(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160861
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】ハンダ付フラックス用ベース樹脂、ハンダ付フラックスおよびソルダペースト
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20170703BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-124293(P2013-124293)
(22)【出願日】2013年6月13日
(65)【公開番号】特開2014-14867(P2014-14867A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2016年5月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-133522(P2012-133522)
(32)【優先日】2012年6月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】舟越 靖
(72)【発明者】
【氏名】中谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉本 哲也
【審査官】
大畑 通隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−224652(JP,A)
【文献】
特開平05−271621(JP,A)
【文献】
特開昭50−051856(JP,A)
【文献】
特表2011−521980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
C09F 1/00− 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラッシュ松に由来するロジン(a−1)および/またはメルクシ松に由来するロジン(a−2)を50重量%以上含有するロジン類(A’)のガードナー色調が2以下である、水素化物および/または不均化物(A)からなるハンダ付フラックス用ベース樹脂。
【請求項2】
(A)成分の酸価が150〜190mgKOH/gである、請求項1のハンダ付フラックス用ベース樹脂。
【請求項3】
(A)成分の軟化点が70〜90℃である、請求項1又は2のハンダ付フラックス用ベース樹脂。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかのハンダ付フラックス用ベース樹脂、フラックス用溶剤(B)およびチキソトロピック剤(C)、ならびに必要に応じて活性剤(D)を含有するハンダ付フラックス。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかのハンダ付フラックス用ベース樹脂、フラックス用溶剤(B)および必要に応じて活性剤(D)を含有し、かつチキソトロピック剤(C)を含有しないハンダ付フラックス。
【請求項6】
請求項4のハンダ付フラックス及びハンダ粉末を含有するソルダペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハンダ付フラックス用ベース樹脂、ハンダ付フラックスおよびソルダペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板の表面実装は通常、回路基板上の電極に、フラックスとハンダ粉末の混合物であるソルダペーストを、スクリーン印刷やディスペンサー吐出等の方法で供給し、その上にコンデンサー等の電子部品を搭載した後、当該回路基板をリフロー炉内で加熱してハンダ粉末を溶融させ、電子部品と電極とを接合することにより行われる。
【0003】
フラックスのベース樹脂としては従来天然ロジンが賞用されてきたが、天然ロジンは非常に酸化されやすく、加熱下に容易に変色するなど熱安定性に劣る。そのため、天然ロジンをフラックスのベース樹脂とした場合、ハンダ接合部に生ずる残渣に強い着色が生じて後の検品または洗浄が困難になったり、クラックが発生してマイグレーション現象が誘発されたりする。なお、こうした問題は、融点が高い鉛フリーハンダ粉末を使用する場合において特に深刻化する。
【0004】
そこで斯界では、天然ロジンに代えて熱安定性に優れる所謂水添ロジンや不均化ロジン(特許文献1、2参照)が利用されることもあったが(特許文献3参照)、本発明者の検討により、それらの原料となる天然ロジンの樹種が異なるときに、フラックスの流動性やソルダペーストの粘度が経時的に大きく低下したり、ソルダペーストについてはその粘着性が失われたりする場合があることが見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−271622号公報
【特許文献2】特開平6−329991号公報
【特許文献3】特開平11−73869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ハンダ付フラックスの流動性ならびにソルダペーストの粘度安定性および粘着性を改善し、かつフラックス残渣の色調および耐クラック性も良好なものとする、新規なハンダ付フラックス用ベース樹脂を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の松種より得られるロジンを淡色化処理したものが前記課題を解決可能なベース樹脂足りえることを見出した。
【0008】
即ち本発明は、スラッシュ松に由来するロジン(a−1)および/またはメルクシ松に由来するロジン(a−2)を
50重量%以上含有するロジン類(A’)
のガードナー色調が2以下である、水素化
物および/または不均化
物(A)からなるハンダ付フラックス用ベース樹脂、当該ベース樹脂を含有するハンダ付フラックス、ならびに当該ハンダ付フラックス及びハンダ粉末を含有するソルダペースト、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のベース樹脂によれば、ハンダ付フラックスの流動性ならびにソルダペーストの粘度安定性および粘着性が改善される。また、当該ベース樹脂は熱安定性に優れており、フラックス残渣の色調および耐クラック性も改善される。
【0010】
また、本発明のハンダ付フラックスは、室温で長時間保存した後も流動性が保たれており、これによりソルダペーストの粘度安定性および粘着性、ならびにハンダ付け性(濡れ性)も良好となる。また、ハンダ付け後に生ずるフラックス残渣の色調も良好であるため、例えば検品作業が容易となり、洗浄工程を省略することも可能となる。また、フラックス残渣にクラックが生じ難いことから、水分の付着に伴うマイグレーション等、回路の電気信頼性に関わる問題も生じ難くなる。
【0011】
また、本発明のソルダペーストは経時の粘度安定性に優れており、長期保存に適しているだけでなく、その粘着力も良好であり、しかもその経時的な変化幅が小さい。また、ハンダ付け性(濡れ性)も良好であり、ハンダ付け後に生ずるフラックス残渣の色調および耐クラック性も良好である。
【0012】
なお、本発明に係る生成物(A)は、ソルダペースト用のフラックスのベース樹脂としてのみならず、プレフラックスまたはポストラックス(ディップハンダ付用フラックス)、ヤニ入りハンダ、糸ハンダ等におけるフラックスのベース樹脂としても有用である。特に、本発明のベース樹脂を含むポストフラックスは、経時安定性に優れ、ハンダ付け性が良好であり、ハンダ付け後に生ずるフラックス残渣の色調が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のハンダ付フラックス用ベース樹脂は、スラッシュ松に由来するロジン(a−1)(以下、「(a−1)成分」という。)および/またはメルクシ松に由来するロジン(a−2)(以下、「(a−2)成分」という。)を含有するロジン類(A’)(以下、「(A’)成分」という。)
のガードナー色調が2以下である、水素化
物および/または不均化
物(A)(以下、「(A)成分」という。)である。
【0014】
スラッシュ松(Pinus elliottii)とは、アメリカ合衆国南東部を主な原産地とするマツ科の植物であり、現在は、中国や東南アジア、タイなどでも植林されている。また、特に中国を産地とするスラッシュ松は、湿地松と別称されることがある。
【0015】
(a−1)成分は、前記スラッシュ松に由来するロジン類であれば特に限定されず、例えば、スラッシュ松から採取された生松脂や、これを蒸留・精製してなるガムロジン、スラッシュ松材を使用して得られるトール油ロジン、ウッドロジン等が挙げられる。
【0016】
また、メルクシ松(Pinus merukusii)とは、東南アジアを主な原産地とするマツ科の植物であり、ベトナム、カンボジア、インドネシア等で生育している。また、ラオスを産地とするメルクシ松は、ラオス松と別称されることがある。
【0017】
(a−2)成分は、前記メルクシ松に由来するロジン類であれば特に限定されず、例えば、メルクシ松から採取された生松脂や、これを蒸留・精製してなるガムロジンや、メルクシ松材を使用して得られるトール油ロジン、ウッドロジン等が挙げられる。
【0018】
(A’)成分には、前記スラッシュ松や前記メルクシ松以外の松に由来するロジン類(a−3)(以下、「(a−3)成分」という。)が含有されていてもよい。そのような松としては、馬尾松(Pinus
massoniana)、雲南松(Pinus yunnanensis)、樟子松(Pinus sylvestris var. mongolica)、アレッポ松(Pinus
halepensis)等が挙げられる。
【0019】
(A’)成分中における(a−1)成分および/または(a−2)成分の含有量は
、本発明の所期の効果を考慮すると、通常は50重量%以上、好ましくは60〜100重量%程度である。また、(a−3)成分の含有量は50重量%未満、好ましくは40〜0重量%程度である。
【0020】
(A)成分は、(A’)成分を各種公知の方法で精製し、更に水素化反応および/または不均化反応させることにより得られる。なお、(a−1)成分および(a−2)成分を用いる場合や、さらに(a−3)成分を用いる場合、それらを混合したものを(A’)成分としてよい。
【0021】
前記精製工程としては、各種公知の方法、例えば蒸留法、抽出法、再結晶法等を採用することができる。蒸留法は、例えば、通常200〜300℃程度の温度、0.01〜3kPa程度の減圧下で実施することができる。また、抽出法では、(A’)成分(原料ロジン)をアルカリ水溶液とし、不溶性の不ケン化物を各種の有機溶媒により抽出した後に水層を中和すればよい。また、再結晶法では、(A’)成分を良溶媒としての有機溶媒に溶解し、ついで溶媒を留去して濃厚な溶液となし、更に貧溶媒としての有機溶媒を添加する方法が挙げられる。
【0022】
前記水素化反応としては、各種公知の方法を採用できる。具体的には、水素化触媒の存在下で(A’)成分を水素化反応させればよい。なお、反応温度は通常100〜300℃程度であり、水素圧は1〜25MPa程度であり、反応時間は1〜10時間程度である。また、水素化触媒としては例えばパラジウム、ロジウム、ルテニウム、白金等をカーボン、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ゼオライト等に担持した担持触媒;ニッケル、白金等の金属粉末;ヨウ素、ヨウ素化鉄等のヨウ素化物;等が挙げられる。水素化触媒の使用量は(A’)成分に対して通常0.01〜10重量%程度である。
【0023】
前記不均化反応としては、各種公知の方法を採用できる。具体的には、不均化触媒の存在下で(A’)成分を不均化反応させればよい。なお、反応温度は通常100〜300℃程度であり、反応圧力は常圧または1MPa未満であり、反応時間は1〜10時間程度である。また、不均化触媒としては前記した水素化触媒と同じものを用いることができ、その使用量は(A’)成分に対して通常0.01〜10重量%程度である。
【0024】
こうして得られる(A)成分の物性は特に限定されないが、例えば色調は、フラックス及びソルダペーストの経時安定性ならびにフラックス残渣の色調(透明性)等を考慮すると、ガードナー色調2以下であるのが好ましい。
【0025】
また、フラックスの活性やソルダペーストのハンダ付け性(濡れ性)を考慮すると、(A)成分の酸価(JIS K 5902)は通常150〜190mgKOH/g程度、軟化点(JIS K 5902)は通常70〜90℃程度である。
【0026】
本発明の第一のフラックスは、本発明のベース樹脂((A)成分)、フラックス用溶剤(B)(以下、(B)成分という。)およびチキソトロピック剤(C)(以下、(C)成分という。)ならびに必要に応じて活性剤(D)(以下、(D)成分という。)を含む組成物である。当該組成物は、特にソルダペースト用フラックスとして好適である。
【0027】
また、本発明の第二のフラックスは、(A)成分、(B)成分および必要に応じて(D)成分を含有し、かつチキソトロピック剤(C)を含まない組成物である。当該組成物は、特に、ソルダペースト用フラックス以外のフラックス、例えばプレフラックス及びポストラックス(ディップハンダ付用フラックス)、並びにヤニ入りハンダ及び糸ハンダ等におけるフラックス等として使用でき、特にポストフラックスとして好適である。
【0028】
(B)成分としては、各種公知のものを特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、ブチルカルビトール、ヘキシルカルビトール等のエーテル系アルコール類;イソプロピルアルコール、オクタンジオール、ベンジルアルコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−(2−n−ブトキシエトキシ)エタノール、テルピネオール、ベンジルアルコール等の非エーテル系アルコール類;酢酸イソプロピル、プロピオン酸エチル、安息香酸ブチル、アジピン酸ジエチル等のエステル類;n−ヘキサン、ドデカン、テトラデセン等の炭化水素類;N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン類などが挙げられる。これらの中でも、本発明のフラックスをソルダペーストとして使用する場合には、リフロー時の温度(通常230〜260℃)を考慮すると、高沸点である前記エーテル系アルコール類が好ましく、特に沸点が230〜260℃程度のエーテル系アルコール類が好ましい。また、本発明のフラックスをソルダペースト用フラックス以外のフラックスとして、特にポストフラックスとして使用する場合には、非エーテル系アルコール類が好ましい。
【0029】
(C)成分としては、例えば、ひまし油、硬化ひまし油、蜜ロウ、カルナバワックス等動植物系チキソトロピック剤;ステアリン酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸エチレンビスアミド等のアミド系チキソトロピック剤などが挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。(C)成分を含む本発明のフラックスは、ソルダペースト用途に好適であり、ソルダペーストのスクリーン印刷適性を(C)成分によって調整することができる。
【0030】
(D)成分は、本発明の(A)成分の活性作用を補うことにより、本発明のフラックスを適用するハンダ金属の溶融時の濡れ性を高める目的において、必要に応じて使用できる。具体的には、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、ピコリン酸等のモノカルボン酸類;コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等のジカルボン酸類;1−ブロモ−2−ブタノール、1−ブロモ−2−プロパノール、3−ブロモ−1−プロパノール、3−ブロモ−1,2−プロパンジオール、1,4−ジブロモ−2−ブタノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、2,3−ジブロモ−1−プロパノール、1,4−ジブロモ−2,3−ブタンジオール、2,3−ジブロモ−1,4−ブテンジオール、2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール、2,2−ビス(ブロモメチル)−1,3−プロパンジオール等のブロモアルコール類;エチルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン臭化水素酸塩、メチルアミン臭化水素酸塩等の有機アミンのハロゲン化水素酸塩類;1,2,3,4−テトラブロモブタン、1,2−ジブロモ−1−フェニルエタン等のブロモアルカン類;1−ブロモ−3−メチル−1−ブテン、1,4−ジブロモブテン、1−ブロモ−1−プロペン、2,3−ジブロモプロペン、1,2−ジブロモスチレン等のブロモアルケン類;4−ステアロイルオキシベンジルブロマイド、4−ステアリルオキシベンジルブロマイド、4−ステアリルベンジルブロマイド、4−ブロモメチルベンジルステアレート、4−ステアロイルアミノベンジルブロマイド、2,4−ビスブロモメチルべンジルステアレート、4−パルミトイルオキシベンジルブロマイド、4−ミリストイルオキシベンジルブロマイド、4−ラウロイルオキシべンジルブロマイド、4−ウンデカノイルオキシベンジルブロマイド等のベンジルブロマイド類;N,N’−ビス(4−アミノブチル)−1,2−エタンジアミン、トリエチレンテトラミン、N,N’−(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン等のポリアミン類;ジエチルアミン塩酸塩等の塩素系活性剤等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
なお、本発明のフラックスには、必要に応じてさらに(A)成分以外のベース樹脂(E)(以下、(E)成分という。)や添加剤(以下、(F)成分という。)を含めてもよい。
【0032】
(E)成分としては、前記(a−1)成分〜(a−3)成分およびそれらの精製物;その他の原料ロジン類およびその精製物(精製ロジン類);その他の原料ロジン類を原料とする不均化ロジンや水素化ロジン、ホルミル化ロジン、重合ロジン等の(A)成分以外のロジン系ベース樹脂の他、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂)、ポリエステル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリオレフイン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂等の合成樹脂が挙げられる。
【0033】
(F)成分としては、例えば、酸化防止剤、防黴剤、艶消し剤等が挙げられる。当該酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンアミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンのヒンダードフェノール系酸化防止剤;2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,4−ジメチル−6−t−ブチル−フェノール、スチレネートフェノール、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール等の他のフェノール系酸化防止剤;トリフェニルフォスファイト、トリエチルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファエト、トリス(トリデシル)フォスファイト等のリン系酸化防止剤;ジラウリルチオジプロピオネート、ジラウリルサルファイド、2−メルカプトベンゾイミダゾール、ラウリルステアリルチオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤などを例示でき、これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0034】
フラックスにおける各成分の含有量は、該フラックスの利用態様に応じて適宜に設定することができる。例えば該フラックスをソルダペースト用途に供する場合には、各成分の含有量は例えば以下の通りである。
(A)成分:20〜60重量%程度、好ましくは30〜60重量%
(B)成分:60〜20重量%程度、好ましくは55〜30重量%
(C)成分:0〜20重量%程度、好ましくは1〜10重量%
(D)成分:0〜20重量%程度、好ましくは1〜10重量%
(E)成分:0〜20重量%程度、好ましくは0〜10重量%
(F)成分:0〜10重量%程度、好ましくは1〜5重量%
【0035】
また、該フラックスをソルダペースト用フラックス以外のフラックスに供する場合には、各成分の含有量は例えば以下の通りであり、そのような組成のフラックスは特にポストフラックスとして好適である。
(A)成分:20〜60重量%程度、好ましくは25〜50重量%
(B)成分:80〜40重量%程度、好ましくは70〜45重量%
(C)成分:0重量%
(D)成分:0〜10重量%程度、好ましくは1〜5重量%
(E)成分:0〜10重量%程度、好ましくは0〜5重量%
(F)成分:0〜10重量%程度、好ましくは1〜5重量%
【0036】
本発明のソルダペーストは、本発明のフラックス及びハンダ粉末を含有するものである。それぞれの含有量は特に限定されないが、通常は前者が5〜20重量%程度、および後者が80〜95重量%程度である。また、当該ソルダペーストは、各種公知の手段(プラネタリーミル等)で製造することができる。
【0037】
ハンダ粉末としては、Sn−Pb系ハンダ粉末等の従来の鉛共晶ハンダ粉末;Snハンダ粉末、Sn−Ag系ハンダ粉末、Sn−Cu系ハンダ粉末、Sn−Zn系ハンダ粉末、Sn−Sb系ハンダ粉末、Sn−Ag−Cu系ハンダ粉末、Sn−Ag−Bi系ハンダ粉末、Sn−Ag−Cu−Bi系ハンダ粉末、Sn−Ag−Cu−In系ハンダ粉末、Sn−Ag−Cu−S系ハンダ粉末、Sn−Ag−Cu−Ni−Ge系ハンダ粉末等の鉛フリーハンダ粉末が挙げられる。なお、ハンダ粉末の平均一次粒子径は特に限定されないが、通常は1〜50μm程度、好ましくは20〜40μm程度である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲がそれらにより限定されないことはもとよりである。なお、「部」および「%」はいずれも重量基準である。
【0039】
(ベース樹脂(A)の調製)
製造例1
中国産スラッシュ松より得られたガムロジン(ガードナー色調7、酸価170、軟化点77℃;以下、「原料1」という。)200gを減圧蒸留容器に仕込み、窒素シール下に0.4kPaの減圧下で蒸留し、精製ロジンを得た。次いで、当該精製ロジン150gと5%パラジウムカーボン(含水率50%)0.7gを0.3リットル回転式オートクレーブに仕込み、系内の酸素を除去した後、水素にて10MPaに加圧し、220℃まで昇温し、同温度で3時間水素化反応させることにより、ベース樹脂(A1)を得た。表1にベース樹脂(A1)の物性を示す(以下、同様)。
【0040】
製造例2
製造例1において、原料ロジンとして、インドネシア産メルクシ松より得られたガムロジン(ガードナー色調8、酸価185、軟化点81℃;以下、「原料2」という。)200gを用いた他は同様にして、ベース樹脂(A2)を得た。
【0041】
製造例3
製造例1において、原料ロジンとして、原料2と中国産馬尾松より得られたガムロジン(ガードナー色調7、酸価171、軟化点78℃;以下、「原料3」という。)の6:4(重量比)混合物200gを用いた他は同様にして、ベース樹脂(A3)を得た。
【0042】
製造例4
製造例1において、原料ロジンとして、原料1と原料2の5:5(重量比)混合物200gを用いた他は同様にして、ベース樹脂(A4)を得た。
【0043】
製造例5
原料1と原料3の9:1(重量比)混合物250gを減圧蒸留容器に仕込み、窒素シール下に0.4kPaの減圧下で蒸留し、精製ロジンを得た。次いで、当該精製ロジン200gと5%パラジウムカーボン(含水率50%)0.4gを0.5リットルフラスコに仕込み、窒素雰囲気下で260℃まで昇温し、同温度で3時間不均化反応させることにより、ベース樹脂(A5)を得た。
【0044】
比較製造例1
製造例1において、原料ロジンとして、原料3を200g用いた他は同様にして、ベース樹脂(イ)を得た。表2にベース樹脂(イ)の物性を示す(以下、同様)。
【0045】
比較製造例2
製造例1において、原料ロジンとして、中国産雲南松より得られたガムロジン(ガードナー色調7、酸価170、軟化点78℃;以下、「原料4」という。)200g用いた他は同様にして、ベース樹脂(ロ)を得た。
【0046】
比較製造例3
原料2と原料3の8:2混合物200gを減圧蒸留容器に仕込み、窒素シール下に0.4kPaの減圧下で蒸留し、ベース樹脂(ハ)を得た。
【0047】
比較製造例4
原料3を200g、5%パラジウムカーボン(含水率50%)を0.7g、0.3リットル回転式オートクレーブに仕込み、系内の酸素を除去した後、水素にて10MPaに加圧し、220℃まで昇温し、同温度で3時間水素化反応させることにより、ベース樹脂(ニ)を得た。
【0048】
比較製造例5
原料3を200g、5%パラジウムカーボン(含水率50%)を0.06g、0.5リットルフラスコに仕込み、窒素雰囲気下で280℃まで昇温し、同温度で3時間不均化反応させることにより、ベース樹脂(ホ)を得た。
【0049】
実施例1〜5および比較例1〜5
<ソルダペースト用フラックスおよびソルダペーストの製造>
製造例1で得られた(A1)成分50部、12−ヒドロキシステアリン酸エチレンビスアミド5部、およびジエチレングリコールモノヘキシルエーテル45部をビーカーに入れ、撹拌下に加熱溶融させることによりソルダペースト用フラックスを調製した。次いで、当該フラックス10部および鉛フリーハンダ粉末(Sn−Ag−Cu合金;96.5重量%/3重量%/0.5重量%、平均粒子径25〜38μm)90部を撹拌混合することによりソルダペーストを調製した。製造例2〜5および比較製造例1〜5で得られたベース樹脂についても同様にしてソルダペースト用フラックスおよびソルダペーストを調製した。
【0050】
<ソルダペースト用フラックス試験>
(経時安定性)
実施例1〜5および比較例1〜5のソルダペースト用フラックスを室温で1ヶ月保管した後、流動性を以下の基準で確認した。結果を表3に示す。
1:室温で流動する。
2:室温で流動しないが、柔らかく撹拌が容易である。
3:室温で固化しており、撹拌も困難である。
【0051】
<ソルダペースト試験>
(経時安定性)
実施例1〜5および比較例1〜5のソルダペーストを40℃で7日間保存した後、自動粘度測定装置PCU−205((株)マルコム製)により粘度を測定し、ペースト調製時(0日目)からの粘度変化を確認した。粘度変化が小さいほど、経時安定性に優れる。結果を表3に示す。
1:粘度変化が20Pa・S未満
2:粘度変化が20Pa・S以上40Pa・S未満
3:粘度変化が40Pa・S以上
【0052】
(粘着性)
実施例1〜5および比較例1〜5のソルダペーストを銅板上に印刷し、タッキネステスターTK−1((株)マルコム製)により粘着力を測定した。数値が大きいほど、粘着性に優れる。結果を表3に示す。
1:測定値が80gf以上
2:測定値が30gf以上80gf未満
3:測定値が30gf未満
【0053】
(ハンダ付性)
実施例1〜5および比較例1〜5のソルダペーストについて、「JIS Z3284 附属書10 ぬれ効力およびディウェッティング試験」に準拠し、ハンダ付け性(濡れ性)を評価したところ、いずれのソルダペーストもハンダ付け性良好(広がり度合いの区分1または2)であった。
【0054】
(フラックス残渣の色調)
実施例1〜5および比較例1〜5のソルダペーストを銅基板上に印刷し、ハンダ付部位を顕微鏡VW−6000((株)キーエンス製:30倍)で観察することによって、フラックス残渣の色調を以下の基準で確認した。結果を表3に示す。
【0055】
1:無色透明
2:若干の着色有り
3:着色有り
【0056】
(フラックス残渣のクラック)
フラックス残渣の色調の評価と併せ、クラックの発生の有無を確認した。実施例1〜5および比較例1〜5のソルダペーストは、いずれも残渣にクラックが認められなかった。
【0057】
実施例6〜10および比較例6〜10
<ポストフラックスの製造>
製造例1で得られた(A1)成分50部、およびイソプロピルアルコール50部をビーカーに入れ、撹拌下に加熱溶融させることによりポストフラックスを調製した。製造例2〜5および比較製造例1〜5で得られたロジンについても同様にしてポストフラックスを調製した。
【0058】
<ポストフラックス試験>
(経時安定性)
実施例6〜10および比較例6〜10のポストフラックスを室温で1週間保管した後、沈殿物の発生具合を以下の基準で評価した。沈殿物の発生が少ないほど、経時安定性に優れる。結果を表4に示す。
1:沈殿物が全く発生していない。
2:沈殿物が僅かに発生している。
3:沈殿物がかなり発生している。
【0059】
(ハンダ付け性)
実施例6〜10および比較例6〜10のポストフラックスを用いて、「JIS Z3197 はんだ広がり法」に準拠し、ハンダ付け性(濡れ性)を評価したところ、いずれのポストフラックスもハンダ付け性良好(広がり度合いの区分1または2)であった。
【0060】
(フラックス残渣の色調)
また、ハンダ付部位を顕微鏡VW−6000((株)キーエンス製:30倍)で観察することによって、フラックス残渣の色調を以下の基準で確認した。結果を表4に示す。
1:無色透明
2:若干の着色有り
3:着色有り
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
実施例1〜5の結果より、(A)成分をベース樹脂とするソルダペースト用フラックスは経時安定性が良好であり、またこのフラックスを用いたソルダペーストも粘度の経時安定性および粘着性に優れることがわかった。また、当該ソルダペーストはハンダ付性(濡れ性)ならびにフラックス残渣の色調および耐クラック性も良好であった。
【0066】
一方、比較例1、2、4および5の結果より、(A’)成分中に(a−1)成分または(a−2)成分が含まれていない場合や、含まれていても精製処理がなされていない場合には、フラックスの経時安定性ならびにソルダペーストの粘度安定性および粘着性が不良になることがわかった。また、比較例4の場合には、フラックス残渣の色調も良くなかった。
【0067】
また、比較例3の結果より、(A’)成分中に(a−1)成分または(a−2)成分が含まれていても、水素化反応および不均化反応のいずれをも経由させていない場合にはソルダペーストの粘度安定性が不良となり、フラックス残渣の色調も良くないことがわかった。
【0068】
実施例6〜10の結果より、(A)成分をベース樹脂とするポストフラックスは経時安定性が良好であり、またこのフラックスを用いた際のハンダ付け性(濡れ性)ならびにフラックス残渣の色調も良好であった。
【0069】
一方、比較例6、7、9および10の結果より、(A’)成分中に(a−1)成分または(a−2)成分が含まれていない場合や、含まれていても精製処理がなされていない場合には、ポストフラックスの経時安定性が不良になることがわかった。また、比較例9の場合には、フラックス残渣の色調も良くなかった。
【0070】
また、比較例8の結果より、(A’)成分中に(a−1)成分または(a−2)成分が含まれていても、水素化反応および不均化反応のいずれをも経由させていない場合には、フラックス残渣の色調が良くないことがわかった。