(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のオレフィン系積層フィルムは、基層部が環状オレフィン系樹脂を含み、その
両面にポリプロピレン系樹脂を含む構成層が設けられたオレフィン系積層フィルムとすることが重要である。発明者らは鋭意検討することにより、該積層フィルムは、高温環境における高い耐熱性と寸法安定性を基層部の環状オレフィン系樹脂が担い、その
両面のポリプロピレン系樹脂を含む構成層がコンデンサ素子作成時における加工適性とコンデンサに求められる高い耐電圧性能を担う作用を発現できることを見出したものである。
【0011】
本発明のオレフィン系積層フィルムの積層の方法としては、共押出によるフィードブロック方式やマルチマニホールド方式、コーティングによる方法などがあげられるが、生産効率およびコストの観点から共押出(例えば溶融共押出)による積層方法が好ましい。また積層はフィルム厚さ方向に
3層以上積層されてなる構成が好ましく、具体的には少なくとも一方の表層をA層とする
3層以上の構成であり、たとえ
ばA層/B層/A層の3層構成およびA層をフィルム両表面の最外層とする4層以上の構成である。ここで、厚さ方向に
3層以上積層した構成である場合に、フィルム全厚みに対して表層に位置するA層の厚みの割合(両表層にA層がある場合はそれら合わせた両表層の厚み割合)は製膜性や表面形状を制御する点から、10%〜90%であることが好ましく20%〜70%がより好ましい。A層の割合が大きすぎると高温環境での耐電圧性を低下させてしまう場合があり、他方、A層の割合が小さすぎるとフィルム製膜時に破膜し易くなる場合がある。ここでA層とはポリプロピレン系樹脂を含む構成層と定義するもので、ポリプロピレン系樹脂含有割合は95質量%以上が好ましく、より好ましくは96質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上である。一方B層とは環状オレフィン系樹脂を含む構成層と定義するもので、環状オレフィン系樹脂含有割合は95質量%以上が好ましく、より好ましくは96質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上である。
両面にポリプロピレン系樹脂が積層されることで、内層部の環状オレフィン系樹脂の二軸延伸を可能とし、コンデンサ素子作成時における加工適性を付与できる表面の粗面化形状を形成せしめることが可能となる。
【0012】
本発明のオレフィン系積層フィルムは、135℃におけるフィルム絶縁破壊電圧(以下、単に絶縁破壊電圧ということがある)が280V/μm以上であることが重要である。高電圧用コンデンサ用途において、高温時の耐電圧性と信頼性に優れたフィルムを得る観点から、より好ましくは310V/μm以上、さらに好ましくは330V/μm以上である。135℃における絶縁破壊電圧が280V/μm未満の場合は、コンデンサとした場合に高温環境下において容量低下やショート破壊を引き起こし、耐電圧性の低下を招き、信頼性が低くなる傾向がある。上限は特に限定されないが、700V/μmとするものである。ここで、オレフィン系積層フィルムの135℃における絶縁破壊電圧を上記範囲内に制御するには、前記し
た両方の表層をA層とする
3層以上の構成、後述する二軸延伸後の熱処理および弛緩処理工程などの温度を140℃以上、ポリプロピレン系樹脂の融点−5℃以下の温度で制御することにより達成可能である。
【0013】
本発明のオレフィン系積層フィルムに用いる環状オレフィン系樹脂について説明する。環状オレフィン系樹脂とは、モノマーたる環状オレフィンから重合して得られる、ポリマーの主鎖に脂環構造を有する樹脂であり、該環状オレフィン系樹脂の重合体100質量%中において、環状オレフィンモノマー由来成分(構成単位)の合計量が50質量%を超えて100質量%以下である態様の重合体を意味する。
【0014】
環状オレフィンモノマーとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエンといった単環式オレフィン、ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−メチル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−エチル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−オクチル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−メチリデン− ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エンといった二環式オレフィン、トリシクロ〔4,3,0,1
2.5〕デカ−3,7−ジエン、トリシクロ〔4,3,0,1
2.5〕デカ−3−エン、トリシクロ〔4,3,0,1
2.5〕ウンデカ−3,7−ジエン、トリシクロ〔4,3,0,1
2.5〕ウンデカ−3,8−ジエン、トリシクロ〔4,3,0,1
2.5〕ウンデカ−3−エン、5−シクロペンチル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−シクロヘキセニルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5−フェニル−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタ−2−エンといった三環式オレフィン、テトラシクロ〔4,4,0,1
2.5,1
7.10〕ドデカ−3−エン、8−メチルテトラシクロ〔4,4,0,1
2.5,1
7.10〕ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ〔4,4,0,1
2.5,1
7.10〕ドデカ−3−エン、8−メチリデンテトラシクロ〔4,4,0,1
2.5,1
7.10〕ドデカ−3−エン、8−エチリデンテトラシクロ〔4,4,0,1
2.5,1
7.10〕ドデカ−3−エン、8−ビニルテトラシクロ〔4,4,0,1
2.5,1
7.10〕ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ〔4,4,0,1
2.5,1
7.10〕ドデカ−3−エンといった四環式オレフィン、および8−シクロペンチル−テトラシクロ〔4,4,0,1
2.5,1
7.10〕ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ〔4,4,0,1
2.5,1
7.10〕ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ〔4,4,0,1
2.5,1
7.10〕ドデカ−3−エン、8−フェニル−シクロペンチル−テトラシクロ〔4,4,0,1
2.5,1
7.10〕ドデカ−3−エン、テトラシクロ〔7,4,1
3.6,0
1.9,0
2.7〕テトラデカ−4,9,11,13−テトラエン、テトラシクロ〔8,4,1
4.7,0
1.10,0
3.8〕ペンタデカ−5,10,12,14−テトラエン、ペンタシクロ〔6,6,1
3.6,0
2.7,0
9.14〕−4−ヘキサデセン、ペンタシクロ〔6,5,1,1
3.6,0
2.7,0
9.13〕−4−ペンタデセン、ペンタシクロ〔7,4,0,0
2.7,1
3.6,1
10.13〕−4−ペンタデセン、ヘプタシクロ〔8,7,0,1
2.9,1
4.7,1
11.17,0
3.8,0
12.16〕−5−エイコセン、ヘプタシクロ〔8,7,0,1
2.9,0
3.8,1
4.7,0
12.17,1
13.16〕−14−エイコセン、シクロペンタジエンといった四量体等の多環式オレフィンなどが挙げられる。これらの環状オレフィンモノマーは、それぞれ単独であるいは2種以上組合せて用いることができる。
【0015】
環状オレフィンモノマーとしては、上記した中でも、生産性、表面性の観点から、ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン(以下、ノルボルネンとする)、トリシクロ〔4,3,0,12.5〕デカ−3−エンなどの炭素数10の三環式オレフィン(以下、トリシクロデセンとする)、テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エンなどの炭素数12の四環式オレフィン(以下、テトラシクロドデセンとする)、シクロペンタジエン、または1,3−シクロヘキサジエンが好ましく用いられる。
【0016】
環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィン系樹脂の重合体100質量%中に、環状オレフィンモノマー由来成分の合計が50質量%を超えて100質量%以下であれば、上記環状オレフィンモノマーのみを重合させた樹脂(以下、COPということがある)や、上記環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーとを共重合させた樹脂(以下、COCということがある)のいずれの樹脂でも構わない。
【0017】
COPの製造方法としては、環状オレフィンモノマーの付加重合、あるいは開環重合などの公知の方法が挙げられ、例えば、ノルボルネン、トリシクロデセン、テトラシクロデセン、およびその誘導体を開環メタセシス重合させた後に水素化させる方法、ノルボルネンおよびその誘導体を付加重合させる方法、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンを1,2−、1,4−付加重合させた後に水素化させる方法などが挙げられる。これらの中でも、生産性、成型性の観点から、ノルボルネン、トリシクロデセン、テトラシクロデセン、およびその誘導体を開環メタセシス重合させた後に水素化させた樹脂が最も好ましい。
【0018】
COCの場合、好ましい鎖状オレフィンモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−へキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−へキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等が挙げられる。これらの中でも、生産性、コストの観点から、エチレンが特に好ましく用いることができる。また、環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーとを共重合させた樹脂の製造方法としては、環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーの付加重合などの公知の方法が挙げられ、例えば、ノルボルネンおよびその誘導体とエチレンを付加重合させる方法などが挙げられる。中でも、生産性、成型性の観点から、ノルボルネンとエチレンの共重合体が最も好ましい。
【0019】
本発明のオレフィン系積層フィルムに用いる環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は、コンデンサ用途等に好適な高温領域での寸法安定性と絶縁性能を有する観点から、125℃以上が好ましく、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは135℃以上である。ガラス転移温が125℃未満の場合、熱寸法安定性および高温時の絶縁破壊電圧が低減する場合がある。上限は特に限定しないが製膜性の観点から200℃とするものである。
【0020】
本発明のオレフィン系積層フィルムは、環状オレフィン系樹脂を含む基層部の両面にポリプロピレン系樹脂を含む構成層を積層していることが、内層部の環状オレフィン系樹脂の二軸延伸を可能とし、コンデンサ素子作成時における加工適性を付与するための表面(粗面化表面)を形成できる観点か
ら好ましい。本発明のオレフィン系積層フィルムは、フィルム製造工程において溶融押出後の冷却ドラム上で固化させる温度を60℃未満、好ましくは40℃未満にすることで優先的にα晶系球晶を形成するため、延伸工程でβ晶からα晶への結晶変態に頼らず、粒子により表面凹凸を付与でき、薄いフィルムであってもコンデンサ素子作成の加工適性に優れ、高温環境でも高い耐電圧性を発揮することができる。また、本発明のオレフィン系積層フィルムは表層に粒子を含む構成としてもよく、フィルム製造工程において溶融押出後の冷却ドラム上で固化させる温度を60℃以上に高温にすることでβ晶系球晶を形成し、延伸工程で、β晶をα晶に結晶変態させることで、フィルム表面に凹凸を形成する手法を好ましく用いることができる。
【0021】
さらに、本発明のオレフィン系積層フィルムは、表層をポリプロピレン樹脂とポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂とをブレンドした樹脂構成とすることにより、該樹脂同士で形成されるドメイン構造を利用した表面凹凸を表層に付与させてもよい。例えばポリプロピレンとは非相溶の熱可塑性樹脂として、ポリメチルペンテン系樹脂などを好ましく用いることができる。
【0022】
本発明のオレフィン系積層フィルムの表層部に位置する構成層に含まれるポリプロピレン系樹脂として好ましいポリプロピレンは、通常、包装材やコンデンサ用に使用されるものであるが、好ましくは冷キシレン可溶部(以下CXS)が4質量%以下であることが好ましい。これらを満たさないと製膜安定性に劣る場合があったり、二軸延伸したフィルムを製造する際にフィルム中にボイドを形成する場合があり、絶縁破壊電圧の低下が大きくなる場合がある。
【0023】
ここで冷キシレン可溶部(CXS)とはフィルムをキシレンで完全溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分のことをいい、立体規則性の低い、分子量が低い等の理由で結晶化し難い成分に該当していると考えられる。このような成分が多く樹脂中に含まれているとフィルムの耐電圧性が低下する等の問題を生じることがある。従って、CXSは4質量%以下であることが好ましいが、更に好ましくは3質量%以下であり、特に好ましくは2質量%以下である。このようなCXSを有するポリプロピレンとするには、樹脂を得る際の触媒活性を高める方法、得られた樹脂を溶媒あるいはプロピレンモノマー自身で洗浄する方法等の方法が使用できる。
【0024】
ポリプロピレンとしては、より好ましくはメルトフローレート(MFR)が1〜10g/10分(230℃、21.18N荷重)、特に好ましくは2〜5g/10分(230℃、21.18N荷重)の範囲のものが、製膜性の点から好ましい。MFRを上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。
【0025】
またポリプロピレンとしては、主としてプロピレンの単独重合体からなるが、本発明の目的を損なわない範囲で他の不飽和炭化水素による共重合成分などを含有してもよいし、プロピレンが単独ではない重合体がブレンドされていてもよい。このような共重合成分やブレンド物を構成する単量体成分として例えばエチレン、プロピレン(共重合されたブレンド物の場合)、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチルペンテン−1、3−メチルブテンー1、1−ヘキセン、4−メチルペンテン−1、5−エチルヘキセン−1、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。共重合量またはブレンド量は、耐電圧性、耐熱性の点から、共重合量では1mol%未満とし、ブレンド量では10質量%未満とするのが好ましい。
【0026】
また、ポリプロピレンには、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、すべり剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤、ポリプロピレン以外の樹脂などを含有せしめることもできる。
【0027】
これらの中で、酸化防止剤の種類および添加量の選定は長期耐熱性の観点から重要である。すなわち、かかる酸化防止剤としては立体障害性を有するフェノール系のもので、そのうち少なくとも1種は分子量500以上の高分子量型のものが好ましい。その具体例としては種々のものが挙げられるが、例えば2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT:分子量220.4)とともに1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えば、BASF社製Irganox(登録商標)1330:分子量775.2)またはテトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えばBASF社製Irganox(登録商標)1010:分子量1,177.7)等を併用することが好ましい。これら酸化防止剤の総含有量はポリプロピレン全量に対して0.03〜1.0質量%の範囲が好ましい。酸化防止剤が少なすぎると長期耐熱性に劣る場合がある。酸化防止剤が多すぎるとこれら酸化防止剤のブリードアウトによる高温下でのブロッキングにより、コンデンサ素子に悪影響を及ぼす場合がある。より好ましい含有量は0.1〜0.9質量%であり、特に好ましくは0.2〜0.8質量%である。
【0028】
本発明のオレフィン系積層フィルムは、表層部に位置する構成層に含まれるポリプロピレン系樹脂のメソペンタッド分率が0.95以上であり、かつ融点が160℃を超えることが好ましい。メソペンタッド分率は0.97以上がより好ましく、0.98以上がさらに好ましい。メソペンタッド分率は核磁気共鳴法(NMR法)で測定されるポリプロピレンの結晶相の立体規則性を示す指標であり、該数値が高いものほど結晶化度が高く、融点が高くなり、高温環境における絶縁破壊電圧が向上できるので好ましい。メソペンタッド分率の上限については特に規定するものではない。このように、高メソペンタッド分率、高融点のポリプロピレンを得るためには、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒において、電子供与成分の選定を適宜行う方法等が好ましく採用される。ポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率が0.95未満の場合、ポリプロピレンの規則性が低いため、フィルムの高温環境における強度や絶縁破壊電圧の低下を招いたり、金属膜を蒸着により形成する工程やコンデンサ素子巻き取り加工において、フィルム搬送中に破膜する場合がある。ポリプロピレン系樹脂の融点は163℃以上がより好ましく、165℃以上がさらに好ましい。融点が160℃以下の場合、結晶性が低いため、フィルムの高温環境における絶縁破壊電圧の低下を招いたり、金属膜を蒸着により形成する工程やコンデンサ素子巻き取り加工において、フィルム搬送中に破膜する場合がある。
【0029】
本発明のオレフィン系積層フィルムに粒子を含有させる場合、無機粒子や有機粒子が好ましく用いられる。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどの金属酸化物や硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸カルシウム、マイカ、カオリン、クレーなどを挙げることができる。これらの中でも、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどの金属酸化物や炭酸カルシウムが好ましい。有機粒子としては、ポリメトキシシラン系化合物の架橋粒子、ポリスチレン系化合物の架橋粒子、アクリル系化合物の架橋粒子、ポリウレタン系化合物の架橋粒子、ポリエステル系化合物の架橋粒子、フッ素系化合物の架橋粒子、もしくはこれらの混合物を挙げることができる。
【0030】
上記無機粒子および有機粒子の平均粒径は、0.03〜10μmの範囲であることが好ましい。平均粒径は、より好ましくは0.05〜6μm、更に好ましくは0.07〜4μm、最も好ましくは0.1〜2μmである。平均粒径が0.03μm未満では表面粗さが小さくなり、ハンドリング性の不足やコンデンサの信頼性が低下する場合がある。他方10μmを超えるとフィルムが破れやすくなったり、薄膜フィルムから脱落し、絶縁欠陥を生じ易くなる。
【0031】
ここで、無機粒子や有機粒子の平均粒子径の測定方法は、粒子の透過型電子顕微鏡写真から画像処理により得られる円相当径を用い、重量平均径を算出して採用する。
【0032】
上記粒子の含有量としては、ポリプロピレン系樹脂を含む構成層全体を100質量部としたとき、0.01〜1質量部であることが好ましい。含有量が0.01質量部未満では、ハンドリング性の不足やコンデンサの信頼性が低下する場合がある。1質量部を超えるとフィルムが破れやすくなったり、薄膜フィルムから脱落し、絶縁欠陥を生じ易くなる。
【0033】
本発明のオレフィン系積層フィルムは、フィルムの長手方向および幅方向において、破断伸度がともに20%以上であることが好ましい。より好ましくはともに30%以上、さらに好ましくはともに40%以上である。フィルムの長手方向および幅方向において、破断伸度がともに20%未満の場合は、コンデンサを作成する際の蒸着工程および素子加工工程において搬送時の応力に耐えることが出来ずに破断する場合がある。破断伸度の上限は特に限定されないが、ともに200%とするものである。破断伸度を範囲内に制御するには、前記した
両方の表層をA層とする
3層以上の構成、後述する二軸延伸を施し、また延伸後の熱処理および弛緩処理工程などの温度を140℃以上、ポリプロピレン系樹脂の融点−5℃以下の温度で制御することにより達成可能である。
【0034】
本発明のオレフィン系積層フィルムは、フィルムの長手方向および幅方向において、135℃における熱収縮率がともに2%以下であることが好ましい。より好ましくはともに1.2%以下、さらに好ましくはともに0.8%以下である。下限は特に限定されないが、コンデンサ製造工程や使用工程の熱により素子の巻き状態が緩む場合があるので、ともに−2%とするものである。上記熱収縮率が2%を超える場合は、コンデンサ製造工程および使用工程の熱によりフィルム自体の収縮が生じ、素子端部メタリコンとの接触不良により耐電圧性が低下したり、素子が巻き締まることで容量低下やショート破壊を引き起こす場合がある。熱収縮率を上記範囲内に制御するには、前記した少なくとも一方の表層をA層とする2層以上の構成、後述する二軸延伸後の熱処理および弛緩処理工程などの温度を140℃以上、ポリプロピレン系樹脂の融点−5℃以下の温度で制御することにより達成可能である。
【0035】
本発明のオレフィン系積層フィルムは、フィルム層間間隙の均一性、フィルム同士あるいは搬送ロールとのすべり易さをおよびコンデンサとしての信頼性を得る観点から、両表面の中心線平均粗さSRaがいずれも20nm以上、かつ両表面の10点平均粗さSRzがいずれも200nm以上であることが好ましく、より好ましくは両表面の中心線平均粗さSRaがいずれも40nm以上、かつ両表面の10点平均粗さSRzがいずれも350nm以上、さらに好ましくは両表面の中心線平均粗さSRaがいずれも60nm以上、かつ両表面の10点平均粗さSRzがいずれも500nm以上である。中心線平均粗さSRaが20nm未満、10点平均粗さSRzが200nm未満であるとフィルムの滑りが極端に低下し、ハンドリング性に劣ったり、シワが発生しやすくなり、またコンデンサとして連続使用時にシワ等の影響で容量変化が大きくなったり、フィルムを積層したコンデンサとした場合にフィルム層間の適度な隙間がないため自己回復機能(セルフヒーリング)が動作し難くコンデンサの信頼性が低下する場合がある。上限は特に限定しないが中心線平均粗さSRaは両表面いずれも500nm、10点平均粗さSRzは両表面いずれも1,500nmとするものである。本発明のオレフィン系積層フィルムの中心線平均粗さSRaを好ましい範囲内に制御するにはたとえば、前記した
両方の表層をA層とする
3層以上の構成、粒子種および添加量、さらには溶融シート冷却固化時の冷却温度などの条件を好ましい範囲内で制御することにより達成可能である。
【0036】
本発明のオレフィン系積層フィルムは、積層フィルムの両表面の光沢度がいずれも110%以上145%未満であることが好ましく、より好ましくは両表面いずれも115%以上140%未満、より好ましくは両表面いずれも120%以上135%未満である。光沢度を110%未満とすること、すなわち光沢度を低下せしめることはフィルム表面での光散乱の密度をアップすることを意味し、表面粗面化になるため、絶縁破壊電圧の低下やバラツキが生じ易くなる場合がある。他方、145%を超える場合は、フィルム表面が平滑化していることを意味し、フィルム自体の滑り性が極端に低下し、ハンドリング性に劣ったり、シワが発生しやすくなり、またコンデンサとして連続使用時にシワ等の影響で容量変化が大きくなったり、フィルムを積層したコンデンサとした場合にフィルム層間の適度な隙間がないため自己回復機能(セルフヒーリング)が動作し難くコンデンサの信頼性が低下する場合がある。本発明のオレフィン系積層フィルムの光沢度を好ましい範囲内に制御するには、たとえば、前記した
両方の表層をA層とする
3層以上の構成、粒子種および添加量、さらには溶融シート冷却固化時の冷却温度などの条件を好ましい範囲内で制御することにより達成可能である。
【0037】
本発明のオレフィン系積層フィルムは、135℃での体積抵抗率が1×10
14Ω・cm以上であることが好ましく、より好ましくは3×10
14Ω・cm以上、さらに好ましくは5×10
14Ω・cm以上である。上限は特に限定されないが、1×10
17Ω・cmとするものである。135℃での体積抵抗率が1×10
14Ω・cmに満たない場合は、コンデンサとした場合に、特に高温環境下において、もれ電流の増大に繋がり、コンデンサの自己発熱による容量低下やショート破壊を引き起こし、耐電圧性の低下を招き、信頼性が損なわれる場合がある。135℃での体積抵抗率を上記した範囲に制御するには、前記した
両方の表層をA層とする
3層以上の構成、さらには溶融シート冷却固化時の冷却温度などの条件を好ましい範囲内で制御すること、後述する二軸延伸後の熱処理および弛緩処理工程などの温度を140℃以上、ポリプロピレン系樹脂の融点−5℃以下の温度で制御することにより達成可能である。
【0038】
本発明のオレフィン系積層フィルムは、透明性、易滑性、高温特性に優れるため、一般工業用途、包装用途に好適に用いられる。通常30μm以下の一般コンデンサに有用であるのは勿論だが、特に高温環境下で用いられる自動車用途(ハイブリッドカー用途含む)等に要求される薄膜の耐熱フィルムコンデンサ用に好適である。特にフィルム厚みは0.5μm以上15μm未満の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上10μm以下、さらに好ましくは0.8μm以上5.0μm以下である。本発明のオレフィン系積層フィルムの厚みを範囲内に制御するには、前記した
両方の表層をA層とする
3層以上、好ましくはA/B/Aの3層以上の構成を共押出しにて積層し、後述する二軸延伸を施すことにより達成可能である。
【0039】
本発明のオレフィン系積層フィルムは、コンデンサ用誘電体フィルムとして好ましく用いられるものであるが、コンデンサのタイプに限定されるものではない。具体的には電極構成の観点では箔巻きコンデンサ、金属蒸着膜コンデンサのいずれであってもよいし、絶縁油を含浸させた油浸タイプのコンデンサや絶縁油を全く使用しない乾式コンデンサにも好ましく用いられる。また、形状の観点では、捲巻式であっても積層式であっても構わない。しかしながら本発明のフィルムの特性から特に金属蒸着膜コンデンサとして好ましく使用される。
【0040】
なお、オレフィン系積層フィルムは通常、表面エネルギーが低く、金属蒸着を安定的に施すことが困難であるために、金属付着力を良好とする目的で、蒸着前に表面処理を行うことが好ましい。表面処理とは具体的にコロナ放電処理、プラズマ処理、グロー処理、火炎処理等が例示される。通常ポリプロピレン系樹脂フィルム表面の濡れ張力は30mN/m程度であるが、これらの表面処理によって、濡れ張力を37〜50mN/m、好ましくは39〜48mN/m程度とすることが、金属膜との接着性に優れ、保安性も良好となるので好ましい。
【0041】
本発明のオレフィン系積層フィルムは、上述した特性を与えうる原料を用い、二軸延伸されることによって得られる。二軸延伸の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、テンター同時二軸延伸法、テンター逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、フィルムの製膜安定性、厚み均一性、表面凹凸形成性を制御する点においてテンター逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。
【0042】
次に本発明のオレフィン系積層フィルムの製造方法の一例を説明する。
【0043】
まず、環状オレフィン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の積層フィルムを支持体上に溶融押出してオレフィン系樹脂積層シートとし、この積層シートを縦延伸、横延伸の逐次二軸延伸した後に熱処理および弛緩処理を施してオレフィン系積層フィルムを製造する。以下、より具体的に説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0044】
まず、メソペンタッド分率が0.95以上であり、融点が160℃を超えるポリプロピレン樹脂原料AをA層用の単軸押出機に供給し、環状オレフィン系樹脂原料BをB層用の単軸押出機に供給し、200〜260℃にて溶融共押出によるフィードブロック方式でA層/B層/A層の3層構成に積層された樹
脂をスリット状口金から押出し、20〜100℃の温度に制御された冷却ドラム(キャスティングドラム)上で固化させ未延伸シートを得る。キャスティングドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法などのうちいずれの手法を用いてもよ
い。共押出により積層を施さずコーティングやラミーネートなど接着層なしの積層構成のフィルムの場合は、A層とB層の樹脂界面の接着強度が不足し、フィルムの蒸着工程やコンデンサの加工工程において剥離する場合があったり、加工できたとしても高温での耐電圧性能が低下する場合がある。また接着剤を介して積層フィルムとした場合、接着剤の影響で高温での耐電圧性能が低下する場合がある。
【0045】
次に、この未延伸シートを二軸延伸する。まず未延伸シートを60〜160℃に保たれたロールに通して予熱し、引き続き該シートを60〜160℃の温度に保ち、長手方向に1.5〜10倍に延伸した後、室温まで冷却し、縦一軸延伸フィルム得る。より好ましい長手方向の延伸倍率としては2〜9倍であり、好ましくは2.5〜8倍である。延伸方法や延伸倍率は、とくに限定されず用いるポリマー特性により適宜選択される。
【0046】
次いで縦一軸延伸フィルムをテンターに導いてフィルムの端部をクリップで把持し横延伸を140〜175℃の温度で幅方向に5.1〜15倍、より好ましくは6〜12倍に延伸する。幅方向の延伸倍率が5.1倍未満の場合、オレフィン系積層フィルムの幅方向の機械強度が低下したり、厚み斑が悪化するため、耐電圧性が低下する場合がある。一方、幅方向の延伸倍率が15倍を超えると、破膜しやすくなり生産性が低下する場合がある。本発明において二軸延伸を施さない未延伸シートとした場合、A層のポリプロピレン樹脂とB層の環状オレフィン系樹脂が剥離したり、破断伸度が十分に得られないなど、コンデンサを作成する際の蒸着工程および素子加工工程において搬送時の応力に耐えることが出来ずに破断する場合がある。
【0047】
本発明においては続く熱処理および弛緩処理工程ではクリップで幅方向を緊張把持したまま幅方向に2〜20%の弛緩を与えつつ、130℃以上、ポリプロピレン系樹脂の融点以下の温度で熱処理を行うことが、フィルム面内を均一に緩和させ局所的な構造ムラを低減させ耐電圧特性を向上させ、かつ熱寸法安定性を得る観点から好ましい。熱処理工程における熱処理温度は、140℃以上、ポリプロピレン系樹脂の融点−5℃以下が好ましく、145℃以上、ポリプロピレン系樹脂の融点−10℃以下がより好ましい。熱処理温度が130℃未満の場合は、熱寸法安定性が得られず、コンデンサとしたときの高温使用環境下で容量低下やショート破壊を引き起こす場合がある。他方、熱処理温度がポリプロピレン系樹脂の融点を超える場合は、フィルム製膜時に破膜が生じる場合がある。
【0048】
また、弛緩処理工程における弛緩率は、5〜18%が好ましく、8〜15%がより好ましい。18%を超える場合はテンター内部でフィルムが弛みすぎ製品にシワが入り蒸着時にムラを発生させる場合があり、他方弛緩率が5%より小さい場合は熱寸法安定性が得られず、コンデンサとしたときの高温使用環境下で容量低下やショート破壊を引き起こす場合がある。
【0049】
前記の熱処理および弛緩処理工程を経た後はクリップで幅方向を緊張把持したまま50〜140℃での冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップを解放し、ワインダ工程にてフィルムエッジ部をスリットし、フィルム製品ロールを巻き取る。ここでフィルムを巻取る前に蒸着を施す面に蒸着金属の接着性を良くするために、空気中、窒素中、炭酸ガス中あるいはこれらの混合気体中でコロナ放電処理を行うことが好ましい。
【0050】
本発明において、上記したオレフィン系積層フィルム表面に金属膜を設けて金属膜積層フィルムとすることも好ましいが、その方法は特に限定されない。例えば、オレフィン系積層フィルムの少なくとも片面に、アルミニウムを蒸着してフィルムコンデンサの内部電極となるアルミニウム蒸着膜等の金属膜を設ける方法が好ましく用いられる。このとき、アルミニウムと同時あるいは逐次に、例えば、ニッケル、銅、金、銀、クロムおよび亜鉛などの他の金属成分を蒸着することもできる。また、蒸着膜上にオイルなどで保護層を設けることもできる。
【0051】
本発明では、必要により、金属膜を形成後、金属膜積層フィルムを特定の温度でアニール処理を行なったり、熱処理を行なったりすることができる。また、絶縁もしくは他の目的で、金属膜積層フィルムの少なくとも片面に、ポリフェニレンオキサイドなどのコーティングを施すこともできる。
【0052】
このようして得られた金属膜積層フィルムは、種々の方法で積層もしくは巻回してフィルムコンデンサを得ることができる。巻回型フィルムコンデンサの好ましい製造方法を例示すると、次のとおりである。
【0053】
オレフィン系積層フィルムの片面にアルミニウムを減圧状態で蒸着する。その際、フィルム長手方向に走るマージン部を有するストライプ状に蒸着する。次に、表面の各蒸着部の中央と各マージン部の中央に刃を入れてスリットし、表面が一方にマージンを有した、テープ状の巻取リールを作成する。左もしくは右にマージンを有するテープ状の巻取リールを左マージンおよび右マージンのもの各1本ずつを、幅方向に蒸着部分がマージン部よりはみ出すように2枚重ね合わせて巻回し、巻回体を得る。
【0054】
両面に蒸着を行う場合は、一方の面の長手方向に走るマージン部を有するストライプ状に蒸着し、もう一方の面には長手方向のマージン部が裏面側蒸着部の中央に位置するようにストライプ状に蒸着する。次に表裏それぞれのマージン部中央に刃を入れてスリットし、両面ともそれぞれ片側にマージン(例えば表面右側にマージンがあれば裏面には左側にマージン)を有するテープ状の巻取リールを作製する。得られたリールと未蒸着の合わせフィルム各1本ずつを、幅方向に金属化フィルムが合わせフィルムよりはみ出すように2枚重ね合わせて巻回し、巻回体を得る。
【0055】
以上のようにして作成した巻回体から芯材を抜いてプレスし、両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接して巻回型フィルムコンデンサを得ることができる。フィルムコンデンサの用途は、鉄道車輌用、自動車用(ハイブリットカー、電気自動車)、太陽光発電・風力発電用および一般家電用等、多岐に亘っており、本発明のフィルムコンデンサもこれら用途に好適に用いることができる。その他、包装用フィルム、離型用フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途でも用いることができる。
【0056】
本発明における特性値の測定方法、並びに効果の評価方法は次のとおりである。
【0057】
(1)フィルム厚み
オレフィン系積層フィルムの任意の場所の合計10箇所の厚みを23℃65%RHの雰囲気下で接触式のアンリツ(株)製電子マイクロメータ(K−312A型)を用いて測定し、その平均値をオレフィン系積層フィルムのフィルム厚みとした。
【0058】
(2)135℃でのフィルム絶縁破壊電圧(V/μm)
135℃に保温されたオーブン内で、フィルムを1分間加熱した後に、その雰囲気中でJIS C2330(2001)7.4.11.2 B法(平板電極法)に準じた絶縁破壊電圧試験を30回行い、得られた値をフィルムの厚み(上記(1))で除し、(V/μm)に換算し、計30点の測定値(算出値)のうち破壊電圧が最も大きい方から5点と最も小さい方から5点をそれぞれ除いた20点の平均値を135℃でのフィルム絶縁破壊電圧とした。
【0059】
(3)フィルム長手方向および幅方向における破断伸度
オレフィン系積層フィルムより幅方向および長手方向に、それぞれ、幅10mm、長さ50mm(測定方向)の試料を5本切り出し、両端から15mmの位置にそれぞれ印を付けて試長20mmとした。。次に、矩形のサンプルを引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)に、初期チャック間距離20mmでセットし、23℃雰囲気下で引張速度を300mm/分としてフィルムの引張試験を行い、サンプルが破断した時点の伸度(単位:%)を得た。測定はフィルム長手方向および幅方向にそれぞれ各5回ずつ行い、それぞれの平均値を算出し、破断伸度を求めた。
【0060】
(4)光沢度
JIS K7105(1981)に準じ、スガ試験機株式会社製 デジタル変角光沢計UGV−5Dを用いて入射角60°受光角60°の条件でキャスティングドラム接触面側の表面を測定した5点のデータの平均値をドラム面の光沢度とし、キャスティングドラム非接触面側の表面を測定した5点のデータの平均値を反対面の光沢度とした。
【0061】
(5)中心線平均粗さSRaおよび10点平均粗さSRz
小坂研究所製のsurf−corder ET−4000Aを用い、JIS B0601(1982)に準じ、3次元表面粗さを測定した。測定条件の詳細は下記の通りである。サンプルセットは、視野測定のX方向がオレフィン系積層フィルムの幅方向になるようにし、上面が測定面として試料台にセットした。下記条件にて場所を変えて10回測定し、それぞれの中心線平均粗さの平均値を算出し、中心線平均粗さSRaとし、また、それぞれの10点平均粗さの平均値を算出し、10点平均粗さSRzとした。なお測定はフィルムの表裏両面にて行い、キャスティングドラム接触面側の表面をドラム面とし、キャスティングドラム非接触面側の表面を反対面とした。
【0062】
装置:小坂研究所製“surf−corder ET−4000A”
解析ソフト:i−Face model TDA31
触針先端半径:0.5μm
測定視野 :X方向:1000μm ピッチ:5μm
Y方向:250μm ピッチ:10μm
針圧 :50μN
測定速度 :0.1mm/s
カットオフ値:低域0.2mm、高域−なし
レベリング :全域
フィルター :ガウシアンフィルタ(空間型)
倍率 :2万倍 。
【0063】
(6)135℃における熱収縮率
オレフィン系積層フィルムより幅方向および長手方向に、それぞれ、幅10mm、長さ50mm(測定方向)の試料を5本切り出し、両端から5mmの位置にそれぞれ印を付けて試長40mm(l
0)とした。次に、試験片を紙に挟み込み、水平に保持した状態で135℃に保温されたオーブン内で、10分間加熱後に取り出して、室温で冷却後、寸法(l
1)を測定して下記式にて求め、5本の平均値を各方向の熱収縮率とした。
【0064】
熱収縮率={(l
0−l
1)/l
0}×100(%) 。
【0065】
(7)メソペンタッド分率
フィルムのポリプロピレンを60℃のn−ヘプタンで2時間抽出し、ポリプロピレン中の不純物・添加物を除去した後、130℃で2時間以上減圧乾燥したものをサンプルとした。該サンプルを溶媒に溶解し、
13C−NMRを用いて、以下の条件にてメソペンタッド分率(mmmm)を求めた。
【0066】
測定条件
・装置:Bruker製DRX−500
・測定核:
13C核(共鳴周波数:125.8MHz)
・測定濃度:10質量%
・溶媒: ベンゼン:重オルトジクロロベンゼン=1:3混合溶液(体積比)
・測定温度:130℃
・スピン回転数:12Hz
・NMR試料管:5mm管
・パルス幅:45°(4.5μs)
・パルス繰り返し時間:10秒
・データポイント:64K
・積算回数:10,000回
・測定モード:complete decoupling
解析条件
LB(ラインブロードニングファクター)を1としてフーリエ変換を行い、mmmmピークを21.86ppmとした。WINFITソフト(Bruker製)を用いて、ピーク分割を行う。その際に、高磁場側のピークから以下のようにピーク分割を行い、更にソフトの自動フィッテイングを行い、ピーク分割の最適化を行った上で、mmmmとss(mmmmのスピニングサイドバンドピーク)のピーク分率の合計をメソペンタッド分率(mmmm)とする。
(1)mrrm
(2)(3)rrrm(2つのピークとして分割)
(4)rrrr
(5)mrmm+rmrr
(6)mmrr
(7)mmmr
(8)ss(mmmmのスピニングサイドバンドピーク)
(9)mmmm
(10)rmmr。
【0067】
同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたメソペンタッド分率の平均値を当該サンプルのメソペンタッド分率とした。
【0068】
(8)ポリプロピレン樹脂の融点
示差走査熱量計(セイコーインスツル製EXSTAR DSC6220)を用いて、窒素雰囲気中で3mgのポリプロピレン樹脂を30℃から260℃まで40℃/minの条件で昇温する。次いで、260℃で5min保持した後、40℃/minの条件で30℃まで降温する。さらに、30℃で5min保持した後、30℃から260℃まで40℃/minの条件で昇温する。この昇温時に得られる吸熱カーブのピーク温度をポリプロピレン樹脂の融点とした。
【0069】
(9)環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度
示差走査熱量計(セイコーインスツル製EXSTAR DSC6220)を用いて、窒素雰囲気中で3mgの環状オレフィン系樹脂を30℃から260℃まで40℃/minの条件で昇温する。次いで、260℃で5min保持した後、40℃/minの条件で30℃まで降温する。さらに、30℃で5min保持した後、30℃から260℃まで40℃/minの条件で昇温する。この昇温時に得られるガラス転移温度を下記式により算出した。
【0070】
ガラス転移温度=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)/2
ここで補外ガラス転移開始温度は、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度とする。補外ガラス転移終了温度は、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度とする。
【0071】
(10)135℃での体積抵抗率
JIS K6911(2006)に準じ、
図1に示すように接続し、試験片を110℃雰囲気で30分保持後、電圧100Vで1分間充電して体積抵抗R
v(Ω)を測定した。得られた体積抵抗から数式(1)を用いて体積抵抗率ρ
v(Ω・cm)を算出した。ここで、d は主電極の直径(cm)、t はフィルム試料厚み(cm)である。フィルム試料厚みはミツトヨ製レーザーホロゲージにより被測定試料内任意5ヶ所の厚みを測定し、その相加平均値を試料厚みとした。すべて室温での測定値を用いて計算した。
測定装置:ULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340A(エーディーシー製)、
TEST FIXTURE TR43C(ADVANTEST製)
フィルム試料片寸法:40mm×40mm
電極の形状:主電極;φ10mm
環状電極;内径 φ13mm 外径 φ26mm
対向電極;φ28mm
電極の材質:主電極および対向電極ともに導電性ペースト
環状電極;金属電極(金メッキ品)
印加電圧 :100V/1分値
前処理 :恒温恒湿槽に22±1℃、60±5%RHの雰囲気で90時間
試験温度 :室温135℃
【0073】
(11)コンデンサ素子の加工適性および125℃雰囲気でのコンデンサ特性
後述する各実施例および比較例で得られたフィルム(キャスティングドラム接触面側)に、ULVAC製真空蒸着機でアルミニウムを膜抵抗が8Ω/sqで長手方向に垂直な方向にマージン部を設けた所謂T型マージンパターンを有する蒸着パターンを施し、幅50mmの蒸着リールを得た。
【0074】
次いで、このリールを用いて皆藤製作所製素子巻機(KAW−4NHB)にてコンデンサ素子を巻き取り、メタリコンを施した後、減圧下、135℃の温度で10時間の熱処理を施し、リード線を取り付けコンデンサ素子を仕上げた。
【0075】
こうして得られたコンデンサ素子10個を用いて、125℃高温下でコンデンサ素子に200VDCの電圧を印加し、該電圧で10分間経過後に50VDC毎ステップ状に50VDC/1分の昇圧速度で徐々に印加電圧を上昇させることを繰り返す所謂ステップアップ試験を行なった。なお各ステップでは保持時間を10分間とした。
【0076】
<コンデンサ素子の加工適性>
上記と同様にしてコンデンサ素子を作成し、目視により素子の形状を確認した。下記基準で判断した。
【0077】
A:コンデンサ素子のフィルムのずれ、変形がなく、後の工程に全く支障がないレベル
B:コンデンサ素子のフィルムのずれ、変形は若干あるが後の工程で問題がないレベル
D:コンデンサ素子のフィルムのずれ、変形が大きく、後の工程に支障を来すレベル
A、Bは使用可能である。Dでは実用が困難である。
【0078】
<耐電圧>
この際の静電容量変化を測定しグラフ上にプロットして、該容量が初期値の70%になった電圧をフィルムの厚み(上記(1))で割り返して耐電圧評価とし、以下の通り評価した。
【0079】
A:350V/μm以上
B:320V/μm以上350V/μm未満
C:300V/μm以上320V/μm未満
D:300V/μm未満。
【0080】
A、Bは使用可能である。C、Dでは実用上の性能に劣る。
【0081】
<信頼性>
静電容量が初期値に対して10%以下に減少するまで電圧を上昇させた後に、コンデンサ素子を解体し破壊の状態を調べて、信頼性を以下の通り評価した。
【0082】
A:素子形状の変化は無く貫通状の破壊は観察されない。
【0083】
B:素子形状の変化は無くフィルム10層以内の貫通状破壊が観察される。
【0084】
C:素子形状に変化が認められる若しくは10層を超える貫通状破壊が観察される。
【0086】
Aは問題なく使用でき、Bでは条件次第で使用可能である。C、Dでは実用上の性能に劣る。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに説明する。
【0088】
(実施例1)
メソペンタッド分率が0.98、融点が167℃で、メルトフローレイト(MFR)が2.6g/10分であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂にBasell社製ポリプロピレン樹脂(高溶融張力ポリプロピレンProfax PF-814)を1.0質量%ブレンドし温度260℃のA層用の単軸の溶融押出機Aに供給した。環状オレフィン系樹脂はCOCとして、ポリプラスチックス製“TOPAS”(登録商標)6013F−04(エチレンとノルボルネンを共重合させた樹脂であり、ガラス転移温度が138℃)を99.7質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010を0.3質量部それぞれ混合させ温度260℃のB層用の単軸の溶融押出機Bに供給した。A層およびB層の押出機で溶融押出を行い、80μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロックを用いてA/B/Aの3層積層で積層厚み比が1/1/1(フィルム全厚みに対する両表面層A層の合計割合は66.7%)となるよう押出量を調節し、その溶融積層ポリマーをTダイより吐出させ、該溶融シートを70℃に保持されたキャスティングドラム上で、静電印加により密着させ冷却固化し未延伸シートを得た。次いで、該シートを複数のロール群にて徐々に145℃に予熱し、引き続き145℃の温度に保ち周速差を設けたロール間に通し、長手方向に2.8倍に延伸した。引き続き該フィルムをテンターに導き、165℃の温度で幅方向に9.8倍延伸し、次いで熱処理および弛緩処理として幅方向に10%の弛緩を与えながら155℃で熱処理を行ない、さらにクリップで幅方向把持したまま100℃で冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップを解放し、次いでフィルム表面(キャスティングドラム接触面側)に25W・min/m
2の処理強度で大気中でコロナ放電処理を行い、フィルム厚み4.5μmのフィルムをフィルムロールとして巻き取った。本実施例のオレフィン系積層フィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りでコンデンサ素子の加工適性および耐電圧、信頼性ともに非常に優れるレベルのものであった。
【0089】
(実施例2〜5)
キャスティングドラム温度、積層比の変更(実施例2)、キャスティングドラム温度、積層フィルム全層厚みの変更(実施例3および4)、キャスティングドラム温度の変更(実施例5)を表1に示した条件とした以外は実施例1と同様にして、オレフィン系積層フィルムを得た。各実施例のオレフィン系積層フィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す。実施例2のフィルムは、コンデンサ素子の加工適性に優れ、耐電圧、信頼性ともに劣るが実使用上問題のないレベルのものであった。実施例3のフィルムはコンデンサ素子の加工適性および耐電圧、信頼性ともに非常に優れるレベルのものであった。実施例4のフィルムは、コンデンサ素子加工適性および信頼性に優れ、耐電圧はやや劣るが実使用上問題のないレベルのものであった。実施例5のフィルムはコンデンサ素子の加工適性、耐電圧、信頼性ともに実使用上問題のないレベルのものであった。
【0090】
(実施例6)
A層用のポリプロピレン樹脂としてメソペンタッド分率が0.98、融点が167℃で、メルトフローレイト(MFR)が2.6g/10分であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、株式会社トクヤマ製 平均粒子径0.1μmシリカ粒子:サンシールSSP−M01を0.25質量部となるように240℃に設定した押出機で混練押出し、ストランドを水冷後チップ化し、ポリプロピレン樹脂原料(A−1)とし、A層用の単軸の溶融押出機に供給し、表1に示した条件で製膜した以外は実施例1と同様にして、オレフィン系積層フィルムを得た。本実施例のオレフィン系積層フィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りでコンデンサ素子の加工適性および耐電圧が非常に優れ、信頼性は劣るが、実使用上問題のないレベルのものであった。
【0091】
(実施例7)
A層用のポリプロピレン樹脂としてメソペンタッド分率が0.98、融点が167℃で、メルトフローレイト(MFR)が2.6g/10分であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂95質量部、三井化学製“TPX”(登録商標) MX002(融点が224℃の、ポリメチルペンテン系樹脂)を5質量部の配合比でブレンドし、240℃に設定した押出機で混練押出し、ストランドを水冷後チップ化し、ポリプロピレン樹脂原料(A−2)とし、A層用の単軸の溶融押出機に供給し、表1に示した条件で製膜した以外は実施例1と同様にして、オレフィン系積層フィルムを得た。本実施例のオレフィン系積層フィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りでコンデンサ素子の加工適性および耐電圧、信頼性ともに非常に優れるレベルのものであった。
【0092】
(実施例8)
B層用の環状オレフィン系樹脂はCOCの代わりにCOPとして、日本ゼオン製“ZEONOR”(登録商標)1420R(ガラス転移温度135℃の環状オレフィン樹脂)を用い、表2に示した条件で製膜した以外は実施例1と同様にして、オレフィン系積層フィルムを得た。本実施例のオレフィン系積層フィルムの特性およびコンデンサ特性は表2に示す通りでコンデンサ素子の加工適性および耐電圧、信頼性ともに非常に優れるレベルのものであった。
【0093】
(実施例9)
A層用のポリプロピレン樹脂として、メソペンタッド分率が0.94、融点が161℃で、メルトフローレイト(MFR)が3.0g/10分であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂を用い、表2に示した条件で製膜した以外は実施例1と同様にして、オレフィン系積層フィルムを得た。本実施例のオレフィン系積層フィルムの特性およびコンデンサ特性は表2に示す通り、コンデンサ素子の加工適性に優れ、耐電圧、信頼性ともに劣るが実使用上問題のないレベルのものであった。
【0094】
(比較例1)
ポリプロピレン樹脂としてメソペンタッド分率が0.98、融点が167℃で、メルトフローレイト(MFR)が2.6g/10分であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂を単膜構成とし、表2に示した条件で製膜した以外は実施例1と同様にして、オレフィン系単膜フィルムを得た。本比較例のオレフィン系単膜フィルムの特性およびコンデンサ特性は表2に示す通りでコンデンサ素子の加工適性は優れるが、耐電圧、信頼性ともに非常に劣っており実使用上問題が生じるレベルのものであった。
【0095】
(比較例2)
環状オレフィン系樹脂のCOCとして、ポリプラスチックス製“TOPAS”(登録商標)6013F−04(エチレンとノルボルネンを共重合させた樹脂であり、ガラス転移温度が138℃)を99.7質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010を0.3質量部それぞれ混合させ単膜構成とし、表2に示した条件で製膜した以外は実施例1と同様にして製膜したが、破れが頻発したためフィルムを得ることができなかった。
【0096】
(比較例3)
熱処理および弛緩処理を施さず、表2に示した条件で製膜した以外は実施例1と同様にして、オレフィン系フィルムを得た。本比較例のオレフィン系フィルムの特性およびコンデンサ特性は表2に示す通りでコンデンサ素子の加工適性が非常に劣り、耐電圧がやや不足のレベルだが、信頼性が非常に劣っており実使用上問題が生じるレベルのものであった。
【0097】
(比較例4)
二軸延伸、熱処理および弛緩処理を施さないこと以外は実施例1と同様にしてA/B/Aの3層積層の未延伸フィルム(厚み12μm)を得た。本比較例のオレフィン系フィルムの特性およびコンデンサ特性は表2に示すとおりで、破断伸度の測定時にA層とB層が剥離し積層フィルムとしての測定不可であり、コンデンサ特性ではコンデンサ素子の加工適性が非常に劣り、耐電圧、信頼性ともに非常に劣っており実使用上問題が生じるレベルのものであった。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】