(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6161664
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】シクロドデカノンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/58 20060101AFI20170703BHJP
C07C 49/413 20060101ALI20170703BHJP
C08G 69/14 20060101ALI20170703BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20170703BHJP
【FI】
C07C45/58
C07C49/413
C08G69/14
!C07B61/00 300
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-150849(P2015-150849)
(22)【出願日】2015年7月30日
(65)【公開番号】特開2016-34937(P2016-34937A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2015年8月12日
(31)【優先権主張番号】14179449.5
(32)【優先日】2014年8月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ケヴァン ミコワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ マイアー
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン ヘアヴィヒ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ロース
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト ヘーガー
(72)【発明者】
【氏名】ルカ カメレッティ
(72)【発明者】
【氏名】イェンス デーリング
【審査官】
緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−099585(JP,A)
【文献】
特開2004−131505(JP,A)
【文献】
特開2001−172211(JP,A)
【文献】
米国特許第03708506(US,A)
【文献】
特開2014−118413(JP,A)
【文献】
特開2014−115471(JP,A)
【文献】
特公昭49−024472(JP,B1)
【文献】
特開昭49−008481(JP,A)
【文献】
米国特許第03804914(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/58
C07C 49/413
C08G 69/14
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a. シクロドデセン(CDEN)をエポキシシクロドデカン(CDANエポキシド)にエポキシ化する工程及び
b. シクロドデカン(CDAN)を含む混合物を得ながら、CDANエポキシドをシクロドデカノン(CDON)へ転位する工程
を有する反応経路Iを用いて、CDONを製造する方法において、
CDANをCDON含有混合物から分離し、CDONへ酸化することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記転位(工程b)を、貴金属含有触媒の存在で行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記転位(工程b)の前記触媒は、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又はこの両方を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程aからのCDANエポキシドはCDANを含み、前記CDANを前記転位(工程b)の前で少なくとも部分的に分離することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記転位の前に分離されたCDANをCDONへ酸化することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
CDON含有混合物はシクロドデカノール(CDOL)を有し、前記シクロドデカノールをCDONへ脱水素することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記CDOLを、脱水素の前にCDON含有混合物から分離し、CDONの製造のための、
a. シクロドデカトリエン(CDT)をCDANへ水素化する工程、
b. CDANを、CDOL及びCDONを有する混合物へ酸化する工程及び
c. CDOLをCDONへ脱水素する工程
を有する反応経路IIに供給することを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法において、CDON含有混合物から分離されたCDANを、酸化の実施の前に、CDONの製造のための、
a. シクロドデカトリエン(CDT)をCDANへ水素化する工程、
b. CDANを、CDOL及びCDONを有する混合物へ酸化する工程及び
c. CDOLをCDONへ脱水素する工程
を有する反応経路IIに供給することを特徴とする、方法。
【請求項9】
CDON含有混合物から分離されたCDANを、反応経路IIの工程bによるCDANの酸化に供給することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
CDON含有混合物から分離されたCDANは、CDANとCDENとの合計質量を基準として、CDENを最大0.5質量%含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
CDON含有混合物から分離されたCDANを、反応経路IIの工程aによるCDTの水素化に供給し、前記CDANは、CDANとCDENとの合計質量を基準として、CDENを0.1〜99質量%含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの分離を、蒸留によって行うことを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
CDONからラウリンラクタムを合成する方法において、前記CDONは請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法により製造される、ラウリンラクタムを合成する方法。
【請求項14】
前記CDONをシクロドデカノンオキシム(CDONオキシム)に反応させることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
CDONからポリアミド12を製造する方法において、前記CDONは請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法により製造される、ポリアミド12を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロドデカノンの製造方法、ラウリンラクタムの製造方法並びにポリアミド12の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロドデカノン(CDON)は、ラウリンラクタムの合成のために使用される。このラクタムはまたポリアミド12の製造のために適している。
【0003】
CDONの製造は、シクロドデカトリエン(CDT)から出発して行うことができる。まず、シクロドデカトリエン(CDT)からシクロドデセン(CDEN)への選択的水素化を行うことができる。引き続き、CDENからエポキシシクロドデカン(CDANエポキシド)へのエポキシ化及びCDANエポキシドからシクロドデカノン(CDON)への転位が行われる。CDENから出発するCDON合成は次の工程を有する:
a.シクロドデセン(CDEN)からのエポキシシクロドデカン(CDANエポキシド)へのエポキシ化及び
b.CDANエポキシドから、シクロドデカン(CDAN)を含む混合物を得ながらのCDONへの転位。
【0004】
この転位から得られる混合物(CDON含有混合物)は、従って少なくともCDON及びCDANを含む。
【0005】
このCDONの製造方法の場合には、かなりの量のCDAN又はCDENが生じることがあるという問題が生じる。この問題は、場合により使用される触媒の劣化によって重大化する。副生成物の生じる量は、転位から結果として生じるCDON含有混合物を基準にして、20質量%を越えることがある。
【0006】
この高い割合のCDANは、ラウリンラクタムの製造のような引き続く反応にとって不利な影響を及ぼしかねない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
その点で、本発明の課題は、最終生成物のCDON中のCDANの割合が低減されるCDONの新規製造方法を提供する点にある。更に、この製造方法は全体としてより経済的であるのが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、以後、反応経路Iとして表される、冒頭に記載した工程a及びbを有するCDONの新規製造方法が見出された。このCDANは、CDON含有混合物から分離され、かつCDONに酸化される(本発明によるCDON法)。
【0009】
この本発明によるCDON法は、連続的に又は不連続的に実施することができる。
【0010】
この転位は、好ましくは、0.9barの最大水素分圧で実施される。好ましくは、この水素分圧は0〜0.9barであり、特に好ましくは0〜0.5barである。本発明による方法は、水素なしでも実施することができるが、不飽和副生成物を低減するために、少なくともわずかな水素割合が存在が好ましい。この水素割合は、0.05〜0.5bar、好ましくは0.1〜0.4barを示すことができる。
【0011】
上述の圧力表示は、この系中での水素の分圧に関する。通常では、溶剤、空気又は不活性ガス、例えば窒素又はアルゴンを含めた反応混合物の成分は、この系の他のガス状の成分である。
【0012】
本発明によるCDON法の意味範囲で転位とは、特に、生じたCDONとCDOL(シクロドデカノール)との合計質量を基準として少なくとも90質量%のCDONが得られる反応であると解釈される。
【0013】
好ましくはエポキシ化(工程a)のためのCDENはCDTから得られる。このCDTは、また1,3−ブタジエンから得ることができる。CDTの選択的水素化は、気相中で低い分圧の水素及びPd含有触媒を用いて行うことができる(EP1457476)。この工程から、通常では、CDEN中の5〜15質量%のCDAN(シクロドデカン)が生じる。
【0014】
工程aによるCDENのエポキシ化は、過酸化水素を用いて、相間移動触媒及び金属塩によって、酸性pHで実施することができる。CDEN中に含まれるCDANは、相分離促進剤として利用される(EP1411050、EP1411051)。この反応の後に、CDANエポキシドが得られ、これは更にCDAN、未反応のCDEN又はその両方を有していてもよい。
【0015】
CDANは、転位(工程b)の前に少なくとも部分的に分離することができる。好ましくはこのCDANはCDONに酸化される。
【0016】
CDANからCDONへの酸化の場合に、少なくとも部分的にCDOLが生じることがある。このCDOLは、その後、CDONへ脱水素化することができる。
【0017】
工程bによる転位は、好ましくは、貴金属含有触媒(触媒系)の存在で行われ、この触媒は好ましくは、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又はその両方を含有する。この反応工程中でCDONが形成され、これはCDANを副生成物として含有する(CDON含有混合物)。更に、CDEN、CDOL又はこれらの混合物が副生成物として含まれていてもよい。同様に、CDONと比べてより高い沸点を有する他の副生成物(高沸点物)も含まれていてもよい。好ましくは、この転位は、触媒としてアルカリ金属水酸化物の存在では実施されない。
【0018】
この触媒系の貴金属は、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金から選択され、この場合、ルテニウム、パラジウム及び白金が好ましく、パラジウムが特に好ましい。この貴金属は、粉末(非担持)又は担持されて存在することができる。粉末の形の場合、例えば単体貴金属又はその酸化物が適している。
【0019】
更に、少なくとも1種の金属酸化物が触媒系の他の成分として含まれていてもよい。この触媒系の金属酸化物は、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又はこれらの混合物を有するか、又はここに挙げた酸化物の少なくとも1種からなる。これには、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムでドープ又は被覆された物質、例えば酸化アルミニウム又は二酸化ケイ素も含まれる。
【0020】
この触媒系の金属酸化物は、この触媒系の貴金属用の担体として機能することができる。貴金属は、選択的に、例えば酸化アルミニウム、二酸化ケイ素又は活性炭から選択される択一的な担体上に設けられていてもよい。二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムが好ましい担体である。
【0021】
この触媒系の金属酸化物並びに択一的な担体は、粉末として又は成形体として存在していてもよい。適切な成形体は、球、押出物、タブレット、顆粒及びペレットである。貴金属の担体が成形体として存在することが好ましい。触媒系の金属酸化物が担体として機能しない場合に、これが成形体として存在することも同様に好ましい。
【0022】
この触媒系は、従って、相互に無関係に次の系の形態の一つとして存在することができる:
I) 貴金属は担持されておらず;触媒系の金属酸化物としては、少なくとも二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムが含まれている;
II) 貴金属は担持されていて、この担体は、二酸化チタン及び/又は二酸化ジルコニウムを含まないか又はこれらからなっていない。この系は、更に、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムから選択される少なくとも1種の金属酸化物を含む;
III) 貴金属は、二酸化チタン及び二酸化ジルコニウムから選択される金属酸化物に担持されていて、その際、好ましくは二酸化チタンは含まれていない。
【0023】
系の形態II及びIIIが好ましく、系の形態IIIが特に好ましい。
【0024】
この触媒系の金属酸化物として適切な二酸化チタンは、硫酸塩法、塩化物法又は四塩化チタンの火炎加水分解(熱分解法)によって得ることができる。全ての方法は、当業者に公知である。適切な変態はルチル及びアナターゼであり、この場合、使用される二酸化チタンは上記変態の混合物を含むこともできる。
【0025】
硫酸塩法又は塩化物法により製造された二酸化チタンは水中で酸性に反応することができ、これらの化合物は通常では3以下のpH値を有する(酸性二酸化チタン)。同様に、酸性二酸化チタンは、二酸化チタン担体の質量を基準として、大抵は5質量%より多くの、硫酸チタニル及び水酸化チタニルのような物質を有する。酸性二酸化チタンを基礎とする二酸化チタンは、Aerolyst 7750(Evonik, ドイツ国)として市場で入手可能である。酸性二酸化チタンは、この方法のためにはあまり好ましくない。換言すると、酸性二酸化チタンを使用しないのが好ましい。好ましい適切な非酸性二酸化チタンは、水中で5以上のpH値を示す。
【0026】
特に好ましい二酸化チタンは、例えばDE-A-830786に記載されているような火炎熱分解により得られる。
【0027】
適切な二酸化チタンは、Evonik社(ドイツ国)のAeroxid P25二酸化チタン(粉末)又はAerolyst 7711(成形体)の商品名で並びにSachtleben社(ドイツ国)のHombikat M234(成形体)の商品名で入手可能である。
【0028】
二酸化ジルコニウム(酸化ジルコニウム(IV))は、例えば水酸化ジルコニウムから得られ、この場合、200℃を越えて、例えば350℃でか焼される。この二酸化ジルコニウムは、例えば酸化イットリウムでドープされていてもよい。
【0029】
適切な二酸化ジルコニウムは、単斜晶であるか又は正方晶である。これらの変態の混合形も可能である。
【0030】
この触媒系の金属酸化物は、0.5〜2g/cm
3の平均嵩密度を示すことができる。
【0031】
この触媒系の金属酸化物は、少なくとも5m
2/gのBET表面積を示すことができる。
【0032】
貴金属と担体との合計質量を基準として、貴金属の割合は、0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜1.2質量%、好ましくは0.1〜0.6質量%であることができる。
【0033】
貴金属は担体上に又は担体中に分配されていてもよい。
【0034】
CDANエポキシドの物質量を基準とした貴金属の物質量の割合は、0.00001〜0.1、好ましくは0.0001〜0.01であることができる。
【0035】
CDANエポキシドの物質量を基準とした触媒の金属酸化物の物質量の割合は、0.01〜100,好ましくは0.01〜10であることができる。
【0036】
CDANは、反応混合物から分離され、CDONに酸化される。
【0037】
CDON及び、CDOLを含めた高沸点物を有する残りの混合物を、不飽和の副生成物の除去のために、水素及び触媒の存在で水素化することができる。引き続き、純粋な生成物のCDONを、CDOLを含めた高沸点物フラクションから、例えば蒸留によって分離する。
【0038】
この高沸点物フラクションから、引き続きCDOLを留去し、このCDOLを、反応経路I内で脱水素触媒を用いてCDONに反応させることができる。しかしながら、この分離されたCDOLは、この脱水素の前に、CDONの製造のために反応経路IIに供給することが好ましい。
【0039】
この反応経路IIは、次の工程を有する:
a. CDTからCDANへの水素化、
b. CDANから、CDOL及びCDONを有する混合物への酸化及び
c. CDOLからCDONへの脱水素。
【0040】
CDOLの脱水素のために適した触媒は、銅又は銅化合物、例えば酸化銅(II)を有する。
【0041】
経路IからのCDOLは、好ましくは経路IIの工程cの脱水素の前に供給される。
【0042】
本発明の好ましい実施態様の場合に、経路Iから分離されたCDANは、酸化の実施の前に反応経路IIに供給される。このCDANはCDON含有混合物に由来する。エポキシ化後に分離されたCDANは、CDON含有混合物からのCDANと合流してもよい。
【0043】
このCDANは、経路IIの工程bの酸化の前に供給することができる。この場合、CDANは、CDANとCDENとの合計質量を基準として、CDENを0.5質量%まで含むことが好ましい。
【0044】
経路Iから分離されたCDANが、CDANとCDENとの合計質量を基準として、CDEN0.1〜99質量%、好ましくはCDEN0.5〜99質量%を含む場合に、この混合物を反応工程IIの工程aによるCDTの水素化に供給することが好ましい。これにより、CDENはCDANに水素化され、これを経路IIの工程bで酸化することができる。
【0045】
CDEN割合に関して、0.1〜0.5質量%の範囲内に重複領域が存在する。この場合、当業者は、CDEN含有CDANを、経路IIの工程aか又は工程bに供給するかどうかを選択できる。
【0046】
この点で、反応経路I及びIIは、生じるCDAN又はCDOLを経路Iから分離しかつ除去し、経路IIに供給するように組み合わせることができる。この場合、この2つの経路は連続して実施するのが好ましい。本発明のこの特別な実施態様は、経路Iの副生成物を、経路II中の継続処理のために利用する。これは、特に経済的でありかつ環境的である。経路Iの副生成物の廃棄は省かれる。
【0047】
CDEN、CDAN又はCDOL並びに他の高沸点物の分離は、当業者に慣用の方法によって行うことができる。この場合、蒸留が好ましい。特に、全体の分離を蒸留により行うのが好ましい。複数の蒸留を連続して実施することが好ましい(多段階蒸留)。
【0048】
CDANは、エポキシ化の後に留去することができる。
【0049】
転位の後に、まずCDAN又はCDANとCDENとの混合物(低沸点物フラクション)を留去し、かつCDON、CDOL及び他の高沸点物を含む残留物を新たに蒸留することが好ましい。この場合、CDONを得ることができ、これはCDOLを含む高沸点物フラクションから分離される。CDOLはまた、残った高沸点物生成物から留去することができる。
【0050】
低沸点物とは、CDONの沸点よりも低い沸点を有する物質である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】相応する反応による物質の経過を示す図。イタリック体で示した化合物は、それぞれの反応の副生成物である。
【0052】
CDTから出発して、経路Iを介して水素化(選択的水素化)によってCDENが得られ、このCDENはCDANエポキシドにエポキシ化される。引き続き、CDONへの転位を行い、その際存在するCDANは、例えば蒸留によって、分離される。このエポキシ化の後に含まれるCDANは、同様に除去することができる。この分離されたCDANはCDENを含んでいてもよい。しかしながら、好ましくは、このCDANを転位に供給し、転位後に初めて分離される。分離されたCDANは、好ましくは経路IIに移され、その際、経路IIからの個々のフラクションは好ましくは合流される。
【0053】
この残りのCDONはCDOLを含むことができ、このCDOLは分離され、経路IIに供給することもできる。これとは別に、このCDOLは、経路I内で、CDONに脱水素することもできる。
【0054】
本発明の他の主題は、ラウリンラクタムを合成する方法(本発明によるラクタム法)であり、この場合、上述のCDONを製造するための本発明による方法が用いられる。この場合、ラウリンラクタムがCDONから得られ、その際、このCDONは、本発明によるCDON法により製造される。
【0055】
本発明の他の主題は、ポリアミド12を合成する方法(本発明によるポリアミド法)であり、この場合、上述のCDONを製造するための本発明による方法が用いられる。
【0056】
本発明によるCDON法で製造されたCDONは、本発明によるラクタム法又はポリアミド法で、シクロドデカノン−オキシム(CDONオキシム)を得ながらオキシム化することができる。次の工程で、ラウリンラクタムへのベックマン転位を行うことができ、この転位は硫酸又は塩化シアヌルによって行うことができる。このラクタムは、重縮合下でポリアミドに継続加工することができる。
【0057】
このオキシム化、ベックマン転位並びに縮合反応は、当業者に公知である。
【0058】
更に説明することなく、当業者は上述の記載を最も広い範囲で利用できることが前提とされる。これらの好ましい実施態様及び実施例は、従って、単に記載されるだけで、決して何らかの限定する開示ではないと解釈される。
【実施例】
【0059】
次に、本発明を、実施例を用いて詳細に説明する。本発明の別の実施態様も同様に得られる。
【0060】
実施例1
エポキシド経路=反応経路I
慣用の経路=反応経路II
CDTの選択的水素化:
CDT 1000kg/hを気液接触装置としての飽和塔(Saettigungskolonne)中で、0.75barの圧力及び155℃の温度で連続的に、主に窒素からなる循環ガス流10m
3/hで連続的に蒸発させた。生じるガス流を、Al
2O
3上のPd触媒を備えた固定床反応器に供給し、その中で130℃の温度で水素との反応を行った。このために、水素25kg/hをこの反応器の入口で循環ガス流に計量供給した。反応器の出口で循環ガス流から生成物を35℃で凝縮させた。この凝縮した液体は、CDEN84.8%及びCDAN15%の組成を有していた。CDDIEN(シクロドデカジエン)異性体及びCDT異性体は、0.2%未満の濃度で存在する。
【0061】
残りの循環ガス流を、コンプレッサを介して再び飽和塔に供給した(上記参照)。
【0062】
CDENのエポキシ化:
選択的水素化からのCDEN(84.8%)とCDAN(15%)との混合物を、三段階の反応器カスケード中でH
2O
2でエポキシ化した。
【0063】
このCDAN/CDEN混合物を、まず第1の8L反応器中へ連続的に2kg/hの供給速度で計量供給した。更に、50%のH
2O
2溶液(544g/h)、30質量%のNa
2WO
4及び18質量%のH
3PO
4の水溶液(125g/h)、CDEN中のトリオクチルアミンの50%の溶液(68g/h)及び水(150g/h)を、5.5Lの二相反応混合物中へ80℃の温度で計量供給した。
【0064】
この二相混合物が第1の反応器からCDENの79%の転化率で生じ、第2の8L反応器中へオーバーフローした。このために50%のH
2O
2溶液(131g/h)を5.5Lの二相反応混合物中へ78℃の温度で計量供給した。
【0065】
この第2の反応器から二相混合物がCDENの96%の転化率で生じ、反応器中へ25Lの充填レベルで導入した。この二相反応混合物を、この反応器中で76℃の温度で撹拌した。
【0066】
25L反応器の反応混合物の2つの相を、相分離容器中で分離した。引き続き、有機相を5L容器中で5%のNaOH溶液(0.5kg/h)で洗浄した。引き続き2つの相を分離容器中で分離した。
【0067】
この有機相を、連続的な二段階蒸留に供給した。第1の塔(8mの織物充填物を備えた塔;表面積500m
2/m
3:塔頂圧力300mbar)中で残りの水を留出物として分離した。塔底物を第2の塔(6mの織物充填物を備えた塔;表面積500m
2/m
3;塔頂圧力10mbar)中で蒸留し、CDANエポキシド85〜90%及びCDAN5〜10%を有する所望の生成物が2.1kg/hの速度で留出物の形で得られた。これはエポキシ化について97%の全体の収率に相当した。
【0068】
CDANエポキシドのCDONへの転位:
直前の工程からのCDANエポキシドを、0.5%のPd/ZrO
2触媒を用いて、三段階反応器カスケード中でCDONに反応させた。
【0069】
エポキシ化からのCDANエポキシド(84.8%)及びCDAN(15%)の混合物を、第1の循環型反応器中へ2kg/hの供給速度で計量供給した。この循環型反応器は12L撹拌反応器からなり、この反応器は200℃の温度で0.5%のPd/ZrO
2固定床触媒10kgが充填されていて、かつ8L貯蔵容器から供給された。
【0070】
第1の循環型反応器から、CDON 59%、CDANエポキシド 18%、CDAN 16%、CDEN 0.4%及びCDOL 1.9%の混合物が生じた。この混合物を第2の循環型反応器中へ2kg/hの供給速度で計量供給した。この第2の循環型反応器も同様に、8L貯蔵容器及び12L撹拌反応器からなり、この反応器は200℃の反応温度で0.5%のPd/ZrO
2固定床触媒10kgで充填されていた。
【0071】
この第2の反応循環路から、CDON 73%、CDANエポキシド 4%、CDAN 16%、CDEN 0.4%及びCDOL 2%の混合物が生じた。この混合物を、Pd/ZrO
2 2.7kgが充填された固定床触媒中へ、2kg/hの供給速度で計量供給した。この管内で、反応混合物を、N
2(4L/h)及びH
2(16L/h)と1.7barの全体圧力でかつ205℃の温度で接触させた。この管から、CDON 78%、CDAN 17%及びCDOL 2.2%からなる粗製混合物が得られた。この混合物の成分を、蒸留によって相互に分離しかつ精製した。
【0072】
低沸点物フラクションの蒸留:
この転位からの粗製混合物から、第1の連続的蒸留工程で低沸点物フラクション(CDONよりも低い沸点を有する成分)を除去した。使用される塔は、500m
2/m
3の表面積を有する8mの織物充填物を備えかつ10mbarの塔頂圧力で運転された。
【0073】
11個以下の炭素原子を有する、低沸点物フラクションからの化合物を、付加的な蒸留塔中でCDANと分離した。純度99%で得られたCDANを、ホウ酸を用いる酸化(慣用の経路)に供給した。
【0074】
CDONの蒸留:
第1の蒸留からの塔底物を、他の連続的蒸留工程(6mの織物充填物を備えた塔;500m
2/m
3の表面積)で蒸留し、CDONを10mbarの塔頂圧力で留出物として得た。CDONよりも高い沸点を有する成分(例えばCDOL)を、塔底物として分離した。得られたCDONの純度は>99%であり、CDON収率として蒸留塔中では98%が達成された。
【0075】
このシクロドデカノンは公知の方法で更にラウリンラクタムに反応させることができた。
【0076】
この第2の蒸留の塔底物を付加的な塔中で更に精製した:CDOLを付加的な塔中で他の高沸点物と分離し、脱水素(慣用の経路)に供給した。
【0077】
生じたCDANの慣用の経路での使用:
エポキシド経路からのCDAN(1kg/h)をホウ酸(0.05kg/h)で反応させた。155℃で132l/hの酸素供給での2時間の反応の滞留時間で、8.5%のCDAN転化率及びCDON及びCDOLに関して88%の選択率が得られた。この転化率及び組成は、慣用の経路からの転化率及び選択率に相当する。この混合物は、慣用の生成物と同様に、更にラウリンラクタムに反応させることができた。
【0078】
生じたCDOLの慣用の経路での使用:
エポキシド経路からのCDOL 1kgを、慣用の経路のCDOL/CDON(70:30 w:w)混合物10kgと、30L脱水素反応器中で合わせて混合した。この反応器は、Cu含有触媒(Evonik社のH10167)1.9kgが充填されていた。240℃で6時間の反応の後に、CDON(10.5kg)及びCDOL(0.5kg)の混合物が得られた。このCDONは99.8%を越える純度で留去され、CDOLを脱水素に返送した。得られたCDONの品質は、慣用の経路からのシクロドデカノンの品質に相当し、この経路で更にラウリンラクタムに反応させることができた。
【0079】
実施例2
CDAN(又はCDAN及びCDENの混合物)は、別に使用することができる。CDANをホウ酸による酸化に供給する代わりに、前段階(CDTのCDANへの水素化)で使用することができる。これは、特に、エポキシド経路からのCDANがかなりのCDEN量を含む場合に通用する。
【0080】
CDAN及びCDENの混合物のCDT水素化での使用:
エポキシド経路からのCDAN及びCDENの混合物(0.04kg/h)を、CDT(0.36kg/h)と0.4L水素化反応器中で合わせて混合した。この水素化反応器は0.5%Pd/Al
2O
3 0.284gで充填されていた。160℃及び水素15barで、CDANは98.5%の純度で得られた。この純度は、相応する反応条件での慣用の経路でのシクロドデカンの純度に相当し、この経路で更にラウリンラクタムに反応させることができた。
【0081】
[発明の実施の形態]
1. a. シクロドデセン(CDEN)をエポキシシクロドデカン(CDANエポキシド)にエポキシ化する工程及び
b. シクロドデカン(CDAN)を含む混合物を得ながら、CDANエポキシドをシクロドデカノン(CDON)へ転位する工程
を有する反応経路Iを用いて、CDONを製造する方法において、
CDANをCDON含有混合物から分離し、CDONへ酸化することを特徴とする、方法。
2. 前記転位(工程b)を、貴金属含有触媒の存在で行うことを特徴とする、前記1に記載の方法。
3. 前記転位(工程b)の前記触媒は、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又はこの両方を含むことを特徴とする、前記2に記載の方法。
4. 工程aからのCDANエポキシドはCDANを含み、前記CDANを前記転位(工程b)の前で少なくとも部分的に分離することを特徴とする、前記1から3までのいずれか1に記載の方法。
5. 前記転位の前に分離されたCDANをCDONへ酸化することを特徴とする、前記4に記載の方法。
6. CDON含有混合物はシクロドデカノール(CDOL)を有し、前記シクロドデカノールをCDONへ脱水素することを特徴とする、前記1から5までのいずれか1に記載の方法。
7. 前記6に記載の方法において、前記CDOLを、脱水素の前にCDON含有混合物から分離し、CDONの製造のための、
a. CDTをCDANへ水素化する工程、
b. CDANを、CDOL及びCDONを有する混合物へ酸化する工程及び
c. CDOLをCDONへ脱水素する工程
を有する反応経路IIに供給することを特徴とする、方法。
8. 前記1から7までのいずれか1に記載の方法において、前記分離されCDANを、酸化の実施の前に、CDONの製造のための、
a. CDTをCDANへ水素化する工程、
b. CDANを、CDOL及びCDONを有する混合物へ酸化する工程及び
c. CDOLをCDONへ脱水素する工程
を有する反応経路IIに供給することを特徴とする、方法。
9. 前記分離されたCDANを、反応経路IIの工程bによるCDANの酸化に供給することを特徴とする、前記8に記載の方法。
10. 前記CDANは、CDANとCDENとの合計質量を基準として、CDENを0.5質量%まで含むことを特徴とする、前記9に記載の方法。
11. 前記分離されたCDANを、反応経路IIの工程aによるCDTの水素化に供給し、前記CDANは、CDANとCDENとの合計質量を基準として、CDENを0.1〜99質量%含むことを特徴とする、前記8に記載の方法。
12. 少なくとも1つの分離、好ましくは全ての分離を、蒸留によって行うことを特徴とする、前記1から11までのいずれか1に記載の方法。
13. CDONからラウリンラクタムを合成する方法において、前記CDONは前記1から12までのいずれか1に記載の方法により製造される、ラウリンラクタムを合成する方法。
14. 前記CDONをシクロドデカノンオキシム(CDONオキシム)に反応させることを特徴とする、前記13に記載の方法。
15. CDONからポリアミド12を製造する方法において、前記CDONは前記1から12までのいずれか1に記載の方法により製造される、ポリアミド12を製造する方法。