特許第6160686号(P6160686)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160686
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】健康増進筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 5/00 20060101AFI20170703BHJP
   B43K 3/00 20060101ALI20170703BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20170703BHJP
   B43K 8/00 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   B43K5/00 100
   B43K3/00 Z
   B43K7/00 100
   B43K8/00 100
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-256105(P2015-256105)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-119371(P2017-119371A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2016年12月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397029873
【氏名又は名称】株式会社大木工藝
(74)【代理人】
【識別番号】100087664
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100143926
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 公敏
(74)【代理人】
【識別番号】100149504
【弁理士】
【氏名又は名称】沖本 周子
(72)【発明者】
【氏名】大木 武彦
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−230496(JP,A)
【文献】 特開2004−306531(JP,A)
【文献】 特開平09−223675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 5/00
B43K 3/00
B43K 7/00
B43K 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略筒状の外郭部を有した健康増進筆記具において、
前記外郭部は、炭素繊維強化炭素複合材料を主成分とし、成形の際に前記炭素繊維強化炭素複合材料に結合材としてフェノール樹脂を含ませて加熱温度を1200〜1600℃として焼成して残留した前記フェノール樹脂を副成分として含んでおり、
前記外郭部の表面にDLC処理、イオンプレーティング処理、漆塗りの少なくともいずれかを施すことで配色されていることを特徴とする健康増進筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人が手に持って使用するだけで健康の増進が図れる健康増進筆記具の改良発明に関する。
【背景技術】
【0002】
従来には、外郭部が炭素粉を含ませて成形された健康増進筆記具が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。このものは、原料成分である炭素粉が高温圧縮処理した木炭よりなり、この炭素粉(木炭約40%)に吸着乾燥固結材としてセピオライトを含ませて、押出成形、裁断、乾燥、焼成の手順で製造するものである。
【0003】
この種の筆記具は、炭素の遠赤外線効果により、指の温度を上昇させることで指先を温めて血流を促進させ、さらに指のつぼを温刺激することで好適な使用感覚を生み出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−330762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献の筆記具は、外郭部の主成分である炭素材料が木炭の炭素粉であるためもろく、机の上などから落下した場合には、ひびが入ったり割れたりするおそれがある。
【0006】
また、木炭は多孔質であるため導電性がなく、約60%を占めるセピオライトは鉱石であり熱伝導性はよくない。さらに、このような成分のものは、セピオライトに木炭の炭素粉を混合して成形、乾燥後に900℃で焼成して製造するが、約5、6割が製造過程または製造後において欠けたり変形したりしていた。よってペンの軸を外郭部の筒内に入れられないこともあり、歩留まりの改善が望まれていた。
【0007】
本発明は、このような問題点を考慮して提案されたもので、その目的は、血流促進などの健康増進効果があるとともに、製造過程で欠けや変形がないことも含めて、従前のものよりも十分に強度にすぐれた健康増進筆記具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の健康増進筆記具は、略筒状の外郭部を有した健康増進筆記具において、炭素繊維強化炭素複合材料を主成分とし、成形の際に炭素繊維強化炭素複合材料に結合材としてフェノール樹脂を含ませて加熱温度を1200〜1600℃として焼成して残留したフェノール樹脂を副成分として含んでおり、外郭部の表面にDLC処理、イオンプレーティング処理、漆塗りの少なくともいずれかを施すことで配色されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の健康増進筆記具によれば、上述の構成となっているため、他の炭素材料により成形された筆記具と比較して、外郭部は強度が高く、たわみにくく、磨耗しにくい。強度が高いため、筆記具が机上等から落下した場合でも、外郭部に割れや欠けが発生しにくい。さらに、高強度であるため、他の炭素材料によるものに比べて、外郭部の厚みを薄くすることができる。外郭部を薄く形成できるので、さらなる軽量化が図れる。
【0012】
また、請求項1に記載の健康増進筆記具によれば、上述の構成となっているため、成形も容易にでき、強度をさらに上げることができる。
【0013】
さらに請求項1に記載の健康増進筆記具によれば、上述の構成となっているため、外郭部の表面に種々の模様やデザインを施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る筆記具の斜視図である。
図2】筆記具の温度測定試験の測定部位を示す筆記具の斜視図である。
図3】筆記具の温度測定試験の結果説明図である。(a)は測定温度の経緯を示す時系列グラフ、(b)は市販の万年筆との比較表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。以下の実施形態には、本発明の健康増進筆記具10(以下、たんに筆記具10という)として万年筆を例示したが、ボールペン、シャープペンシル、サインペン、ペン状の化粧道具の柄等にも適用が可能である。
【0016】
本明細書および図面に示した筆記具10は、略筒状の外郭部12a、13a、14を有した健康増進筆記具であって、外郭部12a、13a、14が炭素繊維強化炭素複合材料を主成分として有した筆記具である。
【0017】
より具体的には、この筆記具10は、図1に示すように、本体部11とキャップ部(外郭部14)とを分離自在に備えている。本体部11は、ペン先15を先端に有した首軸部12と、この首軸部12の内部と連通し、内部空間にカートリッジインクなどのインク溜まり部13bを有した胴軸部13とを分離自在に備えている。首軸部12および胴軸部13はいずれも、軸の外周部に硬質な外郭部12a、13aが設けてある。これらの外郭部12a、13aは内部を空洞とした略筒形状とされる。また、同様の外郭部14を構成するキャップ部も略筒形状となっている。
【0018】
これら3種の外郭部12a、13a、14は、いずれも炭素材料を主成分とした同一素材で成形されている。なお、外郭部12a、13a、14のうちの一部が金属等の別材で製されてもよいが、胴軸部13と首軸部12の各外郭部12a、13aは炭素材料で製されていることが望ましい。
【0019】
炭素材料としては炭素繊維強化炭素複合材料(以下、CCコンポジットという)が用いてある。筆記具10の製造過程において、成形の際の結合材としてとしてフェノール樹脂が用いてあるが、このフェノール樹脂成分は、本実施形態の筆記具10の外郭部12a、13a、14に残っていない。もちろん、成形の際の焼成の程度により、フェノール樹脂成分を外郭部12a、13a、14の副成分として残したものとしてもよい。
【0020】
これらの外郭部12a、13a、14は、CCコンポジットを含む炭素材料とフェノール樹脂とを混合し、押し出し成形機で板状に成形し、乾燥させ、それを焼成し、焼成した板状体を角棒状に裁断し、その角棒体を削り加工することで得られる。外郭部12a、13a、14の製造方法としては、この方法には限られず、CCコンポジットとフェノール樹脂とを原材料とした射出成形によるものでもよい。
【0021】
前者の製造方法(削り出し)によれば、種々の外形に製造できるという利点がある。また、筆記具の型を必要としないため、製造過程において設計変更ができ、注文生産にも対応することができる。また、原材料として木炭を用いたものでは木炭の粒子が大きいため、射出成形(後者の製造方法)による製造はできなかったが、本筆記具10の原材料はCCコンポジットであり、粒子が十分に小さいため射出成形での製造も可能である。
【0022】
外郭部12a、13a、14の主成分であるCCコンポジットは、炭素を炭素繊維で強化したもので、たとえば繊維強化複合材である炭素繊維強化プラスチックを熱処理し、母材のプラスチックを炭化させて作ることができる。
【0023】
このCCコンポジットは、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチックなどに比べて、軽量で高強度などのすぐれた特性がある。高強度なので、他の炭素材料によるものに比べて、外郭部12a、13a、14の厚みを薄くすることができる。また、CCコンポジットはグラファイトよりも軽量(グラファイトの比重が1.7〜2.0に対してCCコンポジットの比重は1.5)なうえ、薄く形成できるので、さらなる軽量化が図れる。
【0024】
また、CCコンポジットは、他の炭素材料と比較して、強度が高く、たわみにくく、磨耗しにくい。強度が高いため、筆記具10が机上等から落下した場合でも、外郭部12a、13a、14に割れや欠けが発生しにくい。もちろん、合成樹脂や木材などよりも強度が高い。また、製造過程において、欠けたり、屈曲したり、一部が変形したり(外郭部12a、13a、14の筒内の軸がぶれる)するおそれもほとんどなく、軸がぶれないためインク溜まり部13bの装着もほぼ確実に行える。したがって、不良品となる可能性は低く歩留まりは向上する。
【0025】
本発明者は、本筆記具10と同形状のグラファイト製の筆記具を比較例として準備し、これらの比較試験を行ったが、グラファイト製のもの(木炭40%とセピオライトとを含んで焼成したもの)は30〜50cmの高さから落とした場合でも破損したが、CCコンポジット製の本筆記具10は2mの高さから落としても破損しなかった。
【0026】
また、CCコンポジットはセピオライトなどの鉱石を含んだものに比べ、高い熱伝導性を有しているので、人体の体温を伝えるのに適しており、生体親和性もよい。また、CCコンポジットに、さらに熱伝導性が高い等方性高密度炭素材や超高熱伝導グラファイトを添設してもよい。また、製造過程において、1600℃超、望ましくは2000℃以上で焼成して、フェノール樹脂を飛ばして熱伝導性をよくすることが望ましい。
【0027】
また、1200〜1600℃で焼成しフェノール樹脂を残してもよい。このように、外郭部12a、13a、14が、その成形の際にCCコンポジットに対して結合材として含ませたフェノール樹脂などの樹脂成分を副成分として残すようにすれば、強度をさらに向上させることができる。なお、フェノール樹脂成分が多すぎると導電性が低下するおそれがあるが、20%程度の含有率であれば、導電性の低下がほとんどないことが本発明者の試験により確認されている。
【0028】
CCコンポジットなどの炭素材料は、上述したように熱伝導率が高く、外部の熱や光などの形で吸収したエネルギーにより多量の遠赤外線を放射する素材である。また、炭素材料は腐食のおそれもなく、人体を形成する有機物の構成物質と同じであるため、生体親和性がよく、人体への安全性も高く、金属アレルギーの心配もない。
【0029】
人体は、身体組成の60%は水分、25%は炭素であり、36.5℃の平均体温で常に10ミクロンの遠赤外線を放射しているので、人体の皮膚に炭素材が触れると、人体が遠赤外線を吸収して加温される。すなわち、炭素材料と人との間で同じ波長の遠赤外線を放射し合って炭素材は約36.5℃を維持する一方で身体の中では水分子が激しく衝突して、この振動が運動エネルギーとなって、熱に変換され身体が加温される。
【0030】
その結果、遠赤外線が皮下組織や血管などに作用して血流が改善されるが、本発明者によれば、抹消、中枢の血流に15%の上昇効果があることが確認されている。また、これらの炭素材料は、α波を発生して、身体を癒し健康増進に寄与する。
【0031】
図2および図3は本筆記具10を手に持ったときの温度測定試験の説明図である。図2は温度測定部位を示す筆記具10の斜視図である。図3は筆記具の温度測定試験の結果説明図である。図3(a)は測定温度の経緯を示す時系列グラフ、図3(b)は本筆記具10と市販の万年筆との実験結果の比較表である。図2に示すように、胴軸部13の後部にキャップ部14を被せ、その筆記具10を筆記スタイルで手に持った状態で表面の各部の温度を測定した。なお、この実験では、主成分である炭素材料が99.9%の筆記具10を用いた。
【0032】
測定部位は、筆記の際に指で掴む胴軸部13の下部(測定点(1))、それより上方で手の一部が触れるキャップ部14の開口部の近傍部分(測定点(2))、身体がほとんど触れないキャップ部14の上部(測定点(3))の3箇所であり、ペン先15も参考部位(測定点(4))として温度を測定した。図3(a)に示すように、10分間の室温はほぼ一定の温度(約26℃)であった。なお、図3(a)(b)において測定点を示す(1)〜(4)は〇数字で示してある。
【0033】
図3(a)のグラフおよび図3(b)の表に示すように、各測定点(1)〜(3)の初期の温度が約27.5℃であるのに対して、測定点(1)については10分間で温度が約8℃上昇し、測定点(2)については約6.5℃上昇し、測定点(3)については約4.5℃上昇した。また、測定点(4)(ペン先)については、初期温度が約26.5℃、10分後には約3.5度上昇した。
【0034】
これに対して、市販の万年筆についても同様の実験を行ったが、図3(b)に示すように、測定点(1)(2)については約4℃、測定点(3)については約3℃しか上昇しなかった。測定点(4)(ペン先)については、温度の上昇がほとんど認められなかった(図3(b)参照)。
【0035】
この試験による外郭部12a、13a、14の温度上昇の実験結果から、CCコンポジットの遠赤外線の放射により、筆記具10を持つ指先や手のひらが温められることが確認された。
【0036】
このように、この筆記具10によれば、筆記作業中には、外郭部12a、13a、14の炭素材料による遠赤外線の放射により指先が加温されるとともに、血液循環が促進されて、健康増進効果が得られる。
【0037】
特に、本筆記具10は主成分であるCCコンポジットが高い熱伝導性を有しているため、外郭部12a、13a、14が樹脂成分を含まないように成形された万年筆では、使用状態では外郭部12a、13a、14が温度上昇するため、インクも温度上昇により滑らかになり、その結果、インク溜まり部13bのインクの出がスムーズになり、書き味がよくなる。
【0038】
また、筆記具10の外郭部12a、13a、14は導電性を有しており、さらにペン先15も金属材料で製され導電性を有しているため、筆記動作により指や手のひらに生じた静電気を、筆記具10を通じて紙面などに逃がすことができる。このように静電気が除去されることで手は疲れにくくなり、それにより筆記作業の高能率化も図れる。また、肌荒れの防止策ともなり得る。
【0039】
この静電気の除去については、本筆記具10および市販の万年筆のそれぞれについてストロール法(JIS L 1094:2008)による試験を行った。その結果、本筆記具10が市販のものより良好に除電されることが確認された。
【0040】
以上のように、本筆記具10によれば、健康増進および筆記作業の高能率化などの効果が奏せられる。また上述したように、外郭部12a、13a、14には炭素材料の中でも特に強度にすぐれたCCコンポジットが用いられているので、落下などの衝撃があった場合でも損傷を防止することができる。
【0041】
なお、本実施形態に係る筆記具10は、キャップ部14もCCコンポジットで製されているが、少なくとも手指が直接触れる本体部11がCCコンポジットで製されていれば、それによって人体(指先等)に対する遠赤外線効果は得られる。
【0042】
また、外郭部12a、13a、14の表面には、DLC処理、イオンプレーティング処理、漆塗りの少なくともいずれかを施すことで、外側から視認できる表面に玉虫色、単色、艶消しの黒色などの高級感のある配色処理をすることが可能となり、炭素材の表面処理によって配色することで、ファッション性を高めることができる。たとえば、和風の高級万年筆として、外郭部12a、13a、14の表面に蒔絵などの装飾を付加すれば、著しい高級感が得られる。
【符号の説明】
【0043】
10 筆記具
11 本体部
12 首軸部
12a 外郭部
13 胴軸部
13a 外郭部
13b インク溜まり部
14 キャップ部(外郭部)
15 ペン先


図1
図2
図3