特許第6161467号(P6161467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6161467固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6161467
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20170703BHJP
   G01N 23/225 20060101ALI20170703BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20170703BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   H01M4/86 T
   G01N23/225
   H01M8/12
   C01G45/00
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-173633(P2013-173633)
(22)【出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2015-41597(P2015-41597A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108030
【氏名又は名称】AGCセイミケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100175237
【弁理士】
【氏名又は名称】加納 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(72)【発明者】
【氏名】名田 大志
(72)【発明者】
【氏名】平井 岳根
【審査官】 松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−048893(JP,A)
【文献】 特開2012−138256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
C01G 45/00
G01N 23/225
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタンと、ストロンチウム及び/又はカルシウムと、マンガンと、酸素と、を含有する固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末において、該固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)画像上における一辺が8μmの格子状に分割した12個の格子点を分析箇所とし、前記走査型電子顕微鏡に付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により測定した前記12個の格子点におけるランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積比より算出したランタンの含有量(w(wt%))と、マンガンの含有量(w(wt%))とを、下記式(1)の関係を満足せしめるとき、前記12個の格子点におけるランタンの含有量の変動係数(α)が6.0%以下であり、かつ前記12個の格子点におけるマンガンの含有量の変動係数(β)が13.0%以下であることを特徴とする固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末。
+w=100(wt%) (1)
【請求項2】
前記ランタンの含有量の変動係数(α)が5.0%以下であり、かつ前記マンガンの含有量の変動係数(β)が10.0%以下である請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末。
【請求項3】
前記固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末が、下記一般式(I)
(La1−x1−αMnO3+δ (I)
(但し、Aは、Sr及びCaからなる群から選択される1種以上の元素であり、0<x≦0.45、0≦α≦0.1、−0.05≦δ≦0.2である。)で表される請求項1又は2に記載の固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末。
【請求項4】
AがSrであり、0<x≦0.40、かつ0≦α≦0.06である請求項3に記載の固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末の製造方法であって、
前記固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末を構成する各金属元素を含有する原料化合物を、クエン酸と、リンゴ酸、マレイン酸、及び乳酸からなる群から選択される少なくとも1種とを、前記クエン酸の使用量として、前記原料化合物中の各金属元素のモル数の和に対して0.5〜3倍量を用い、かつ、リンゴ酸、マレイン酸、及び乳酸からなる群から選択される少なくとも1種の使用量として、前記原料化合物中の各金属元素のモル数の和に対して0.5〜3倍量を用いて溶液又はスラリーとし、乾燥・焼成することを特徴とする製造方法。
【請求項6】
前記溶液又はスラリーを、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥して乾燥粉末を製造し、該乾燥粉末を750℃から1450℃で焼成する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
クエン酸とリンゴ酸、又はクエン酸とマレイン酸を用いる請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記原料化合物が、炭酸塩、酸化物、水酸化物、及び有機酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項5〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランタンと、ストロンチウム及び/又はカルシウムと、マンガンと、酸素と、を含有する複合酸化物である固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末及びその製造方法に関し、より詳しくは、当該複合酸化物粒子における各構成元素組成の均一性の高い固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池は、電解質として酸素イオン導電性を示す固体電解質を用いた燃料電池で、起電力を生じる電気化学反応が水素の酸化反応であり、炭酸ガスを発生させないため、クリーンエネルギーとして注目されている。固体酸化物型燃料電池は、一般に、酸化物である空気極と固体電解質と燃料極とからなる単セルをインターコネクターによって接続したスタック構造を採っており、その動作温度は、通常1000℃程度であるが、種々の検討により、近年低温化が進んでいるものの、動作温度は600℃以上と依然として高温である。
【0003】
固体酸化物型燃料電池における、空気極を構成する空気極材料には、(1)酸素イオン導電性が高いこと、(2)電子伝導性が高いこと、(3)電解質と熱膨張が同等あるいは近似していること、(4)化学的な安定性が高く、他の構成材料との両立性が高いこと、(5)焼結体が多孔質であり、一定の強度を有すること等の特性が基本的に要求される。
【0004】
特許文献1では、空気極を構成する空気極材料として、組成式(L1−xAE1−y(Fe1−z)O3+δで表され、Lは、Sc、Y及び希土類元素からなる群より選ばれた一種又は二種以上の元素であり、AEは、Ca及びSrの群からなる一種又は二種の元素であり、Mは、Mg、Sc、Ti、V、Cr、Co及びNiからなる群より選ばれた一種又は二種以上の元素であり、0<x<0.5、0<y≦0.04、0≦z<1であるランタンフェライト系ペロブスカイト酸化物を主成分とするセラミックス粉体が提案されている。特許文献1の実施例2には、クエン酸塩法で作製された(La0.6Sr0.41−z(Co0.2Fe0.8)O3+δ(y=0.02、0.04)が記載されている。これらの(La0.6Sr0.41−z(Co0.2Fe0.8)O3+δは本願の比較例1と同様の方法で作製されたサンプルであり、構成元素の均質性が劣るものである。
【0005】
また、特許文献2では、(La1−xSraCoFe1−y (I)(0.2≦x≦0.5、0.1≦y≦0.6、0.9≦a≦1.0)であるランタンフェライト系ペロブスカイト酸化物、及びクエン酸と、重炭酸アンモニウムや炭酸アンモニウムなどのアンモニア化合物とを用いる該ランタンフェライト系ペロブスカイト酸化物の製造方法が提案されている。
しかし、本発明者は、特許文献2に記載のクエン酸と、重炭酸アンモニウムや炭酸アンモニウム等のアンモニア化合物とを用い、ペロブスカイト構造を有する(La1−xSrMnO3+δ複合酸化物粉末の合成を試みたが、工業化には焼成時に発生する有害なアンモニアガス及び/又は窒素酸化ガスを無害化する高価な装置が必要となり、高コストとなるので工業化は困難であるとの認識を得た。
【0006】
さらに、空気極の特性を満足する材料として、ペロブスカイト構造を有する(La1−x1−αMnO3+δ(Aは、ストロンチウム及び/又はカルシウムである。)で表される複合酸化物(LSMと略することがある。)が、電極活性に優れた空気極材料として精力的に研究開発されている。
例えば、非特許文献1には、Aサイト欠損型のLSMである(La1−xSr0.94MnO3−δ(0.08≦x≦0.21)が大気中において約1000℃で酸素放出を伴って相転移を起こすことが記載されている。この非特許文献1では、熱分析や電気伝導度測定に用いられるサンプルは、炭酸塩である原料粉末を混合粉砕機で混合し1273Kで15時間焼成した後、粉砕し、さらに1573Kという高温で48時間焼成するという典型的な固相法で作製している。しかし、このような固相法では、LSMの構成元素であるランタンと、ストロンチウムと、マンガンとを粒子中で均質に分散させるには1573K(1300℃)という高温をもってしても困難である。
【0007】
また、特許文献3の段落0024における、実施例1には、La0.8Sr0.2MnO3+δの合成方法として、出発原料である硝酸塩の混合物をシュウ酸を溶解させたエタノール中に加えてシュウ酸塩として共沈させ、仮焼する方法が記載されている。
この共沈法は、均一溶液から沈殿されるので、一見、容易に均一組成のものが形成されるように思われるが、本発明者が検討したところ、実際には、当該3種類の元素の硝酸塩において、各元素の不溶性塩が沈殿するpH及びその結晶成長速度がそれぞれ異なるので、均一組成の沈殿にはならないことが判明した。例えば、一つの元素の塩が先に沈殿し大粒子に成長した後に次の元素の微小結晶が当該大粒子上に沈殿することになるので、原理的に充分に均一組成の沈殿を得ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−035447号公報
【特許文献2】特開2012−138256号公報
【特許文献3】特開2006−001813号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Electrochem.Soc.,Vol.138,5,1519−1523(1991).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、固体酸化物型燃料電池用空気極材料として好適な、均一組成を有する新規な固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末を提供すること、及びかかる均一組成の固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末を得るための製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、固相法や共沈法等により調製される従来のLSM微粒子においては、原理的にも当該3成分元素が均一組成にはなりにくいという問題があることを認識した。かかる観点から鋭意検討したところ、クエン酸と、リンゴ酸等の有機酸の混合物の水溶液を使用し、La、Sr及び/又はCa、及びMnを含む原料化合物を、液中で当該有機酸と反応させて、錯化合物として溶解又はスラーにせしめ、これを乾燥・焼成することにより、ミクロのレベルにおいても均一組成を有するLSM微粒子が得られることを見い出し、本発明を完成した。
本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
〔1〕ランタンと、ストロンチウム及び/又はカルシウムと、マンガンと、酸素と、を含有する固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末において、該固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末の走査型電子顕微鏡(SEM )画像上における一辺が8μmの格子状に分割した12個の格子点を分析箇所とし、前記走査型電子顕微鏡に付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により測定した前記12個の格子点におけるランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積比より算出したランタンの含有量(w(wt%))と、マンガンの含有量(w(wt%))とを、下記式(1)の関係を満足せしめるとき、前記12個の格子点におけるランタンの含有量の変動係数(α)が6.0%以下であり、かつ前記12個の格子点におけるマンガンの含有量の変動係数(β)が13.0%以下であることを特徴とする固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末。
+w=100(wt%) (1)
【0012】
〔2〕前記ランタンの含有量の変動係数(α)が5.0%以下であり、かつ前記マンガンの含有量の変動係数(β)が10.0%以下である上記〔1〕に記載の固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末。
〔3〕前記固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末が、下記一般式(I)
(La1−x1−αMnO3+δ (I)
(但し、Aは、Sr及びCaからなる群から選択される1種以上の元素であり、0<x≦0.45、 0≦α≦0.1、−0.05≦δ≦0.2である。)で表される上記〔1〕又は〔2〕に記載の固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末。
〔4〕AがSrであり、0<x≦0.40、 かつ0≦α≦0.06である上記〔3〕に記載の固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末。
【0013】
〔5〕上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末の製造方法であって、前記固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末を構成する各金属元素を含有する原料化合物を、クエン酸と、リンゴ酸、マレイン酸、及び乳酸からなる群から選択される少なくとも1種とを、前記クエン酸の使用量として、前記原料化合物中の各金属元素のモル数の和に対して0.5〜3倍量を用い、かつ、リンゴ酸、マレイン酸、及び乳酸からなる群から選択される少なくとも1種の使用量として、前記原料化合物中の各金属元素のモル数の和に対して0.5〜3倍量と、を用いて溶液又はスラリーとし、乾燥・焼成することを特徴とする製造方法。
〔6〕前記溶液又はスラリーをスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥して乾燥粉末を製造し、該乾燥粉末を750℃から1450℃で焼成する上記〔5〕に記載の製造方法。
〔7〕クエン酸とリンゴ酸、又はクエン酸とマレイン酸を用いる上記〔5〕又は〔6〕に記載の製造方法。
〕前記原料化合物が、炭酸塩、酸化物、水酸化物、及び有機酸塩からなる群より選択される少なくとも1種である上記〔5〕〜〔〕のいずれかに記載の製造方法。

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の固相法、共沈法、スラリー法によるものと比較してより均一組成の新規なLSM微粒子が提供される。また、本発明によれば、かかる均一組成の新規なLSM微粒子を得るための新規な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1におけるLSM微粒子のSEM写真(倍率3000倍)である。
図2図1に対するLaのEDXマッピング図である。
図3図1に対するSrのEDXマッピング図である。
図4図1に対するMnのEDXマッピング図である。
図5】実施例1における原料化合物の有機酸(DL−リンゴ酸とクエン酸)溶液の粘度の時間依存性を示す図である。
【0016】
図6】比較例1におけるLSM微粒子のSEM写真(倍率3000倍)である。
図7図6に対するLaのEDXマッピング図である。
図8図6に対するSrのEDXマッピング図である。
図9図6に対するMnのEDXマッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末は、ランタンと、ストロンチウム及び/又はカルシウムと、マンガンと、酸素と、を含有する。本発明の固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末は、一般式(I)で表される組成の複合酸化物であって、ペロブスカイト構造を有する固体酸化物型燃料電池用複合酸化物粉末であるのが好ましい。
(La1−x1−αMnO3+δ (I)
但し、Aは、Sr及びCaからなる群から選択される1種以上の元素であり、0<x≦0.45、 0≦α≦0.1、−0.05≦δ≦0.2である。
【0018】
δの値は、必要に応じて、複合酸化物の湿式酸化還元滴定法による金属元素の平均価数分析、又は複合酸化物についてのXANESによる各金属元素の価数分析等により求めることができる。Aは、Srであり、0<x≦0.40、 かつ0≦α≦0.06であるのが好ましい。
本発明の複合酸化物は主成分としてペロブスカイト構造の(La1−x1−αMnO3+δ を含んでいればよく、他に不純物相が存在していてもよい。
【0019】
一般式(I)で表される組成の複合酸化物のBサイトであるMnは、その一部をMg,Cr,Co又はNiで置換すると、燃料電池の熱サイクル収縮現象を抑制できるので好ましい。Mnの0〜10モル%をMg,Cr,Co又はNiで置換するのが好ましい。
式中、x及びαの範囲が0<x≦0.45、0≦α≦0.1であることは上記複合酸化物がペロブスカイト構造を保持するのに好ましい範囲である。
【0020】
具体的には、式(I)式で表される複合化合物LSMの一例としては、例えば以下のようなものが挙げられるが、もちろんこれに限定されるものではない。
La0.6Sr0.4MnO3+δ
(x=0.4、α=0.0)
La0.8Ca0.2MnO3+δ
(x=0.2、α=0.0)
La0.9Sr0.06Ca0.04MnO3+δ
(x=0.1、α=0.0)
La0.54Sr0.36MnO3+δ
(x=0.4、α=0.1)
La0.76Sr0.19MnO3+δ
(x=0.2、α=0.05)
【0021】
本発明において、これらの複合酸化物であるLSM粉末(微粒子ともいう。)は、従来の粒子に対して、粒子内における各成分(La、Sr及び/又はCa、Mn)組成の均一性の高いことを特徴とする。
本発明においては、複合酸化物微粒子において、成分のバラツキを次のように相対的標準偏差(変動係数:C.V.)で評価し、次のように規定する。
【0022】
複合酸化物微粒子を走査型電子顕微鏡(SEM )画像上における一辺が8μmの格子状に分割した12個の格子点を分析箇所とし、前記走査型電子顕微鏡に付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により測定した前記12個の格子点におけるランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積比より算出したランタンの含有量:w(wt%)と、マンガンの含有量:w(wt%)とを、下記する関係を満足するようにする。
すなわち、[w,[w,[w,・・・[wa]12及び[w,[w,[w,・・・[w]12は、[w+[w=100(wt%),[w+[w=100(wt%),・・・[w12+[w12=100(wt%)の関係
【0023】
本発明では、このとき、前記12個の格子点におけるランタンの変動係数(α)が6.0%以下であること及び、前記12個の格子点におけるマンガンの変動係数(β)が13.0%以下であることを規定する。
なお、本発明においては、重量%(wt%)を質量%と同意義のものとして使用することとし、「元素の変動係数」とは、「元素の平均含有量の変動係数」を意味するものとする。
【0024】
この点について、La0.8Sr0.2MnO3+δ(x=0.2、α=0.0である。)を例にとってさらに説明する。
上記LSMは、ABO3+δすなわち(La0.8Sr0.2)MnO3+δと表示することができるが、式(1)wa+wb=100(wt%)は、AサイトにおけるLaとBサイトのMn含有量の和を規定するものである。
【0025】
本発明では、まず、SEM-EDX測定により、SEM画像中の異なる12個の測定点におけるLaの含有量[waiとMnの含有量[wiの和が100(wt%)となるようにLaとMnの含有量をランタンのLα線及びマンガンのKα線のピーク面積比から求める。求めた[w,[w,[w,・・・[w及び[w,[w,[w,・・・[wは[w+[w=100(wt%),[w+[w=100(wt%),・・・[w+[w=100(wt%)(n=12)を満足する。次に各測定点のLa、Mnの含有量を統計処理することにより、LaとMnの平均含有量([w]av、[w]av)と標準偏差を計算する。
【0026】
次に、上記のように求めた平均含有量と標準偏差を用いて(i)Aサイトの元素であるLaについて平均含有量の標準偏差(バラツキ)を含有量の平均値で除して変動係数を求める。
また、(ii)Bサイトの元素であるMnの平均含有量のバラツキについても同様に変動係数を求める。
なお、EDX測定は統計処理する都合上、走査型電子顕微鏡(SEM )画像上における一辺が8μmの格子状に分割した12個の格子点について測定するものとし、SEM画像中に均一に分散した測定点について測定するものとする。例えば、SEM画像中に万遍なく格子状に分散した異なる12点について測定する。
【0027】
本発明においては、このようにしてLaとMnの組成をバラツキの尺度である変動係数(C.V.)で評価した場合、当該変動係数が小さいことを特徴とする。具体的に、上記例では、
LaのC.V.(α)≦6.0%
MnのC.V.(β)≦13.0%であり、
好ましくは、
LaのC.V.(α)≦5.0%
MnのC.V.(β)≦10.0%であり、
さらに好ましくは、
LaのC.V.(α)≦3.0%
MnのC.V.(β)≦6.0%である。
なお、後記する比較例において示されているように、従来のクエン酸塩法により調製されたLSM粉末は、組成的に大きくばらついており、その変動係数C.V.(α、β)は、本発明で規定する範囲を超えてずっと大きくなることが示される。
【0028】
次に、本発明の下記の式(I)で表される組成を有する固体酸化物型燃料電池用複合酸化物の製造方法について説明する。
(La1−x1−αMnO3+δ (I)
【0029】
(原料粉末の調製)
本発明に係る一般式(I)(La1−x1−αMnO3+δで表される組成を有する固体酸化物型燃料電池用複合酸化物の原料となる粉末は、通常使用されるものを好適に使用することができ、例えばLa、Sr及び/又はCa、Mnを含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、有機酸塩などである。
【0030】
特に環境的な側面、入手し易さの理由から、炭酸塩、水酸化物又は酸化物が好ましく、原料の反応性が高いことからクエン酸塩などの有機酸塩も好ましい。
また、原料は1つの元素につき炭酸塩、酸化物、水酸化物、硝酸塩などから選ばれた任意の2種類以上の化合物を元素源として選択することもできる。
【0031】
上記の原料粉末をLa、Sr及び/又はCa、Mn各元素が一般式(I)で表わされる目的の組成になるように秤量する。
なお、秤量した各原料粉末は、予め粉砕・微細化しておくことが、後のクエン酸と、リンゴ酸、マレイン酸、及び乳酸からなる群から選択される少なくとも1種との反応を迅速に進行させるため好ましい。またその一部又は全部を予め、均一に混合しておいてもよい。混合は、乾式混合によってもよいが、比較的短時間で均質な原料粉末を得られることから、湿式混合法により混合を実施することが好ましく、特に混合と同時に粉砕処理を行ってもよい。
【0032】
湿式混合法を実施するための装置としては特に限定するものではないが、同時に粉砕を実施するものが好ましい。例えば、ボールミル、ビーズミル、アトリションミル、コロイドミル等が好ましい。そのうち、特に、ジルコニアボールのような、粉砕媒体を使用する形式のもの、例えばボールミル、ビーズミルなどが、より好ましく使用される。例えば、原料粉末に上記の粉砕媒体を加え、ボールミルを用いて12〜24時間粉砕混合してもよい。ボールミル等の粉砕媒体による粉砕混合を行うと、より強い剪断力を付与でき、より均質な原料混合粉末が得られるので好ましい。
【0033】
(有機酸水溶液)
一方、有機酸の水溶液を予め調製する。有機酸としては、上記した金属元素を含む化合物と反応してその錯体を形成し、溶解せしめうるクエン酸と、リンゴ酸、マレイン酸、及び乳酸からなる群から選択される少なくとも1種との混合物が好ましい。特にクエン酸とリンゴ酸、又はクエン酸とマレイン酸の組み合わせが好ましいものとして選択される。ここで、クエン酸としては、無水クエン酸、クエン酸一水和物、無水クエン酸とクエン酸一水和物との混合物が使用可能である。また、リンゴ酸には光学異性体であるD体とL体が存在するが、本発明において使用されるリンゴ酸はD体でも、L体でも、又はD体とL体の混合物のいずれでも使用可能である。
【0034】
当該有機酸の使用量は、当該金属元素と錯体を形成し、これを完全に溶解することができる量以上であることが好ましい。具体的には、クエン酸の使用量が金属元素を含有する原料化合物中の金属元素のモル数の和に対して、好ましくは0.5〜3倍量、より好ましくは0.5〜2倍量であり、リンゴ酸、マレイン酸、及び乳酸からなる群から選択される少なくとも1種の使用量が金属元素を含有する原料化合物中の金属元素のモル数の和に対して、好ましくは0.5〜3倍量、より好ましくは0.5〜2倍量である。
【0035】
例えば、クエン酸の使用量が金属元素を含有する原料化合物中の金属元素のモル数の和に対して、0.5〜3倍量であり、リンゴ酸の使用量が金属元素を含有する原料化合物中の金属元素のモル数の和に対して、0.5〜3倍量であると、原料化合物と、クエン酸とリンゴ酸、とを反応させた溶液又はスラリーが、溶液又はスラリーのまま安定であり、数日経過しても固化しなかったり、後述する粗焼時に乾燥複合粉末が膨らまないからである。
【0036】
また、クエン酸のみを使用して有機酸塩を製造した場合よりも、後の本焼工程における焼成温度を低くすることが可能となる。すなわち、より低温の焼成でペロブスカイト構造のLSMを主相とし、不純物相の少ない複合酸化物を製造することが可能となる。
有機酸の水溶液の濃度は、特に限定するものではないが、操作の容易性及び反応速度を十分高くする要請から10〜70重量%、好ましくは20〜60重量%、さらに好ましくは30〜50重量%である。
【0037】
(有機酸との反応)
上記のように、調製した複合酸化物を構成する金属元素を含有する化合物の粉体を、上記した有機酸の水溶液と反応させる。
この反応を行うための装置としては、特に限定するものではないが、例えば撹拌手段、加熱手段、原料粉末の供給手段、有機酸水溶液の供給手段を備え、供給した原料粉末を沈殿させることなく浮遊させ、浮遊状態で有機酸と反応させることができる槽型反応容器が好ましい。撹拌手段としては通常の撹拌機、例えば櫂型撹拌機、プロペラ型撹拌機、タービン型撹拌機等のいずれもが好適に使用される。なお、小規模の反応の場合はフラスコ型容器に撹拌機を設置して実施してもよい。
【0038】
金属元素含有化合物の粉末と有機酸水溶液の接触方式は、特に限定するものではないが、反応が化学工学的に固−液異相系反応として把握されるので、当該反応が効率的に実施され、最終的に均一な溶液又はスラリーが得られるものであれば特に限定するものではない。通常は、まず反応容器に有機酸水溶液を仕込んでおき、これに撹拌下に原料粉末を添加して反応させる方式が好ましい。
添加する原料粉末は、各粉末ごとに順次添加してもよいし、また、予め原料粉末を混合しておき、同時に当該混合粉末を供給して反応させてもよい。さらにこれらの供給方法を組み合わせてもよい。
【0039】
なお、原料粉末を逐次添加する場合は、まず、一つの金属元素を含む原料化合物、例えば酸化ランタン粉末を有機酸水溶液に供給して加熱下に反応溶解させ、引き続き残りの元素化合物(例えば炭酸ストロンチウム、クエン酸マンガン等)を同時に添加反応させるようにしてもよい。
【0040】
反応温度は、ある程度の加熱下において実施することにより、溶解反応が促進されるので好ましい。通常、30〜100℃、好ましくは40〜90℃、さらに好ましくは50〜80℃である。また、反応時間、すなわち均一溶液が形成されるまでの時間は、反応温度、有機酸濃度、有機酸や原料金属元素含有化合物の種類、その粒径等によって変わりうるが、通常10分〜48時間、好ましくは30分〜24時間、さらに好ましくは1〜10時間程度である。
【0041】
(乾燥)
本発明においては、かくして調製した溶液又はスラリーを棚段乾燥機などの箱型乾燥機、又はスプレードライヤーなどの噴霧乾燥機を用いて乾燥する。特に、スプレードライヤーを用いた噴霧乾燥が好ましい。
【0042】
乾燥では、有機酸水溶液と各原料金属元素を反応させた溶液又はスラリーを、気流乾燥機もしくは噴霧乾燥機のごとき乾燥装置に供給し乾燥を行う。当該乾燥装置に供給された溶液又はスラリーは、装置内で、微小液滴となり、これが乾燥用の熱風により流動層を形成し、熱風により搬送されながら極めて短時間で乾燥され、乾燥粉中のLa、Sr及び/又はCa、Mnの各金属元素の均質性が高いので好ましい。
【0043】
噴霧乾燥機を使用する場合の噴霧機としては、回転円板、二流体ノズル、加圧ノズル等を有するものが適宜採用でき、また乾燥用熱風温度は、入口で150〜300℃、出口で100〜150℃程度にすることが好ましい。
かかる噴霧乾燥によれば、均一相を形成して原料金属元素が溶解した溶液又はスラリーは、微小液滴状態を形成し、各液滴が瞬間的、又はごく短時間に、水分が蒸発除去することにより、原理的に均一組成の固相が析出した乾燥粉末(混合粉末)が得られる。
【0044】
(焼成)
次に、乾燥させた混合粉末を焼成容器に移し、焼成炉にて焼成する。焼成は基本的には粗焼成、仮焼成、本焼成の焼成温度の異なる3工程からなるのが好ましいが、粗焼成と本焼成の2工程でもよく、仮焼成と本焼成の2工程でもよく、また順次温度を上げてゆく本焼成のみからなる工程でもよい。焼成容器の材質は、特に限定されず、例えばムライト、コージェライトなどが挙げられる。
焼成炉は、熱源として、電気式又はガス式のシャトルキルンでも、場合によってはローラーハースキルンでもロータリーキルンでもよく、特に限定されない。
【0045】
(粗焼成)
粗焼成工程においては、焼成炉の温度を20〜800℃/時の昇温速度で目的の焼成温度(300〜500℃)まで上げる操作を行う。昇温速度を20℃/時以上にすることにより、目的の焼成温度まで達する時間が短くなり、生産性が向上するので好ましい。また、昇温速度を800℃/時以下にすることにより、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行するので好ましい。
【0046】
粗焼成時の焼成温度は、300〜500℃が好ましく、350〜450℃がより好ましい。300℃以上にすることにより炭素成分が残留しにくくなるので好ましい。また、500℃以下にすることにより構成元素が偏析しにくくなるので好ましい。
粗焼成の焼成時間は、4〜24時間が好ましく、8〜20時間がより好ましい。4時間以上にすることにより、炭素成分が残留しにくくなるので好ましい。また、24時間を超えても、生成物に変化はないが、生産性が低下するので24時間以下にすることが好ましい。この粗焼成は一定温度、例えば400℃で8時間保持してもよいし、例えば300℃から460℃にかけて20℃/時で少しずつ昇温してもよい。
【0047】
粗焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、酸素含有雰囲気であり、空気中(大気中)又は酸素濃度が21体積%以下の雰囲気中であることが好ましい。酸素濃度が21体積%を超えると原料混合粉中の炭素成分が燃焼し、部分的に酸化反応が進む結果、生成物の構成元素が局在化する場合があるので、21体積%以下の雰囲気にすることが好ましい。酸素濃度は15体積%以下であるのが好ましい。
【0048】
粗焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、100〜800℃/時が好ましく、100〜400℃/時がより好ましい。降温速度を100℃/時以上にすることにより生産性が向上するので好ましい。また、これを800℃/時以下にすることにより用いる焼成容器が熱衝撃のために割れてしまう可能性が低下するので好ましい。なお、焼成容器を変更せず、かつ解砕しない場合には粗焼成工程から降温せずに次の仮焼成工程に移行してもよい。
次いで、粗焼成工程で得られた酸化物を必要に応じて解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザーなどの粉砕機を用い、一般に乾式で行う。解砕後の体積平均粒径としては1〜50μmが好ましい。より好ましくは10〜20μmである。
【0049】
(仮焼成)
引き続き、上記の必要に応じて解砕された粗焼成粉を仮焼成温度(500〜800℃)で仮焼成する。
仮焼成工程においては、焼成炉の温度を50〜800℃/時、好ましくは50〜400℃/時の昇温速度で目的の焼成温度まで上げる。昇温速度を50℃/時以上にすることにより、目的の焼成温度まで達する時間が短くなり、生産性が向上するので好ましい。また、昇温速度が800℃/時以下であると、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行するので好ましい。
【0050】
仮焼成の温度は、500〜800℃が好ましく、500〜700℃がより好ましい。500℃以上にすると炭素成分が残留することがないので好ましい。また、800℃以下であると焼成粉が過度に焼結しにくくなるので好ましい。
焼成時間は、4〜24時間が好ましく、8〜20時間がより好ましい。4時間以上であると、炭素成分が残留しにくくなるので好ましい。また、24時間以下であると、生成物に変化はなく、生産性が向上するので好ましい。
【0051】
仮焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、粗焼成時と同様の酸素含有雰囲気が好ましい。
仮焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、100〜800℃/時が好ましく、100〜400℃/時がより好ましい。100℃/時以上であると生産性が落ちることがないので好ましい。また、800℃/時以下であると目的とする物質が生成するので好ましい。
次いで、仮焼成で得られた酸化物を粗焼成の後に行ったのと同様に必要に応じて解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザーなどの粉砕機を用い、一般に乾式で行なう。解砕後の体積平均粒径としては1〜50μmが好ましい。より好ましくは10〜20μmである。
【0052】
(本焼成)
さらに、この必要に応じて解砕された仮焼成粉を、本焼成温度(750〜1450℃)で本焼成する。
本焼成工程においては、焼成炉の温度を50〜800℃/時、好ましくは50〜400℃/時の昇温速度で目的の焼成温度まで上げる。昇温速度が50℃/時以上であると、目的の焼成温度まで達する時間が短くなり、生産性が向上するので好ましい。また、昇温速度が800℃/時以下であると、各温度での反応物質の化学変化が十分に進行せずに、反応物質が不均一な状態で目的の焼成温度に到達することがないため、焼成物中に副生成物を生じないので好ましい。
【0053】
本焼成の温度は、750〜1450℃が好ましい。750〜1450℃であると、目的とする結晶相が生成するので好ましい。
本発明においては、原料化合物とクエン酸と、リンゴ酸、マレイン酸、及び乳酸からなる群から選択される少なくとも1種とが反応して無定形の複合有機酸塩を形成するので、750℃という低温から単相のぺロブスカイト構造を有するLSMが生成する。
焼成時間は、4〜24時間が好ましく、5〜20時間がより好ましい。4時間以上であると、未反応物質が目的とする複合酸化物中に混在することなく、生成物中に不純物相が存在するとしても微量であるので、その複合酸化物をもとに作製した焼結体の電気伝導度などの物性にほとんど影響しないので好ましい。また、24時間以下であると、生成物に変化はなく、生産性が低下することもないので好ましい。
【0054】
本焼成を行う際の焼成炉の雰囲気は、粗焼成又は仮焼成時と同様の酸素含有雰囲気中であることが好ましい。
本焼成を所定時間行った後、室温まで降温する。降温速度は、100〜800℃/時が好ましい。100℃/時以上であると生産性が落ちることがないので好ましい。また、800℃/時以下であると目的とする物質が生成するので好ましい。
【0055】
次いで、本焼成で得られた酸化物を粗焼成の後に行ったのと同様に解砕する。解砕にはカッターミル、ジェットミル、アトマイザーなどの粉砕機を用い、一般に乾式で行う。解砕後の粉体の体積平均粒径は1〜50μmが好ましい。より好ましくは10〜20μmである。その後、必要に応じて粒度調整のために湿式で粉砕してもよい。
なお、上記の粗焼成、仮焼成、本焼成は、各工程の終了後に室温まで降温せずに、また焼成後の解砕を行なわずに、続けて行なってもよい。すなわち、粗焼成後に連続して仮焼成を行ってもよく、仮焼成後に連続して本焼成を行ってもよく、粗焼成、仮焼成、本焼成の3工程を連続して行ってもよい。
【0056】
(成型体、焼結体)
以上のように本焼成して得られた粉末(微粒子)は、それぞれの微粒子が均一な組成のLSM粉末であり、これを成型体として焼結することにより、その成型焼結体は、固体酸化物型燃料電池用空気極として好適に使用することができる。すなわち、当該成型焼結体は、均一組成の微粒子組成をそのまま受け継ぐので、原理的に極めて均一組成のLSM焼結体を形成することが理解される。
【0057】
当該成型体、焼結体を形成する手段としてはそれ自体公知の手段が適用される。例えば、まず、LSM粉末をバインダーと混合し、一定の体積を有する金型に充填し、上から圧力をかけることにより、当該粉末の成型体を作成する。
圧力をかける方法は、機械的一軸プレス、冷間等方圧(CIP)プレスなど特に限定されない。
【0058】
次に、この成型体を熱処理し焼結体を得る。熱処理温度は、1000〜1450℃が好ましい。熱処理温度が1000℃以上では成型体の機械的強度が十分に保たれ、また1450℃以下であると生成したLSMの一部が分解して、不純物を形成し、組成が不均一となるおそれがないので好ましい。熱処理時間は、2〜24時間が好ましい。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明の具体的な実施例(実施例1〜5)を、比較例(比較例1)と対比して説明する。しかしながら、これら実施例は、本発明の実施の態様の一例であり、本発明がこれらの実施例に特に限定されるものではなく、また、これにより限定的に解釈されたりするものではない。なお、以下%とあるものは、特になき限り、質量(又は重量)%である。
【0060】
〔実施例1〕
(1)(原料粉末及び有機酸の準備)
(La0.8Sr0.20.98MnO3+δを形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、表1に示すように、La源として酸化ランタン(La)565.18g、Sr源として炭酸ストロンチウム(SrCO)127.95g、及びMn源として炭酸マンガン(MnCO)544.68g(原子比で、La:Sr:Mnが0.784:0.196:1.00とする。)を秤量した。上記のように秤量した原料金属化合物中のLaイオンのモル数とSrイオンのモル数とMnイオンのモル数の合計は8.72モルであった。
【0061】
一方で、10LのセパラブルフラスコにLaイオン、Srイオン、Mnイオンのモル数に対して、それぞれ0.5倍量のクエン酸一水和物917g、及びLaイオン、Srイオン、Mnイオンのモル数に対して、それぞれ等量のDL−リンゴ酸1170gを55℃の純水3.8L(リットル)に加えてクエン/リンゴ酸混合水溶液を調製した。
【0062】
(2)(中間生成物及び乾燥)
上記のクエン/リンゴ酸混合水溶液に酸化ランタン、炭酸ストロンチウム、炭酸マンガンを投入し、75℃まで加熱し、その温度で5時間反応させた。
【0063】
反応終了後、得られたスラリーをスプレードライヤーで乾燥させ、中間生成物である複合有機酸塩の乾燥粉末を得た。なお、スプレードライヤーとしては、BDP−10型スプレーバッグドライヤー(大川原化工機社製)を使用し、入口温度:200℃、出口温度:125℃、アトマイザー回転数:15000rpmの条件で乾燥を行った。
【0064】
(3)(粗焼成、仮焼成、本焼成)
得られた乾燥粉末をムライト質の30cmの角サヤ2枚に充填し、大気中において、電気炉で、400℃で10時間焼成し、有機物を分解させた(粗焼成)。室温から400℃までの昇温速度は400℃/3時間とし、400℃から室温までの降温速度は400℃/4時間とした。
得られた粗焼成粉をムライト質の30cmの角サヤ1枚に充填し、大気中において、電気炉で、600℃で10時間焼成し、残存炭素を分解させた(仮焼成)。室温から500℃までの昇温速度は500℃/3時間、さらに600℃までの昇温時間は100℃/2時間とし、600℃から室温までの降温速度は600℃/6時間とし、仮焼成粉を得た。
【0065】
当該仮焼成粉をムライト質の30cmの角サヤ1枚に充填し、大気中において、電気炉で、1200℃で6時間焼成し、目的のLSM最終粉末(La0.8Sr0.20.98MnO3+δを得た。(本焼成)室温から700℃までの昇温速度は700℃/4時間、さらに、1200℃までの昇温速度は200℃/3時間とした。1200℃から室温までの降温速度は1200℃/12時間とした。本焼成後、焼成粉を解砕し(La0.8Sr0.20.98MnO3+δ粉を得た。
【0066】
(4)(成分分析)
(i)XRD分析
少量の(La0.8Sr0.20.98MnO3+δの最終粉末を分取し、その結晶相を同定するためCuKαをX線源とする粉末X線回折測定を行った。X線回折測定にはリガク社製のRINT2200Vを用いた。
その結果、単相の菱面体晶(113相)を有するペロブスカイト構造であることが確認された。
【0067】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。使用したSEMは日立社製のFE−SEM S−4300であり、EDX検出器は、堀場製作所製のEDX EMAX6853−H、分解能:137eVである。また、測定条件は、加速電圧20kV、エミッション電流20μA、倍率3000倍、WD15mm、プロセスタイム4、計数400万カウント以上とした。
【0068】
図1は、当該粉末のSEM写真(倍率×3000)である。図2〜4は、それぞれLa、Sr、MnのEDXマッピング図である。これらの図からLa、Sr、Mnのマッピング図から各成分の偏析は後述するクエン酸一水和物のみを使用して製造した比較例1と比べて少ないことが確認された。図1に示されるような粉末のSEM画像上において、一辺が8μmの格子状に分割した12個の格子点をポイント分析箇所として、各格子点におけるランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積を測定した。そのピーク面積から、各測定点におけるランタンの含有量(w)とマンガンの含有量(w)が式(1)の関係を満足するようにランタンの含有量とマンガンの含有量を算出し、12点の平均をとったところランタン及びマンガンの平均含有量はそれぞれ68.1wt%、31.9wt%であった。変動係数を計算するとランタンの変動係数(α)は2.0%であり、マンガンの変動係数(β)は4.3%であった。
+w=100(wt%) (1)
【0069】
(iii)粒度分布測定
少量の(La0.8Sr0.20.98MnO3+δを以下のようにイオン交換水に分散させて試料を調製した。分散剤として和光純薬社製の二リン酸ナトリウム十水和物を使用した濃度0.24重量%の水溶液を用い、約0.001gの(La0.8Sr0.20.98MnO3+δと分散液とから全体が10mlとなるように分散液を調製し、3分間超音波を照射したものを試料とした。その試料から(La0.8Sr0.20.98MnO3+δの粒度分布をHORIBA社製のレーザー回折/散乱式粒度分布装置LA−920を用いて測定した。測定の直前に180秒間出力30Wの超音波処理を施した。その結果、体積平均粒径D50は15.1μmであった。
【0070】
(5)原料化合物と有機酸とからなるスラリーの安定化試験
酸化ランタン254.33gと、炭酸ストロンチウム57.58gと、炭酸マンガン245.11gとからなる混合粉末(La:Sr:Mn=0.784:0.196:1.00)を作製した。別途、クエン酸一水和物413gとDL−リンゴ酸526gとを秤量し、純水1.35L(リットル)に溶解させた。前記混合粉末を前記クエン酸一水和物とDL−リンゴ酸とを含有する水溶液に分散させ、その水溶液を35℃に保ちながら24時間ごとにその粘度を測定した。その結果を図5に示す。原料化合物の混合物を投入直後26cPであったスラリー粘度は、原料化合物投入後4日間経過した時点で約100cPまで上昇したが、6日間経過しても約100cPのまま安定で低粘度を保っていた。
【0071】
〔実施例2〕
(1)実施例1において、酸化ランタン565.18gを水酸化ランタン(La(OH))656.84gとし、DL−リンゴ酸1170gの代わりに、Laイオン、Srイオン、Mnイオンのモル数に対して、それぞれ1.73倍量のマレイン酸2026gを添加し、また本焼成温度を1000℃とする他は、実施例1と同様の実験を行い、(La0.8Sr0.20.98MnO3+δで表される最終粉末を得た。(表1参照)
【0072】
なお、本焼成の温度プログラムは、室温から700℃までの昇温速度を700℃/4時間、さらに1000℃までの昇温速度を100℃/1時間とした。また1000℃から室温までの降温速度は100℃/1時間とした。本焼成後、焼成粉を解砕し(La0.8Sr0.20.98MnO3+δ粉を得た。
【0073】
(2)(成分分析)
(i)XRD分析
少量の(La0.8Sr0.20.98MnO3+δの最終粉末を分取し、実施例1と同様にして粉末X線回折測定を行った。その結果、単相の菱面体晶(113相)を有するペロブスカイト構造であることが確認された。
【0074】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
当該粉末のSEM写真による表面状態、EDXによるLa、Srのマッピング図は、実施例1と同様に後述するクエン酸一水和物のみを使用して製造した比較例1と比べて少ないことが確認された。
【0075】
実施例1と同様にして測定したEDXのランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積比より算出したランタンの含有量(wa(wt%))と、マンガンの含有量(wb(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、ランタンの平均含有量とマンガンの平均含有量を算出したところ、それぞれ、68.0wt%、32.0wt%であった。変動係数を計算するとランタンの変動係数C.V.(α)は2.8%であり、マンガンの変動係数C.V.(β)は6.1%であった。
+w=100(wt%) (1)
【0076】
(iii)粒度分布測定
実施例1と同様にして粒度分布測定を行なった。その結果、(La0.8Sr0.20.98MnO3+δの体積平均粒径D50は15.7μmであった。
【0077】
〔比較例1〕
(1)(原料粉末及び有機酸を添加してなる中間生成物)
実施例1と同様に(La0.8Sr0.20.98MnO3+δを形成するように各原料の秤量を行った。(表1参照)
一方で、10Lセパラブルフラスコに純水2L(リットル)を加え、酸化ランタンを添加して液温50℃に保持し、2時間水和反応(La+3HO→2La(OH))させた。これに炭酸ストロンチウム、炭酸マンガンを加えて1時間分散させた。さらにクエン酸一水和物1773gを加えて2時間反応させ、淡桃色のスラリーを得た。
なお、使用したクエン酸量は、Laイオン、Mnイオンのモル数に対してそれぞれ等量、Srイオンのモル数に対して2/3倍量である。
【0078】
(2)(中間生成物の乾燥)
反応終了後、得られたスラリーをスプレードライヤーで乾燥させ、中間生成物である複合有機酸塩の乾燥粉末を得た。なお、スプレードライヤーとしては、BDP−10型スプレーバッグドライヤー(大川原化工機社製)を使用し、入口温度:200℃、出口温度:125℃、アトマイザー回転数:15000rpmの条件で乾燥を行った。
(3)(粗焼成、仮焼成、本焼成)
得られた乾燥粉末をムライト質の30cmの角サヤ2枚に充填し、大気中において、電気炉で、実施例1と同様にして粗焼成し、さらに仮焼成、本焼成を行なった。本焼成後、焼成粉を解砕し(La0.8Sr0.20.98MnO3+δ粉を得た。
【0079】
(4)(成分分析)
(i)XRD分析
少量の(La0.8Sr0.20.98MnO3+δの最終粉末を分取し、実施例1と同様にして粉末X線回折測定を行った。その結果、当該粉末は、菱面体晶(113相)を有するペロブスカイト構造に相当する主相と不純物相に相当する微量のMnとからなることが確認された。
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
図6は、当該粉末のSEM写真(倍率×3000)である。図7〜9は、それぞれLa、Sr、MnのEDXマッピング図である。これらの図には、La、Sr、Mnについてはかなりの偏析が認められた。
【0080】
実施例1と同様にして測定したEDXのランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積比より算出したランタンの含有量(w(wt%))と、マンガンの含有量(w(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、ランタンの平均含有量とマンガンの平均含有量を算出したところ、それぞれ、66.7wt%、33.3wt%であった。変動係数を計算するとランタンの変動係数C.V.(α)が10.4%であり、マンガンの変動係数(β)は20.8%であった。
+w=100(wt%) (1)
(iii)粒度分布測定
実施例1と同様にして粒度分布測定を行なった。その結果、(La0.8Sr0.20.98MnO3+δの体積平均粒径D50は15.3μmであった。
【0081】
(5)原料化合物と有機酸とからなるスラリーの安定化試験
実施例1と同様に、酸化ランタンと、炭酸ストロンチウムと、炭酸マンガンとからなる混合粉末(La:Sr:Mn=0.784:0.196:1.00)を作製した。別途、クエン酸一水和物798gを秤量し、純水1.35L(リットル)に溶解させた。前記混合粉末を前記クエン酸一水和物を含有する水溶液に分散させ、その水溶液を35℃に保ちながらその粘度を測定した。原料化合物の混合物を投入直後25cPであったスラリー粘度は、原料化合物投入後24時間経過した時点で固化してしまった。
【0082】
〔実施例3〕
(1)実施例1において、酸化ランタン559.04g、炭酸ストロンチウム126.56g、炭酸マンガン555.78gを使用し、Laイオン、Srイオン、Mnイオンのモル数に対して、それぞれ0.5倍量のクエン酸一水和物921gと、Laイオン、Srイオン、Mnイオンのモル数に対して、それぞれ等倍量のDL−リンゴ酸1176gを使用した他は実施例1と同様の実験を行い、(La0.8Sr0.20.95MnO3+δで表される最終粉末を得た。(表1参照)
【0083】
(2)(成分分析)
(i)XRD分析
少量の(La0.8Sr0.20.95MnO3+δの最終粉末を分取し、実施例1と同様にして粉末X線回折測定を行った。その結果、当該粉末は、菱面体晶(113相)を有するペロブスカイト構造に相当する主相と不純物相に相当する微量のMnからなることが確認された。
【0084】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
当該粉末のSEM写真による表面状態、EDXによるLa、Srのマッピング図は、実施例1と同様であったが、Mnについては僅かの偏析が認められた。しかし、全体的にはほぼ均一に分布していることが確認された。
実施例1と同様にして測定したEDXのランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積比より算出したランタンの含有量(wa(wt%))と、マンガンの含有量(wb(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、ランタンの平均含有量とマンガンの平均含有量を算出したところ、それぞれ、67.8wt%、32.2wt%であった。変動係数を計算するとランタンの変動係数C.V.(α)は4.3%であり、マンガンの変動係数C.V.(β)は9.0%であった。
+w=100(wt%) (1)
【0085】
(iii)粒度分布測定
実施例1と同様にして粒度分布測定を行なった。その結果、(La0.8Sr0.20.95MnO3+δの体積平均粒径D50は15.7μmであった。
【0086】
〔実施例4〕
(1)(原料粉末及び有機酸の準備)
La0.6Ca0.4MnO3+δを形成するように各原料の秤量を行った。すなわち、表1に示すようにLa源としての酸化ランタン(La)493.04g、Sr源としての炭酸カルシウム(CaCO)200.83g、及びMn源として炭酸マンガン(MnCO)620.88g(原子比で、La:Ca:Mnが0.6:0.4:1.0とする。)を秤量した。上記のように秤量した原料金属化合物中のLaのモル数とCaのモル数とMnのモル数の合計は10.04モルであった。
以後、実施例1において、クエン酸一水和物917gとリンゴ酸1170gとに代えて、Laイオン、Srイオン、Mnイオンのモル数に対して、それぞれ1.5倍量のクエン酸3166gとLaイオン、Srイオン、Mnイオンのモル数に対して、それぞれ2倍量DL−リンゴ酸2694gを使用し、1100℃で6時間本焼成した他は実施例1と同様の実験を行い最終粉末である(La0.6Ca0.4MnO3+δ)を得た。
室温から700℃までの昇温速度は700℃/4時間、さらに、1100℃までの昇温速度は200℃/3時間とした。1100℃から室温までの降温速度は1100℃/11時間とした。
【0087】
(2)(成分分析)
(i)XRD分析
少量のLa0.6Ca0.4MnO3+δの最終粉末を分取し、その結晶相を同定するためCuKαをX線源とする粉末X線回折測定を行った。X線回折測定には実施例1と同様のリガク社製のRINT2200Vを用いた。その結果、単相のペロブスカイト構造であることが確認された。
【0088】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を実施例1で用いた走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
当該粉末のSEM写真による表面状態、EDXによるLa、Ca、Mnのマッピング図は、実施例1と同様であり、偏析の程度は比較例1と比べて少なかった。
【0089】
実施例1と同様にして測定したEDXのランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積比より算出したランタンの含有量(w(wt%))と、マンガンの含有量(w(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、ランタンの平均含有量とマンガンの平均含有量を算出したところ、それぞれ61.8wt%、38.2wt%であった。変動係数を計算するとランタンの変動係数C.V.(α)は3.7%であり、マンガンの変動係数C.V.(β)は6.0%であった。
+w=100(wt%) (1)
【0090】
(iii)粒度分布測定
実施例1と同様にして粒度分布測定を行なった。その結果、La0.6Ca0.4MnO3+δの体積平均粒径D50は15.9μmであった。
【0091】
〔実施例5〕
(1)(原料粉末及び有機酸の準備)
La0.8Sr0.2MnO3+δを形成するように各原料の秤量を行った。
すなわち、表1に示すようにLa源としての炭酸ランタン(La(CO・8HO)1065.92g、Sr源としての炭酸ストロンチウム(SrCO)128.85g、及びMn源として酢酸マンガン(Mn(CHCOO)・4HO)1169.82g(原子比で、La:Sr:Mnが0.8:0.2:1.0とする。)を秤量し、以後クエン酸一水和物とDL−リンゴ酸の使用量をそれぞれ1827g、1166gにした以外は、実施例1と同様にしてクエン酸一水和物とDL−リンゴ酸と原料金属化合物とからなるスラリーを得た。
上記のクエン酸一水和物とDL−リンゴ酸の使用量は、原料金属化合物中のLaイオンとSrイオンとMnイオンとの合計に対して、共に等倍量であった。
【0092】
(2)(中間生成物及び乾燥)
反応終了後、得られた溶液をスプレードライヤーで乾燥させ、中間生成物である複合有機酸塩の乾燥粉末を得た。なお、スプレードライヤーとしては、実施例1と同じBDP−10型スプレーバッグドライヤー(大川原化工機社製)を使用し、実施例1と同様の条件で乾燥を行った。
【0093】
(3)(粗焼成、仮焼成、本焼成)
得られた乾燥粉末を実施例1と同じ条件で粗焼成及び仮焼成した。
当該仮焼成粉をムライト質の30cmの角サヤ1枚に充填し、大気中において、電気炉で、800℃で6時間焼成し、目的のLSM最終粉末(La0.8Sr0.2MnO3+δ)を得た。(本焼成)
なお、室温から800℃までの昇温速度は800℃/4時間とした。また800℃から室温までの降温速度は100℃/1時間とした。
【0094】
(4)(成分分析)
(i)XRD分析
少量のLa0.8Sr0.2MnO3+δの最終粉末を分取し、その結晶相を同定するためCuKαをX線源とする粉末X線回折測定を行った。X線回折測定には実施例1と同様のリガク社製のRINT2200Vを用いた。その結果、単相の菱面体晶(113相)を有するペロブスカイト構造であることが確認された。
【0095】
(ii)SEM及びEDX分析
また、当該粉末を実施例1で用いた走査型電子顕微鏡(SEM)及びこれに付随したエネルギー分散X線分光装置(EDX)により分析した。
当該粉末のSEM写真による表面状態、EDXによるLa、Sr、Mnのマッピング図は、実施例1と同様であり、偏析の程度は比較例1と比べて少なかった。
【0096】
実施例1と同様にして測定したEDXのランタンのLα線とマンガンのKα線のピーク面積比より算出したランタンの含有量(wa(wt%))と、マンガンの含有量(w(wt%))とを、式(1)の関係を満足するように決定し、ランタンの平均含有量とマンガンの平均含有量を算出したところ、それぞれ68.9wt%、31.1wt%であった。変動係数を計算するとランタンの変動係数C.V.(α)は1.8%であり、マンガンの変動係数C.V.(β)は4.0%であった。
+w=100(wt%) (1)
【0097】
(iii)粒度分布測定
実施例1と同様にして粒度分布測定を行なった。その結果、La0.8Sr0.2MnO3+δの体積平均粒径D50は16.1μmであった。
【0098】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の均一組成の新規のLSM微粒子から得られる均一組成のLSM焼結体は、固体酸化物型燃料電池用空気極や巨大磁気抵抗を利用した素子等に使用され、その産業上の利用可能性は大きい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9