【文献】
OLSSON,P. et al.,"Sinterability and microstructure of La-Containing sialon materials",Structural Ceramics - Processing, Microstructure and Properties 11th RISO International Symposium on,1990年,PP.433-438,特にP.433 ABSTRACT, P.435 Table 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
La及びCeからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素Bと、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Er、Yb、及びLuからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素Cとを含み、
前記希土類元素Bと前記希土類元素Cとのモル比MB:MCは、酸化物換算で1.0:0.06〜1.0:5.0であり、
前記サイアロン焼結体中における前記希土類元素B及び前記希土類元素Cの合計含有量は、酸化物換算で0.8モル%以上4.0モル%以下であることを特徴とする請求項1に記載のサイアロン焼結体。
21R−サイアロン、12H−サイアロン、及び15R−サイアロンを含むポリサイアロンのうち、21R−サイアロンと12H−サイアロン及び/又は15Rサイアロンとを含み、
X線回折分析により得られるサイアロンのピーク強度から算出される各サイアロンのピーク強度の合計IAに対する前記ポリサイアロンのピーク強度から算出される各ポリタイプサイアロンのピーク強度の合計Ipの割合[(Ip/IA)×100]が50%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のサイアロン焼結体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のサイアロン焼結体は、β−サイアロンと21R−サイアロンとを含む。
【0013】
β−サイアロンは、通常針状の形態を有している。そのため、サイアロン焼結体中にβ−サイアロンが多く存在している場合には、針状の結晶粒同士が複雑に絡み合った組織を形成し、外部応力によるサイアロン焼結体の亀裂の進行が抑制される。すなわち、サイアロン焼結体におけるβ−サイアロンの割合が多いほど、サイアロン焼結体の耐熱衝撃性が向上する。
【0014】
21R−サイアロンは、通常柱状の形態を有している。したがって、β−サイアロンのような針状結晶粒が複雑に絡み合った組織が形成されないので、β−サイアロンに比べると耐熱衝撃性に対する効果が低い。一方、21R−サイアロンは、いずれも耐熱合金等の被削材との耐化学反応性に優れるので、被削材が溶着及び拡散し難い。したがって、サイアロン焼結体に21R−サイアロンが含まれていると耐VB摩耗性が向上する。21R−サイアロンは、ポリタイプサイアロンである。本発明のサイアロン焼結体は、β−サイアロンと21R−サイアロンと共に、さらにポリタイプサイアロンである、12H−サイアロン及び/又は15R−サイアロンを含んでいてもよい。12H−サイアロン及び15R−サイアロンは、21R−サイアロンと同様に柱状の形態を有しており、耐化学反応性に優れる。これらのポリタイプサイアロンの中でも21R−サイアロンは、アスペクト比が高く、亀裂進展に対する抵抗性が高いので、耐VB摩耗性の向上だけでなく、耐熱衝撃性の向上にも貢献すると考えられる。
【0015】
本発明のサイアロン焼結体は、X線回折分析により得られるサイアロンのピーク強度から算出される各サイアロンのピーク強度の合計I
Aに対する21R−サイアロンのピーク強度I
21Rの割合[(I
21R/I
A)×100]が5%以上30%未満であり、8%以上27%以下であるのが好ましく、10%以上25%以下であるのがより好ましい。本発明のサイアロン焼結体が、β−サイアロンと21R−サイアロンとを含み、前記割合[(I
21R/I
A)×100]が5%以上30%未満、好ましくは8%以上27%以下、より好ましくは10%以上25%以下であるので、耐熱衝撃性及び耐VB摩耗性の両方を有する。前記割合[(I
21R/I
A)×100]はサイアロン焼結体中における21R−サイアロンの含有割合の指標となる。前記割合[(I
21R/I
A)×100]が5%未満であると、サイアロン焼結体中の21R−サイアロンの含有割合が少ないことから、21R−サイアロンの耐VB摩耗性及び耐熱衝撃性の向上効果が十分に得られない。その結果、サイアロン焼結体の耐VB摩耗性及び耐熱衝撃性が劣る。前記割合[(I
21R/I
A)×100]が30%以上であると、サイアロン焼結体の耐熱衝撃性に劣る。これは、サイアロン焼結体における21R−サイアロンの割合が多くなると21R−サイアロンの粗大粒子が生成され易くなり、強度が低下するためであると考えられる。
【0016】
前記割合[(I
21R/I
A)×100]は、次のようにして求めることができる。まず、サイアロン焼結体のサンプルに対してX線回折分析(XRD)を行う。X線回折分析により得られる各サイアロンのピーク強度は、以下の2θ値におけるピーク高さを用いる。なお、21R−サイアロンを除く以下に示す各サイアロンではJCPDSカードにおける最大ピークをピーク強度として用いているのに対し、21R−サイアロンでは、JCPDSカードにおける最大ピーク以外のピークをピーク強度として用いているので、他のサイアロンのピーク高さと対比できるように、X線回折分析により得られたピーク強度に2.5を乗じた値を、計算に用いるピーク強度I
21Rとする。また、以下に示す各サイアロンとは異なる種類のサイアロンのピークが同定された場合には、X線回折チャートとJCPDSカードとを対比して、他のサイアロンに由来するピークの影響を受け難いピークを選択し、選択したピークが最大ピークでない場合には、適宜の数値を乗じてピーク強度I
xとする。
【0017】
β−サイアロンのピーク強度I
β:2θ=33.4°付近におけるピーク高さ(β−サイアロンの(1,0,1)面のピーク高さ)
21R−サイアロン(一般式:SiAl
6O
2N
6)のピーク強度I
21R:2θ=37.6°付近におけるピーク高さ×2.5(21R−サイアロンの(1,0,10)面のピーク高さ×2.5)
12H−サイアロン(一般式:SiAl
5O
2N
5)のピーク強度I
12H:2θ=32.8°付近におけるピーク高さ(12H−サイアロンの(0,0,12)面のピーク高さ)
15R−サイアロン(一般式:SiAl
4O
2N
4)のピーク強度I
15R:2θ=32.0°付近におけるピーク高さ(15R−サイアロンの(0,0,15)面のピーク高さ)
α−サイアロンのピーク強度I
α:2θ=30.8°付近におけるピーク高さ(α−サイアロンの(2,0,1)面のピーク高さ)
【0018】
前記割合[(I
21R/I
A)×100]は、前述のようにしてX線回折分析により得られた各サイアロンのピーク強度の合計I
A(=I
β+I
α+I
12H+I
15R+I
21R+I
x)を算出し、21Rサイアロンのピーク強度I
21Rを各サイアロンのピーク強度の合計I
Aで除することにより求めることができる。
【0019】
本発明のサイアロン焼結体は、室温から600℃までの熱膨張係数が、4.2ppm/K以下であるのが好ましい。室温から600℃までの熱膨張係数が4.2ppm/K以下であると、耐熱衝撃性に優れる。本発明のサイアロン焼結体からなる切削インサートすなわち本発明のサイアロン焼結体製の切削インサートがミーリング加工に使用される切削工具に使用される場合、例えば、
図2に示すように、複数の切削インサートが円周上に配置される切削工具に使用される場合、切削工具が回転して被削材の面加工等が行われる際に、切削インサートと被削材との間に摩擦熱が断続的に生じるため、切削インサートの被削材に接触している部分の切削温度が約600℃以下の温度範囲で変動する。切削温度が変動すると、切削インサートの体積の膨張及び収縮が繰り返されることにより熱亀裂が発生し易くなる。一方、切削インサートの室温から600℃までの熱膨張係数が4.2ppm/K以下であると、切削温度が変動することによる体積の膨張及び収縮を低減することができ、熱亀裂が発生し難くなる。すなわち、熱膨張係数が4.2ppm/K以下である切削インサートは、耐熱衝撃性に優れ、長寿命である。したがって、特にミーリング加工で使用される切削インサートでは、室温から600℃までの熱膨張係数が4.2ppm/K以下であるのが好ましい。
【0020】
サイアロン焼結体の室温(25℃)から600℃までの熱膨張係数は、窒素雰囲気中で10℃/minの昇温速度にて、JIS R 1618に準じて測定することができる。
【0021】
本発明のサイアロン焼結体は、室温での熱伝導率が7W/k・m以上であるのが好ましく、通常15W/k・m以下である。熱伝導率が7W/k・m以上であると、本発明のサイアロン焼結体を切削インサートとして用いた場合に、被削材を切削する際に生じる熱を逃がし易く、特にミーリング加工をする際に生じる切削温度の変動が緩和されるので、熱亀裂が発生し難くなる。すなわち、熱伝導率が7W/k・m以上である切削インサートは、耐熱衝撃性に優れ、長寿命である。したがって、特にミーリング加工で使用される切削インサートでは、熱伝導率が7W/k・m以上であるのが好ましい。
【0022】
サイアロン焼結体の室温(25℃)における熱伝導率は、JIS R 1611に準じて測定することができる。
【0023】
β−サイアロンは、Si
6−ZAl
ZO
ZN
8−Zの一般式で表され、このZ値が0.3以上1.0以下であるのが好ましく、0.6以上0.9以下であるのがより好ましい。Z値が0.3以上1.0以下、好ましくは0.6以上0.9以下であることにより、耐熱衝撃性及び耐VB摩耗性により一層優れたサイアロン焼結体を提供することができる。Z値が大きくなるほど、すなわちβ−サイアロンへのAlの固溶量が多くなるほど、耐熱合金等の被削材との化学反応が起こり難くなる。その結果、サイアロン焼結体の化学的摩耗が抑制されて耐VB摩耗性が向上する。一方、β−サイアロンにAlが固溶することによりイオン結合性が高まり、原子間の結合距離が広がる。そのため、β−サイアロンへのAlの固溶量が多くなるほどβ−サイアロンの粒子が脆弱となるため強度が低下し、耐熱衝撃性が低下する。また、β−サイアロンへのAlの固溶量が多くなるほど、β−サイアロンの形態が針状から柱状へと変化してアスペクト比が低下する。その結果、針状結晶粒の複雑に絡み合った組織が形成され難くなり、亀裂進展に対する抵抗性が低下するため、耐熱衝撃性が低下する。したがって、Z値が1.0を超えると、サイアロン焼結体を切削インサートとして使用した場合に、耐熱合金をミーリング加工で粗加工する際に必要な耐熱衝撃性が得られないおそれがある。Z値が0.3未満であると、サイアロン焼結体を切削インサートとして使用した場合に、耐熱合金等の被削材との反応性が高まり、耐VB摩耗性に劣るおそれがある。したがって、Z値が0.3未満であると、中仕上げ加工に必要な耐VB摩耗性が得られないおそれがある。
【0024】
前記Z値(Z)は、次のようにして求めることができる。X線回折分析によりサイアロン焼結体の焼肌から1mm以上内部のβ−サイアロンのa軸格子定数を測定し、この測定値aとβ−窒化珪素のa軸格子定数(7.60442Å)とを用いて、以下の式(1)により求めることができる。
Z=(a−7.60442)/0.0297 ・・・(1)
【0025】
本発明のサイアロン焼結体は、La及びCeからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素Bと、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Er、Yb、及びLuからなる群より選択される少なくとも一種の希土類元素Cとを含むのが好ましい。サイアロン焼結体に希土類元素B及び希土類元素Cが含まれているとき、通常、サイアロン焼結体の原料粉末に希土類元素B及び希土類元素Cが含まれている。サイアロン焼結体の原料粉末に希土類元素Cのみが含まれていると、α−サイアロンが生成され易くなる。また、サイアロン焼結体の原料粉末に希土類元素Bのみが含まれていると、焼結性が低下し、緻密なサイアロン焼結体が得られ難い。また、仮に焼結できたとしても、ポリタイプサイアロンが生成され易くなり、相対的にβ−サイアロンが生成され難くなる結果、耐熱衝撃性に劣るおそれがある。一方、原料粉末として希土類元素Bと希土類元素Cとの両方が含まれていると、サイアロン焼結体の焼結時に、α−サイアロンの生成を抑えてβ−サイアロンと21R−サイアロンとが生成され易くなる。サイアロン焼結体は、希土類元素BのうちLaを含むのが好ましい。LaはCeよりもβ−サイアロンを針状にし易く、針状結晶粒が複雑に絡み合った組織を形成し易い。サイアロン焼結体は、希土類元素CのうちY、Dy、及びErからなる群より選択される少なくとも一種を含むのが好ましい。これらの希土類元素Cは少量の添加で焼結性を向上させることができる。
【0026】
本発明のサイアロン焼結体中における前記希土類元素Bと前記希土類元素Cとのモル比M
B:M
Cは、酸化物換算で1.0:0.06〜1.0:5.0であるのが好ましく、1.0:0.1〜1.0:3.0であるのがより好ましい。言い換えると、希土類元素Bと希土類元素Cとのモル比M
C/M
Bは、0.06以上5.0以下であるのが好ましく、0.1以上3.0以下であるのがより好ましい。前記モル比M
B:M
Cが、酸化物換算で1.0:0.06〜1.0:5.0、特に1.0:0.1〜1.0:3.0であると、焼結時にβ−サイアロンと21R−サイアロンとが所望の含有割合で生成され易く、耐熱衝撃性及び耐VB摩耗性に優れたサイアロン焼結体を提供することができる。前記モル比M
C/M
Bが0.06未満である場合、焼結性が低下し、緻密なサイアロン焼結体が得られ難い。また、仮に焼結できたとしても、形成されたサイアロン焼結体は耐熱衝撃性に劣るおそれがある。前記モル比M
C/M
Bが5.0より大きい場合、焼結時にα−サイアロンが生成され易く、21R−サイアロンが生成され難くなる。その結果、耐熱衝撃性に劣るおそれがある。仮に21R−サイアロンが生成されたとしても、前記モル比M
C/M
Bが5.0を超えると、粒界相にガーネット型結晶構造を有する結晶が析出し易くなる。そのため、形成されたサイアロン焼結体が脆くなり易く、切削インサートとして使用した場合に耐熱衝撃性に劣るおそれがある。
【0027】
サイアロン焼結体中における希土類元素B及び希土類元素Cの合計含有量は、酸化物換算で0.8モル%以上4.0モル%以下であるのが好ましく、1.0モル%以上3.0モル%以下であるのがより好ましい。前記含有量が、酸化物換算で0.8モル%以上4.0モル%以下、特に1.0モル%以上3.0モル%以下であると、焼結時にβ−サイアロンと21R−サイアロンとが所望の含有割合で生成され易い。その結果、耐熱衝撃性及び耐VB摩耗性に優れ、緻密なサイアロン焼結体を提供することができる。前記含有量が酸化物換算で0.8モル%未満である場合、焼結性が低下し、緻密なサイアロン焼結体が得られないおそれがある。また、仮に焼結できたとしてもβ−サイアロンの形態が針状になり難く、針状結晶粒が複雑に絡み合った組織が得られないおそれがある。そのため、形成されたサイアロン焼結体は耐熱衝撃性に劣るおそれがある。前記含有量が、酸化物換算で4.0モル%より大きい場合、粒界相が偏析し易くなり、その結果サイアロン焼結体の強度が低下し、耐熱衝撃性に劣るおそれがある。また、前記含有量が、酸化物換算で4.0モル%より大きい場合、サイアロンに固溶しなかった希土類元素B及びCが粒界相に多く残存することにより軟らかい粒界相が多く形成され易くなる。そのため、形成されたサイアロン焼結体は耐熱衝撃性に劣るおそれがある。
サイアロン焼結体における希土類元素B及び希土類元素Cそれぞれの含有量及び合計含有量は、蛍光X線分析又は化学分析を用いて測定することができる。
【0028】
本発明のサイアロン焼結体は、α−サイアロンを含まないか、或いは特定の割合で含むのが好ましい。α−サイアロンは、通常球状の形態を有する。そのため、サイアロン焼結体におけるα−サイアロンの含有割合が多くなるほど、脆くなり、耐熱衝撃性が低下し易くなる。一方、サイアロン焼結体におけるα−サイアロンの含有割合が多くなるほど、硬度が高くなるので、耐VB摩耗性が向上し易くなる。したがって、本発明のサイアロン焼結体は、X線回折分析により得られる各サイアロンの前記ピーク強度の合計I
Aに対するα−サイアロンのピーク強度I
αの割合[(I
α/I
A)×100]が0%以上25%以下であるのが好ましく、3%以上15%以下であるのがより好ましい。前記割合[(I
α/I
A)×100]が0%以上25%以下、特に3%以上15%以下であると、耐熱衝撃性及び耐VB摩耗性により一層優れたサイアロン焼結体を提供することができる。前記割合[(I
α/I
A)×100]は、サイアロン焼結体中におけるα−サイアロンの含有割合の指標となる。前記割合[(I
α/I
A)×100]が25%を超えると、耐VB摩耗性が向上する一方で、耐熱衝撃性が低下し易くなる。
【0029】
前記割合[(I
α/I
A)×100]は、前述のようにしてX線回折分析により得られた各サイアロンのピーク強度の合計I
A(=I
β+I
α+I
12H+I
15R+I
21R+I
x)を算出し、α−サイアロンのピーク強度I
αを各サイアロンのピーク強度の合計I
Aで除することにより求めることができる。
【0030】
本発明のサイアロン焼結体は、α−サイアロンのピーク強度I
αの割合[(I
α/I
A)×100]が0%以上25%以下であるとき、M
x(Si,Al)
12(O,N)
16(0<x≦2)で表されるα−サイアロンにおいて、Mは前記希土類元素Bと前記希土類元素Cとを含む金属元素であり、サイアロン焼結体における希土類元素Cに対する希土類元素Bの原子比A
Sに対するα−サイアロンにおける希土類元素Cに対する希土類元素Bの原子比A
αの割合A
α/A
Sが70%以下であるのが好ましい。
【0031】
α−サイアロンのピーク強度I
αの割合[(I
α/I
A)×100]が0%以上25%以下であるとき、前記割合A
α/A
Sが70%以下であるサイアロン焼結体は、耐熱衝撃性及び耐VB摩耗性が向上する。希土類元素Bはイオン半径が大きく、単体ではα−サイアロンに侵入固溶しないことが知られている。しかし、サイアロン焼結体の原料粉末に、希土類元素Bと希土類元素Cとの両方を添加することで、希土類元素Cがα−サイアロンに侵入固溶するときに希土類元素が侵入可能なサイトがやや広がるため、希土類元素Bをα−サイアロンに侵入固溶させることができる。希土類元素Bと希土類元素Cとの両方が侵入固溶しているα−サイアロンは、希土類元素Cが単独で侵入固溶しているα−サイアロンに比べて脱粒が起こり難い。よって、希土類元素Bと希土類元素Cとの両方が侵入固溶しているα−サイアロンは、耐熱衝撃性に優れる。そして、前記割合A
α/A
Sが70%以下、すなわち希土類元素Cに対する希土類元素Bの原子比がサイアロン焼結体全体よりもα−サイアロンの方が少なく、70%以下であり、α−サイアロンへの希土類元素Bの侵入固溶率が小さくなっているとき、粒界相とα−サイアロンの界面結合力が一層高まる。その結果、より脱粒が起こり難くなるため耐熱衝撃性に優れる。
α−サイアロンに含まれる希土類元素B及び希土類元素Cの含有量は、透過型電子顕微鏡に付属されている元素分析器(EDS)を用いて測定することができる。
【0032】
本発明のサイアロン焼結体は、21R−サイアロン、12H−サイアロン、及び15R−サイアロンを含むポリサイアロンのうち、少なくとも21R−サイアロンを含んでいればよく、21R−サイアロン以外に12H−サイアロン及び/又は15Rサイアロンを含んでいてもよい。本発明のサイアロン焼結体が、21R−サイアロンと12H−サイアロン及び/又は15Rサイアロンとを含んでいる場合には、X線回折分析により得られるサイアロンのピーク強度から算出される各サイアロンのピーク強度の合計I
Aに対する前記ポリサイアロンのピーク強度から算出される各ポリタイプサイアロンのピーク強度の合計I
pの割合[(I
p/I
A)×100]が5%以上50%以下であるのが好ましく、7%以上40%以下であるのが好ましく、10%以上30%以下であるのがより好ましい。前記割合[(I
p/I
A)×100]は、サイアロン焼結体中におけるポリタイプサイアロンの含有割合の指標となる。本発明のサイアロン焼結体が、21R−サイアロン以外に12H−サイアロン及び/又は15R−サイアロンを前記割合で含んでいると、耐熱衝撃性及び耐VB摩耗性を有する。前記割合[(I
p/I
A)×100]が5%未満である場合には、サイアロン焼結体中の21R−サイアロンの含有割合が5%未満になることから、21R−サイアロンの耐VB摩耗性及び耐熱衝撃性の向上効果が十分に得られない。その結果、耐VB摩耗性及び耐熱衝撃性に劣る。前記割合[(I
p/I
A)×100]が50%を超えると、特に60%を超えると、サイアロン焼結体中のポリタイプサイアロンの含有割合が多く、相対的にβ−サイアロンの含有割合が少なくなる。そのため、耐熱衝撃性に劣るおそれがある。
前記割合[(I
p/I
A)×100]は、前述のようにしてX線回折分析により得られた各サイアロンのピーク強度の合計I
A(=I
β+I
α+I
12H+I
15R+I
21R+I
x)及びポリタイプサイアロンのピーク強度の合計I
p(=I
12H+I
15R+I
21R)を算出し、ポリタイプサイアロンのピーク強度の合計I
pを各サイアロンのピーク強度の合計I
Aで除することにより求めることができる。
【0033】
本発明のサイアロン焼結体は、サイアロン焼結体に対してβ−サイアロンと21R−サイアロンを含むポリタイプサイアロンとα−サイアロンとからなるサイアロンを合計で70面積%以上99面積%以下含むのが好ましく、85面積%以上97面積%以下含むのがより好ましい。サイアロン焼結体に前記割合でサイアロンが含まれていると、これらのサイアロンの特性がサイアロン焼結体の特性として反映され易い。本発明のサイアロン焼結体は、前記サイアロン以外に例えばSiC、TiN、TiCN、TiC、WCなどの硬質炭窒化物を含んでいてもよい。前記割合でサイアロン焼結体中に含まれるサイアロンは、サイアロン焼結体中でサブミクロンから数ミクロン程度の短軸径で、1〜20程度のアスペクト比を有する結晶粒として存在することが多い。この結晶粒同士の間には非晶質又は部分的に結晶質である粒界相が存在する。粒界相は、サイアロン焼結体の焼結時に液相として存在してサイアロン焼結体の焼結性の向上に寄与する。
【0034】
サイアロン焼結体に対するサイアロンの合計割合は、次のようにして求めることができる。サイアロン焼結体を任意の平面で切断し、鏡面加工した切断面を走査型電子顕微鏡により2000〜5000倍の倍率で撮影する。得られた微構造写真を画像分析して、サイアロンとこれら以外の相とを分類し、それぞれの面積を測定する。前記合計割合は、写真全体の面積に対するサイアロンの面積の割合を算出することにより求めることができる。
【0035】
本発明のサイアロン焼結体は、耐熱衝撃性及び耐VB摩耗性を有する。すなわち、本発明のサイアロン焼結体はサイアロン焼結体を切削インサートとして使用して耐熱合金等の被削材を切削加工する場合に、粗加工及び中仕上げ加工の両方で十分な切削性能を長期間にわたって発揮することができる。特に、ミーリング加工において粗加工から中仕上げ加工の両方で十分な切削性能を長期間にわたって発揮することができる。
【0036】
本発明のサイアロン焼結体の製造方法の一例を以下に説明する。α−Si
3N
4粉末、Al
2O
3粉末、AlN粉末等のサイアロンを構成する元素を含む粉末と、希土類元素Bの酸化物粉末であるLa
2O
3粉末及びCeO
2粉末のうちの少なくとも一種と、希土類元素Cの酸化物粉末であるY
2O
3粉末、Nd
2O
3粉末、Sm
2O
3粉末、Eu
2O
3粉末、Gd
2O
3粉末、Dy
2O
3粉末、Er
2O
3粉末、Yb
2O
3粉末、及びLu
2O
3粉末のうちの少なくとも一種とを混合し原料粉末とする。なお、α−Si
3N
4粉末は、フッ素酸等で酸処理等を施すことにより酸化ケイ素(SiOx)等の酸化物層を除去し、酸素の含有量を1.0質量%未満とすることにより、サイアロン焼結体に21R−サイアロンを生成させ易くすることができる。また、AlNの代わりに21R−サイアロン粉末を用いてもよい。酸化物の代わりに水酸化物を用いても良い。原料粉末は、平均粒径5μ以下、好ましくは3μ以下、さらに好ましくは1μ以下の粉末を用いるのが好ましい。これらの原料粉末は焼結後のサイアロン焼結体の組成を考慮してそれぞれの配合割合を決めればよい。
【0037】
次に、調製した原料粉末と、エタノールに溶解したマイクロワックス系の有機バインダとエタノールとを、Si
3N
4製のポットに投入し、Si
3N
4製のボールを用いて、原料粉末を湿式混合する。得られたスラリーを十分に乾燥させ所望の形状にプレス成形する。得られた成形体を加熱装置内において、1気圧の窒素雰囲気下、400〜800℃にて、60〜120分間の脱脂処理を施す。さらに、脱脂した成形体をSi
3N
4製の容器内に配置し、窒素雰囲気下、1700〜1900℃で120〜360分間にわたり加熱することにより、サイアロン焼結体を得ることができる。得られたサイアロン焼結体の理論密度が99%未満の場合は、さらに1000気圧の窒素雰囲気下、1500〜1700℃で120〜240分のHIP処理を行い、理論密度で99%以上の緻密体を得る。
【0038】
本発明のサイアロン焼結体は、切削インサートとして用いることができる。
図1は、本発明の切削インサートの一実施例を示す概略説明図である。
図2は、
図1に示す切削インサートを備えた切削工具の一実施例を示す概略説明図である。
図1に示すように、この実施形態の切削インサート1は、略円筒形状であり、フライスカッター用ホルダー11等に装着されて切削工具10として使用される。フライスカッター用ホルダー11は、その円周上の複数箇所に取付部12を備えている。切削インサート1はこの取付部12に着脱可能に取り付けられる。この切削工具10は、耐熱合金等の被削材のミーリング加工(フライス加工)等に使用される。本発明のサイアロン焼結体からなる切削インサート1すなわち本発明のサイアロン焼結体を素材とする切削インサート1は、
図2に示すように、ミーリング加工を行うためのフライスカッター用ホルダに装着されて使用される以外に、旋削加工を行う旋削加工用ホルダーに装着されて使用されることもできる。本発明のサイアロン焼結体は、耐熱衝撃性と耐VB摩耗性とを有するので、特にミーリング加工を行うことのできる切削工具に好適に用いられ、粗加工から中仕上げ加工まで汎用的に使用することができる。
【0039】
この実施形態の切削インサート1は、本発明のサイアロン焼結体により形成されている。この切削インサート1は前述したサイアロン焼結体により形成されているので、耐熱衝撃性及び耐VB摩耗性を有する。すなわち、この切削インサート1は、耐熱合金等の被削材の粗加工、特にミーリング加工に耐える耐熱衝撃性と、中仕上げ加工で美麗な加工面を得るのに求められる耐VB摩耗性とを有し、特にミーリング加工において粗加工から中仕上げ加工まで汎用的に使用することができる。この切削インサート1は、インコネル718等のNiを主成分として含む耐熱合金及びワスパロイ等のNiを主成分とし、Coを10質量%以上含む耐熱合金等を被削材とする切削加工に好適に用いられる。
【0040】
本発明の切削インサートは、別の実施形態として、前記サイアロン焼結体と、前記サイアロン焼結体の外周面の少なくとも一部に設けられた、TiN、Ti(C,N)、TiC、Al
2O
3、(Ti,Al)N、及び(Ti,Si)Nに代表される各種硬質炭酸窒化物からなる被膜とにより形成されていてもよい。切削インサートがサイアロン焼結体の切れ刃の少なくとも一部に前記被膜が設けられていると、前記被膜は被削材との反応性が低く、高硬度なために、より一層耐摩耗性が向上する。
【0041】
本発明のサイアロン焼結体は、切削インサートに限定されず、他の切削工具、機械用部品、耐熱部品、耐摩耗部品等として、使用することができる。
【実施例】
【0042】
(切削インサートの作製)
平均粒径1.0μm以下のα−Si
3N
4粉末、Al
2O
3粉末、AlN粉末と、希土類元素の酸化物粉末とを表1〜表3に示す組成となるように配合し、原料粉末とした。なお、α−Si
3N
4粉末は、必要に応じてフッ素酸で酸処理を行うか、酸素量の少ない試薬を用いた。次に、配合した原料粉末と、エタノールに溶解したマイクロワックス系の有機バインダとエタノールとを、Si
3N
4製のポットに投入し、Si
3N
4製のボールを用いて、原料粉末を湿式混合した。得られたスラリーを十分に乾燥させ、ISO規格でRNGN120700T01020の切削インサートの形状にプレス成形した。得られた成形体を加熱装置内において、1気圧の窒素雰囲気下、約600℃にて、60分間の脱脂処理を施した。さらに、脱脂した成形体をSi
3N
4製の容器内に配置し、窒素雰囲気下、1850℃で240分間にわたり加熱し、サイアロン焼結体を得た。得られたサイアロン焼結体の理論密度が99%未満の場合は、さらに1000気圧の窒素雰囲気下、1600℃で180分間のHIP処理を行い、理論密度で99%以上の緻密体を得た。このサイアロン焼結体をダイヤモンド砥石で研磨加工することにより、ISO規格でRNGN120700T01020の形状に整え、切削工具用の切削インサートを得た。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
(切削インサートの分析)
得られたサイアロン焼結体を分析した結果を表4〜表6に示す。
【0047】
サイアロン焼結体に含有されるサイアロンの種類は、得られたサイアロン焼結体をX線回折分析することにより同定した。
【0048】
サイアロン焼結体を切断し、鏡面加工した切断面を走査型電子顕微鏡により観察したところ、いずれのサイアロン焼結体においても結晶粒同士の間に部分的に結晶を含む非晶質の粒界相が観察された。また、走査型電子顕微鏡により撮影した写真を分析して、サイアロンとサイアロン以外の相とに分類し、それぞれの面積を測定したところ、写真全体の面積に対するサイアロンの面積の割合は、試験番号4、24、25、28は、70〜85面積%であり、試験番号1、3、5〜23、27、29、30は、85〜95面積%であり、試験番号2、26は95〜99面積%であった。
【0049】
β−サイアロンのZ値は、得られたサイアロン焼結体をX線回折分析し、前述したように式(1)を用いて求めた。
【0050】
21R−サイアロンの含有量、ポリタイプサイアロンの総含有量、及びα−サイアロンの含有量は、得られたサイアロン焼結体をX線回折分析し、前述したように各サイアロンのピーク強度の合計I
Aに対する21R−サイアロンのピーク強度I
21Rの割合[(I
21R/I
A)×100]、各サイアロンのピーク強度の合計I
Aに対する各ポリタイプサイアロンのピーク強度の合計I
pの割合[(I
p/I
A)×100]、及び各サイアロンのピーク強度の合計I
Aに対するα−サイアロンのピーク強度I
αの割合[(I
α/I
A)×100]をそれぞれ算出して求めた。
【0051】
得られたサイアロン焼結体の室温(25℃)から600℃までの熱膨張係数は、窒素雰囲気中で10℃/minの昇温速度にて、JIS R 1618に準じて測定した。
【0052】
得られたサイアロン焼結体に含まれる、希土類元素B及び希土類元素Cの含有量は、蛍光X線分析により求めた。
【0053】
α−サイアロンに含まれる、希土類元素B及び希土類元素Cの含有量は、透過型電子顕微鏡に付属されているEDSを用いて測定した。具体的には、5個以上のα−サイアロン粒子をEDS分析し、得られた値の平均値を算出して求めた。
【0054】
得られたサイアロン焼結体の室温(25℃)における熱伝導率を、JIS R 1611に準じて測定したところ、試験番号1〜23、25、29、30は、7W/k・m以上であり、試験番号24、26〜28は、7W/k・m未満であった。
【0055】
(切削インサートの切削性能の評価)
得られた切削インサートを
図2に示すフライスカッター用ホルダーに装着して、以下の切削加工条件で切削試験を行った。切削加工において、次のいずれかに達したときの加工距離を表4〜表6に示した。
(1)VB摩耗が0.3mmを超えたとき(VB)
(2)耐熱衝撃性不足による熱亀裂から欠損を生じたとき(TC)
【0056】
[切削加工条件1]
被削材:インコネル718
切削速度:1000m/min
送り速度:0.2mm/tooth
切り込み:1mm
切削油:なし
【0057】
[切削加工条件2]
被削材:インコネル718
切削速度:1200m/min
送り速度:0.17mm/tooth
切り込み:1mm
切削油:なし
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
表4〜表6に示されるように、本発明の範囲内の切削インサートは、切削加工において、VB摩耗が0.3mmを超えるまで及び耐熱衝撃性不足による熱亀裂から欠損が生じるまでの加工時間が長く、耐VB摩耗性及び耐熱衝撃性を有することが分かる。したがって、本発明の範囲内の切削インサートは、インコネル718等の耐熱合金を被削材として、粗加工及び中仕上げ加工の両方に使用することができる。一方、本発明の範囲外の切削インサートは、本発明の切削インサートに比べて、VB摩耗が0.3mmを超えるまで又は耐熱衝撃性不足による熱亀裂から欠損が生じるまでの加工時間が短く、耐VB摩耗性及び耐熱衝撃性のうちの少なくとも一つに劣ることが分る。
【0062】
以下に、表4〜表6の試験結果についてより具体的に説明する。
表4に示すように、21R−サイアロンの含有量が5%未満である試験番号17、21〜23、25、29の切削インサートは、本発明の範囲内にある切削インサートに比べて、加工時間が短い。前記切削インサートは、寿命要因がVB摩耗又は耐熱衝撃性不足による欠損であることから、21R−サイアロンの含有量が5%未満であると、耐VB摩耗及び耐熱衝撃性のいずれかに劣ることが分かる。
【0063】
表4に示すように、21R−サイアロンの含有量が30%以上である試験番号19及び20の切削インサートは、本発明の範囲内にある切削インサートに比べて、加工時間が短い。前記切削インサートは寿命要因が耐熱衝撃性不足による欠損であることから、21R−サイアロンの含有量が30%以上であると、耐熱衝撃性に劣ることが分かる。
【0064】
表4に示すように、熱膨張係数が4.2ppm/Kより大きい試験番号20、21、24の切削インサートは、試験番号1〜16、18、26〜28、30の切削インサートに比べて加工時間が短い。前記切削インサートは寿命要因が耐熱衝撃性不足による欠損であることから、熱膨張係数が4.2ppm/Kより大きいと、耐熱衝撃性に劣る傾向にあることが分かる。
【0065】
表4に示すように、21R−サイアロンに加えて21R−サイアロン以外のポリタイプサイアロンを含み、その総含有量が50%より大きい試験番号19の切削インサートは、試験番号1〜16、18、26〜28、30の切削インサートに比べて加工時間が短い。前記切削インサートは寿命要因が耐熱衝撃性不足による欠損であることから、ポリタイプサイアロンの総含有量が50%より大きいと、耐熱衝撃性に劣る傾向にあることが分かる。
【0066】
表4に示すように、α−サイアロンの含有量が25%より大きい試験番号21の切削インサートは、試験番号1〜16、18、26〜28、30の切削インサートに比べて、加工時間が短い。前記切削インサートは寿命要因が耐熱衝撃性不足による欠損であることから、α−サイアロンの含有量が25%より大きいと、耐熱衝撃性に劣る傾向にあることが分かる。
【0067】
表4に示すように、α−サイアロンを含む切削インサートのうち割合A
α/A
Sが70%を超える試験番号30の切削インサートは、試験番号1、3〜16、18の切削インサートに比べて、加工時間が短い。試験番号30の切削インサートの寿命要因が耐欠損性不足による欠損であることから、割合A
α/A
Sが70%を超えると、耐熱衝撃性に劣る傾向にあることが分かる。
【0068】
表5に示すように、β−サイアロンのZ値が0.3未満である試験番号Eの切削インサートは、試験番号A〜Cの切削インサートに比べて、加工時間が短い。また、試験番号Eの切削インサートは、寿命要因がVB摩耗であることから、β−サイアロンのZ値が0.3未満であると、耐VB摩耗性に劣る傾向にあることが分る。
【0069】
表5に示すように、β−サイアロンのZ値が1.0より大きい試験番号Dの切削インサートは、試験番号A〜Cの切削インサートに比べて、加工時間が短い。また、試験番号Dの切削インサートは、寿命要因が耐熱衝撃性不足による欠損であることから、β−サイアロンのZ値が1.0より大きいと、耐熱衝撃性に劣る傾向にあることが分かる。
【0070】
表6に示すように、希土類元素B及び希土類元素Cを含んでおり、モル比M
C/M
Bが0.06未満である試験番号ivの切削インサートは、試験番号i〜iiiの切削インサートに比べて、加工時間が短い。また、試験番号ivの切削インサートは、寿命要因が耐熱衝撃性不足による欠損であることから、モル比M
C/M
Bが0.06未満であると、耐熱衝撃性に劣る傾向にあることが分る。
【0071】
表6に示すように、モル比M
C/M
Bが5.0より大きい試験番号vの切削インサートは、試験番号i〜iiiの切削インサートに比べて、加工時間が短い。試験番号vの切削インサートは、寿命要因が耐熱衝撃性不足による欠損であることから、モル比M
C/M
Bが5.0より大きいと、耐熱衝撃性に劣る傾向にあることが分る。
【0072】
表4に示すように、希土類元素Bの含有量及び希土類元素Cの含有量の合計が0.8モル%未満である試験番号26の切削インサートは、試験番号1〜16、18、27、28、30の切削インサートに比べて、加工時間が短い。試験番号26の切削インサートは、寿命要因が耐熱衝撃性不足による欠損であることから、希土類元素Bの含有量及び希土類元素Cの含有量の合計が0.8モル%未満であると、耐熱衝撃性に劣る傾向にあることが分かる。
【0073】
表4に示すように、希土類元素Bの含有量及び希土類元素Cの含有量の合計が4.0モル%より大きい試験番号24の切削インサートは、試験番号1〜16、18、26〜28、30の切削インサートに比べて、加工時間が短い。また、試験番号24の切削インサートは寿命要因が耐熱衝撃性不足による欠損であることから、希土類元素B及びCの含有量が4.0モル%より大きいと、耐熱衝撃性に劣る傾向にあることが分かる。