(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H. Hasegawa, Y. Mizoguchi, K. Tadakuma, A. Ming, M. Ishikawaand M. Shimojo,“Development of Intelligent Robot Hand using Proximity, Contact and Slip sensing”, IEEE Int. Conf. Robotics and Automation, 2010年, pp. 777-784
【非特許文献2】溝口善智・多田隈建二郎・長谷川浩章・明愛国・石川正俊・下条誠、「近接・触・すべり覚を統合したインテリジェントロボットハンドの開発」、計測自動制御学会論文集、2010年、Vol. 46, No. 10, pp. 632-640
【非特許文献3】S. Tsuji, A. Kimoto and E. Takahashi: “A Multifunction Tactile and Proximity Sensing Method by Optical and Electrical Simultaneous Measurement”, IEEE Trans. Instrum. Meas., 2012年, Vol.61, No. 12, pp. 3312-3317
【非特許文献4】S. Tsuji and T. Kohama: “An Array System of Proximity and Tactile Sensors by Simultaneous Measurement of Optical and Electrical Properties”, IEEJ Trans. Sens. Micromach., 2013年, Vol. 133, No. 3, pp. 66-71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら当該センサは、2つのセンサを単に組み合わせたものであるため、近接覚計測と触覚計測のそれぞれの素子が17mm離れてしまっている。そして素子同士の距離が大きいため、近接覚と触覚を誤検知する可能性がある。また2つのセンサを組み合わせるため、センサ全体のサイズが大型化してしまい、小型化や高密度実装には不利であった。
【0005】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、近接覚計測及び触覚計測を単一のMEMSセンサで検出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明に係るMEMSセンサは、
近接覚計測及び触覚計測用のMEMSセンサであって、
透光性弾性部材と、
前記透光性弾性部材に埋め込まれた少なくとも1つの検知素子と、
を有し、前記検知素子は、
半導体層上に絶縁層を介して設けられた2つの端子と、
前記半導体層に端部が接続され、前記透光性弾性部材に対する物体の接触に応じて変形するカンチレバーと、
前記カンチレバー上に設けられ、前記2つの端子に各端部が接続されたひずみゲージと、を備え、前記2つの端子間の直流抵抗の変化に基づき接触力を検知し、前記2つの端子間の交流インピーダンスの変化に基づき近接を検知することを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係るMEMSセンサは、
前記検知素子を3つ有し、
前記3つの検知素子は各々異なる方向を向いていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るMEMSセンサは、
前記透光性弾性部材は、高さ2mm以下で底面の直径が2mm以下の円柱形状であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るMEMSセンサは、
前記交流インピーダンスを1MHz以上の周波数で測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明におけるMEMSセンサによれば、近接覚計測及び触覚計測を単一のセンサで検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
(センサの構造)
図1は本発明の一実施形態に係るMEMSセンサの構造を示す図である。本発明の一実施形態に係るMEMSセンサ1は、センサチップ2と、厚膜の透光性弾性部材層3と、透光性弾性部材4と、少なくとも1つの検知素子5とを備える。
図1では検知素子5を3つ備える構造を示しており、以下本実施の形態では、検知素子5が3つである場合について説明する。なお検知素子5は、各々異なる方向を向いていることを特徴とする。
【0014】
センサチップ2は、サイズが5×5mm
2であり、当該センサチップ2は厚膜の透光性弾性部材層3により覆われている。好適には当該透光性弾性部材層3の厚さは40μmである。また好適には透光性弾性部材層3は、透明のエラストマ(例えば、ポリジメチルシロキサン、PDMS)により構成する。
【0015】
透光性弾性部材4は透光性弾性部材層3上に設けられている。好適には
図1に示すように透光性弾性部材4は円柱形状であり、高さ2mm以下で底面の直径が2mm以下である。好適には円の直径は1.6mmであり、高さは1.5mmである。また好適には透光性弾性部材4は、透明のエラストマ(PDMS)により構成する。なお、透光性弾性部材層3と透光性弾性部材4は、同一材料で一体的に形成されて良い。
【0016】
検知素子5は透光性弾性部材層3及び透光性弾性部材4に埋め込まれ、当該検知素子5により近接覚計測及び触覚計測を行う。なお、透光性弾性部材層3及び透光性弾性部材4は一体的に形成されるので、以下、単に、透光性弾性部材4に埋め込まれると表現する。
図2は、本発明の一実施形態に係るMEMSセンサの写真である。
【0017】
図3に、検知素子5の構造を示す。検知素子5は、半導体基板50と、第一絶縁層51と、半導体層52と、第二絶縁層53と、端子54A及び端子54Bと、カンチレバー55と、ひずみゲージ56と、応力層57とを備える。検知素子5は、表面MEMSプロセスにより作製する。
【0018】
半導体基板50は、好適にはケイ素(Si)により構成する。半導体基板50上には第一絶縁層51が設けられる。好適には第一絶縁層51は、二酸化ケイ素(SiO
2)により構成する。半導体層52は第一絶縁層51上に設けられる。好適には半導体層52はケイ素(Si)により構成する。半導体層52上には第二絶縁層53が設けられる。好適には第二絶縁層53は、窒化ケイ素(Si
3N
4)により構成する。端子54A及び端子54Bは、第二絶縁層53上に設けられる。すなわち端子54A及び端子54Bは、半導体層52上に第二絶縁層53を介して設けられる。好適には端子54A及び端子54Bは、金(Au)により構成する。
【0019】
カンチレバー55は、半導体層52にその端部が接続される。ここで透光性弾性部材4に物体が接触した場合、接触力により透光性弾性部材4が変形する。そして透光性弾性部材4が変形した場合、カンチレバー55が変形する。すなわち、カンチレバー55は、透光性弾性部材4に対する物体の接触に応じて変形する。カンチレバー55にはひずみゲージ56が設けられる。ひずみゲージ56の端部は、それぞれ端子54A及び端子54Bに接続される。好適にはひずみゲージ56は、厚さ50nmのジグザグパターンのニクロム(NiCr)抵抗により構成する。またカンチレバー55には応力層57が成膜・パターニングされ、
図3に示すように応力層57により、カンチレバー55が、半導体基板50に対して上方向に傾斜される。好適には応力層57は厚さ200nmのクロム(Cr)により構成する。
【0020】
(触覚の検知原理)
垂直圧力および剪断力(3軸力)がMEMSセンサ1の透光性弾性部材4に加わると、カンチレバー55の変形によりひずみゲージ56の抵抗値が変化する。すなわち端子54A及び端子54B間の直流抵抗の変化に基づき接触力を検知することができる。ここで変形が微小である場合、抵抗変化ΔR/Rは、印加された3軸力F
i(i=x,y,z)の線形結合で表現することができる(数式(1))。
【数1】
【0021】
図1に示すように、検知素子5は、各々異なる方向を向いている。そのため各検知素子5のカンチレバー55も、各々異なる方向を向いている。そのため予めそれぞれの方向に対する感度k
xを測定しておくことにより、各検知素子5のひずみゲージ56の抵抗変化から3軸力の検出が可能となる。なお本実施の形態では、検知素子5が3つの場合を説明するが、仮に検知素子5が3つ未満の場合(例えば検知素子5が1つの場合)でも、所定方向の力の検出が可能となる。
【0022】
(近接覚の検知原理)
図4に検知素子5の断面構造を示す。
図4は、
図3の検知素子5を端子54A及び端子54Bを通り、半導体基板50に対して垂直な面で切った断面図である。物体がMEMSセンサ1に近接した場合、透光性弾性部材4を透過してMEMSセンサ1が受ける光強度が変化する。そして当該光強度の変化により、半導体層52の抵抗値及び空乏層容量が半導体の光導電効果により変化する。
図4では断面図上に等価回路を示している。半導体層52、端子54A、及び第二絶縁層53は、キャパシタ531、532を構成する。半導体層52の抵抗値は可変抵抗521に相当する。半導体層52の空乏層容量は各々可変キャパシタ522、523に相当する。そして光強度の変化による端子54A及び端子54B間の交流インピーダンス変化を検出することにより、近接覚を検知する。一般に光源からの距離r(m)の地点における光の放射強度I(W/sr)は、数式(2)で表される。
【数2】
距離に対する光強度の変化は、触覚の場合とは異なり非線形であるため、検出したい距離範囲において、センサ出力をあらかじめ計測しておく。
【0023】
(触覚・近接覚情報の分離に係る原理)
図5に端子54A(端子A)及び端子54B(端子B)間の等価回路を示す。
図5に示すように、AB間の等価回路は、直流特性を与えるひずみゲージ56による可変抵抗561と、交流特性を与える半導体層52の空乏層容量(可変キャパシタ522及び可変キャパシタ523)および可変抵抗521と、第二絶縁層53に対応するキャパシタ531、532を含む回路の並列回路で表現される。
【0024】
近接覚計測及び触覚計測用のハイブリッド計測においては、第二絶縁層53(キャパシタ531、532)が交流・直流のフィルタの役割を果たし、触覚計測と近接覚計測を切り替える。触覚計測の直流抵抗測定時には、第二絶縁層53が絶縁層として振る舞うため、ひずみゲージ56の抵抗変化のみを検出可能となる。一方、近接覚計測の交流インピーダンス測定時には、第二絶縁層53がキャパシタとして振る舞う。端子AB間の交流インピーダンスは、ひずみゲージ56の抵抗変化と、半導体層52の特性変化の両方の影響を受けるが、前者は後者と比較して充分小さい変化である。よって、交流インピーダンスから触覚情報と独立して近接覚情報を検出可能である。
【0025】
(等価回路の妥当性評価)
図5で示した等価回路の妥当性を評価するため、端子AB間の交流インピーダンスの周波数依存性を測定した。LCRメータ(日置電機;3532−50)を用いて測定した交流インピーダンスの周波数特性を
図6(a)に示す。ここで、Sensor No.とはセンサチップ上の検知素子5の識別番号である。ZおよびZ
oは、それぞれ測定周波数における複素インピーダンス、および50Hzにおけるインピーダンス絶対値である。
【0026】
10kHz程度までの低周波数領域においてはインピーダンス絶対値は7kΩ程度であり、これはひずみゲージ56の抵抗値と一致する。10kHz以上の高周波数領域ではインピーダンス絶対値は低下する。これは、第二絶縁層53のリアクタンスが小さくなり、半導体層52がひずみゲージ56に対して並列に接続された回路となったためと考えられる。また、複素インピーダンスをベクトル表示したCole-Coleプロットを
図6(b)に示す。ベクトル軌跡は下半円に近く、また、インピーダンスに共振点が見られない。したがって、
図5に示した等価回路は概ね妥当であるといえる。
【0027】
(触覚・近接覚計測に係るセンサ出力の評価(実験例1))
本実施の形態に係るMEMSセンサ1に関し、物体との接触および非接触時それぞれの場合におけるセンサ出力を評価した。
図7(a)に実験例1の測定系を示す。当該測定系は暗室内に配置される。
図7(a)に示すように、MEMSセンサ1の傍に投光用のチップLED6(エレキット;LK−1WH−6)を配置し、これと離れた位置に物体7(白色ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板20×20mm
2)を、一点鎖線8で繋いだ位置が鉛直方向に重なるように配置した。物体7上には操作用の押圧子71を設けた。
【0028】
このように構成した測定系において、物体7とMEMSセンサ1の透光性弾性部材4間の距離を変化させ、デジタルマルチメータ(アドバンテスト;R6581)を用いて直流抵抗を測定し、またLCRメータを用いて交流インピーダンスをそれぞれ測定した。
図7(b)に、接触時・非接触時それぞれの場合の、透光性弾性部材4と物体間の距離に対する直流抵抗及び交流インピーダンス(0.5〜2MHz)の変化を測定した結果を示す。なお距離0mmにおける直流抵抗及びインピーダンスを基準とした。
【0029】
図7(b)に示すように、MEMSセンサ1と物体7間の距離が0mmより大きい領域、すなわち非接触時は、カンチレバー55が変形しないため直流抵抗がほとんど変化しない。そのため交流インピーダンスのみが、数式(2)に対応した非線形な変化を示す。
【0030】
一方、MEMSセンサ1と物体7間の距離が0mm未満の領域、すなわち接触後はカンチレバー55の変形により直流抵抗が数式(1)に対応した線形に近い変化を示す。接触後の距離の変位は微小であるため交流インピーダンスの変化は小さい。なお横軸の距離が負の領域は、物体7がMEMSセンサ1に押し込まれていることを示している。
【0031】
以上の結果から、本手法により、物体接触後の触覚情報と接触前の物体近接時の距離情報を単一のMEMSセンサ1で検出可能であることが示された。
【0032】
なお測定した周波数範囲において、周波数が高いほど近接覚計測の感度が高い結果となっている。これは、高周波数になると第二絶縁層53のリアクタンスが小さくなり、半導体層52の特性変化が見えやすくなることに起因すると考えられる。好適には本実施形態に係るMEMSセンサ1では、1MHz以上の周波数で交流インピーダンスを測定することが好ましいといえる。
【0033】
(近接覚計測に係る評価(実験例2))
実験例1ではMEMSセンサ1に対して垂直な方向の特性を評価した。実験例2ではMEMSセンサ1に対して水平方向の特性を評価するために、物体表面付近でMEMSセンサ1を水平スキャンすることによる物体形状の検出を試みた。
【0034】
実験例2では、
図7に示した測定系においてPTFE板を取り外し、
図8(a)に示す同心円筒形状の物体9を、空洞部分の片面を白色の厚紙により覆ったのち、その反対の面がMEMSセンサ1と向かい合うように取り付けた。MEMSセンサ1の透光性弾性部材4と物体の底面間の距離を1cmに固定し、
図7(a)に示すx及びy方向にMEMSセンサ1とLED6を動かし、2.5mm間隔で二次元スキャンした。
【0035】
図8(b)に、センサが各座標に位置するときの交流インピーダンス(1MHz)を測定した結果を示す。なお、原点における交流インピーダンスを基準としている。
図8(c)は、
図8(b)においてy座標が37.5mmの部分を抽出したものである。
図8中の破線は、透光性弾性部材4の中心部分が物体の縁の直下に位置する座標を示しており、同心円筒形状に対応していることがわかる。
【0036】
このように本実施の形態に係るMEMSセンサ1によれば、直流抵抗の測定により触覚情報を、交流インピーダンスの測定により近接覚情報をそれぞれ別個に検出できるため、近接覚計測及び触覚計測を単一のセンサで検出することができる。
【0037】
また本実施の形態に係るMEMSセンサ1によれば、検知素子5を各々異なる方向を向いているように設けているため、各検知素子5のひずみゲージ56の抵抗変化から3軸力の検出が可能となる。
【0038】
また本実施の形態に係るMEMSセンサ1は、透光性弾性部材4が高さ2mm以下で底面の直径が2mm以下の円柱形状としている。そのため3軸力の検出を精度よく行うことを可能とし、またセンサのサイズが極めて小さいため、近接覚と触覚を誤検知する可能性を低減することができる。
【0039】
また本実施の形態に係るMEMSセンサ1は、1MHz以上の周波数で交流インピーダンスを測定することで、近接覚に係る交流インピーダンス変化量を十分確保し、近接覚の精度を向上させることができる。
【0040】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各部材に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能である。