特許第6160854号(P6160854)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6160854光送信モジュール、半導体光増幅器の電流制御方法及び光通信システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160854
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】光送信モジュール、半導体光増幅器の電流制御方法及び光通信システム
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/50 20060101AFI20170703BHJP
【FI】
   H01S5/50 610
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-277097(P2012-277097)
(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公開番号】特開2014-120726(P2014-120726A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年7月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川西 康之
【審査官】 百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−096789(JP,A)
【文献】 特開平09−200145(JP,A)
【文献】 特開2010−186919(JP,A)
【文献】 特開2001−251013(JP,A)
【文献】 特開2005−073257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気信号を光信号に変換して増幅する光送信モジュールであって、
電気信号を光信号に変換するE/O変換部と、前記E/O変換部によって変換された光信号を飽和領域で増幅する半導体光増幅器と、前記電気信号の過去の1又は複数ビット分の平均信号レベルを検知する信号レベル検知部と、前記半導体光増幅器に第一の電流量を注入する電流制御部とを備え、
前記電流制御部は、前記過去の1又は複数ビット分の平均信号レベルが、前記電気信号のマークレベルとスペースレベルとの間に設定された所定のしきい値を超えたときに、前記第一の電流量よりも多い第二の電流量を前記半導体光増幅器に注入し、
前記第一の電流量及び前記第二の電流量は、ともに前記半導体光増幅器に注入する電流量の変動による光出力パワーが飽和する飽和領域にある電流量であることを特徴とする、光送信モジュール。
【請求項2】
前記半導体光増幅器から出力される光パワーを検知するパワー検知部をさらに備え、前記第一の電流量は、前記パワー検知部の検知出力に基づいて決められる、請求項1に記載の光送信モジュール。
【請求項3】
半導体光増幅器に入射されるE/O変換部からの光信号の増減と、信号レベル検知部で検知される平均信号レベル値の増減とのタイミングが一致するように、光信号に変換する前の電気信号と前記信号レベル検知部に入る電気信号とに対して、遅延時間を調整する遅延制御部をさらに備える、請求項1又は請求項2に記載の光送信モジュール。
【請求項4】
電気信号を光信号に変換して増幅する光送信モジュールであって、
電気信号を光信号に変換するE/O変換部と、前記E/O変換部によって変換された光信号を飽和領域で増幅する半導体光増幅器と、前記電気信号のマーク信号の期間とスペース信号の期間とを検知する信号検知部と、前記半導体光増幅器に電流量を注入する電流制御部とを備え、
前記電流制御部は、前記信号検知部によって検知されたスペース信号の期間に、前記半導体光増幅器に第三の電流量を注入し、前記信号検知部によって検知されたマーク信号の期間に、前記半導体光増幅器に第三の電流量と異なる第四の電流量を注入し、前記第三の電流量は前記半導体光増幅器に注入する電流量の変動による光出力パワーが飽和する電流量よりも少なく、前記第四の電流量は、前記半導体光増幅器に注入する電流量の変動による光出力パワーが飽和する飽和領域にある電流量であることを特徴とする、光送信モジュール。
【請求項5】
半導体光増幅器に入射されるE/O変換部からの光信号の増減と、信号レベル検知部で検知されるマーク信号、スペース信号とのタイミングが一致するように、光信号に変換する前の電気信号と前記信号レベル検知部に入る電気信号とに対して、遅延時間を調整する遅延制御部をさらに備える、請求項4に記載の光送信モジュール。
【請求項6】
前記第三の電流量は、前記第四の電流量より所定比率低い値となる電流量である、請求項4又は請求項5に記載の光送信モジュール。
【請求項7】
電気信号を光信号に変換するE/O変換部と、前記E/O変換部によって変換された光信号を飽和領域で増幅する半導体光増幅器とを備える光送信モジュールにおける、半導体光増幅器の制御方法であって、
前記半導体光増幅器に第一の電流量を注入しておき、
電気信号の過去の1又は複数ビット分の平均信号レベルを取得し、当該平均信号レベルが前記電気信号のマークレベルとスペースレベルとの間に設定された所定のしきい値を超えたときに、前記第一の電流量よりも多い第二の電流量を前記半導体光増幅器に注入し、前記第一の電流量及び前記第二の電流量は、ともに前記半導体光増幅器に注入する電流量の変動による光出力パワーが飽和する飽和領域にある電流量であることを特徴とする、半導体光増幅器の制御方法。
【請求項8】
電気信号を光信号に変換するE/O変換部と、前記E/O変換部によって変換された光信号を飽和領域で増幅する半導体光増幅器とを備える光送信モジュールにおける、半導体光増幅器の制御方法であって、
前記電気信号のマーク信号の期間とスペース信号の期間とを検知し、検知されたスペース信号の期間に、前記半導体光増幅器に第三の電流量を注入し、前記信号検知部によって検知されたマーク信号の期間に、前記半導体光増幅器に第三の電流量と異なる第四の電流量を注入し、前記第三の電流量は前記半導体光増幅器に注入する電流量の変動による光出力パワーが飽和する電流量よりも少なく、前記第四の電流量は、前記半導体光増幅器に注入する電流量の変動による光出力パワーが飽和する飽和領域にある電流量であることを特徴とする、半導体光増幅器の制御方法。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光送信モジュールを備える通信端末装置をノードとして有する光通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体光増幅器が組み込まれた光送信モジュール、及び半導体光増幅器の電流制御方法に関するものである。この光送信モジュールは、例えば光通信システムで用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来からの光送信モジュールの構成を図1に示す。光送信モジュールは、送信すべき電気信号を光信号に変換するE/O変換部106と、光信号を増幅する光増幅器 (Optical Amplifier)107と、送信する光信号の一部を取り出すための光カプラ110と、送信する光信号の強度を検知するパワー検知部109と、パワー検知部109で検知された光強度に基づき半導体光増幅器に流す電流を制御する電流制御部108とを含んでいる。
【0003】
E/O変換部106は、レーザダイオード、もしくはレーザダイオードと外部変調器との組み合わせからなり、前者の場合レーザダイオード で直接強弱変調を行い、後者の場合レーザダイオードから放出された光を外部変調器で変調する。外部変調器には、電界吸収型変調器(EAM:Electro-Absorption Modulator)などが用いられる。
光増幅器107には、例えば半導体光増幅器 (SOA: Semiconductor Optical Amplifier)が用いられる。半導体光増幅器は、光増幅に半導体を使用する光増幅器であり、電流を注入し、光を入射すると注入電流のエネルギーによって半導体内の活性層を進行する光の誘導放出を起こし、光を直接増幅する働きを持つ。ファブリペローレーザダイオードに構造が似ているが、端面で反射しないようにして共振を抑制し、増幅器の誘導放出で入射光を増幅する。半導体光増幅器は通常、III-V属半導体やII-VI属半導体のような直接禁制帯半導体で作られる。希土類添加ファイバ増幅器やラマン増幅器などの他の光増幅器に比べて小型であるため集積化しやすく、E/O変換部106とともに一体型モジュールにすることも可能である。また波長範囲が広いので、複数の違う複数の光を一度に増幅できるという特長もある。
【0004】
パワー検知部109は、モニタ用フォトダイオードPDと電流電圧変換回路で構成され、カプラから分岐した光をモニタ用のフォトダイオードPDで受信することで、光出力のパワーを検知する。電流制御部108はパワー検知部109から得られる電圧を入力とし、パワー検知部109の入力値が一定になるよう半導体光増幅器107の注入電流量を調整して半導体光増幅器107の利得を制御する。
【0005】
半導体光増幅器107の注入電流量は大きいほど利得が安定するが、素子の発熱量がそれに応じて増大する。半導体光増幅器107の注入電流量を小さくすれば、誘導放出を起こさせる半導体光増幅器107内のキャリア密度が小さくなる。特に、送信すべき電気信号を構成する符号1,0のうち、光信号が送出されるマーク符号(通常は1)が高い密度で連続すると、キャリア密度が足りなくなる。
【0006】
下記特許文献1,2は基本的に図1と同様の構成を開示している。特許文献1は、半導体光増幅器の中に光検知領域を持ち、光検知領域で検知した光信号に基づいて半導体光増幅器の利得すなわち注入電流を制御する。特許文献2は、半導体光増幅器の下流側に光カプラを置いて半導体光増幅器から出力される光を検知し、その検知した光パワーに応じて半導体光増幅器の注入電流を制御する。また、半導体光増幅器の出口に可飽和吸収部を設けて、半導体光増幅器の光パワーが大きくなりすぎないように制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2-184828 号公報
【特許文献2】特許第3802691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上に説明したような、半導体光増幅器の光出力を検知してそれを利用して半導体光増幅器の注入電流量にフィードバックする方法では、通常、半導体光増幅器の注入電流量にフィードバックするまでの時間の遅れがあるので、送信すべき電気信号の周波数が高くなれば、フィードバック制御では追いつかなくなる。
そこで何らかのフィードフォワード制御が望まれるが、半導体光増幅器の注入電流を低めにすると省電力にはなるものの、立ち上がり波形が鈍るなどパターン効果が出て送信波形が劣化することが分かっている。「パターン効果」とは具体的には、信号の増幅のための半導体光増幅器内のキャリア密度が変動するために、増幅率が変動し波形が歪むことを言う。このことにより受信時の誤り率増大を招き、受信感度が悪くなる。
【0009】
以上の欠点は増幅率が飽和するまで十分な電流を半導体光増幅器に流すことで解消できる。しかし電流を十分流す結果、消費電力の増加、ひいてはモジュール自体を一定の温度に保つためのペルチェクーラーの消費電力の増加、及びそれら消費電力の増加で発生した熱の放熱問題が連鎖的に発生し、モジュールを小型の光トランシーバに収めるなどの需要に対して十分対応できなくなるおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、電力の消費を抑えつつ、波形の歪みを抑え、光伝送に適した波形を生成することのできる半導体光増幅器の電流制御方法、それを用いた光送信モジュール、及び光通信システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一の本発明は、電気信号を光信号に変換して増幅する光送信モジュールであって、電気信号を光信号に変換するE/O変換部と、E/O変換部によって変換された光信号を飽和領域で増幅する半導体光増幅器と、電気信号の過去の1又は複数ビット分の平均信号レベルを検知する信号レベル検知部と、半導体光増幅器に第一の電流量を注入する電流制御部とを備え、電流制御部は、過去の1又は複数ビット分の平均信号レベルが、電気信号のマークレベルとスペースレベルとの間に設定された所定のしきい値を超えたときに、第一の電流量よりも多い第二の電流量を半導体光増幅器に注入する光送信モジュールにかかるものであり、前記第一の電流量及び前記第二の電流量は、ともに前記半導体光増幅器に注入する電流量の変動による光出力パワーが飽和する飽和領域にある電流量である。
【0012】
この構成によれば、信号レベル検知部において、電気信号の過去の1又は複数ビット分の平均信号レベルを、マークレベルとスペースレベルとの間に設定された所定のしきい値と比較することにより、マークの頻度がスペースの頻度よりも一定以上多くなった状態を検知することができる。この前提で、平均信号レベルが、電気信号のマークレベルとスペースレベルとの間に設定された所定のしきい値を超えたときに、第一の電流量よりも多い第二の電流量を半導体光増幅器に注入する。この制御処理を行うことにより、マークの頻度がスペースの頻度よりも一定以上多くなり、半導体光増幅器のキャリア密度が少なくなるパターンの時に、半導体光増幅器の電流を増やすことができる。これにより利得飽和による「パターン効果」の問題を解決でき、キャリア密度を補償し、波形の劣化の抑制と省電力化を実現することができる。
【0013】
前記電気信号のマークレベルとスペースレベルとの間に設定された所定のしきい値は、マークレベルとスペースレベルとの中間値より、マークレベル寄りに設定することが好ましい。
前記半導体光増幅器から出力される光パワーを検知するパワー検知部をさらに備え、第一の電流量は、パワー検知部の検知出力に基づいて決められるものであってもよい。すなわち、平均信号レベルが電気信号のマークレベルとスペースレベルとの間に設定された所定のしきい値以内のときは、第一の電流量を注入するが、この第一の電流量は、パワー検知部の検知出力に基づいて、フィードバック制御により決められる。これにより、動作環境等の変動に基づく半導体光増幅器の光出力特性の変動を吸収することができる。
【0014】
前記第一の電流量は、半導体光増幅器に注入する電流量を上げていくに従って光パワーが飽和する電流量としてもよい。光パワーが飽和する電流量を第一の電流量とする理由は、第一の電流量を出力パワーが飽和する領域に置いておかないと、電流を増減させる時に一緒にパワーも変動してしまい、パターン効果と別の理由で波形が歪んでしまうためである。そこで、パターン効果以外での波形の歪を抑えるために、電流量によるゲインの変動の少ない、光パワーが飽和する電流量を第一の電流量とすることが好ましい。
【0015】
また、半導体光増幅器に入射されるE/O変換部からの光信号の増減と、信号レベル検知部で検知される平均信号レベル値の増減とのタイミングが一致するように、光信号に変換する前の電気信号と信号レベル検知部に入る電気信号とに対して、遅延時間を調整する遅延制御部をさらに備えることが好ましい。この遅延制御部は、半導体光増幅器7に入射されるE/O変換部からの光信号の増減と、信号レベル検知部で測定される値の増減のタイミングを一致させる働きをする。
【0016】
第二の本発明は電気信号を光信号に変換して増幅する光送信モジュールに係るものであって、電気信号を光信号に変換するE/O変換部と、E/O変換部によって変換された光信号を飽和領域で増幅する半導体光増幅器と、電気信号のマーク信号の期間とスペース信号の期間とを検知する信号検知部と、半導体光増幅器に電流量を注入する電流制御部とを備え、電流制御部は、信号検知部によって検知されたスペース信号の期間に、半導体光増幅器に第三の電流量を注入し、信号検知部によって検知されたマーク信号の期間に、半導体光増幅器に第三の電流量より多い第四の電流量を注入し、前記第三の電流量は前記半導体光増幅器に注入する電流量の変動による光出力パワーが飽和する電流量よりも少なく、前記第四の電流量は、前記半導体光増幅器に注入する電流量の変動による光出力パワーが飽和する飽和領域にある電流量である。
【0017】
この構成によれば、信号検知部において、電気信号のマーク信号の期間とスペース信号の期間とを検知することができる。この前提で、電流制御部はスペース信号の期間に、半導体光増幅器に第三の電流量を注入し、マーク信号の期間に、半導体光増幅器に第三の電流量より多い第四の電流量を注入する。この制御処理を行うことにより、半導体光増幅器のキャリア密度が少なくなるマーク信号の期間に半導体光増幅器の電流を増やすことでキャリア密度を補償し、波形の劣化の抑制と省電力化を実現するマーク期間で半導体光増幅器のキャリア密度が少なくなるパターンの時に、半導体光増幅器の電流を増やすことができる。これにより利得飽和による「パターン効果」の問題を解決でき、キャリア密度を補償し、波形の劣化の抑制と省電力化を実現することができる。
【0018】
半導体光増幅器に入射されるE/O変換部からの光信号の増減と、信号レベル検知部で検知されるマーク信号、スペース信号とのタイミングが一致するように、光信号に変換する前の電気信号と信号レベル検知部に入る電気信号とに対して、遅延時間を調整する遅延制御部をさらに備えることが好ましい。この遅延制御部は、半導体光増幅器に入射されるE/O変換部からの光信号の増減と、信号レベル検知部で測定される値の増減のタイミングを一致させる働きをする。
【0019】
前記半導体光増幅器から出力される光パワーを検知するパワー検知部をさらに備え、第三の電流量は、パワー検知部の検知出力に基づいて決められるものであってもよい。すなわち、この第三の電流量は、パワー検知部の検知出力に基づいて、フィードバック制御により決められる。これにより、動作環境等の変動に基づく半導体光増幅器の光出力特性の変動を吸収することができる。
【0020】
本発明の半導体光増幅器の制御方法は、前記本発明の光送信モジュールと実質同一発明に係る制御方法である。
本発明の光通信システムは、前記光送信モジュールを含む端末装置をノードとして有するシステムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、パターン効果の原因であるキャリア密度の不足を、電気信号を監視し適時補償することで補うとともに、伝送波形のパターン効果による歪を抑えつつ、補償が不要な所での電流量を抑えることができ、全体として消費電力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】従来からの光送信モジュールの構成を示すプロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る光送信モジュール1を示すブロック図である。
図3】パワー検知部9の構成を示すブロック図である。
図4】信号レベル検知部5の構成を示すブロック図である。
図5】光出力パワーとSOA電流との関係を示すグラフである。
図6】(a)はマーク/スペースが続く電気信号の波形図、(b)は電気信号の平均電圧の推移を示すグラフ、(c)は平均電圧がしきい値を超えた期間において流される「多めの電流量 」と、平均電圧がしきい値を超えない期間において流される「通常の電流量 」とを示すグラフ。
図7】電流制御部8の行う、パワー検知部9を用いたフィードバック処理手順と、信号レベル検知部5を用いたフィードフォワード処理手順とを説明するためのフローチャートである。
図8】本発明の実施形態に係るアナログ制御回路を示す簡易回路図である。
図9】本発明の他の実施形態に係る光送信モジュール1を示すブロック図である。
図10】信号レベル検知部5の構成を示すブロック図である。
図11】電流制御部8における、信号電圧に合わせてSOA電流値を変化させる様子を示すグラフである。
図12A】電流制御部8の行う、パワー検知部9を用いたフィードバック処理手順と、信号レベル検知部5を用いたフィードフォワード処理手順とを説明するためのフローチャートである。
図12B】電流制御部8の行う、パワー検知部9を用いたフィードバック処理手順と、信号レベル検知部5を用いたフィードフォワード処理手順とを説明するためのフローチャートである( 図12Aの続き)。
図13】本発明の他の実施形態に係るアナログ制御回路を示す簡易回路図である。
図14】PON光通信システムの概略構成図である。
図15】PON光通信システムのブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図されている。
<制御手順(1)>
この制御手順(1)は、光変換する前の電気信号を分岐して解析し、電気信号のマーク/スペースの頻度が一定範囲を超えたら半導体光増幅器に電流を多めに注入する、という制御手順である。
【0024】
図2は、制御手順(1)を実施するための、本発明の実施形態に係る光送信モジュール1を示すブロック図である。光送信モジュール1は、信号分岐器2、遅延制御部3及び遅延制御部4、信号レベル検知部5、送信すべき電気信号を光信号に変換するE/O変換部6、光信号を増幅する半導体光増幅器7、送信する光信号の一部を取り出す光カプラ10、送信する光信号の強度を検知するパワー検知部9、並びにパワー検知部9で検知された光強度に基づき半導体光増幅器に流す電流を制御する電流制御部8を備えている。図1の従来の構成と比べると、信号分岐器2と、遅延制御部3,4と、信号レベル検知部5とが追加され、電流制御部8にフィードフォワード制御機能が追加されている。なお白抜きの矢印は光の伝送を、実線の矢印は電気信号の伝送を表わす(以下、同じ)。
【0025】
信号分岐器2は、入力されてくる電気信号(1,0から構成される)を分岐し、遅延制御部3及び遅延制御部4に提供する。遅延制御部3及び遅延制御部4は、分岐された信号のうち、E/O変換部6に提供する信号と、信号レベル検知部5に提供する信号との時間差を調整する。すなわちE/O変換部6を経て半導体光増幅器7に入射される光信号に対して、当該光信号を制御する制御電流が同じ時刻・同じタイミングで作用するように、前記時間差を調整する。
【0026】
パワー検知部9の構成を、図3に示す。パワー検知部9は、光カプラ10で分離された半導体光増幅器7の光出力の一部をフォトダイオードPD91で受信し、フォトダイオードPDで発生した検知電流を変換部92でI/V変換して電圧信号に変え、ローパスフィルタ93を通して電流制御部8のA/Dコンバータに供給する。
信号レベル検知部5の構成を、図4に示す。信号レベル検知部5は、同図のように2種類のピークホールド回路51,52とローパスフィルタ53とを備えている。電気信号は分岐され、マークレベルピークホールド回路51によって、遅延制御部4から受け取る電気信号のマーク部分(High, 1)の電圧が検知され、スペースレベルピークホールド回路52によって、遅延制御部4から受け取る電気信号のスペース部分(Low, 0)の電圧が検知され、ローパスフィルタ53によって、マーク部分(High,1)とスペース部分(Low, 0)の平均電圧が検知される。ローパスフィルタ53の時定数は電気信号を構成する1〜複数ビット分の電気信号の値を平均化する程度のものが望ましい。このようにして信号レベル検知部5は、 遅延制御部4から入力される電気信号のマーク/スペース電圧と平均電圧とを検知し、電流制御部8に入力することができる。
【0027】
なお、ローパスフィルタは信号パターンの偏り、すなわちマーク信号もしくはスペース信号の偏りを検知する目的で使用するものなので、同じ目的を持つ他の回路(例えば、一定期間ごとのマーク信号のビット数を数えるデジタルカウンタ回路)に置き換えても構わない。
電流制御部8は信号レベル検知部5から受ける3種類の電圧をA/Dコンバータで受けて、そのディジタル値を記憶するとともに、パワー検知部9から受ける電圧をA/Dコンバータで受けて(図3参照)、そのディジタル値を記憶する。
【0028】
次に電流制御部8の制御処理手順を説明する。電流制御部8は信号レベル検知部5から取得する電圧値と、パワー検知部9から取得する電圧値とについて、それぞれ処理を行う。
(1) 光パワーに基づくフィードバック処理
半導体光増幅器7の光出力パワーと半導体光増幅器7に流れるSOA電流との関係は、図5のグラフに示すように、SOA電流量を上げていくと光出力パワーが飽和する関係にある。そこで電流制御部8は電源投入時の初期化処理として、パワー検知部9から受ける電圧を監視しながらSOA電流を変えていき、光出力パワーが飽和する最小のSOA電流量を検知し、これを「通常の電流量」とする。この値は例えば150mAとする。
【0029】
その後電流制御部8はパワー検知部9から受ける電圧を定期的に監視してパワーが一定になるようにSOA電流を微調整し、「通常の電流量」を更新する。
なお、「通常の電流量」は半導体光増幅器7の光出力パワーを実際に測定しなくても、半導体光増幅器7のデータシートに出力飽和に至る電流量が記載されている場合(例えば「出力変動が0.1dB(約2%)以下になる電流量」などと定義されている場合)、この値を「通常の電流量」として決定することもできる。
【0030】
このように、「通常の電流量」を出力パワーが飽和する領域に設定する理由は、電流を増減させる時に一緒にパワーも変動しないようにして、パターン効果以外での波形の歪を抑えるためである。
(2) 信号レベルに基づくフィードフォワード処理
電流制御部8は電源投入時の初期化処理として、信号レベル検知部5から受ける電気信号のマーク電圧、スペース電圧、平均電圧を参照する。平均電圧が、一定範囲(マークレベル=スペースレベル間を100としたとき、例えば0〜80の範囲)から外れているかどうかを判定する(100を超えることも、0より小さくなることも理論上あり得ない)。一定の範囲から外れていれば、すなわち、 平均電圧がマークレベル=スペースレベル間を100としたとき、80を超えていれば、マークレベルが長期間連続している、あるいは密集していると判断できる。そこで、キャリア密度を補うため、半導体光増幅器7に流す電流を「通常の電流量」から「多めの電流量」へと変更する。この「多めの電流量 」という値は例えば250mAである。「多めの電流量 」と「通常の電流量」との差(シフト量;この例では100mA)あるいは比(この例では1.67)は、今後の運用実績により任意に変更できる。
【0031】
図6(a)は、電気信号の波形図であり、マーク/スペースが続く様子を示している。図6(b)は電気信号の平均電圧の推移を示し、 マークレベル−スペースレベル間を100としたとき、80に相当するレベル(しきい値)を破線で示す。平均電圧がこのしきい値を超えた期間を斜線でハッチングしている。図6(c)は平均電圧が前記しきい値を超えた期間において流される「多めの電流量 」と、平均電圧が前記しきい値を超えない期間において流される「通常の電流量 」を示す。
【0032】
以上に説明した電流制御部8の行う、パワー検知部9を用いたフィードバック処理手順と、信号レベル検知部5を用いたフィードフォワード処理手順とをまとめてフローチャートに描いたものを、図7に示す。
このフローチャートに沿って説明していく。電流制御部8が起動されると、信号レベル検知部5で電気信号のピークレベル(マークレベル)を測定する(ステップS1)。
【0033】
次に、E/O変換部6の初期設定処理を行う。まずSOA電流を「初期値」(0又は0に近い値)に設定し(ステップS2)、パワー検知部9で光出力パワーに相当する電圧を測定する(ステップS3)。SOA電流を徐々に大きくしていくと(ステップS4)、光出力パワーに相当する電圧が増加していくが(ステップS5)、図5に示すように、当該電圧の増加量が少なくなってきた、若しくは若干減少に転じた時点で半導体光増幅器7が出力飽和に達したと判断し、当該SOA電流を「通常の電流量」として記憶する(ステップS6)。以上でE/O変換部6の初期設定処理が終了する。
【0034】
なお、「通常の電流量」を決定するためのステップS2〜S6のような実測に基づく処理は必ずしも必須ではなく、前述したように「通常の電流量」をカタログ値などから決定しても良い。
次に、パワー検知部9で検知された光強度に基づき半導体光増幅器に流すSOA電流を更新する。すなわち電流制御部8は、一定の時間間隔で、パワー検知部9で光出力パワーに相当する電圧を測定し(ステップS7)、その変化を調べる(ステップS8)。過去の測定値、あるいは過去の複数回の測定値の平均値と比べて一定量以上の減少があれば、SOA電流を増加させて(ステップS9)、パワー検知部9で検知される電圧の変化を調べる(ステップ10)。図5に示すように、当該電圧の増加量が少なくなってきた、若しくは若干減少に転じた時点で半導体光増幅器7が出力飽和に達したと判断し、当該SOA電流を「通常の電流量」として更新する(ステップS11)。このように、電流制御部8は、半導体光増幅器7が出力飽和に達する「通常の電流量」を監視し、常に更新している。
【0035】
さらに電流制御部8は、前記フィードバック制御を実行するとともに、本発明に従い、信号レベル検知部5で検知された信号電圧に基づき半導体光増幅器に流すSOA電流をフィードフォワード制御する。このため、一定の時間間隔(前記「一定の時間間隔」と同じでもよく、違っていてもよい。)で、信号レベル検知部5で電圧(マークレベル、スペースレベル、平均電圧 )を測定し(ステップS12)、平均電圧 がマークレベル=スペースレベル間を100としたとき、例えば80に相当するレベル(しきい値)を超えているかどうかを判定する(ステップS13)。超えていなければ、半導体光増幅器7の電流量は「通常の電流量」のままとする(ステップS14)。超えていれば、マークレベルが長期間連続している、あるいは密集している等のため、キャリア密度が不足するおそれがあると判断し、キャリアを補うため、半導体光増幅器7の電流を 「通常の電流量」から「多めの電流量」へと変更する(ステップS15)。
【0036】
今まで説明してきた処理の例では、アナログの電圧をディジタル変換して電流制御部8に入力し、電流制御部8の機能を実現するために記憶媒体に書きこまれたプログラムをCPUで処理するという手法を用いてきたが、それぞれ同じ機能をアナログ制御回路で実現しても良い。アナログ制御回路の例を図8に示す。
半導体光増幅器7から出力される光信号の一部はカプラ10で分岐され、フォトダイオードPDで受光される。フォトダイオードPDには、「通常の電流値」を決める抵抗R1が直列に挿入されている。フォトダイオードPDに光が入射し、電流が流れると、この抵抗R1に電流と抵抗値との積に応じた電圧が発生する。発生した電圧はオペアンプOP3によって反転され、オペアンプOP2を通して、SOA電流を制御するトランジスタQ2のベース・エミッタ間に供給される。フォトダイオードPDに大きな電流が流れると、トランジスタQ2のエミッタ電流は小さくなりトランジスタQ2は遮断され、フォトダイオードPDに小さな電流が流れると、トランジスタQ2のエミッタ電流は大きくなりトランジスタQ2は導通する。このようにして、半導体光増幅器7にフィードバックがかかり、半導体光増幅器7に「通常の電流値」に相当する電流が常時流れるようになる。
【0037】
一方、遅延制御部 4から入力される電気信号は、抵抗とキャパシタからなるローパスフィルタLPFを通り、電流切り替えのしきい値を決める第一の分圧回路DIV1からの一定電圧信号とともに、コンパレータCOMに入力される。ローパスフィルタLPFを通った電気信号の電圧は前記「平均電圧 」に相当し、第一の分圧回路DIV1の電圧は前記「しきい値」に相当する。第一の分圧回路DIV1の抵抗R3は、そのしきい値を設定するための抵抗である。この「平均電圧 」が「しきい値」を超えた期間のみコンパレータCOMの出力電位が上がる。コンパレータCOMの出力側には、第二の分圧回路DIV2が接続されている。第二の分圧回路DIV2の電圧は「通常の電流量」から「多めの電流量」へと増加する際の差分量を決定する。第二の分圧回路DIV2の抵抗R2は、その差分量を設定するための抵抗である。コンパレータCOMの出力電位が上がると、第二の分圧回路DIV2の抵抗R2に抵抗値に応じた分圧電圧が発生する。発生した電圧はオペアンプOP1を通して、SOA電流を制御するトランジスタQ1のベース・エミッタ間に供給され、トランジスタQ1は導通する。この結果、「通常の電流量」から「多めの電流量」へと増加する際の差分量に相当する電流がトランジスタQ1を通して半導体光増幅器7に流され、結局、トランジスタQ2を流れる「通常の電流値」と合計され、「多めの電流量」に相当する電流が半導体光増幅器7に流される。
【0038】
なお、コンパレータCOMは閾値付近での振動を避けるためにシュミットトリガーの機能を持ったものが望ましい。またSOA電流量が一定量を超えないように、半導体光増幅器7に電流リミッターを設けてもよい。出力飽和領域になると半導体光増幅器7の出力パワーの変動が小さく、逆に出力が微小に減少する場合もあり、電流を「パワーが減ると足す」制御を行っていると出力飽和領域でうまく電流が止まってくれないで正のフィードバックがかかる可能性がある。そこでSOA電流が大きくなりすぎて半導体光増幅器7を壊してしまうのを避けるために電流リミッターを設けることが好ましい。
【0039】
<制御手順(2)>
この制御手順(2)は、光変換する前の電気信号を分岐して解析し、電気信号のマーク/スペース信号に同期させてスペース信号のときは半導体光増幅器の電流を所定量注入し、マーク信号のときは半導体光増幅器に電流を前記所定量と異なる量を注入する、という制御手順である。
【0040】
図9は、この制御手順(2)を実施するための、本発明の実施形態に係る光送信モジュール1を示すブロック図である。図2の光送信モジュール1との相違点のみ説明すると、信号分岐器2と遅延制御部4との間に、位相反転部12が挿入されていることと、信号レベル検知部5の検知機能と、電流制御部8の処理内容が違っていることである。
位相反転部12は信号分岐器2から入力される電気信号の位相を反転もしくは反転させないで遅延制御部4に提供する。反転させた場合、電気信号のマーク/スペースが入れ替わる。信号レベル検知部5は、図4を用いて説明したようなピークホールド回路、ローパスフィルタを持たず、図10に示すように、しきい値レベルと比較することにより、マーク信号とスペース信号とを識別する高速の2値化回路54を備えている。この識別の結果、マーク電圧、スペース電圧を、ビットごとに検知することができる。パワー検知部9は図4と同一構成・同機能である。
【0041】
次に電流制御部8の制御処理手順を説明する。電流制御部8は信号レベル検知部5から取得する電圧値と、パワー検知部9から取得する電圧値とに基づいて、それぞれ処理を行う。
(1) 光パワーに基づくフィードバック処理
図5では、光出力パワーが飽和する「通常の電流量」を決定しているが、本処理では、「通常の電流量」を決定し、さらに「通常の電流量」よりも小さな所定の「少なめの電流量」を決定する。すなわち電流制御部8は、起動時に「少なめの電流量」を決定し、その後もパワー検知部9から受ける電圧を定期的に監視してSOA電流を微調整し、「少なめの電流量」を更新する。例えば、「少なめの電流量」は100mAとする。この「少なめの電流量」の設定基準は後述する。
【0042】
(2) 信号レベルに基づくフィードフォワード処理
電流制御部8は電源投入時の初期化処理として、信号レベル検知部5から受ける電気信号のマーク電圧とスペース電圧とを参照して、2値化回路54のしきい値(制御手順(2)では、制御手順(1)と区別するために「しきい値」に代えて「スレッショルド」という言葉を用いる)電圧をまず決める。
【0043】
その後は、図11に示すように、信号電圧に合わせてSOA電流値を変化させる。例えば、位相反転部12で信号分岐器2から入力される電気信号の位相を反転させる構成の場合、反転後のマーク信号の期間では「少なめの電流量」に設定し、反転後のスペース信号の期間ではキャリア密度を補うため半導体光増幅器の電流を「少なめの電流量」より大きい「多めの電流量」に変更する。
【0044】
「多めの電流量」の決定方針は限定されないが、例えば図5でいうところの光出力パワーが同じ高さになる電流量のうち最も大きな電流量、もしくは半導体光増幅器を壊さない最大電流量の、オーバーシュートを考慮した9割程度の電流量としてもよい。例えば「多めの電流量」は250mAとする。
また「少なめの電流量」については、「通常の電流量」と「少なめの電流量」との大きさの関係が、例えば、「少なめの電流量」+「多めの電流量」=2×「通常の電流量」となるようにすればよい。しかしこの式を用いて決定する方法は一例であって、この決定方法に限定されるものではない。例えば出力が通常の電流量 (飽和出力)より所定比率(xdB)低い値となる電流値を「少なめの電流量」と定めることもできる。この所定比率の”x”をあまり大きく設定すると、図5にもあるように、SOA電流に対するパワーの変動率が大きな領域に嵌ってしまい、波形の歪みが大きくなる。そこで、パワーの変動があまり大きくならない領域になるように、所定比率の”x”は例えば”2”程度の値に設定するとよい。
【0045】
なお、信号分岐器2から入力される電気信号の位相を反転させない構成の場合(この場合位相反転部12は存在しなくてもよい)、スペース信号の期間では「少なめの電流量」に設定し、マーク信号の期間ではキャリア密度を補うため半導体光増幅器7の電流を「少なめの電流量」より大きい「多めの電流量」に変更する。
以上に説明した電流制御部8の行う、パワー検知部9を用いたフィードバック処理手順と、信号レベル検知部5を用いたフィードフォワード処理手順とをまとめてフローチャートに描いたものを、図12A図12Bに示す。この手順では、位相反転部12を用いて信号分岐器2から入力される電気信号の位相を反転させていることを前提とする。
【0046】
電流制御部8が起動されると、信号レベル検知部5で電気信号のマークレベル、スペースレベルを測定し、これらの中間に該当するスレッショールドレベルを調整する(ステップT1)。
次に、E/O変換部6の初期設定処理を行う。まずSOA電流を0又は0に近い値「初期値」に設定し(ステップT2)、パワー検知部9で光出力パワーに相当する電圧を測定する(ステップT3)。SOA電流を徐々に大きくしていくと(ステップT4)、光出力パワーに相当する電圧が増加していくが(ステップT5)、図5に示すように、当該電圧の増加量が少なくなってきた、若しくは若干減少に転じた時点で半導体光増幅器7が出力飽和に達したと判断し、当該SOA電流を「通常の電流量」として記憶する(ステップT6)。なお、「通常の電流量」の決定方針として、制御手順(1)のところで述べたように「通常の電流量」をカタログ値などから決定しても良い。
【0047】
次に前述した方針に沿って、「多めの電流量」を決定し(ステップT7)、「少なめの電流量」を決定する(ステップT8)。以上でE/O変換部6の初期設定処理が終了する。
次に、パワー検知部9で検知された光強度に基づき半導体光増幅器に流すSOA電流を更新する。すなわち電流制御部8は、一定の時間間隔で、パワー検知部9で光出力パワーに相当する電圧を測定し(ステップT9)、その変化を調べる(ステップT10)。過去の測定値、あるいは過去の複数回の測定値の平均値と比べて一定量以上の減少があれば、SOA電流を増加させて(ステップT11)、パワー検知部9で検知される電圧の変化を調べる(ステップT12)。当該電圧の増加量が少なくなってきた、若しくは最高値から若干減少に転じた時点で、半導体光増幅器7が出力飽和に達したと判断し、当該SOA電流を「通常の電流量」として更新する(ステップT13)。さらに前述した方針に沿って、「多めの電流量」を決定、「少なめの電流量」を決定する(ステップT14)。このように、電流制御部8は、半導体光増幅器7が出力飽和に達する電流量を監視し、常に更新している。
【0048】
さらに電流制御部8は、前記フィードバック制御を実行するのと並行して、本発明に従い、信号レベル検知部5で検知された反転後の信号電圧に基づき、半導体光増幅器半導体光増幅器に流すSOA電流をフィードフォワード制御する。このため、一定の時間間隔(前記「一定の時間間隔」と同じでもよく、違っていてもよい。)で、信号レベル検知部5で電圧を測定し(ステップT15)、スレッショールドレベルを超えているかどうかを判定し(ステップT16)、超えていなければ、反転後のマーク信号の期間であると判定して、半導体光増幅器7の電流を「少なめの電流量」に設定する(ステップT17)。超えていれば、反転後のスペース信号の期間であると判断して、キャリアを補うため、半導体光増幅器7の電流を「多めの電流量」へと変更する(ステップT18)。
【0049】
今まで説明してきた処理の例では、アナログの電圧をディジタル変換して電流制御部8に入力し、電流制御部8の機能を実現するために記憶媒体に書きこまれたプログラムをCPUで処理するという手法を用いてきたが、それぞれ同じ機能を実現するために、アナログ制御回路を用いても良い。
アナログ制御回路の例を図13に示す。信号分岐器2から位相反転されて出力される電気信号は、遅延制御部4を通って反転回路41に入り、反転回路41で2つに分かれ、一方はその信号のまま、他方は位相反転されて高速差動電流回路13につながる。高速差動電流回路13は2つのトランジスタを用いて差動増幅する回路である。
【0050】
高速差動電流回路13では、信号分岐器2から位相反転されて出力された電気信号(a点)がスペースレベルの場合のみ半導体光増幅器7に電流が流れる経路71が導通し、信号分岐器2から位相反転されて出力された電気信号(a点)がマークレベルの場合、半導体光増幅器7に電流が流れる経路71が遮断される構成になっている。
半導体光増幅器7に電流が流れる前記経路71には、トランジスタQ1(コレクタ−エミッタ間)が挿入されている。トランジスタQ1のベースには、「多めの電流量」を流すために、「少なめの電流量」に追加する追加電流量を決める第三の分圧回路DIV3が接続されている。この第三の分圧回路DIV3の分圧電圧は、オペアンプOP1を通してSOA電流を制御するトランジスタQ1のベース・エミッタ間に供給され、トランジスタQ1に前記分圧電圧に応じた電流を流す。
【0051】
一方、半導体光増幅器7から出力される光信号の一部はカプラで分岐され、フォトダイオードPDで受光される。フォトダイオードPDには、「少なめの電流値」を決める抵抗R4が直列に挿入されている。フォトダイオードPDに光が入射し、電流が流れると、この抵抗R4に電流と抵抗値との積に応じた電圧が発生する。発生した電圧は発生した電圧はオペアンプOP3によって反転され、オペアンプOP2を通して、SOA電流を制御するトランジスタQ2のベース・エミッタ間に供給される。フォトダイオードPDに大きな電流が流れると、トランジスタQ2のエミッタ電流は小さくなりトランジスタQ2は遮断され、フォトダイオードPDに小さな電流が流れると、トランジスタQ2のエミッタ電流は大きくなりトランジスタQ2は導通する。このようにして、半導体光増幅器7にフィードバックがかかり、半導体光増幅器7に「少なめの電流値」に相当する電流が経路72に常時流れるようになる。
【0052】
この結果、信号分岐器2から位相反転されて出力された電気信号(a点)がスペースレベルの場合のみ、「少なめの電流量」から「多めの電流量」へと増加する際の差分量に相当する電流が半導体光増幅器7に流され、結局、トランジスタQ2を流れる「少なめの電流値」と合計され、「多めの電流量」に相当する電流が半導体光増幅器7に流される。
なお、「少なめの電流値」の制御回路については、電流量が一定量を超えないようにリミッターを設けてもよい。出力飽和領域になると半導体光増幅器7の出力パワーの変動が小さく、逆に出力が微小に減少する場合もあり、電流を「パワーが減ると足す」制御を行っていると出力飽和領域でうまく電流が止まってくれないで正のフィードバックがかかる可能性がある。そこでSOA電流が大きくなりすぎて半導体光増幅器7を壊してしまうのを避けるために電流リミッターを設けることが好ましい。
【0053】
<遅延制御部 について>
以上の2つの制御手順(1)(2)で用いられる遅延制御部3,4の機能を詳細説明する。
遅延制御部は、基本的には、半導体光増幅器7に入射される光信号に対して、どのタイミングでSOA電流を増減させるかを決める。
【0054】
具体的には遅延制御部は、半導体光増幅器7に入射されるE/O変換部6からの光信号の増減と、信号レベル検知部5で測定される値(本発明の制御手順(1)では平均値、制御手順(2)ではビットごとの値)の増減のタイミングが一致するように、進み又は遅れ(遅延値)を調整する。この調整により、半導体光増幅器7の内部でのキャリアの増減が光信号のパターンと一致するようになる。
【0055】
遅延値の調整方法は、E/O変換部6出力から分離する、パワー検知部9で取得した値から推定して遅延の微調整を行うなどで遅延時間を決めてもよいし、半導体光増幅器7の出力波形を見ながらパターン効果が改善されるよう遅延時間を調整しても良い。
なお、制御方法(2)ではスペース信号の時に「少なめの電流量」、マーク信号の時に「多めの電流量」を入れるようにしていたが、スペース信号の時に「多めの電流量」、マーク信号の時に「少なめの電流量」を入れるようにしても良い。
【0056】
このように「多めの電流量」と「少なめの電流量」との注入するタイミングを逆にする効果は次のとおりである。
制御方法(2)では、E/O変換部6に送る信号と同相の信号を参照することによりタイミングを調節して、マーク信号が来るタイミングで、半導体光増幅器7に「多めの電流量」を注入することで、消費するキャリアを補うことを狙っている。
【0057】
しかし半導体光増幅器内部のキャリア(電子と正孔)の寿命は元々短く(数ナノ秒)、入射光が小さいスペース信号が長く続くと自然に減少してしまう。例えば、10Gbpsのレート下では、スペース信号が続く状態が数十ビット続くと、数ナノ秒経過する。PONの宅側装置から送信されるようなバースト状の信号(間欠的にデータが来るのでスペース信号の方が圧倒的に多い信号)では、その数倍から数十倍の時間が経過する。その状態でマーク信号が来た場合はSOA内部のキャリアが減少した状態からの増幅になり、増幅光の立ち上がりが鈍くなる。
【0058】
そこで、マーク信号ではなくあえてスペース信号の時に「多めの電流量」を注入しておいて、マーク信号が来た時に備えておくようにすることも意味がある。これによって、「スペース信号が数十ビット続いた後に1ビットだけマーク信号が来た」場合などに、キャリア不足で立ち上がりが悪くなるのを防ぐことができ、波形の歪を抑えることができる。
この「電気信号のスペース信号に合わせてSOAに『多めの電流量』を注入する」という動作を実現するには、遅延制御部4(図9図13)の内部に電気信号の正逆を反転する仕組みを持たせるとよい。
【0059】
次に、本発明の光送信モジュール1が適用されるPON(Passive Optical Network)光通信システムについて説明する。
図14は、PON光通信システムの構成例を示す概略図である。
PON光通信システムは、局舎に備えられる局側装置OLTと複数の加入者に備えられる宅側装置ONUとが、光ファイバ及び光分岐器を介して接続されている。
【0060】
宅側装置ONUは、加入者宅内に設置されるパーソナルコンピュータなどで光ネットワークサービスを享受するための端末を接続するネットワークインタフェースを有している。
光分岐器は、特に外部からの電源供給を必要とせず入力された信号から受動的に信号を分岐・多重するスターカプラで構成されている。
【0061】
局側装置OLT及び光分岐器、光分岐器及び宅側装置ONUを接続している光ファイバは、それぞれ1本(上り下りあわせて2本)のシングルモードファイバを用いている。つまり、1台の局側装置OLTは、1本の幹線光ファイバを通して光分岐器に接続されている。そして光分岐器は、M台(Mは1以上の整数)の宅側装置ONUと、支線光ファイバで接続されている。よって、1局の局側装置OLTが送受する信号は、光分岐器によって、M台の宅側装置ONUに分配される。
【0062】
本発明の実施形態の光通信システムは、前記PON光通信システムに、イーサネット(イーサネット(Ethernet)は、登録商標である)の技術を取り込み、高速で光ファイバのアクセス区間通信を実現するGE−PON(Gigabit Ethernet-Passive Optical Network)方式若しくは10G−EPON方式を採用している。
前記GE−PON方式若しくは10G−EPON方式に従えば、局側装置OLT及び宅側装置ONUの相互の通信は、可変長なフレームを単位として行われる。
【0063】
まず、上位のネットワークから放送形態で各局側装置OLTに入ってくる下りフレームは、局側装置OLTにおいて所定の処理が行われ、中継されるべき論理リンク(MPCPリンクという)が特定される。そして、局側装置OLTを通して、光信号として光ファイバに送信される。光ファイバに送信させた光信号は、光分岐器で分岐され、光分岐器につながる宅側装置ONUに送信されるが、フレームの宛先アドレスに基づき、当該MPCPリンクを構成する宅側装置ONUのみが所定の下りフレームを取り込み、フレームを宅内ネットワークインタフェースに中継する。
【0064】
一方、上り光信号には、それぞれの宅側装置ONUからの上りフレームが含まれている。上り光信号は、それぞれの宅側装置ONUからの光信号どうしが互いに時間的に競合しないように送信される必要がある。そのために、局側装置OLTは、各宅側装置ONUに対して上り光信号を送信してもよい期間ウインドウ(以下、単にウインドウという)を割り当て、上り帯域割当用制御フレームとして通知する。ウインドウを割り当てられた宅側装置ONUは、その割り当てられたウインドウ期間に上り光信号を送信する。この上り光信号を「バースト光信号」という。バースト光信号は、各宅側装置ONUから送信され、ベースバンド信号で発光状態を変調した、有限時間の光信号列である。
【0065】
したがって、各宅側装置ONU間の上り光信号の競合は回避される。各宅側装置ONUは、あるウインドウが与えられたとき、そのウインドウに収まる限りフレームを連続して送信してよい。そして、局側装置OLTは、各宅側装置ONUからの一連のフレーム信号を含んだバースト光信号を受信することができる。
図15は、PON光通信システムの詳細なブロック構成図である。局側装置OLTに対して、宅側装置ONUを1台のみ描いている。
【0066】
宅側装置ONUは、光合分波器27、光送信装置25、光受信装置28、上位処理系(コンピュータ)29を備えている。局側装置OLTは、光合分波器37、光送信装置35、光受信装置38、上位処理系(コンピュータ)39、光送信装置35のための通信端末36を備えている。
本発明の光送信モジュール1は、宅側装置ONU、局側装置OLTの光送信装置25,30にそれぞれ搭載されている。以下、宅側装置ONUに搭載されているものを「光送信モジュール1A」、局側装置OLTに搭載されているものを「光送信モジュール1B」という。
【0067】
また宅側装置ONUの光送信装置25は、光送信モジュール1Aとともに 、光送信モジュール1A からの発光を強度変調するEA変調素子(EAMと表示)を備えている。局側装置OLTの光送信装置35は、光送信モジュール1Bとともに、EA変調素子を備えている。
局側装置OLTの光送信モジュール1Bからの発光は、EA変調素子により強度変調され、光合分波器37を介して、PONに出力される。この光は光合分波器27を通して、全ての宅側装置ONUに同時に入力される。このとき宛先とされた宅側装置ONUのみが下りデータを取得できることは、前述したとおりである。宅側装置ONUの光送信モジュール1Aからの発光は、EA変調素子により強度変調され、光合分波器27を介して、PONに出力される。この光は光合分波器37を通して、局側装置OLTに入力される。
【0068】
宅側装置ONUの光送信モジュール1A、局側装置OLTの光送信モジュール1Bの両方が本発明の光送信モジュール1であってもよく、何れか一方のみが、本発明の光送信モジュール1であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 光送信モジュール
2 信号分岐器
3,4 遅延制御部
5 信号レベル検知部
6 E/O変換部
7 半導体光増幅器
8 電流制御部
9 パワー検知部
10 光カプラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15