【実施例】
【0049】
[実施例1]
さて、発明の方法が実例システムに適用された実施態様を説明する。該システムはカオス的挙動を示す周知の動的物理システムであるレスラーシステムで、下記のレート方程式で定義される:
【0050】
変数zに対する3つ目のレート方程式を考慮すると、変数zの増分は項zx及びβ/αにより得られるので、(定数項β/αは変更できないため)項zxが制御項とみなされる。増加率に対する制御項における各変数の比率は、商:
によって得られ、ここでu
x及びu
zは定数である。
【0051】
次に、これらの商は以下の通り、変数zに対するレート制御関数σを導出するために用いられる:
ここで、f及びξは前述の通りのスカラーである。(スカラーfはシステムに適用される制御の全体水準を定めるために用いられ、スカラーξはシステムを異なる周期に安定させるために用いられる。)
【0052】
次に、レート制御関数は、下記の修正された制御項:
を得るためにレート方程式の制御項に適用され、それは以下の通りレート方程式に代入することができる:
【0053】
これにより安定したシステムが得られ、上記の通り、制御項と共にレート制御関数はシステムを安定させるための、z及びxで表される量の変更目標を規定する。
【0054】
[実施例2]
さて、発明の方法がバイオリアクターに適用された実施態様を説明する;即ち、生化学反応によって所望の生成物を製造する生化学プロセスである。バイオリアクター及びその一般モデルはMichael A. Henson.Exploiting cellular biology to manufacture high−value products. IEEE Control Systems Magazine, 54−62ページ,2006年8月に記載されている。
【0055】
具体的には、バイオエタノール発酵槽に適用した発明の方法をここに説明する。バイオエタノール発酵槽は、農業廃棄物(砂糖、果物、穀物、ジャガイモなど)等のバイオマスを発酵させることでエタノールを生成するシステムである。バイオマスはザイモモナス モビリス等の微生物を用いて発酵される。バイオエタノール発酵槽については、I. M. Jöbses, G. T. Egberts, K. C. Luyben,及びJ. A. Roels, “Fermentation kinetics of Zymomonas mobilis at high ethanol concentrations: Oscillations in continuous cultures”, Biotechnology and Bioengineering, 28(6):868 - 877, 1986に記載されている。そこには、バイオエタノール発酵槽のモデルも記載されている。同様に、バイオエタノール発酵槽及びそのモデルについては、M. E. E. Abashar 及び S. S.E. H. Elnashaie, “Dynamic and chaotic behavior of periodically forced fermentors for bioethanol production. Chemical Engineering Science”, 65(16):4894 - 4905, 2010年8月15日に記載されている。しかし、この場合はバイオエタノール発酵槽のモデルは正弦波の強制項を含み、これは下記の通り、システム量のうちの一つへの周期的調整を示す。
【0056】
強制項を有するシステムのモデルは、システムの活性成分濃度C
e、生成物濃度C
p、基質濃度C
s、及びバイオマス濃度C
xに対し、下記レート方程式によって得られる:
μはシステムにおける特定の増加率であり、方程式:
によって得られ、ここで、μ
max及びK
sは定数である。C
sfは強制項であり、周期的供給濃度は方程式:
によって得、ここでC
s0、A及びωは定数であり、tは時間である。Aは適用されたフォーシングの量(the amount of forcing)を、ωはフォーシングの頻度(the frequency of the forcing)を定義する。(非強制システムのモデルは、単純にAをゼロに設定することで獲得できる。)方程式における他の値は定数である。
【0057】
システムのカオス的挙動の例を、バイオマス濃度、生成物濃度、基質濃度及び活性成分濃度それぞれにおける経時的変化を示すグラフである
図3a〜3d、及び生成物濃度に対する基質濃度のグラフである
図4に示す。
【0058】
基質濃度C
sに対するレート方程式を考慮すると、この方程式に対する制御項は項D(C
sf−C
s)である。レート方程式の増加率に対する変数C
sの比率は、商:
によって得られる。この方程式からレート制御関数σ(C
s)が導出される:
以下の通り、安定した制御項を有する修正されたレート方程式を得るために、これを制御項に適用される:
そうするとこれは、システムを安定させるために、制御項を構成する変数で表される量をどのように調整することができるかを示す。言い換えると、この特定の場合において、レート制御関数は、システムを安定させておくためにシステムの基質濃度C
sをどのように調整するかを規定する。
【0059】
代わりに、生成物濃度C
pに対するレート方程式を考慮すると、この方程式に対する制御項は項−DC
pであるとみなされる。これはこの場合、生成物C
pの生成は生成物自体の存在によって阻害されることがうかがえ、生成と同時に生成物を取り除くことによってシステムを制御することが望まれるからである。次に、寄与するレート方程式を考慮すると、レート方程式の増加に寄与する変数は変数C
x及びC
eであり、それらのレート方程式の増加率に対する比率は方程式:
によって得られる。これらの方程式からレート制御関数σ(C
p)が導出される:
以下の通り、安定した制御項を有する修正されたレート方程式を得るために、これが制御項に適用される:
【0060】
この実施態様において、システムを制御するために両C
s及びC
pの制御が示されているが、実際には一方のみの制御が要求される。しかし、システムの制御は、所望の場合、両変数を制御する(もちろん、実際にはそれらの基礎的な量を制御する)ことによって達成され得る。
【0061】
制御方法を適用することによる影響を、バイオマス濃度、生成物濃度及び基質濃度それぞれにおける経時的変化を示すグラフである
図5a〜5cに示す。ここで、制御方法は時間1000に適用されている。同様に、
図6は、時間1000から適用されている、経時的な制御関数を示すグラフである。
図7は生成物濃度に対する基質濃度のグラフであり、制御方法を適用することにおける影響を示している。最後に、
図8はシステムがいくつかのパラメータ変化を受けるにつれての、生成物に関する方法の結果を示すグラフである;強制パラメータAは1000時間毎に増大される。見てわかるように、これによりシステムはいくつかの振動を経ることになるが、それでも該方法は強制項とは無関係にシステムを安定した振動に安定させる。(点線は、各強制パラメータ変化において、エタノールの生成量を平均抽出濃度として示し、とりわけグラフの右側からわかるように、その生成量はより高度に制御されたカオス的パラメータによって増大させることができる。)
【0062】
[実施例3]
さて、発明の方法が風力タービン発電機に適用された実施態様を説明する。風力タービンは、ロータ軸の周りに配置された多くの翼板を含み、それは風上の運動エネルギーを回転運動に変換する。ロータ軸は発電機に機械的に接続され、それは回転運動を電気に変換する。多種の風力タービン設計があり、各々独自の特徴を有する。下記実施態様において、風力タービンは可変速度の水平軸風力タービン(HAWT)である。しかし、本発明は風力タービンの他の設計にも同じように適用できる。
【0063】
典型的な風力タービン制御方法は、主としてタービン構造の最上部又はその近くに位置する風速計によって測定される風速に依存する。タービン制御は典型的には3つの領域に分けられ、主として一般的な風速に左右されるが、発電機軸の回転数並びに機器の機械及び電気限界にも左右される。これらの制御領域は以下の通りに規定される:
【0064】
領域1:領域1において、発電機はロータ軸から切り離されている(即ち、ロータ軸の回転は発電機に伝達されない)。タービンを起動するのに風速が遅すぎると判断される場合、静止している間翼板にかかるストレスを低減するため、最小空力トルクを発生するよう翼板が調節される。風速が(タービンの種類に基づく)予め決めた値を越すと、翼板は最大空力トルクを提供する角度に調節され、その結果、風はタービンを回転させる働きをする。一旦発電機軸が(この場合も同様に、タービンの種類に基づく)予め決めた角速度に到達すると、発電機制御トルクが使用可能となりロータ軸を発電機に連結する。この段階で領域2の電力発生に入る。
【0065】
領域2:領域2における風速は、発電機の定格電力を発生させるため要求されるそれに満たず、発電機制御トルクは、現在のロータ角速度及び風速の最適な電力回収を追跡する試みで調整される。
【0066】
領域3:領域3における風速は、少なくとも風力タービンが定格電力出力を発生するのに十分である。発電機制御トルクは定格トルクとされる。さて、制御システムは翼板に働く空力トルクを制御するため、ロータ翼のピッチを変更することによってタービンを定格電力に維持することに関与しており、それにより風から得られる電力量を制御する。翼ピッチを変更し、この領域に定格電力を維持するために用いられる標準的な、非独占的な制御の方法は比例積分微分(PID)制御である。これはBossanyi, E. 1987, Adaptive Pitch Control for a 250 kW Wind Turbine, Proceedings of the British Wind Energy Conference, 85〜92ページ;並びにBoukhezzar, B.及びSiguerdidjane, H. Nonlinear Control of a Variable−Speed Wind Turbine Using a Two−Mass Model, IEEE Transactions on energy conversion, vol26, No.1. 2011に記載されている。
【0067】
上記の領域から領域への進行は、風速における比較的円滑かつ安定した変化を想定する。しかし、制御機構の観点からしてとりわけ厳しい状況は、突風状態である。強く変わりやすい突風の間、風力タービン制御機構はロータ組立体の角速度を定格値より低く維持し、機械的ストレスを最小限にできなければならない。そのような条件下、かつ本発明により提供されているような適切な制御機構がなければ、電力発生は中断されなければならない。
【0068】
風力タービンの制御を含め、多くの産業において、比例積分微分(PID)制御装置を制御の方法として用いることは既知である。しかし、PID制御は事実上線形であるのに対して、風速は本質的にカオス的であるため風力タービンは非線形動的システムである。PID制御のパフォーマンスの欠点は、ニューラルネットワークやファジー制御等のフィードバック法を用いることで軽減できるが、これらはチューニングプロセスを複雑にし、高い精度及びサンプリングレートを要求し得る。さらに、閾値を超えないことを保証するためにPID制御は異なる動作条件に調整されなければならず、PID制御が動作条件の全領域を通して機能できないこと自体が、非常な突風状態における風力タービンの停止を要求する理由となり得る。
【0069】
風力タービンのモデルは、Eisenhut, C., Krug, F., Schram, C.及びKlockl, B. 2007, Wind−Turbine Model for System Simulations Near Cut−In Wind Speed, IEEE Transactions on energy conversion, vol. 22, No. 2;並びにSoltani, M., Wisniewski, R., Brath, .P 及びBoyd, S, Load Reduction of Wind Turbines Using Receding Horizon Control, Proceedings IEEE Multi‐Conference on Systems and Control, Denver, 2011年9月から抜粋された下記の方程式によって得られる:
ここで:
であり、ここでMuhando, E.B., Senjyu, T., Urasaki, N., Yona, A., Funabashi, T, Robust Predictive Control of Variable−Speed Wind Turbine Generator by Self−Tuning Regulator 2007 IEEEより、C
pはλ及びβの非線形関数:
に:
で近似され、c
1=0.5176、c
2=116、c
3=0.4、c
4=5、c
5=21及びc
6=0.0068である。
【0070】
下記の用語は上の方程式及び以下に用いられている:
【0071】
【表1】
【0072】
疾風状態の間風力タービンを制御するため、風から得られる電力量をタービンの定格限界内に保持するために空力トルクT
rが調整される。レート方程式
を考慮すると、この方程式の制御項は単純にT
rである。これより、下記のレート方程式が導出され:
ここで:
であり、これを既存モデルに適用すると:
が得られる。
【0073】
実際には、空力トルクへのこの制御関数の適用は、どのように翼ピッチβが調整されるべきかを決定するのに用いられる。
【0074】
制御方法を適用することによる影響を、
図9〜14を参照しながら示す。図
9は、2日間にわたる模擬風速データを示す。シミュレーションに対し、制御関数の定数は以下の通り選択された:f=0.74,μ
Tr=1.6e
6及びξ=−4.6。見てわかるように、2日目の風速には非常にばらつきがあった。この例に対し、タービンが超えてはならない電力として〜400KWが選択され、その上、定格発電機の回転数は2350rpmであり、したがって、定格発電機トルクは1619Nmである。この定格電力が発生する風速はおよそ10.31ms
−1である。
【0075】
図10〜13は、タービンの発電機の角速度、ロータトルク、剪断応力及び電力出力を示す。制御関数が使用されていないものは変動する点線で示され、制御関数が使用されているものは変動する実線で示されている。(実際には、タービンが点線で示すように作動した場合、突発故障を被り、フェールセーフ施策が全体として翼板のいかなる動作をも防ぐよう働き、図に示されている平らな破線が得られる。)
図14は制御関数の挙動を示す。見てわかるように、制御関数が用いられていない間である(ので、値1を維持する)1日目中、システムは同じ挙動を示す。2日目、ここで疾風状態は制御関数の使用を意味するが、制御関数がタービンを安全限界内で作動させ続けるよう働く一方、とりわけ
図13に示されているように、タービンが相当量の電力を発生させることを可能にしていることがわかる。シミュレーションにおいて、タービンは2日目に〜4.88MWh発生させることができた。一方、制御関数なしでは、タービンは2日目では実質的に使用不可能となり、電力は発生されない。
【0076】
関連する実施態様において、制御関数は、風力タービンシステムが協働する2つの別個のシステムの組み合わせであると考慮して導出される。第1のシステムはタービンロータ組立体であり、強風及び/又は疾風の場合は制限されなければならない。第2のシステムは発電機システムであり、その定格電力限界内で作動するよう制御されなければならない。
【0077】
以下の制御関数が導出され:
ここで:
である。
【0078】
これらは、トルクT
g及び発電機の角速度ω
gが、発電機の角速度ω
gから導出される制御関数によって制御されるよう、以下の通り風力タービンのモデルに適用される:
そして、翼ピッチは、翼ピッチβが風速V及びタービン発電機Pの電力出力に基づく制御関数の組み合わせによって制御されるよう、以下の通り制御される:
ここで、
である。
【0079】
用いられてもよい他の制御は、以下の通りである:
ここで:
である。
【0080】
上記の制御関数を組み込んだモデルのシミュレーションは、とりわけPID制御を組み込んだモデルとは対照的に、より制御された電力出力を提供したので、なお電力スパイクが発電機の定格出力を超えないことを保証しつつ、より高い平均電力出力で作動することができた。さらに、タービンのドライブトレインは、より低いストレスの平均基準及びより低い最大ストレスピーク量を有していた。
【0081】
[実施例4]
さて、発明の方法が暖房、換気、および空調(HVAC)システムに適用された実施態様を説明する。HVACシステムは、会社、自動車、工場、研究室、冷却装置及び生命維持/防護服等の多数の異なる状況での作動がみられることがある。
【0082】
研究室用HVACシステムの概略図を
図15に示す。図は研究室100及び周辺領域101を示し、熱は矢印109で示されているように双方を伝導する。研究室100はヒュームフード102を含む。アクチュエータ109がヒュームフードからヒューム排気管105に空気を吸い込み、それにより研究室100からヒュームフード102に空気が吸い込まれる。さらなるアクチュエータ108は、研究室100から一般排気管104に空気を吸い込む。最後に、そのプロセスにおいて加熱コイル106によって熱せられる給気103がアクチュエータ107より研究室100に吹込まれる。
【0083】
Osman, A., Mitchell, J.W. & Klein, S.A, Development of a Simulator for Laboratory HVAC System (http://www.inive.org/members_area/medias/pdf/Inive/clima2000/1997/P274.pdf)から導出された、研究室用HVACシステムのモデルは以下の通りであり:
ここで用いられている用語は以下の通りである:
【0084】
【表2】
【0085】
研究室空間によっては、研究室内の空気圧Pは、周辺領域の空気圧P
adよりも低い値に維持されることがある。これは、研究室からいくらかの有害物質が流れ出るのを防ぐのに役立つ。あるいは、無菌室等の空間においては、周辺領域から研究室に汚染物質が入らないことを保証することが望ましいので、この関係は逆転する。
【0086】
そのようなHVACシステムの制御システムは、典型的には、中でも温度、圧力差(P
ad−P)、空気の容積流速、一般排気等の特定の変数を安全性及び/又は快適性に対応する明確な範囲内に維持するのに関与する。
【0087】
第1の方程式を考慮すると、制御項は
(排気の容積流速)で、得られる制御関数は:
であり、ここで:
である。
【0088】
代わりに第2の方程式を考慮すると、制御項は
(調整給気の容積流速)で、得られる制御関数は:
であり、ここで:
である。
【0089】
そうすると、どのように排気及び/又は調整給気が制御されるべきかを決定するために、制御関数をそれぞれ第1及び第2の方程式における制御項に適用することができる。
【0090】
[実施例5]
さて、発明の方法がレーザのカオス的挙動を制御するために適用された実施態様を説明する。半導体レーザは、たとえば光通信ネットワーク、DVDプレイヤー及びその他多くのアプリケーション等の多くのアプリケーションに用いられている。レーザの動的挙動は、特にフィードバックや遅延結合等の外部摂動の影響下では、極めて複雑となることがある。
【0091】
半導体レーザシステムの第1タイプは、非線形レーザリングキャビティである。これは、K. Ikeda,Multiple−valued stationary state and its instability of the transmitted light by a ring cavity system, Optics Communications, 30(2):257-261, 1979に記載されている池田写像を用いてモデル化できる。複素方程式:
の実数部及び虚数部をx=Re(z)及びy=Im(z)でプロットすることにより、典型的にはa=1、b=0.9、κ=0.4及びη=6.0である場合に、池田写像は以下の通り記述することができる:
【0092】
方程式x
n+1及びy
n+1を考慮すると、制御項はキャビティ内の放散量を表すφであり、制御関数:
が得られ、ここで:
であり:
が得られる。
【0093】
μ=5及びξ=1を採用すると、
図16は白丸で示されている5周期軌道と星印で示されている15周期軌道の2つの異なる安定した軌道を上に有する、制御されていない池田写像を示す。システムが安定する軌道は、制御可能な際、軌道に対するシステムの近接に依存する。制御のオフ及びオンを繰り返すことにより、異なる軌道がみられることがある。これを証明するために、
図17は、1000時間ステップ後に制御を有効にし、さらに1500時間ステップ後に再びオフにするシミュレーションを示す。その後、このパターンは2500時間ステップの周期で4回繰り返される。
図17から、その後システムは周期15の軌道、次いで周期5の軌道、再び周期15の軌道、周期5の軌道に安定することがわかる。
【0094】
半導体レーザシステムの第2タイプは、遅延光フィードバックで作動しているレーザである。このタイプのシステムのモデルであるLang−Kobayashiモデルは、T. Sano, Antimode dynamics and chaotic itinerancy in the coherence collapse of semiconductor lasers with optical feedback, Physical Review A, 50(3):2719-2726, 1994に記載されており、以下の通りである:
ここでPは光子数、φは光位相のゆっくりと変化する部分、そしてソリタリーレーザ(solitary laser)の閾値N
thからのキャリア数の偏差ΔN=N-N
thである。ωは光角周波数で、ゼロであると想定される。κ=1000は光子数の減衰定数であり、ΔJは閾値からのポンピング電流偏差である。フィードバック強度γは:
によって得られ、ここでRは外部ミラーの電力反射率、rはレーザ面の電力反射率、τ
cはキャビティのラウンドトリップタイム、そしてηは結合比である。他のパラメータ値はα=6、β=10
−5、η=1、N
th=10
3である。
【0095】
P又はφにおける変化に対して方程式を考慮すると、制御項はγとみなされる。また、これは物理的実装において制御できるため現実的な選択である。制御項はσで:
によって得られ、ここでf=6及びξ=−1であり、新たな項:
が得られる。
【0096】
図18は、位相差に対するシステムのキャリア数の位相空間表現を示し、制御されていないシステムが下に、制御されたシステムがその上に黒で示されている。
図19は、同様に経時的なキャリア数の変化を示し、ここで時間=200auで制御が有効となっている。両者において、制御関数が実質的にシステムの挙動を安定させることがわかる。さらに、
図20は、経時的なシステムの挙動の挙動を示し、ここで500時間ステップ毎に(−10〜+1まで)ポンピング電流ΔJが増加される。システムは短い過渡電流を経るが、毎回すぐに安定することがわかる。水平線(例、500〜1000)はシステムが制御された安定状態にあることを意味する。太い黒バーはシステムが、制御された安定しているが高い周波数で振動していることを意味する。本発明の制御方法は、分岐を起こすかもしれないパラメータ変化とは無関係にカオス的システムの制御に効果的なので、異なる量のポンピング電流ΔJでレーザの安定性を維持するために用いることができる。
【0097】
半導体レーザシステムの第3タイプは、フィードバックループを有する物理的電気光学装置である。このタイプのシステムのモデルであるBlakelyモデルは、JN Blakely,L Illing,及びDaniel J Gauthier, High−speed chaos in an optical feedback system with flexible timescales,Quantum Electronics, IEEE, 40(3):299-305, 2004;並びにY. G. Zheng及びZ. H. Wang. Stability and Hopf bifurcations of an optoelectronic time-delay feedback system, Nonlinear Dynamics, 57(1−2):125-134, 2008年9月に記載されている。その主要な特色は、帯域通過特性を得るために付加的なローパス及びハイパスフィルタを有する遅延フィードバックである。Blakelyモデルは方程式:
によって記載され、ここでv(t)はローパスフィルタの出力での電圧、p(t)はハイパスフィルタの出力での電圧に関係するレーザ出力、V
det(t)は(非線形)フォトダイオードの電圧出力、p
0=26は出射パワー、T
0=19.1はフィードバックループにおける時限遅延、τ
l=0.66はローパスフィルタ時定数、τ
h=22はハイパスフィルタ時定数、γ=0.0053はフィードバック強度によるシステム増幅、k=4.8は電力変換力に対する電圧、α=1.89は干渉計の感度を決定し、β=0.8は縞可視度である。
【0098】
pの時間における変化に対して方程式を考慮すると、この方程式の制御項は、ローパスフィルタの出力での電圧v(t)とみなされる。フィードバック強度は容易に変更できないため、これもまた、物理的実装において現実的である。その結果、制御関数及び修正されたレート方程式は:
であり、ここで、f=20及びξ=−1である。
【0099】
図21及び22は、出力電力及び電圧の経時的な変化を、制御されていないシステムは灰色で、制御されているシステムは黒で示す。時間=200auで制御が実行されている。システムは、システムの安定性を維持するために必要とする出力電力を大いに低減するステイブル4−オービット(stable 4-orbit)に即座に制御され、それにより必要とする出力電力の低減がおおよそ56%となり、より効率的で経済的となる。
【0100】
[実施例6]
さて、発明の方法が内燃機関に適用された実施態様を説明する。内燃機関は、複数のシリンダによって駆動されるクランク軸を含む。
図23に代表的なシリンダを示す。シリンダ200は、中に移動可能なピストン202があるシリンダキャビティ201を含む。ピストン202はピストンロッド203を駆動し、それは順にクランク軸204を回転させる。シリンダ200は、それを通してシリンダキャビティ201内に燃料噴射装置が燃料(たとえば、オクタン)を噴射する燃料吸入口205、及びそれを通してシリンダキャビティ201内に空気を取り入れる空気取入口206を有する。当業者にはよくわかるように、シリンダ200は吸入行程、圧縮行程、燃焼行程及び排気行程からなる「4ストローク」運転である。
【0101】
従来のエンジンにおいて、噴射する燃料の量等のさまざまなパラメータは、パラメータに対して予め決めた理想値を提供するために流速、トルク、温度、加速度等といったエンジンの特性を用いる、ルックアップテーブルによって制御される。理想値は、典型的には製品開発段階で、そのパフォーマンスの範囲を通してエンジンを試験することによって決定される。しかし、これはある程度のパフォーマンスを保証することを可能にするが、エンジンが有することのできるかもしれない最適なパフォーマンスを可能にしない。下記の通り、本発明の実施態様の内燃機関において、エンジンのさまざまなパラメータはエンジンの特性に基づく制御関数を用いて制御される。
【0102】
エンジンの運転は以下の通りモデル化される。クランク軸角度Aに関するシリンダヘッドの高さhは:
によって記述され、ここでrはクランク軸204の半径、lはアーム203の長さである。燃料及び他の構成要素の質量流量方程式は以下の通りである:
ここで、熱損失(燃焼プロセス中は熱損失ゼロ)及び理想的なガス挙動に関する典型的なモデル仮定が行われた。他の燃焼化学種の解離は具体的にモデル化されておらず、むしろ過剰燃料は完全に又は部分的に燃焼されないと想定され、燃焼生成物においてオクタンとして表される。
【0103】
次に、クランク力学は:
によって記述され、さらに、シリンダキャビティ内の圧力の結果としてピストンヘッドに働く力に起因するクランクへのトルクτ
cは:
によって記述され、ここでAはクランク角で範囲[0,4π)ラジアンであり、Fはガス混合気によってピストンヘッドに加えられる力、F
1はピストンロッドを下に伝達する力、F
cはクランク軸とピストンロッドの接点でクランク軸に加えられる接線力、そしてτ
cはピストンによってクランク軸に加えられるトルクである。
【0104】
燃焼は、Flagan, Richard C. & Seinfeld, John H. Fundamentals of air pollution engineering. Prentice-Hall, Inc., Englewood Cliffs, New Jersey (1988)に記載されているオクタン燃焼式を用いてモデル化される。化学量論的状態(燃料を全て燃焼するのに要求されるちょうどの量の空気がある)又は非化学量論的状態(燃料を全て燃焼するのに要求されるより多くの空気)において、燃料1モルに対する反応方程式は:
である。
【0105】
リッチな空気/燃料混合気(燃料を全て燃焼するのに要求されるだけの空気がない)において、この場合も同様に、燃料1モルに対する反応方程式は:
であり、ここで完全な化学量論的燃焼のためにはχ=12.5である。リッチな状態の間はオクタンの部分的燃焼はなく、燃焼されていないオクタンは反応物において純オクタンとして単に存在すると想定される。また、空気組成は窒素80%及び酸素20%と想定される。
【0106】
この反応中に産生された熱は、構成化学種の定容比熱容量値を想定し、この反応方程式の熱平衡式からから導出される。燃焼に起因する温度変化は、(おおよそ500Kの適切な温度でとられた)含まれる全ての物質に対する比熱値の平均を用いて温度の変化を計算することによって近似する。このモデルは燃焼プロセスに含まれる力学を十分に表現し、その仮定は、燃焼プロセスの細部がシステムの一般的な挙動に著しく影響しない、という結果に悪影響を及ぼさない。たとえば、一酸化炭素、水素及び窒素酸化物等の化学種の解離のモデル化は、システムの巨視的力学を著しく変更しない。
【0107】
このモデルを用いて、クランク軸回転に対して働く駆動側トルク、クランク軸角速度及び(実際には質量流量センサーを用いて推定され得る)シリンダ内の酸素の質量に基づき下記の制御関数:
が導出され、ここで:
である。
【0108】
次に、制御関数は、以下の通り、空気取入口の圧力及び燃料噴射経路の圧力を制御するために用いられる:
【0109】
言い換えると、シリンダ内の酸素の質量に基づく制御関数は燃料噴射経路の圧力を制御するために用いられる一方、クランク軸回転に対して働く駆動側トルク及びクランク軸角速度に基づく制御関数は空気取入口の圧力を制御するために用いられる。
【0110】
用いられ得る他の制御関数は以下の通りであり:
ここで:
である。
【0111】
上記に用いられている用語は以下の通りである:
【0112】
【表3】
【0113】
【表4】
【0114】
【表5】
【0115】
実施態様において制御されているエンジンのクランク軸角速度は
図24に示され、ここで、システムに対する外部トルク要求は時間5×10
5及び10×10
5で実質的に増大されている。ストールする代わりに、安定したシステムを維持するために制御関数が燃料及び空気噴射圧力を調整することがわかる。経時的な制御関数の変動を
図25〜27に示す。
【0116】
当業者は、他の実施態様においては、エンジンの各シリンダは、シリンダの異なるパラメータを制御するために異なる組の制御関数を用いて制御され得ることを理解するであろう。
【0117】
本発明は特定の実施形態に関し記載及び説明されたが、ここに具体的に説明されていない多くの異なるバリエーションに当該発明が役立つことが当業者に理解されるであろう。特に、多くの異なる技術分野におけるカオス的システムに発明が適用されることが理解されるであろう。さて、いくつかの考え得るバリエーションを、単なる例示として記載する。