(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6160865
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】レール走行型クレーンのレールブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B61H 7/12 20060101AFI20170703BHJP
B60T 1/14 20060101ALI20170703BHJP
B60T 13/66 20060101ALI20170703BHJP
B60T 13/68 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
B61H7/12 B
B60T1/14
B60T13/66 A
B60T13/68
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-193768(P2013-193768)
(22)【出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2015-58805(P2015-58805A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100094709
【弁理士】
【氏名又は名称】加々美 紀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】本原 一成
【審査官】
長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−247944(JP,A)
【文献】
実開昭52−093112(JP,U)
【文献】
実開昭58−050056(JP,U)
【文献】
特開昭52−121254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61H 7/12
B60T 1/14
B60T 13/66
B60T 13/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール上を移動するレール走行型クレーンの逸走を防止するレールブレーキ装置であって、
前記レールブレーキ装置は駆動手段として油圧シリンダを備えており、前記油圧シリンダのピストンロッドの先端にはブレーキシューが設けられており、
前記油圧シリンダはピストンロッドが前進及び後退運動を行うための二つの油室を有しており、
前記油圧シリンダの作動油を供給する油圧ポンプと、油圧シリンダのピストンロッドの前進時と後退時とで油路の方向を逆方向に切り換える電磁弁とを備えており、
油圧シリンダの二つの油室のそれぞれに連通されたアキュムレータを有し、
前記油圧ポンプは前記アキュムレータに蓄える作動油の圧力に対応して作動し、
前記ピストンロッドが伸長することによって前記ブレーキシューがレールの上面に押し付けられてブレーキが掛かるようにされていることを特徴とするレールブレーキ装置。
【請求項2】
アキュムレータに蓄える作動油の圧力を設定する圧力スイッチを備えていることを特徴とする請求項1に記載のレールブレーキ装置。
【請求項3】
電磁弁を励磁した時に、油圧シリンダのピストンロッドが後退してブレーキシューをレールから離反させるようにし、電磁弁を無励磁にした時に、アキュムレータに蓄圧された油圧により油圧シリンダのピストンロッドが前進してブレーキシューがレールに押し付けられるようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載のレールブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレール走行型クレーンのレールブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
資材置場や工場、倉庫、港湾等において使用されるクレーンとしてはレール走行型クレーンの一種である橋形クレーンが一般的に用いられている。橋形クレーンを港湾において用いる場合について
図4に基づいて説明する。橋形のクレーン2は
図4に示すように、その脚部が門形に構成されたクレーン本体3の下端の四隅部に走行装置4が設けられている。
港湾8において岸壁9に沿ってレール1が敷設されており、橋形クレーン2はこの走行装置4によってレール1に沿って走行可能となっている。
【0003】
ところで、近年、地球温暖化が原因と考えられる異常気象現象が発生している。特に、竜巻、ダウンバースト等による突風が多発しており、この突風によって煽られたレール走行型クレーンが逸走し荷役作業中のコンテナ船に衝突し、コンテナクレーン自体が脱輪、損傷して、港湾におけるコンテナ荷役機能が長期に亘って停止するという事故も起こっている。
一般的にコンテナクレーンには、風による逸走を防止するために特許文献1に記載されているようなレールクランプ装置が設置されている。
【0004】
このレールクランプ装置は
図5に示すように、先端部に挟み部(ブレーキシュー)60b、61bが形成された一対のリンク(接触子)60、61を、その略中間部がカム軸51を中心として回動自在となるように連結して挟み機構6を構成し、挟み機構6における前記リンクの基端部に、該リンクの基端部間を狭めて前記挟み部が常時レールを挟む閉方向へ前記リンクを回動させるようにしたばね機構7を設け、更に、前記一対のリンク60、61の基端部に形成されたカム受部60a,61aをその内側から押し開く方向へ駆動して前記挟み部によるレールの挟み付けを解放するための回転カム5を設置してなる構成を有している。ばね機構7は接触子61の上端に連結したばねロッド71が、手前側の接触子60をルーズに通過する配置とされ、その端部に第1のばね受け72aが設けられ、接触子60の外面に、第2のばね受け72bが配置され、両方のばね受け72aと72bの間に圧縮型のコイルばね70が設置されている。
【0005】
そしてクレーンの走行時に、回転カム5を電動機構によって制動解除位置へ回転させると回転カム5がリンク60,61を内側から押し開いてレール1から離れさせ、制動力が解除される。クレーンの停止時には、回転カム5を電動機構によって制動位置まで回転させると、回転カム5と接触子60,61との接触が解かれ、ばね機構7によって接触子60,61は閉方向へ動作し、一対の接触子60,61は挟み機構6によってレール1を挟んで制動力を発生させる。
【0006】
しかし、レールクランプ装置では、風により逸走し始めた場合、逸走を完全に防ぐことが難しいと考えられている。このような状況に対処するための装置として動摩擦に対応できるレールブレーキ装置がある。
【0007】
レールブレーキ型の制動装置を設けた逸走防止装置を示すものとしては例えば特許文献2に記載されているものを挙げることができる。レールブレーキ型の制動装置の一般的な構造及び動作を
図6に基づいて以下説明する。
レールブレーキ装置10は、筐体21と、ばね70と、ばね70を保持するばね台座73と、ばね台座73の底面に取付けられたロッド74とロッド74の下端部に取付けられたブレーキシュー26と、筐体21の下板上に設置された油圧シリンダ22とからなる。筐体21の上面をクレーン本体3の基端部に取付けることによってレールブレーキ装置10がクレーン本体3に固定される。また、油圧シリンダ22のピストンロッド23はばね台座73に当接しており、ピストンロッド23が前進・後退することによってばね台座73を昇降させてばね70を圧縮・復元するようになっている。
【0008】
図6(A)は、油圧シリンダ22のピストンロッド23が後退した状態を示しており、この時は、ばね70が伸長してばね台座73及びロッド74介してブレーキシュー26をレール1の上面に押し付けてブレーキがかかった状態となる。
図6(B)は油圧シリンダ22のピストンロッド23が前進した状態を示しており、この時はばね70が圧縮されてブレーキシュー26がレール1の上面から離反してブレーキが開放された状態となる。
【0009】
上記のように、特許文献2に記載のものはブレーキシューの押し付け動力としてばねを用いている。
しかしながら、ばねを用いるとばねの圧縮状態によってブレーキシューの押し付け力が変化し、一定の制動力が得られない。このばねの圧縮状態の変化の要因は、レールの不陸(レール上下方向のうねり)が原因であるが、レールの不陸の修正は困難である。また、ばねを用いると十分な押し付け力が得られない状態でバランスしてしまい十分な制動力が得られない場合がある。また、既設のクレーンに設置する場合には、クレーンの剛性によっては、ブレーキシューの押付反力によりクレーン本体が上方に変形し、ブレーキはばねが更に伸びた状態で使用することになるため、十分な制動力が得られない場合がある。
更にばねの圧縮のために油圧シリンダを用いる場合には、ブレーキ開放の際にばねを圧縮する必要があるため、油圧シリンダは大きな推力が必要となる。
【0010】
上記の理由からブレーキシューの押し付け駆動力としてばねを用いるものはクレーンの逸走を防止する制動装置としては十分ではない。
油圧で直接ブレーキシューを押し付ける提案もあるが、停電時のように、動力が遮断された場合に自動的に作動する構造とはなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−72690号公報
【特許文献2】特表2013−512136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、走行式クレーンの逸走を防止するための十分な制動力を有し、停電で動力が遮断された場合でも自動的に作動するレールブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は以下に記載する通りの特徴を有する。
(1)レール上を移動するレール走行型クレーンの逸走を防止するレールブレーキ装置であって、
前記レールブレーキ装置は駆動手段として油圧シリンダを備えており、前記油圧シリンダのピストンロッドの先端にはブレーキシューが設けられており、
前記油圧シリンダはピストンロッドが前進及び後退運動を行うための二つの油室を有しており、
前記油圧シリンダの作動油を供給する油圧ポンプと、油圧シリンダのピストンロッドの前進時と後退時とで油路の方向を逆方向に切り換える電磁弁とを備えており、
油圧シリンダの二つの油室のそれぞれに連通されたアキュムレータを有し、
前記油圧ポンプは前記アキュムレータに蓄える作動油の圧力に対応して作動し、
前記ピストンロッドが伸長することによって前記ブレーキシューがレールの上面に押し付けられてブレーキが掛かるようにされていることを特徴とするレールブレーキ装置。
(2)アキュムレータに蓄える作動油の圧力を設定する圧力スイッチを備えていることを特徴とする請求項1に記載のレールブレーキ装置。
(
3)電磁弁を励磁した時に、油圧シリンダのピストンロッドが後退してブレーキシューをレールから離反させるようにし、電磁弁を無励磁にした時に、アキュムレータに蓄圧された油圧により油圧シリンダ
のピストンロッドが前進してブレーキシューがレールに押し付けられるようにしたことを特徴とする
上記(1)または(2)に記載のレールブレーキ装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、走行レールの不陸、設置されるクレーンの剛性によらず、一定の制動力を確保することができる。また、停電時にブレーキが作用するという必要条件を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】クレーン本体に本発明のレールブレーキ装置を取り付けた状態を示す図である。
【
図2】本発明のレールブレーキ装置の一実施形態を示す図であり、
図2(A)はブレーキが掛かった状態を示し、
図2(B)はブレーキが開放された状態を示す。
【
図3】本発明のレールブレーキ装置における油圧シリンダを作動させる油圧回路の一実施形態を示す図である。
【
図4】港湾において橋形クレーンを設置した状態を示す図である。
【
図5】従来のレールクランプ型の制動装置の構造及び動作を示す図である。
【
図6】従来除レールブレーキ型の制動装置の構造及び動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のレールブレーキ装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の一実施形態に係るレールブレーキ装置は、例えば
図4に示したような、クレーン本体3とそのクレーン本体3をレール1に沿って走行させるための走行装置4を備えた走行式クレーン2に設置されて、その走行式クレーン2が突風によって逸走するのを防止するためのものである。
【0017】
図1はレール1上を走行するクレーン本体3に本発明のレールブレーキ装置10を設けた状態を示す図である。
図1に示すものにおいては、クレーン本体3の走行台車11aと走行台車11bとの間にレールブレーキ装置10が設けられている。レールブレーキ装置10は油圧シリンダ22を備えており、油圧シリンダ22のピストンロッド端部にはブレーキシュー26が設けられている。
【0018】
本発明のレールブレーキ装置10の詳細な構造及び動作を
図2に基づいて示す。
図2は本実施形態のレールブレーキ装置10の構成及び動作を示す図であり、
図2(A)はブレーキをかけた状態を示し、
図2(B)はブレーキを開放した状態を示す。
レールブレーキ装置10は筐体21を有しており、この筐体21の中に油圧シリンダ22が収容されている。
レールブレーキ装置10は筐体21の上板21aを介してクレーン本体3に取付けられる。
油圧シリンダ22は支持部材24によって筐体21の横板21bによって支持されている。
また、油圧シリンダ22のピストンロッド23は筐体21の下板21cに設けられたガイド部材25によって往復運動が案内される。
ピストンロッド23の下端部にはブレーキシュー26が設けられている。
【0019】
図2(A)は油圧シリンダ22が作動してピストンロッド23が下降し、ブレーキシュー26がレール1の上面に押し付けられてブレーキが掛かった状態を示している。この場合、クレーン本体の自重が最大押し付け力となるので、ばねを用いる場合に比べて大きな押し付け力が得られ、クレーンの逸走を十分に防止することができる。
図2(B)は油圧シリンダ22が作動してピストンロッド23が上昇し、ブレーキシュー26がレール1の上面から離れてブレーキが開放された状態を示す。
なお、上記の実施態様では筐体21を用いて油圧シリンダを支持する例を示したが、油圧シリンダを支持し、動作させることができれば筐体を用いる必要はなく、筐体に代えて枠体等の支持部材を用いても良い。
【0020】
図3は油圧シリンダ22を作動させるための油圧回路の一例を示す図である。
図3において、油圧回路30は、作動流体である油31が貯留されたリザーバタンク32と、油圧シリンダ本体22の二つのシリンダ室22a、22bへの作動流体の給排路34a、34bとが電磁弁39を介して作動流体ライン35及び前記リザーバタンク32へ作動流体を戻すための循環ライン38に接続されている。また、作動流体ライン35と循環ライン38とはリリーフライン40によってリリーフ弁41を介して接続されている。このリリーフ弁41は作動流体ライン35における作動流体の圧力が設定圧以上となった際に開いて作動流体を循環ライン38を介してリザーバタンク32へ戻す作用をする。
【0021】
油圧ポンプ37の吐出側には、逆止弁33及びアキュムレータ42を設け、その接続するラインの途中に圧力スイッチ43を設ける。
圧力スイッチ43はアキュムレータ42に蓄える作動油の圧力を設定するもので、アキュムレータ42に蓄える作動油の圧力が設定値の上限を上回ると油圧ポンプ37を回転駆動する電動機36を非通電にし、アキュムレータ42に蓄える作動油の圧力が設定値の下限を下回ると電動機36に通電する作用をする。
アキュムレータ42は、停電時にブレーキシューを作動させる動力源となる。
また、アキュムレータ42を設けることによりブレーキが動作するまでの時間を油圧ポンプ37のみを設けた場合に比べて短縮することができる。
【0022】
本発明の好ましい態様においては、電磁弁39を励磁すると、アキュームレータに蓄圧された油圧により油圧シリンダのピストンロッドが後退してブレーキシューがレール上面から離れるようにし、電磁弁39を無励磁にするとアキュームレータに蓄圧された油圧により油圧シリンダのピストンロッドが前進してブレーキシューがレール上面に押し付けられるようにする。
このように、電磁弁を無励磁にしたときにブレーキが掛かるようにしておくことにより停電時(無励磁時)にブレーキが作動する設備とすることができ、安全を確保することができる。
【0023】
本発明のブレーキ装置は従来のレールクランプ型ブレーキと併用することもできる。すなわち、通常の運転時にはクレーンの走行・停止にレールクランプ型ブレーキを用い、突風発生時にはレールクランプ型ブレーキと共に本発明のレールブレーキ装置を併用することによって逸走の発生を大幅に少なくすることができる。
【符号の説明】
【0024】
1 レール
2 クレーン
3 クレーン本体
4 走行装置
5 回転カム
6 挟み機構
7 ばね機構
8 港湾
9 岸壁
10 レールブレーキ装置
11a、11b 走行台車
21 筐体
21a 上板
21b 横板
21c 下板
22 油圧シリンダ
22a、22b シリンダ室
23 ピストンロッド
24 支持部材
26 ブレーキシュー
30 油圧回路
31 作動流体(油)
32 リザーバタンク
33 逆止弁
34a、34b 作動流体の給排路
35 作動流体ライン
36 電動機
37 油圧ポンプ
38 循環ライン
39 電磁弁
40 リリーフライン
41 リリーフ弁
42 アキュムレータ
43 圧力スイッチ
51 カム軸
60b、61b挟 み部(ブレーキシュー)
60、61 リンク(接触子)
60a,61a カム受部
70 コイルばね
71 ロッド
72a、72b ばね受け
73 ばね台座
74 ロッド