(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6161188
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/384 20140101AFI20170703BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20170703BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20170703BHJP
B23K 26/08 20140101ALI20170703BHJP
C03B 33/09 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
B23K26/384
B23K26/073
B23K26/082
B23K26/08 D
C03B33/09
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-20940(P2013-20940)
(22)【出願日】2013年2月5日
(65)【公開番号】特開2014-151326(P2014-151326A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118898
【弁理士】
【氏名又は名称】小橋 立昌
(72)【発明者】
【氏名】水村 通伸
(72)【発明者】
【氏名】滝本 政美
(72)【発明者】
【氏名】松山 将太
【審査官】
黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平1−186294(JP,A)
【文献】
特開2010−207830(JP,A)
【文献】
特開2012−71314(JP,A)
【文献】
特開平10−278279(JP,A)
【文献】
特開2012−20311(JP,A)
【文献】
特開2012−236204(JP,A)
【文献】
特開2009−259860(JP,A)
【文献】
特開2006−229075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
C03B 33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にレーザ光を照射して当該基板に貫穴加工を施すレーザ加工装置であって、
レーザ光をリング状に集光してその集光位置を前記基板の厚さ範囲内に照射する集光レンズと、
前記集光位置を前記基板の厚さ方向にシフトしながら前記基板の平面方向にシフトする集光位置シフト手段を備え、
前記集光レンズは、環状シリンドリカルレンズであり、ビームエキスパンダで拡径されたレーザ光をリング状に集光することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記集光位置シフト手段は、リング状の前記集光位置の中心が円運動をするように前記集光位置をシフトさせることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記集光位置シフト手段は、前記基板を移動させる基板移動手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記集光位置シフト手段は、前記集光レンズを水平軸回りに揺動させる集光レンズ移動手段を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記レーザ光源から出射されるレーザ光を前記集光レンズに導く光学系を備え、
前記集光位置シフト手段は、前記光学系における光学要素を移動させる光学要素移動手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
基板上にレーザ光を照射して当該基板に貫穴加工を施すレーザ加工方法であって、
ビームエキスパンダで拡径されたレーザ光を環状シリンドリカルレンズでリング状に集光してその集光位置を前記基板の厚さ範囲内に照射し、
前記集光位置を前記基板の厚さ方向にシフトしながら前記基板の平面方向にシフトさせる過程で、
リング状の前記集光位置の中心が円運動するように前記集光位置をシフトさせることを特徴とするレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス等の基板に貫穴加工を施すためのレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンに代表される携帯情報端末の表示画面には厚さ1mm以下のガラス基板が用いられおり、そのガラス基板には各種ボタンやマイクなどの機能に対応する穴加工が施されている。前述したガラス基板のような薄厚脆性材料の穴加工においては、加工中のクラック発生による歩留まり低下が問題になる。特に、前述した携帯情報端末画面におけるホームボタン穴のように直径10mm程度の比較的大きな穴を貫加工する場合には、ダイヤモンドを刃先としたガラスカッターを用いて表面に円形の加工傷を付与し、更に円形加工傷の内側に格子状などの加工傷を付けてその上に打撃を与え、徐々に開口部を拡げることで円形の貫穴を形成することが行われている。これによると、人為的な打撃の付与が加工の精度に大きく影響することになり、ある程度はクラック発生による歩留まり低下が避けられないのが現状である。
【0003】
これに対して、ガラス等の脆性材料に対するレーザ加工技術が各種提案されている。下記特許文献1には、YAGレーザを用いたレーザ加工でガラスに微細な貫通穴を形成することが記載されている。また、下記特許文献2には、レーザ光を、丸穴の輪郭線を基準とした内側で輪郭線に沿って多重に走査することで、薄厚のガラス基板に丸貫穴を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−61667号公報
【特許文献2】特開2009−269057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラス等の脆性材料基板にレーザ光を照射して貫穴加工を施すレーザ加工において、穴径が1mm以下の微細穴の場合には、YAGレーザの照射エネルギーを所定の閾値以上に設定し、焦点位置を被加工基板厚さの中間位置或いは中間位置から下方にすることで微細な貫穴の形成が可能になる(特許文献1参照)。しかしながら、穴径が10mm程度の比較的大きい径の穴を貫加工する場合は、特許文献2に記載されるようにレーザ光を穴の輪郭線に沿って走査することが必要になり、ガルバノミラー等の高価な走査手段を要することになるので、装置コストが高くなり、また、加工処理時間が長くなる問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、ガラス等の脆性材料基板に比較的大きい穴を貫加工するに際して、クラック発生による歩留まり低下を解消すること、装置コストの低減を図り、加工処理時間の短縮化を可能にすること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明によるレーザ加工装置及びレーザ加工方法は、以下の構成を少なくとも具備するものである。
【0008】
基板上にレーザ光を照射して当該基板に貫穴加工を施すレーザ加工装置であって、レーザ光をリング状に集光してその集光位置を前記基板の厚さ範囲内に照射する集光レンズと、前記集光位置を前記基板の厚さ方向
にシフトしながら前記基板の平面方向にシフトする集光位置シフト手段を備え、前記集光レンズは、環状シリンドリカルレンズであり、ビームエキスパンダで拡径されたレーザ光をリング状に集光することを特徴とするレーザ加工装置。
【0009】
基板上にレーザ光を照射して当該基板に貫穴加工を施すレーザ加工方法であって、ビームエキスパンダで拡径されたレーザ光を環状シリンドリカルレンズでリング状に集光してその集光位置を前記基板の厚さ範囲内に照射し、前記集光位置を前記基板の厚さ方向に
シフトしながら前記基板の平面方向にシフトさせる過程で、リング状の前記集光位置の中心が円運動するように前記集光位置をシフトさせることを特徴とするレーザ加工方法。
【発明の効果】
【0010】
このような特徴を有する本発明によると、リング状に集光されたレーザ光の集光位置を基板の厚さ範囲内で3次元的にシフトさせることで、リング状の集光位置に沿った全周で同時進行的にレーザ加工痕を厚さ方向及び径方向に拡大することができる。これによって、高価なレーザ走査手段を用いること無く、簡易な装置構成で速やかに基板の貫穴加工を完了させることができる。
【0011】
また、リング状に形成されるレーザ加工痕は位置をずらしながら徐々に拡大されることになるので、加工変質層に繰り返しレーザ光が照射されてレーザ光が散乱するエネルギーロスを最小限に抑えることができ、効率的な貫穴加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に用いられる集光レンズの形態例を示した説明図である。
【
図2】本発明の実施形態においてレーザ光の集光位置をシフトする動作形態を示した説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るレーザ加工装置の形態例を示した説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るレーザ加工装置の具体例を示した説明図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るレーザ加工装置の具体例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法を説明する。
図1は、本発明の実施形態に用いられる集光レンズの形態例を示した説明図である(
図1(a)は集光レンズの断面形状とレーザ光の集光状態を示した図であり、
図1(b)はリング状に集光されたレーザ光のビーム形状を平面視した図である)。集光レンズ1は、レーザ光Lをリング状に集光してその集光位置Fsを基板Gの厚さ範囲内に照射するものである。集光レンズ1は、基本的にはシリンドリカルレンズを環状にしたものであり、所定ビーム径に成形された円形断面レーザ光Lを有効口径内に入射することで、
図1(b)に示すようなリング状の集光状態Laを得ることができる。
【0014】
本発明の実施形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法は、後述する各種の形態によって構成される集光位置シフト手段を備えている。集光位置シフト手段は、集光レンズ1によってレーザ光Lをリング状に集光した集光位置Fsを基板Gの厚さ方向及び基板Gの平面方向にシフトするものである。これによって、レーザ光Lの集光位置Fsは基板Gの厚さ範囲内で3次元的に位置が変更されることになる。
【0015】
図2は、本発明の実施形態においてレーザ光の集光位置をシフトする動作を示した説明図である。
図2(a)が平面視した動きを示しており、
図2(b)が基板の厚さ方向の動きを示している。
図2(a)に示すように、レーザ光Lの集光位置Fs(Fs
1,Fs
2,Fs
3,Fs
4,Fs
5,Fs
6,Fs
7,Fs
8)は、その中心(O
1,O
2,O
3,O
4,O
5,O
6,O
7,O
8)が円運動をするように平面的にシフトする。焦点位置Fsの中心の移動軌跡は図示の例では真円になっているが、これに限らず楕円や変形した円軌跡であってもよく、ここでいう円運動とは移動軌跡が円に近いものであればよい。
【0016】
ここで、集光位置Fsの中心の移動軌跡が直径Wの円であるとすると、リング状の集光位置Fsの全周で幅Wの範囲にレーザ加工痕が形成されることになり、また、集光位置Fsの厚さ方向のシフトによって、
図2(b)に示すように基板Gの厚さ方向に深さの異なるレーザ加工痕が形成されることになる。
【0017】
このように、本発明の実施形態に係るレーザ加工方法では、レーザ光Lをリング状に集光してその集光位置Fsを基板Gの厚さ方向及び基板Gの平面方向にシフトさせる過程で、リング状の集光位置Fsの中心が円運動するように集光位置Fsをシフトさせる。これによると、リング状に集光されたレーザ光の集光位置Fsを基板Gの厚さ範囲内で3次元的にシフトさせることで、リング状の集光位置Fsに沿った全周で同時進行的にレーザ加工痕を3次元方向に拡大することができ、速やかに基板Gの貫穴加工を完了させることができる。この際、リング状に形成されるレーザ加工痕は位置をずらしながら徐々に拡大させることができるので、加工変質層に繰り返しレーザ光が照射されてレーザ光が散乱するエネルギーロスを最小限に抑えることができ、効率的な貫穴加工を行うことができる。形成される貫穴の直径φは、約2R+W(Rはリング状集光位置Fsの半径)になる。
【0018】
図3は、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置の形態例を示した説明図である。レーザ加工装置10は、前述した集光レンズ1と集光レンズ1の集光位置Fsを基板Gの厚さ方向及び基板Gの平面方向にシフトする集光位置シフト手段2を備えている。また、レーザ加工装置10は、レーザ光Lを出射するレーザ光源3、レーザ光Lを集光レンズ1に導く光学系(ビームエキスパンダ4やミラー5など)を備えている。
【0019】
集光位置シフト手段2の一つの形態としては、基板Gを移動させる基板移動手段20を備える。基板移動手段20は、基板Gをその厚さ方向(Z軸方向)に上下動させる手段、基板Gを水平軸(X軸又はY軸)回り揺動させる手段、基板Gを垂直軸(Z軸)回りに回転させる手段を個別又は組み合わせて備えている。また、基板移動手段20は、基板Gをその表面と垂直な軸(Z軸)に対して傾斜した回転軸回りに回転させる手段を有するものであってもよい。
【0020】
集光位置シフト手段2の他の形態としては、集光レンズ1を移動させる集光レンズ移動手段21を備える。集光レンズ移動手段21は、集光レンズ1を水平軸(X軸又はY軸)回りに揺動させる手段、集光レンズ1をレーザ光Lの光軸と傾斜した回転軸回りに回転させる手段などを個別又は組み合わせて備えている。
【0021】
集光位置シフト手段2の他の形態としては、レーザ光Lを集光レンズ1に導く光学系の光学要素(例えば、ミラー5又はビームエキスパンダ4)を移動させる光学要素移動手段22を備えている。光学要素移動手段22は、例えば、レーザ光Lを集光レンズ1に導くミラー5の角度を揺動する手段、ミラー5をミラー5の反射面に垂直な軸と傾斜した回転軸回りに回転する手段、ビームエキスパンダ4をY軸回りに揺動させる手段などを個別又は組み合わせて備えている。
【0022】
図4及び
図5は、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置の具体例を示した説明図である。
図4に示したレーザ加工装置10は、
図4(a)に示すように、レーザ光源3、レーザ光源3から出射したレーザ光Lのビーム径を拡大するビームエキスパンダ4、ミラー5、集光レンズ1を備えており、集光レンズ1によってリング状に集光したレーザ光Lを基板Gに照射している。この実施形態では、集光位置シフト手段2として、ビームエキスパンダ4を回転軸aの回りに回転する光学要素移動手段22Aを備えている。
【0023】
この光学要素移動手段22Aは、
図4(b)に示すように、ビームエキスパンダ4の中心40から外れた位置に回転軸aが設けられており、この回転軸aとレーザ光Lの光軸が一致している。光学要素移動手段22Aによってビームエキスパンダ4を回転させると、レーザ光Lを中心40から偏芯した位置に照射して、レーザ光Lの光軸を中心40の回りに円運動させるのと同等の作用が得られる。これによって、ビームエキスパンダ4から出射して集光レンズ1に入射するレーザ光Lの角度を変えることができ、集光レンズ1の集光位置Fsを基板Gの厚さ方向及び基板Gの平面方向にシフトさせることができる。基板Gの厚さによっては基板Gを厚さ方向に移動させる基板移動手段2(20)を合わせて設けてもよい。
【0024】
図5に示したレーザ加工装置10は、レーザ光源3、レーザ光源3から出射したレーザ光Lのビーム径を拡大するビームエキスパンダ4、イメージローテータ(ダブプリズム)6、ミラー5、集光レンズ1を備えており、集光レンズ1によってリング状に集光したレーザ光Lを基板Gに照射している。この実施形態では、集光位置シフト手段2として、イメージローテータ(ダブプリズム)6を回転軸a1の回りに回転する光学要素移動手段22Bを備えている。
【0025】
この光学要素移動手段22Bは、レーザ光Lの光軸に対して傾斜配置されたイメージローテータ6を光軸と平行な回転軸a1の回りに回転させるものである。これによって、イメージローテータ6から出射して集光レンズ1に入射するレーザ光Lの角度を変えることができ、集光レンズ1の集光位置Fsを基板Gの厚さ方向及び基板Gの平面方向にシフトさせることができる。基板Gの厚さによっては基板Gを厚さ方向に移動させる基板移動手段2(20)を合わせて設けてもよい。
【0026】
以上説明した本発明の実施形態に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法によると、ガラスカッターを用いた従来技術と比較して加工中のクラック発生を大きく抑制することができ、作業者の能力とは無関係に高い加工精度と歩留まりを実現することができる。また、レーザ光を走査する従来技術と比較しても、ガルバノミラー等の高価な走査手段を用いること無く、基板Gや集光レンズ1或いは光学要素を移動する集光位置シフト手段2によって比較的簡易且つ低コストの装置構成を実現できる。
【0027】
また、リング状に形成されるレーザ加工痕を、位置をずらしながら徐々に拡大させるので、加工変質層に繰り返しレーザ光が照射されてレーザ光が散乱するエネルギーロスを少なくすることができ、効率的な貫穴加工によって加工処理時間の短縮化が可能になる。
【0028】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1:集光レンズ,2:集光位置シフト手段,
20:基板移動手段,21:集光レンズ移動手段,
22,22A,22B:光学要素移動手段,
3:レーザ光源,4:ビームエキスパンダ,5:ミラー,
6:イメージローテータ(ダブプリズム),
G:基板,L:レーザ光,Fs(Fs
1〜Fs
8):集光位置