(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6161034
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】MgB2超伝導体の製造方法およびMgB2超伝導体
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20170703BHJP
H01B 12/04 20060101ALI20170703BHJP
H01B 12/10 20060101ALI20170703BHJP
C01B 35/04 20060101ALI20170703BHJP
C01G 1/00 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
H01B13/00 565Z
H01B12/04ZAA
H01B12/10
C01B35/04 C
C01G1/00 S
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-259711(P2013-259711)
(22)【出願日】2013年12月17日
(65)【公開番号】特開2015-118748(P2015-118748A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年10月7日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 浩明
(72)【発明者】
【氏名】松本 明善
(72)【発明者】
【氏名】イェ シュジュン
【審査官】
北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−16396(JP,A)
【文献】
特開2013−197072(JP,A)
【文献】
特開2004−307256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
C01B 35/04
C01G 1/00
H01B 12/04
H01B 12/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg粉末またはMgH2粉末とB粉末との混合物を加圧成形して熱処理するMgB2超伝導体の製造方法において、
前記B粉末に多環芳香族炭化水素を添加すると共に、この添加時には前記多環芳香族炭化水素の融点以上に加熱して、前記B粉末の表面を前記多環芳香族炭化水素で覆う工程と、
前記多環芳香族炭化水素で表面が覆われた前記B粉末を、前記Mg粉末またはMgH2粉末と混合する工程と、
を有することを特徴とするMgB2超伝導体の製造方法。
【請求項2】
前記多環芳香族炭化水素は、コロネン(coronene)、アンタントレン(anthanthrene)、ベンゾペリレン(Benzo(ghi)perylene)、サーキュレン(circulenes)、コランニュレン(corannulene)、ディコロニレン(Dicoronylene)、ディインデノペリレン(Diindenoperylene)、ヘリセン(helicene)、ヘプタセン(heptacene)、ヘキサセン(hexacene)、ケクレン(kekulene)、オバレン(ovalene)、ゼスレン(Zethrene)、ベンゾ[a]ピレン(Benzo[a]pyrene)、ベンゾ[e]ピレン(Benzo[e]pyrene)、ベンゾ[a]フルオランテン(Benzo[a]fluoranthene)、ベンゾ[b]フルオランテン(Benzo[b]fluoranthene)、ベンゾ[j]フルオランテン(Benzo[j]fluoranthene)、ベンゾ[k]フルオランテン(Benzo[k]fluoranthene)、ディベンゾ[a,h]アントラセン(Dibenz(a,h)anthracene)、ディベンゾ[a,j]アントラセン(Dibenz(a,j)anthracene)、オリンピセン(Olympicene)、ペンタセン(pentacene)、ペリレン(perylene)、ピセン(Picene)、テトラフェニレン(Tetraphenylene)、ベンゾ[a]アントラセン(Benz(a)anthracene)、ベンゾ[a]フルオレン(Benzo(a)fluorene)、ベンゾ[c]フェナントレン(Benzo(c)phenanthrene)、クリセン(Chrysene)、フルオランテン(Fluoranthene)、ピレン(pyrene)、テトラセン(Tetracene)、トリフェニレン(Triphenylene)、アントラセン(Anthracene)、フルオレン(Fluorene)、フェナレン(Phenalene)、フェナントレン(phenanthrene)から選ばれることを特徴とする請求項1記載のMgB2超伝導体の製造方法。
【請求項3】
前記多環芳香族炭化水素は、常温常圧で固体であり、かつ融点が分解温度よりも低いと共に、前記多環芳香族炭化水素における、炭素原子の数と水素原子の数の比は、C:Hが1:0.5から1:0.8であることを特徴とする請求項1に記載のMgB2超伝導体の製造方法。
【請求項4】
前記多環芳香族炭化水素の添加量が、MgB2の理論もしくは実験生成量に対して1〜40mol%であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のMgB2超伝導体の製造方法。
【請求項5】
前記混合物を金属管に充填し、加圧成形して熱処理することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のMgB2超伝導体の製造方法。
【請求項6】
前記多環芳香族炭化水素で覆われたB粉末とMg棒とを金属管に充填し、加圧成形して熱処理することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のMgB2超伝導体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のMgB2超伝導体の製造方法により得られたMgB2超伝導体であって、MgB2コアが1本または複数本あるMgB2線材であることを特徴とするMgB2超伝導体。
【請求項8】
請求項7に記載のMgB2超伝導体であって、MgB2コアが複数本ある多芯MgB2線材であることを特徴とするMgB2超伝導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MgB
2超伝導体の製造方法およびMgB
2超伝導体に関し、さらに詳しくは、超伝導リニアモーターカー、MRI医療診断装置、半導体単結晶引き上げ装置、超伝導エネルギー貯蔵、超伝導回転機、超伝導変圧器、超伝導ケーブルなどの高能力化に有用な高い臨界電流密度(Jc)を有するMgB
2超伝導体の製造方法およびMgB
2超伝導体に関する。
【背景技術】
【0002】
MgB
2超伝導体は、実用超伝導材料に比べて臨界温度Tcが高いということの他に、実用上以下のような利点があげられる。
i)一つの結晶粒から隣の結晶粒へ大きな超伝導電流を流すのに際して、高温酸化物超伝導体のような結晶粒の向きを揃えること(配向化)が不必要と考えられること、
ii)資源的にも豊富で原料が比較的安価であること、
iii)機械的にタフであること、
iv)軽量であること。
このため、MgB
2超伝導体は実用材料として有望と考えられており、現在研究開発が進行している。
【0003】
他方で、超伝導材料の実用化のためには、いわゆる線材化が達成されなければならないが、MgB
2の線材化法としては、原料粉末を金属管に詰め込んで線材に加工後、熱処理をする、いわゆるパウダー・イン・チューブ(PIT)法が最も一般的である(特許文献1参照)。しかしながらPIT法で作製したMgB
2超伝導線材は、実用上もっとも重要な臨界電流密度Jcが実用レベルにはるかに及ばないという大きな問題点がある。
【0004】
このため、充填密度の向上や不純物添加などによるJc特性の向上が種々試みられている(非特許文献1−3参照)。このうち不純物添加については、カーボンを含んだ不純物添加がこれまで数多く試みられてきた。もっとも一般的な添加物はナノSiC粒子であり、ナノSiC添加によって特に強磁界でのJc特性が大幅に向上することが報告されている。これはSiC添加によってMgB
2結晶における一部のBサイトがCによって置換され、これによって上部臨界磁界H
c2が向上するためと考えられる。しかしながらSiC添加では熱処理後にMg
2Siが不純物として残留し、十分にJcが高くならないという問題点がある。
【0005】
一方、芳香族炭化水素などの添加によってもBサイトのC置換が起き、同様のメカニズムで高磁界でのJc特性の向上が得られる(特許文献1−3参照)。そして、芳香族炭化水素添加では、Mg
2Siのような不純物の残留が無いのでそれだけ高Jc化に有利と考えられる。この場合、芳香族炭化水素が液体の場合は液体がBやMg粒子の表面を覆って均一な混合物が得られる。しかしながら芳香族炭化水素が固体の場合には、これらの添加においては、ボールミル等を使用してもMg+B混合粉末と固体の芳香族炭化水素との混合が必ずしも均一には行われないために、Jc特性のバラツキの小さい線材を得ることは難しいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2007/049623号公報
【特許文献2】特開2007−59261号公報
【特許文献3】特開2008−235263号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H. Yamada, et al., Effect of aromatic hydrocarbon addition on in situ powder-in-tube processed MgB2 tapes, Supercond.. Sci. & Technol. 19 (2006) 175.
【非特許文献2】H. Yamada, et al., The excellent superconducting properties of in situ powder-in-tube processed MgB2 tapes with both ethyltoluene and SiC powder added, Supercond. Sci. & Technol. 20 (2007) L30.
【非特許文献3】S.J. Ye, et al., Enhancement of the critical current density of internal Mg diffusion processed MgB2 wires by the addition of both SiC and liquid aromatic hydrocarbon, Physica C471 (2011) 1133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、MgB
2超伝導線材について均一性の優れた多環芳香族炭化水素(ナノグラフェン)添加を実現することができ、高い臨界電流密度(Jc)特性ならびに臨界電流密度(Jc)のバラツキの小さなMgB
2超伝導線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のMgB
2超伝導体の製造方法は、Mg粉末またはMgH
2粉末とB粉末との混合物を加圧成形して熱処理するMgB
2超伝導体の製造方法において、前記B粉末に多環芳香族炭化水素を添加すると共に、この添加時には前記多環芳香族炭化水素の融点以上に加熱して、前記B粉末の表面を液体状態の前記多環芳香族炭化水素で覆う工程と、前記多環芳香族炭化水素で表面が覆われた前記B粉末を、前記Mg粉末またはMgH
2粉末と混合する工程とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明のMgB
2超伝導体の製造方法において、好ましくは、多環芳香族炭化水素は、コロネン(coronene)、アンタントレン(anthanthrene)、ベンゾペリレン(Benzo(ghi)perylene)、サーキュレン(circulenes)、コランニュレン(corannulene)、ディコロニレン(Dicoronylene)、ディインデノペリレン(Diindenoperylene)、ヘリセン(helicene)、ヘプタセン(heptacene)、ヘキサセン(hexacene)、ケクレン(kekulene)、オバレン(ovalene)、ゼスレン(Zethrene)、ベンゾ[a]ピレン(Benzo[a]pyrene)、ベンゾ[e]ピレン(Benzo[e]pyrene)、ベンゾ[a]フルオランテン(Benzo[a]fluoranthene)、ベンゾ[b]フルオランテン(Benzo[b]fluoranthene)、ベンゾ[j]フルオランテン(Benzo[j]fluoranthene)、ベンゾ[k]フルオランテン(Benzo[k]fluoranthene)、ディベンゾ[a,h]アントラセン(Dibenz(a,h)anthracene)、ディベンゾ[a,j]アントラセン(Dibenz(a,j)anthracene)、オリンピセン(Olympicene)、ペンタセン(pentacene)、ペリレン(perylene)、ピセン(Picene)、テトラフェニレン(Tetraphenylene)、ベンゾ[a]アントラセン(Benz(a)anthracene)、ベンゾ[a]フルオレン(Benzo(a)fluorene)、ベンゾ[c]フェナントレン(Benzo(c)phenanthrene)、クリセン(Chrysene)、フルオランテン(Fluoranthene)、ピレン(pyrene)、テトラセン(Tetracene)、トリフェニレン(Triphenylene)、アントラセン(Anthracene)、フルオレン(Fluorene)、フェナレン(Phenalene)、フェナントレン(phenanthrene)から選ばれるとよい。
【0011】
本発明のMgB
2超伝導体の製造方法において、好ましくは、多環芳香族炭化水素は、常温常圧で固体であり、かつ融点が分解温度よりも低いものがよい。多環芳香族炭化水素の融点が分解温度よりも高いと炭化水素が融ける前に分解してしまい、ボロン粉末表面を炭化水素の液体で覆うことができなくなる。
また、前記多環芳香族炭化水素における、炭素原子の数と水素原子の数の比は、C:Hが1:0.5から1:0.8であるとよい。この場合、多環芳香族炭化水素においては、水素に比べて炭素の量が多い方が良い。これは炭素はボロンサイトと置換をするのに対して、水素は不純物となるためであり、水素はなるべく少ない方が良い。
本発明のMgB
2超伝導体の製造方法において、好ましくは、多環芳香族炭化水素の添加量が、MgB
2の理論もしくは実験生成量に対して1〜40mol%であるとよい。
B粉末に添加する多環芳香族炭化水素の量を変化させると、得られるJc特性も変化するが、いずれの場合も無添加の場合よりも高いため、B粉末量と添加する多環芳香族炭化水素の量の比は、任意であって良い。好ましくは、ボロン粉末表面を炭化水素の液体で覆うことができると良い。
本発明のMgB
2超伝導体の製造方法において、好ましくは、混合物を金属管に充填し、加圧成形して熱処理するとよい。
本発明のMgB
2超伝導体の製造方法において、好ましくは、前記多環芳香族炭化水素で覆われたB粉末とMg棒とを金属管に充填し、加圧成形して熱処理するとよい。
【0012】
本発明のMgB
2超伝導体は、上記MgB
2超伝導体の製造方法により得られたMgB
2超伝導体であって、MgB
2コアが1本または複数本あるMgB
2線材であることを特徴とする。
本発明のMgB
2超伝導体の製造方法において、好ましくは、MgB
2コアが複数本ある多芯MgB
2線材であるとよい。
【0013】
本発明者の独創的な知見として、固体の多環芳香族炭化水素とB原料粉末を一緒にして真空中で加熱をすると、多環芳香族炭化水素が融解してB粉末に浸透して行き、B粉末の表面が多環芳香族炭化水素によって均一に覆われることが判った。そこで、本発明者は、この原理をMgB
2超伝導線材の製造方法に適用して、固体の多環芳香族炭化水素を融点以上に加熱し、B原料粉末の表面にコートする手法を編み出した。そして、この多環芳香族炭化水素をコートしたB粉末をPIT法の原料として用いると均一なBサイトのC置換が起こり、高いJcとJcの均一性に優れたMgB
2線材を得ることができる。内部Mg拡散法の場合もこの多環芳香族炭化水素をコートしたB粉末を原料として用いることにより、高いJc特性ならびに優れた均一性を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のMgB
2超伝導体の製造方法によれば、多環芳香族炭化水素をコートしたB粉末をPIT法の原料として用いることで均一なBサイトのC置換が起こり、高いJcとJcの均一性に優れたMgB
2線材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態としての内部Mg拡散法によるMgB
2単芯線材の作製プロセスの説明図である。
【
図2】パウダー・イン・チューブ(PIT)法によるMgB
2単芯線材の作製プロセスを示した図である。
【
図3A】本発明の一実施の形態としての多環芳香族炭化水素に用いられる化学物質の化学式を示す図である。
【
図3B】本発明の一実施の形態としての多環芳香族炭化水素に用いられる化学物質の化学式を示す図である。
【
図3C】本発明の一実施の形態としての多環芳香族炭化水素に用いられる化学物質の化学式を示す図である。
【
図3D】本発明の一実施の形態としての多環芳香族炭化水素に用いられる化学物質の化学式を示す図である。
【
図3E】本発明の一実施の形態としての多環芳香族炭化水素に用いられる化学物質の化学式を示す図である。
【
図3F】本発明の一実施の形態としての多環芳香族炭化水素に用いられる化学物質の化学式を示す図である。
【
図4】本発明の実施例1で得られた線材の4.2Kにおける臨界電流密度Jcの磁界依存性を示す図である。
【
図5】本発明の実施例2で得られた線材の4.2Kにおける臨界電流密度Jcの磁界依存性を示す図である。
【
図6】本発明の一実施例で得られたPIT法で製造したMgB
2ワイヤーについて、コロネンの添加割合とJc−B曲線の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面や表を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本明細書に用いる用語について、以下に定義を記載する。
『Mg内部拡散法』は金属管の内部にMg棒を配置し、金属管とMg棒との隙間にB粉末を充填してこの複合体を線材に加工後、熱処理をする線材作製法である。
『パウダー・イン・チューブ法』は、金属管に超伝導体の原料粉末を充填し、線材に加工後、熱処理をする線材作製法である。
『臨界電流密度Jc』は超伝導線材の単位断面積あたりに流すことのできる最大の超伝導電流密度をいう。通常は、線材中の超伝導体コアの単位断面積あたりの値を言う。
【0017】
原料として用いるMg粉末、MgH
2粉末、B粉末については、本出願人の提案に係る特許文献1−3に記載されたような従来と同様の純度や粒径のものを、適宜混合比を調節して用いることができる。例えば、粒径に関しては、Mg粉末またはMgH
2粉末の平均粒径が200nm〜50μm、B粉末の平均粒径が0.2〜1μmの範囲が好ましい。混合比については、モル比でMgまたはMgH
2/B=0.5/2〜1.5/2の範囲において混合することが好ましく、モル比0.8/2〜1.2/2の範囲において混合することがさらに好ましい。そして、MgあるいはMgH
2粉末とB粉末の混合物に適量の多環芳香族炭化水素とSiCを加え、さらにボールミルなどで十分に混合することができる。
【0018】
多環芳香族炭化水素(ナノグラフェン)については、三環以上の炭素環または複素環を有する化合物のうちの各種のものが考慮されてよく、多環芳香族炭化水素の炭素数としては特に制限されることはないが、18〜50の範囲が好ましい。多環芳香族炭化水素は、本発明の作用効果を阻害しない限り各種の官能基を有していてもよく、入手容易性や取り扱い性、価格等を考慮して適宜に選択することができる。たとえば、置換基の典型例としては、炭素数1〜8、特に1〜4のアルキル基等が挙げられる。より具体的には、表1、表2に掲げたコロネン、アントラセン、ペリレン、ビフェニルや、アルキル置換等の炭素環状の芳香族炭化水素、あるいはチオフェン等の複素環状の芳香族炭化水素が例示される。さらに、多環芳香族炭化水素の添加量については、MgB
2の理論もしくは実験生成量に対して1〜40モル%の割合で添加することが好ましい。
【0021】
なお、上記の表1、表2の多環芳香族炭化水素(ナノグラフェン)の沸点と融点に関しては、SciFinder(American Chemical Society; https://scifinder. cas.org/scifinder/)のデータベースに依拠しており、実測値のない場合は計算値によった(Calculated using Advanced Chemistry Development (ACD/Labs) Software V11.02)。
【0022】
以上のような混合物を、バルク材、線材へと加工するが、従来と同様の方法、条件が採用されてよい。バルク材であれば、加圧成形して熱処理をすることで製造することができ、例えば、通常の金型を用いたプレス等が例示され、圧力は100〜300kg/cm
2が好ましい。線材であれば、例えば、混合物を鉄などの金属管に充填し、圧延ロール等でテープやワイヤーに加工した後、熱処理をすることで製造することができ、条件については従来と同様の条件が採用されてよい。すなわち、慣用のとおり、アルゴン、真空などの不活性雰囲気下で、MgB
2超伝導相を得るに十分な温度、時間熱処理してできる。
また、使用する金属管や熱処理温度、熱処理時間は、BサイトのC置換において本質的ではなく、従って種々の金属管や熱処理温度、熱処理時間を選択することができる。
【0023】
このようにして得られた本発明のMgB
2超伝導体は、超伝導リニアモーターカー、MRI医療診断装置、半導体単結晶引き上げ装置、超伝導エネルギー貯蔵、超伝導回転機、超伝導変圧器、超伝導ケーブルなどの高能力化に有用である。
【0024】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん、以下の例によって本発明が限定されることはない。
【実施例】
【0025】
<実施例1>
B粉末と、C原子として5mol%の固体粉末のC
24H
12を十分混合して、石英管に真空封入した。これをC
24H
12の融点以上の温度である440℃で5分間熱処理し、その後室温に冷却した。熱処理中にC
24H
12は融解し、B粉末に浸透して行きB粉末の表面を覆った(コートした)。このC
24H
12をコートした粉末を用いてMg内部拡散法でMgB
2線材を作製した(
図1)。内径4mm、外径6mmの鉄管の中心に径2mmのMg棒を配置し、Mg棒と鉄管の隙間にこのC
24H
12をコートしたB粉末を充填した。その後、溝ロールと線引きにより径0.6mmのワイヤーに加工した。このワイヤーをアルゴン雰囲気中において670℃で6時間の熱処理をしてMgB
2超伝導線材とした。熱処理中にMgがB層に拡散して行き、MgとBが反応してMgB
2が生成された。その際にC
24H
12が分解し、カーボンの一部がMgB
2のBと置換した。また、比較のためにBに10mol%のSiCナノ粒子を添加した混合粉末、さらに無添加のB粉末を用いて同様の条件でMg内部拡散法によるMgB
2ワイヤーを作製した。
【0026】
この線材を4.2K、種々の磁界中で臨界電流密度Jcを測定した。その結果を
図4に示す。これからわかるように、C
24H
12をコートしたB粉末を用いて作製したMgB
2線材は、SiC添加した線材や無添加線材よりも大幅にJcが向上しており、B粉末原料におけるC
24H
12コートの優位性が明らかとなった。SiC添加では熱処理後にMg
2Siが不純物としてMgB
2層内に析出し、これが超伝導電流の阻害因子となって十分に高いJcが得られないのに対し、C
24H
12添加では、このような不純物の析出物が導入されないのでそれだけ高いJcが得られると考えられる。
【0027】
<実施例2>
実施例1と同様にしてC
24H
12コートしたB粉末を作製し、パウダー・イン・チューブ(PIT)法でMgB
2線材を作製した(
図2)。C
24H
12コートしたB粉末とMg粉末をモル比で2:1になるように十分に混合し、これを内径4mm、外径6mmの鉄管に充填した。この粉末充填した鉄管を、溝ロールと線引きにより径1mmのワイヤーに加工した。このワイヤーをアルゴン雰囲気中において700℃で1時間の熱処理を行い、MgB
2超伝導線材を作製した。熱処理によって充填したMgとB粉末が反応し、MgB
2が生成された。その際にC
24H
12が分解し、カーボンの一部がMgB
2のBと置換をした。また実施例1と同様に、比較のためにBとMgの混合粉末に10mol%のSiCナノ粒子を添加した混合粉末、さらに無添加のB粉末を用いて同様の条件でPIT法によるMgB
2ワイヤーを作製した。
【0028】
この線材を4.2K、種々の磁界中で臨界電流密度Jcを測定した。その結果を
図5に示す。これからわかるように、C
24H
12コートしたB粉末を用いて作製したMgB
2線材は、SiC添加した線材や無添加線材よりも大幅にJcが向上しており、B粉末原料におけるC
24H
12コートの優位性が明らかとなった。SiC添加では熱処理後にMg
2Siが不純物としてMgB
2層内に析出し、これが超伝導電流の阻害因子となって十分に高いJcが得られないのに対し、C
24H
12添加では、このような不純物の析出物が導入されないのでそれだけ高いJcが得られると考えられる。
【0029】
図6は、本発明の一実施例で得られたPIT法で製造したMgB
2ワイヤーについて、コロネンの添加割合とJc−B曲線の説明図である。PIT法で製造したMgB
2ワイヤーの線径φは1.0mmであり、熱処理温度は700℃で一時間である。コロネンの添加割合は、無添加、2質量%、5質量%、10質量%の4種類である。液体ヘリウム温度である4.2Kにおける臨界電流密度Jcは、コロネン添加量が10質量%で10Tの磁界である場合、臨界電流密度Jcは1.8x10
4[A/cm
2]である。コロネン添加量が増大するにつれて、臨界電流密度Jcが増加している。また、臨界温度Tcの実測値を表3に示す。コロネン添加量が増大するにつれて、臨界温度Tcが低下するが、冷凍機伝導冷却で達成できる20Kに対しては十分な余裕がある。従って、液体ヘリウムを用いなくても超伝導が実現でき、昨今の液体ヘリウムの供給状況にも安心して対処できる。
【0030】
【表3】
【0031】
本発明の特定の実施形態を例示及び説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々なその他の変形及び変更が可能であることは、当業者に明らかである。したがって、本発明の範囲内にあるそのようなすべての変形及び変更を添付の特許請求の範囲で扱うものとする。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のMgB
2超伝導体の製造方法によれば、MgB
2超伝導線材について均一性の優れた多環芳香族炭化水素(ナノグラフェン)添加を実現して、高い臨界電流密度(Jc)特性ならびに臨界電流密度(Jc)のバラツキの小さなMgB
2超伝導線材を提供できる。製作されたMgB
2超伝導体は、超伝導リニアモーターカー、MRI医療診断装置、半導体単結晶引き上げ装置、超伝導エネルギー貯蔵、超伝導回転機、超伝導変圧器、超伝導ケーブルなどに用いて好適である。