(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
【0022】
[セルロースアシレート]
本実施形態に係るセルロースアシレートは、酢酸の含有量が100ppm以上1000ppm以下である。なお、「ppm」は質量基準である。
【0023】
ここで、セルロースアシレートは、融解温度と分解温度が近いため、融解温度(融点)まで加熱すると同時に分解が起こることがある。このため、セルロースアシレートの融解温度(融点)近い温度以上に加熱する成形(例えば、射出成形等)によって、セルロースアシレートを含む樹脂組成物を成形すると、セルロースアシレートの分解が起こり、得られる樹脂成形体が着色することがある。着色した樹脂成形体は、透明性を要する用途では透過率を損ない易い。また、透明性を必要としない用途においても、セルロースアシレートの融解温度(融点)近い温度以上の温度で保持される時間の違いで色差が変化してしまい、製品の色が安定し難い。このため、セルロースアシレートは、セルロースアシレートの融解温度(融点)近い温度以上に加熱する成形(例えば、射出成形等)用途で使用し難く、もっぱらキャストのような高温にしない成形用途に限られているのが現状である。
このように、セルロースアシレートを含む樹脂組成物を高温(セルロースアシレートの融解温度(融点)近い温度以上)で成形(例えば、射出成形等)したときでも、樹脂成形体の着色を抑制することが望まれている。
【0024】
それに対して、本実施形態に係るセルロースアシレートでは、酢酸の含有量を100ppm以上1000ppm以下とする。これにより、セルロースアシレートを含む樹脂組成物を高温(セルロースアシレートの融解温度(融点)近い温度以上)で成形(例えば、射出成形等)したときに生じる、樹脂成形体の着色が抑制される。その理由は、次のように推測している。
セルロースアシレートの着色要因は、セルロースアシレートの主鎖の分解又は不純物の影響であると思われていたが、主鎖の分解又は不純物の影響ではなく、側鎖のアシル基の脱アシル化反応により起こるのではないかと考えられる。セルロースアシレートの合成には酢酸を溶媒として用いるため、セルロースアシレート内には酢酸が残留するが、高温での成形(射出成形等)時の温度上昇により、この酢酸が活性触媒として働き、脱アシル化反応が起こっているものと考えられる。そのため、活性触媒となる酢酸の含有量を低減することにより、セルロースアシレートを含む樹脂組成物を高温(セルロースアシレートの融解温度(融点)近い温度以上)で成形(例えば、射出成形等)したとき、脱アシル化反応の発生が抑えられ、樹脂成形体の着色が抑制されると考えられる。
【0025】
本実施形態に係るセルロースアシレートにおいて、酢酸の含有量は、100ppm以上1000ppm以下であるが、樹脂成形体の着色抑制の観点から、100ppm以上900ppm以下が好ましく、100ppm以上800ppm以下がより好ましい。
特に、酢酸の含有量を低減すると、樹脂成形体の着色が抑制される一方で、酢酸の含有量を100ppm未満にすると、セルロースアシレートの分子間水素結合を酢酸が緩和する効果が小さくなりすぎて、加熱時の溶融粘度が高くなり、成形性が低下することがある。
【0026】
酢酸の含有量は、酢酸その他不純物等を含むセルロースアシレート全体に対する質量比である。そして、酢酸の含有量は、次の方法により測定される値である。
測定対象のセルロースアシレートをアセトンに溶解後メタノール中に再沈殿させ、遠心分離機で析出物を沈降させた後、上澄み液に水酸化ナトリウムを加えて攪拌、蒸発乾固する。これに蒸留水を加え、析出物を遠心分離後、上澄み液を濾過し、蒸留水で希釈する。この得られた希釈液を測定液とする。そして、測定液を用いて、イオンクロマトグラフ(Thermo Fishe SCIENTIFIC社製、Thermo Scientific Interrion)により、酢酸の含有量を求める。
【0027】
以下、本実施形態に係るセルロースアシレートの詳細について説明する。
【0028】
本実施形態に係るセルロースアシレートは、セルロースにおける水酸基の少なくも一部がアシル基により置換(アシル化)されたセルロース誘導体であり、具体的には、例えば、一般式(1)で表されるセルロース誘導体である。
【0030】
一般式(1)中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、又はアシル基を表す。nは2以上の整数を表す。ただし、n個のR
1、n個のR
2、及びn個のR
3のうちの少なくとも一部はアシル基を表す。
なお、R
1、R
2、及びR
3で表されるアシル基は、炭素数1以上6以下のアシル基が好ましい。
【0031】
一般式(1)中、nの範囲は特に制限されないが、100以上350以下が好ましく、100以上200以下がより好ましい。
nを40以上にすると、樹脂成形体の強度が高まりやすくなる。nを300以下にすると、樹脂成形体の柔軟性の低下が抑制されやすくなる。
【0032】
本実施形態に係るセルロースアシレートは、水酸基の一部がアシル基(より好ましくは炭素数1以上6以下のアシル基)で置換されていることがよい。つまり、前記一般式(1)で表される構造を有するセルロース誘導体の場合、n個のR
1、n個のR
2、及びn個のR
3のうちの少なくとも一部がアシル基を表す。
したがって、一般式(1)で表されるセルロースアシレート中にn個あるR
1は、全て同一でも一部同一でも互いに異なっていてもよい。同様に、n個あるR
2、及びn個あるR
3も、それぞれ、全て同一でも一部同一でも互いに異なっていてもよい。そして、これらのうちの少なくとも一部がアシル基を表す。
【0033】
なお、セルロースアシレートは、アシル基として、炭素数1以上6以下のアシル基を有することで、炭素数7以上のアシル基を有する場合に比べ、弾性率及び耐熱性が向上する。
【0034】
アシル基は「−CO−R
AC」の構造で表され、R
ACは、水素原子、又は炭化水素基(より好ましくは炭素数1以上5以下の炭化水素基)を表す。
R
ACで表される炭化水素基は、直鎖状、分岐状、及び環状のいずれであってもよいが、直鎖状であることがより好ましい。
また、炭化水素基は、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよいが、飽和炭化水素基であることがより好ましい。
また、炭化水素基は、炭素及び水素以外の他の原子(例えば酸素、窒素等)を有していてもよいが、炭素及び水素のみからなる炭化水素基であることがより好ましい。
アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基(ブタノイル基)、プロペノイル基、ヘキサノイル基等が挙げられる。
これらの中でもアシル基としては、樹脂組成物の成形性の向上の観点から、炭素数2以上4以下のアシル基がより好ましく、炭素数2以上3以下のアシル基がさらに好ましく、炭素数2のアシル基(アセチル基)が特に好ましい。つまり、セルロースアシレートは、アセチル基を有することが好ましい。
【0035】
本実施形態に係るセルロースアシレートの重合度は、溶融温度の低減(成形性の向上)、得られる樹脂組成物の強度向上の観点から、重合度100以上350以下が好ましく、120以上330以下がより好ましく、150以上320以下がさらに好ましい。
【0036】
ここで、重合度は、以下の手順で重量平均分子量から求める。
まず、セルロースアシレートの重量平均分子量を、ジメチルアセトアミド/塩化リチウム=90/10溶液を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ装置(GPC装置:東ソー社製、HLC−8320GPC、カラム:TSKgelα−M)にてポリスチレン換算で測定する。
次いで、セルロースアシレートの構成単位分子量で割ることで、セルロースアシレートの重合度を求める。なお、例えば、セルロースアシレートの置換基がアセチル基の場合、構成単位分子量は、置換度が2.4のとき263、置換度が2.9のとき287となる
【0037】
本実施形態に係るセルロースアシレートの置換度は、溶融温度の低減(成形性の向上)、得られる樹脂組成物の強度向上の観点から、置換度2.1以上2.6以下が好ましく、2.2以上2.5以下がより好ましく、2.2以上2.45以下がさらに好ましい。
【0038】
ここで、置換度とは、セルロースが有する水酸基がアシル基により置換されている程度を示す指標である。つまり、置換度は、セルロースアシレートのアシル化の程度を示す指標となる。具体的には、置換度は、セルロースアシレートのD−グルコピラノース単位に3個ある水酸基がアシル基で置換された置換個数の分子内平均を意味する。
そして、置換度は、H
1−NMR(JMN−ECA/JEOL RESONANCE社製)にて、セルロース由来水素とアシル基由来ピークの積分比から測定する。
【0039】
[セルロースアシレートの製造方法]
本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法は、特に制限はないが、セルロースに対する質量比が1.5倍以上5倍以下の酢酸を含む溶媒中で、重合度が100以上350以下のセルロースをアシル化する第一工程(以下「アシル化工程」とも称する)と、アシル化したセルロースに対する質量比が0.5倍以上2倍以下の酢酸を含む溶媒中で、前記アシル化したセルロースを脱アシル化する第二工程(以下「脱アシル化工程」とも称する)と、を有するセルロースアシレートの製造方法であることが好ましい。
【0040】
また、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法は、アシル化工程前(第一工程前)に、塩酸の存在下で、セルロースを解重合し、重合度が100以上350以下のセルロースを得る第三工程(以下「解重合工程」とも称する)をさらに有するセルロースアシレートの製造方法であってもよい。
【0041】
なお、従来のセルロースアシレートの製造方法では、酢酸の含有量を上記範囲に制御することが難しいが、酢酸への溶解性が高い低分子量のセルロース(重合度が100以上350以下のセルロース)を適用し、かつアシル化工程及び脱アシル化工程で使用する酢酸量を少なくすることにより、酢酸の含有量を上記範囲への制御が実現されやすくなる。また、低分子量のセルロースアシレートが生成されるため、洗浄工程での酢酸除去効率が高まるため、酢酸の含有量を上記範囲への制御が実現されやすくなる。
【0042】
(解重合工程)
解重合工程は、解重合により高分子量のセルロースを低分子量化し、目的とする分子量のセルロース(重合度が100以上350以下のセルロース)を得る工程である。
具体的には、解重合工程では、例えば、塩酸、溶媒(水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン等の溶媒)を含む溶液に高分子量のセルロースを浸漬又は分散させた状態で、攪拌しながら、高分子量のセルロースを解重合する。なお、塩酸及び溶媒を含む溶液(例えば塩酸水溶液)にセルロースを浸漬又は分散させてもよいし、溶媒を含む溶液にセルロースを浸漬又は分散させた後、塩酸水溶液を添加してもよい。
【0043】
解重合の対象となるセルロースは、高分子量のセルロース(例えば重合度1000以上1万以下のセルロース)である。高分子量のセルロースとしては、例えば、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、コットンリンターパルプ等の種々の原料セルロースを使用する。また、高分子量のセルロースとしては、市販のセルロースを使用してもよい。高分子量のセルロースの市販品としては、例えば、日本製紙社製のKCフロックW50、W100、W200、W300G、W400G、W−100F、W60MG、W−50GK、W−100GK、NDPT、NDPS、LNDP、NSPP−HR等が挙げられる。
なお、アシル化の対象となるセルロースには、通常、原料(パルプ)を由来とするヘミセルロース等の異成分も含むことがある。このため、本願明細書では、用語「セルロース」は、ヘミセルロース等の異成分を含むことも意味する。
【0044】
解重合工程において、塩酸量は、解重合後の重合度と分子量分布を制御するの観点から、高分子量のセルロースに対する質量比で、0.1質量%以上1質量%以下が好ましく、0.2質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。
【0045】
解重合工程の好適な条件としては、得たいセルロースの重合度に応じて選択されるが、例えば、次の通りである。
温度:例えば、5℃以上40℃以下(好ましくは10℃以上30℃以下)
時間:例えば、0.05時間以上4時間以下(好ましくは10.5時間以上2時間以下)である。
【0046】
解重合工程後、目的とする重合度のセルロースを含む溶液に、析出及び濾過して(必要に応じて、洗浄、乾燥等も実施して)得た、粉末状のセルロースを得る。
【0047】
(アシル化工程)
アシル化工程では、アシル化触媒(硫酸、及び特定有機酸(酸解離指数pKaが−7以上1以下の有機酸))の存在下で、セルロースをアシル化する。
具体的には、アシル化工程では、例えば、アシル化触媒、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液にセルロースを浸漬又は分散させた状態で、攪拌しながら、セルロースをアシル化する。なお、アシル化触媒(又はアシル化触媒水溶液)、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液にセルロースを浸漬又は分散させてもよいし、アシル化溶媒にセルロースを浸漬又は分散させた溶液に、アシル化触媒(又はアシル化触媒水溶液)及びアシル化剤を添加してもよい。
【0048】
アシル化の対象となるセルロースは、重合度が100以上350以下のセルロースであり、上記解重合工程を実施したセルロースであってもよいし、別途、入手したセルロースであってもよい。
【0049】
アシル化の対象となるセルロースには、活性化処理を施してもよい。活性化処理は、例えば、水を含む活性化剤を用いて、セルロースを処理する方法(活性化剤をセルロースに噴霧する方法、セルロースを活性化剤に浸漬する方法等)である。活性化剤はアシル化溶媒を使用してもよい。具体的には、活性化処理としては、1)セルロースと水とを混合し、セルロースを濾過した後、セルロースとアシル化溶媒とを混合し、セルロースを濾過する方法、2)水及びセルロースの混合液(例えば水量が0超え50質量%以下の混合液)とセルロースとを混合し、セルロースを濾過する方法等が挙げられる。
【0050】
なお、活性化処理の温度は、例えば、0℃〜100℃(好ましくは10℃〜40℃)である。
活性化処理の時間(2回処理するときは合計の時間)は、例えば、0.1時間以上20時間以下(好ましくは1時間以上15時間以下)である。
【0051】
アシル化触媒としては、硫酸が好適に適用される。アシル化触媒としては、その他、蟻酸、酢酸、塩酸、硝酸等を適用してもよい。
【0052】
アシル化触媒としての硫酸量は、樹脂成形体の着色抑制の観点から、セルロースに対する質量比で、1質量%以上18質量%以下が好ましく、5質量%以上9質量%以下がより好ましい。
【0053】
アシル化剤としては、アシル基を有する化合物が挙げられる。具体的には、アシル化剤としては、アルキルカルボン酸無水物(例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水吉草酸等の直鎖状又は分岐鎖状で炭素数2以上6以下のアルキルカルボン酸無水物)、有機酸ハライド(例えば、酢酸クロライド、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド等)が好適に挙げられる。ただし、通常、アシル化剤としては、アルキルカルボン酸無水物を使用する。
アシル化剤としては、アシル化で得たいセルロースアシレートの種類に応じて選択される。例えば、セルロースアセテートを得る場合は、アシル化剤として無水酢酸を適用する。また、セルロースアセテートプロピオネートを得る場合は、アシル化剤として、無水酢酸および無水プロピオン酸の2種を適用する。
なお、アシル化剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0054】
アシル化剤量は、アシル化で得たいセルロースアシレートの置換度に応じて選択される。通常、アシル化工程では、置換度3のセルロースアシレート(セルローストリアシレート)を得ることが多い。この場合、アシル化剤量は、セルロースの水酸基に対するモル比で、1倍以上5倍以下が好ましく、1.1倍以上3倍以下がより好ましい。
【0055】
アシル化溶媒としては、酢酸が適用される。アシル化溶媒は、酢酸と水との混合溶媒であってもよい。
アシル化溶媒としての酢酸量は、セルロースに対する質量比で1.5倍以上5倍以下であり、樹脂成形体の着色抑制の観点から、1.5倍以上4倍以下が好ましく、1.5倍以上3倍以下がより好ましい。
【0056】
アシル化工程の好適な条件としては、例えば、次の通りである。
温度:例えば、20℃以上80℃以下(好ましくは30℃以上50℃以下)
時間:例えば、1時間以上24時間以下(好ましくは3時間以上12時間以下)である。
【0057】
(脱アシル化工程)
脱アシル化工程は、脱アシル化(加水分解又はケン化)により、アシル化工程でアシル化したセルロース(以下「一次セルロースアシレート」とも称する)の置換度を調整し、目的とする置換度のセルロースアシレート(以下「二次セルロースアシレート」とも称する)を得る工程である。
【0058】
具体的には、脱アシル工程では、例えば、塩酸、及び脱アシル化溶媒を含む溶液に一次セルロースアシレートを溶解させた状態で、一次セルロースアシレートを脱アシル化する。なお、塩酸、及び脱アシル化溶媒を含む溶液に一次セルロースアシレートを溶解させてもよいし、脱アシル化溶媒に一次セルロースアシレートを溶解させた溶液に、塩酸水溶液を添加してもよい。
【0059】
ここで、一次セルロースアシレートは、アシル化工程を経た溶液(一次セルロースアシレート、アシル化触媒、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液)から、一次セルロースアシレートを析出及び濾過して得た(必要に応じて、洗浄、乾燥等も実施して得た)、粉末状の一次セルロースアシレートを使用する。
【0060】
脱アシル化溶媒としては、酢酸が適用される。脱アシル化溶媒は、酢酸と水との混合溶媒であってもよい。
【0061】
脱アシル工程において、塩酸量は、重合度と置換度を同時に制御しやすくする観点から、一次セルロースアシレート(アシル化工程でアシル化したセルロース)に対する質量比で、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0062】
脱アシル化溶媒としての酢酸量は、セルロースに対する質量比で0.5倍以上2倍以下であり、樹脂成形体の着色抑制の観点から、1倍以上1.8倍以下がより好ましく、1.1倍以上1.6倍以下がさらに好ましい。
【0063】
脱アシル化工程の好適な条件としては、得たい二次セルロースアシレートの置換度に応じて選択されるが、例えば、次の通りである。
温度:例えば、20℃以上80℃以下(好ましくは30℃以上60℃以下)
時間:例えば、0.5時間以上12時間以下(好ましくは2時間以上6時間以下)である。
【0064】
なお、脱アシル化工程では、例えば、アシル化工程を経た溶液(一次セルロースアシレート、アシル化触媒、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液)に、塩酸水溶液を加えて実施してもよい。ただし、脱アシル化溶媒としての酢酸量は上記範囲内に調整する。
この場合、塩酸水溶液を加える前に、残存したアシル化剤を失活させるため、水、または、水とアシル化溶媒(アルキルカルボン酸)及び中和剤から選択された少なくとも一種とを含む混合液等の失活剤を溶液に加えることよい。
中和剤は、アルカリ金属化合物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸塩など)、アルカリ土類金属化合物(水酸化カルシウム等の水酸化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;酢酸カルシウム等の有機酸塩など)などの塩基が挙げられる。
なお、アシル化工程と脱アシル化工程とを同じ容器内で連続して実施する場合は、仕込んだセルロースが全て置換度3のトリアシレートになっていると仮定して一次セルロースアシレートの質量を算出する。
【0065】
脱アシル化工程後、二次セルロースアシレートを含む溶液に水を加え、二次セルロースアシレートを析出、濾過した後、乾燥することで、目的とする粉末状のセルロースアシレートが得られる。
【0066】
なお、濾過した二次セルロースアシレートを中和処理する工程、中和処理した二次セルロースアシレートを水等で洗浄する工程等を実施した後、乾燥して、目的とする粉末状のセルロースアシレートを得ることがよい。
【0067】
以上説明した本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法では、アシル化剤の種類に応じて、セルロースモノアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の種々のセルロースアシレートが得られる。
【0068】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、本実施形態に係るセルロースアシレートを含む。本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、可塑剤、その他の成分等を含んでもよい。
【0069】
なお、可塑剤の含有量は、樹脂組成物全体に占めるセルロースアシレートの比率が前述の範囲となる量とすることが好ましい。より具体的には、樹脂組成物全体に占める可塑剤の比率は15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。可塑剤の比率が上記範囲であることにより、弾性率がより高くなり、耐熱性もより高くなる。また、可塑剤のブリードも抑制される。
【0070】
(可塑剤)
可塑剤としては、例えば、アジピン酸エステル含有化合物、ポリエーテルエステル化合物、セバシン酸エステル化合物、グリコールエステル化合物、酢酸エステル、二塩基酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、フタル酸エステル化合物、樟脳、クエン酸エステル、ステアリン酸エステル、金属石鹸、ポリオール、ポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。
これらの中でも、アジピン酸エステル含有化合物、ポリエーテルエステル化合物が好ましく、アジピン酸エステル含有化合物がより好ましい。
【0071】
−アジピン酸エステル含有化合物−
アジピン酸エステル含有化合物(アジピン酸エステルを含む化合物)とは、アジピン酸エステル単独の化合物、又は、アジピン酸エステルとアジピン酸エステル以外の成分(アジピン酸エステルとは異なる化合物)との混合物であることを示す。但し、アジピン酸エステル含有化合物は、アジピン酸エステルを全成分に対して50質量%以上で含むことがよい。
【0072】
アジピン酸エステルとしては、例えば、アジピン酸ジエステル、アジピン酸ポリエステルが挙げられる。具体的には、下記一般式(AE−1)で示されるアジピン酸ジエステル、及び下記一般式(AE−2)で示されるアジピン酸ポリエステル等が挙げられる。
【0074】
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、R
AE1及びR
AE2は、それぞれ独立に、アルキル基、又はポリオキシアルキル基[−(C
xH
2X−O)
y−R
A1](但し、R
A1はアルキル基を、xは1以上10以下の整数を、yは1以上10以下の整数を、表す。)を表す。
R
AE3は、アルキレン基を表す。
m1は、1以上20以下の整数を表す。
m2は、1以上10以下の整数を表す。
【0075】
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、R
AE1及びR
AE2が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。R
AE1及びR
AE2が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、R
AE1及びR
AE2が表すポリオキシアルキル基[−(C
xH
2X−O)
y−R
A1]において、R
A1が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。R
A1が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0076】
一般式(AE−2)中、R
AE3が表すアルキレン基は、炭素数1以上6以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキレン基がより好ましい。アルキレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0077】
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、各符号が表す基は、置換基で置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基等が挙げられる。
【0078】
アジピン酸エステルの分子量(又は重量平均分子量)は、200以上5000以下が好ましく、300以上2000以下がより好ましい。なお、重量平均分子量は、前述のセルロースアシレートの重量平均分子量の測定方法に準拠して測定された値である。
【0079】
以下、アジピン酸エステル含有化合物の具体例を示すが、これに限られるわけではない。
【0081】
−ポリエーテルエステル化合物−
ポリエーテルエステル化合物として具体的には、例えば、一般式(EE)で表されるポリエーテルエステル化合物が挙げられる。
【0083】
一般式(EE)中、R
EE1、及びR
EE2は、それぞれ独立に、炭素数2以上10以下のアルキレン基を表す。A
EE1、及びA
EE2はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数7以上18以下のアラルキル基を表す。mは、1以上の整数を表す。
【0084】
一般式(EE)中、R
EE1が表すアルキレン基としては、炭素数3以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数3以上6以下のアルキレン基がより好ましい。R
EE1が表すアルキレン基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。
R
EE1が表すアルキレン基の炭素数を3以上にすると、樹脂組成物の流動性の低下が抑制され、熱可塑性が発現しやすくなる。R
EE1が表すアルキレン基の炭素数を10以下又はR
EE1が表すアルキレン基を直鎖状にすると、セルロースアシレートとの親和性が高まりやすくなる。このため、R
EE1が表すアルキレン基を直鎖状とし、且つ炭素数を上記範囲とすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
これら観点から、特に、R
EE1が表すアルキレン基は、n−ヘキシレン基(−(CH
2)
6−)が好ましい。つまり、ポリエーテルエステル化合物は、R
EE1としてn−ヘキシレン基(−(CH
2)
6−)を表す化合物であることが好ましい。
【0085】
一般式(EE)中、R
EE2が表すアルキレン基としては、炭素数3以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数3以上6以下のアルキレン基がより好ましい。R
EE2が表すアルキレン基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。
R
EE2が表すアルキレン基の炭素数を3以上にすると、樹脂組成物の流動性の低下が抑制され、熱可塑性が発現しやすくなる。R
EE2が表すアルキレン基の炭素数を10以下又はR
EE2が表すアルキレン基を直鎖状にすると、セルロースアシレートとの親和性が高まりやすくなる。このため、R
EE2が表すアルキレン基を直鎖状とし、且つ炭素数を上記範囲とすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
これら観点から、特に、R
EE2が表すアルキレン基は、n−ブチレン基(−(CH
2)
4−)が好ましい。つまり、ポリエーテルエステル化合物は、R
EE2としてn−ブチレン基(−(CH
2)
4−)を表す化合物であることが好ましい。
【0086】
一般式(EE)中、A
EE1、及びA
EE2が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基であり、炭素数2以上4以下のアルキル基がより好ましい。A
EE1、及びA
EE2が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよいが、分岐状が好ましい。
A
EE1、及びA
EE2が表すアリール基は、炭素数6以上12以下のアリール基であり、フェニル基、ナフチル基等の無置換アリール基、又はt−ブチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基等の置換フェニル基が挙げられる。
A
EE1、及びA
EE2が表すアラルキル基としては、−R
A−Phで示される基である。R
Aは、直鎖状又は分岐状の炭素数1以上6以下(好ましくは炭素数2以上4以下)のアルキレン基を表す。Phは、無置換フェニル基、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1以上6以下(好ましくは炭素数2以上6以下)のアルキル基で置換された置換フェニル基を表す。アラルキル基として具体的には、例えば、ベンジル基、フェニルメチル基(フェネチル基)、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等の無置換アラルキル基、又はメチルベンジル基、ジメチルベンジル基、メチルフェネチル基等の置換アラルキル基が挙げられる。
【0087】
A
EE1、及びA
EE2の少なくとも一方は、アリール基又はアラルキル基を表すことが好ましい。つまり、ポリエーテルエステル化合物は、A
EE1、及びA
EE2の少なくとも一方としてアリール基(好ましくはフェニル基)又はアラルキル基を表す化合物であることが好ましく、A
EE1、及びA
EE2の双方としてアリール基(好ましくはフェニル基)又はアラルキル基を表す化合物であることが好ましい。
【0088】
次に、ポリエーテルエステル化合物の特性について説明する。
【0089】
ポリエーテルエステル化合物の重量平均分子量(Mw)は、450以上650以下が好ましく、500以上600以下がより好ましい。
重量平均分子量(Mw)を450以上にすると、ブリード(析出する現象)し難くなる。重量平均分子量(Mw)を650以下にすると、セルロースアシレートとの親和性が高まりやすくなる。このため、重量平均分子量(Mw)を上記範囲にすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
なお、ポリエーテルエステル化合物の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定される値である。具体的には、GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー社製、HPLC1100を用い、東ソー製カラム・TSKgel GMHHR−M+TSKgel GMHHR−M(7.8mmI.D.30cm)を使用し、クロロホルム溶媒で行う。そして、重量平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して算出する。
【0090】
ポリエーテルエステル化合物の25℃における粘度は、35mPa・s以上50mPa・s以下が好ましく、40mPa・s以上45mPa・s以下がより好ましい。
粘度を35mPa・s以上にすると、セルロースアシレートへの分散性が向上しやすくなる。粘度を50mPa・s以下にすると、ポリエーテルエステル化合物の分散の異方性が出現し難くなる。このため、粘度を上記範囲にすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
なお、粘度は、E型粘度計により測定される値である。
【0091】
ポリエーテルエステル化合物の溶解度パラメータ(SP値)が、9.5以上9.9以下が好ましく、9.6以上9.8以下がより好ましい。
溶解度パラメータ(SP値)を9.5以上9.9以下にすると、セルロースアシレートへの分散性が向上しやすくなる。
溶解度パラメータ(SP値)は、Fedorの方法により算出された値である、具体的には、溶解度パラメータ(SP値)は、例えば、Polym.Eng.Sci.,vol.14,p.147(1974)の記載に準拠し、下記式によりSP値を算出する。
式:SP値=√(Ev/v)=√(ΣΔei/ΣΔvi)
(式中、Ev:蒸発エネルギー(cal/mol)、v:モル体積(cm
3/mol)、Δei:それぞれの原子又は原子団の蒸発エネルギー、Δvi:それぞれの原子又は原子団のモル体積)
なお、溶解度パラメータ(SP値)は、単位として(cal/cm
3)
1/2を採用するが、慣行に従い単位を省略し、無次元で表記する。
【0092】
以下、ポリエーテルエステル化合物の具体例を示すが、これに限られるわけではない。
【0094】
(その他の成分)
その他の成分としては、例えば、難燃剤、相溶化剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、ドリップ防止剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド等)などが挙げられる。これらの成分の含有量は、樹脂組成物全体に対してそれぞれ、0質量%以上5質量%以下であることが好ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まないことを意味する。
【0095】
(他の樹脂)
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記セルロースアシレート以外の他の樹脂を含有していてもよい。但し、他の樹脂は、樹脂組成物全体に占めるセルロースアシレートの比率が前述の範囲となる量とすることが好ましい。
他の樹脂としては、例えば、従来公知の熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリカーボネート樹脂;ポリプロピレン樹脂;ポリエステル樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリーレン樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリビニルアセタール樹脂;ポリケトン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリアリールケトン樹脂;ポリエーテルニトリル樹脂;液晶樹脂;ポリベンズイミダゾール樹脂;ポリパラバン酸樹脂;芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を、重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体樹脂;ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;シアン化ビニル−ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;芳香族アルケニル化合物−ジエン−シアン化ビニル−N−フェニルマレイミド共重合体樹脂;シアン化ビニル−(エチレン−ジエン−プロピレン(EPDM))−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;塩化ビニル樹脂;塩素化塩化ビニル樹脂;などが挙げられる。これら樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、セルロースアシレートと、必要に応じて、可塑剤、その他の成分等と、を少なくとも含む混合物を溶融混練することにより製造される。ほかに、本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、上記成分を溶剤に溶解することによっても製造される。
溶融混練の手段としては公知の手段が挙げられ、具体的には例えば、二軸押出機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
なお、混練の際の温度は、使用するセルロースアシレートの溶融温度に応じて決定すればよいが、熱分解と流動性の点から、例えば、140℃以上240℃以下が好ましく、160℃以上200℃以下がより好ましい。
【0097】
[樹脂成形体]
以下、本実施形態に係る樹脂組成物を使用した樹脂成形体(以下「本実施形態に係る樹脂成形体」とも称する)について説明する。
【0098】
本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を含む。つまり、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物と同じ組成で構成されている。
具体的には、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を成形して得られる。成形方法は、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーティング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などを適用してよい。
【0099】
本実施形態に係る樹脂成形体の成形方法は、形状の自由度が高い点で、射出成形が好ましい。射出成形については、樹脂組成物を加熱溶融し、金型に流し込み、固化させることで成形体が得られる。射出圧縮成形によって成形してもよい。
射出成形のシリンダ温度は、例えば140℃以上240℃以下であり、好ましくは150℃以上220℃以下であり、より好ましくは160℃以上200℃以下である。射出成形の金型温度は、例えば30℃以上120℃以下であり、40℃以上80℃以下がより好ましい。射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX500、日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。
【0100】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、事務機器、家電製品、自動車内装材、エンジンカバー、車体、容器などの用途に好適に用いられる。より具体的には、電子・電気機器や家電製品の筐体;電子・電気機器や家電製品の各種部品;自動車の内装部品;CD−ROMやDVD等の収納ケース;食器;飲料ボトル;食品トレイ;ラップ材;フィルム;シート;などである。
【実施例】
【0101】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特に断りのない限り「部」は「質量部」を表す。
【0102】
<セルロースアシレートの合成>
(セルロースアセテート(CA1)の合成)
−解重合工程−
セルロース粉末(日本製紙ケミカル社製、KCフロックW50、重合度=1020)2kgを0.1M塩酸水溶液2L中に入れ、10L反応容器中25℃で30分間攪拌した後、ろ過して粉末状の解重合セルロース(重合度=305)を得た。
【0103】
−アシル化工程−
得られた解重合セルロース1.5kgと共に、酢酸3kg、無水酢酸3kg、及び硫酸100gを20L反応容器中に入れ、40℃で8時間攪拌し、繊維片が溶解したことを確認して攪拌を止め、30Lの純水中に攪拌しながら滴下し、白色沈殿物をろ過してセルロースアセテート(セルローストリアセテート)を得た。
【0104】
−脱アシル化工程−
得られたセルロースアセテート(セルローストリアセテート)1.5kgを20L反応容器に戻し、酢酸1.5kg、純水1.5kg、及び0.2M塩酸水溶液7Lを加え40℃で4時間反応させた。この溶液を、10Lの純水中に滴下し、生じた白色沈殿物をろ過し、セルロースアセテート(セルロースジアセテート)を得た。
【0105】
−洗浄工程−
得られたセルロースアセテート(セルロースジアセテート)を、フィルタープレス(栗田機械社製、SF(PP))により、純水にて電導度が50μS以下になるまで洗浄後、乾燥した。
【0106】
−後処理工程−
乾燥後の白色粉末1.2kgに80gの酢酸カルシウムと20Lの純水を加え、25℃で2時間攪拌した後、ろ過し、得られた粉末を60℃で72時間乾燥し、目的とするセルロースアセテート(CA1)を1kg得た。
【0107】
(セルロースアセテート(CA2)、(CA3)の合成)
アシル化工程で使用する酢酸量3kgをそれぞれ、2.3kg、7.2kg、脱アシル化工程で使用する酢酸1.5kgをそれぞれ0.8kg、2.8kgに変えた以外は、セルロースアセテート(CA1)と同様にして、セルロースアセテート(CA2)〜(CA3)を各1kg得た。
【0108】
(セルロースアセテート(CA4)〜(CA7)の合成)
解重合工程での0.1M塩酸水溶液中での反応時間30分間をそれぞれ、45分、40分、10分、5分に変えた以外は、セルロースアセテートCA1)と同様にして、セルロースアセテート(CA4)〜(CA7)を各1kg得た。
【0109】
(セルロースアセテート(CA8)〜(CA11)の合成)
脱アシル化工程の反応時間4時間を、それぞれ2時間、2時間30分、5時間、5時間30分とした以外は、セルロースアセテート(CA1)と同様にして、セルロースアセテート(CA8)〜(CA11)を各1kg得た。
【0110】
(セルロースアセテート(CA12)の合成)
アシル化工程で用いる硫酸量100gを150gに変更し、脱アシル化工程で0.2M塩酸水溶液50gを用いない以外は、セルロースアセテートCA1と同様にして、セルロースアセテート(CA12)を1kg得た。
【0111】
(セルロースプロピオネート(CP1)の合成)
アシル化工程で無水酢酸3kgに代わりに無水プロピオン酸4kgを用いた以外は、セルロースアセテート(CA1)と同様にして、セルロースプロピオネート(CP1)を1.5kg得た。
【0112】
(セルロースアセテート(CA13)〜(14)の合成)
アシル化工程で使用する酢酸量3kgをそれぞれ、2kg、8kg、脱アシル化工程で使用する酢酸1.5kgをそれぞれ0.7kg、3.2kgに変えた以外は、セルロースアセテート(CA1)と同様にして、セルロースアセテート(CA13)〜(CA14)を各1kg得た。
【0113】
(セルロースアセテート(CA15)〜(CA17)の準備)
市販のセルロースアセテート(ダイセル社製、L50)をセルロースアセテート(CA15)、市販のセルロースアセテート(イーストマンケミカル社製、CA398−3)をセルロースアセテート(CA16)、市販のセルロースアセテート(ダイセル社製、LT−55)をセルロースアセテート(CA17)として準備した。
【0114】
(セルロースアセテート(CA18)、(CA19)の合成)
特開2009−161701の実施例1および実施例7に記載の合成方法で、それぞれセルロースアセテート(CA18)〜(CA19)を合成した。
【0115】
(セルロースアセテート(CA20)〜(CA21)の合成)
セルロースアセテート(CA1)と同様の方法で得たセルロースアセテート1kgをアセトン20kgに溶解し、それを蒸留水100kg中に2時間かけて敵下し、再沈殿したものをセルロースアセテート(CA20)、この工程を3回繰り返したものをセルロースアセテート(CA21)として得た。
【0116】
(セルロースアシレートの物性)
得られた各セルロースアシレートの物性(重合度、置換度、酢酸の含有量)について、既述の方法に従って測定した。その結果を表1に示す。
【0117】
<アジピン酸エステル含有化合物の準備>
市販のアジピン酸エステル含有化合物(大八化学工業社製、Daifatty101)を化合物AE1として準備した。
【0118】
<実施例、比較例>
表2に示す仕込み組成比で、シリンダ温度を調整し、2軸混練装置(東芝機械社製、TEX41SS)にて混練を実施し、樹脂組成物(ペレット)を得た。
得られたペレットについて、射出成形機(日精樹脂工業社製、NEX140III)を用い、射出ピーク圧力が180MPaを越えないシリンダ温度で、D1及びD2試験片(測定部寸法:幅60×60mm/厚さ1mmのD1試験片および幅60×60mm/厚さ2mmのD2試験片)を成形した。シリンダ温度については表2に示した。
【0119】
(射出成形後の着色評価)
得られたD1及びD2試験片の全光線透過率を分光ヘイズメーター(日本電色工業社製、SH7000)にて測定し、着色を定量評価した。結果を表2に示す。
【0120】
以下、実施例及び比較例の詳細について、表1及び表2に一覧にして示す。
なお、表1において、アシル化工程の欄の酢酸量は「セルロースに対する酢酸の質量比(倍)」を示し、脱アシル化工程の欄の酢酸量は「アシル化したセルロース(セルロースアシレート)に対する酢酸の質量比(質量%)を示す。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
上記結果から、本実施例では、比較例に比べ、高温の射出成形を行っても、試験片の全光線透過率が高く、着色が抑制されていることがわかる。
なお、比較例5、9では他の例と比べて高温でなければ混練及び成形ができず、結果として全光線透過率が低下した。