特許第6161142号(P6161142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 メドレックスの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6161142
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】酸捕捉剤を含有する貼付製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20170703BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20170703BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20170703BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20170703BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20170703BHJP
   A61K 31/485 20060101ALI20170703BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   A61K9/70 401
   A61K47/02
   A61K47/12
   A61K47/18
   A61K45/00
   A61K31/485
   A61P25/04
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-558809(P2016-558809)
(86)(22)【出願日】2016年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2016075204
【審査請求日】2017年1月20日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2015/074552
(32)【優先日】2015年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】302005628
【氏名又は名称】株式会社 メドレックス
(72)【発明者】
【氏名】濱本 英利
(72)【発明者】
【氏名】谷本 高広
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/191187(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/098230(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/165254(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/073326(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/066457(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/70
A61K 31/485
A61K 45/00
A61K 47/02
A61K 47/12
A61K 47/18
A61P 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の片面に粘着剤層を設けてなる貼付製剤であって、
前記粘着剤層中にオピオイド系鎮痛剤、脂肪酸系イオン液体及びカリウム塩及び/又はカリウムイオンを含み、
前記カリウム塩及び/又はカリウムイオンは、粘着剤中で、前記オピオイド系鎮痛剤の酸付加塩と、カリウムイオンを生成可能な化合物との反応により生じたものである
【請求項2】
前記オピオイド系鎮痛剤が、オキシコドンである、請求項1に記載の貼付製剤。
【請求項3】
前記脂肪酸系イオン液体が、オレイン酸ジイソプロパノールアミン、レブリン酸ジイソプロパノールアミン、ソルビン酸ジイソプロパノールアミンよりなる群より選択される1又は2種以上である、請求項1又は2に記載の貼付製剤。
【請求項4】
前記オピオイド系鎮痛剤の酸付加塩がオピオイド系鎮痛剤の塩酸塩であり、前記カリウム塩が塩化カリウムである、請求項1〜のいずれかの項に記載の貼付製剤。
【請求項5】
オピオイド系鎮痛剤の酸付加塩、脂肪酸系イオン液体、及びカリウムイオンを生成可能な化合物を含む、貼付製剤用組成物。
【請求項6】
貼付製剤の製造方法であって、
オピオイド系鎮痛剤の酸付加塩を供給する工程、
脂肪酸系イオン液体を生成するための脂肪酸及び有機アミン化合物を供給する工程、
カリウムイオンを生成可能な化合物を供給する工程、及び
オピオイド系鎮痛剤の酸付加塩、脂肪酸、有機アミン化合物、及びカリウムイオンを生成可能な化合物をポリマー溶液中で混合し、粘着剤層を形成するための粘着剤組成物を生成する工程
を含む。
【請求項7】
脂肪酸及び有機アミン化合物をあらかじめ混合して脂肪酸系イオン液体とし、得られた脂肪酸系イオン系イオン液体を脂肪酸及び有機アミン化合物に替えて供給する、請求項に記載の貼付製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性薬物の酸付加塩を活性成分として含む貼付製剤に関し、より詳細には薬物に付加した酸の捕捉剤を含有することにより遊離塩基の生成を促進した貼付製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の経皮吸収を促進する技術の一例として、脂肪酸系イオン液体に薬物を溶解する技術が知られている(特許文献1)。
【0003】
一方、塩基性薬物は、安定性および取り扱い性に優れることから、塩酸塩等の酸付加塩として流通することが多い。しかし、このような酸付加塩は経皮吸収性が遊離塩基に比べて低い傾向にあることが知られている。そこで、水酸化ナトリウム等の中和剤を添加し、製剤中で酸付加塩の脱離を行うことが提案されている(特許文献2)。該文献では、中和反応で生じる金属塩の経時的な凝集や成長の問題を、吸着剤を配合することにより解決しているが、皮膚透過性の向上について満足な結果を与えるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/066457号公報
【特許文献2】国際公開第2009/107479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、塩基性薬物酸付加塩を原料として用い、薬物の皮膚透過性に優れた貼付製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、塩基性薬物酸付加塩及び脂肪酸系イオン液体を含む粘着剤層に、カリウムイオンを生成可能な化合物を添加し、塩基性薬物酸付加塩の酸をカリウムイオンに捕捉させ、カリウム塩とすることにより上記課題を解決し得ることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、下記(1)乃至(8)を提供する。
【0008】
(1) 支持体の片面に粘着剤層を設けてなる貼付製剤であって、
前記粘着剤層中に塩基性薬物、脂肪酸系イオン液体及び、カリウム塩及び/又はカリウムイオンを含む。
【0009】
(2) 前記カリウム塩及び/又はカリウムイオンは、粘着剤中で、前記塩基性薬物の酸付加塩と、カリウムイオンを生成可能な化合物との反応により生じたものである、上記(1)記載の貼付製剤。
【0010】
(3) 前記塩基性薬物が、オピオイド系鎮痛剤である、上記(1)又は(2)に記載の貼付製剤。
【0011】
(4) 前記脂肪酸系イオン液体が、オレイン酸ジイソプロパノールアミン、レブリン酸ジイソプロパノールアミン、ソルビン酸ジイソプロパノールアミンよりなる群より選択される1又は2種以上である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の貼付製剤。
【0012】
(5) 前記塩基性薬物酸付加塩が塩基性薬物の塩酸塩であり、前記カリウム塩が塩化カリウムである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の貼付製剤。
【0013】
(6) 塩基性薬物の酸付加塩、脂肪酸系イオン液体、及びカリウムイオンを生成可能な化合物を含む、貼付製剤用組成物。
【0014】
(7) 貼付製剤の製造方法であって、
塩基性薬物の酸付加塩を供給する工程、
脂肪酸系イオン液体を生成するための脂肪酸及び有機アミン化合物を供給する工程、
カリウムイオンを生成可能な化合物を供給する工程、及び
塩基性薬物の酸付加塩、脂肪酸、有機アミン化合物、及びカリウムイオンを生成可能な化合物をポリマー溶液中で混合し、粘着剤層を形成するための粘着剤組成物を生成する工程
を含む。
【0015】
(8) 脂肪酸及び有機アミン化合物をあらかじめ混合して脂肪酸系イオン液体とし、得られた脂肪酸系イオン系イオン液体を脂肪酸及び有機アミン化合物に替えて供給する、上記(7)に記載の貼付製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、経皮吸収性に優れた塩基性薬物の貼付製剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の貼付製剤は、支持体の片面に塩基性薬物、脂肪酸系イオン液体、およびカリウム塩及び/又はカリウムイオンを含む粘着剤層が設置されている。
【0018】
[塩基性薬物]
塩基性薬物としては、一般に酸付加塩の形態で流通する薬物をいずれも用い得る。酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩等の無機酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩等の有機酸塩を例示できる。本発明において、付加塩としては無機酸塩が好ましく、塩酸塩が特に好ましい。薬物として塩基性薬物の塩酸塩を用いた場合、粘着剤層に含まれるカリウム塩は塩化カリウムである。
【0019】
塩基性薬物塩酸塩の具体例としては、モルヒネ塩酸塩、オキシコドン塩酸塩、ヒドロモルフォン塩酸塩、フェンタニル塩酸塩、ペチジン塩酸塩、ナロキソン塩酸塩等のオピオイド系鎮痛剤;リドカイン塩酸塩、テトラカイン塩酸塩、プロカイン塩酸塩等の局所麻酔剤;チザニジン塩酸塩、エペリゾン塩酸塩等の骨格筋弛緩剤;イミプラミン塩酸塩、セルトラリン塩酸塩、フルオキセチン塩酸塩、パロキセチン塩酸塩等の精神神経作用剤;メチルフェニデート塩酸塩、メタンフェタミン塩酸塩等の興奮・覚醒剤;ロピニロール塩酸塩、アマンタジン塩酸塩等の抗パーキンソン剤;ドネペジル塩酸塩等の抗アルツハイマー剤を挙げることができる。本開示において塩基性薬物としては、モルヒネ塩酸塩、オキシコドン塩酸塩、ヒドロモルフォン塩酸塩、フェンタニル塩酸塩、ペチジン塩酸塩等のオピオイド系鎮痛剤を好適に用いることができ、本開示の貼付製剤における皮膚透過性向上効果が高いことから、オキシコドン塩酸塩、ヒドロモルフォン塩酸塩を特に好適に使用できる。
【0020】
[カリウムイオンを生成可能な化合物]
本開示の貼付製剤の粘着剤層中に含まれるカリウム塩は、塩基性薬物の酸付加塩と、カリウムイオンを生成可能な化合物との反応より、製造中及び/又は製造後の粘着剤中で生じたものである。カリウムイオン生成可能な化合物としては、水酸化カリウム;クエン酸カリウム、酢酸カリウム、酒石酸カリウム、乳酸カリウム、C4−20脂肪酸のカリウム塩等の有機酸カリウム塩;炭酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム等の無機酸カリウム塩が例示できる。C4−20脂肪酸のカリウム塩の例には、ソルビン酸カリウム、オレイン酸カリウム、レブリン酸カリウムが含まれる。ある実施態様においては、水酸化カリウム、脂肪酸カリウム塩のいずれか一方、又は両者を組み合わせて用いることができる。
【0021】
従来、製剤中で塩基性化合物の酸付加塩を中和して遊離塩基を生成させるための中和剤としては、水酸化ナトリウム等のナトリウム化合物が好ましいとされている。また、脂肪酸系イオン液体は薬物の溶解補助剤及び経皮吸収促進剤として優れていることが知られている。脂肪酸系イオン液体を含む有機溶媒中に、塩基性薬物の酸付加塩、及び水酸化ナトリウム等のナトリウム化合物を溶解しようとしても、薬物が溶媒に十分溶解しない場合がある。また、溶解した場合であっても、ナトリウム化合物を用いて調製した貼付製剤は、薬物の皮膚透過性がカリウム化合物を用いた場合に比べて劣る。これは、酸付加物の脱離が十分進行していないことが原因のひとつ考えられる。一方、カリウムイオンを生成可能な化合物の存在下では、塩基性薬物の酸付加塩は、脂肪酸系イオン液体を含む有機溶媒中に解け残りを生ずることなくよく溶解する。得られた溶液を用いて調製した貼付製剤は、ナトリウム化合物を用いた場合に比べ、薬物の皮膚透過性に遥かに優れている。
【0022】
カリウムイオンを生成可能な化合物の含有量は、塩基性薬物酸付加塩の酸1モルに対し、約0.6〜約4.5モル、約0.8〜約2.0モル、又は約0.8〜約1.5モルの範囲であり得る。
【0023】
[脂肪酸系イオン液体]
脂肪酸系イオン液体は、脂肪酸と有機アミン化合物との塩である。脂肪酸系イオン液体は、予め調製されて粘着剤中に添加されてもよいが、脂肪酸及び有機アミン化合物を粘着剤組成物中に添加して、当該組成物中で形成させてもよい。上記脂肪酸としては、炭素数5〜20の飽和又は不飽和脂肪酸を用い得る。具体的には、カプリン酸、ソルビン酸、レブリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸等を例示できる。上記有機アミン化合物としては、炭素数4〜9のアルカノールアミンを用いうる。具体的には、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等を例示できる。
【0024】
脂肪酸系イオン液体の例には、レブリン酸とジイソプロパノールアミンとの等モル塩、カプリン酸とジイソプロパノールアミンとの等モル塩、イソステアリン酸とジイソプロパノールアミンとの等モル塩、オレイン酸とジイソプロパノールアミンとの等モル塩、ソルビン酸とジイソプロパノールアミンとの等モル塩等のジイソプロパノールアミンを含む脂肪酸系イオン液体;レブリン酸とトリエタノールアミンとの等モル塩、カプロン酸とトリエタノールアミンとの等モル塩、イソステアリン酸とトリエタノールアミンとの等モル塩、オレイン酸とトリエタノールアミンとの等モル塩、ソルビン酸とトリエタノールアミンとの等モル塩等のトリエタノールアミンを含む脂肪酸系イオン液体;レブリン酸とジエタノールアミンとの等モル塩、カプリン酸とジエタノールアミンとの等モル塩、イソステアリン酸とジエタノールアミンとの等モル塩、オレイン酸とジエタノールアミンとの等モル塩、ソルビン酸とジエタノールアミンとの等モル塩等のジエタノールアミンを含む脂肪酸系が含まれる。製剤又は貼付製剤は、1種又は2種以上の脂肪酸系イオン液体を含む。
【0025】
脂肪酸系イオン液体の含有量は、塩基性薬物1モルに対して、約0.2〜約12モル、約0.4〜約5モル、又は約0.5〜約1.5モルの範囲から選択することができる。
【0026】
塩基性薬物としてオピオイド系鎮痛剤を採用する場合、経皮吸収性向上の点から、脂肪酸系イオン液体としてはジイソプロパノールアミンを用いることができる。この場合、ある実施態様においては、レブリン酸ジイソプロパノールアミンと、オレイン酸ジイソプロパノールアミンとを併用することができる。
【0027】
[粘着剤層]
粘着剤層は、適宜な粘着性ポリマーにより構成される。粘着性ポリマーとしては、アクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ビニルエーテル系ポリマー等を例示することができる。本開示においては、スチレン‐イソプレン‐スチレンブロック共重合体、スチレン‐ブタジエン‐スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエンなどのゴム系ポリマーを好適に使用できる。ゴム系ポリマーを使用する際、その含有量は、粘着剤層の総重量に対して、約5〜約40重量%、又は約10〜約30重量%の範囲であり得る。
【0028】
粘着剤層がゴム系ポリマーにより構成される場合には、粘着剤層にはさらに、粘着付与剤、軟化剤を含むことが好ましい。粘着付与剤としては、例えば、ロジンエステル、水添ロジンエステル、マレイン化ロジン、脂環族飽和炭化水素樹脂、テルペン樹脂、ポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。粘着付与樹脂は、粘着剤層の総重量に対して、約10〜約35重量%、約20〜約30重量%、又は、約22〜約28重量%の範囲から選択することができる。軟化剤としては、ナフテン系プロセスオイル;ツバキ油、ヒマシ油等の植物油;液状ポリブテン、液状イソプレンゴム等の液状ゴム;流動パラフィンを挙げることができる。
【0029】
[他の経皮吸収促進剤]
ある実施態様において、粘着剤層にはさらに、一種又は2 種以上の有機溶媒を含んでいることができる。ある実施態様において、上記有機溶媒は、経皮吸収促進効果を有する。有機溶媒の例には、脂肪酸、アルコール類、エステル類等が含まれる。脂肪酸としては、上述の脂肪酸系イオン液体を構成する脂肪酸と同様のものを使用することができる。脂肪酸の含有量は、脂肪酸系イオン液体1モルに対し、約0.4〜約5モル、約0.5〜約3モル、又は約0.8〜約1.5モルの範囲であり得る。脂肪酸の含有量は、粘着剤層の総重量に対して、約0.5〜約10重量%、又は約1.0〜約6重量%であり得る。
【0030】
アルコールとしては、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の1価アルコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン等の3価アルコールが例示できる。アルコールの添加量は、粘着剤層の総重量に対して、約5〜約30重量%、約8〜約25重量%、又は約10〜約15重量%の範囲であり得る。本開示においては、経皮吸収性向効果が高いことから、オレイルアルコールを用い得る。オレイルアルコールの添加量は、粘着剤層の総重量に対して、約3〜約15重量%、又は約8〜約12重量%の範囲であり得る。オレイルアルコールは、他のアルコールと組み合わせて用いることもできる。
【0031】
エステル類としては、炭酸プロピレン等の炭酸エステル;セバシン酸ジエチル、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、パルミチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の脂肪酸エステルを例示できる。
【0032】
ある実施態様において粘着剤層中にはさらに、充填剤を含むことができる。充填剤を含有すると、粘着剤層の粘着特性が改善されるとともに、薬物の放出性が向上する。充填剤の含有量は、粘着剤層の総重量に対して約0.5〜約5重量%の範囲であり得る。充填剤としては、含水シリカ、フュームドシリカ、タルク、結晶セルロース、でんぷん、カルメロース、カルメロース金属塩等を挙げることができる。ある実施態様において、充填剤としてフュームドシリカを使用することができる。ある実施態様維持において、市販のフュームドシリカであるアエロジル(登録商標)を使用することができる。
【0033】
粘着剤層には、さらに、軟化剤、酸化防止剤等、貼付製剤の粘着剤層に用いられる添加剤を含有させてもよい。
【0034】
[貼付製剤の製造方法]
本開示の貼付製剤の製造方法の一態様を示す。脂肪酸系イオン液体を構成する脂肪酸及び有機アミンをともに混合し、均一な液体とする。ある実施態様において、必要に応じて有機溶媒もここに添加される。前記有機溶媒は、経皮吸収促進効果を呈し得る。塩基性薬物の酸付加塩及びカリウムイオンを生成可能な化合物を添加し、溶解して、貼付製剤用組成物(薬物組成物)を調製する。ある実施態様において、必要に応じて溶液を加熱(例えば、45〜60℃)してもよい。ある実施態様において、脂肪酸、有機アミン、塩基性薬物の酸付加塩、及びカリウムイオンを生成可能な化合物は、同時に混合されてもよい。
【0035】
この薬物組成物中で、塩基性薬物に付加した酸が脱離し、塩基性薬物の遊離塩基が生じる。一方、脱離した酸とカリウムイオンとの反応によりカリウム塩が生成する。
【0036】
この一連の反応は、塩基性薬物の溶液調製時に全て完了しても良いが、一部が、粘着剤層を構成する材料との混合工程、支持体への塗布、乾燥工程で進行してもよく、貼付製剤製造完了後の粘着剤層で進行してもよい。塩基性化合物の酸付加塩と、カリウム塩とが共に粘着剤層に存在する貼付製剤も、本発明の範疇である。塩基性薬物の酸付加塩と、カリウムイオンとが共に存在する貼付製剤も本発明の範疇である。
【0037】
調製された薬物組成物は、粘着剤層を形成するための材料と混合する。ある実施形態において、粘着剤層はゴム系ポリマーを含む。例えば、ゴム系ポリマ―及び粘着付与樹脂をトルエンと混合し、加熱(約60℃)溶融液とする。この溶融液と先に調製した薬物組成物を混合してポリマー溶液とする。さらに充填剤を添加混合し粘着剤組成物を得る。さらに、この組成物を支持体(織布、不織布、PETフィルム等)上に塗布する。加熱(約80℃)乾燥してトルエンを除去し、支持体上に粘着剤層を形成する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれら実施例により何ら限定されない。
【0039】
[オキシコドンを含有する貼付製剤]
表1に示す組成(重量%)で貼付製剤を製造した。フランツセルを用いた皮膚透過性試験により製造した貼付製剤の皮膚透過性を評価した。試験に用いたのはブタ皮膚であった。各サンプリングポイントにおける累積皮膚透過量を併せて表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
カリウムイオンを生成可能な化合物を原料として含む実施例1−a〜1−eの貼付製剤はいずれも、優れた皮膚透過性を示した。水酸化カリウムにかえて水酸化ナトリウムを含む比較例1の貼付製剤は皮膚透過性に劣っていた。実施例1‐dの貼付製剤はジイソプロパノールアミンを含む脂肪酸系イオン液体を含まないため、実施例1−a乃至1−cの貼付製剤に比して皮膚透過性が劣っていた。実施例1−a及び実施例1−cの貼付製剤は、レブリン酸ジイソプロパノールアミンと、オレイン酸ジイソプロパノールアミンとを共に含むため、特に皮膚透過性に優れていた。
【0042】
[ヒドロモルフォンを含む貼付製剤]
表2に示す組成(重量%)で貼付製剤を製造した。フランツセルを用いた皮膚透過性試験により製造した貼付製剤の皮膚透過性を評価した。試験に用いたのはブタ皮膚であった。各サンプリングポイントにおける累積皮膚透過量を併せて表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
ソルビン酸カリウムを含む実施例2−a及び2−bの貼付製剤は、カリウムイオンを生成可能な化合物を含まない比較例2−aの貼付製剤に比べ優れた皮膚透過性を示した。カリウムイオン生成可能な化合物を含む実施例2−c乃至2−fの貼付製剤は、これを含まない比較例2−bの貼付製剤に比して優れた皮膚透過性を示した。
【0045】
[チザニジン塩酸塩を含む貼付製剤]
表3に示す組成(重量%)で貼付製剤を製造した。フランツセルを用いた皮膚透過性試験により製造した貼付製剤の皮膚透過性を評価した。試験に用いたのはブタ皮膚であった。各サンプリングポイントにおける累積皮膚透過量を併せて表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
カリウムイオンを生成可能な化合物であるソルビン酸カリウムを含む実施例3−a乃至3−fの貼付製剤は、いずれも良好な皮膚透過性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の貼付製剤は皮膚透過性に優れ、特に、オキシコドン塩酸塩、ヒドロモルフォン塩酸塩等のオピオイド系鎮痛剤を含む貼付製剤としての利用価値が高い。
【要約】
本発明は、塩基性薬物酸付加塩を原料として用い、薬物の皮膚透過性に優れた貼付製剤を提供することを目的とする。
本発明の貼付製剤は、
支持体の片面に粘着剤層を設けてなる貼付製剤であって、
前記粘着剤層中に塩基性薬物、脂肪酸系イオン液体及びカリウム塩及び/又はカリウムイオンを含む。
該カリウム塩及び/又はカリウムイオンは、粘着剤中で、前記塩基性薬物の酸付加塩と、カリウムイオンを生成可能な化合物との反応により生じたものであり得る。
塩基性薬物としてはオピオイド系鎮痛剤が例示され、酸付加塩としては塩酸塩が例示される。