(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160715
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】車輪支持用転がり軸受ユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 35/063 20060101AFI20170703BHJP
B60B 35/18 20060101ALI20170703BHJP
B60B 35/16 20060101ALI20170703BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20170703BHJP
F16C 35/077 20060101ALI20170703BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20170703BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20170703BHJP
B21D 39/04 20060101ALI20170703BHJP
B21J 9/02 20060101ALI20170703BHJP
B21D 39/00 20060101ALI20170703BHJP
B21K 1/05 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
F16C35/063
B60B35/18 A
B60B35/16 F
B60B35/02 L
F16C35/077
F16C33/58
F16C19/18
B21D39/04 D
B21J9/02
B21D39/00 D
B21K1/05
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-1450(P2016-1450)
(22)【出願日】2016年1月7日
(62)【分割の表示】特願2012-221582(P2012-221582)の分割
【原出願日】2012年10月3日
(65)【公開番号】特開2016-114250(P2016-114250A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2016年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 寛朗
【審査官】
中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−153096(JP,A)
【文献】
特開2004−263835(JP,A)
【文献】
特開2005−121120(JP,A)
【文献】
特開2009−150418(JP,A)
【文献】
特開2003−021153(JP,A)
【文献】
特開2005−201456(JP,A)
【文献】
特開2003−028179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 35/063
B21D 39/00
B21D 39/04
B21J 9/02
B21K 1/05
B60B 35/02
B60B 35/16
B60B 35/18
F16C 19/18
F16C 33/58
F16C 35/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を、円筒面状の外周面の軸方向中間部1箇所にのみ懸架装置を構成するナックルと結合固定する為の止め輪を係止する為の凹溝を、それぞれ有する外径側軌道輪部材と、
外周面に複列の内輪軌道を有する内径側軌道輪部材と、
これら両内輪軌道と前記両外輪軌道との間にそれぞれ複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備え、
前記内径側軌道輪部材は、その中間部外周面に直接又は別体の内輪を介して前記両内輪軌道のうち軸方向外側の内輪軌道を設けた軸部材と、その外周面にこれら両内輪軌道のうち軸方向内側の内輪軌道を設けた内輪とから構成され、この内輪は、この軸部材の軸方向内端部に外嵌されており、その軸方向内端面を、この軸部材の軸方向内端部に径方向外方に折れ曲がった状態で設けられた抑え部により抑え付けられた状態で、前記軸部材に対し支持固定されている車輪支持用転がり軸受ユニットに於いて、
前記凹溝の底面に、凹部と凸部とを全周に亙って、且つ、周方向に関して交互に配置して成る、凹凸部を設けている事を特徴とする車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記凹凸部が、前記凹溝の底面に形成されたローレット目である、請求項1に記載した車輪支持用転がり軸受ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、自動車の懸架装置に対して車輪を回転自在に支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットとして、特許文献1に記載された従来構造の第1例を示している。車輪支持用転がり軸受ユニット1は、外輪2の内径側にハブ3を、複数個の転動体4、4を介して、回転自在に支持している。このうちの外輪2は、中炭素鋼製で、内周面に複列の外輪軌道5a、5bを、外周面に静止側フランジ6を、それぞれ有する。この様な外輪2は、使用時にはこの静止側フランジ6が懸架装置を構成するナックルに結合固定される為、回転しない。又、前記ハブ3は、外周面に複列の内輪軌道7a、7bと回転側フランジ8とを有し、使用時に、この回転側フランジ8に結合固定した車輪と共に回転する。前記各転動体4、4は、軸受鋼或いはセラミック製で、前記両外輪軌道5a、5bと前記両内輪軌道7a、7bとの間に、両列毎に複数個ずつ、転動自在に設けられている。又、前記回転側フランジ8には、使用状態で、車輪、及び、ディスクロータ等の制動用回転体を支持固定する。
【0003】
又、前記ハブ3は、ハブ本体9と内輪10とを結合固定して成る。このうちのハブ本体9は、中炭素鋼製で、軸方向外端寄り部分(軸方向に関して外とは、懸架装置に組み付けた状態で車体の幅方向外側となる側を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)の外周面に前記回転側フランジ8を、軸方向中間部外周面に、前記両内輪軌道7a、7bのうち軸方向外側の内輪軌道7aを、それぞれ直接形成している。
【0004】
一方、前記内輪10は、軸受鋼製で、外周面に、前記両内輪軌道7a、7bのうち軸方向内側(軸方向に関して内とは、懸架装置に組み付けた状態で車体の幅方向中央側となる側を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)の内輪軌道7bを形成している。この様な内輪10は、前記ハブ本体9の軸方向内端寄り部分に形成された小径段部11に外嵌固定した状態で、このハブ本体9の軸方向内端部に形成したかしめ部12により抑え付けて、このハブ本体9に対し結合固定している。尚、図示の例では、前記転動体4、4として円筒ころを使用しているが、乗用車等の比較的重量の軽い自動車用の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合には、転動体として玉を使用する事もできる。又、図示の例では、前記外輪2の軸方向外端部に内嵌固定したシールリング13により、前記各転動体4、4を設けた内部空間14の軸方向外側開口部を密閉している。尚、図示は省略するが、この内部空間14の軸方向内側開口部も、別のシールリングにより密封するか、或いは、前記外輪2の内端部に装着したカバーにより塞ぐ。これにより、前記内部空間14に封入したグリース等の潤滑剤が外部に漏洩するのを防止すると共に、外部からこの内部空間14内に泥水等の異物が浸入するのを防止する。
【0005】
上述の様な車輪支持用転がり軸受ユニット1を組み立てる際には、軸方向内側の外輪軌道5b及び内輪軌道7bに圧痕が形成されない様に考慮する必要がある。即ち、前記ハブ本体9の周囲に、前記外輪2、前記各転動体4、4、及び前記シールリング13を組み付けた状態で、前記ハブ本体9の小径段部11に前記内輪10を締り嵌めで内嵌固定し、このハブ本体9の軸方向内端部に形成した円筒部15を径方向外方に塑性変形させて、前記かしめ部12を形成する。このかしめ部12を形成する作業は、前記ハブ本体9の軸方向外端面を支持台16(
図7参照)の上面に載置した状態で
、加圧部材である押型17(
図7参照)を、前記円筒部15の軸方向内端部に押し付け、この円筒部15の軸方向内端部を径方向外方にかしめ拡げる事により行う。
【0006】
前記押型17の中心軸αは、前記ハブ本体9の中心軸βに対し、小さな角度θ(例えば1〜10度程度)だけ傾斜している。前記かしめ部12の加工時に前記押型17は、その中心軸αを前記ハブ本体9の中心軸βの回りで(歳差運動による中心軸の軌跡の如く)振れ回り運動させつつ、前記ハブ本体9に向け押し付けられる。この為、前記押型17から前記円筒部15へは、軸方向に関して外側に、径方向に関して外方に、それぞれ向いた荷重が加えられ、この様に荷重を加えられる部分が、前記円筒部15の周方向に関して連続的に変化する。この結果、前記押型17に加える力を特に大きくしなくても、前記円筒部15を塑性変形させて、良質のかしめ部12を得られる。そして、この様にして得たかしめ部12により前記内輪10の軸方向内端面を軸方向に抑え付ける事で、この内輪10を前記ハブ本体9に固定する。尚、前記特許文献1には、かしめ部12の形成作業を、上述の様な揺動鍛造に代えて、回転鍛造により行う方法に就いても記載されている。かしめ部を回転鍛造により形成する場合、ハブ本体を支持軸受に回転自在に支持した状態で
、加圧部材である、ロールを前記ハブ本体の軸方向内端部に設けた円筒部の先端部の一部に、中心軸がこのハブ本体の中心軸に対し傾斜した状態で強く押し付ける。そして、このハブ本体(及び内輪)と前記ロールとを、それぞれの中心軸を中心として回転させる事により、前記円筒部15の先端部を径方向外方にかしめ拡げて、前記かしめ部を形成する。
【0007】
何れにしても、ハブ本体9の軸方向内端部に形成した円筒部15を塑性変形させてかしめ部12とする場合、このハブ本体9に押型17或いはロールから、径方向及び軸方向に向いた荷重が加わる。そして、この荷重の一部は、荷重の作用方向に存在する転動体4を介して外輪2が支承する事になる。この場合に加わる荷重が大きい転動体4は、前記かしめ部12に近い、軸方向内側で、周方向に関し前記押型17或いはロールの押し付け方向に存在する転動体4となる。
【0008】
この様に軸方向内側に存在する転動体4、4の一部が前記荷重を支承する場合に、複数の転動体4、4が支承すれば特に問題を生じないが、1個の転動体4によりこの荷重の殆どを支承する場合に問題を生じる。即ち、前記荷重の作用線上に単一の転動体4だけが存在していた場合には、この荷重の殆ど総てが、当該転動体4の転動面と軸方向内側の外輪軌道5b及び内輪軌道7bとの当接部に加わる。この結果、これら両当接部の面圧が高くなり、更に、周方向に関し前記荷重の押し付け方向に於いてこの面圧が増減する事から、これら各軌道5b、7bに圧痕が形成されたり、フレッチング(フォールスブリネリング)が生じ易くなる。そして、圧痕が形成された場合には、車輪支持用転がり軸受ユニットの使用時に発生する振動並びに騒音が大きくなるだけでなく、前記各軌道の転がり疲れ寿命が低下する。特に、車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する転動体として、
図6に示す様な円筒ころに代えて玉を使用した場合には、これら各玉の転動面と内輪軌道及び外輪軌道との当接部の面圧が高くなる為、上述の様な問題が顕著になり易い。
【0009】
図7は、特許文献2に記載された車輪支持用転がり軸受ユニットの製造装置を示している。この製造装置は、押型17に非接触式の変位センサ18を設置して、この押型17の揺動変位方向を検出自在としている。又、この押型17の側方には、軸方向内側の外輪軌道5cと内輪軌道7cとの間に設けられた複数の転動体4a、4aの周方向に関する位相を検出する為の、位置検知センサ19を設けている。更に、外輪2aを、サーボモータ20と無端ベルト21とにより、ハブ3aの周囲で回転駆動自在としている。尚、
図7に示した構造は、軸方向外側の外輪軌道5d及び内輪軌道7dに関しても、断面形状が円弧形である、アンギュラ型としている。
【0010】
上述の様な製造装置により、かしめ部12を形成する場合、前記変位センサ18からの、前記押型17の中心軸αの傾斜方向を表す信号と、前記位置検知センサ19からの前記各転動体4a、4aの位相とを表す信号とを、図示しない制御器に入力する。この制御器は、これら両信号に基づいて、前記押型17からハブ本体9aの円筒部15に加わる荷重の作用方向が単一の転動体4aにだけ加わらない様に、前記サーボモータ20により前記外輪2aを回転させる。これにより、前記軸方向内側の外輪軌道5c及び内輪軌道7cに圧痕を生じさせずに、前記かしめ部12を形成できる。
【0011】
前記特許文献2に記載の製造装置によりかしめ部12を形成する場合であっても、次の様な問題を生じる可能性がある。即ち、
図7に示す例では、外輪2aを回転駆動する為の無端ベルト21を、この外輪2aの軸方向外端部の外周面に掛け渡している。前記
図7に示す例の場合、懸架装置を構成するナックルは、前記外輪2aの軸方向内寄り部分の外周面に設けられた静止側フランジ6に結合固定される。従って、前記外輪2aの軸方向外端部の外周面は、研磨加工等の仕上加工が施されていない(又は、仕上加工が施されていたとしても、前記無端ベルト21の内周面との間に滑りが発生しない程度に摩擦係数の大きい)粗面となっており、この無端ベルト21を、前記外輪2aの軸方向外端部の外周面に掛け渡しても、この外輪2aを回転駆動する際に、滑りが生じる可能性は低い。
【0012】
これに対し、
図8は、特許文献3に記載された車輪支持用転がり軸受ユニット1aを示している。尚、前述の
図6〜7に示した車輪支持用転がり軸受ユニットが、何れも従動輪(FR車及びRR車の前輪、FF車の後輪)を支持する為の構造であったのに対し、前記
図8に示す従来構造の第2例は、駆動輪を支持する為の構造である。この為、ハブ3aを構成するハブ本体9aの中心部に、等速ジョイントに付属するスプライン軸を挿入する為のスプライン孔22を形成している。前記従来構造の第2例の場合、外輪2bとナックルとを、この外輪2bの外周面をこのナックルの内周面に当接させる事により、この外輪2bの径方向の位置決めを図った状態で、この外輪2bをこのナックルに内嵌する。そして、この外輪2bの外周面の軸方向中央部に形成した凹溝23に係止した止め輪24を、前記ナックルの内周面に形成した凹溝に係合させ、軸方向の変位を阻止する事で前記外輪2bをこのナックルに結合固定する。この外輪2bの外周面は、このナックルの内周面に対する同心性を確保する為に仕上加工が施されている。更に、仕上加工の施されたこの内周面には一般的に防錆剤等が塗布され、摩擦係数が小さくなっている為、かしめ部12を形成する際に、前記外輪2bの外周面に無端ベルト21(
図7参照)を掛け渡して、この外輪2bを回転駆動しようとする場合、この外輪2bの外周面と前記無端ベルト21の内周面との間で滑りが発生する可能性がある。この様な滑りが発生すると、押型17(
図7参照)からの荷重が単一の転動体4aにだけ加わらない様にする制御が実施できなくなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−343905号公報
【特許文献2】特開2003−028179号公報
【特許文献3】特開2009−150418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、外周面を平滑な円筒面とした外輪を有する場合にも、かしめ部を形成する際に、内輪軌道及び外輪軌道に圧痕が形成されるのを防止できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の対象となる車輪支持用転がり軸受ユニットは、外径側軌道輪部材と、内径側軌道輪部材と、複数個の転動体とを備える。
このうちの外径側軌道輪部材は、内周面に複列の外輪軌道を、外周面
の軸方向中間部1箇所にのみ懸架装置を構成するナックルと結合固定する為の、止め輪を係止する為の凹溝を、それぞれ有する。
又、前記内径側軌道輪部材は、外周面に複列の内輪軌道を有する。
又、前記各転動体は、前記複列の外輪軌道とこれら複列の内輪軌道との間にそれぞれ複数個ずつ、転動自在に設けられる。
そして、前記内径側軌道輪部材は、その中間部外周面に直接又は別体の内輪を介して前記両内輪軌道のうち軸方向外側の内輪軌道を設けた軸部材と、その外周面にこれら両内輪軌道のうち軸方向内側の内輪軌道を設けた内輪とから構成される。このうちの内輪は、前記軸部材の軸方向内端部に外嵌されており、その軸方向内端面を、この軸部材の軸方向内端部に径方向外方に折れ曲がった状態で設けられた抑え部により抑え付けられた状態で、前記軸部材に対し支持固定されている。尚、この抑え部は、この軸部材の軸方向内端部に設けた円筒部を径方向外方に塑性変形させる(かしめる)事で形成される。
特に本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、前記凹溝の底
面に、凹部と凸部とを全周に亙って
、且つ、周方向に関して交互に配置して成る
、凹凸部を設けている。
【0016】
この様な本発明を実施する場合に、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記凹凸部を、前記凹溝の底面に形成されたローレット目とする。
或いは
、前記凹凸部を、歯車と噛合する歯部とする。こ
の場合、前記歯部を前記凹溝の内側面に形成され、前記外径側軌道輪部材の中心軸に対し直交する方向の回転軸を有する歯車と噛合する形状とする。即ち、この外径側軌道輪部材のうち前記歯部を形成した側の軸方向片半部の形状を、冠歯車(クラウンギヤ)の如き形状とする。
【0017】
上述の様な本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットを造る場合、加圧部材により前記円筒部の周方向の一部に、軸方向に関して外側に、径方向に関して外方に、それぞれ向いた荷重を加えると共に、この荷重を加える部分を前記円筒部の周方向に関して連続的に変化させる事によりこの円筒部を徐々に塑性変形させて前記抑え部とする。そして、前記加圧部材が前記円筒部を押圧する事に基づく荷重を、前記軸方向内側の内輪軌道の周囲に配置された複数個の転動体のうちの単一の転動体が強く支承する事を防止する。この為、前記荷重の作用方向が単一の転動体だけに向かない様に、前記周方向に関する前記加圧部材の位相と前記複数個の転動体の位相とを規制した状態で、これら各転動体の公転角速度と、前記加圧部材と前記円筒部との相対変位の角速度とを一致させるべく、前記外径側軌道部材を一方向に回転させつつこの加圧部材により前記円筒部を押圧して、前記抑え部の加工を行う。
そして、前記外径側軌道輪部材を回転させる際に、この外径側軌道輪部材を回転させる回転駆動装置の回転駆動部を、前記凹凸部に係合させる。
【0018】
上述の様な車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法を実施する場合、例えば、前記回転駆動部を、前記凹凸部と、サーボモータの出力軸との間に掛け渡された無端ベルトとする。そして、このサーボモータを回転駆動する事により、前記外径側軌道輪部材を回転させる。
或いは、前記回転駆動部を歯車とし、前記凹凸部を、この歯車と噛合する歯部とし、この歯車をサーボモータにより回転駆動する事で、前記外径側軌道輪部材を回転駆動させる。更に、この場合には、前記歯車を、前記外径側軌道輪部材の中心軸に直交する方向の回転軸を有する傘歯車或いは平歯車とする事が好ましい。
【発明の効果】
【0019】
上述の様に構成する本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットによれば、円筒部を径方向外方に塑性変形して抑え部とする際に、内径側軌道部材から外径側軌道部材に伝わる荷重を、常に複数個の転動体により、均等若しくは均等に近い状態で支承できる。この為、これら各転動体の転動面と、軸方向内側の内輪軌道及び外輪軌道との当接部に加わる面圧を低く抑えて、これら各軌道に圧痕が形成され難くできる。この結果、運転時に発生する振動や騒音を低く抑えられ、しかも耐久性の優れた構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、断面図(A)、及び外輪の要部拡大部拡大図(B)。
【
図2】
本発明に関連する参考例の第1例を示す外輪を取り出して示す、斜視図(A)と、(A)のX−X断面図(B)と、凹凸部の形状の3例を示す部分拡大斜視図(C)。
【
図6】従来から知られている車輪支持用転がり軸受ユニットの構造の第1例を示す断面図。
【
図7】車輪支持用転がり軸受ユニットの製造装置の従来構造の1例を示す断面図。
【
図8】車輪支持用転がり軸受ユニットの従来構造の第2例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1、2に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、ハブ本体9aの軸方向内端部に、特許請求の範囲に記載した抑え部に相当する、かしめ部12aを形成する際に、軸方向内側の外輪軌道5c及び内輪軌道7cに圧痕が形成されるのを防止する為、外輪2cを無端ベルト21(
図7参照)により回転駆動する際に、この外輪2cの外周面とこの無端ベルト21の内周面との間で滑りが発生するのを防止する構造、及び、この構造を利用して実施する、車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の
図6〜8に示した構造を含め、従来の車輪支持用転がり軸受ユニット及びその製造方法と同様であるから、重複する部分の図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0022】
本例の車輪支持用転がり軸受ユニット1cを構成する外輪2cの外周面は、前述した従来構造の第2例に係る外輪2bと同様に、後述する止め輪24aを係止する為の凹溝23aを形成した部分を除き、仕上加工が施された単一円筒面としている。そして、懸架装置を構成するナックル25に設けた保持孔29に前記外輪2cを、がたつきなく締り嵌めで内嵌する。この状態で、この外輪2cの外周面の軸方向中央部に全周に亙り形成した凹溝23aに係止した止め輪24aを、前記ナックル25の内周面に全周に亙り形成した外径側凹溝26に係合させる事で、前記車輪支持用転がり軸受ユニット1cが前記保持孔29から抜け出るのを防止する。この様な止め輪24aの構造に就いては、前述した特許文献3に記載された構造等、従来から知られている各種構造を採用する事ができる。又、本例の場合、前記外輪2cの凹溝23aの底面に、ローレット加工により全周に亙って凹凸部27を設けている。この様な凹凸部27は、前記外輪2cの必要部分を硬化させる為の熱処理加工を施す以前に形成する。尚、図示の例の場合、前記凹凸部27を平目のローレット目としているが、軸方向に対して傾斜した斜目或いは網目状に交差した綾目のローレット目とする事もできる。
【0023】
上述の様な車輪支持用転がり軸受ユニット1cは製造時に、ハブ本体9aの軸方向内端部の円筒部15を塑性変形させて前記かしめ部12aを形成する際に、押型17(
図7参照)からの荷重が単一の転動体4aにだけ加わらない様にすべく、前記外輪2cを回転駆動する為の無端ベルト21を、前記凹溝23aの底面に形成した凹凸部27に掛け渡す。従って、前記外輪2cを回転駆動する際に、この凹凸部27と前記無端ベルト21の内周面との間で滑りが発生するのを防止できて、前記荷重が単一の転動体4aにだけ加わらない様にする制御を適切に行える。尚、前記外輪2cを回転駆動する際に、前記凹凸部27に前記無端ベルト21を掛け渡す代わりに、この凹凸部27にサーボモータにより回転駆動される、少なくとも外周面部分をゴム等の弾性材製とした、1乃至複数個の駆動ローラを押し付ける事により、前記外輪2cを回転駆動する様に構成する事もできる。或いは、大きめに形成した凹凸部に歯車を噛合させ、この歯車を回転させる事で、前記外輪2cを回転駆動しても良い。
【0024】
又、本例の場合、前記凹凸部27を前記外輪2cの外周面に形成した凹溝23aの底面に設けている。この為、この外輪2cを前記ナックル25に結合固定する際に、前記凹凸部27が、前記ナックル25の保持孔29に前記外輪2cを内嵌する作業の妨げとなる事はない。
尚、本例の構造は、図示の様な、駆動輪用の車輪支持用転がり軸受ユニット1aに限らず、従動輪用の車輪支持用転がり軸受ユニットに適用しても良い。
【0025】
[
本発明に関連する参考例の第1例]
図2は、
本発明に関連する参考例の第1例を示している。
本参考例の場合、外輪2dの外周面に形成した凹溝23bの内側面外周縁部に全周に亙り凹凸部27aを形成している。この様な凹凸部27aは、
図2の(C)に示す様な各種形状を採用する事ができる。例えば、
図2の(A)、(B)及び(C)の(a)に示す様に、前記凹溝23bの内側面外周縁部に切削加工を施し、この内側面外周縁部の周方向複数箇所に等間隔に凹部を形成する事で、この内側面外周縁部に前記凹凸部27aを形成できる。或いは、
図2の(C)の(b)に示す様に、前記外輪2dの外周面のうち前記凹溝23bの内側面外周縁に軸方向に隣接する部分に全周に亙ってローレット加工を施す事もできる。更に、同図の(c)に示す様に、前記凹溝23bの内側面外周縁の周方向複数箇所を径方向内方に向け等間隔に押圧し、塑性変形させて設ける事もできる。
【0026】
何れにしても、前記凹凸部27aは、前記外輪2dの外周面に研磨加工や熱処理加工等の仕上加工を施す以前に形成する。その後、この外輪2dの外周面に仕上加工を施す事で、この外輪2dの外周面にバリ等の微小な凸部が残るのを防止して、この外輪2dをナックル25{
図1の(A)参照}に支持固定する際に、この外輪2dをこのナックル25に内嵌する作業の妨げとならない様にする。
ハブ本体9aの軸方向内端部にかしめ部12aを形成する際には、弾性を有するベルトの内周面又はローラの外周面を前記凹凸部27aに押し付けた状態で、ベルトを循環させたり、ローラを回転させる。この凹凸部27aと凹凸係合する、段付ベルト又は段付ローラを使用する事もできる。
その他の部分の構造及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、重複する部分の図示並びに説明は省略する。
【0027】
[
本発明に関連する参考例の第2例]
図3は、
本発明に関連する参考例の第2例を示している。
本参考例の場合、外輪2eの凹溝23と軸方向に隣接する部分に全周に亙って、平歯車と噛合する歯部28を形成している。ハブ本体9aの軸方向内端部の円筒部15を塑性変形させてかしめ部12a{
図1の(A)参照}を形成する際には、前記歯部28に噛合した平歯車を回転させる事により前記外輪2eを回転駆動する。尚、
本参考例の場合、この歯部28の山部の最大径が、この外輪2eの外周面の外径を超えない様に規制している。
その他の部分の構造及び作用は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、重複する部分の図示並びに説明は省略する。
【0028】
[
本発明に関連する参考例の第3例]
図4は、
本発明に関連する参考例の第3例を示している。
本参考例の場合、外輪2fの外周面に全周に亙って形成した凹溝23cの片側面に、この外輪2fの中心軸に直交する方向の回転軸を有する、傘歯車或いは平歯車と噛合する歯部28aを設けている。即ち、前記外輪2fのうち、この歯部28aを形成した側の軸方向片半部の形状を、冠歯車(クラウンギヤ)の如き形状としている。ハブ本体9aの軸方向内端部の円筒部15を塑性変形させてかしめ部12a{
図1の(A)参照}を形成する際には、前記歯部28aに噛合した傘歯車或いは平歯車を回転させる事により前記外輪2fを回転駆動する。
その他の部分の構造及び作用は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、重複する部分の図示並びに説明は省略する。
【0029】
[実施の形態の第
2例]
図5は、請求項1、2に対応する、本発明の実施の形態の第
2例を示している。本例の場合、軸方向内側の内輪軌道7cに加え、軸方向外側の内輪軌道7dに就いても、ハブ本体9bに直接設けるのではなく、別体の内輪10aを介して設けている。即ち、このハブ本体9bの軸方向外端寄り部分に内輪10aを、同じく軸方向内端寄り部分に内輪10を、それぞれ外嵌固定した状態で、前記ハブ本体9bの軸方向内端部にかしめ部12aを形成し、前記内輪10の軸方向内端部を抑え付けている。
その他の部分の構造及び作用は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、重複する部分の説明は省略する。
【符号の説明】
【0030】
1、1a〜1c 車輪支持用転がり軸受ユニット
2、2a〜2f 外輪
3、3a ハブ
4、4a 転動体
5a〜5d 外輪軌道
6 静止側フランジ
7a〜7d 内輪軌道
8 回転側フランジ
9、9a、9b ハブ本体
10、10a 内輪
11 小径段部
12、12a かしめ部
13 シールリング
14 内部空間
15 円筒部
16 支持台
17 押型
18 変位センサ
19 位置検知センサ
20 サーボモータ
21 無端ベルト
22 スプライン孔
23、23a〜23c 凹溝
24、24a 止め輪
25 ナックル
26 外径側凹溝
27、27a 凹凸部
28、28a 歯部
29 保持孔