特許第6160986号(P6160986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6160986-セラミックス焼結体 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6160986
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】セラミックス焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/56 20060101AFI20170703BHJP
   C04B 35/119 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   C04B35/56 260
   C04B35/119
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-504832(P2017-504832)
(86)(22)【出願日】2016年11月25日
(86)【国際出願番号】JP2016085055
【審査請求日】2017年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-238155(P2015-238155)
(32)【優先日】2015年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 傑
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/059020(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/002743(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/019391(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/057183(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/56
C04B 35/10
B23B 27/14
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウムと、炭化タングステンと、酸化ジルコニウムとを含むセラミックス焼結体であって、
前記酸化ジルコニウムは、ZrOおよびZrO2を含み、
前記ZrO2は、正方晶および立方晶からなる群より選ばれる1種又は2種の結晶構造を有し、
X線回折における、前記ZrOの(111)面のピーク強度をI1とし、正方晶の結晶構造を有するZrO2の、(101)面のピーク強度をI2tとし、立方晶の結晶構造を有するZrO2の(111)面のピーク強度をI2cとしたとき、I1とI2tとI2cとの合計に対するI1の比[I1/(I1+I2t+I2c)]が、0.05以上0.90以下であり、
前記セラミックス焼結体の全体量に対して、
前記酸化アルミニウムの含有量が、30体積%以上74体積%以下であり、
前記炭化タングステンの含有量が、25体積%以上69体積%以下であり、
前記酸化ジルコニウムの含有量が、1体積%以上20体積%以下である
セラミックス焼結体。
【請求項2】
1とI2tとI2cとの合計に対するI1の比[I1/(I1+I2t+I2c)]が、0.20以上0.80以下である、請求項1に記載のセラミックス焼結体。
【請求項3】
前記酸化アルミニウムは、α型酸化アルミニウムであり、
X線回折における前記α型酸化アルミニウムの(110)面のピーク強度をI3としたとき、I3に対するI2tとI2cとの合計の比[(I2t+I2c)/I3]が、0.30以上4.00以下である、請求項1または2に記載のセラミックス焼結体。
【請求項4】
前記酸化アルミニウムの平均粒径が0.20μm以上2.00μm以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体。
【請求項5】
前記炭化タングステンの平均粒径が0.10μm以上1.50μm以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載のセラミックス焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化アルミニウム・酸化ジルコニウム系セラミックスは、一般に、化学的安定性および耐摩耗性に優れた材料であり、各種構造部材や切削工具材として利用されている。酸化アルミニウム・酸化ジルコニウム系セラミックスの性能は、酸化ジルコニウムの結晶相、粒子径、凝集および分散状態に依存するところが大きく、そのような観点から様々な検討が行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5174291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ニッケル基に代表される耐熱合金は、高温で高い引張強度および耐食性を有していることから、ジェットエンジンおよびガスタービン用部品等の材料として利用されている。このような耐熱合金の切削加工では、耐熱合金が上記の材料特性に加え、低い熱伝導率および切削工具に対する高い化学反応性を有していることから、工具寿命が著しく短くなることが知られている。
【0005】
従来、ニッケル基耐熱合金の高速切削では、酸化アルミニウム・酸化ジルコニウム系セラミックスを切削工具材料として用いることが多い。よって、そのような用途でも耐え得る程度の耐摩耗性および耐欠損性が求められている。例えば、特許文献1に記載の酸化アルミニウム・酸化ジルコニウム系セラミックス焼結体では、その組織の制御により耐摩耗性または耐欠損性を向上させようとしている。しかしながら、特許文献1に記載のセラミックス焼結体は、まだ耐摩耗性が十分ではなく、また、工具寿命が短い結果、加工時間を長くすることが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するものであり、切削工具または耐摩耗工具のような工具の材料として用いた場合に、耐欠損性の低下を抑制すると共に、耐摩耗性を向上させることにより、そのような工具の工具寿命を長くするセラミックス焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、セラミックス焼結体に関する研究を行ってきたところ、セラミックス焼結体を以下の構成にすると、特に、そのセラミックス焼結体を材料とする工具を用いたニッケル基耐熱合金の高速加工および高能率加工において、工具の耐欠損性の低下を抑制すると共に耐摩耗性を向上させることができるという知見が得られた。その結果、そのセラミックス焼結体を材料とする工具の工具寿命を延長することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)酸化アルミニウムと、炭化タングステンと、酸化ジルコニウムとを含むセラミックス焼結体であって、前記酸化ジルコニウムは、ZrOおよびZrO2を含み、前記ZrO2は、正方晶および立方晶からなる群より選ばれる1種又は2種の結晶構造を有し、X線回折における、前記ZrOの(111)面のピーク強度をI1とし、正方晶の結晶構造を有するZrO2の、(101)面のピーク強度をI2tとし、立方晶の結晶構造を有するZrO2の(111)面のピーク強度をI2cとしたとき、I1とI2tとI2cとの合計に対するI1の比[I1/(I1+I2t+I2c)]が、0.05以上0.90以下であり、前記セラミックス焼結体の全体量に対して、前記酸化アルミニウムの含有量が、30体積%以上74体積%以下であり、前記炭化タングステンの含有量が、25体積%以上69体積%以下であり、前記酸化ジルコニウムの含有量が、1体積%以上20体積%以下である、セラミックス焼結体。
(2)I1とI2tとI2cとの合計に対するI1の比[I1/(I1+I2t+I2c)]が、0.20以上0.80以下である、(1)のセラミックス焼結体。
(3)前記酸化アルミニウムは、α型酸化アルミニウムであり、X線回折における前記α型酸化アルミニウムの(110)面のピーク強度をI3としたとき、I3に対するI2tとI2cとの合計の比[(I2t+I2c)/I3]が、0.30以上4.00以下である、(1)または(2)のセラミックス焼結体
(4)前記酸化アルミニウムの平均粒径が0.20μm以上2.00μm以下である、(1)〜()のいずれかのセラミックス焼結体。
)前記炭化タングステンの平均粒径が0.10μm以上1.50μm以下である、(1)〜()のいずれかのセラミックス焼結体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、切削工具または耐摩耗工具のような工具の材料として用いた場合に、耐欠損性の低下を抑制すると共に、耐摩耗性を向上させることにより、そのような工具の工具寿命を長くするセラミックス焼結体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例に係るセラミックス焼結体のX線回折測定パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
本実施形態のセラミックス焼結体は、酸化アルミニウムと、炭化タングステンと、酸化ジルコニウムとを含む。より具体的には、本実施形態のセラミックス焼結体は、酸化アルミニウム・酸化ジルコニウム系セラミックスに、さらに炭化タングステンを含むと好ましい。これにより、耐摩耗性を更に向上させることができる。
本実施形態のセラミックス焼結体に含まれる酸化アルミニウムの含有量が、セラミックス焼結体の全体量(100体積%)に対して30体積%以上になると、反応摩耗を抑制する効果が更に高まる傾向にあり、74体積%以下になると、耐摩耗性が更に向上する傾向にある。また、セラミックス焼結体に含まれる炭化タングステンの含有量が、セラミックス焼結体の全体量(100体積%)に対して25体積%以上、より好ましくは30体積%以上になると、耐摩耗性が更に向上する傾向にあり、69体積%以下になると、反応摩耗を抑制する効果が更に高まる傾向にある。さらに、セラミックス焼結体に含まれる酸化ジルコニウムの含有量が、セラミックス焼結体の全体量(100体積%)に対して1体積%以上になると、セラミックス焼結体の靱性が更に高まる傾向にあるため、耐欠損性が更に向上することがあり、20体積%以下になると、強度が更に高まる傾向にあるため、耐欠損性が更に向上することがある。
したがって、本実施形態のセラミックス焼結体において、その全体量に対して、酸化アルミニウムの含有量が、30体積%以上74体積%以下であり、炭化タングステンの含有量が、25体積%以上69体積%以下であり、酸化ジルコニウムの含有量が、1体積%以上20体積%以下であると好ましい。なお、炭化タングステンの含有量は、30体積%以上69体積%以下であるとより好ましい。
【0013】
本実施形態に係る酸化ジルコニウムは、ZrOとZrOとを含む。酸化ジルコニウムがZrOを含むと、セラミックス焼結体の耐摩耗性が向上する。酸化ジルコニウムがZrOを含むと、セラミックス焼結体の応力誘起変態により、その靱性が向上する効果を得ることができる。セラミックス焼結体の靱性が向上する結果、その耐欠損性が向上する。また、本実施形態のセラミックス焼結体に含まれるZrOの結晶系が正方晶および立方晶のどちらか1種、または正方晶と立方晶の両方を有すると好ましい。すなわち、ZrOは、正方晶および立方晶からなる群より選ばれる1種又は2種の結晶構造を有すると好ましい。これにより、セラミックス焼結体の靱性が向上するため、その耐欠損性を向上させることができる。なお、本実施形態のセラミックス焼結体におけるZrOは、その結晶構造を安定化させる観点および応力誘起変態による効果を高める観点から、CeO、Y、MgOおよびCaOからなる群より選ばれる1種以上を添加して得られたZrOであると好ましい。ZrOの結晶構造は、正方晶、または立方晶、もしくは正方晶と立方晶とを有すると、セラミックス焼結体の靱性が向上する効果が最大限に発揮される。なお、本明細書において、「ZrO」とは、正方晶の結晶構造を有するZrO(以下、「正方晶ZrO」という。)、単斜晶の結晶構造を有するZrO(以下、「単斜晶ZrO」という。)、および立方晶の結晶構造を有するZrO(以下、「立方晶ZrO」という。)のすべての結晶系のZrOを意味する。つまり、本明細書において、ZrOは、正方晶ZrO、単斜晶ZrO、および立方晶ZrOからなる群より選ばれる1種以上を意味する。そのため、本実施形態のセラミックス焼結体は、単斜晶ZrOを含む場合も、ZrOを含むことに基づく効果を発揮することができる。
【0014】
本実施形態のセラミックス焼結体は、X線回折における、ZrOの(111)面のピーク強度をIとし、正方晶ZrOの(101)面のピーク強度をI2tとし、立方晶ZrOの(111)面のピーク強度をI2cとしたとき、IとI2tとI2cとの合計に対するIの比[I/(I+I2t+I2c)]が、0.05以上0.90以下である。IとI2tとI2cとの合計に対するIの比[I/(I+I2t+I2c)]が、0.05以上であると、ZrOを有することによる効果をより確実且つ有効に得ることができ、セラミックス焼結体の耐摩耗性が向上する。一方、IとI2tとI2cとの合計に対するIの比[I/(I+I2t+I2c)]が、0.90以下であると、ZrOの含有量が高くなることにより、セラミックス焼結体の靱性を向上させる効果が得られるため、セラミックス焼結体の耐欠損性が向上する。その中でも、IとI2tとI2cとの合計に対するIの比[I/(I+I2t+I2c)]が、0.20以上0.80以下であると、好ましい。
【0015】
ここで、ZrOの(111)面のピーク強度Iと、正方晶ZrOの(101)面のピーク強度I2tと、立方晶ZrOの(111)面のピーク強度I2cとの合計は、ZrOの(111)面のピーク強度I2tと、正方晶ZrOの(101)面のピーク強度I2tと、立方晶ZrOの(111)面のピーク強度I2cとを合計した値に相当する。例えば、JCPDSカード51−1149番によると、ZrOの(111)面は、2θが33.5度付近に回折ピークが存在する。また、JCPDSカード72−2743番によると、正方晶ZrOの(101)面は2θが30.18度付近に回折ピークが存在し、JCPDSカード49−1642番によると、立方晶ZrOの(111)面は2θが30.12度付近に回折ピークが存在する。したがって、セラミックス焼結体のX線回折を測定した際に、上記各2θにおける回折ピークのピーク強度に基づいて、IとI2tとI2cとの合計に対するIの比[I/(I+I2t+I2c)]を算出することができる。
【0016】
本実施形態の酸化アルミニウムは、その結晶系がα型である、すなわちα型酸化アルミニウムであると、特にニッケル基耐熱合金の加工において、反応摩耗を一層抑制することができるので好ましい。また、X線回折におけるα型酸化アルミニウムの(110)面のピーク強度をIとしたとき、Iに対するI2tとI2cとの合計の比[(I2t+I2c)/I]が、0.30以上4.00以下であると、好ましい。(I2t+I2c)/Iが、0.30以上である場合、正方晶ZrOおよび立方晶ZrOの含有量が多くなるため、靱性が更に高まり、耐欠損性が向上する傾向にある。(I2t+I2c)/Iが、4.00以下である場合、相対的にα型酸化アルミニウムが多くなるため、熱伝導率が高くなり、反応摩耗による欠損が生じ難くなる傾向にある。なお、正方晶ZrOの(101)面のピーク強度I2tと、立方晶ZrOの(111)面のピーク強度I2cとの合計は、正方晶ZrOの(101)面のピーク強度I2tと、立方晶ZrOの(111)面のピーク強度I2cとを合計した値に相当する。
【0017】
α型酸化アルミニウムの(110)面は、JCPDSカード83−2080番によると、2θが37.76度付近に回折ピークが存在する。
【0018】
本実施形態のZrO、正方晶ZrO、立方晶ZrOおよびα型酸化アルミニウムのX線回折によるピーク強度は、市販のX線回折装置を用いて測定することができる。例えば、株式会社リガク製のX線回折装置(製品名「RINT TTRIII」)を用いて、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折を、下記条件で測定すると、ZrOの(111)面、正方晶ZrOの(101)面、立方晶ZrOの(111)面およびα型酸化アルミニウムの(110)面回折線について、X線回折強度(ピーク強度)を測定できる。ここで、測定条件は、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:2/3°、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.3mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:2°/min、2θ測定範囲:20〜80°である。得られたX線回折図形から上記の各ピーク強度を求めるときに、X線回折装置に付属の解析ソフトウェアを用いてもよい。解析ソフトウェアでは、三次式近似を用いてバックグラウンド除去を行い、Pearson−VII関数を用いてプロファイルフィッティングを行い、各ピーク強度を求めることができる。
【0019】
本実施形態に係る酸化アルミニウムの平均粒径が、0.20μm以上2.00μm以下であると、セラミックス焼結体の靱性が向上し、耐欠損性に優れるので好ましい。酸化アルミニウムの平均粒径が0.20μm以上であると、Al化合物の粒子が脱落するのをより防止することができるので、耐摩耗性を更に向上することができる。一方、酸化アルミニウムの平均粒径が2.00μm以下であると、セラミックス焼結体の靱性を更に高くすることができるので、耐欠損性を更に向上することができる。
【0020】
本実施形態に係る炭化タングステンの平均粒径は、0.10μm以上1.50μm以下であると、耐欠損性および耐摩耗性が向上するので好ましい。この平均粒径が0.10μm以上であると、炭化タングステンの凝集に起因した、焼結体の組織が不均一になるのをより防止できるので、耐欠損性を更に向上することができる。炭化タングステンの平均粒径が1.50μm以下であると、耐摩耗性を更に向上することができる。同様の観点から、炭化タングステンの平均粒径は、0.30μm以上1.50μm以下であるとより好ましい。
【0021】
本実施形態のセラミックス焼結体における酸化アルミニウム、炭化タングステンおよび酸化ジルコニウムの含有量は、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影したセラミックス焼結体の組織写真から、市販の画像解析ソフトで解析して求めることができる。より具体的には、まず、セラミックス焼結体の表面または任意の断面を鏡面研磨し、SEMを用いてセラミックス焼結体の研磨面の反射電子像を観察する。この際、SEMを用いて5,000〜10,000倍に拡大したセラミックス焼結体の研磨面を反射電子像で観察する。SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いると、黒色領域は酸化アルミニウムであり、灰色領域は酸化ジルコニウムであり、白色領域は炭化タングステンであることを特定することができる。その後、SEMを用いて、セラミックス焼結体の研磨面の組織写真を撮影する。市販の画像解析ソフトを用い、得られた組織写真から酸化アルミニウム、炭化タングステンおよび酸化ジルコニウムの占有面積をそれぞれ求め、それらの比率から、それぞれの体積含有率(体積%)を求めた。組成は、X線回折装置によって同定することができる。
【0022】
本実施形態に係る炭化タングステンの平均粒径は、ASTM E 112−96に準拠して、SEMで撮影したセラミックス焼結体の組織写真から市販の画像解析ソフトで解析して求めることができる。より具体的には、セラミックス焼結体の表面または任意の断面を鏡面研磨し、SEMを用いてセラミックス焼結体の研磨面の反射電子像を観察する。この際、SEMを用いて5,000〜20,000倍に拡大したセラミックス焼結体の研磨面の組織写真を撮影する。市販の画像解析ソフトを用い、得られた組織写真における炭化タングステンの面積と等しい面積の円の直径をその炭化タングステンの粒径とし、断面組織内に存在する炭化タングステンの粒径から平均値を求める。
【0023】
本実施形態に係る酸化アルミニウムの平均粒径は、SEMで撮影したセラミックス焼結体の組織写真から市販の画像解析ソフトで解析して求めることができる。本実施形態に係る酸化アルミニウムの平均粒径は、熱食刻した後のセラミックス焼結体の組織を対象として、酸化アルミニウムについて測定して求める。焼結温度よりも低い温度で熱食刻すると、酸化アルミニウムの平均粒径を求めることができる。より具体的には、セラミックス焼結体の表面または任意の断面を鏡面研磨し、真空焼結炉を用いて、圧力3.0×10−3Pa〜6.3×10−3Pa、温度1000℃〜1250℃、保持時間30〜60分の条件にて、鏡面研磨後のセラミックス焼結体に対して熱食刻を行う。SEMを用いて熱食刻されたセラミックス焼結体の研磨面の二次電子像を観察する。この際、SEMを用いて5,000〜20,000倍に拡大したセラミックス焼結体の研磨面の組織写真を撮影する。市販の画像解析ソフトを用い、得られた組織写真における酸化アルミニウムの面積と等しい面積の円の直径を酸化アルミニウムの粒径とし、断面組織内に存在する酸化アルミニウムの粒径から平均値を求める。この時、酸化アルミニウムの平均粒径は、より詳しくは、ASTM E 112−96に準拠して解析することにより求められる。
【0024】
ここで、セラミックス焼結体の研磨面とは、セラミックス焼結体の表面または任意の断面を鏡面研磨することで露出したセラミックス焼結体の面である。セラミックス焼結体の研磨面を得る方法としては、例えばダイヤモンドペーストを用いて研磨する方法を挙げることができる。
【0025】
本実施形態のセラミックス焼結体の製造方法は、例えば、下記の工程(A)〜(E)を含む。
工程(A):平均粒径0.2〜2.0μmの酸化アルミニウム粉末29〜73体積%と、平均粒径0.05〜3.0μmの炭化タングステン粉末25〜69体積%と、平均粒径0.2〜2.0μmのZrO粉末1〜20体積%と、平均粒径0.5〜5.0μmのAl粉末1〜5体積%とを配合(ただし、これらの合計は100体積%である)して原料粉を得る工程、
工程(B):工程(A)において配合した原料粉を、超硬合金製ボールにて5〜24時間の湿式ボールミルにより混合し、混合物を準備する工程、
工程(C):工程(B)において得られた混合物を所定の形状に成形して成形体を得る成形工程、
工程(D):工程(C)において得られた成形体を焼結炉に収容して、1600〜1800℃の範囲の焼結温度にて、アルゴンガス中で所定の時間保持し焼結してHIP前焼結体を得る工程、及び
工程(E):工程(D)において得られたHIP前焼結体を、1500〜1700℃の範囲の温度にて、100〜150MPaの圧力のアルゴンガス中で所定の時間保持しHIP処理して焼結体を得る工程。
【0026】
本実施形態のセラミックス焼結体の上記製造方法における各工程は、以下の意義を有する。
【0027】
工程(A)では、セラミックス焼結体の組成を調整することができる。また、酸化アルミニウムおよび炭化タングステンの粒径を調整することができる。なお、CeO、Y、MgO、およびCaOなどを添加して得られたZrO粉末を用いると、靱性により優れる正方晶または立方晶のZrOを形成することができる。ZrO粉末の一次粒子の平均粒径が30〜50nmであると、セラミックス焼結体の組織中に微細なZrOが分散しやすくなるという効果がある。しかしながら、取り扱いのしやすさから、平均粒径30〜50nmのZrOの一次粒子が凝集した平均粒径0.1〜2μmの二次粒子のZrO粉末を用いると好ましい。
【0028】
工程(B)では、所定の配合組成の原料粉を均一に混合させることができる。
【0029】
工程(C)では、工程(B)において得られた混合物を所定の形状に成形する。得られた成形体を以下の工程(D)(焼結工程)において焼結する。
【0030】
工程(D)では、成形体を焼結することにより、セラミックス焼結体を作製することができる。焼結温度を調整することにより、酸化アルミニウムおよび炭化タングステンの粒径を制御することができる。したがって、工程(A)において配合する粉末の粒径と工程(D)における焼結温度とを組み合わせると、酸化アルミニウムおよび炭化タングステンの粒径を容易に制御することができるので、好ましい。
また、ZrOと、Al粉末とを高温で焼結することにより、ZrOを含む複合体を作製することができる。これは、下記式(1)で表される反応が進行したことにより、ZrOが形成されるためと考えられる。そこで、工程(A)において、ZrO粉末と、Al粉末との割合を調整することにより、ZrOが形成される割合を制御することができる。
3ZrO+2Al→3ZrO+Al (1)
上記反応を利用し、X線回折強度における各強度の比を所望の値に制御することができる。
【0031】
工程(E)では、焼結体をHIP処理することにより、焼結体中の気孔を減らすことができるので、耐欠損性が向上する。ZrOを形成したセラミックス焼結体は、HIP処理をしない場合、気孔が多く分散しているので、HIP処理をした場合と比較して耐欠損性が低下する。
【0032】
工程(A)から工程(E)までの各工程を経て得られたセラミックス焼結体に対して、必要に応じて研削加工や刃先のホーニング加工を行ってもよい。
【0033】
本実施形態のセラミックス焼結体は、耐摩耗性、および耐欠損性に優れるため、切削工具、および耐摩耗工具に応用されると好ましく、その中でも切削工具に応用されるとさらに好ましい。
【実施例】
【0034】
平均粒径が、0.2μm、0.4μm、0.6μm、0.8μm、1.0μm、または2.0μmの酸化アルミニウム(Al)粉末と、平均粒径が、0.3μm、0.5μm、0.7μm、1.0μm、1.2μm、または1.5μmの炭化タングステン(WC)粉末と、ZrO全体に対して3mol%のYが添加された一次粒子の平均粒径40nmのZrO粒子が凝集した平均粒径0.6μmの二次粒子のZrO(PSZ)粉末と、平均粒径が3.0μmのAl粉末とを用いて表1に示す配合組成にて配合した。
【0035】
【表1】
【0036】
配合した原料粉を超硬合金製ボールとアセトン溶媒とともにボールミル用のシリンダーに収容して、ボールミルにより混合した。ボールミルにより混合して得られた混合物を圧粉成型して成形体を得た。得られた成形体を焼結炉に入れて、アルゴン中で、表2に示す焼結温度で2時間保持し、焼結した。その後、焼結炉の温度を1500℃にし、アルゴンガス中で、表2に示すHIP圧力にてHIP処理し、発明品および比較品のセラミックス焼結体を得た。
【0037】
【表2】
【0038】
得られたセラミックス焼結体を切断し、現れた断面をダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨した。得られた研磨面を、SEMを用いて10,000倍の反射電子像で観察した。SEMに付属するEDSを用いて、研磨面における黒色領域は酸化アルミニウムであり、灰色領域は酸化ジルコニウムであり、白色領域は炭化タングステンであることを確認し、撮影した。撮影した研磨面の組織写真を対象として、市販の画像解析ソフトを用いて、セラミックス焼結体の全体量に対する、酸化アルミニウムの含有量(体積%)、炭化タングステンの含有量(体積%)および酸化ジルコニウムの含有量(体積%)を測定した。これらの結果を表3に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
得られたセラミックス焼結体について、X線回折の回折線のピーク強度を測定するために、株式会社リガク製X線回折装置(製品名「RINT TTRIII」)を使用して、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:2/3°、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.3mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:2°/min、2θ測定範囲:20〜80°という条件で、Cu−Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定を行った。得られたX線回折図形からZrOの(111)面のX線回折のピーク強度I、正方晶ZrO(101)面のX線回折のピーク強度I2t、立方晶ZrOの(111)面のX線回折のピーク強度I2c、および、α型酸化アルミニウムの(110)面のX線回折のピーク強度Iを測定した。図1に一例として、発明品7のX線回折測定の結果の回折パターンを示す。なお、図1中、正方晶ZrO(101)面をt−ZrO(101)とし、立方晶ZrO(111)面をc−ZrO(111)と表した。その後、IとI2tとI2cとの合計に対するIの比[I/(I+I2t+I2c)]、Iに対するI2tとI2cとの合計の比[(I2t+I2c)/I]をそれぞれ求めた。それらの値を表4に示す。
【0041】
【表4】
*表中の「-」は、酸化アルミニウム、または、正方晶ZrOと立方晶ZrOとを含まないため、算出できないことを示す。
【0042】
得られたセラミックス焼結体における炭化タングステンの平均粒径は、SEMで撮影したセラミックス焼結体の断面の組織写真から市販の画像解析ソフトを用いて求めた。具体的には、まず、セラミックス焼結体を切断し、現れた断面をダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨した。得られた研磨面を対象として、SEMを用いて10,000倍の二次電子像を観察し、SEMに付属するEDSを用いて、黒色領域は酸化アルミニウムであり、灰色領域は酸化ジルコニウムであり、白色領域は炭化タングステンであることを確認した。組織のSEM画像を少なくとも10視野以上撮影した。次に、得られたSEM画像(組織写真)について、市販の画像解析ソフトを用い、ASTM E 112−96に準拠して得られた粒径の値を、焼結体の組織内に存在する炭化タングステンの粒径とした。得られた複数の粒径の値を相加平均して、炭化タングステンの平均粒径とした。その結果を表5に示す。
【0043】
【表5】
【0044】
得られたセラミックス焼結体の表面または任意の断面をダイヤモンドペーストにて鏡面研磨した後、真空焼結炉に入れて熱食刻を行った。熱食刻は、5.3×10−3Paの圧力、1200℃の温度にて、50分間保持する条件で行った。SEMを用いて熱食刻されたセラミックス焼結体の研磨面の10,000倍の二次電子像を観察した。セラミックス焼結体の組織のSEM画像(組織写真)を少なくとも10視野以上撮影した。その後、得られたSEM画像(組織写真)について、市販の画像解析ソフトを用い、ASTM E 112−96に準拠して得られた値を、焼結体の組織内に存在する酸化アルミニウムの平均粒径とした。その結果を表6に示す。
【0045】
【表6】
【0046】
発明品および比較品をISO規格RPGX120700インサート形状の切削工具に加工した。得られた切削工具について、下記の切削試験を行った。その結果を表7に示す。
【0047】
[切削試験1:耐摩耗性試験]
切削方法:外周連続切削、
被削材:インコネル718(商標登録)、
被削材形状:円柱φ130mm×370mm、
切削速度:280m/min、
切込み:1.2mm、
送り:0.25mm/rev、
クーラント:湿式、
評価項目:試料が欠損したとき、または試料の最大逃げ面摩耗幅が0.3mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命に達するまでの加工(切削)時間を測定した。
【0048】
[切削試験2:耐欠損性試験]
切削方法:端面連続切削、
被削材:インコネル718(商標登録)、
被削材形状:円柱φ300mm×200mm、
切削速度:250m/min、
切込み:2.0mm、
送り:0.20mm/rev、
クーラント:湿式、
評価項目:試料が欠損に至ったときを工具寿命とし、工具寿命に達するまでの加工(切削)時間を測定した。
【0049】
【表7】
【0050】
発明品のセラミックス焼結体は、耐摩耗性試験および耐欠損性試験の両方の試験において、加工寿命が5分以上であった。一方、比較品のセラミックス焼結体は、耐摩耗性試験または耐欠損性試験において、少なくともいずれか一方の加工寿命が5分未満であった。発明品のセラミックス焼結体は、比較品のセラミックス焼結体に比べ、耐欠損性を低下させることなく、耐摩耗性が向上したことにより、工具寿命が長くなった。
【0051】
本出願は、2015年12月7日出願の日本特許出願(特願2015−238155)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のセラミックス焼結体は、耐欠損性を低下させることなく、耐摩耗性に優れ、特に切削工具や耐摩耗工具として用いた場合に工具寿命を延長できるので、産業上の利用可能性が高い。
【要約】
酸化アルミニウムと、炭化タングステンと、酸化ジルコニウムとを含むセラミックス焼結体であって、前記酸化ジルコニウムは、ZrOおよびZrOを含み、前記ZrOは、正方晶および立方晶からなる群より選ばれる1種又は2種の結晶構造を有し、X線回折における、前記ZrOの(111)面のピーク強度をIとし、正方晶の結晶構造を有するZrOの、(101)面のピーク強度をI2tとし、立方晶の結晶構造を有するZrOの(111)面のピーク強度をI2cとしたとき、IとI2tとI2cとの合計に対するIの比[I/(I+I2t+I2c)]が、0.05以上0.90以下である、セラミックス焼結体。
図1