特許第6161882号(P6161882)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6161882打設されたコンクリートの品質判定用型枠及び養生終了時期判定用型枠
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6161882
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】打設されたコンクリートの品質判定用型枠及び養生終了時期判定用型枠
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20170703BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20170703BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   G01N27/04 Z
   E04G21/02 104
   G01N33/38
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-176634(P2012-176634)
(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公開番号】特開2014-35269(P2014-35269A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年7月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年2月11日 学校法人芝浦工業大学 芝浦工業大学工学部土木工学科卒業研究概要集(平成23年度 卒業論文)第19〜20頁の「四電極法による養生終了タイミングの推定手法の提案」に発表、平成24年3月14日 公益社団法人土木学会 土木学会関東支部技術研究発表会講演概要集 V巻43号の「養生条件の相違が比抵抗に与える影響」に発表、平成24年7月6日 社団法人日本コンクリート工学協会 コンクリート工学年次論文集 34巻の「直流比抵抗を用いたコンクリートの養生終了タイミング判断手法に関する基礎的研究」に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000172813
【氏名又は名称】佐藤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073210
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 信昭
(72)【発明者】
【氏名】伊代田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】三坂 岳広
【審査官】 佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−125526(JP,A)
【文献】 特開2009−008521(JP,A)
【文献】 特開平08−278268(JP,A)
【文献】 特開平02−284051(JP,A)
【文献】 実開昭52−023582(JP,U)
【文献】 実開平01−144854(JP,U)
【文献】 米国特許第06023170(US,A)
【文献】 関 博 他,比抵抗によるコンクリートの緻密性に関する実験的一考察,土木学会論文集,1992年 8月,No.451,pp. 49-57
【文献】 村瀬 知孝 他,比抵抗によるセメント混合土の硬化モニタリング,第38回地盤工学研究発表会,2003年 7月,セッションID:29,p. 57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/10
G01N 27/14−27/24
G01N 33/00−33/46
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠内にコンクリートを打設し、養生を施した後、コンクリート内に少なくとも一部が埋没する4本を一組とする複数本の電極に対して、打設されたコンクリート外から電圧を印加して、実構造物のコンクリートから直接計測した値に基く四電極法によって打設されたコンクリート内の比抵抗値を下記式を用いて算出し、得られた比抵抗値に基いて打設されたコンクリートの水和反応の進行度を把握することにより、実構造物である硬化途中の型枠内にある状態の打設されたコンクリートの養生中における品質を、硬化途中の型枠中にある状態の下で判定する方法、に用いる型枠であって、
前記型枠の構成が、
実構造物である硬化途中の型枠内にある状態の打設されたコンクリート内に少なくとも一端が埋没するように型枠内に突出した状態で配設される複数本の電極と、
該電極に通電可能に結線される通電手段と、
該通電手段を介して前記電極に通電し、前記電極に流れる電流値と前記複数の電極間の電位差を計測する計測手段と、
を有する構成であり、
前記電極の一組が、前記型枠の内面から打設されたコンクリート内の特定深さに埋設される位置に打設されたコンクリートとの通電部を設けた構成であり、
前記電極の通電部の特定深さが、前記型枠の内面から打設されたコンクリート内に0mm〜50mmの範囲であり、
前記電極が、針金であり、且つ、打設されたコンクリート内に埋設する部分のうち、打設されたコンクリートとの通電部を露出状態とし、通電部以外を絶縁被覆状態とした構成であり、
前記通電手段が、電圧の印加をパルス波を用いて行う構成であること、
を特徴とする打設されたコンクリートの品質判定用型枠。
【数3】
I:4本の電極のうち、外側2本の電極を流れる電流(mA)
V:内側2本の電極間の電位差(V)
a:電極の間隔(cm)
ρ:比抵抗値
【請求項2】
請求項1に記載の品質判定用型枠と同構成であると共に、前記の実構造物である硬化途中の型枠内にある状態の打設されたコンクリートの養生中における品質判定方法から得られたデータに基く養生終了時期判定方法によって判定された養生を終了する適切な時期に取り外される構成の養生終了時期判定用型枠
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は打設されたコンクリートの養生中における品質判定方法及び養生終了時期判定方法並びに養生状況判定用型枠に関し、詳しくは硬化途中の型枠中のコンクリートの品質を判定する方法と、この判定に基いて養生終了時期を判定する方法、並びにこれらの判定方法に用いる型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの養生は、長期的な強度発現や耐久性に大きな影響を及ぼすことが知られており、養生を怠ると早期劣化の原因となる。従って、打設されたコンクリートに対する養生を適切に施すことが重要である。
【0003】
コンクリートを長期的に長持ちさせるためには、強度のみならず各種劣化に対する耐久性が必要不可欠であり、コンクリートの空隙やひび割れといった欠陥を抑制すること、特にコンクリート表面を欠陥のない緻密な状態とするかが重要である。この点、一般的に養生が不足したコンクリートは粗雑な空隙構造をとることが知られており、養生を適切に施したものに比して早期劣化が起こり易いことが判っている。
【0004】
そして、施した養生の終了時期の判断基準としては、強度として10N/mm以上発現した時点で型枠を外すことができるとの規定と、それ以降の養生は湿潤状態に保持した状態でセメント種類と周囲温度との関係で必要な養生日数が示されているのみであり、現状における養生終了時期の判断は、実構造物ではなされておらず、室内試験における供試体による均一なコンクリートでの確認が行われている程度である。
【0005】
特に、実構造物の場合、コンクリートが型枠の中にある状態では強度発現時期が不明瞭であるため、脱型後にコンクリートの非破壊試験を施し検査するか、脱型までの日数を一義的に決定する方法のいずれかしか選択肢がないのが実状である。
【0006】
尚、特許文献1には、実構造物である覆工コンクリートの打設されたコンクリート内の温度を測定し、この測定した温度と同条件下で供試体を養生して強度試験を行うことにより該供試体の強度発現をもって実構造物の強度発現と置換推定して脱型時期を判定する技術が提案されている。
【0007】
いずれの方法においても、実構造物での養生状況を実際に捉えたものではないため、推測の域に留まるものであり、実構造物の養生状況を把握することはできないため、場合によっては脱型した後に強度不足が確認されることがあり、この場合には強度確保のための相応の処方を行う必要があった。従って、養生終了時期を判定する際に高い安全率を確保する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−002721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の課題は、実構造物である硬化途中の型枠中にある状態のコンクリートを直接計測することによって確度の高い品質判定・養生終了時期判定が可能となる打設されたコンクリートの養生中における品質判定方法及び養生終了時期判定方法並びに品質判定用型枠を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、下記構成を有する。
【0011】
1.型枠内にコンクリートを打設し、養生を施した後、コンクリート内に少なくとも一部が埋没する4本を一組とする複数本の電極に対して、打設されたコンクリート外から電圧を印加して、実構造物のコンクリートから直接計測した値に基く四電極法によって打設されたコンクリート内の比抵抗値を下記式を用いて算出し、得られた比抵抗値に基いて打設されたコンクリートの水和反応の進行度を把握することにより、実構造物である硬化途中の型枠内にある状態の打設されたコンクリートの養生中における品質を、硬化途中の型枠中にある状態の下で判定する方法、に用いる型枠であって、
前記型枠の構成が、
実構造物である硬化途中の型枠内にある状態の打設されたコンクリート内に少なくとも一端が埋没するように型枠内に突出した状態で配設される複数本の電極と、
該電極に通電可能に結線される通電手段と、
該通電手段を介して前記電極に通電し、前記電極に流れる電流値と前記複数の電極間の電位差を計測する計測手段と、
を有する構成であり、
前記電極の一組が、前記型枠の内面から打設されたコンクリート内の特定深さに埋設される位置に打設されたコンクリートとの通電部を設けた構成であり、
前記電極の通電部の特定深さが、前記型枠の内面から打設されたコンクリート内に0mm〜50mmの範囲であり、
前記電極が、針金であり、且つ、打設されたコンクリート内に埋設する部分のうち、打設されたコンクリートとの通電部を露出状態とし、通電部以外を絶縁被覆状態とした構成であり、
前記通電手段が、電圧の印加をパルス波を用いて行う構成であること、
を特徴とする打設されたコンクリートの品質判定用型枠。
【数1】
I:4本の電極のうち、外側2本の電極を流れる電流(mA)
V:内側2本の電極間の電位差(V)
a:電極の間隔(cm)
ρ:比抵抗値
【0017】
2.上記1記載の品質判定用型枠と同構成であると共に、前記の実構造物である硬化途中の型枠内にある状態の打設されたコンクリートの養生中における品質判定方法から得られたデータに基く養生終了時期判定方法によって判定された養生を終了する適切な時期に取り外される構成の養生終了時期判定用型枠
【発明の効果】
【0019】
請求項1に示す発明によれば、実構造物である硬化途中の型枠中にある状態のコンクリートを直接計測することによって確度の高い品質判定・養生終了時期判定が可能となる打設されたコンクリートの養生中における品質判定方法を提供することができる。
【0020】
特に、打設されたコンクリート内に埋設する電極を用いて四電極法によって得られる比抵抗値に基いてこの打設されたコンクリートの水和反応の進行度を把握することができ、更にこの把握した水和反応の進行度から養生中における硬化前のコンクリートの品質を判定する構成により、実構造物の表層の状況及び内部の状況を脱型前の養生途中において実計測により把握することが可能である。従って、所望する値の強度及び耐久性が得られる適切な時期の養生終了時期の判断が可能となるので、脱型後の強度不足による処方を行う等の不都合が生じることがないだけでなく、安全率を必要以上に確保する必要がないことから余分な養生期間による工期の長期化等の不都合も生じることがない。
【0021】
把握した判定結果に基づき適切な養生を行うことにより表層コンクリートの品質向上を図ることができるので、該表層コンクリートから内部への劣化因子の侵入が抑制されて耐久性が向上することになる。
【0022】
また、請求項1に示す発明によれば、特定条件のコンクリートや構造部材に限定されることなく、様々な種類のコンクリートに適用可能である。
【0023】
更に、供試体の作成や、供試体の養生条件の確保等の現場での実構造物における実作業以外の種々雑多な付帯要件が不要とすることができる。
【0024】
請求項2に示す発明によれば、コンクリート表面から深さ位置までの特定の深さ位置でのコンクリート品質把握に必要な比抵抗値を得ることができる。
【0025】
請求項3に示す発明によれば、深さが0mm〜50mmの範囲は鉄筋がコンクリートに潜り込んでいるため、乾燥の影響を受ける度合いが大きく重要な領域であり、この領域におけるコンクリート品質把握に必要な比抵抗値を得ることができる。
【0026】
請求項4に示す発明によれば、極めて低コストで得られる材料を用いて適切な比抵抗値の計測が可能である。
【0027】
請求項5に示す発明によれば、電極を露出状態とする通電部の位置を適宜選択することにより、打設されたコンクリート内の計測深さを所望の深さに極めて容易に設定することができる。従って、一般的な建築物のコンクリート構造物のようにかぶりが例えば25mm程度のものや、土木のコンクリート構造物のようにかぶりが例えば50mm程度のもの、或いは無筋コンクリート構造物などの様々な構成のコンクリートにも対応させることができる。
【0028】
請求項6に示す発明によれば、直流に比べて帯電し難く値が安定し、交流に比べ装置を小型化できるので現場への搬入・携行が容易である。
【0029】
請求項7に示す発明によれば、極めて簡易な構成で打設されたコンクリートの適切な養生終了時期を判定することができる。
【0030】
請求項8に示す発明によれば、極めて簡易な構成で、打設されたコンクリートの品質を判定する方法、及び、かかる判定に基いて適切な養生終了時期を判定する方法に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る打設されたコンクリートの養生中における品質判定方法及び養生終了時期判定方法に用いられる品質判定用型枠の構成の一例を示す概略説明図(側面図)
図2図1の要部を示す概略説明図(要部平面図)
図3図1の要部を示す概略説明図(要部側面図)
図4】普通ポルトランドセメントの養生期間5日の供試体の通電深さ毎の比抵抗値の経時変化を示すグラフ
図5】2種類のセメントの2種類の養生期間(7日と28日)の各供試体の2種類の通電深さ(5mmと70mm)の比抵抗値の経時変化を示すグラフ
図6】普通ポルトランドセメントの5種類(1日、3日、5日、7日、28日)の養生期間の各供試体の通電深さ5mmの比抵抗値の経時変化を示すグラフ
図7】普通ポルトランドセメントの5種類(1日、3日、5日、7日、28日)の養生期間の各供試体の通電深さ50mmの比抵抗値の経時変化を示すグラフ
図8】2種類のセメントの各養生期間の供試体10個の真空吸水面積率と各供試体の通電深さ50mmの脱型直前の比抵抗値の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る打設されたコンクリートの養生中における品質判定方法及び養生終了時期判定方法並びに品質判定用型枠について添付図面に基き詳細に説明する。
【0033】
本発明は、型枠を用いて打設されたコンクリートの品質を、硬化途中の未だ型枠中にある状態の実構造物であるコンクリートを直接計測することにより判定する技術である。
【0034】
硬化途中のコンクリートは水分が多量に含まれていることから通電し易いという特徴を持ち、硬化していく過程でセメントの水和反応に伴い水分が消費されて前記水分量が次第に減少する。
【0035】
本発明者らは、この水分減少に伴ってコンクリート中の水隙が空隙に変化していくことにより通電し難くなる点に着目し、打設されたコンクリートの水分量と電気抵抗値との間に相関があることを掴んだ。
【0036】
一方、未だ硬化途中のコンクリート中の水分は水和反応に必要とされていることから、この水分の減少が水和反応を阻害することになり、強度発現や耐久性といったコンクリート品質の低下を招く原因であることも掴んだ。
【0037】
以上のことから、打設されたコンクリートにおいて満足する要求品質を得るためには、硬化途中の未だ型枠中にあるコンクリートの電気抵抗値を計測することによってコンクリート品質を把握し、この品質の把握によって必要充分な養生を施したと判定した時点で養生を終了することが重要であることを見出した。
【0038】
そこで、本発明の打設されたコンクリートの養生中における品質判定方法具体的構成の一例としては、
図1の(1)に示すように、打設されたコンクリート内に少なくとも一部が埋没する複数本の電極2を型枠1外から配設し、
該型枠1内にコンクリート3を打設した後、
図1の(3)に示すように、養生6を施した後、
前記電極2に対して打設されたコンクリート3外から電圧を印加して計測した値に基く四電極法によって打設されたコンクリート3内の比抵抗を下記式を用いて算出し、
得られた比抵抗値に基いて打設されたコンクリート3の強度発現状況を把握することにより品質を判定する構成である。
【数2】
I:4本の電極のうち、外側2本の電極を流れる電流(mA)
V:内側2本の電極間の電位差(V)
a:電極の間隔(cm)
ρ:比抵抗値
【0039】
前記複数本の電極2は、図2に示すように特定の等間隔で並設した4本を一組とし、打設されたコンクリート3内に少なくとも一部が埋設すように、一組〜複数組を配設する。
【0040】
そして、得られた比抵抗値に基いてコンクリート品質を把握し、このコンクリート品質に基いて、養生を終了する時期と判定された時点で図1の(4)に示すように養生6・型枠1を取り外すことができる。
【0041】
尚、図1の(2)に示す符号4は電極2に通電可能に結線される通電手段であり、符号5は前記通電手段4を介して前記電極2に通電すると共に前記電極2に流れる電流値と複数の電極2間の電位差を計測する計測手段である。
【0042】
比抵抗値を四電極法により得ることにより、得られた比抵抗値がコンクリート強度及び耐久性を確保するために必要な閾値を上回った時点で養生終了可能な時期と判定することができるので、適切な養生終了時期を把握することができる。
【0043】
各電極2の間隔aは、数cm程度で充分であり、具体的には概ね5cm程度を好ましい例として挙げることができる。また、鉄筋の影響を避けるため、各電極2の間隔aは、各電極2の通電部21から鉄筋までの距離より小さいことが好ましい。
【0044】
また、打設されたコンクリート3内への電極2の通電深さ(L:図3参照)としては、所望する深さ位置におけるコンクリート品質に応じて、かかる深さ位置に電極2の通電部(図3の符号21参照)の位置を設定することにより計測することが可能である。通電深さ(L)としては、例えば、0mm〜50mmの範囲、50mm〜70mmの範囲等を挙げることができる。尚、前記0mm〜50mmの範囲における0mmとは、通電部は埋設される構成であることから、表面である0mmを超えた深さ位置である0mm超を示すこととする。尚また、0mm〜50mmの範囲における50mmは50mm未満を示し、50mm〜70mmの範囲における50mmは50mm以上を示す。尚また更に、0mm〜50mmの範囲における0mm超は、5mm未満の範囲がブリーディングや骨材の分布の影響を比抵抗値が受ける可能性があることから避けることが好ましいため、5mm以上とすることが好ましい。
【0045】
具体的な通電深さ(L)の設定例としては、後述する実験例に示す深さを挙げることができ、0mm〜50mmの範囲では5mm、10mm、20mm、30mmを挙げることができ、50mm〜70mmの範囲では50mm、70mmを挙げることができる。
【0046】
上記した通電深さ(L)の範囲のうち、深さが0mm〜50mm(0mm超〜50mm未満)の範囲は、鉄筋がコンクリートに潜り込んでいるため、乾燥の影響を受ける度合いが大きく重要な領域であり、この領域におけるコンクリート品質把握に必要な比抵抗値を得ることができる。
【0047】
また、深さが50mm〜70mmの範囲では、養生6・型枠1を取り外してコンクリート3の表面が露出した状態での該コンクリート3表面からの乾燥を影響を受けずにコンクリート3内面の品質把握に必要な比抵抗値を得ることができる。尚、本発明者らの実験(後述の実施例の記載参照)によれば、通電深さ(L)が50mmと70mmの場合、いずれもコンクリート3表面からの乾燥の影響が極めて低いことが判明したことから、70mmよりも深い範囲の計測の必要性は低いものと思われる。
【0048】
計測に用いる電極2としては、建築・造園・工事・イベント等の様々な現場で用いられ、入手が極めて容易で低コスト材料である、針金を用いることが好ましい。電極2として好ましく用いることができる針金としては、鉄製・ステンレス製・銅製等の通電性を有するものを挙げることができ、特に好ましくは耐錆性の高いステンレス製の針金である。
【0049】
電極2の型枠1への配設は、通電部21が型枠1内に突出した状態で且つ型枠1外から前記通電手段4が結線可能に該型枠1の堰板や支保工等に直接取付固定する構成としてもよいし、或いは、型枠1を貫通して通電部21が型枠1内に突出するように型枠1とは別体の取付枠等に電極2を取付固定したものを型枠1に取付固定する構成としてもよいし、型枠1を貫通して通電部21が型枠1内に突出するように型枠1の外部に配設された支持構造体等に電極2を取付固定する構成とすることもできる。
【0050】
前記電極2の打設されたコンクリート3への埋設深さである通電深さ(L)の設定は、図3に示すように型枠1の内側面からの距離に相当するものであり、型枠1内面に向かって該型枠1に配設した電極2を打設されたコンクリート3との通電部21を露出状態とし、該通電部21以外の部分を絶縁ビニル皮膜等の絶縁部材22によって絶縁被覆状態とする構成によって設定することができる。即ち、絶縁部材22によって電極2を絶縁被覆する際に、所望の通電深さ(L)に相当する部分については電極2の表面を露出状態とすることにより、通電深さ(L)の設定値に応じて通電部21の位置を適宜変更することで極めて容易に設定することができる。通電部21の間隔は、打設されたコンクリート3に対して必要充分な接触により通電可能な間隔であればよく、好ましくは概ね2mm程度である。
【0051】
打設されたコンクリート3の品質を判定するに際しては、打設されたコンクリートの乾燥過程では水分がコンクリート表面から逸散していくので該表面に近い部分のコンクリートほど乾燥による水分減少の影響が大きいと考えられ、特に材齢初期では表面部分と内部部分ではコンクリート品質が著しく変化していると云えることから、表層部分(前記0mm〜50mmの範囲)と内部部分(前記50mm〜70mmの範囲)の両部分の品質を把握することが重要である。打設されたコンクリート3表層部分における品質と、打設されたコンクリート3内部における品質と、を把握することによって、打設されたコンクリート3の表面の品質確保状況及び内部の品質確保状況を判定できることに加えて、表面から内部への劣化の進行について推測する上で有益である。尚、コンクリート表面からの水分の逸散は、脱型後は大きいが、型枠存置中は型枠の保持が打設されたコンクリート3表層部分からの水分逸散を防げることになり、この型枠存置中の水分逸散の抑制によってこの表層部分の水和反応が進行し、セメント硬化体組織が緻密化することになる。
【0052】
本発明に用いられる計測手段5としては、電極2に結線による通電手段4を介して通電し、前記電極に流れる電流値と複数の電極2間の電位差を計測する構成を有する機器であれば、公知公用の機器を特別の制限なく用いることができる。また、電圧の印加は、直流に比べて帯電し難く値が安定すると共に交流に比べて装置を小型化できるパルス波を用いることが好ましい。パルス波を用いた電圧の印加を行う計測手段5を用いることにより、施工現場への機器の搬入・携行が容易であると共に、環境変化の受け易い作業環境下においても安定した計測が可能となる。
【0053】
以上の構成を有する本発明の打設されたコンクリートの養生中における品質判定方法によれば、打設されたコンクリートの品質を未だ型枠中にある時点で把握することができ、把握したデータに基き養生を終了する適切な時期を判定することができる。
【0054】
特に、打設されたコンクリートの表面部分や内部部分から得られた比抵抗値に基いて打設されたコンクリートの品質を把握することにより、品質変化に差がある表面部分の品質確保状況や内部部分の品質確保状況の各部分の水和反応進行度の把握による品質確保状況に基いて養生終了時期を判定することができる。
【0055】
また、本発明によれば、特定構成・種類のコンクリートや構造部材に限定されることなく、種々様々な構成・種類の打設されたコンクリートの品質判定に適用可能である。
【0056】
更に、本発明による比抵抗値の計測に際しても、打設直後から養生終了まで継続的に計測する構成に限らず、養生6・型枠1を取り外す段階になった時点で計測を行い、かかる計測値に基いて取り外しの可否を判定する構成も本発明の範囲内である。
【0057】
尚、図1の(4)に示すように養生6・型枠1を取り外した後、電極2は打設されたコンクリート3からの突出部分を切除するが、長期的な継続計測や経年後の計測を行うために切除することなく存置しておく態様とすることもできる。
【0058】
[実験例]
以下、本発明を用いて打設されたコンクリートの品質を供試体を作成して試験的に判定する。
【0059】
判定に際しては、代表的なセメント種である普通ポルトランドセメント(N)と高炉セメントB種(BB)の2種類を用いた。セメント配合は、水セメント比W/C:55%、単位水量W:174kg/m、打設及び養生は温度20℃、湿度60%の同一環境下で、1日、3日、5日、7日、28日の5種類の材齢(養生期間)で脱型を行い、その期間を水分の逸散のない封緘養生とした。
【0060】
供試体は、2種類のセメントについて、各々5個ずつ作成し、前記5種類の材齢で脱型を行った。
【0061】
また、5個ずつ計10個の供試体のサイズは、長さ1350mm、高さ100mm、厚み250mmとした。
【0062】
更に、各供試体には、幅方向に50mm間隔で並設させた4本を一組とする電極を、幅方向に六組を並設配設した。六組の電極の各組の厚み方向への通電深さは、5mm、10mm、20mm、30mm、50mm、70mmの6種類とした。電極は、ステンレス製の針金を用い、2mm長の通電部以外の埋設部については収縮ビニルチューブにより絶縁被覆した。
【0063】
各供試体の各電極を用い、各組の4本の電極の外側に電流(30mA)、内側に電圧(15V)を印加し、供試体を流れる電流と内側の電極間の電位差を測定し、前記式を用いて比抵抗値を算出した。測定は打設直後から材齢28日まで行った。尚、通電に際しては帯電を抑制するためにパルス波を用いた。
【0064】
2種類のセメント、この2種類の各々について5種類の養生期間を施した計10個の供試体について、得られた比抵抗値のデータと各供試体の耐久性との関係を比較検証するために、28日間の材齢期間終了後に、各供試体を40℃の乾燥炉で5日間乾燥させ、真空吸水試験を行った。
【0065】
真空吸水試験は、各供試体について、側面をアルミテープでシールし、供試体の半分の高さまで水を張り、真空ポンプで3時間吸引し、割裂後、水の吸い上げられた領域の断面積に対する吸水面積を算出し真空吸水面積率とした。
【0066】
普通ポルトランドセメント(N)を用いた打設されたコンクリートの比抵抗値の各データを表1に示す。
【表1】
【0067】
高炉セメントB種(BB)を用いた打設されたコンクリートの比抵抗値の各データを表2に示す。
【表2】
【0068】
2種の打設されたコンクリートの各養生期間・通電深さによる、「28日比抵抗」、「脱型直前比抵抗」、「真空吸水面積率」、「塩分浸透深さ(W/C60%)」、「中性化深さ(W/C55%)」、「透気計数(10−16)」の各データを表3に示す。
【表3】
【0069】
尚、上記の表1〜表3、後述する図4図8において、Nは普通ポルトランドセメントを示し、BBは高炉セメントB種を示す。
【0070】
尚また、表1のN−1−5〜N−28−70、表2のBB−1−5〜BB−28−70は、始めの記号がセメントの種類(Nは普通ポルトランドセメント、BBは高炉セメントB種)、真ん中の数字が養生期間(日)の種類、最後の数字が通電深さ(mm)の種類を示す。例えば、N−1−5は普通ポルトランドセメントの養生期間1日の供試体の通電深さ5mmの部分における比抵抗値を示し、N−28−7は普通ポルトランドセメントの養生期間28日の供試体の通電深さ70mmの部分における比抵抗値を示し、BB−3−30は高炉セメントB種の養生期間3日の供試体の通電深さ30mmの部分における比抵抗値を示し、BB−7−50は高炉セメントB種の養生期間7日の供試体の通電深さ50mmの部分における比抵抗値を示す。
【0071】
計測によって得られ、上記表1〜表3に記載した各データに基き、図4図8に示すグラフを作成した。
図4は、普通ポルトランドセメントの養生期間5日の供試体の通電深さ毎の比抵抗値の経時変化を示すグラフ、図5は2種類のセメントの2種類の養生期間(7日と28日)の各供試体の2種類の通電深さ(5mmと70mm)の比抵抗値の経時変化を示すグラフ、図6は普通ポルトランドセメントの5種類(1日、3日、5日、7日、28日)の養生期間の各供試体の通電深さ5mmの比抵抗値の経時変化を示すグラフ、図7は普通ポルトランドセメントの5種類(1日、3日、5日、7日、28日)の養生期間の各供試体の通電深さ50mmの比抵抗値の経時変化を示すグラフ、図8は2種類のセメントの各養生期間の供試体10個の真空吸水面積率と各供試体の通電深さ50mmの脱型直前の比抵抗値の関係を示すグラフ、を各々示す。
【0072】
図4に示すグラフからは、養生終了の5日間の比抵抗値はどの深さでも同様な値であるが、脱型後、コンクリート表面に近いほど比抵抗値が増大していることが判る。即ち、通電深さ5mm、10mm、20mm、30mmでは、外気からの乾燥の影響を受け、50mmと70mmでは乾燥の影響を受けていないことが判る。
【0073】
図5に示すグラフからは、養生期間7日の通電深さ5mmでは、2種類のセメントが同様の比抵抗値を示しているが、脱型後はコンクリート表面からの乾燥の影響を受け比抵抗値が増加していることが判る。特に、高炉セメントB種(BB)は、高炉スラグ微粉末が混和されていることから水和反応が遅延し、乾燥の影響を受けたため、普通ポルトランドセメント(N)に比べて比抵抗値がより増加している。
一方、養生期間28日の通電付加70mmでは、2種類のセメントのいずれもが比抵抗値の急激な増加がみられないことが判る。
図5に示すグラフから、本実験例の配合においては、水和反応によって増加する比抵抗値は3kΩ・m程度であると判定することができる。
【0074】
図6に示すグラフからは、普通ポルトランドセメントの通電深さ5mmの部分における比抵抗値の経時変化から、各養生期間において脱型前までは同程度の比抵抗値を示しているが、脱型後は養生期間が短い(特に、養生1日)ほど脱型直後に比抵抗値が急激に増加している(グラフの傾きが急激に大きくなる)ことから、養生期間が短いほど、脱型後の乾燥の影響を受け易いことが判り、また、養生期間が長いほど脱型後の比抵抗値の増加傾向が小さいことから、養生期間が長いほど型枠によって水分の逸散が妨げられるので水和反応が進行してセメント硬化体組織が緻密化することが判る。従って、養生期間を長くすることにより、養生終了による脱型後も乾燥の影響を受け難く水和反応が進行し、コンクリート表層部分の品質を向上させることができ、この表層部分の品質向上によって表層からのコンクリート劣化因子の侵入を抑制することができるのでコンクリートの耐久性を向上させることができる。
【0075】
通電深さ5mmである図6に対して、通電深さが50mmとした以外は同様の条件の図7に示すグラフからは、普通ポルトランドセメントの通電深さ50mmの部分における比抵抗値の経時変化から、どの養生期間であっても脱型後も同程度の比抵抗値を示していると共に、比抵抗値の急激な増加がみられないことが判る。
【0076】
図6及び図7の結果から、型枠存置中は通電深さの違いによる比抵抗値へのコンクリート表層からの水分逸散の影響が小さいことが判り、養生終了時期の判定を行う場合には、任意の少なくとも一つの通電深さを選択することで可能であることが判る。
【0077】
図8に示すグラフからは、比抵抗値と真空吸水面積率との間には相関関係が認められ、養生中に比抵抗値が1kΩ・mに満たない場合にはコンクリート表面からの乾燥の影響を大きく受けてしまうことが判る。
【0078】
以上の結果から、養生中の打設されたコンクリートの比抵抗値を用いることによって、打設されたコンクリートの耐久性である品質を判定することができる。特に、通電深さをコンクリート表面部分から内部部分まで種々設定することにより、設定した各部分における養生中の打設されたコンクリートの品質を硬化途中の型枠中にある状態の時点で判定することができる。
【0079】
また、脱型直前の比抵抗値が、脱型までの期間の水和反応の進行度を示すことから、この比抵抗値と耐久性試験等を行った結果からも、そのコンクリート構造物が要求する耐久性を満たすことのできる比抵抗値を算出することにより適切な養生終了時期を判定することができる。
【0080】
更に、養生脱型後であっても、本発明によって打設されたコンクリートの比抵抗値を計測することにより養生終了時期以降の打設されたコンクリートの水和反応の進行度を判定することができる。この場合、比抵抗値を計測する深さ位置はコンクリート表層からの乾燥の影響を受け難い50mm以上の深さ位置での計測が好ましい。
【符号の説明】
【0081】
1 型枠
2 電極
3 打設されたコンクリート
4 通電手段
5 計測手段
6 養生シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8