQQテトラアルカリ塩はアスコルビン酸と混合した際に変色、析出物がなく、安定であることがわかった。なお、長期間ではNaPQQの溶解した溶液及びKPQQの溶解した溶液は色の変化は生じにくいことが分かった。
【0089】
〔溶解性試験〕
表6に示す各PQQ塩50mgを過飽和になるように水0.5mL加えた。なお、この濃度で溶けてしまう場合は水を減らした。その後、溶液に対し室温23℃で超音波をかけた。この溶液を遠心分離器にかけ、上澄みをリン酸バッファー(pH7.4 GIBCO社製)を用いて、260nmにおける吸光度が0〜1の範囲となるように希釈して、UV測定した。この吸収より溶解度を算出した。なお、UV測定には、HITACHI製U−2000spectrometerを使用した。その結果を表6に示す。
【0090】
【表6】
【0091】
実施例と比較例との対比より、PQQが4個のカチオンを有すると溶解度は非常に大きくなり、PQQテトラアルカリ塩が溶解しやすいことがわかった。さらに、PQQテトラリチウム塩はPQQテトラナトリウム塩より溶解しやすいことがわかった。
【0092】
〔溶解速度試験〕
表7に示す各PQQ塩1mgをアクリル製吸光度測定セルに加え、水2mLを加え、450nmの吸光度を測定した。なお、UV測定には、HITACHI製U−2000spectrometerを使用した。全てのサンプルが溶けて均一になった吸光度を100として以下に時間変化を示す。
【表7】
【0093】
実施例と比較例との対比より、PQQテトラナトリウム塩はPQQジナトリウム塩と比べ溶解速度が速いことが分かった。また、PQQジナトリウム塩とPQQテトラナトリウム塩を混合することで溶解速度を変えることができることも分かった。さらに詳細にみると混合物は1分後からの30分後の溶解量の変化が1種類の塩を用いた場合より大きく、混合塩とすることにより時間的な溶解量の変化を制御できることが分かった。
【0094】
〔比較例3 pH3.1でのエタノール再結晶〕
PQQジナトリウム2gを水900mLに溶かした、塩酸を使用してpHを3.1にした。ここにエタノールを900mL加え、冷蔵庫で1晩置いた。赤い固体が析出していた。この固体をイオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用して分析した結果、Na/PQQは2でPQQジナトリウム塩であった。回収率98%であった。このpHではPQQテトラナトリウム塩は得られなかった。
【0095】
〔比較例4 pH7.5でのエタノール再結晶〕
PQQジナトリウム4gを水900mLに溶かした水酸化ナトリウムとリン酸を使用してpHを7.5にした。ここにエタノールを900mL加え、冷蔵庫で1晩置いた。赤い固体が析出していた。この固体をイオンクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーを使用して分析した結果、Na/PQQは3でPQQジナトリウム塩であった。回収率95%であった。このpHではPQQテトラナトリウム塩は得られなかった。
【0096】
本出願は、2012年8月17日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2012−181103)、及び2012年11月22日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2012−256485)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のPQQのテトラナトリウムアルカリ塩は、食品や医薬品、化粧品、飼料等の分野において産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6