(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ヒールカバー部は、前記アッパー上部の上端から下端に向かうに従って編幅が広くなることで、着用者の踵の膨らみに沿った形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシューズアッパー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のシューズは、生産性に未だ改善の余地がある。
【0005】
第1に、特許文献1では、一枚の編地を裁断してアッパー上部を得るか、もしくは成型編みを行なうことでアッパー上部を得ている。前者の場合、裁断工程とアッパー上部を立体形状にするための縫製工程が必要であり、後者の場合、裁断工程は必要ないものの、同様の縫製工程が必要である。
【0006】
第2に、アッパー上部をアッパー底部やアウターソールと組み合わせる際、アッパー上部の位置合わせが煩雑であり、このことが生産性を低下させているという問題がある。位置合わせが煩雑なのは、平面展開された状態のアッパー上部を立体的にしながらアッパー底部やアウターソールの所定位置に接合する必要があるからである。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、生産性良く作製することができるシューズアッパーを提供することにある。また、本発明の別の目的は、本発明のシューズアッパーを横編機により無縫製で編成するシューズアッパーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシューズアッパーは、アッパー上部と、アッパー底部と、を備え、アッパー上部とアッパー底部とが編組織によって無縫製で一体に形成されている。そのアッパー上部のうち、着用者のアキレス腱から踵にかけての領域に対応する位置でアッパー上部の上端から下端に至る所定幅以上の編幅を有する部分をヒールカバー部、このヒールカバー部を除くアッパー上部の残部とアッパー底部とからなる部分をボディー部としたとき、これらヒールカバー部とボディー部とが編組織によって無縫製で一体に形成されている。そして、ヒールカバー部とボディー部との境界線となる辺のうち、シューズアッパーの側面に配置される辺(側辺とする)の位置で、ヒールカバー部の編幅方向の端部と、ボディー部のウエール方向の端部とが接続されることで、ヒールカバー部の編目の向き(即ち、ウエール方向)がシューズアッパーの高さ方向に向き、ボディー部の編目の向き(即ち、ウエール方向)がシューズアッパーの長さ方向に向いていることを特徴とする。
【0009】
なお、後述する本発明のシューズアッパーの製造方法に示すように、ヒールカバー部とボディー部のうち、ヒールカバー部を先に編成する場合、上記側辺の位置でヒールカバー部の編幅方向端部にはボディー部のウエール方向始端部が接続される。一方、ボディー部を先に編成する場合、上記側辺の位置でヒールカバー部の編幅方向端部にはボディー部のウエール方向終端部が接続される。
【0010】
本発明のシューズアッパーの一形態として、ヒールカバー部は、アッパー上部の上端から下端に向かうに従って編幅が広くなることで、着用者の踵の膨らみに沿った形状に形成されている形態を挙げることができる。
【0011】
本発明のシューズアッパーの一形態として、ボディー部の上端側における着用者の踝に対応する部分(即ち、履き口側の踝近傍の部分)は、踝を避けるようにボディー部の下端側(即ち、アッパー底部側)に湾曲しており、その湾曲形状は、ボディー部の編幅方向の目数をアッパー上部の上端側の位置で減らすことで形成されている形態を挙げることができる。
【0012】
本発明のシューズアッパーの一形態として、ヒールカバー部は、ヒールカバー部の強度を増すための補強用編糸によって形成され、ボディー部におけるヒールカバー部に隣接する部分は、上記補強用編糸を用いたインターシャ編成により形成されている形態を挙げることができる。
【0013】
本発明のシューズアッパーの一形態として、ボディー部は、着用者の足の全体形状に沿った形状となるように左右非対称に形成されており、その左右非対称の形状は、ボディー部のアッパー上部領域(アッパー上部に相当する領域)の甲側部分およびアッパー底部領域(アッパー底部に相当する領域)において編幅方向の目数を増減することで形成されている形態を挙げることができる。
【0014】
本発明のシューズアッパーの一形態として、シューズアッパーの履き口の縁部に設けられ、当該縁部を補強する補強縁部を備え、補強縁部の編目の向きは、シューズアッパーの高さ方向に向いている形態を挙げることができる。
【0015】
本発明のシューズアッパーの製造方法は、アッパー上部と、アッパー底部と、を備えるシューズアッパーを作製するシューズアッパーの製造方法である。本発明のシューズアッパーの製造方法は、アッパー上部のうち、着用者のアキレス腱から踵にかけての領域に対応する位置でアッパー上部の上端から下端に至る所定幅以上の編幅を有する部分をヒールカバー部、このヒールカバー部を除くアッパー上部の残部とアッパー底部とからなる部分をボディー部としたとき、少なくとも前後一対の針床を備え、各針床に形成される編目の目移しが可能な横編機を用いて、次のいずれかの手順に従って編成を行なうことを特徴とする。
[1]ヒールカバー部を編成した後、ヒールカバー部のウエール方向終端部に続いてボディー部のアッパー底部領域のウエール方向始端部を編成すると共に、ヒールカバー部の編幅方向端部に続いてボディー部のアッパー上部領域のウエール方向始端部を編成する。
[2]シューズアッパーの爪先側からボディー部を編成した後、ボディー部のアッパー底部領域のウエール方向終端部に続いてヒールカバー部を編成しながら、ヒールカバー部の編幅方向端部をボディー部のアッパー上部領域のウエール方向終端部に接合する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシューズアッパーは、本発明のシューズアッパーの製造方法により作製され、従来のシューズアッパーよりも生産性に優れる。それは、シューズアッパーを構成するアッパー上部とアッパー底部とを一体に編成することで、材料の無駄を殆どなくすことができ、しかも従来必要であったアッパー上部とアッパー底部との位置合わせを省略することができるからである。また、本発明のシューズアッパーでは、ヒールカバー部の編幅方向の端部とボディー部のウエール方向の端部(終端部の場合もあるし、始端部の場合もある)とが接続されることで、ヒールカバー部とボディー部とが立体的に繋がった状態となっており、そのためシューズアッパーが立体的に形成される。また、ボディー部の編目がシューズアッパーの長さ方向に、ヒールカバー部の編目がシューズアッパーの高さ方向に向いているため、シューズアッパーの見栄えが良い。
【0017】
本発明のシューズアッパーにおいて、ヒールカバー部の編幅を増す、ボディー部の踝近傍の部分をアッパー底部側に湾曲させる、ボディー部を左右非対称とするなどして、シューズアッパーを着用者の足の形状に沿った形状とすることで、シューズアッパーの履き心地を向上させることができる。
【0018】
本発明のシューズアッパーにおいて、ヒールカバー部およびヒールカバー部に隣接するボディー部の一部を補強用編糸で編成することで、その補強用編糸で編成された部分の強度を増すことができる。その結果、補強用編糸で編成された部分が、シューズアッパーを履いたときに足にシューズアッパーをフィットさせるヒールカウンタの役割を果たすので、シューズアッパーの履き心地を向上させることができる。
【0019】
本発明のシューズアッパーにおいて補強縁部を形成することで、履き口近傍におけるアッパー上部の縁部の輪郭形状を安定させ、履き口から足を挿入し易いシューズアッパーとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のシューズアッパーとその製造方法の実施形態を図に基づいて説明する。シューズアッパーの製造には、少なくとも前後一対の針床を備え、前後の針床間で編目の目移しが可能な2枚ベッド横編機を用いた。もちろん、使用する横編機は、2枚ベッド横編機に限定されるわけではなく、例えば4枚ベッド横編機であっても良い。
【0022】
<実施形態1>
図1に示す本実施形態のシューズアッパー1は、特殊な編成手順に従ってアッパー上部とアッパー底部とを無縫製で一体に編成することによって得られたものであり、全体が編組織によって形成されている。このシューズアッパー1が特殊な編成手順によって編成されたことは、シューズアッパー1が、編目の向きによって区別されるヒールカバー部2とボディー部3とに区分されていることから分かる。なお、シューズアッパー1を構成する編組織は特に限定されず、例えば天竺組織やメッシュ組織、リブ組織、あるいはこれらの混合組織などであっても構わない。
【0023】
シューズアッパー1のヒールカバー部2は、アッパー上部のうち、着用者のアキレス腱から踵にかけての領域に対応する位置でアッパー上部の上端から下端に至る部分である。ヒールカバー部2は、所定幅、例えば、3目以上の編幅を有しており、このヒールカバー部2を構成する編組織の編目の向きは、シューズアッパーの高さ方向(下向き)に向いている(上方の丸囲み拡大図を参照)。
【0024】
一方、シューズアッパー1のボディー部3は、アッパー上部のうち、ヒールカバー部2を除く部分と、アッパー底部とで構成される。このボディー部3と上述したヒールカバー部2との境界線である辺L1〜L3のうち、シューズアッパー1のアッパー底部領域(アッパー底部に相当する領域)に配置される辺L1の位置では、ヒールカバー部2のウエール方向の終端部に連続してボディー部3のウエール方向の始端部が接続されている。他方、辺L2,L3の位置では、ヒールカバー部2の編幅方向端部(側端)に連続して、ボディー部3のウエール方向の始端部が接続されている。そのため、ヒールカバー部2の編目の向きがシューズアッパー1の高さ方向に向いているのに対して、ボディー部3の編目の向きはシューズアッパー1の長さ方向(前向き)に向く(下方の丸囲み拡大図を参照)。このように、辺L2,L3の位置で、ヒールカバー部2の編幅方向の端部と、ボディー部3のウエール方向の端部とが接続されることで、ヒールカバー部2とボディー部3とが立体的に繋がった状態となる。
【0025】
上記ボディー部3の甲側部分(即ち、アッパー上部の甲側部分)には、補強縁部4から爪先に向かって延びるスリット50が形成されており、履き口40から足を挿入し易くなっている。また、ボディー部3におけるスリット50を挟む位置には靴紐を通す鳩目(eyelet)を取り付けるための鳩目孔(eyelet hole)60が形成されている。
【0026】
その他、本実施形態のシューズアッパー1には補強縁部4が設けられている。補強縁部4は、このシューズアッパー1の履き口40近傍の縁部、即ちアッパー上部の上端縁部に設けられた編組織であり、ボディー部3とヒールカバー部2とに無縫製で接続されている。補強縁部4は主に、履き口40近傍におけるアッパー上部の縁部の輪郭形状を安定させる機能を持ち、その結果、履き口40から足を挿入し易いシューズアッパー1とすることができる。この補強縁部4の編目の向きは、後述する編成工程を反映して、ヒールカバー部2の編目と同じ向きに向いている。
【0027】
上記シューズアッパー1は、熱可塑性樹脂などを含む編糸を用いて、シューズアッパー1の右側部分を横編機の一方の針床で、左側部分を他方の針床で編成することで作製することができる。
図2は、シューズアッパー1の右側部分の編成手順を模式的に示す編成イメージ図である。シューズアッパー1の左側部分は、
図2の紙面奥側に配置されていると考えて良く、紙面右側でシューズアッパー1の右側部分と左側部分は繋がっている。シューズアッパー1の左側部分は、右側部分と同様の編成により編成されるので、その説明は省略する。なお、言うまでもないが、足の形状は左右非対称であるため、足の形状に合わせてシューズアッパー1の右側部分と左側部分の編幅などを変えることが好ましい。
【0028】
図2では、下側から上側に向かって編成が進む。本実施形態におけるシューズアッパー1は、補強縁部領域α、踵領域β、本体後部領域γ、本体前部領域δ、および爪先領域εの五つの領域に分けて編成される。領域αは補強縁部4、領域βはヒールカバー部2、領域γ〜εはボディー部3に対応する。各領域α〜εは基本的に、C字状編成もしくは筒状編成によって編成される(両端にアローヘッドが付いた矢印はC字状編成、片側にのみアローヘッドが付いた矢印は筒状編成を示す)。ここで、
図2の長点線はアッパー上部とアッパー底部との境界を、短点線は減し目を行なった部分を、一点鎖線は上記領域α〜εの境界を表しており、
図2では編成の要所となる位置に小文字アルファベットa〜lを付している。なお、二点鎖線については後述する変形実施形態で説明する。
【0029】
[補強縁部領域αの編成]
図2に示す編成では、まず右側を折り返し位置とするC字状編成を行なって、補強縁部4を編成する。つまり、紙面左側の位置では前後に係止される補強縁部4は繋がっておらず、この繋がっていない部分からスリット50(
図1参照)が形成される。
【0030】
[踵領域βの編成]
次いで、補強縁部4の一部の編目のウエール方向に続いて複数段の編目列を編成する。この複数段の編目列によってヒールカバー部2が構成される。複数段の編目列を編成する際は、ヒールカバー部2の編目列を1〜3段分編成することと、編成した編目列を補強縁部4から離れる側(右側)に目移しすること、とを繰り返す。目移しを行なった編目列のウエール方向に連続して新たな編目列を編成する際は、新たな編目列の編幅方向端部において掛け目を形成する。つまり、図中、c−eのラインには掛け目が並ぶことになる。このような編成を繰り返してヒールカバー部2を完成させると、針床の編針には、a−cの編目、c−eの掛け目、およびe−fの編目が係止された状態となる。上記a−cの編目は補強縁部4のウエール方向終端部の編目、c−eの掛け目はヒールカバー部2の編幅方向端部の掛け目(
図1の辺L2に相当)、e−fの編目はヒールカバー部2のウエール方向終端部の編目(
図1の辺L1の右側部分に相当)である。
【0031】
ここで、ヒールカバー部2の編成は、補強用編糸を用いて行なうことが好ましい。例えば、高張力の編糸と熱可塑性樹脂の編糸とを撚り合わせた補強用編糸でヒールカバー部2を編成することが挙げられる。その場合、シューズアッパー1を完成させた後、シューズアッパー1を熱処理することで、ヒールカバー部2を板状に保形された状態にすることができる。板状に保形されたヒールカバー部2は、一般的なシューズに備わるヒールカウンタの役割を果たす。
【0032】
その他、ヒールカバー部2は、アッパー上部の上端から下端に向かうに従って編幅が広くなるように編成しても良い。即ち、c−bの幅よりもe−fの幅が広くなるように、割増やしなどで編幅を増やしながらヒールカバー部2を編成する。そうすることで、
図1に示すヒールカバー部2のアッパー底部側部分がシューズアッパー1の後方に膨出し、より着用者のアキレス腱から踵に至る形状に沿ったシューズアッパー1とすることができる。この構成は特に、ヒールカバー部2の強度を補強用編糸によって増す場合に有効である。強度を増したヒールカバー部2は伸縮性に乏しいため、上端から下端にかけて編幅が同じヒールカバー部2の場合、
図1に示すシューズアッパー1の履き口40のサイズを足首のサイズに合わせると踵が窮屈なシューズアッパー1になるし、アッパー底部のサイズを踵のサイズに合わせると、足首に対して履き口40が大きくなりすぎる。これに対して、上端から下端にかけて編幅を増したヒールカバー部2であれば、上記のような問題は生じない。
【0033】
[本体後部領域γの編成]
次いで、c−eの掛け目(辺L2)、およびe−fの編目(辺L1)のウエール方向に続いてボディー部3となる編目列を編成することと、編成した編目列を補強縁部4の側(左側)に目移しして、c−dの編目に重ね合わせることと、を繰り返す。この編成により、
図1に示すように、ヒールカバー部2の辺L1,L2,L3に続いてボディー部3が編成されると共に、ボディー部3の本体後部領域γのg−hが補強縁部4のc−dに接合される。このとき、辺L1では、ヒールカバー部2のウエール方向終端部に連続してボディー部3のアッパー底部領域のウエール方向始端部が形成され、辺L2,L3では、ヒールカバー部2の編幅方向端部に形成される掛け目に続いてボディー部2のアッパー上部領域のウエール方向始端部が形成される。つまり、辺L2,L3ではヒールカバー部2の編成方向とボディー部3の編成方向がほぼ直交し、ヒールカバー部2とボディー部3とが立体的に繋がった状態になる。
【0034】
ここで、本実施形態では、ボディー部3の本体後部領域γを構成する編目列の段数を増す際、編目列の編幅を減らした後、編目列の編幅を増やしている。そうすることで、
図1に示すように、補強縁部4のうち、着用者の踝に対応する部分が、踝を避けるようにアッパー底部側に湾曲する(
図2のg−hも合わせて参照)。また、その湾曲形状は、履き口側の位置(
図2のg−hの位置)でボディー部3の編幅方向の目数を増減することで形成されている。そのため、ボディー部3を構成する編目がヒールカバー部2から爪先部分に向かって真っ直ぐに揃う。仮に、ボディー部の編幅内で編目を増減すると、編目の方向が不揃いになってシューズアッパー1の見栄えを損なう恐れがある。
【0035】
なお、本体後部領域γにおける編目の増減は、シューズアッパー1の右側部分と左側部分とで異ならせることが好ましい(後述する本体前部領域δ、爪先領域εも同様)。例えば、シューズアッパー1における親指側の部分の高さを、小指側の部分よりも高くするなど、足の立体的な形状を考慮して上記右側部分と左側部分の形を変える。その際、ボディー部3のアッパー上部領域の甲側部分およびアッパー底部領域で編目の増減を行なうことが好ましい。シューズアッパー1の側面における編目の向きを揃えることができ、シューズアッパー1の見栄えを良好にすることができるからである。
【0036】
[本体前部領域δ]
次に、a−d(h)−iの編目のウエール方向に続いてボディー部3の本体前部領域δとなる編目列を複数段、編成する。その際、爪先領域εに向かうに従い、編目列の編幅を短点線の位置で減らすことで、本体前部領域δを足の形状に沿った先細りの形状にすることができる。
【0037】
また、本実施形態では、本体前部領域δの編成の際、スリット50(
図1参照)の近傍の位置に鳩目孔60を形成する。鳩目孔60は、公知のメッシュ編成やミス編成などにより形成することができる。
【0038】
[爪先領域εの編成]
爪先領域εの編成にあたっては、まずスリット50(
図1参照)の切り込み端51となる部分をC字状編成で編出す。次いで、本体前部領域δのウエール方向終端の編目列と、切り込み端51となる部分の編目列のウエール方向に連続して筒状編成を行ない、爪先領域εを編成する。その際、短点線(
図1の短点線も合わせて参照)で示すアッパー上部領域の甲側の位置とアッパー底部領域の位置で減し目を行なって編幅を小さくしていき、最後に先端を閉じ合わせる。そうすることで、
図1に示すように、シューズアッパー1の先端を、足の形状に沿った先細りの形状にすることができる。ここで、減し目を行なう位置を地面に平行なラインに揃えることで、先端領域εにおける編目の向きを綺麗に揃えることができ、シューズアッパー1の見栄えを向上させることができる。
【0039】
上記シューズアッパー1の編成が終了したら、アッパー上部のスリット50の内側に図示しないタン(tongue)を取り付けると共に、アッパー底部に図示しないアウターソールを接合する。また、鳩目孔60に図示しない鳩目を取り付け、鳩目に靴紐を通してシューズを完成させる。なお、タンは、横編機によってシューズアッパー1に一体に形成することもできる。その場合、切り込み端51の近傍を編成する際に編出し部を編成しておき、その編出し部に続いてタンを編成すれば良い。また、室内で使用するシューズを作製するのであれば、シューズアッパー1にアウターソールを取り付けなくても構わない。その場合、アッパー底部を厚めの編組織とすれば良い。
【0040】
以上説明したように、本実施形態のシューズアッパー1は、アッパー上部とアッパー底部とを無縫製で一体に編成することで得られるため、生産性に優れる。また、上記シューズアッパー1にアウターソールを接続する際、編地でできたシューズアッパー1は既に立体な形状に保持されているため、シューズアッパー1のアッパー底部と、アウターソールと、の位置合わせが容易であるし、シューズアッパー1が形崩れし難いため、取り付け作業自体も容易である。さらに、シューズアッパー1のヒールカバー部2の編目がシューズアッパー1の高さ方向に、ボディー部3の編目がシューズアッパー1の長さ方向に向いているため、シューズアッパー1の見栄えが良い。特に、ボディー部3における編目の向きを揃えることで、シューズアッパー1の見栄えをより向上させることができる。
【0041】
<実施形態2>
実施形態1では、補強縁部4から編成を開始し、ヒールカバー部2を編成した後、そのヒールカバー部3に続いてボディー部3を本体後部領域γから爪先領域εに向かって編成した。これに対して、爪先領域εから本体後部領域γに向かってボディー部3を編成した後、そのボディー部3に続いてヒールカバー部2を編成し、最後に補強縁部4を編成しても良い。その場合、
図2をおおよそ上下逆にしたような手順でシューズアッパー1を編成すれば良い。具体的には、以下の通りである。
【0042】
まず、針床上に編出し部を形成し、その編出し部に続いて爪先領域εを編成する。次いで、爪先領域εのウエール方向終端部のうち、切り込み端51となる部分を伏せ目処理して、それ以外の部分に続く本体前部領域δを編成する。そして、本体前部領域δのh−jに続く本体後部領域γの編目列を編成することと、編成した編目列を紙面右側に寄せることを繰り返し、ボディー部3を完成させる。ここで、本体後部領域γの編成において、紙面右側に寄せた編目列に続いて新たな編目列を編成する際、編目列の編幅方向端部に掛け目を形成する。そうすることで、h−gのラインに掛け目が並んだ状態となり、本体後部領域γの編幅方向端部に続いて編目列を形成することができる。また、本体後部領域γの編成において編幅を適宜増減させることで、h−gのラインを湾曲させることができる。この湾曲ラインは、実施形態1と同様に、ボディー部3が着用者の踝に干渉しないようにするために形成するものである。
【0043】
本体後部領域γを編み終えた時点で針床には、j−hの編目(本体前部領域δのウエール方向終端部の編目)、h−gの掛け目(本体後部領域γの編幅方向端部の掛け目)、g−e−fの編目(本体後部領域γのウエール方向終端部の編目)が係止される。これらの編目のうち、g−eの編目は辺L2に相当し、e−fの編目は辺L1の右側部分に相当する。そこで、辺L1のウエール方向に続いてヒールカバー部2を編成しつつ、そのヒールカバー部2の編幅方向端部の編目をe−gのボディー部3の編目に接合していく。つまり、辺L1の位置でボディー部3のアッパー底部領域のウエール方向終端部と、ヒールカバー部2のウエール方向始端部と、が繋がり、辺L2,L3の位置でボディー部3のアッパー上部領域のウエール方向終端部と、ヒールカバー部2の編幅方向端部(側端)と、が繋がる。その結果、ヒールカバー部2とボディー部3とが立体的に繋がった状態になる。
【0044】
ヒールカバー部2の編成が終了したら、一方の針床にはj−h−c(g)−bの編目が係止された状態になるので、それらの編目のウエール方向に続いて補強縁部4を編成する。その結果、実施形態1と同様に、ヒールカバー部2と補強縁部4の編目の向きはシューズアッパー1の高さ方向(上向き)に向き、ボディー部3の編目の向きはシューズアッパー1の長さ方向(後向き)に向いた立体的なシューズアッパー1を無縫製で編成することができる。
【0045】
<変形実施形態>
実施形態1,2のシューズアッパー1において、補強用編糸で編成されたヒールカウンタをボディー部3の一部(例えば、
図1の二点鎖線の部分)にまで延長しても良い。その場合、
図2に示す本体後部領域γの編成の際、ボディー部3のアッパー底部領域のうち、e−k−l−fで囲まれる四角形の部分と、ボディー部3のアッパー上部領域のうち、e−k−gで囲まれる三角形の部分に補強用編糸が編み込まれるようにインターシャ編成を行なう。そうすることで、次の3つの部分がヒールカウンタとなる。
(1)ヒールカバー部2。
(2)ボディー部3のアッパー底部領域のうち、ヒールカバー部2に繋がる部分であって、ヒールカバー部2から所定長さの部分。
(3)ボディー部3のアッパー上部領域のうち、ヒールカバー部2に繋がる部分であって、上端側から下端側に向かって広くなった略三角形の部分。
【0046】
上記形状のヒールカウンタは、スポーツシューズなどに形成されるヒールカウンタと同様の形状を有しており、このような形状のヒールカウンタをシューズアッパーに形成することで、シューズの履き心地を向上させることができる。
【0047】
また、実施形態では、靴紐を有するシューレースタイプのシューズアッパーを説明したが、靴紐のないステップインタイプのシューズアッパーとすることもできる。その場合、補強縁部4を筒状に形成し、ボディー部3を編成する際、補強縁部4からつま先に延びるスリット50を形成しなければ良い。
【0048】
その他、シューズアッパー1の編成の際、補強縁部4を編成しなくても良い。その場合、補強縁部4のないシューズアッパー1の完成後に、履き口40の縁部に樹脂などからなる補強材を取り付けたり、シューズアッパー1とは別に編成した補強縁部4を接合することが好ましい。