(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6161175
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】成形されたプリフォームを形成する方法
(51)【国際特許分類】
B29B 15/08 20060101AFI20170703BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20170703BHJP
B29C 70/48 20060101ALI20170703BHJP
B29K 101/10 20060101ALN20170703BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20170703BHJP
【FI】
B29B15/08
B29C39/10
B29C70/48
B29K101:10
B29K105:08
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-549671(P2015-549671)
(86)(22)【出願日】2013年12月19日
(65)【公表番号】特表2016-503098(P2016-503098A)
(43)【公表日】2016年2月1日
(86)【国際出願番号】US2013076378
(87)【国際公開番号】WO2014100328
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年9月9日
(31)【優先権主張番号】1223032.2
(32)【優先日】2012年12月20日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514058924
【氏名又は名称】サイテク・インダストリーズ・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブラツクバーン,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】イーストベリー,ジエームズ
(72)【発明者】
【氏名】ヒル,サミユエル
【審査官】
大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−286006(JP,A)
【文献】
特表2008−514452(JP,A)
【文献】
特開2009−191092(JP,A)
【文献】
特表2010−538195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08−15/14
C08J 5/04−5/10;5/24
B29C 39/00−39/44
B29C 43/00−43/58
B29C 70/00−70/88
B32B 1/00−43/00
B64B 1/00− 1/70
B64C 1/00−99/00
B64D 1/00−47/08
B64F 1/00− 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維プリフォームを成形する方法であって、
(a) 樹脂バインダーによって互いに接着した繊維材料のアセンブリを含む、実質的に平坦な繊維プリフォームを提供することと、
(b) 上側の柔軟なダイアフラムと、下側の柔軟なダイアフラムであって、前記ダイアフラムは、エラストマー材料で形成されガスに対して不透過性である、前記上側の柔軟なダイアフラムと前記下側の柔軟なダイアフラムとを提供することと、
(c) 非平面成形面を有する型が内部に配置されるハウジングを提供することと、
(d) 前記ダイアフラム間に密封ポケットを形成することにより、前記上側ダイアフラムと前記下側ダイアフラムとの間に繊維プリフォームを、気密を提供しながら保持することと、
(e) 前記下側ダイアフラム及び前記ハウジングに囲まれる密封チャンバを画定するように、かつ、前記下側ダイアフラムは、前記型表面より上に配置されるように、前記ハウジング上に、前記プリフォームを間挿した前記ダイアフラムを配置することと、
(f) 950mbar未満でかつ前記ハウジング内の圧力よりも低い真空圧力を確立するよう、ダイアフラムの間から空気を排気することと、
(g) 前記樹脂バインダーの軟化点よりも高い温度に前記繊維プリフォームを加熱することと、
(h) 加熱を維持しつつ、950mbar以下の真空圧力に到達するまで1mbar/15分以上の速度で空気を排気することにより、前記下側ダイアフラムと前記ハウジン
グとの間の前記密封チャンバ内に真空を形成することにより、それによって前記プリフォームを間挿して有する前記ダイアフラムが型表面の方へ引っ張られ、最終的にはそれに倣い、それによって成形プリフォームを形成することと、
(i) 前記ダイアフラム間の真空圧力を10mbar以下まで減圧させることと、
(j) 前記樹脂バインダーの前記軟化温度よりも低い温度に成形プリフォームを冷却することと、
(k) 前記ダイアフラム間から前記真空を解放することと、
(l) 前記下側ダイアフラムと前記ハウジングとの間の前記密封チャンバ内に真空を
維持しつつ、冷却された前記プリフォームから前記上側ダイアフラムを取り除くことと、
(m) 前記下側ダイアフラムから、冷却された成形プリフォームを取り出すことと、を有する方法。
【請求項2】
前記樹脂バインダーの粘度が1.0x108m・Pa・s未満となるまで、前記加熱ステップ(g)が遂行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
繊維プリフォーム中の樹脂バインダーの総量が、前記繊維プリフォームの全重量ベースで0.5 %〜10重量%である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(d)の前に、パターンに従った実質的に平坦な繊維プリフォームを機械加工することを更に含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記繊維プリフォームは、積重ねの配置で積まれた複数の繊維層を含み、前記樹脂バインダーは、各繊維層の少なくとも1つの表面に塗布される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記繊維層は、織布、テープ又はトウの層である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記樹脂バインダーは、熱可塑成分若しくは熱硬化成分又は両方とも含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記樹脂バインダーは、熱可塑成分及び熱硬化成分を含み、前記熱可塑成分はポリアリールスルフォンポリマーを含み、前記熱硬化性成分は1つ以上のエポキシ樹脂を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ポリアリールスルフォンポリマーは、末端にアミン基を有する、ポリエーテルスルフォン(PES)及びポリエーテルエーテルスルフォン(PEE)の共重合体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記樹脂バインダーは、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリスチレン、ポリ芳香族、ポリエステルアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアラミド、ポリアリーレート、ポリアクリレート、ポリ(エステル)カーボネート、ポリ(メチルメタクリレート/アクリ
ル酸ブチル)、ポリスルホン、これらの共重合体及び組み合わせから選択される熱可塑性ポリマーを含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記樹脂バインダーは、粉体又はフィルムの形態である、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記樹脂バインダーは、熱可塑性繊維及び熱硬化性繊維の混合物である、又は熱可塑性ポリマー及び熱硬化性ポリマーの混合物から形成される繊維である、高分子繊維の形態である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記樹脂バインダーは、熱可塑性ポリマー及び熱硬化性ポリマーの混合物から形成される高分子繊維の形態である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記樹脂バインダーは、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー及びそれらの組み合わせから選択される1つ以上のポリマーから形成される、ランダムに配置された高分子繊維を含む不織ベールの形態である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記繊維材料は、アラミド、ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリ-p-フェニレン-ベンゾビスオキサゾール(PBO)、炭素、ガラス、石英、アルミナ、ジルコ
ニア、炭化ケイ素及びこれらの組み合わせから選択される材料の繊維を含む、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
近年、繊維強化ポリマー複合材料は、航空宇宙や自動車等の産業では、より一般的に使用されるようになってきた。これらの複合材料は、高い強度を示すと共に、苛酷な環境において防腐特性を示す。さらに、これらが軽量であるという特性は、金属製の同様のパーツと比較して特に有利になる。
【0002】
繊維強化ポリマー複合体は、従来は、エポキシ等の硬化可能なマトリックス樹脂を含浸させた繊維から形成されたプリプレグから作製されてきた。
プリプレグ中の樹脂含有率は、比較的高く、典型的には20重量%〜50重量%である。プリプレグの複数の層を、積層用の寸法に合わせて切断してもよく、続いて、成形ツール内に組み込んで成形を行ってもよい。プリプレグが成形ツールの形状に容易に適合できない場合には、成形面の形状に徐々に変形させる目的で、加熱をプリプレグに適用してもよい。
【0003】
より近年では、繊維強化ポリマー複合体は、樹脂注入技術を伴う液体成形工程を利用することにより作製され、このような液体成形工程としては、樹脂トランスファー成形法(RTM)、液状樹脂注入法(LRI)、真空補助樹脂トランスファー成形法(VARTM)、柔軟な成形型を用いた樹脂注入法(RIFT)、真空補助樹脂注入法(VARI)、樹脂フィルム注入法(RFI)、制御された気圧樹脂注入法(CAPRI)、VAP法(真空補助プロセス)、シングルライン射出法(SLI)及び定圧注入法(CPI)等が挙げられる。樹脂注入プロセスでは、先ず、結合材でまとめたドライな繊維が、プリフォームとして型内に配置され、その後、液体マトリックス樹脂を用いて直接インシチュウに射出又は注入される。ここで用いられる「結合材でまとめた」との用語は、バインダーが塗布されたことを意味する。プリフォームは典型的には、ドライな繊維材料の1つ以上の層(すなわちプライ)から成り、これは積重ねの配置に組み上げられ、樹脂注入の前に望ましい形状寸法を維持するために、粉体、ベール又はフィルムバインダーが典型的には利用される。樹脂注入の後、樹脂注入されたプリフォームを硬化サイクルに従って硬化させて、複合体の完成品を提供する。樹脂注入は、小型で複雑な形状のパーツを製造するために用いられるのみならず、全翼等、航空機の大型の部品を製造するためにも用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂注入法では、樹脂が注入されるプリフォームの製作は、重要な要素であり、プリフォームは本質的に、樹脂を待ち受ける構造部品である。典型的には、細かな形状で合成プリフォームを形成するために、ハンドレイアップ法が過去に用いられてきた。しかしながら、これは時間を消費する操作であるとともに、部材間のバラツキが生じるリスクが高い。従って、その後の樹脂注入のためのドライな繊維プリフォームの製作において、改善の必要性が依然として残る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、樹脂注入の前にドライなプリフォーム材料の成形に関する。成形される出発原料は、ドライな、結合材でまとめられた、繊維材料のプリフォームブランク(例えばフラットシート)である。成形プロセスは、真空圧力及び変形速度を制御して3次元構成で成形されたプリフォームを製造する、真空成形プロセスである。本明細書に記載される成形プロセスの目的は、高度に制御されたプロセスが、従来のハンドレイアップの操作に代替することを実現することにある。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1A〜1Dは、一実施形態に従った平坦なプリフォームを成形するための真空成形プロセスを例示する図である。
【
図2】
図2A〜2Cは、成形されたプリフォームを製造する方法を、中間の機械加工ステップにより例示する図である。
【
図3】
図3は、一例に従ったプリフォームを成形するための型を有するツールハウジングを示す図である。
【
図4】
図4は、断面がL字状のプリフォームを形成するためのセットアップを例示する図である。
【
図5】
図5は、成形されたプリフォームを示す図であり、
図4に例示されたセットアップを実行することによって製造されたストリンガー部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
成形しようとするプリフォームブランクは、積重ね配置に組立てられる複数の線維層(またはプライ)から成るフラットシートである。プリフォームの繊維層は、バインダーを用いて結束することによって適所に保持され(すなわち「安定化され」)て、アライメントを維持し、繊維層を安定化する。バインダーを有することによって、貯蔵、輸送及びハンドリング中のドライなファイバー材料の摩耗又は引き離れが防止可能である。その上さらに、マトリックス樹脂の射出又は注入は、加圧射出を必要とし得るが、これは、繊維が局所的に移動することを生じさせることがあり、又はプリフォームを不安定にしてしまい得る。ゆえに、この加圧射出の間、バインダーは繊維を適所に保持する。
【0008】
「安定化」又は「安定化された」との用語は、本明細書では、繊維層又は織布の摩耗、解体、引き離れ、よじれ、しわ寄り、又は結着性の低下を生じさせることなく、成形又は変形することができるよう、繊維層又は織布の複数のシート、層又はプライの安定化を意味するために用いられる。
【0009】
真空成形プロセス
真空成形プロセスは、ツールハウジング(
図1A参照)の上に配置されるべき上側ダイアフラム及び下側ダイアフラムを含むダブルダイアフラム構成を伴っている。ツールチャンバは、最終構造の望ましい形状を表す三次元非平坦面を有する単一(図示)又は複数の型を含んでいる。さらに、ツールハウジングは、真空化装置(例えば真空ポンプ)を介して、真空ソースに接続されている。ダイアフラムは柔軟性を有しており、ゴム、シリコーン、ナイロン、又は破断伸びが100 %を超えるような同様の材料等の、弾性又は非弾性材料の変形可能なシートであってもよい。最初のステップとして、平坦なプリフォームが、柔軟なシートとシートの間に置かれる。各ダイアフラムがフレームに取り付けられ、支持された周界を通して所望のダイアフラム形状を維持する。
【0010】
そして、プリフォームを間に挟んだダイアフラムが、ツールハウジングに配置される(
図1B)。下側ダイアフラム及びツールハウジングで囲まれた気密密封チャンバを形成し、かつ、ダイアフラム同士の間に密封ポケットを画定するよう、ダイアフラムフレームは、機械的クランプ機構を通してツールハウジングにシールされる。ダイアフラムの間の密封ポケットは、バルブ接続を通して適切な真空化手段に接続される。次に、ダイアフラム間の密封キャビティーが、部分的に排気され、空気を除去する。この段階で、プリフォームは、ダイアフラムの間に確実に保持される。
【0011】
ダイアフラム間には、真空圧力が適用され、プリフォーム中の繊維層の安定性を実現することにより、層間の圧密化を確保し、かつ、成形中の繊維材料の有害な変形又はしわ寄りを防止する。その上さらに、適切なプリフォーム安定性を維持しつつ、繊維材料の中心層剪断を制御するために、ダイアフラム間の真空のレベルが選択的に適用される。プリフ
ォームの安定化は、高温において、良好な繊維アライメント及び均一な層の厚さを維持するために重要である。適切な真空圧力は、プリフォームの安定性と、所望の形状にプリフォームを変形させる能力との間のバランスをとる。一実施形態では、ダイアフラムの間の真空圧力は、1気圧未満に設定され、好ましくは未満800mbar、たとえば、500のmbarに設定される。
【0012】
ここで用いられる「真空圧力」との用語は、1気圧未満(又は1013mbar未満)の真空圧力を含む。次に、プリフォーム内でのバインダーの軟化を可能にするため、加熱が遂行される。例えば、オーブン中にダイアフラムのアセンブリ及びツールハウジングを配置することにより、又は赤外線加熱ランプの配列又は加熱されたマットを用いすことにより、加熱がなされてもよい。プリフォーム中のバインダーは、外界温度(20℃〜25℃)では固相であり、加熱と共に柔化して、繊維層の成形が可能になる。成形温度は、プリフォーム中の繊維材料層間のバインダーの粘性に影響される。バインダーの粘性は、繊維の変形及び/又はしわを形成することなく、層が移動できるよう、プリフォーム内の剪断応力を低下させるように最適化される。本明細書に目的のために適したバインダーは、熱硬化樹脂と熱可塑性樹脂とのブレンドを含み、プリフォーム質量の20%未満、好ましくはプリフォーム質量の10%未満、より好ましくはプリフォーム質量の2%〜6%の範囲となっていてもよい。特定の実施形態では、バインダー組成物は、高温で良好な変形を可能にするに十分な含有量の熱可塑性樹脂を含んでおり、また、粉体の形態で供給されてもよい。最低変形温度とは、バインダーが軟化して、繊維プリフォーム層の変形が可能になる溶融状態になる温度である。この段階での好ましいバインダー粘性は、100,000,000m・Pa
・s未満であってもよく、好ましくは10,000,000m・Pa
・s未満、さらに好ましくは3,000,000m・Pa
・s未満であってもよい。プリフォームが最適の変形温度に一旦達すれば、絶対圧980mbar未満、より好ましくは絶対圧900mbar未満、理想的には絶対圧850mbar未満で、かつツールハウジング内の真空圧力より低い、所望の真空レベルに、ハウジングが到達するまで、ツールハウジングは1mbar/15分以上の所定の速度で排気され、全ての変形時間を通して、加熱が維持される。ツールハウジングを排気する過程で、プリフォームを間挿したダイアフラムが、型の方へと引っ張られ、金型表面の形状に倣うようになる。
【0013】
ツールハウジングが望ましい真空レベルに到達すると、ダイアフラム間の真空圧力は、ツールハウジング間の真空レベルよりも低い真空レベルに低下されて、プリフォームの完全な圧縮を確実にする。これによっても、オペレーターはプリフォームの圧縮、すなわち、プリフォームのハンドリング及び透過性の性能を調整することができる。この時点で、プリフォームは冷却される。
【0014】
成形されたプリフォームはその後、バインダーの軟化温度よりも低い温度に冷却される。この時点で、プリフォーム中のバインダーは再剛性化し、プリフォームはその新しく形成された形状寸法を保持する。冷却温度に到達すると、ダイアフラムの間の真空は、ベントによって雰囲気に解放され、上側ダイアフラムは、下側ダイアフラムから離れるように持ち上げられ、成形されたプリフォームは取り出される(
図1D)。その後空気がツールハウジング内に再導入され、真空成形プロセスを反復する準備が整う。取り出されたプリフォームは、以降の樹脂注入のためにその望ましい形状を保持する。
【0015】
上記のダブルダイアフラムの配置は、ダイアフラム間に設定されるべき圧縮圧力を下げられるようにすることにより、繊維プリフォームの変形を援助し、それにより、摩擦力を下げることで、隣接し合う層同士の間の移動度を高める。また、2枚のダイアフラム間の圧力が下げることにより、摩擦接触力が最小になるため、ダイアフラムは、プリフォームと独立して延伸することができる。本明細書に開示される真空成形プロセスでは、変形の後、ツールハウジング内に完全な真空レベルが一旦適用されれば、望ましいR形状への完
全な圧縮を成し遂げることができる。成形中の圧縮レベル、成形の速度及びバインダーの剪断作用を制御する能力は、改良されたR形状寸法をもたらす。
【0016】
上記の真空成形プロセスは、上下の型パーツを適合させる複雑なツールを必要としない。その代わり、この真空成形プロセスは、真空圧力、温度及び変形速度を制御することに依存している。ダイアフラム間及びツールハウジング内の真空率を最適化して、過度のしわ寄り、繊維の変形を防止するとともに、R厚みを制御することができる。
【0017】
従来では、最終成形品の形状寸法を達成するため、構造部品は、ポストキュア機械加工がなされている。この操作には、八軸フライス盤が一般に用いられる。生産プロセスのこの段階は、実行されるべき最後の処理工程の1つであるので、高レベルのリスクを示す。このステージの間に損害が引き起こされれば、結果としてその部品が廃棄され得ることになってしまう。その上さらに、この操作はまた、一般に非常に時間を消費する。
【0018】
ゆえに、成形プリフォームの製作は、プリフォームブランクの製造の後、上記真空成形プロセスによる成形の前に、機械加工のステップを行うことにより、更に最適化することができる。これを行うことにより、ポストキュア機械加工が行われる場合は、先進のプログラミングを行い且つ複雑な機械内での三次元プリフォームの位置決めを行うことよりも、効果的かつ容易な機械加工を自動で確実行うことができるようになる。平坦なプリフォームブランクを、予め、安定化及び端部の品質に対する望ましい圧縮レベルに圧密することにより、この機械加工ステップを実現することができる。
図2A〜2Cは、中間の機械加工ステップで、成形プリフォームを製造する方法を例示する。
図2Aを参照し、複数の繊維層を積み上げ、その際積む度に圧密化するか、又はその後にまとめて圧縮又は圧密化を行うかを行うことにより、プリフォーム材料(すなわちプリフォームブランク)の大型の平坦なシートが製造される。その後、プリフォームシートは、機械加工によって望ましいパターンに切断されるが、これは
図2Bを参照されたい。
図2Cを参照し、パターニングされたシートはその後、上記の真空成形プロセスにより成形されて、非平面の3次元構成、例えば、L字状断面を有する構造体を製造する。成形プリフォームの最終形状寸法は、用いられる型構成によって決まる。
【0019】
ここに記載される真空成形プロセスは、三次元プリフォームの効果的かつ効率的な自動による生産を可能にし、それは、非常に高い再現性及び大規模製造をもたらす。一例として、このプロセスは、翼外板用ストリンガーの曲線状のL字状の部分、C字状又はU字状の翼桁等、航空宇宙産業の剛性化構造体を生産するために適している。そのうえ、この真空成形プロセスにより速い変形が可能となり、これは例えば、5重量%のバインダーを含む33プライの炭素繊維織布から成る平坦なプリフォームブランクを、L字状又はU字状の構造に変形させる5〜15分のサイクル等である。
【0020】
プリフォーム材料
本明細書のプリフォームは、複合物の補強成分を構成するドライな繊維のアセンブリ又はドライな繊維の層であり、RTM等の樹脂注入用途に適した形態である。
【0021】
成形しようとする平坦なプリフォームブランクは、繊維材料の複数の層又は層から成り、これは、不織布マット、織物、編地及び非捲縮織布を有してもよい。「マット」は、その形態を維持するためにバインダーを塗布した、(チョップドストランドマットを製造するための)短繊維フィラメント又は(コンティニュアスストランドマットを製造するための)捲縮フィラメント等の繊維が、ランダムに配置されて作製された不織布織物である。適切な織布は、メッシュ、トウ、テープ、スクリム、組糸等の形態で指向性又は無指向性で整列する繊維を有する織布を含む。繊維層又は織布中の繊維は、有機繊維若しくは無機繊維、又はこれらの混合物でもよい。有機繊維は、アラミド(ケブラーを含む)、高弾性
のポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリ-p-フェニレン-ベンゾビスオキサゾール(PBO)及びその混成の組み合わせ等の、堅い又は固いポリマーから選択される。無機繊維は、炭素(黒鉛を含む)、ガラス(Eガラス又はSガラス繊維を含む)、石英、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素及びその他のセラミック製の繊維を含む。航空機の主要部品等の高強度の複合物構造体を作製するため、プリフォーム繊維は好ましくは、≧3500MPa(または、≧500ksi)の引張り接着強度を有する。
【0022】
実施形態に従ってプリフォームブランクを形成するためにバインダー組成物が各繊維層(例えば織布層)に塗布され、その後、望ましい厚みへの積重ねによって、複数の被覆繊維層が組立てられる。バインダーは、繊維層の積み入れの前又は積み入れの間に、繊維層に塗布されてもよい。繊維層の組立は、ハンドレイアッププロセスにより、又は、自動テープ積層法(ATL)及び自動繊維配置法(AFP)等の自動堆積プロセスにより、又は幅広い良好な形態又は予め調製された形態で繊維又は層を積むための他の自動の方法により、なされてもよい。繊維層のスタックはその後、加熱及び加圧を適用することにより、圧密化され又は圧縮される。自動積み入れが利用されるとき、圧縮は、積み入れの間に実行される。圧縮の間、室温では固体であるバインダーは加熱により軟化し、圧密圧力が適用されれば、繊維層が相互に結合できるようになる。一部のバインダーには、バインダーが冷却される間にも圧密圧力を維持することが必要となるものもある。
【0023】
バインダー系
プリフォームブランク中の繊維層を結合するためのバインダーは、粉体、スプレー、液体、ペースト、フィルム、繊維及び不織布ベール等、様々な形態をとってもよい。バインダー材料は、熱可塑性ポリマー、熱硬化性樹脂及びこれらの組み合わせから選択されてもよい。特定の実施形態では、バインダーは、熱可塑性材料又は熱硬化性材料から生成される高分子繊維の形態、又は熱可塑性及び熱硬化性材料の混合物の形態をとってもよい。別の実施形態では、バインダーは、熱可塑性繊維(すなわち熱可塑性材料から生成される繊維)及び熱硬化性繊維(すなわち熱硬化性材料から生成される繊維)の混合物である。この高分子の繊維は、プリフォームの繊維層間に間挿されるべき、ランダム配置高分子の繊維から成る不織布ベールとして、プリフォームブランクに取り込まれてもよい。
【0024】
一例として、バインダー材料は、粉体の形態のエポキシ樹脂であってもよい。他の例として、バインダー材料は、粉体の形態の、1つ以上の熱可塑性ポリマー及び1つ以上の熱硬化性樹脂の混成物であってもよい。他の例として、バインダー材料は、熱可塑性繊維から成る不織布ベールである。
【0025】
スプレーの形態で適用される場合、バインダー材料は、ジクロロメタン等の溶媒中に適切に溶解されてもよい。溶媒を用いる場合は、その後の溶媒の除去が必要となる。フィルムの形態としては、バインダー樹脂合成は、(例えばキャスティングによって)リリースペーパー上に成膜してフィルムを形成してもよく、このフィルムは次いで、プリフォームの繊維層へと移動される。粉体の形態では、バインダーは、繊維層上に散存してもよい。高分子繊維の不織布ベールがバインダー材料として用いられ場合は、プリフォームを積む間、各ベールは隣接し合う繊維層間に挿入される。
【0026】
好ましくは、繊維プリフォーム中のバインダーの量は、プリフォームの全重量ベースで、約20重量%以下であり、好ましくは、0.5 %〜10重量%、より好ましくは、0.5 %〜6重量%である。
【0027】
好ましい実施形態では、バインダーは、プリフォーム製作温度(例えば積み入れ及び成形の間の温度)で活性化し得る触媒、硬化剤又は架橋剤を一切含まない樹脂組成物であり、なおかつ、プリフォーム製作温度で本来的に熱的に安定である。
【0028】
バインダー材料として適切な熱可塑性材料は、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリスチレン、ポリ芳香族、ポリエステルアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアラミド、ポリアリーレート、ポリアクリレート、ポリ(エステル)カーボネート、ポリ(メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル)、ポリスルホン、共重合体及びこれらの組み合わせから選択される1つ以上の熱可塑性ポリマーを含む。
【0029】
一実施形態では、熱可塑性材料は、下記に表されるアリールスルフォン単位を有するポリアリールスルフォンポリマーである。
【化1】
【0030】
好ましくは、ポリアリールスルフォンポリマーは、2,000〜20,000の範囲の平均分子量(Mn)を有している。ポリアリールスルフォンポリマーは、エポキシ基又は硬化剤に対して反応性を有するアミン又はヒドロキシル等の反応性末端基を有していてもよい。適切なポリアリールスルフォンは、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルスルフォン(PEE)、及びこれらの共重合体(PES-PEE)を含む。特に適切なポリアリールスルフォンポリマーは、末端にアミン基を有するPES-PEE共重合体である。
【0031】
バインダー材料として適切な熱硬化性材料は、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ホルムアルデヒド縮合物樹脂(ホルムアルデヒドフェノール樹脂を含む)、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、フェノール樹脂及びこれらの混合物から成る群より選択されてもよい。エポキシ樹脂は、芳香族ジアミン、芳香族モノプライマリーアミン、アミノフェノール、多価フェノール、多価アルコール及び多カルボン酸にから成る群より選択される1つ以上の化合物のモノ又はポリグリシジル誘導体であってもよい。二官能基性、三官能基性及び四官能基性エポキシ化合物を含む多官能基性エポキシ樹脂が、特に適切である。
【0032】
一実施形態に従い、バインダーは、1つ以上の多官能基性エポキシ樹脂及び反応性末端基を有するポリアリールスルフォンポリマーを含む樹脂組成物であり、約80℃- 90℃の軟化点を有している。
【0033】
熱可塑性ポリマー及び熱硬化性樹脂の特定の組み合わせは、ブレンドのフロー制御及び柔軟性に関する相乗効果を発揮することが、見出された。熱可塑性成分は、フロー制御をブレンドに提供するように働くことにより、典型的には低粘度である熱硬化性樹脂に影響を及ぼし、かつ、プリフォーム中の繊維の表面を、バインダーが優先的にウェットにすることを確実とする。また、熱可塑性成分は、柔軟性をブレンドに提供することにより、典型的には脆性である熱硬化性樹脂に影響を及ぼす。
【0034】
プリフォーム中のバインダーは、RTM等の液状樹脂注入技術によりプリフォームに注入されるべき多種多様なマトリックス樹脂と共に使用することに適している。更に、バインダーは、プリフォームに注入されるためにマトリックス樹脂で化学的に、及び、物理的に適合性であるために選択される。
【0035】
ドライなプリフォームがRTM等の樹脂射出プロセスに用いられる場合は、バインダーが、繊維層の表面で、不透過性のフィルムを形成しないことが望ましく、これにより、樹
脂の注入サイクルの間にマトリックス樹脂がプリフォーム材料の厚みを通して十分に浸透することが防止され得る。
【0036】
以下の実施例は、本明細書に記載される真空成形プロセスの実施例に従ったプリフォームを成形する方法を例示するために提供される。この実施例は例示目的だけのために提示され、添付の特許請求の範囲を制限するように解釈されるべきではない。
【実施例】
【0037】
33プライの炭素繊維織布を積み上げて、平坦なプリフォームブランク(600×200mm)を形成した。積み上げの前に、粉体を散存させる方法を用いて、織布プライの各面上に、粉体の形態の樹脂バインダー5gsmを堆積させた。散存した粉体をその上に有する織布プライが積み上げられ、加熱及び加圧を用いて一緒に押圧されるが、その際、プライのドライなスタックは、真空を適用して、大気圧下で圧縮され、その後、先ず15分間130°Cまで加熱され、その後室温に冷却され、そして真空圧密化が排除される。これは、プリフォーム作製のステップと呼ばれる。
【0038】
このバインダーは、多官能基性エポキシ樹脂とPES- PEE共重合体との混合物を含み、約90℃の軟化点を有している。
【0039】
平坦なプリフォームブランクは、上記のプリフォーム作製のプロセスに従って圧密化された。この構成は、成形ブロックと、これは
図3を参照されたく、また、シリコーンゴム製2枚の柔軟なシート(上側及び下側ダイアフラム)とを含むツールハウジングを含んでいる。この構成は、L字状の横断面を有する成形プリフォームを形成するために用いられ、
図4に示される。このようなプリフォームの構成は、航空機の翼のストリンガー部を作製するために適切である。
【0040】
初めに、平坦なプリフォームを間に挟んだダイアフラムが、ツールハウジングに配置された。ダイアフラムフレームが、ツールハウジングの周界に固定され、それによって、下側ダイアフラムとツールハウジングとに囲まれる真空密封を形成し、かつ、上側ダイアフラムと下側ダイアフラムとの間に密封ポケットを形成する。
【0041】
次に、真空圧力が500mbarに到達するまで真空ソースを適用して、空気が上側と下側ダイアフラムとの間から除去された。その時点で、プリフォームブランクは、両方のダイアフラムによって確実に支持されていた。
【0042】
ツールの構成はその後、オーブン内に配置され、5℃/分の速度で140℃まで加熱される。加熱の間、ツールハウジングは、大気圧に開放され、チャンバ内での空気膨張が生じないことを確実にした。
【0043】
一旦プリフォーム温度が140℃に到達すれば、ツールハウジングは排気された。ツールハウジング内の真空圧力が10mbar未満となるまで、100mbar/分の速度で空気が排気された。この時、プリフォームとダイアフラムは、型表面の方へと引っ張られ、最終的にはそれに倣った。この経過時間の間中、加熱が維持された。
【0044】
ツールハウジング内に完全な真空状態(10mbar未満)が達成されれば、安定になるまで、ダイアフラム間の圧力を、10mbar未満の真空圧力で減圧した。その時点で加熱を停止し、プリフォームを冷却させた。冷却の間、ツールハウジング内の真空は、10mbar未満に維持された。
【0045】
プリフォームが40℃まで冷却されたとき、ダイアフラム間の真空は大気にベントする
ことにより解放され、そして上側の膜が持ち上げられた。成形プリフォームは続いて、ツール構成から取り出された。成形プリフォームが取り出された後、空気がツールハウジング内に再導入された。
【0046】
得られたプリフォームが、
図5に示される。それは、曲線状のL-形状部を有し、その長さに亘って、8.5mの曲率半径を有している。
【0047】
予め圧密を受けた平坦なプリフォームの成形プロセス間のサイクルタイム−平坦なプリフォームブランクの加熱開始から最終形状が確立されるまで−は、15分であった。