(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1,2−ジオール構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂(A)とアセトアセチル基を含有するポリビニルアルコール系樹脂(B)との含有比(重量)が9/1〜1/9であることを特徴とする請求項1記載の成形品。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。なお、本明細書において、(メタ)アリルはアリル又はメタリルを、(メタ)アクリルはアリル又はメタクリルを、(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートをそれぞれ示す。
【0013】
本発明の成形品は、ケン化度が80〜95モル%であり、下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂(A)と、ケン化度が80〜95モル%であり、アセトアセチル基を含有するPVA系樹脂(B)とを含有する樹脂組成物を溶融成形することにより得られる。以下、各成分について説明する。
【0014】
[1,2−ジオールPVA系樹脂(A)]
本発明に用いられる1,2−ジオールPVA系樹脂(A)は、下記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂であり、一般式(1)において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示す。
【化2】
【0015】
かかる1,2−ジオールPVA系樹脂(A)の一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量(変性率)は、通常、0.1〜10モル%であり、好ましくは0.5〜8モル%であり、更に好ましくは3〜8モル%である。かかる変性率が低すぎると溶融成形が困難になる傾向があり、高すぎると成形品の強度が低下する傾向がある。なお、1,2−ジオール構造単位以外の部分は、通常のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール構造単位と若干量の酢酸ビニル構造単位である。
【0016】
一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のR
1〜R
6は、すべて水素原子であることが望ましいが、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば炭素数1〜5のアルキル基で置換されていてもよい。炭素数1〜5のアルキル基は、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等であり、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0017】
また、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のXは代表的には単結合であり、熱安定性の点で単結合であるものが最も好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよい。かかる結合鎖としては特に限定されないが、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH
2O)
m−、−(OCH
2)
m−、−(CH
2O)
mCH
2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH
2)
mCO−、−CO(C
6H
4)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO
2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO
4−、−Si(OR)
2−、−OSi(OR)
2−、−OSi(OR)
2O−、−Ti(OR)
2−、−OTi(OR)
2−、−OTi(OR)
2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等が挙げられ(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である。)、その中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CH
2OCH
2−が好ましい。
【0018】
本発明で用いられる1,2−ジオールPVA系樹脂(A)の製造法は、特に限定されないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法が好適に用いられる。
【化3】
〔式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、R
7及びR
8はそれぞれ独立して水素原子又はR
9−CO−(式中、R
9はアルキル基である。)を示す。〕
【0019】
また、(i)以外の製造法として、
(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、
【化4】
〔式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示す。〕
(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法を用いてもよい。
【化5】
〔式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは単結合又は結合鎖を示し、R
10及びR
11はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を示す。〕
【0020】
なお、本発明で用いられるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的な観点から、中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
以下、かかる(i)、(ii)、及び(iii)の方法について説明する。
【0021】
[(i)の方法]
(i)の方法は、ビニルエステル系モノマーと上記一般式(2)で示される化合物とを共重合したのちケン化して、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂(A)を製造する方法である。
かかる上記一般式(2)で示される化合物において、R
1〜R
6及びXは上記一般式(1)と同様のものが挙げられ、R
7及びR
8は、それぞれ独立して水素原子又はR
9−CO−(式中、R
9は、アルキル基、好ましくはメチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基又はオクチル基であり、かかるアルキル基は共重合反応性やそれに続く工程において悪影響を及ぼさない範囲で、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。)である。
【0022】
上記一般式(2)で示される化合物としては、具体的にXが単結合である3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、Xがアルキレン基である4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン、Xが−CH
2OCH
2−あるいは−OCH
2−であるグリセリンモノアリルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル等が挙げられる。
【0023】
なかでも、共重合反応性及び工業的な取り扱いにおいて優れるという点で、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6が水素原子であり、Xが単結合であり、R
7、R
8がR
9−CO−であり、R
9がアルキル基である3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、そのなかでも特にR
9がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。なお、酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1―ブテンを共重合させた時の各モノマーの反応性比(r)は、r(酢酸ビニル)=0.710、r(3,4−ジアセトキシ−1ブテン)=0.701であり、これは後述のビニルエチレンカーボネートの場合の反応性比(r)、r(酢酸ビニル)=0.85、r(ビニルエチレンカーボネート)=5.4との比較から、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの方が酢酸ビニルとの共重合反応性に優れることを示すものである。
【0024】
なお、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、工業生産用ではイーストマンケミカル社の製品、試薬レベルではアクロス社の製品を市場から入手することができる。また、1,4−ブタンジオール製造工程中の副生成物として得られる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを利用することもできる。
また、特開平10−212264号公報等に記載の1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに変換する方法や、国際公開第00/24702号に記載の1,3−ブタジエンからモノエポキシドを経て3,4−ジアセトキシブテンを得る方法等、公知の技術を利用して得ることもできる。
【0025】
かかるビニルエステル系モノマーと一般式(2)で表される化合物とを共重合するに際しては、特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、又はエマルジョン重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
共重合時のモノマー成分の仕込み方法としては特に制限されず、一括仕込み、分割仕込み、連続仕込み等任意の方法が採用されるが、一般式(2)で示される化合物に由来する1,2−ジオール構造単位がポリビニルエステル系ポリマーの分子鎖中に均一に分布させられる点から滴下重合が好ましく、特には前述の酢酸ビニルとの反応性比を用いたHANNA法に基づく重合方法が好ましい。
なお、滴下重合とは、共重合の際に反応系内のモノマー比率を一定範囲に保つために、いずれか一方あるいは両方のモノマーを連続的あるいは非連続的に滴下しながら重合させる方法であり、特に、両モノマーの反応性比に基づいて計算されたモノマー消費速度に見合う速度でモノマー滴下を行い、系内のモノマー比率をほぼ一定に保つようにしたのがHANNA法による滴下重合である。
【0026】
かかる共重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール、ブタノール等の低級アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的には、メタノールが好適に使用される。
溶媒の使用量は、目的とする共重合体の重合度に合わせて、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択すればよく、例えば、溶媒がメタノールの時は、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01〜10(重量比)、好ましくは0.04〜3(重量比)程度の範囲から選択される。
【0027】
共重合に際しては重合触媒が用いられ、かかる重合触媒としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の公知のラジカル重合触媒やアゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシジメチルバレロニトリル、t−ブチルパーオキシネオデカノエート等の低温活性ラジカル重合触媒等が挙げられる。重合触媒の使用量は、コモノマーの種類や触媒の種類により異なり一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、アゾイソブチロニトリルや過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対して0.002〜0.7モル%が好ましく、特には0.004〜0.5モル%が好ましい。
また、共重合反応の反応温度は、使用する溶媒や圧力により30℃〜沸点程度で行われ、より具体的には、35〜90℃、好ましくは40〜75℃の範囲で行われる。
【0028】
得られた共重合体は次いでケン化される。かかるケン化に際しては上記で得られた共重合体をアルコール等の溶媒に溶解し、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行われる。代表的な溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、tert−ブタノール等が挙げられるが、メタノールが特に好ましく用いられる。アルコール中の共重合体の濃度は系の粘度により適宜選択されるが、通常は10〜60重量%の範囲から選ばれる。ケン化に使用される触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等の酸触媒が挙げられる。
【0029】
かかるケン化触媒の使用量については、ケン化方法、目標とするケン化度等により適宜選択されるが、アルカリ触媒を使用する場合は通常、ビニルエステル系モノマー及び一般式(2)〜(4)で示される化合物に由来する1,2−ジオール構造単位の合計量1モルに対して、0.1〜30ミリモル、好ましくは2〜17ミリモルの割合が適当である。
また、ケン化反応の反応温度は特に限定されないが、10〜60℃が好ましく、より好ましくは20〜50℃である。
【0030】
なお、(i)の方法による1,2−ジオールPVA系樹脂(A)は、(ii)や(iii)の方法によるものと異なり、そのケン化度によっては側鎖にアセトキシ基が残存する。かかる側鎖アセトキシ基は側鎖水酸基よりも大きく、主鎖アセトキシ基よりも自由度が大きいことから、PVA系樹脂の結晶性阻害、水溶液としたときの界面特性、あるいは他素材との親和性等に対する効果が大きいと推測される。
【0031】
また、(ii)や(iii)の方法による1,2−ジオールPVA系樹脂(A)は、ケン化度が低い場合や、脱炭酸あるいは脱アセタール化が不充分な場合には、側鎖にカーボネート環あるいはアセタール環が残存する場合があり、これらが樹脂組成物の中で他の添加剤と反応して安定性を損なう場合がある。一方、(i)の方法による1,2−ジオールPVA系樹脂(A)は上述のような問題点はなく、製造時及び製品となった後の安定性の点で優れている。
【0032】
[(ii)の方法]
(ii)の方法は、ビニルエステル系モノマーと上記一般式(3)で示される化合物とを共重合したのちケン化、脱炭酸して、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を製造する方法である。
本発明で用いられる上記一般式(3)で示される化合物において、R
1〜R
6及びXは上記一般式(1)と同様のものが挙げられる。中でも入手の容易さ、良好な共重合性を有する点で、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6が水素原子であり、Xが単結合であるビニルエチレンカーボネートが好適に用いられる。
【0033】
ビニルエステル系モノマーと一般式(3)で示される化合物とを共重合及びケン化するに際しては、上記(i)の方法と同様に行われる。
なお、脱炭酸については、特別な処理を施すことなく、ケン化とともに脱炭酸が行われ、エチレンカーボネート環が開環することで1,2−ジオール構造に変換される。
また、一定圧力下(常圧〜1×10
7Pa)で且つ高温下(50〜200℃)でビニルエステル部分をケン化することなく、脱炭酸を行うことも可能であり、かかる場合、脱炭酸を行った後、上記ケン化を行うこともできる。
【0034】
[(iii)の方法]
(iii)の方法は、ビニルエステル系モノマーと上記一般式(4)で示される化合物とを共重合したのちケン化、脱ケタール化して、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を製造する方法である。
本発明で用いられる上記一般式(4)で示される化合物において、R
1〜R
6及びXは上記一般式(1)と同様のものが挙げられ、R
10、R
11はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基である。該アルキル基としては特に限定されないが、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。かかるアルキル基は共重合反応性等を阻害しない範囲内において、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。中でも入手の容易さ、良好な共重合性を有する点で、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6が水素であり、R
10、R
11がメチル基である2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランが好適である。
【0035】
ビニルエステル系モノマーと上記一般式(4)で示される化合物とを共重合及びケン化するに際しては、上記(i)の方法と同様に行われる。
なお、脱ケタール化については、ケン化反応がアルカリ触媒を用いて行われる場合は、ケン化後、更に酸触媒を用いて水系溶媒(水、水/アセトン、水/メタノール等の低級アルコール混合溶媒等)中で脱ケタール化が行われ、1,2−ジオール構造に変換される。その場合の酸触媒としては、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、メタスルフォン酸、ゼオライト、カチオン交換樹脂等が挙げられる。
また、ケン化反応が酸触媒を用いて行われる場合は、特別な処理を施すことなく、ケン化とともに脱ケタール化が行われ、1,2−ジオール構造に変換される。
【0036】
また、本発明に用いる1,2−ジオールPVA系樹脂(A)は、本発明の目的を阻害しない範囲、特に水溶液が低下しない限りにおいて、各種不飽和モノマーを共重合したものを用いることができる。かかる不飽和モノマーの導入量としては、一概にはいえないが、導入量が多すぎると水溶性が損なわれる傾向がある。
かかる不飽和モノマーとしては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート、アセトアセチル基含有モノマー等が挙げられる。
【0037】
更に、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレン基含有モノマー、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有モノマー等も挙げられる。
また、重合温度を100℃以上にすることにより、PVA主鎖中に1,2−ジオール結合を1.6〜3.5モル%程度導入したものを使用することが可能である。
【0038】
1,2−ジオールPVA系樹脂(A)の粘度は、通常、1.5〜20mPa・sであり、好ましくは3〜12mPa・sであり、特に好ましくは4〜8mPa・sである。粘度が低すぎると成形品の強度が低下する傾向があり、高すぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて溶融成形が困難になる傾向がある。
なお、本明細書において1,2−ジオールPVA系樹脂(A)の粘度は、JIS K 6726に準拠して測定した20℃における4重量%水溶液の粘度である。
【0039】
1,2−ジオールPVA系樹脂(A)の平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は、通常、300〜4000であり、好ましくは300〜2000であり、特に好ましくは400〜1000である。かかる平均重合度が低すぎると成形品の強度が低下する傾向があり、高すぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて溶融成形が困難になる傾向がある。
【0040】
1,2−ジオールPVA系樹脂(A)のケン化度は、80〜95モル%であり、好ましくは82〜93モル%であり、特に好ましくは85〜90モル%である。ケン化度が高すぎると溶融成形が困難になる傾向があり、低すぎると水溶性が低下する傾向がある。
なお、ケン化度はJIS K 6726に準拠して測定することができる。
【0041】
[AA−PVA系樹脂(B)]
本発明に用いられるAA−PVA系樹脂(B)は、側鎖にアセトアセチル基を有するPVA系樹脂であり、例えば下記式(5)で示される構造単位を有するものである。
【0043】
かかるAA−PVA系樹脂(B)の製造法としては、特に限定されるものではないが、例えば、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法、PVA系樹脂とアセト酢酸エステルを反応させてエステル交換する方法、酢酸ビニルとアセト酢酸ビニルの共重合体をケン化する方法等を挙げることができる。特に、製造工程が簡略で、品質の良いAA−PVA系樹脂が得られることから、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法で製造するのが好ましい。以下、かかる方法について説明する。
【0044】
原料となるPVA系樹脂としては、一般的にはビニルエステル系モノマーの重合体のケン化物又はその誘導体が用いられる。かかるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済性の点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0045】
また、ビニルエステル系モノマーと該ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーとの共重合体のケン化物等を用いることもできる。かかる共重合モノマーとしては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0046】
更に、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレン基含有モノマー、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2−アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3−ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有モノマー等も挙げられる。
なお、かかる共重合モノマーの導入量はモノマーの種類によって異なるため一概にはいえないが、通常は全構造単位の10モル%未満、特には5モル%未満であり、多すぎると水溶性が損なわれたり、架橋剤との相溶性が低下する傾向がある。
【0047】
また、ビニルエステル系モノマー及びその他のモノマーを重合、共重合する際の重合温度を高温にすることにより、主として生成する1,3−結合に対する異種結合の生成量を増やし、PVA主鎖中の1,2−ジオール結合を1.6〜3.5モル%程度としたものを使用することが可能である。
【0048】
上記ビニルエステル系モノマーの重合体及び共重合体をケン化して得られるPVA系樹脂とジケテンとの反応によるアセトアセチル基の導入には、PVA系樹脂とガス状又は液状のジケテンを直接反応させても良いし、有機酸をPVA系樹脂に予め吸着吸蔵させた後、不活性ガス雰囲気下でガス状又は液状のジケテンを噴霧、反応させるか、又はPVA系樹脂に有機酸と液状ジケテンの混合物を噴霧、反応させる等の方法が用いられる。
【0049】
上記の反応を実施する際の反応装置としては、加温可能で撹拌機の付いた装置を用いることができる。例えば、ニーダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、その他各種ブレンダー、撹拌乾燥装置を用いることができる。
【0050】
AA−PVA系樹脂(B)の粘度は、通常、1.5〜20mPa・sであり、好ましくは2.5〜12mPa・sであり、特に好ましくは3〜8mPa・sである。粘度が低すぎると成形品の強度が低下する傾向があり、高すぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて溶融成形が困難になる傾向がある。
なお、本明細書においてAA−PVA系樹脂(B)の粘度は、JIS K 6726に準拠して測定した20℃における4重量%水溶液の粘度である。
【0051】
AA−PVA系樹脂(B)の平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は、通常、300〜4000であり、好ましくは300〜1500であり、特に好ましくは300〜800である。かかる平均重合度が低すぎると耐水性が低下する傾向があり、高すぎると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて製造が困難になる傾向がある。
【0052】
AA−PVA系樹脂(B)のケン化度は、80〜95モル%であり、好ましくは82〜93モル%であり、特に好ましくは85〜90モル%である。ケン化度が高すぎると溶融成形が困難になる傾向があり、低すぎると水溶性が低下する傾向がある。
なお、ケン化度はJIS K 6726に準拠して測定することができる。
【0053】
本発明で用いられるAA−PVA系樹脂(B)は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよいが、混合物を用いる場合には、ケン化度、平均重合度の平均値が上述の範囲内であることが好ましい。
【0054】
[PVA系樹脂組成物]
本発明で用いられるPVA系樹脂組成物は、1,2−ジオールPVA系樹脂(A)とAA−PVA系樹脂(B)とを含有する。
【0055】
1,2−ジオールPVA系樹脂(A)の含有量とAA−PVA系樹脂(B)の含有量との含有比(A/B)は、重量比で、通常、9/1〜1/9であり、好ましくは8/2〜2/8、更に好ましくは7/3〜3/7である。
【0056】
本発明で用いられるPVA系樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、1,2−ジオールPVA系樹脂(A)及びAA−PVA系樹脂(B)とは異なる他のPVA系樹脂や他の重合体を含有していてもよい。他のPVA系樹脂としては、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位の含有量が異なるもの、アセトアセチル基の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、他の共重合成分が異なるもの、変性基を有さないもの、他の各種変性PVAなどを挙げることができる。また、他の重合体としては、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系樹脂;ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの各種熱可塑性樹脂を挙げることができる。
上述のPVA系樹脂や他の重合体の含有量としては、本発明の樹脂組成物に対して、10重量%未満、特には5重量%未満が好ましい。
【0057】
また、本発明のPVA系樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、補強剤、充填剤、可塑剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、帯電防止剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤などが含有されてもよい。
【0058】
本発明で用いられるPVA系樹脂組成物は、成形材料として使用するために、通常はペレットや粉末などの形状とされる。中でも成形機への投入や、取扱い、微粉発生の問題が小さい点から、ペレット形状とすることが好ましい。
なお、かかるペレット形状への成形は公知の方法を用いることができるが、押出機からストランド状に押出し、冷却後所定の長さに切断し、円柱状のペレットとする方法が効率的である。
また、かかる円柱状のペレットの大きさとしては、通常、長さ1〜4mm、好ましくは2〜3mm、直径は通常、1〜4mm、好ましくは2〜3mmである。
【0059】
本発明で用いられるPVA系樹脂組成物は、例えば、(a)1,2−ジオールPVA系樹脂(A)の粉末とAA−PVA系樹脂(B)の粉末を混合し、溶融する方法、(b)溶融した1,2−ジオールPVA系樹脂(A)にAA−PVA系樹脂(B)の粉末を配合し、溶融する方法、(c)溶融したAA−PVA系樹脂(B)に1,2−ジオールPVA系樹脂(A)の粉末を配合し、溶融する方法などにより製造することができる。
【0060】
溶融方法としては、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー等の混合機により混合した後、単軸又は二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、ブラベンダーミキサー等の溶融混練機にて溶融混練する方法が挙げられる。溶融混練時の温度は、PVA系樹脂(A)及び(B)の融点以上であって、かつ熱劣化しない温度範囲で適宜設定することができるが、好ましくは100〜250℃であり、特に好ましくは100〜140℃である。
【0061】
〔成形品〕
本発明で用いられるPVA系樹脂組成物は、成形性、特に溶融成形性に優れていることから、成形材料として有用である。溶融成形方法としては、押出成形、インフレーション成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、圧縮成形、カレンダー成形、など公知の成形法を用いることができ、PVA系樹脂組成物を溶融温度100〜150℃、好ましくは110〜140℃、特に好ましくは120〜130℃で溶融成形することによって本発明の成形品を製造することができる。
また、本発明の成形品としては、フィルム、シート、パイプ、円板、リング、袋状物、ボトル状物、繊維状物など、多種多用の形状のものを挙げることができる。
例えば、フィルムとして用いる場合の厚さは、通常5〜90μm、好ましくは15〜70μmである。
本発明の成形品の用途例としては、飲食品用包装材、容器、バッグインボックス用内袋、容器用パッキング、医療用輸液バッグ、有機液体用容器、有機液体輸送用パイプ、各種ガスの容器、チューブ、ホースなどが挙げられる。また、各種電気部品、自動車部品、工業用部品、レジャー用品、スポーツ用品、日用品、玩具、医療器具、衛生用品などに用いることも可能である。
【0062】
本発明の成形品は活性エネルギー線を照射することにより耐水性を向上させることができる。活性エネルギー線としては、遠紫外線、紫外線、近紫外線、赤外線等の光線、X線、γ線等の電磁波の他、EB(電子線)、プロトン線、中性子線等が利用できるが、硬化速度、照射装置の入手のし易さ、価格等から紫外線照射による硬化が有利である。
【0063】
紫外線照射により耐水性を向上させる方法としては、150〜450nm波長域の光を発する高圧水銀ランプ、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、無電極放電ランプ、LED等を用いて、30〜3000mJ/cm
2程度照射する方法が挙げられる。
紫外線照射後は、必要に応じて加熱処理を行ってもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「%」及び「部」とあるのは重量基準を意味する。
【0065】
〔実施例1〕
(1)1,2−ジオールPVA系樹脂(A)の製造
還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000g、メタノール50g、及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン60g(3モル%対仕込み酢酸ビニル)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.003モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。さらに、重合開始3時間後にアゾビスイソブチロニトリルを0.002モル%追加し、酢酸ビニルの重合率が40%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
【0066】
次いで、該溶液を酢酸メチルで希釈し、濃度20%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して3ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、中和用の酢酸を水酸化ナトリウムの0.8当量添加し、ろ別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、1,2−ジオールPVA系樹脂(A)を得た。
【0067】
得られた1,2−ジオールPVA系樹脂(A)のケン化度は、残存酢酸ビニル及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ88モル%であった。また平均重合度は、JIS K 6726に準拠して分析を行ったところ450であった。更に、1,2−ジオール構造単位の含有量は
1H−NMR(内部標準物質;テトラメチルシラン)で測定して算出したところ6モル%であった。なお、NMR測定には日本ブルカー社製「AVANCE DPX400」を用いた。
【0068】
(2)AA−PVA(B)の製造
還流冷却機、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000部、メタノール300部、及びアゾビスイソブチロニトリル0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら温度を上昇させ、沸点下で5時間重合を行った。酢酸ビニルの重合率が70%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し、重合体のメタノール溶液(樹脂分41%)を得た。
続いて、該溶液を酢酸メチルで希釈し、濃度29.5%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムを加えて中和した。これに更に水酸化ナトリウムをポリマー中の酢酸ビニル単位1モルに対して11ミリモル加えてケン化し、析出物をろ別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、さらに80℃で60分間熱処理してPVA系樹脂を得た。
【0069】
得られたPVA系樹脂のケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ88モル%であった。また平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ320であった。更に、酢酸ナトリウム含有量は0.5%であった。
該PVA系樹脂を、ニーダーに3600部仕込み、これに酢酸540部を入れ、膨潤させ、回転数20rpmで攪拌しながら、60℃に昇温後、ジケテン420部を3時間かけて滴下し、更に1時間反応させた。反応終了後、メタノールで洗浄した後、70℃で6時間乾燥してAA−PVA系樹脂(B)を得た。かかるAA−PVA系樹脂(B)のAA化度は8.5モル%であり、ケン化度及び平均重合度は用いたPVA系樹脂のとおりである。
【0070】
(3)樹脂組成物の製造
上記1,2−ジオールPVA系樹脂(A)45部と、上記AA−PVA系樹脂(B)30部をドライブレンドした後、可塑剤としてグリセリン25部を液注入しながら、これを二軸押出機にて下記条件で溶融混練し、ストランド状に押出してペレタイザーでカットし、円柱形ペレットの樹脂組成物を得た。
直径(D)15mm、L/D=60
スクリュー回転数:200rpm
設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=120/180/190/195/120/120/120/120/120℃
スクリューパターン:3箇所練りスクリュー
スクリーンメッシュ:90/90mesh
吐出量:1.5kg/hr
【0071】
(4)フィルムの製造
得られたペレットを二軸押出機にて下記条件で製膜し、厚さ約30μmの単層のPVAフィルムを製造し、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
直径(D)15mm、L/D=60
スクリュー回転数 :200rpm
設定温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/D=110/120/120/120/120/120/120/120/140℃
吐出量:1.5kg/hr
スクリーンメッシュ:90/90mesh
ダイ:幅300mm、コートハンガータイプ
引取速度:2.6m/min
ロール温度:50℃
エアーギャップ:1cm
【0072】
(5)紫外線照射工程
上記のPVAフィルムに対して、下記に示す照射条件にて紫外線を照射することにより、AA−PVA系樹脂(B)自体の架橋反応を生起させた。
(照射条件)
照射機器:高圧水銀ランプ80W
照射量:3000mJ/cm
2
フィルムまでの照射距離:130mm
紫外線の照射時間:50秒
紫外線の照射雰囲気:雰囲気温度30℃、雰囲気湿度50%RH
【0073】
<評価方法>
(製膜性)
紫外線照射前のPVAフィルムについて、外観を目視で観察して下記基準にて製膜性を評価した。
○・・穴などがなく均一なフィルムである。
△・・穴はないが、不均一なフィルムである。
×・・穴が開き、網状のフィルムである。
【0074】
(水溶性)
20℃の水2LにPVAフィルム(2.5×5.0×0.03mm)が完全に溶解するまでの時間を上記(5)での紫外線照射前と後でそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0075】
〔実施例2〕
実施例1において、AA−PVA系樹脂(B)としてAA化が3.5モル%、ケン化度88モル%、平均重合度320のものを用いた以外は実施例1と同様にPVAフィルムを製造し、同様に評価を行なった。
【0076】
〔実施例3〕
実施例1において、AA−PVA系樹脂(B)としてAA化が8.5モル%、ケン化度88モル%、平均重合度550のものを用いた以外は実施例1と同様にPVAフィルムを製造し、同様に評価を行なった。
【0077】
〔実施例4〕
実施例1において、1,2−ジオールPVA系樹脂(A)を30部、AA−PVA系樹脂(B)を45部とした以外は実施例1と同様にPVAフィルムを製造し、同様に評価を行なった。
【0078】
〔比較例1〕
実施例1において、AA−PVA系樹脂(B)を配合しなかった以外は実施例1と同様にPVAフィルムを製造し、同様に評価を行なった。
【0079】
〔比較例2〕
実施例3において、1,2−ジオールPVA系樹脂(A)を配合しなかった以外は実施例1と同様にPVAフィルムを製造し、同様に評価を行なった。なお、上記(3)樹脂組成物の製造において、設定温度の最高温度を170℃に変更した。
【0080】
【表1】
【0081】
〔考察〕
本発明の成形品に係る実施例1〜4のPVAフィルムでは、いずれも溶融成形性に優れており、また紫外線を照射することで耐水性が顕著に向上した。
これに対して、1,2−ジオールPVA系樹脂(A)のみからなる比較例1のPVAフィルムでは、耐水性が低く、紫外線を照射しても耐水性を向上させることができなかった。またAA−PVA系樹脂(B)のみからなる比較例2のPVAフィルムでは、製膜性が悪く、溶融成形性に劣るものであった。