特許第6161126号(P6161126)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6161126
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】食事指導支援装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/22 20120101AFI20170703BHJP
【FI】
   G06Q50/22
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-68533(P2014-68533)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-191469(P2015-191469A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】小川 圭介
(72)【発明者】
【氏名】松本 一則
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真幸
【審査官】 青柳 光代
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−109700(JP,A)
【文献】 特開2009−146185(JP,A)
【文献】 特開2006−302122(JP,A)
【文献】 特開2010−102643(JP,A)
【文献】 特開2010−257346(JP,A)
【文献】 特開2009−289096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食事指導の対象者に対する指導者による食事指導を支援する食事指導支援装置において、
指導者と対象者とのコミュニケーションから対象者の食事情報を取得する手段と、
前記食事情報に基づいて対象者の食事時刻習慣を判別する手段と、
前記食事時刻習慣に基づいて食事指導の介入タイミング候補を設定し、その適切度を計算する手段と、
前記適切度が所定の閾値を超える介入タイミング候補を介入タイミングに決定する手段とを具備したことを特徴とする食事指導支援装置。
【請求項2】
指導者のスケジュールを管理する手段と、
前記指導者のスケジュールと各対象者の介入タイミングとに基づいて各対象者への指導者の割り当てを決定する手段とを具備したことを特徴とする請求項1に記載の食事指導支援装置。
【請求項3】
前記食事指導の介入タイミングを決定する手段は、各対象者の食事時刻習慣および行動変容フェーズに基づいて介入タイミングを決定することを特徴とする請求項1または2に記載の食事指導支援装置。
【請求項4】
前記所定の閾値が、各対象者の行動変容フェーズに基づいて設定されることを特徴とする請求項3に記載の食事指導支援装置。
【請求項5】
前記コミュニケーションから対象者の行動変容の契機となり得る特異事象を検知する手段と、
行動変容フェーズと特異事象の累積値とを対応付ける手段と、
前記特異事象を定量化して特異事象変量を計算する手段と、
対象者の行動変容フェーズに対応した特異事象の累積値に前記特異事象変量を加算して更新する手段とを具備し、
前記食事指導の介入タイミングを決定する手段は、各対象者への介入タイミングを、その食事時刻習慣および更新後の行動変容フェーズに基づいて決定することを特徴とする請求項3または4に記載の食事指導支援装置。
【請求項6】
前記食事指導の介入タイミングを決定する手段は、各対象者への介入タイミングを、その食事時刻習慣、行動変容フェーズおよび前記特異事象に基づいて決定することを特徴とする請求項5に記載の食事指導支援装置。
【請求項7】
各対象者から取得する食事情報に基づいて各食事を朝食、昼食、夕食およびその他の少なくとも一つに分類する手段と、
前記分類結果に基づいて前記各介入タイミング候補の適切度を補正する手段とを具備したことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の食事指導支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食事指導が必要な対象者への管理栄養士などの専門家による適切な食事指導を支援する食事指導支援装置に係り、特に、各対象者への適切なタイミングでの食事指導を支援する食事指導支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病は生活習慣や肥満等が主な原因であり、治療の第一選択は食事療法とされている。標準的な食事療法は、被験者が医師や管理栄養士から食事指導を受けて自己管理を継続することが一般的である。
【0003】
このような食事指導における自己管理では、生活習慣改善の具体的方法を提供することが行動変容を促す一つの方法として重要な要素となっている。ここで、行動変容とは、習慣化された行動パターンを変えることである。
【0004】
特許文献1には、検査結果と問診票を利用した生活習慣改善の支援方法が開示されている。特許文献2には、ユーザの摂取カロリーを算出あるいは取得して、摂取過多の場合に警告する構成を有する技術が開示されている。特許文献3には、摂取カロリーと消費カロリーとの両方を考慮してアドバイスを行う方法が開示されている。非特許文献1,2,3には、ユーザが食事画像をサーバへアップロードし、管理栄養士が指導を行うシステムが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−24080号公報
【特許文献2】特開2010−033326号公報
【特許文献3】特開2005−013322号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】げんき!食卓 コンシェルジュ(http://shoku365.com/index.html)
【非特許文献2】あすけん(http://www.asken.jp/)
【非特許文献3】smart e-SMBG(http://www.arkray.co.jp/press/press/2012_05_17.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1,2のように、ユーザが食事画像を管理者のサーバへアップロードし、管理栄養士が指導を行うシステムでは、ユーザが簡単に管理栄養士の食事指導を受けることができるというメリットがある。しかしながら、従来技術では食事指導を行う時刻タイミングに特別な決まりが無く、一般的には管理栄養士の労働負担を軽減するため、食事写真を3日程度まとめた上でコメントや指導等が行われ、対象者の行動変容フェーズに応じて指導の時刻タイミングが動的に調整されることなどなかった。
【0008】
一般的に、対象者の食事療法に関するモチベーションを高めるためにはコミュニケーションが必要とされている。専門家から定期的な励ましがあれば、モチベーションが維持される可能性が高い。このような対話形式の食事指導は、特に糖尿病患者のように重症度合いに違いのある患者を指導する際に有効である。
【0009】
対話形式の指導で高い効果を得るためには、専門家が対象者の現在の行動変容フェーズ(意識レベル)を正しく把握し、そのフェーズに応じた適切な指導を対象者に与えることで、改善に向けた行動変容を促すことが必要とされる。以下は、行動心理学に基づく行動変容フェーズ一例である。
【0010】
(1)無関心期:6ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がない時期
(2)関心期:6ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある時期
(3)準備期:1ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある時期
(4)実行期:明確な行動変容が観察されるが、その持続がまだ6ヶ月未満である時期
(5)維持期:明確な行動変容が観察され、その期間が6ヶ月以上続いている時期
【0011】
ここで、文献(http://communicare.cocolog-nifty.com/suwa/2007/10/post_5a80.html)には、それぞれの時期について以下のような記載がある。
【0012】
関心期:「行動変容についての関心が「そこそこある」もしくは「とてもある」時期。ようやく、面接などによる直接的な働きかけに、効果が期待できる時期となる。この時期からは、傾聴しながら受容的・共感的に接して、信頼関係を築いていくことが特に大切となり、そのためにカウンセリングの技術が必要となる。関心はあるが行動を起こす意思のない段階であり、その背景には行動変容そのものや、それに伴う負担への不安も少なくない。したがって、行動変容の具体的な方法や過程についても正しく理解してもらい、「それなら私にもできる」という自己効力感を高めてもらうことが大切であり、そのために情報提供としてのティーチングを行う。また、時間に余裕がある人で、しかも誰かと一緒だとやる気の出る人には、皆で支えあいながらゴールを目指すグループワークに誘い、見学してもらったり参加してもらったりするのも効果的」
【0013】
準備期:「行動変容についての関心があるだけではなく、さらに行動変容のための行動を「ちかぢか実行したい」もしくは「直ぐに実行したい」と思っている時期。適切な目標を設定してもらい、行動計画を立ててもらうことで、自己効力感を高めてもらうことが大切。そのためにコーチングを行うことになるが、基礎知識のない初心者で、本人が必要とする場合には、指示や助言によるティーチングも行う。もちろん、情報提供としてのティーチングやグループワークなど、他の技術も適宜、併用すると良い」
【0014】
実行期:「明確な行動変容が観察されるが、今後の持続についての不安が「とてもある」もしくは「そこそこある」時期。自己効力感を高めて持続してもらうために、継続してコーチングを行うことになる。ただし、基礎知識のない初心者で、本人が必要とする場合には、指示や助言によるティーチングも行う。もちろん、情報提供としてのティーチングやグループワークなど、他の技術も適宜、併用すると良い」
【0015】
このように、関心期、準備期の患者には、信頼関係の醸成やカウンセリング等を行い、「それなら私にもできる」という自己効力感を高めてもらうことを必要とする。つまり知識の定期的なインプットだけではなく、いかにコミュニケーションをとって信頼関係を築いて、意識を変えていくかという点も重要視される。そのため、実行期の患者の支援は比較的容易であるが、特に関心期、準備期の患者の支援は極めて難しい。
【0016】
本発明の目的は、従来技術の課題を解決し、食事指導のタイミングを対象者の食事時刻習慣、行動変容あるいは肉体的、精神的な状態に応じて適正化し、管理栄養士による効率的な食事指導を実現できる食事指導支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明は、食事指導の対象者に対する指導者による食事指導を支援する食事指導支援装置において、以下のような構成を具備した点に特徴がある。
【0018】
(1)指導者と対象者とのコミュニケーションから対象者の食事情報を取得する手段と、食事情報に基づいて対象者の食事時刻習慣を判別する手段と、食事時刻習慣に基づいて食事指導の介入タイミング候補を設定し、その適切度を計算する手段と、適切度が所定の閾値を超える介入タイミング候補を介入タイミングに決定する手段とを具備した。
【0019】
(2)指導者のスケジュールを管理する手段と、指導者のスケジュールと各対象者の介入タイミングとに基づいて各対象者への指導者の割り当てを決定する手段とをさらに具備した。
【0020】
(3)食事指導の介入タイミングを決定する手段は、各対象者の食事時刻習慣および行動変容フェーズに基づいて介入タイミングを決定するようにした。
【0021】
(4)食事指導の介入タイミングを決定する手段は、各対象者の食事時刻習慣、行動変容フェーズならびに各対象者の肉体的ないしは精神的な状態に基づいて介入タイミングを決定するようにした。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、以下のような効果が達成される。
(1) 食事指導の対象者の食事時刻習慣に基づいて指導者による食事指導の介入タイミングが評価されるので、適切度の高い介入タイミングを決定できるようになる。
【0023】
(2) 指導者のスケジュールと各対象者の介入タイミングとを照合することにより、指導者(管理栄養士等)を各対象者に効率的に割り当てられるようになる。
【0024】
(3) 各対象者に対する食事指導の介入タイミングが、対象者の食事時刻習慣のみならず、行動変容フェーズも考慮して決定されるので、各対象者にとってより好適な介入タイミングで指導者を効率的に割り当てられるようになる。
【0025】
(4) 各対象者に対する食事指導の介入タイミングが、当該対象者の行動変容のみならず、当該対象者の肉体的および精神的な状態も考慮して決定されるので、各対象者により好適な介入タイミングで指導者を効率的に割り当てられるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の食事指導支援システムの構成を示した図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る食事指導支援装置の構成を示した機能ブロック図である。
図3】食事指導の介入タイミングの決定方法を模式的に表現した図である。
図4】各対象者への管理栄養士の割当例を示した図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る食事指導支援装置の構成を示した機能ブロック図である。
図6】特異事象の累積値と行動変容フェーズとの対応関係を示した図である。
図7】指導ウエイトと行動変容フェーズとの対応関係を示した図である。
図8】行動変容フェーズの更新方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の食事指導支援システムの構成を示した図であり、食事指導支援装置1を介して指導者(管理栄養士)と対象者Uiとが食事情報の共有やコメントのやり取りを通じてコミュニケーションを図る。食事指導支援装置1は、このコミュニケーションの内容から対象者Uiの食事時刻習慣や行動変容の段階(行動変容フェーズ)を判別し、管理栄養士による適切な食事指導を支援する。
【0028】
図2は、本発明の一実施形態に係る食事指導支援装置1の主要部の構成を示したブロック図であり、ここでは、本発明の説明に不要な構成は図示が省略されている。このような食事指導支援装置1は、汎用のコンピュータやサーバに、後述する各機能を実現するアプリケーション(プログラム)を実装することで構成できる。あるいは、アプリケーションの一部がハードウェア化またはROM化された専用機や単能機とし構成しても良い。
【0029】
食事指導制御部10は、食事指導の各対象者から送信される食事時刻、食事画像および食事内容等の情報管理、受信したこれらの食事情報に対する各管理栄養士による評価、および各対象者と管理栄養士との間で実施されるコメント送受の管理等を実行して食事指導を実現する。食事指導制御部10はさらに、各情報を可視化して各対象者および各管理栄養士のディスプレイ上に表示するためのユーザインタフェース(UI)10aを備える。
【0030】
コミュニケーションDB20には、各対象者から受信した食事情報20aおよび各対象者と管理栄養士との間で送受されたコメント情報(コミュニケーション)20bの履歴が対象者の識別子(ユーザID)ごとに時系列で記憶されている。
【0031】
前記食事情報20aには、各対象者が摂取した食事の画像、食事の内容および食事の時刻ならびに各食事に対して管理栄養士が計算した食事バランスガイドや食品交換表の評価値等が含まれる。
【0032】
前記コメント情報20bには、各対象者に対して各管理栄養士が食事指導した内容や各対象者からの応答として、食事内容を評価するコメントや対象者を叱咤激励するコメントなどが含まれる。
【0033】
食事時刻習慣判別部30は、対象者の食事時刻に関する履歴情報に基づいて当該対象者の食事時刻習慣を判別する。介入タイミング評価部40は、前記食事時刻習慣に基づいて食事指導の各介入タイミング候補を評価する。介入タイミング決定部50は、前記各介入タイミング候補を所定の閾値Qrefと比較することで食事指導の介入タイミングを決定する。
【0034】
図3は、前記食事時刻習慣判別部30、介入タイミング評価部40および介入タイミング決定部50の機能を説明するための図である。
【0035】
食事時刻習慣判別部30は、食事指導の対象者から取得した食事の時刻情報に基づいて、同図(a)に示したように、一日(24時間)における食事時刻分布を作成して当該対象者の食事時刻習慣を判別する。同図では、朝食、昼食、間食(おやつ)、夕食の4食が日常的に摂取されていることが判る。
【0036】
介入タイミング評価部40は、前記食事時刻習慣に基づいて、食事指導の介入タイミング候補およびその適切度を設定する。本実施形態では、同図(b)に示したように、同図(a)に基づいて求められた各食事時刻から食事履歴のある時間帯を認識し、各時間帯の所定時間経過後(例えば、2時間後)の時間帯を介入タイミング候補とし、さらにはその割合(頻度)を各介入タイミング候補の適切度に設定する。
【0037】
介入タイミング決定部50は、同図(c)に示したように、別途に与えられる閾値Qrefを超える4回のタイミングTm1,Tm2,Tm3,Tm4を食事指導の介入タイミングに決定する。ただし、タイミングTm3,Tm4は接近しているので、タイミングTm3,Tm4の一方において2回分の食事指導が一括して行われるようにしても良い。
【0038】
図2へ戻り、指導者スケジュール管理部70は、登録されている管理栄養士の指導可能時間帯を管理する。指導者割当決定部60は、前記食事指導介入タイミングTm1,Tm2,Tm3(またはTm4)と指導者スケジュール管理部70に登録されている各管理栄養士のスケジュールとを照合し、3回のタイミングTm1,Tm2,Tm3(またはTm4)で食事指導が可能であり、かつタイミングTm3(またはTm4)では2回分の指導に相当する指導時間を確保できる管理栄養士を選択して当該対象者に割り当てる。
【0039】
図4は、管理栄養士の割当例を示した図であり、対象者U1の3回の介入タイミングTm1,Tm2,Tm3がそれぞれ「10時」,「13時」,「19時」、対象者U2の2回の介入タイミングTm1,Tm2がそれぞれ「9時」,「14時」であり、管理栄養士1の指導可能時間が「9〜11時」,「13〜14時」,「18〜21時」、管理栄養士2の指導可能時間が「9〜11時」,「12〜16時」であれば、対象者U1には管理栄養士1が割り当てられ、対象者U2には管理栄養士2が割り当てられる。
【0040】
本実施形態によれば、食事指導の対象者の食事時刻習慣に基づいて食事指導介入タイミングが評価され、適切度の高い食事指導介入タイミングにおいて各対象者に管理栄養士を自動的に割り当てられるようになる。
【0041】
図5は、本発明の第2実施形態に係る食事指導支援装置1の主要部の構成を示したブロック図であり、前記と同一の符号は同一または同等部分を表しているので、その説明は省略する。
【0042】
本実施形態では、食事指導介入タイミングの適切度に基づいて食事指導介入タイミングを決定するための前記閾値Qrefが、対象者の行動変容フェーズに基づいて決定されるようにした点に特徴がある。
【0043】
特異事象検出部80は、前記コミュニケーションDB20に蓄積されている食事情報20aおよびコメント情報20bの中から、対象者が行動変容する過程で特異的に観察される事象(特異事象)を抽出して定量化し、さらには行動変容と認識できるような比較的大きな事象の変化点を検出する。本実施形態では、特異事象として以下の6事象が抽出対象および変化点の検出対象とされる。
【0044】
(1) 特異事象A:食事画像に対する栄養士の評価
(2) 特異事象B:対象者の血糖値等のバイタル値
(3) 特異事象C:食事のメニュー
(4) 特異事象D:食事頻度
(5) 特異事象E:食事タイミング
(6) 特異事象F:対象者のコメント
【0045】
特異事象Aは、食事バランスガイドでは5種類、食品交換表では6種類の定量値であり、その数値の変化が抽出される。このとき、変化量の閾値を設けて一定以上の変化があった場合に抽出を行えば良い。閾値の変化関数として、線形に変化させても良いし、健康能力の%で表してもよい。健康能力をシグモイド関数で表すとすれば、しきい値もシグモイド関数で変化することになる。
【0046】
特異事象Bは、シグモイド関数とみなしても良い。
【0047】
特異事象Cについては、まず食事に関連する単語変化を見る。例えば、いつもお昼に「菓子パン」を食べる人は「メロンパン」、「ジャムパン」等の文字が多く得られる。この人に行動変容が起こり、比較的体に良いとされる「アンパン」や「おにぎり」等になった際、これらの概念上の距離を参照する。予め用意された概念辞書(シソーラス)上での距離を計算することで、変化度合いを数値化できる。
【0048】
この場合では、アンパンは比較的距離は近いがおにぎりは距離が遠いことになる。また、データがある程度得られている場合には、頻度情報を用いても良い。すなわち、メニューに関する単語から文書ベクトルを生成し、直近のベクトルと以前のベクトルとの距離を計算すれば良い。
【0049】
特異事象Dについては、頻度が多い方が関心は高いと考える。その一方で、一定以上のフェーズをすぎると食事回数を少なくする必要があることが多い。
【0050】
特異事象Eについては、食事タイミングとしては、食事を取得した時間が、どの程度規則的か、どの程度標準からずれていないかを評価値とすれば良い。
【0051】
特異事象Fについては、コメント内容から食事に関連する単語を抽出し、分類してベクトルとすれば良い。最も単純なものでは、文書を形態素解析し、予め登録されたポジティブワードおよびネガティブワードの頻度を数え上げてベクトル化する方法がある。
【0052】
特異事象変量計算部90は、前記特異事象A,B,C,D,E,Fの各定量値a,b,c,d,e,fの少なくとも一つを所定の関数fに適用することで、行動変量フェーズの遷移指標となる特異事象変量ΔP=f(a,b,c,d,e,f)を計算する。
【0053】
対応関係記憶部100には、前記特異事象の累積値と行動変容フェーズとの第1の対応関係100a(図6)および指導ウエイトと行動変容フェーズとの第2の対応関係100b(図7)が予め登録されている。
【0054】
図6は、前記第1の対応関係100aの一例を示した図であり、行動変容フェーズ(横軸)と特異事象の累積値(縦軸)の対応関係が記憶されている。図7は、前記第2の対応関係100bの一例を示した図であり、指導ウェイト(横軸)と行動変容フェーズ(縦軸)との対応関係が記憶されている。
【0055】
行動変容見直部110は、図8に示したように、現在の行動変容フェーズすなわち当該行動変容フェーズの判定基準となった特異事象累積値ΣPに今回の特異事象変量ΔPを加えて更新し、更新後の特異事象累積値ΣP+ΔPを前記対応関係100aに適用することにより、当該更新後の特異事象累積値に対応した現在の行動変容フェーズを識別する。なお、各対象者の最初の行動変容フェーズは、例えば管理栄養士が個別面談等を行うことで予め手動で決定される。
【0056】
閾値決定部120は、前記介入タイミング決定部50において使用する閾値Qrefを前記更新後の行動変容フェーズに基づいて決定する。本実施形態では、初めに対象者の現在の行動変容フェーズを前記第2の対応関係100bに適用することで指導ウエイトが決定される。
【0057】
そして、無関心期から関心期あるいは維持期のように、コミュニケーションよりも情報提供にウエイトを置く場合は、介入を抑えるべく前記閾値が高めに設定される。これに対して、準備期から実行期のように、情報提供よりもコミュニケーションにウエイトを置く場合は、積極的に介入すべく前記閾値が低めに設定される。
【0058】
本実施形態によれば、対象者の食事時刻習慣のみならず、行動変容フェーズも考慮して食事指導の介入タイミングが決定されるので、各対象者にとってより適した介入タイミングを設定できるようになる。
【0059】
なお、上記の実施形態では、介入タイミングを決定する際の閾値Qrefが対象者の行動変容に基づいて変更されるものとして説明したが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、前記特異事象検知部80により検知されている対象者のバイタル値やコメントをさらに反映させても良い。
【0060】
例えば、対象者の血圧値や血糖値が正常範囲に近付きつつあるなど、バイタル値から症状が改善傾向にあると判断できる場合には、介入機会を減じるべく閾値Qrefを上げる一方、症状が改善傾向に無いと判断できる場合には、介入機会を増やすべく閾値Qrefを下げるようにしても良い。
【0061】
また、対象者のコメントが食事指導に関して前向き(ポジティブ)なキーワードを多く含む場合には、介入機会を減じるべく閾値を上げる一方、後ろ向き(ネガティブ)なキーワードを多く含む場合には、介入機会を増やすべく閾値を下げるようにしても良い。
【0062】
なお、コメントに基づく閾値Qrefの変更では、行動変容が進まない段階ではポジティブな面だけを抽出してコミュニケーションを図り、行動変容が進んできた段階ではポジティブな面のみならずネガティブな面も抽出して注意喚起等を含むコミュニケーションを図る必要がある。したがって、ポジティブな変化およびネガティブな変化のそれぞれについて閾値を定義する場合には、各閾値を異ならせることが望ましい。
【0063】
たとえば、ポジティブな変化とネガティブな変化を検知し、行動変容が進まない段階ではポジティブな変化の閾値を低く、ネガティブな変化の閾値を高くしておく一方、行動変容が進むにつれてネガティブな変化の閾値を下げていくようにしても良い。このような閾値設定は、ポジティブな変化の閾値はシグモイド関数に比例した値とし、ネガティブな変化の閾値はシグモイド関数に反比例した値とすることで実現できる。
【0064】
本実施形態によれば、各対象者に対する食事指導の介入タイミングが、当該対象者の行動変容のみならず、当該対象者の肉体的および精神的な状態も考慮して決定変更されるので、各対象者により適した介入タイミングを決定できるようになる。
【0065】
なお、上記の各実施形態では食事指導の介入タイミングが各介入タイミング候補の適切度と閾値Qrefとの関係に基づいて決定されるものとして説明したが、疾病の種類や程度に応じて、推奨されている介入タイミングが存在する場合には、この推奨介入タイミングを優先させ、残りの介入タイミングを上記の各実施形態に基づいて決定するようにしても良い。
【0066】
同様に、推奨されている介入タイミングが、各食事を朝食、昼食、夕食、間食といったカテゴリに分類した時の分類結果に依存するならば、前記各介入タイミング候補の適切度に前記カテゴリの分類結果を反映しても良い。例えば、夕食から所定時間の経過後に介入することが望ましいとされている場合には、各食事をその時刻情報に基づいて朝食、昼食、夕食、間食のいずれかに分類し、夕食に分類された食事の時刻から前記所定時間の経過後近傍の介入タイミング候補については、その適切度に所定の重み係数を乗じるなどして増補正し、より優先的に選択されるようにすれば良い。
【符号の説明】
【0067】
1…食事指導支援装置,10…食事指導制御部,10a…ユーザインタフェース,20…コミュニケーションDB,20a…前記食事情報,20b…コメント情報,30…食事時刻習慣判別部,40…介入タイミング評価部,50…介入タイミング決定部,60…指導者割当決定部,70…指導者スケジュール管理部,80…特異事象検出部,90…特異事象変量計算部,100…対応関係記憶部,110…行動変容見直部,120…閾値決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8