(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6161729
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】ニッケル−コバルト合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20170703BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20170703BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20170703BHJP
C22F 1/10 20060101ALN20170703BHJP
【FI】
C22C19/05 C
C22C30/00
!C22F1/00 602
!C22F1/00 614
!C22F1/00 623
!C22F1/00 624
!C22F1/00 625
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630C
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 650A
!C22F1/00 651B
!C22F1/00 651Z
!C22F1/00 682
!C22F1/00 683
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 694B
!C22F1/10 H
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-557330(P2015-557330)
(86)(22)【出願日】2014年2月13日
(65)【公表番号】特表2016-508547(P2016-508547A)
(43)【公表日】2016年3月22日
(86)【国際出願番号】DE2014000053
(87)【国際公開番号】WO2014124626
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2015年8月14日
(31)【優先権主張番号】102013002483.8
(32)【優先日】2013年2月14日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】399009918
【氏名又は名称】ファオデーエム メタルズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】VDM Metals GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ボード ゲーアマン
(72)【発明者】
【氏名】ユタ クレーヴァー
(72)【発明者】
【氏名】タチアナ フェドロヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム レースラー
【審査官】
田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−075171(JP,A)
【文献】
特表2005−525470(JP,A)
【文献】
特開2010−275636(JP,A)
【文献】
特表2007−510055(JP,A)
【文献】
特表2011−516735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/05
C22C 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成:
Fe >0〜最大10質量%、
Co >12〜<35質量%、
Cr 13〜23質量%、
Mo 1〜6質量%、
Nb+Ta 4〜6質量%、
Al >0〜<3質量%、
Ti >0〜<2質量%、
残分 30〜65質量%の範囲でNiおよび不可避的不純物を含有し、当該不可避的不純物として、
C >0〜最大0.1質量%、
P >0〜最大0.03質量%、
Mg >0〜最大0.01質量%、
B >0〜最大0.02質量%、
Zr >0〜最大0.1質量%
を含有し、さらに任意に
Cu 最大0.5質量%
S 最大0.015質量%
Mn 最大1.0質量%
Si 最大1.0質量%
Ca 最大0.01質量%
N 最大0.03質量%
O 最大0.02質量%
V 4質量%まで
W 4質量%まで
を含有するNi−Co合金であって、次に記載する要求及び基準:
a) 3原子%≦Al+Ti(原子%)≦5.6原子%並びに11.5原子%≦Co≦35原子%で、900℃≦γ′ソルバス温度≦1030℃;
b) ≧5のAl/Ti比率(原子%での含有量の基準で)および
c) 800℃で500hの時効焼鈍の後に安定な組織
を満たす、Ni−Co合金。
【請求項2】
要求:945℃≦γ′ソルバス温度≦1000℃を満たす、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
ΔT(δ−γ′)≧80KでかつAl+Ti≦4.7原子%で並びにCo含有率が≧11.5原子%でかつ≦35原子%である(ここで、ΔT(δ−γ′)は、δ相のδソルバス温度とγ′相のγ′ソルバス温度との間の差を表す)、請求項1又は2に記載の合金。
【請求項4】
δソルバス温度とγ′ソルバス温度との温度範囲が140Kに等しいか又はそれ以上であり、かつCo含有率が≧15原子%でかつ≦35原子%である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項5】
≦0.8原子%のTi含有率を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項6】
≦0.65原子%のTi含有率を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項7】
4.7≦Nb+Ta≦5.7質量%の含有率を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項8】
次の限界値:
0.05原子% ≦ Ti ≦ 0.5原子%
3.6原子% ≦ Al ≦ 4.6原子%
15原子% ≦ Co ≦ 32原子%
による、Ti、Al及びCoの含有率を有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項9】
次の半製品形状:帯材、板材、線材、棒材として使用可能である、請求項1から8までのいずれか1項に記載の合金。
【請求項10】
航空機タービンの部材としての、請求項1から9までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項11】
回転タービンディスク並びに固定式タービンの部材としての、請求項1から9までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項12】
エンジン製造、炉構築、ボイラ構築、発電所建設における、請求項1から9までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項13】
石油及びガス採収技術における部材としての、請求項1から9までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項14】
固定式のガスタービン及び蒸気タービンの部材としての、請求項1から9までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【請求項15】
溶接添加材料としての、請求項1から9までのいずれか1項に記載の合金の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、ニッケル−コバルト合金に関する。
【0002】
ガスタービン中の回転ディスク用の重要な金属材料は、ニッケル合金のAlloy 718である。このAlloy 718合金の化学組成は、AMS 5662規格による表1に記載されている。
【0003】
AMS 5662規格に従ってこのAlloy 718合金が満たさなければならない機械特性に関する要求は、表2に記載されている。更に、航空機タービン中の回転ディスクとして使用するためには、650℃の温度でかつ550MPaの荷重で35h(更に高い要求の場合には100h後)の負荷時間の後でのクリープ試験により<0.2%の伸び率が要求されかつ疲労試験(低サイクル疲労(Low Cycle Fatigue)/LCF-試験)において破壊までの高いサイクル数が期待される。この場合、多様なディスク設計に基づいて特定されている試験条件に応じて、数万サイクル〜100,000サイクルを越えるサイクル数が要求される。AMS 5662規格により、この機械的要求は、940〜1000℃の間での焼鈍温度で3段階の焼鈍−1段階の溶体化焼鈍+720℃で8h+620℃で8hの硬化の後に満たさなければならない。
【0004】
このニッケル合金のAlloy 718の高い強度特性についての要因は、主に2つの析出相にある。これは、一方で、γ″相のNi
3Nbであり、他方で、γ′相のNi
3(Al,Ti)である。第3の本質的な析出相は、δ相であり、このδ相は、このAlloy 718合金の使用温度を、650℃の最大温度に制限している、というのもこの温度を超えると、準安定のγ″相が安定のδ相に変態するためである。この変態により、この材料にクリープ抵抗特性が付与される。しかしながら、再溶融ブロックから鍛造された丸棒材の半製品にするAlloy 718材料の製造プロセスの過程で、この鍛造プロセスの間にこのδ相は、極めて微細粒でかつ均質な粒状組織を達成するために重要な役割がある。δ相の析出温度の範囲内で鍛造加熱する場合に、少量のδ相の析出が微粒化(Kornverfeinerung)を引き起こす。丸棒材組織のこの小さな粒子は形成されたままであるか又は特にタービンディスクの製造の際の熱変形によって、この場合でもδ相の溶体化温度(Loesungstemperatur)を下回る温度から鍛造される場合に更に微細化される。この極めて微細粒組織が、LCF試験の場合に、破断までの極めて高いサイクル数の前提条件である。Alloy 718合金のγ′相の析出温度は、約1020℃のδ相溶体化温度を遙かに下回るため、Alloy 718合金は広い変形温度範囲を有し、その結果、ブロックから丸棒材への鍛造、及び丸棒材からタービンディスクへの鍛造は。鍛造の場合に極めて低い温度で生じることがあるγ′相析出による場合による表面亀裂に関して問題はない。従って、Alloy 718合金は熱間変形プロセスに関して極めて適している。しかしながら、Alloy 718合金の、650℃までの比較的低い使用温度が欠点である。
【0005】
他のニッケル合金の「Waspaloy」は、約750℃の温度までのより高い温度で良好な組織安定性を特徴とし、従って、Alloy 718合金よりも約100K高い使用温度を提供する。比較的高い温度までのこの組織安定性は、Waspaloy合金では元素Al及びTiの高い合金割合により達成される。従って、このWaspaloy合金は、γ′相の高い溶体化温度を示し、これはより高い使用温度を可能にしている。Waspaloy合金の化学組成は、AMS 5704規格による表3に記載されている。
【0006】
AMS 5704規格に従ってこのWaspaloy合金が満たさなければならない機械特性に関する要求は、表4に記載されている。更に、航空機タービン中の回転ディスクとして使用するためには、試験温度でかつ試験荷重で35h(更に高い要求の場合には100h後)の負荷時間の後でのクリープ試験により<0.2%の伸び率が要求されかつ疲労試験(Low Cycle Fatigue/LCF-試験)において破壊までの高いサイクル数が期待される。この場合、多様なディスク設計に基づいて特定されている試験条件に応じて、数万サイクル〜100,000サイクルを越えるサイクル数が要求される。AMS 5704規格により、この機械的要求は、996〜1038℃の間の焼鈍温度で3段階の焼鈍−4段階の溶体化焼鈍+854℃で4hの安定化焼鈍+760℃で16hの硬化の後に満たされなければならない。
【0007】
約1035℃の高いγ′溶体化温度は、Waspaloy合金の悪い熱変形性についての原因でもある。約≦980℃の表面温度で既に、再溶融ブロックから丸棒材への鍛造プロセス又は丸棒材からタービンディスクへの鍛造プロセスの際に、γ′相析出により鍛造部材の表面に深い破損が生じることがある。従って、Waspaloy用の変形温度領域はまさに狭く、これは加熱炉中で繰り返し状態を戻すこと(mehrfache Ruecklagen)による複数回の変形加熱を引き起こし、それにより、より長いプロセス時間及び、それにより、より高い製造コストが生じる。必然的により高い鍛造温度及び微細化δ相の不存在に基づいて、Waspaloy合金からなる鍛造された丸棒材には、Alloy 718合金の場合に出現可能であるような極めて微細な粒子構造は達成されない。
【0008】
これらのAlloy 718合金及びWaspaloy合金は、航空機使用のために、VIM炉中で一次融液として溶融され、鋳型中の円形電極に流し込む。更なる加工工程の後でこれらの電極はダブルメルト溶融法のESUプロセス又はVARプロセスで再融解されるか又はVAR再溶融ブロックをトリプルメルト法VIM/ESU/VARで作製される。再溶融ブロックを熱変形する前に、このブロックを均質化焼鈍する。こうして、数回の鍛造加熱で再溶融ブロックは丸棒材に鍛造され、この丸棒材はまた例えばタービンディスクの製造用の鍛造素材として用いられる。
【0009】
US 6,730,264は次の組成のニッケル−クロム−コバルト合金を開示している:Cr 12〜20%、Mo 4%まで、W 6%まで、Ti 0.4〜1.4%、Al 0.6〜2.6%、Nb(Ta) 4〜8%、Co 5〜12%、Fe 14%まで、C 0.1%まで、P 0.003〜0.03%、B 0.003〜0.015%、残りニッケル。
【0010】
DE 699 34 258 T2は次の工程を有するWaspaloyから形成された物品の製造方法を開示している:
a) 質量%で示してCr 18〜21、Mo 3.5〜5、Co 12〜15、Ti 2.75〜3.25、Al 1.2〜1.6、Zr 0.08まで、B0.003〜0.010、残りNi及び不可避的な不純物からなる材料の装填物を準備する工程、
b) この材料の装填物を真空環境中で100μ(13.33Pa)未満の圧力で、セラミック不含の溶融系で溶融させ、かつこの材料の装填物を、合金の融点を200°F(93℃)の範囲内で越える限定された過熱に加熱する工程、
c) この材料の溶融した装填物を真空環境中でダイキャスト装置の射出スリーブ内に注ぎ込み、この溶融した材料を射出スリーブの半分未満に充填する工程;及び
d) この溶融した材料を加圧下で再利用可能な型中へ射出する工程。
US2008/0166258 A1により、
≦0.1% C、≦1.0% Si、≦1.5% Mn、13.0〜25.0% Cr、1.5〜7.0% Mo、0.5〜4.0% Ti、0.1〜3.0% Al、任意に、次の群:0.15〜2.5% W、0.001〜0.02% B、0.01〜0.3% Zr、0.3〜6.0% Nb、5.0〜18.0% Co及び0.03〜2.0% Cuからなる少なくとも1つの元素、残りニッケル及び不可避的不純物を有する(質量%で示す)、熱安定性ニッケル基合金は公知となっている。
【0011】
本発明の基礎となる課題は、2つの公知の合金のAlloy 718及びWaspaloyの上述の利点、つまりAlloy 718合金の良好な熱変形性と、Waspaloy合金の約750℃の比較的高い温度までの組織安定性とを併せ持つ合金を提供することである。
【0012】
上記課題は、Ni 30〜65質量%、Fe >0〜最大10質量%、Co >12〜<35質量%、Cr 13〜23質量%、Mo 1〜6質量%、Nb+Ta 4〜6質量%、Al >0〜<3質量%、Ti >0〜<2質量%、C >0〜最大0.1質量%、P >0〜最大0.03質量%、Mg >0〜最大0.01質量%、B >0〜最大0.02質量%、Zr >0〜最大0.1質量%を有し、
必要な場合に、同伴元素について
Cu 最大0.5質量%
S 最大0.015質量%
Mn 最大1.0質量%
Si 最大1.0質量%
Ca 最大0.01質量%
N 最大0.03質量%
O 最大0.02質量%
を有し、更に必要な場合に
V 4質量%まで
W 4質量%まで
を有し、次に記載する要求及び基準:
a) 3原子%≦Al+Ti(原子%)≦5.6原子%並びに11.5原子%≦Co≦35原子%で、900℃≦γ′ソルバス温度≦1030℃;
b) 800℃で500hの時効焼鈍(Auslagerungsgluehung)の後で、かつ≧5のAl/Ti比率(原子%での含有率の基準で)で安定な組織
を満たす、Ni−Co合金により解決される。
【0013】
本発明による合金の好ましい実施形態は、所属する従属請求項に記載されている。
【0014】
請求項1に挙げられたパラメータに基づいて、本発明による合金は、Alloy 718合金の欠点、つまり比較的低い使用温度及びWaspaloy合金の欠点、つまり悪い熱変形性をもはや示さない。
【0015】
本発明による合金は、好ましくは「945℃≦γ′ソルバス温度≦1000℃」の要求を満たす。
【0016】
δT(δ−γ′)が≧80KでかつAl+Ti≦4.7原子%で、Co含有率を11.5〜35原子%に調節することができる場合が特に好ましい。
【0017】
本発明による合金は、好ましくは、δソルバス温度とγ′ソルバス温度との間の温度範囲が140Kに等しいか又はそれより大きな温度範囲を有し、かつこの場合Co含有率は15〜35原子%である。
【0018】
本発明の他の思想によると、合金中でTi含有率が≦0.8原子%に調節され、好ましくは≦0.65原子%の含有率に調節される。
【0019】
(Nb+Ta)含有率の4.7〜5.7質量%の値に限定することも、Alloy 718合金の良好な熱変形性及びWaspaloy合金の約750℃の比較的高い温度までの組織安定性を改善するために寄与することができる。
【0020】
2つの元素含有率の比率についての値の範囲は、原子パーセント及び質量パーセントでの記載について異なっている。組織のレベルでは原子部が重要である。特に第6a表では、本発明による合金について重要な元素、つまりAl、Ti及びCoは原子%で記載されている。
【0021】
随伴元素に関して、本発明による合金は次の元素を含むことができる:
Cu 最大0.5質量%
S 最大0.015質量%
Mn 最大1.0質量%
Si 最大1.0質量%
Ca 最大0.01質量%
N 最大0.03質量%
O 最大0.02質量%。
【0022】
その都度の使用の場合について合目的である場合には、本発明による合金は必要に応じて次の元素を含むことができる:
V 4質量%まで
W 4質量%まで。
【0023】
本発明による合金において、次の元素は、次のように調節することができる:
0.05原子%≦Ti≦0.5原子%
3.6原子%≦Al≦4.6原子%
15原子%≦Co≦32原子%。
【0024】
本発明による合金の使用分野に応じて、コストの観点で、元素Ni及び/又はCoは廉価な元素のFeにより部分的に置き換えることが合理的である。
【0025】
本発明による合金は、好ましくは、航空機タービンの構成部材として、特に回転タービンディスクの構成部材として、並びに固定式タービンの構成部材として使用可能である。
【0026】
この合金は、次の半製品形状で仕上げることができる:帯材、板材、線材、棒材。
【0027】
この材料は高耐熱性であり、既に記載された使用の他に、次の使用分野:エンジン製造で、排ガス系で、断熱材として、炉構築で、ボイラ構築で、発電所建設で、特に過熱管として、ガス及び石油採収技術での部材として、固定式のガスタービン及び蒸気タービンで並びに上述の全ての使用のための溶接添加物としても使用可能である。
【0028】
本発明は、特に航空機タービンの臨界回転構成部材用のニッケル合金を記載する。本発明による合金は高温で高い組織安定性を示し、従って、公知のニッケル合金のAlloy 718よりも100K高い温度負荷まで使用可能である。更に、本発明による合金は、公知のニッケル合金のWaspaloyよりも改善された変形性を特徴とする。本発明の合金は、ディスク、羽根、支持部、ハウジング又は軸の形でガスタービン中での使用を可能とする技術特性を提供する。
【0029】
本発明の合金は、化学組成、技術特性及び本発明によるニッケル−コバルト合金からなる材料半製品の製造のためのプロセスを記載する。
【0030】
本発明による合金の特性は次に記載される:
多様な化学組成を有する多数の実験室溶融物を実験室用真空アーク炉によって製造した。
【0031】
この鋳込みを、直径13mの中実な円柱の銅金型中で行った。精錬時に約80mmの長さを有する3本の棒材を製造した。全ての合金を精錬後に均質化した。この全体のプロセスは真空炉中で行い、かつこのプロセスは2段階からなる:1140℃/6h+1175℃/20h。その後、アルゴン雰囲気中で焼き入れを行った。精錬した合金用の熱変形は、スウェージング機(Rundknetmaschine)で実現した。この棒材は、最初に13mmの直径を有し、4回のスウェージング工程で9mmの最終直径にまで直径がそれぞれ1ミリメートル細くなった。
【0032】
第1表は、現行の規格AMS 5662による先行技術に相当する合金のAlloy 718の化学組成を開示し、第2表はこの合金の機械特性を説明している。
【0033】
第3表は、現行の規格AMS 5662による先行技術に相当する合金のWaspaloyの化学組成を開示し、第4表はこの合金の機械特性を説明している。
【0034】
実験室溶融物の本発明による化学組成が第5表に記載されている。その下に、対照材料として公知の合金のA718、A718 Plus及びWaspaloyが挙げられている。これらの対照材料の他に、試験合金は、記号V及びLと2桁の数字によって表されている。この試験合金の化学組成は、元素Ti、Al、Co及びNbの含有率のバリエーションを内容とする。
【0035】
元素Ti、Al及びCo並びにAl+Tiの合計の原子パーセントで示す含有率並びに元素含有率Al/Tiの比率を考察すると、選択された範囲内で、γ′ソルバス温度、δソルバス温度とγ′ソルバス温度との間の差、一次デルタ相の抑制、及びη相の抑制、800℃で500hの時効焼鈍後の組織安定性及びA718についての溶体化焼鈍及び二段階の硬化焼鈍の標準的熱処理(980℃/1h+720℃/8h+620℃/8h、AMS 5662規格を参照)後の機械的硬度HVに関して極めて良好な技術特性が生じる。
【0036】
第6a表では、第5表の試験合金及び3種の対照材料についての、元素Al、Ti及びCoの原子パーセントで示す含有率並びにAl+Tiの合計含有率(原子パーセントで示す)及びAl/Tiの比率が記載されている。
【0037】
第6b表は、更に、δ相とγ′相との計算されたソルバス温度並びにこれらから計算されたδソルバス温度とγ′ソルバス温度との間の温度差δT(δ−γ′)を内容とする。第6b表中には、更に、試験合金について計測された機械的硬度値10HVが記載されている(A718のためのAMS 5662規格による3段階の硬化熱処理980℃/1h+720℃/8h+620℃/8hの後)。更に、第6b表は、η相(計算又は観察)の出現について記載している。
【0038】
次の記載において、本発明による合金の選択のための基準を説明し、かつ例示的試験合金を記載する。
【0039】
強度及び組織安定性の理由から、本発明による合金のγ′ソルバス温度は、A718合金の約850℃のγ′ソルバス温度よりも50K高くあるべきである。他方で、本発明による合金のγ′ソルバス温度は1030℃以下であるべきである。1030℃は、Waspaloy合金のγ′ソルバス温度にほぼ相当する。より高いγ′ソルバス温度は、熱変形性に極めて不利な影響を及ぼすことが想定される、というのも、例えば鍛造プロセスにおいて、鍛造品の表面温度が既にこのγ′ソルバス温度を僅かに下回る場合にγ′析出が、この鍛造品表面の著しい硬化を引き起こし、この硬化がまた更なる鍛造変形の際に鍛造品表面の著しい亀裂を引き起こしかねないためである。
【0040】
従って、900℃<γ′ソルバス温度≦1030℃の要求を満たすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】化学組成の合計含有率Al+Ti(原子%)に依存する試験合金のγ′ソルバス温度。
【
図2】945℃〜1000℃の限定された温度範囲での化学組成の合計含有率Al+Ti(原子%)に依存する試験合金のγ′ソルバス温度。
【
図3】試験合金のCo及びTiの含有率のプロットに対するη相の出現。
【
図4】合計含有率Al+Ti(原子%)に依存する試験合金のδソルバス温度とγ′ソルバス温度との差。白抜きの四角形:Co<11.5原子%、白抜きの菱形:11.5原子%≦Co≦18原子%、黒塗りの菱形:Co>18原子%。
【
図5a-1】試験合金L4について、800℃で500hの時効焼鈍の後の例示のREM写真。
【
図5a-2】試験合金L4について、800℃で500hの時効焼鈍の後の例示のREM写真。
【
図5b-1】試験合金V10について、800℃で500hの時効焼鈍の後の例示のREM写真。
【
図5b-2】試験合金V10について、800℃で500hの時効焼鈍の後の例示のREM写真。
【
図5c-1】試験合金V15について、800℃で500hの時効焼鈍の後の例示のREM写真。
【
図5c-2】試験合金V15について、800℃で500hの時効焼鈍の後の例示のREM写真。
【
図5d-1】試験合金V16について、800℃で500hの時効焼鈍の後の例示のREM写真。
【
図5d-2】試験合金V16について、800℃で500hの時効焼鈍の後の例示のREM写真。
【
図5e-1】試験合金V17について、800℃で500hの時効焼鈍の後の例示のREM写真。
【
図5e-2】試験合金V17について、800℃で500hの時効焼鈍の後の例示のREM写真。
【
図6】Alloy 718と比較したA 780のバリエーション(引張試験:Rp0.2)。
【
図7】Alloy 718と比較したA 780のバリエーション(引張試験:Rm)。
【0042】
図1には、試験合金のγ′ソルバス温度が、この化学組成の合計含有率Al+Ti(原子%)に依存してプロットされている。
【0043】
図1からは、「900℃≦γ′ソルバス温度≦1030℃」の要求は、3原子%≦Al+Ti(原子%)≦5.6原子%の限定によって満たされることが認識できる。試験合金のV12、V13、V14、V15、V16、V17、V20、V21、V22、L04、L07、L09、L15、L16、L17及びL18は、この範囲について例示的な合金である。
【0044】
更に改善された熱変形性のためには、本発明による合金のγ′ソルバス温度は<1000℃であるべきであり、更により高い温度での組織安定性のためには、>945℃であるべきである。この範囲について、試験合金のV14、V16、V17、V20、V21、V22、L04、L15、L16、L17及びL18が例示的な合金である。945℃〜1000℃の間に限定された温度範囲は、
図2から見ることができる。
【0045】
試験合金のCo含有率は、δソルバス温度及びγ′ソルバス温度に影響を及ぼし、従ってδT(δ−γ′)にも影響を及ぼす。本発明による合金のCo含有率は高すぎてはならず、従って一次δ相は出現しない。Co含有率は<35原子%に制限される。一次δ相が出現する例示的な合金は、試験合金のL12及びL13であり、この2つは約50原子%のCo含有率を有する。
【0046】
試験合金のCo及びTiの含有率のプロットに対するη相の出現を示す
図3は、Co含有率が16原子%より大の合金の場合、安定なη相の出現を回避するために、本発明による合金のTi含有率は≦0.8原子%に制限しなければならないことを示す。Ti≦0.8原子%の例示的な合金は、試験合金のV12、V13、V14、V15、V16、V17、V21及びV22である。好ましい合金は、Ti含有率≦0.65原子%を示す。これらは、例示的な試験合金のV16、V17、V21及びV22である。
【0047】
鍛造プロセスの際に、わずかな割合のδ相は、組織の粒子微細化に利用され、つまり最後の鍛造加熱においてδソルバス温度を僅かに下回る温度から鍛造し、その都度の鍛造品の極めて微細な組織を作製する。他方で、十分に大きな鍛造温度範囲によって作業できるために、このγ′ソルバス温度は高すぎてはならず、本発明による合金のδソルバス温度を明らかに下回っていなければならない。この十分に大きな鍛造温度範囲は、≧80Kであるべきである。従って、δソルバス温度とγ′ソルバス温度との差のδT(δ−γ′)は≧80Kであるべきである。
【0048】
図4からは、合計含有率Al+Tiが≦4.7原子%であり、Co含有率が≧11.5原子%である場合に、δT(δ−γ′)≧80Kであることが認識できる。δソルバス温度とγ′ソルバス温度との間の≧140Kの大きな温度範囲も、合金のCo含有率が同時に≧15原子%である場合に可能である。
【0049】
更なる基準は、本発明による合金の組織が、800℃の時効焼鈍温度(500h後)で安定であるべきであるとする要求から生じる。この基準は、Al/Tiの比率≧5.0を示す本発明による合金により満たされる。これについて例示的な合金は、試験合金のV13、V15、V16、V17、V21及びV22である。
【0050】
第7表では、本発明による合金についてのAl/Ti比率の要求について例示的な試験合金が記載されている。
【0051】
試験合金L4、V10、V15、V16及びV17について、800℃で500hの時効焼鈍の後の例示のREM写真が、
図5a〜5eに示されている。
【0052】
第1表: AMS 5662規格によるAlloy 718合金の化学組成
【表1】
【0053】
第2表: AMS 5662規格によるAlloy 718合金の機械特性
【表2】
【0054】
第3表: AMS 5704規格によるWaspaloy合金の化学組成
【表3】
【0055】
第4表: AMS 5704規格によるWaspaloy合金の機械特性
【表4】
【0056】
第5表:試験合金(実際の分析)の化学組成(質量%)。全ての合金のC含有率は、約0.025質量%である。随伴元素に関して、それぞれの合金は必要の場合に、次の元素を含んでいてもよい:Cu、S、Mn、Si、Ca、N、O。使用の場合に応じて、その都度の合金中にWも更に4質量%まで及び/又はVも4質量%まで存在していてもよい。A 718 Plus合金及びWaspaloy合金は、それぞれWを1質量%含む。
【表5】
【0057】
第6a表:試験合金の原子%で示す元素含有率及び元素含有率の比率
【表6-1】
【0058】
第6b表:試験合金についてのδ相及びγ′相のソルバス温度、δ相とγ′相のソルバス温度の差δT(δ−γ′)、硬度10HV(A718についてのAMS 5662規格による980℃/1h+720℃/8h+620℃/8hの硬化熱処理後)及びη相についての備考。
【表6-2】
【0059】
第7表:本発明による合金についてのAl/Ti比率の要求についての例示的な試験合金
【表7】
【0060】
第8表
機械的試験値A780/A718と比較で試験した鍛造試料(溶体化焼鈍+硬化)
【表8】
【0061】
本発明の主題において更に記載された様式は、第8表との関連で
図6及び7を参照する。
【0062】
図6及び7は、新規合金(VDM Alloy 780 Premium)(ここでは装填物25、26及び27)の、先行技術に属する合金のAlloy 718(装填物420159)と比較した、20℃、650℃、700℃及び750℃での強度試験データのグラフを示す。このグラフからは、A780が、A718と比べて、比較的高い試験パラメータで、熱間引張試験でより高い強度Rp0.2を達成することが認識できる(硬化された状態での鍛造試料について測定)。
【0063】
更に、A 780は、クリープ試験及び応力破壊試験においても700℃で、650℃までの試験温度で達成されるA 718の機械特性とその他は同じ試験条件で、明らかに0.2%より低いクリープ伸び率及び応力破壊試験で>23hの明らかに長い耐用時間の所望の機械特性を達成することが確認された。
【0064】
第8表は、A 718と比較して、
図6及び7で示された装填物25〜27が示されている。ここでは、特に、A 780の装填物25〜27の引張強度Rmが、高めた温度(700℃及び750℃)で熱間引張試験においてA 718よりも高い値を達成していることは明白である。
【0065】
図面の簡単な説明
図1は、化学組成の合計含有率Al+Ti(原子%)に依存する試験合金のγ′ソルバス温度。
図2は、945℃〜1000℃の限定された温度範囲での化学組成の合計含有率Al+Ti(原子%)に依存する試験合金のγ′ソルバス温度。
図3は、試験合金のCo及びTiの含有率のプロットに対するη相の出現。
図4は、合計含有率Al+Ti(原子%)に依存する試験合金のδソルバス温度とγ′ソルバス温度との差。白抜きの四角形:Co<11.5原子%、白抜きの菱形:11.5原子%≦Co≦18原子%、黒塗りの菱形:Co>18原子%。
図5は、試験合金L4、V10、V15、V16及びV17について、800℃で500hの時効焼鈍の後の例示のREM写真。
図6は、Alloy 718と比較したA 780のバリエーション(引張試験:Rp0.2)。
図7は、Alloy 718と比較したA 780のバリエーション(引張試験:Rm)。