(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
塗装壁を再塗装する場合、まず研削材により塗装膜をブラスト処理した後、壁を洗浄し、壁の表面を均し、塗装する。
塗装膜には、ポリ塩化ビフェニルや鉛等が含まれているため、研削材によって削られた塗装片(被研削物)は、産業廃棄物として処理される。塗装膜を研削すると、研削材と塗装片の混合物が発生する。この混合物は廃棄物として処理されるため、処理する必要がない研削物は、塗装片と共に産業廃棄物として処理される。
研削材と被研削物との混合物から、研削材を分離するための分離機が、例えば特許文献1に提案されている。この分離機は、アスベスト含有材層を研削材によってブラストしたときに生じる研削材とアスベスト含有粉塵、および異物(アスベスト除去作業の使用した養生部材や構造付属物破砕片等)の混合物から研削材を分離するものである。
【0003】
特許文献1の分離機は、下部に研削材回収部、側面部に吸引口及び排出口を有する分離機本体と、この分離機本体の内部に横向きに設けられた振動篩と、振動篩の上側、かつ排出口よりも下方に設けられたダクトを備えている。また、排出口は、粉塵ホースを介して、集塵装置と接続されている。
このダクトは上方に開口する開口部を有しており、ダクトの内部には流量調節ダンパが設けられている。この流量調節ダンパの傾斜角度を水平状態から垂直状態まで調節することにより風量を調節して、混合物を斜め上方向の排出口に噴出することによって、アスベスト含有粉塵を集塵装置側へ排出している。さらに、研削材と異物を、排出口よりも下方に落下させ、振動篩によって、所定の大きさ以上の異物を除去する。そして、研削材は、さらに下方の研削材回収部まで落下する。
このように、特許文献1の分離機は、ブラストしたときに生じる混合物からアスベスト含有粉塵や異物を除去し、研削材を研削材回収部に落下させることで、研削材を分離することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の分離機では、研削材とアスベスト含有粉塵等の混合物が分離機本体の内部に吸引されることによって、ダクトの開口部から斜め上方向の排出口に向けて噴出される。そのため、研削材がアスベスト含有粉塵等と共に排出口に混入するおそれがある。さらに、アスベスト含有粉塵は、研削材と共に分離機本体の下方に落下し、研削材回収部に研削材と共にアスベスト含有粉塵が混入するおそれもある。
そのため、塗装片と研削材との混合物を分離するために特許文献1の分離機を適用した場合、集塵機に研削材が混入したり、研削材回収部に塗装片が混入するおそれがある。
そうすると、産業廃棄物として処理する必要のない研削物も産業廃棄物として廃棄する必要が生じることに加え、回収した研削材を再利用できなくなるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、塗装膜をブラスト処理した際に発生する塗装片と研削材との混合物から、研削材を確実に分離できる分離機を提供することを目的とする。さらに、この分離機を備えた分離装置、およびこの分離装置を用いたブラスト工法をも提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の分離機は、塗装膜を研削材によりブラストした際に生じる被研削物と研削材との混合物から、研削材を分離するものであり、中空状の分離機本体と、分離機本体の内部に混合物を取り込む取込部と、所定の高さに設けられ、分離機本体の内部に上昇気流を発生させる回転体と、分離機本体の外部に被研削物を排出する排出部とを備えている。そして、研削材は、真比重が4.1〜7.45であり、排出部は分離機本体において、取込部よりも上側に接続されている。
【0008】
本発明の分離機は、前記研削材が金属製であることを特徴とする。
【0009】
本発明の分離機は、回転体がインペラ型の羽根車であることを特徴とする。
【0010】
本発明の分離機は、取込部が分離機本体の側面部に設けられ、排出部が屈曲部を有し、分離機本体の上面部に設けられ、回転体が取込部と対向する位置に設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の分離機は、分離機本体が円筒状であり、回転体が設けられている位置から下方向に縮径していることを特徴とする。
【0012】
本発明の分離装置は、塗装膜を研削材によりブラストした際に生じる被研削物と前記研削材との混合物を吸引する吸引部と、上記の分離機と、吸引部と分離機を接続する取込ホースと、排出ホースによって分離機本体と接続され、分離機本体と独立して設けられた集塵機とを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明のブラスト工法は、上記の分離機を使用するものであって、塗装膜を研削材によってブラスト処理するブラスト処理工程と、ブラスト処理工程で発生した混合物を、取込部を介して、分離機本体の内部に取り込む混合物取込工程と、分離機本体の内部に取り込まれた混合物に含有される被研削物を回転体の回転によって生じる上昇気流によって、排出部を介して、分離機本体の外部に排出し、研削材を分離機本体の下方に落下させることで、混合物から研削材を分離する研削材分離工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分離機において、真比重が4.1から7.45の研削材によって塗装膜をブラストしたときに生じる塗装片(被研削物)と研削材との混合物は、所定の位置に設けられた回転体の上昇気流に衝突する。そうすると、比重が小さい塗装片は上方に移動し、排出部から排出される。一方、研削材は、自重により分離機本体の下方に落下する。そのため、混合物から研削材を確実に分離できる。
したがって、産業廃棄物の廃棄量を削減することができ、廃棄物の処分に要するコストを削減できる。さらに、研削材を再利用できるため、施工コストを抑えることができる。
【0015】
また、本発明の分離装置は、上述した分離機と、排出ホースによって分離機本体と接続され、分離機と独立して設けられた集塵機を備えるため、使用する現場で組み立てることができる。また、各構成が独立しているため、分離機と集塵機を別々に運搬することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態に係る分離装置は、対象物である塗装膜を研削材でブラストして発生する被研削物と研削材との混合物から研削材を完全に分離するためのものである。
本実施形態に係る分離装置1は、
図1に示すように、塗装膜を研削材3によってブラストすることで発生する被研削物2(塗装片2)と研削材3の混合物4を吸引する吸引部5と、この混合物4から研削材3を分離する分離機6と、吸引部5と分離機6を接続する取込ホース7の途中に設けられたジェクター8と、このジェクター8に接続されたコンプレッサー9と、排出ホース10を介して分離機6に接続され、分離機6で分離された被研削物2が収容される集塵機11とを備えている。
【0018】
初めに、分離装置1を構成する分離機6について、説明する。
この分離機6は、混合物4から研削材3を分離するものである。ブラストする研削材3は、真比重が4.1〜7.45である。この研削材3には、例えば、スチールグリッドを使用できる。
分離機6は、
図2及び
図3に示すように、中空状の分離機本体20と、分離機本体20の内部に混合物4を取り込む取込部としての取込管21と、所定の高さに設けられ、分離機本体20の内部に上昇気流を発生させる回転体としての羽根車22と、被研削物2が分離機本体20の外部に排出される排出部としての排出管23とを備えている。この排出管23は、分離機本体20において、取込管21よりも上側に接続されている。
以下、図面上、分離機6の幅方向を水平方向X、高さ方向を垂直方向Yとする。
【0019】
[研削材3]
研削材3には、例えば、スチールグリッドや高硬度ガーネットを使用できる。
この研削材3の真比重は、4.1から7.45の範囲であることが最も好ましい。研削材3の真比重が4.1よりも小さい場合、分離機本体20の内部で発生する上昇気流から外力を受け、排出管23から排出されてしまうおそれがある。一方、研削材3の真比重が7.45よりも大きい場合、ブラストするときの消費電力が大きくなり経済性の観点から好ましくないことに加え、衝突により羽根車22や分離機本体20を破損させるおそれが高くなる。
【0020】
[分離機本体20]
分離機本体20は、円筒状であり、所定の位置から下方向に縮径されている。この所定の位置とは、垂直方向Yにおいて、分離機本体20の上側から約1/4の位置よりも下側を示す。
分離機本体20は、金属製であり、分離機本体20の上面、側面及び下面に、開口部12A、12B及び12Cがそれぞれ形成されている。この開口部12Aの外周には、複数の固定部(図示しない)が形成されている。分離機本体20の上面には、上蓋13が固定される。この上蓋13には、排出管23が形成されている。上蓋13、および排出管23は、分離機本体20と同じ素材で構成されている。
一方、分離機本体20の下面には、下蓋14が設けられている。
分離機本体20は、4つの脚を有する枠体15に固定され、枠体15が地面に設置されることで、分離機本体20の状態が維持されている。また、分離機本体20は、地面から所定の距離だけ離されて、枠体15に固定されている。枠体15の脚には、キャスタがそれぞれ設けられている。
【0021】
[取込管21]
取込管21は、吸引部5から吸引された混合物4を分離機本体20の内部に取り込むためのものである。
取込管21は、内径D21を有する円筒状であり、分離機本体20の縮径されている側面部の開口部12Bに連結し、分離機本体20と一体として形成されている。取込管21は、分離機本体20と同じ素材で構成されている。また、この取込管21は、
図4及び
図5に示すように、分離機6を水平方向Xにおいて2等分する中心線Cから一定の距離だけずれて、形成されている。
また、取込管21の外周には、取込ホース7が取り付けられる取付部(図示しない)が形成されている。
図1に示すように、この取込ホース7は、ジェクター8を介して、吸引部5に接続される。取込ホース7の長さは適宜調整することができ、約100mの長さのものまで使用できる。
【0022】
[羽根車22]
羽根車22は、取込管21から取り込まれる空気により回転し、分離機本体20の内部に上昇気流を生じさせる。
羽根車22は、金属性であり、この羽根車22には、インペラ型のものを使用できる。羽根車22は、
図6に示すように、円柱状の胴部25と、胴部25の周壁の上端から下端にかけて斜めに形成された複数の羽根部26を有している。羽根車22の胴部25の長さL1は、取込管21の内径D21よりも大きく設計されている。
また、羽根車22は、
図7に示すように、分離機本体20の内部において、取込管21の開口部12Bと対向する位置に設けられている。
図3に示すように、羽根車22の上面部は、上面接続部材27を介して、分離機本体20の内周壁に接続され、一方、下面部は、下面接続部材28を介して、分離機本体20の内周壁に接続されている。上面接続部材27の傾きや下面接続部材28の長さを調節することで、羽根車22を設ける位置を適宜変更できる。
なお、羽根車22は、駆動源を接続して、駆動源によって回転させることもできる。
【0023】
[上蓋13]
上蓋13は円盤状に形成され、分離機本体20と同じ素材で構成されている。この上蓋13の外周には固定部(図示しない)が複数形成されている。この上蓋13の固定部は、上述した分離機本体20に形成されている固定部と対応した位置に形成されている。これらの固定部同士を例えば、ネジで固定することにより、上蓋13が分離機本体20上面に固定される。
【0024】
[排出管23]
排出管23は、混合物4から分離された被研削物2を分離機本体20の外部に排出するためのものである。
排出管23は、内径D23を有する円筒状であり、上蓋13と一体として形成されている。この排出管23は、屈曲部29を有し、L字状に形成されている。排出管23の先端は、水平方向Yにおいて、取込管21と同じ向きに延出されている。
排出管23は、上蓋13が開口部12Aに固定されることにより、分離機本体20の上面に配置される。
図5に示すように、排出管23の内径D23は、取込管21の内径D21より大きく設計されている。この排出管23は、排出管23の中心と、中心線Cがほぼ一致するように設けられている。そのため、排出管23と取込管21は、水平方向Xにおいて、所定の距離ずれて設けられている。また、排出管23には、排出ホース10が接続される。
【0025】
次に、分離装置1の分離機6以外の構成について、説明する。
図1に示すように、吸引部5は、取込ホース7の先端に設けられ、この吸引部5から混合物4を吸引する。ジェクター8は、取込ホース7の途中に設けられ、コンプレッサー9に接続されている。コンプレッサー9を稼働させ、ジェクター8を操作することにより、吸引や排出を実施できる。集塵機11は、排出ホース10を介して、排出管23と接続されている。この集塵機11には、例えば、AMANO製の集塵機を使用することができる。
【0026】
次に、上述した分離装置1を用いた塗装膜(塗装壁)のブラスト工法について、説明する。
本実施形態のブラスト工法は、上述の分離機6を使用し、塗装膜を研削材3によってブラスト処理するブラスト処理工程と、ブラスト処理工程で発生した混合物4を、取込管21を介して、分離機本体20の内部に取り込む混合物取込工程と、分離機本体20の内部に取り込まれた混合物4に含有される塗装片(被研削物2)を羽根車22の回転によって生じる上昇気流によって、排出管23を介して、分離機本体20の外部に排出し、研削材3を分離機本体20の下方に落下させることで、混合物4から研削材3を分離する研削材分離工程とを含む。
本実施形態のブラスト工法では、研削材3としてスチールグリッド(真比重:約7.45)を用いる。
【0027】
[ブラスト工程]
まず、研削材3(スチールグリッド)を塗装壁に噴射し、塗装膜をブラストする。塗装膜をブラストすることにより、研削された塗装片と研削材3が混合された混合物4が発生する。
次に、コンプレッサー9を稼働させ、ジェクター8を吸引モードに操作することで、分離機本体20の内部に空気が取り込まれ、取り込まれた空気は、羽根車22の羽根部26に衝突する。そうすると、羽根車22が回転し始め、分離機本体20の内部に上昇気流が発生する。この上昇気流は、上方に形成されている排出管23から分離機本体20の外部に移動し、排出ホース10を介して、集塵機11まで移動する。
【0028】
[混合物取込工程]
次に、吸引部5を混合物4に近づけ、混合物4を吸引する。この吸引された混合物4は、取込ホース7を通過し、取込管21を介して分離機本体20の内部に取り込まれる。
【0029】
[研削材分離工程]
分離機本体20の内部に取り込まれた混合物4は、上昇気流から外力を受ける。
混合物4に含まれる塗装片は、その比重が小さいため、上昇気流から外力を受けて、上昇する。上昇した塗装片は、排出管23から分離機本体20の外部に排出され、排出ホース10を介して、集塵機11に収容される。
一方、混合物4に含まれる研削材3は、比重が大きいため、上昇気流の力を受けても上昇しない。そのため、研削材3は、羽根車22の胴部25や羽根部26、あるいは、分離機本体20の内壁に衝突する。そして、研削材3は、自重により分離機本体20の下方に落下し、下蓋14の上に貯留される。
【0030】
混合物4を全て吸引した後、コンプレッサー9を停止し、分離機本体20の内部への空気の吸引を停止する。空気の吸引が停止されると、羽根車22の回転は停止する。
その後、分離機本体20の下に収集容器を設置し、下蓋14を取り外して、研削材3を回収する。回収した研削材3は、再利用される。
【0031】
次に、本実施形態に係る分離機6の作用効果について説明する。
本実施形態の分離機6では、分離機本体20の内部に取り込まれた混合物4は、羽根車22の回転によって生じた上昇気流により外力を受ける。そうすると、比重の小さい塗装片は、上方に移動し、取込管21よりも上側に配置された排出管23から外部に排出され、一方、比重の大きい研削材3は、分離機本体20の下方に落下する。
そのため、ブラスト処理後の混合物4から、研削材3は、確実に分離できる。そうすると、研削物3は、集塵機11に混入することはなくなるため、塗装片と共に産業廃棄物として廃棄する必要がなくなる。したがって、産業廃棄物の廃棄量を大幅に削減でき、コストを削減できる。さらに、廃棄物の廃棄量が削減されると、削減廃棄物を回収する作業の回数も減らすことができる。
また、研削材3は、塗装片と分離して回収されるため、この研削材3は再利用することができ、コストを削減することができる。
さらに、分離機本体20は、下方に向けて縮径しているため、研削材3を一定の場所に落下させやすく、容易に回収できる。
【0032】
本実施形態における分離装置1は、各構成が独立しており、取込ホース7や排出ホース10で接続されるため、使用する現場で組み立てることができる。また、各構成が独立しているため、別々に運搬することもできる。
さらに、取込ホース7には、約100mの長さのものを使用することができる。そのため、スペースが確保しづらい場所の塗装壁から離れた位置に分離機6を設置し、塗装壁を施工することができる。
【0033】
本実施形態のブラスト工法では、金属製で硬度の大きい研削材を使用する。そのため、硬度が小さい研削材を使用した場合に比べて、塗装膜を研削する速度が速くなる。したがって、全体として、施工の時間を短縮できる。
また、硬度の大きい金属製の研削材は、硬度の小さい研削材に比べて、ブラストにより塗装壁に衝突したときに粉砕されにくい。そのため、硬度の小さい研削材を使用する場合に比べて、粉塵の発生を抑制することができ、作業環境が悪化することを防止できる。
【0034】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本実施形態では、金属製の研削材としてスチールグリッドを使用したが、真比重が4.1〜7.45の範囲であれば、スチールグリッドに限定されず、例えば、鋳鋼ショットを使用することができ、さらに非金属製の研削材も使用することができる。
また、回転体は、インペラ型の羽根車22に限定されず、この回転体には、プロペラ型のものを使用することもできる。
また、排出管23は、上昇気流の風下側に設けられていればよく、例えば、分離機本体20において、取込管21よりも上側の側面部に設けることもできる。
また、排出管23と取込管21は同じ方向に延出していなくてもよく、排出管23と取込管21を逆方向に延出することもできる。
【解決手段】塗装膜を研削材3によりブラストした際に生じる塗装片と研削材との混合物から、研削材を分離する分離機6であって、中空状の分離機本体20と、分離機本体20の内部に混合物を取り込む取込管21と、所定の高さに設けられ、分離機本体20の内部に上昇気流を発生させる羽根車22と、分離機本体20の外部に塗装片を排出する排出管23とを備えている。使用する研削材は、真比重が4.1〜7.45であり、排出管23は分離機本体20において、取込管21よりも上側に接続されている。