(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6161094
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】炭火焼用の焼き網
(51)【国際特許分類】
A47J 37/06 20060101AFI20170703BHJP
【FI】
A47J37/06 331
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-247131(P2016-247131)
(22)【出願日】2016年12月20日
【審査請求日】2017年1月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516383084
【氏名又は名称】皆川 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100127018
【弁理士】
【氏名又は名称】横山 哲志
(72)【発明者】
【氏名】皆川 裕
【審査官】
豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第01471039(US,A)
【文献】
米国特許第01591291(US,A)
【文献】
韓国登録実用新案第20−0477707(KR,Y1)
【文献】
独国特許出願公開第02529409(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 37/00 − 37/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下網と上網とが分離可能に積層形成された炭火焼用の焼き網であって、
下枠に渡って均等な間隔で平行に配設された、複数の凹状の樋部を有する下網と、
前記下網に対して回転可能に載置されると共に、上枠に渡って均等な間隔で平行に配設された、複数の凹状の樋部を有する上網と
を備え、
前記下網及び前記上網の各樋部は、両端部よりも中央部が高いアーチ状に形成されていると共に、隣接する樋部間の隙間は、前記各樋部の幅よりも長く、かつ、前記各樋部の高さと前記各樋部の幅とは同等に設定されており、
前記上網の各樋部は、油分を導く流路を形成する内側樋部と、当該流路の下方に形成された冷却空間を形成する外側樋部とにより構成され、かつ、前記内側樋部と前記外側樋部とが上下一体に重なった二重底構造を形成しており、さらに、
外側樋部の頂部には、その先端内側から外側に向かって下方に傾斜する傾斜面が面取り形成されている一方、内側樋部の頂部には、その先端外側から内側に向かって下方に傾斜する傾斜面が面取り形成されていることを特徴とする炭火焼き用の焼き網。
【請求項2】
前記下網の樋部は、前記油分を導く流路のみで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の炭火焼き用の焼き網。
【請求項3】
前記下網及び前記上網の各樋部の幅と隣接する樋部間の隙間とは同等に設定されていると共に、前記上網の各樋部は、前記下網の各隙間に対応するように配置形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭火焼き用の焼き網。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉、魚、野菜等を焼くときに使用する焼き物用の網に関するものであり、特に、油煙の発生を抑制することができる焼き網に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、焼き網は針金等で格子状に形成されたものが用いられているが、肉や魚を焼いた際に肉や魚から出た油脂等の油分混じりの汁が加熱部に落下し、当該油分が燃えて煙や一酸化炭素などが室内に充満したり、特に加熱源として炭火を用いた場合には、落下した油分による油煙が焼き物に付着して煤臭くなり、炭火から発生する遠赤外線の効果である旨味が損なわれるといった問題が生じていた。また特に、格子状の焼き網の交差部には、肉、魚、野菜等が網目にこびりついて目詰まりが生じ易く、使用後の清掃や洗浄が煩雑となっていた。
【0003】
そこで、肉や魚を焼いた際に生じる油脂等の油分混じりの汁が加熱源に落下して油煙が発生することを抑制するための焼き網が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ここで、特許文献1には、中央が高く周囲に向かって傾斜をつけた1枚の板の表面に多数の突起部を設け、焼き物から出る汁を加熱部に落下させないで板の周囲に設けた液溜め用の溝に流れ込むように構成した焼き網が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−45680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された先行技術では、肉、魚、野菜等を直火で加熱する部位が局所的であり、おいしそうなこげ目や、香ばしさといった直火焼きや炭火焼の遠赤外線効果等の利点が十分に得られないといった問題が生じていた。また、突起部に接触する部位とそれ以外の部位とでは加熱具合が異なり、いわゆる焼きムラが生じやすいといった問題も生じていた。さらに、焼き網表面に付着した油分等に二次的に引火し易いといった問題も生じていた。
【0007】
そこで、本発明は、上述のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、直火で加熱可能であると共に、油煙の発生を抑制することができる焼き網を簡易な構成で安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る焼き網は、下網と上網とが分離可能に積層形成された焼き網であって、下枠に渡って均等な間隔で平行に配設された、複数の凹状の樋部を有する下網と、前記下網に対して回転可能に載置されると共に、上枠に渡って均等な間隔で平行に配設された、複数の凹状の樋部を有する上網とを備え、前記下網及び前記上網の各樋部は、両端部よりも中央部が高いアーチ状に形成されていると共に、隣接する樋部間の隙間は、前記各樋部の幅よりも長く、かつ、前記各樋部の高さと前記各樋部の幅とは同等に設定されていることを特徴とするものである。
【0009】
このように構成した場合には、直火による加熱を妨げることなく、油脂分が加熱部に落下することを未然に防止すると共に、焼き物が付着し易い交差部の分離を可能として、使用後の焼き網の清掃や洗浄の作業性を著しく向上させることができる。また、油脂分の流動性の確保と、二次的引火の抑制とをバランス良く実現することができる。
【0010】
また、前記各樋部の頂部には、先端外側から内側に向かって下方に傾斜する傾斜面が形成されていてもよい。
【0011】
このように構成した場合には、焼き物の付着を抑制すると共に、油脂分を円滑に樋部内に導くことができる。
【0012】
また、前記上網の各樋部は、油分を導く流路と、当該流路の下方に形成された冷却空間とを有する二重底構造に形成されていてもよい。
【0013】
このように構成した場合には、直火加熱により二次的に引火しやすい焼き網の過熱を効果的に空冷することができる。
【0014】
さらに、前記上網の各樋部は、内側樋部と外側樋部とが上下に重なって二重底構造を形成しており、外側樋部には、内側に傾斜したガイド面が形成されている一方、内側樋部には、外側に傾斜したガイド面が形成されていてもよい。
【0015】
このように構成した場合には、油脂分を内側上樋部に円滑に導くと共に、内側樋部の外側に漏出した油脂分が、外側樋部の冷却空間内に侵入することを未然に防止することができる。
【0016】
さらにまた、前記下網の樋部は、前記油分を導く流路のみで形成されていてもよい。
【0017】
このように構成した場合には、上網と下網の段差を低減して焼きムラを効果的に抑制することができる。
【0018】
また、前記下網及び前記上網の各樋部の幅と隣接する樋部間の隙間とは同等に設定されていると共に、前記上網の各樋部は、前記下網の各隙間に対応するように配置形成されていてもよい。
【0019】
このように構成した場合には、油脂煙の発生の抑制のみならず隙間のない鉄板鍋としても利用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る焼き網によれば、焼き物の網への付着や油煙の発生を抑制すると共に、使用後の清掃、洗浄作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態1に係る焼き網の全体構成を示す模式的平面図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る焼き網の構成要素を示す模式図であり、(a)は下網の構成を示す模式図、(b)は中心部で切断した模式的断面図であり、(c)は樋部の構成を示す模式的断面図である。
【
図3】本発明の実施形態2に係る二重底構造の焼き網の構成を示す模式的断面図である。
【
図4】本発明の実施形態3に係る焼き網の構成要素を示す模式図であり、(a)は下網の構成、(b)は上網の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る焼き網の一実施形態について、図面を参照して説明する。ここで、
図1は本実施の形態に係る焼き網を積層形成した状態を示す模式図であり、
図2は下網及び樋部の構成を示す模式図である。
<実施形態1>
【0023】
図1及び
図2に模式的に示すように、本実施形態に係る焼き網1は、下網10、上網20の2枚の焼き網を備え、下網10と上網20とは互いに分離可能であると共に、相互に回転可能に積層形成されている。そして、上網20の上に肉、魚、野菜等(以下、焼き物と称する)を載置して、焼き網1の下方に配置した不図示の炭等の加熱源により直火加熱すると共に、焼き物から発生する油脂等の油分を凹状の下樋部15及び/又は上樋部25内へ導いて、当該油分の加熱源への落下を未然に防止するものである。
【0024】
下網10は、円環状の下外枠12と、この円環状の外枠12に渡って、均等間隔で平行に配設された下樋部15とを備えている。同様に、上網20は、円環状の上外枠22と、この円環状の上外枠22に渡って、均等間隔で平行に配設された上樋部25とを備えている。そして、通常は、下網10の下樋部15と上網20の上樋部25とが直交するように(下樋部15と上樋部25とが格子状を形成するように)、下網10と上網20とが配置されている(
図1参照)。このように、下網10の下樋部15と上網20の上樋部25とが格子状の網目を形成するように積層配置することにより、付着物がこびりつきやすい格子状の交差部分が容易に分離可能となり、使用後の清掃や洗浄の際の作業性を著しく向上させることができる。なお、本実施の形態において、下網10と上網20とは基本的に同様な構造であり、以下、簡単のため、下網10の構造を中心に説明する。
【0025】
下樋部15(上樋部25)は、断面凹字状に形成されている溝(
図2(c)参照)であり、各下樋部15(上樋部25)は、中央部が高いアーチ状(
図2(b)参照)に形成されていると共に、隣接する下樋部15,15(上樋部25,25)間には均等な下隙間17(上隙間27)が形成されている。そして、本実施の形態では、下隙間17(上隙間27)は、下樋部15(上樋部25)の幅よりも長くなるように設定されている。これにより、直火による加熱を極力妨げることなく、焼き物から発生する油脂分が下樋部15(上樋部25)から下外枠12(上外枠22)へ導かれるようになっている。
【0026】
なお、外枠12(22)に導かれた油脂分は、周囲に連接された、図示しない油脂貯留部に貯留するように構成してもよいし、外枠12(22)を溝状に形成して貯留するように構成してもよい。また、外枠12(22)の形状も円環状に限らず、例えば、矩形状に形成してもよい。
【0027】
さらに、本実施の形態において、各下樋部15(上樋部25)の頂部15t(25t)には、
図2(c)に最も良く示されるように、先端部外側から内側に向かって傾斜するガイド面15g(25g)が先鋭状に面取り形成されている。
【0028】
このように、頂部15t(25t)にガイド面15g(25g)を面取り形成することにより、下樋部15(上樋部25)内へのこびりつきを極力抑制すると共に、直火焼きによる焼き物から発生する油分をガイド面15g(25g)により下樋部15(上樋部25)内に円滑に導くことができる。
【0029】
また、油脂分の円滑な流れを確保するという観点から、下樋部15(上樋部25)の幅w(例えば、2〜3mm)は、高さ(深さ)h(例えば、2〜3mm)よりも長いことが好ましいが、本実施の形態では、油脂分の流れと、二次的引火の抑制のバランスという観点から下樋部15(上樋部25)の幅wと下樋部15(上樋部25)の高さhとは同等に設定している。
【0030】
さらに、下樋部15(上樋部25)の底面隅部(角部)は、円弧状に面取りされている。これにより、下樋部15(上樋部25)内の付着物への二次的な引火を防止すると共に、滞留した付着物のこびり付きを抑制しつつ当該付着物の円滑な掻き出しを可能として使用後の焼き網1の清掃・洗浄を容易にする。
【0031】
なお、下網10、上網20の材質としては、鉄、ステンレス、アルミ、銅、チタンなどの金属であってもよく、金属にフッ素樹脂(テフロン(登録商標))加工を施したものやセラミックなどの陶器であっても差し支えない。
【0032】
また、下網10と上網20との相互回転を容易とするために、下枠12及び/又は上枠22にタブ状の取っ手を設けてもよい。
【0033】
このように構成した本実施の形態に係る焼き網1によれば、こげ目や香ばしさといった炭火焼きによる遠赤外線効果等の利点を損なうことなく、焼き物の油脂分を円滑に下樋部15及び/又は上樋部25に導くことができる。また、下網10と上網20とを積層構成とすることにより、格子状に配置された下樋部15と上樋部25との交差部分を分離可能として当該交差部分への付着物の滞留やこびりつきを抑制して、使用後の焼き網1の清掃や洗浄の作業性を著しく向上させることができる。また、上網20を下網10に対して回転させることにより、下樋部15、上樋部25間の隙間を調整して、直火による加熱度合や落下した油脂分による油煙の発生を適宜調節抑制することができる。
<実施形態2>
【0034】
本実施形態に係る焼き網1Aは、肉等の焼き物と接触する上網の上樋部を二重底構造として、下方に空冷用の空間を設けたものであり、先の実施の形態と同様な部材には、同様な符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0035】
本実施の形態に係る焼き網1Aは、下網50、上網60の2枚の焼き網を備え、
図3に模式的に示すように、上網60の上樋部65は、内側樋部650と外側樋部655とを上下に重ねた構成となっている。これにより、上樋部65は二重底の構造となり、上部が通常の樋部(油分を導く流路)USとして機能し、下部が空冷用の冷却空間CSとして機能するようになっている。
【0036】
さらに、内側樋部650の先端は、実施形態1と同様な、内側に傾斜したガイド面650gが形成されているのに対し、外側樋部655の先端は、逆に外側に傾斜したガイド面655gが形成されている。これにより、油脂分を内側上樋部65に円滑に導くと共に、内側樋部650の外側に漏出した油脂分が、外側樋部655の冷却空間CSに侵入することを未然に防止している。
【0037】
なお、本実施の形態では、上方空間(油流路)USの高さを2〜3mmに設定しているのに対し、下方空間(冷却空間)CSの高さを1〜2mmに設定している。具体的には、上方空間USと下方空間CSとの高さの比を2:1となるように設定している。
【0038】
また、下網50の下樋部55も同様な二重底の構造としても差し支えないが、下網50と上網60との段差を少なくして、焼きムラを防止するという観点からは、下樋部55は、実施形態1のような一重底の樋部とすることが好ましい。
【0039】
このように構成した本実施の形態に係る焼き網1Aによれば、下網50に比し、焼き物に直接的に接触して油分や焼き物等が滞留しやすい上網60の上樋部65内の付着物への過熱を抑制し、当該付着物への二次的引火を効果的に抑制しつつ、焼きムラを抑制することができる。
<実施形態3>
【0040】
本実施形態に係る焼き網1Bは、樋部と隙間との間隔を均等に形成すると共に、樋部の配置位相を下網と上網とで異ならせたものであり、先の実施の形態と同様な部材は同様な符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0041】
図4に模式的に示すように、本実施の形態に係る焼き網1Bは、下網70、上網80の2枚の焼き網を備え、下網70の下樋部75と下隙間77との幅を同等に設定している。同様に、上網80の上樋部85と上隙間87との幅を同等に設定している。そして、上網80を回転させた際に、下網70の隙間77と対応するように、下網70の下樋部75と上網80の上樋部85との位相をずらして配置形成している。すなわち、下樋部75と上樋部85とが平行となるように、上網80を回転させたとき、下網70の下隙間77を上網80の上樋部85が覆う(塞ぐ)ように、下樋部75の配置位相と上樋部85の配置位相とをずらせて、下樋部75と上樋部85とが配置形成されている。
【0042】
これにより、上網80を回転させて油煙の発生を調整(抑制)するのみならず、上網80の上樋部85を下網70の下樋部75と平行となるように回転させたときには、ジンギスカン鍋のような隙間のない鉄板鍋として兼用することができ、特に、細かい野菜等を加熱する際の鉄板として好適に利用(兼用)可能となる。
【0043】
なお、本発明の技術的範囲は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨に逸脱しない範囲において多様な変更もしくは改良を加え得るものである。例えば、アーチ状の樋部の曲率は一定である必要はなく、中心部に比し焼き物の加熱に寄与しない周辺部の勾配を急にして形焼き物を載置する有効面積を拡大するように構成してもよい。また、頂部に設けた各ガイド面15g,25g,650g,655gは、適宜省略(平坦に形成)してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1,1A,1B 焼き網
10 下網
12 下外枠
15 下樋部
15g ガイド面
15t 頂部
17 下隙間
20 上網
22 上外枠
25 上樋部
27 上隙間
50 下網
55 下樋部
60 上網
65 上樋部
70 下網
75 下樋部
77 下隙間
80 上網
85 上樋部
87 上隙間
650 内側樋部
650g 内側樋部ガイド面
655 外側樋部
655g 外側樋部ガイド面
油流路 US
冷却空間 CS
【要約】 (修正有)
【課題】直火で加熱可能であると共に、油煙の発生を抑制することができる焼き網を簡易な構成で安価に提供する。
【解決手段】下枠12に渡って均等な間隔で平行に配設された、複数の凹状の樋部15を有する下網と、下網に対して回転可能に載置されると共に、上枠22に渡って均等な間隔で平行に配設された、複数の凹状の樋部25を有する上網とを備え、下網及び上網の各樋部15、25は、両端部よりも中央部が高いアーチ状に形成されていると共に、隣接する樋部間の隙間17、27は、各樋部15、25の幅よりも長く、かつ、各樋部15、25の高さと各樋部15、25、の幅とは同等に設定されている。
【選択図】
図1