(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、生活排水は地下の下水管を通って廃水処理場に運ばれることから、冬場でも外気に比べて温度が下がりにくい。しかも廃水処理タンクが覆蓋などの断熱加工されている場合が多いことから、廃水の温度は年間を通して大きく変化せず、冬場であっても15℃を下回ることはほとんどなく、10℃を下回るのは非常に稀である。しかし、寒冷地では冬場に廃水温度が15℃を下回り、10℃を下回ることもある。このような場合に、AL菌群を用いた廃水処理では処理能力が大幅に低下する場合があることが判明した。これはAL菌群のアンモニア硝化活性が15℃以下で低下し、10℃を下回るとその活性が著しく低下することに起因するものと考えられている。そして10℃以下では、菌を高濃度に保持しても硝化が進行し難く、硝化がほとんど進行しないことが分かった。したがって、水温が15℃以下でも安定的にアンモニア性窒素含有水の処理が行える方法および装置が求められている。
【0008】
本発明はこのような課題に対処するものであり、通常は高濃度のアンモニア性窒素含有水の処理に用いられるAH菌群を用いて低温で廃水の処理を行うものである。これは、本発明者らが鋭意研究の結果知得した、AH菌群が低温においてもその処理活性が大幅に低下せずに、安定してアンモニア性窒素含有水の処理を行うことができるとの知見に基づく。
【0009】
したがって、本発明の目的は、15℃以下の低温であっても安定してアンモニア性窒素含有水を処理することができる方法を提供することである。
【0010】
また、本発明の別の目的は、15℃以下の低温であっても安定してアンモニア性窒素含有水を処理することができる装置を提供することである。
【0011】
また、本発明のさらに別の目的は、15℃以下の低温であっても安定してアンモニア性窒素含有水を処理することができるAH菌群を保持した担体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係るアンモニア性窒素含有水を処理する方法は、
アンモニア性窒素濃度が1〜300mg/Lのアンモニア性窒素含有水と、濃度5000mg/L以上の高濃度な硫酸アンモニア溶液中で8週間培養して検出される硝化菌群が優先繁殖した担体とを、好気性雰囲気下、0℃以上15℃以下で接触させて前記アンモニア性窒素含有水中のアンモニアを硝化する硝化工程、
を含む。
【0013】
また、本発明の別の態様に係るアンモニア性窒素含有水を処理する方法は、
アンモニア性窒素濃度が100〜1000mg/Lのアンモニア性窒素含有水と微生物保持担体とを接触させて、濃度5000mg/L以上の高濃度な硫酸アンモニア溶液中で8週間培養して検出される硝化菌群を優先培養する培養工程と、
前記培養された硝化菌群と、アンモニア性窒素濃度が1〜300mg/Lのアンモニア性窒素含有水とを、好気性雰囲気下、0℃以上15℃以下で接触させて前記アンモニア性窒素含有水中のアンモニアを硝化する硝化工程と
を含む。
【0014】
また、本発明の別の態様に係るアンモニア性窒素含有水の処理装置は、
硝化槽と、
前記硝化槽にアンモニア性窒素濃度が1〜300mg/Lのアンモニア性窒素含有水を導入する導入部と、
前記硝化槽から処理した前記アンモニア性窒素含有水を排出する排出部と
を備え、
前記硝化槽の中に濃度5000mg/L以上の高濃度な硫酸アンモニア溶液中で8週間培養して検出される硝化菌群が優先繁殖した担体が含まれており、
前記硝化槽では0℃以上15℃以下で、アンモニア性窒素含有水を処理する。
【0015】
また、本発明の別の態様に係るアンモニア性窒素含有水の処理装置は、
濃度5000mg/L以上の高濃度な硫酸アンモニア溶液中で8週間培養して検出される硝化菌群を培養する培養槽と、
前記培養槽にアンモニア性窒素濃度が100〜1000mg/Lのアンモニア性窒素含有水を導入する第1の導入部と、
前記培養槽から培養された前記硝化菌群を放出する放出部と
前記放出部に接続された硝化槽と、
前記硝化槽にアンモニア性窒素濃度が1〜300mg/Lのアンモニア性窒素含有水を導入する第2の導入部と、
前記硝化槽から処理した前記アンモニア性窒素含有水を排出する排出部と
を備え、
前記培養槽から前記硝化槽に、前記放出部を介して、培養した前記硝化菌群を供給し、
前記硝化槽では0℃以上15℃以下で、アンモニア性窒素含有水を処理する。
【0016】
さらに本発明の別の態様に係るアンモニア性窒素含有水処理用の細菌保持担体は、
担体と、
前記担体に優先繁殖した硝化菌群であって、濃度5000mg/L以上の高濃度な硫酸アンモニア溶液中で8週間培養して検出される硝化菌群と
を含み、
0℃以上15℃以下で1〜300mg/Lのアンモニア性窒素含有水を処理する細菌保持担体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、15℃以下の低水温で安定したアンモニア処理ができ、常時安定した良好な処理水を得ることができるアンモニア性窒素含有水の処理方法及び装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0020】
<定義>
本明細書において、「AH菌群」とは、濃度5000mg/L以上の高濃度な硫酸アンモニア溶液中で8週間培養して検出される硝化菌群のことをいい、「AL菌群」とは、濃度100mg/Lの低濃度な硫酸アンモニア溶液中で8週間培養して検出される硝化菌群のことを言う。したがって、このような条件で検出される菌であれば良く、特定の菌に限定されるものではない。AH菌群の具体的な例としては、ニトロソモナス(Nitrosomonas)属に属するものと考えられているが、分類学上定かではない。AH菌群からある単一の細菌を単離して用いることもできるが、AH菌群として複数種の細菌が共存している方が活性の安定性の面から好ましい。
なお、本発明において、「濃度5000mg/L以上の高濃度な硫酸アンモニア溶液中で8週間培養して検出される」とは、濃度5000mg/L以上の高濃度な硫酸アンモニア溶液中で少なくとも8週間培養すればAH菌としての硝化菌が生じ、検出できるとの意味であり、8週間丁度の培養期間を意味するものではない。
また、硫酸アンモニア溶液の上限濃度は規定しなかったが、硝化菌が培養可能な濃度限界が上限となる。
【0021】
本明細書において、「硝化」とは、アンモニアから硝酸または亜硝酸を生ずることを言う。
【0022】
本明細書において、「微生物保持担体」とは、活性汚泥等を固定させた担体のことを言う。なお「微生物保持担体」には、包括固定化微生物担体も含まれる。
【0023】
本明細書において、「濃度5000mg/L以上の高濃度な硫酸アンモニア溶液中で8週間培養して検出される硝化菌群が優先繁殖した担体」とは、担体に保持される細菌の個体数に関して、AH菌群がAL菌群よりも多い担体のことを言う。AH菌群の数はAL菌群の数の2倍以上であるのが好ましく、10倍以上であるのがより好ましく、100倍以上であるのが更に好ましく、1000倍以上であるのが最も好ましい。また、本明細書中では「AH菌群優占の担体」も、同義に用いられる。
【0024】
本明細書において、「中〜高濃度処理用硝化槽」と「AH菌群培養槽」は同義に用いられる。これは、中〜高濃度処理用硝化槽が中〜高濃度アンモニア性窒素含有水を処理する槽として働くと同時に、該槽内でAH菌群が培養されるからである。
【0025】
<活性汚泥>
本発明に用いられるAH菌群は、一般的な活性汚泥や湖沼底泥などから馴養できる。したがって、AH菌群を得るためには何ら特別な手法または原料を必要とするものではなく、当業界において公知のいかなる方法を用いて調製しても良い。
【0026】
例えば、本発明に用いられるAH菌群はゲランガム培地(R. Takahashi, et al.: "Pure isolation of a new chemoautotrophic ammonia-oxidizing bacterium on gellan gum plate", J. Fermentation and Bioengineering, vol. 74, No. 1, pp. 52-54 (1992)参照)で純粋分離したものを用いることができる。また下水処理場の活性汚泥を固定化しアンモニア性窒素濃度100〜1000mg/L含有する無機廃水で培養することにより、集積培養が可能である。
【0027】
<担体>
菌を担体に保持させるには、(i)付着固定化、(ii)包括固定などの方法が用いることができる。(i)では球状や筒状などの担体、ひも状材料、ゲル状担体、不織布状材料など凹凸が多い材料が細菌の付着に好ましく、このような担体を用いるとアンモニア性窒素の除去率が向上する。(ii)では菌と固定化材料(モノマ、プレポリマ)を混合し、重合しゲルの内部に菌を包括固定化する。モノマー材料としてはアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、トリアクリルフォルマールなどが好ましい。プレポリマ材料としてはポリエチレングリコールジアクリレートやポリエチレングリコールメタアクリレートが好ましく、その誘導体も用いることができる。形状は球状、方形状および筒状などの包括担体、ひも状包括担体、不織布状など凹凸が多い包括担体が接触効率の面で好ましく、アンモニア性窒素の除去率が向上する。
【0028】
<アンモニア性窒素含有水>
本発明によって処理するアンモニア性窒素含有水は、生活排水、し尿、および工場排水などの廃水、ならびに家庭用水槽および水族館における水槽の水が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、アンモニア性窒素が含まれていれば、上水であっても本発明による方法または装置によって処理することができる。
【0029】
本発明による方法および装置で処理するアンモニア性窒素含有水のアンモニア性窒素濃度は、1〜1000mg/Lの範囲であるのが好ましい。具体的には、
図1に示す単槽式の硝化槽を用いる態様においては、アンモニア性窒素濃度は、1〜300mg/Lの範囲が好ましく、1〜100mg/Lであるのが処理効率の観点からより好ましい。
図2に示すAH菌群培養槽においては、100〜1000mg/Lの範囲であるのが好ましく、200〜500mg/Lの範囲であるのが処理効率の観点からより好ましい。
図3に示す多段処理においては、50〜500mg/Lの範囲であるのが好ましく、100〜300mg/Lの範囲であるのが処理効率の観点からより好ましい。
【0030】
本発明による方法および装置で処理するアンモニア性窒素含有水の温度は、0℃以上15℃以下が好ましく、従来の方法よりも特に優れた処理活性を示す点で0℃以上10℃以下がより好ましく、更に一段優れた処理活性を示す点を考慮して0℃以上5℃以下で用いるのが更に好ましい。すなわち、従来の方法によるアンモニア性窒素含有水の硝化処理は、10℃以下ではほとんど進行しないが、本発明による方法および装置によれば、10℃以下、さらには5℃以下であっても安定的に硝化処理を行うことができる。なお、方法および装置で処理する水温の下限値は特に設定しないが、本発明が水処理に関するものである以上、水の凝固点である0℃付近が下限となることが理解される。
【0031】
以下に、本発明による方法および装置の具体的な態様について図を参照しつつ説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0032】
<硝化処理>
本発明によるアンモニア性窒素含有水の硝化処理方法および装置を、
図1を用いて説明する。硝化槽10内にAH菌群が保持された担体12が含まれており、アンモニア性窒素含有水導入部14からアンモニア性窒素含有水を導入することで、アンモニア性窒素含有水と該担体が接触し、担体に保持されたAH菌群がアンモニアを硝化して亜硝酸または硝酸を生じる。アンモニア性窒素含有水は硝化槽に一定時間滞留した後に、担体分離網18を通って処理水流出部16から処理水として流出する。流出した処理水は、次いで、脱窒槽(図示せず)に送られて処理水中の硝酸および亜硝酸が窒素ガスに変換されて除去される。
【0033】
ここで、硝化槽は担体および廃水を一定時間保持できればどのようなものでもよく、硝化槽の材質および容積などは特に限定されるものではない。硝化槽内に含まれる担体の充填率は、1%〜60%が好ましく、5%〜20%がより好ましく、8%〜15%であることが処理効率の点で最も好ましい。また、アンモニア性窒素含有水が硝化槽に滞留する時間は、処理すべき水のアンモニア性窒素含有量にもよるが、概ね0.3〜24時間であるのが好ましく、0.5〜12時間であるのがより好ましく、1〜3時間であるのが、処理効率の面で最も好ましい。硝化槽でのNH
4−N負荷も処理すべき水のアンモニア性窒素含有量にもよるが、概ね0.01〜1kg−N/m
3・dであるのが好ましく、0.1〜0.5kg−N/m
3・dであるのがより好ましく、0.2〜0.3kg−N/m
3・dであるのが、AH菌群の処理速度が向上するため最も好ましい。
【0034】
このような方法および装置によれば、寒冷地での廃水処理や、水族館などの低温水槽でのアンモニア除去が安定して行える。更に、一般的に廃水よりも温度の低い上水にアンモニアが混入している場合も、アンモニアの除去を効果的に行うことができる。また、寒冷地以外であっても、排水処理施設の断熱加工を施す必要性が低減するため、処理装置をよりコンパクト、かつ低コストに製造することができる。これらの利点は、以下に記載する本発明の他の態様においても得られるものである。
【0035】
<AH菌群培養槽からAH菌群を供給する運転>
下水処理場では汚泥脱水後の脱離液が中〜高濃度アンモニアを含有している。そこでこの脱離液を用いてAH菌群を培養する装置を具備したフローが
図2である。このような構成にすると、下水処理場で少量発生する中〜高濃度アンモニアを含有した脱離液を処理しつつ、そこで培養されたAH菌群を硝化槽に供給することができる。その結果、硝化槽内で低濃度アンモニアを含む廃水の処理効率が上がるため、好ましい。AH菌群の培養に用いる微生物保持担体として、未馴養の担体を用いることが費用面から好ましい。また、
図2のような構成にすることで、中〜高濃度処理用硝化槽(培養槽)から硝化槽にAH菌群が順次供給されるため、硝化槽は従来の活性汚泥法、例えば浮遊型活性汚泥法、を用いた槽であってもよい。なお、硝化槽内には、AH菌群を保持させた担体が含まれていてもよい。硝化槽内にAH菌群を保持させた担体を含む態様は、より大量の廃水を、高速、かつ、安定的に処理することができる点で好ましい。
【0036】
ここで、
図2の構成を詳しく説明する。AH菌培養槽20内には微生物を保持させた担体12が含まれており、ここに中〜高濃度アンモニア性窒素含有水導入部24から中〜高濃度のアンモニア性窒素を含む廃水(100〜1000mg/L)が導入されて担体と接触し、担体にAH菌群が優先的に培養される。AH菌群の培養が進行すると、増殖したAH菌群の一部が担体から漏れ出すようになり、AH菌群放出部22を介して硝化槽100に供給される。槽の構成にもよるが、硝化槽に供給された菌は、硝化槽内に平均して数日〜1ヶ月程度滞留する。この硝化槽100において、供給されたAH菌群は、
図1の場合と同様にアンモニア性窒素含有水導入部14から導入されたアンモニア性窒素含有水と接触し、アンモニアを硝化して亜硝酸または硝酸を生じる。次いで、
図1の場合と同様に、処理水流出部16から流出した処理水は、脱窒槽(図示せず)に送られて処理水中の硝酸および亜硝酸が窒素ガスに変換されて除去される。
【0037】
<多段処理>
本発明によるアンモニア性窒素含有水の多段処理を、
図3を用いて説明する。この構成は、中濃度廃水において多段処理に構成することでAH菌群を保持しやすい環境を整え、低水温での処理能力を高めた例である。硝化槽が複数連なっているため、より高濃度のアンモニア性窒素を含む廃水を一度に処理することができる。図中28、30、32はそれぞれ第1硝化槽、第2硝化槽、第3硝化槽であり多段処理することにより各槽での濃度勾配ができ、第1硝化槽が最もNH
4−Nの濃度が高く、第2硝化槽、第3硝化槽の順でNH
4−Nの濃度が低くなる。AH菌群の増殖は雰囲気のNH
4−N濃度に依存し、濃度が高いほどAH菌群の増殖に適しているため、AH菌群は第1硝化槽で増殖しやすくなる。そして、第1硝化槽で増殖したAH菌群が第2硝化槽や第3硝化槽に供給されることとなる。これにより3段処理全体での処理性能が低温でも維持され、温度耐性が向上する。
【0038】
アンモニア性窒素含有水の処理手順は、
図1の場合とほぼ同様であり、中濃度アンモニア性窒素含有水導入部26から第1硝化槽28に導入された中濃度アンモニア性窒素含有水が、第1硝化槽28中で担体12に保持されたAH菌群と接触し、担体に保持されたAH菌群が該水中のアンモニアの一部を硝化して亜硝酸または硝酸を生じる。アンモニア性窒素含有水は第1硝化槽28に一定時間滞留した後に第2硝化槽30に導入される。ここで第1硝化槽の場合と同様に水中のアンモニアの消化が進行し、一定時間滞留した後にアンモニア性窒素含有水は第2硝化槽30から流出し、第3硝化槽32に移る。ここでも同様に硝化処理が行われ、最終的に第3硝化槽から流出した処理水は、次いで、脱窒槽(図示せず)に送られて処理水中の硝酸および亜硝酸が窒素ガスに変換されて除去される。
【0039】
各硝化槽は容量、形状および材質が異なっていても良く、各槽で処理するアンモニア性窒素含有水のNH
4−Nの濃度および処理量に応じて、滞留時間や担体の充填量がそれぞれ異なっていても良い。また、処理するアンモニア性窒素含有水の性質に応じて、硝化槽の数を調節することもできる。
【0040】
<本発明の応用例>
本発明の応用例として、
図4および
図5のフローを示す。
図4は本法での脱窒装置を具備したもの、
図5は循環変法の硝化槽に本法のAH菌群優先担体を投入するか又はAH菌群を投入する装置を具備したものである。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。
【0042】
<包括固定化微生物担体の作製>
下水処理場の活性汚泥(群馬県T市終末処理場より入手)15部、ポリエチレングリコールジメタクリレート(「ライトエステル14EG(品番)」、共栄社化学株式会社製)15部、NNN’N’テトラメチルエチレンジアミン(「206−04006(品番)」、和光純薬工業株式会社製)0.5部、および水69.25部を混合して懸濁液とし、そこに過硫酸カリウム(「162−04235(品番)」、和光純薬工業株式会社製)0.25部を加えると重合が始まり、ゲル化した。得られたゲルを3mm角のペレット状に切断して以下の例において使用した。
【0043】
実施例1
<AH菌群優占の担体の作製>
上記ペレット状に切断した包括固定化微生物担体を、下記表1に示す無機合成廃水(NH
4−N:400mg/L)で馴養した。馴養は、
図1に示す1.4Lの容積の硝化槽中で、負荷0.5kg−N/m
3・dで2ヶ月行った。上記条件で2ヶ月馴養したものをAH菌群優占の担体として用いた。
【表1】
【0044】
比較例1
<AL菌群優占の担体の作製>
上記無機合成廃水を水道水で10倍に希釈して用いた(NH
4−N:40mg/L)以外は、AH菌群優占の担体の場合と同様にして負荷0.5kg−N/m
3・dで馴養して作製し、AL菌群優占の担体として用いた。
【0045】
<AH菌群とAL菌群の菌数の測定>
(前処理)
得られたAH菌群優占の担体(実施例1)とAL菌群優占の担体(比較例1)において、AH菌群とAL菌群がそれぞれどれだけ含まれているのかを以下の方法で計測した。
【0046】
まず、前処理として担体の破砕及び細菌の分散を行った。9ml滅菌水に一定量の担体を採取し、破砕と分散を行った。破砕にはホモジナイザ(ホモジナイザPA型、池本理化工業株式会社製)を用い、分散には超音波処理装置(US300型、日本精機株式会社製)を用いた。前処理条件を表2に示す。
【表2】
【0047】
(硝化細菌数の計測)
前処理を終え、細菌が分散した液を用いてAH菌群およびAL菌群の数を最確値法に準じて計測した。まず、表3に示すAH菌群とAL菌群の菌数計測用培地を調製し、除菌濾過した後、約50mgのCaCO
3を入れて乾熱滅菌した複数の試験管に9mLずつ無菌分注した。次いで、測定用培地を入れたものとは別の試験管を用意し、そこに殺菌した水を9mL入れ、さらに上記の前処理した液を原液として1mL加えることによって10倍に希釈した。この10倍に希釈した液を1mL抜き取り、別の9mLの殺菌した水に加えることにより、原液を基準として100倍に希釈した希釈液を得た。この操作を繰り返し、10
10倍まで希釈した希釈液を調製した。ここで、各希釈倍率の希釈液を1mLずつ、5本の計測用培地に接種した。したがって、1つの試料について合計50本の試験管に接種した。接種した試験管を2〜3本の無接種の試験管と共に30℃で8週間培養した。
【表3】
【0048】
培養後、Griess−Ilosvary試薬(調製法:土壌微生物研究会編、「土壌微生物実験法」、養賢堂、p.195、(昭和50年)参照)を1〜2滴各試験官に滴下し、亜硝酸の蓄積の有無を判定した。赤または褐色の発色はAH菌群またはAL菌群の成育による亜硝酸の蓄積を意味する。2〜3分後に未発色の試験管に微量の亜鉛粉末を加えて、新たに赤色が発色してくるか否かを、試験管を静置したまま観察する。亜鉛粉末添加後の発色は、一旦生成された亜硝酸が共存した亜硝酸酸化細菌によって硝酸まで酸化されていたことを意味する。亜鉛粉末無添加と添加で発色した試験管数を各希釈段階毎に記録した。
【0049】
AH菌群優占の担体については、H培地において、三次希釈水から5本、四次希釈水から5本、五次希釈水から4本、六次希釈水から2本、七次希釈水から0本であったため、(5、5、4、2、0)と記録した。この値からP
1=5、P
2=4、P
3=2とし、最確値表から最確値を得た後、これにP
2の希釈倍数をかけて、原液1mL当たりの生菌数を算出した。L培地においては、一次希釈水から5本、二次希釈水から3本、三次希釈水から2本、四次希釈水から0本、五次希釈水から0本であったため、(5、3、2、0、0)と記録し、同様に原液1mL当たりの生菌数を算出した。
【0050】
AL菌群優占の担体についても同様にし、原液1mL当たりの生菌数を算出した。結果を表4に示す。
【表4】
【0051】
上記表から、実施例1および比較例1の担体が、それぞれAH菌群優占の担体とAL菌群優占の担体であることが分かる。
図1に示す1.4Lの容積の硝化槽中、負荷0.5kg−N/m
3・dで2ヶ月間馴養した後に、連続運転での水質の収支から各担体の硝化速度を計測したところ、それぞれ0.45kg−N/m
3・dと0.46kg−N/m
3・dであり、ほぼ同等であった。なお、原水および処理水の水質としては、NH
4−N、NO
3−N、NO
2−Nを測定した。NH
4−Nはインドフェノール青比色法(JIS−K0102、ここで、JISは日本工業規格(Japanese Industrial Standards)の略)に準じ、NO
3−NとNO
2−Nはイオンクロマトアナライザー(「ICS−1600(品番)」、ダイオネックス社製)で分析した。また、処理水は浮遊物質が若干混在しているため、処理水の分析に際してはあらかじめ0.45μフィルター(「DISMIC−25cs(品番)」、アドバンテック株式会社製)でろ過した。
【0052】
<各温度における硝化速度の測定>
実施例2
実施例1で作製した担体(AH菌群優占担体)を用いて、温度別硝化速度を測定した。評価は、
図1に示す1.4Lの容積の硝化槽を用いて回分処理を行い硝化速度を求めた。原水は表1の無機合成廃水を10倍に希釈したNH
4−N40mg/Lを用いた。なお、硝化槽内での担体の充填量は8%とした。
【0053】
上記条件の下、温度を5、10、15および20℃と変化させて測定した結果を表5、および
図6に示す。
【0054】
比較例2
比較例1で作製した担体(AL菌優占の担体)を用いた以外は実施例2と同様にして、温度別硝化速度を測定した。結果を表5、および
図6に示す。この結果から、AH菌群優占の担体はAL菌群優占の担体より低温耐性があることが分かる。特に、10℃以下の水温において、AH菌群優占の担体はAL菌群優占の担体に比べて顕著に高い硝化速度を得ることができることが分かる。
【表5】
【0055】
<長期低水温測定>
実施例3
実施例1で作製した担体(AH菌群優占担体)を用いて、5℃で長期処理運転を行った。この処理には、
図1の構成の硝化槽に合成無機廃水(NH
4−N濃度:48〜66mg/L)を用いた。
処理運転の条件を以下に示す。
硝化槽容積 1.4L
滞留時間 6〜12時間
包括担体充填率 8%
NH
4−N負荷 0.07〜0.24kg−N/m
3・d
運転期間 100日
実施例3についての結果を
図7および8に示す。
【0056】
比較例3
比較例1で作製した担体(AL菌優占の担体)を用いた以外は実施例3と同様にして、5℃で長期処理運転を行った。比較例3についての結果を
図9および10に示す。硝化能力の経日変化および容積負荷に対する硝化速度のいずれにおいても、本発明によるAH菌群優占担体が低水温で処理性能が優れていることが明らかである。
【0057】
<AH菌群培養槽からAH菌群を供給する運転>
実施例4
図2のフローの装置を用いた。活性汚泥を用いて作製した未馴養の包括固定化微生物担体(活性汚泥固定化担体)を、中〜高濃度アンモニア性窒素含有水(汚泥脱水後の脱離液)を用いた中〜高濃度処理用硝化槽(培養槽)20に投入し、そこに中〜高濃度アンモニアを含有する脱離液を流入させ、中〜高濃度処理用硝化槽(培養槽)20内の担体内部でAH菌群を馴養培養した。AH菌群の一部は担体からリークし、硝化槽100に投入される。硝化槽100には活性汚泥が懸濁している。硝化槽100にアンモニア性窒素含有水導入部14から低濃度アンモニア性窒素含有水を流入させ、硝化処理を行った。
【0058】
各種水質と装置の仕様を以下に示す。
各種アンモニア性窒素含有水のNH4−N濃度
汚泥脱水後の脱離液 350〜410mg/L
アンモニア性窒素含有水導入部14に導入される廃水 32〜40mg/L
硝化槽100の仕様
硝化槽容積 10L
滞留時間 4時間
MLSS濃度 4,000mg/L
NH
4−N負荷 0.25〜0.32kg−N/m
3・d
中〜高濃度処理用硝化槽(培養槽)20の仕様
中〜高濃度処理用硝化槽(培養槽)容積 0.5L
滞留時間 12時間
包括担体充填率 20%
NH
4−N負荷 0.7〜0.8kg−N/m
3・d
【0059】
使用した担体は先に示した未馴養の包括固定化微生物担体(活性汚泥固定化担体)を用いた。固定化した活性汚泥としてはT下水処理場の活性汚泥を用いた。培養槽の担体にAH菌群が増殖し、担体からAH菌群がリークし、硝化槽に供給されることにより低水温で硝化が促進される。小規模の本発明による装置で冬場に運転したところ、水温が10〜13℃であり、硝化槽100の処理水中のアンモニア性窒素濃度はNH
4−N:1mg/L以下であった。
【0060】
比較例4
中〜高濃度処理用硝化槽(培養槽)20を具備しない従来法(浮遊型活性汚泥法)を用いた以外は実施例4と同様にして、NH
4−N32〜40mg/Lを滞留時間4時間、MLSS濃度4000mg/Lで処理したところ、水温10〜13℃で、処理水中にアンモニア性窒素が多く残留し、硝化槽から排出された処理水のアンモニア性窒素濃度はNH
4−N:9〜35mg/Lであった。したがって、本発明による方法および装置での効果は明らかである。
【0061】
<多段処理>
実施例5
図3に示す多段処理で処理を行った。
水質と装置の仕様を以下に示す。
廃水中NH
4−N濃度 170〜220mg/L
各硝化槽28、30、32の仕様
各槽の容積 2L
各槽の滞留時間 4時間
包括担体充填率 20%
【0062】
先に示した未馴養の包括固定化微生物担体(活性汚泥固定化担体)を用いて処理を行った。固定化した活性汚泥としてはT下水処理場の活性汚泥を用いた。本発明による装置で冬場に運転したところ、水温が8〜13℃であり、処理水処理水中のアンモニア性窒素濃度はNH
4−N:1mg/L以下であった。したがって、本発明による方法および装置での効果が明らかである。