(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
夜間に車両を走行させる際に、運転者は、基本的に前照灯によりハイビームを照射させることにより車両の前方を確認し、必要に応じてロービームに切り換えるが、切り替えの煩わしさや道路環境によりロービームを用いる場合も多い。このとき、いわゆるカットオフラインより上側に光を照射すると、対向車両や先行車両(以下、これらを「前方車両」という。)にグレアを与えるおそれがある。このため近年では、自車両に搭載されたカメラによって前方車両を撮影して得られる画像を用いて前方車両のランプ(テールランプまたはヘッドランプ)の位置を検出し、前方車両の位置が遮光範囲となるようにしてハイビームの照射パターンを制御する配光制御技術(ADB制御)が種々提案されている。この技術によれば、前方車両へのグレアを抑制するとともに歩行者の早期発見や遠方視認性の向上を図ることができる。
【0003】
ここで、上記のようなADB制御される前照灯を備えた自車両が交差点に向かって進行する場合を考える。このとき、交差点にて自車両の前方を横切る車両(以下「横断車両」という。)が存在した場合にこの横断車両に対して自車両の前照灯からの照射光によるグレアを与えないことが望ましい。しかし、ADB制御における前方車両の検出は多くの場合、ヘッドランプやテールランプの特徴を画像認識で抽出することによって行われるため、この原理によって横断車両を検出することは難しく、このため、横断車両に光が照射されないように制御することは難しかった。これに関して、例えば特開2011−207348号公報(特許文献1)には、交通信号機の存在する交差点においてこの交通信号機を認識し、その信号色が赤色である場合には、車速が0になるまで(すなわち停車するまで)はヘッドランプの点灯を継続し、停車したときにはヘッドランプを消灯させるという先行例が開示されている。この先行例の技術をADB制御に適用したとすると、信号色が赤色であることを認識してからADB制御をオフにするか、もしくは赤信号で車速が0となったときにADB制御をオフにすることができると考えられる。しかし、この場合には、ADB制御をオフにするタイミングが早ければ自車両の前方に存在する歩行者等を視認しにくくなり、ADB制御をオフにするタイミングが遅ければ横断車両に対してグレアを与えてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る具体的態様は、交通信号機のある交差点において横断車両へのグレアを低減し、かつ自車両の前方視認性を高めることが可能な配光制御技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一態様の車両用前照灯の点灯制御装置は、(a)車両用前照灯による光照射状態を制御するための点灯制御装置であって、(b)カメラにより撮影される画像に基づいて前方車両を検出する車両検出部と、(c)前方車両の位置に対応して光照射範囲を設定する光照射範囲設定部と、(d)カメラにより撮影される画像に基づいて自車両前方の交通信号機の信号色を検出する信号色検出部と、(e)信号色検出部によって検出される信号色が第1の色である場合には光量を第1の値に設定し、信号色が第2の色である場合には光量を0より大きく第1の値よりも小さい第2の値に設定する光量設定部と、(f)光照射範囲設定部によって設定される光照射範囲及び光量設定部によって設定される光量に対応した制御信号を生成して車両用前照灯へ出力する配光制御部を含む、車両用前照灯の点灯制御装置である。
【0007】
上記構成によれば、自車両の前方に存在する交通信号機の信号色が第1の色(例えば、青色または黄色)である場合には車両用前照灯による光量を第1の値(例えば、出力可能な最大値)に設定してADB制御が実行され、信号色が第2の色(例えば、赤色)である場合には車両用前照灯による光量を相対的に小さい第2の値に設定してADB制御が実行される。したがって、交通信号機のある交差点において横断車両へのグレアを低減し、かつ自車両の前方視認性を高めることが可能となる。
【0008】
上記の点灯制御装置は、交通信号機と自車両との間の距離を検出する距離検出部を更に含み、光量設定部は、距離検出部によって検出される距離に基づいて当該距離が大きいほど第2の値を大きく設定する、ことも好ましい。
【0009】
それにより、交通信号機との距離に応じてより好適な光量を設定することができる。
【0010】
本発明に係る一態様の車両用前照灯システムは、上記した点灯制御装置と、この点灯制御装置によって制御される車両用前照灯を含んで構成される車両用前照灯システムである。
【0011】
上記構成によれば、交通信号機のある交差点において横断車両へのグレアを低減し、かつ自車両の前方視認性を高めることが可能な車両用前照灯システムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、一実施形態の車両用前照灯システムの構成を示すブロック図である。
図1に示す車両用前照灯システムは、自車両の前方の空間(対象空間)を撮像して得られる画像に基づいて配光パターンを設定して光照射を行うものであり、カメラ10、車両検出部11、制御部12、一対のランプユニット(車両用前照灯)20R、20Lを含んで構成されている。
【0015】
カメラ10は、自車両の所定位置(例えば室内バックミラー付近)に設置されており、自車両の前方の空間を撮影し、その画像(画像データ)を出力する。
【0016】
車両検出部11は、カメラ10から出力される画像データを用いて所定の画像処理を行うことにより、前方車両の位置を検出してその位置情報を制御部12へ出力する。ここでいう「前方車両」とは、先行車両または対向車両である。この車両検出部11は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることにより実現される。この車両検出部11は、例えばカメラ10と一体に構成されている。なお、車両検出部11の機能は制御部12において実現されてもよい。
【0017】
制御部12は、例えばCPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることにより実現されるものであり、機能ブロックとしての距離検出部13、信号色検出部14、光量設定部15、光照射範囲設定部16および配光制御部17を備える。
【0018】
距離検出部13は、自車両の前方(進行方向)に存在する交差点と自車両の間の距離を検出する。本実施形態では、自車両に備わっているカーナビゲーション装置(図示省略)から得られる情報に基づいて、自車両と交差点との間の距離を検出する。なお、自車両に設けた距離センサの検出値に基づいて交差点までの距離を検出してもよいし、路車間通信により得られる情報に基づいて交差点までの距離を検出してもよいし、その他種々の方法を採用し得る。
【0019】
信号色検出部14は、カメラ10から出力される画像データを用いて所定の画像処理を行うことにより、自車両の前方に存在する交通信号機の信号色を検出する。本実施形態では、信号色として、赤色、黄色および青色を検出するものとする。交通信号機の信号色を検出する具体的な技術については種々の公知技術を用いることができる(例えば、特開2012−173879号公報参照)。なお、信号色検出部14は、上記した車両検出部11と同様、カメラ10と一体に構成されていてもよい。
【0020】
光量設定部15は、距離検出部13によって検出される自車両と交差点の間の距離と信号色検出部14によって検出される信号色に基づいて、ランプユニット20R、20Lにおける照射光の光量を設定する。
【0021】
光照射範囲設定部16は、車両検出部11によって検出される前方車両の位置に対応した非照射範囲を含んだ光照射範囲を設定する。
【0022】
配光制御部17は、照射範囲設定部16によって設定された光照射範囲および光量設定部15によって設定された光量に基づいてその配光パターンに応じた制御信号(配光制御信号)を生成し、各ランプユニット20R、20Lへ出力する。
【0023】
ランプユニット20Rは、自車両の前方右側に設置され、自車両の前方を照らす光を照射するために用いられるものであり、LED点灯回路21、マトリクスLED22およびロービームLED23を有する。同様に、ランプユニット20Lは、自車両の前方左側に設置され、自車両の前方を照らす光を照射するために用いられるものであり、LED点灯回路21、マトリクスLED22およびロービームLED23を有する。
【0024】
LED点灯回路21は、配光制御部17から出力される制御信号に基づいて、マトリクスLED22に含まれる複数のLED(発光ダイオード)に対して駆動信号を供給することにより、各LEDを選択的に点灯させる。
【0025】
マトリクスLED22は、マトリクス状に配列された複数のLEDを備えており、LED点灯回路21から供給される駆動信号に基づいて複数のLEDが選択的に点灯する。このマトリクスLED22は、複数のLEDをそれぞれ独立に点灯させ、かつその照射強度(明るさ)を制御することが可能である。
【0026】
ロービームLED23は、1つ以上のLEDを備えており、LED点灯回路21から供給される駆動信号に基づいてLEDを点灯する。
【0027】
図2(A)は、各ランプユニットの構成例を示す模式図である。図示のように、ランプユニット20L(または20R)は、マトリクスLED22とその前面に配置されたレンズ24を含んだハイビームユニット26と、ロービームLED23とその前面に配置されたレンズ25を含んだロービームユニット27と、を備える。
図2(B)は、各ランプユニットの光学的な構成を示す模式図である。マトリクスLED22の複数のLEDを選択的に点灯させることによって出射する光がレンズ24によって前方へ投影されることでハイビームが形成される。また、図示を省略するが同様に、ロービームLED23のLEDを点灯させることによって出射する光がレンズ25によって前方へ投影されることでロービームが形成される。
【0028】
図3は、車両用前照灯システムの動作手順を説明するためのフローチャートである。以下ではこのフローチャートを参照しながら車両用前照灯システムのADB制御中における動作について詳細に説明する。
【0029】
距離検出部13は、自車両の前方に存在する交差点と自車両の間の距離情報をカーナビゲーション装置(図示省略)から取得する(ステップS11)。
【0030】
次に、光量設定部15は、信号色検出部14による検出結果に基づいて、自車両の前方に存在する交通信号機の信号色が「青色」であるか否かを判定する(ステップS12)。
【0031】
信号色が「青色」である場合には(ステップS12;YES)、光量設定部15は、光量を通常値(第1の値)に設定する。この通常値の光量により、通常のADB制御が実行される(ステップS13)。具体的には、車両検出部11によって検出される前方車両の位置に対応した光照射範囲が光照射範囲設定部16によって設定され、この設定された光照射範囲ならびに光量設定部15によって設定された光量に対応して配光制御部17により配光制御信号が生成され、各ランプユニット20R、20Lへ出力される。
【0032】
一方、信号色が「青色」ではない場合には(ステップS12;NO)、光量設定部15は、距離検出部13によって検出される交差点と自車両との距離に基づいて光量を算出する(ステップS14)。
【0033】
次に、光量設定部15は、信号色検出部14による検出結果に基づいて信号色が「黄色」であるか否かを判定する(ステップS15)。
【0034】
信号色が「黄色」である場合には(ステップS15;YES)、光量設定部15は、光量を通常値(第1の値)に設定する。この通常値の光量により、通常のADB制御が実行される(ステップS16)。具体的には、車両検出部11によって検出される前方車両の位置に対応した光照射範囲が光照射範囲設定部16によって設定され、この設定された光照射範囲ならびに光量設定部15によって設定された光量に対応して配光制御部17により配光制御信号が生成され、各ランプユニット20R、20Lへ出力される。
【0035】
一方、信号色が「黄色」ではない場合には(ステップS15;NO)、信号色が「赤色」であるので、光量設定部15は、ステップS14における算出結果に基づき、光量を通常値よりも低い値であって0よりは大きい値(第2の値)に設定する。この通常値よりも低い値の光量により、通常に比べて減光されたADB制御が実行される(ステップS17)。具体的には、車両検出部11によって検出される前方車両の位置に対応した光照射範囲が光照射範囲設定部16によって設定され、この設定された光照射範囲ならびに光量設定部15によって設定された光量(通常値よりも低い光量)に対応して配光制御部17により配光制御信号が生成され、各ランプユニット20R、20Lへ出力される。
【0036】
図4は、交差点までの距離と光度の関係の一例を示す図である。例えば、各ランプユニット20R、20Lにより12万カンデラ(cd)の光が出力されるとし、かつグレアを与えない光照度が1ルクス(lx)であるする。このとき、1lx=1cd/m
2の関係から、グレアを与えない距離は、√12万(cd)≒346mと求められる。この距離を最大値として、交差点と自車両との距離に応じて必要な光度を計算すると、図示の例のように距離が小さくなるほど光度も小さくなる関係が得られる。このようにグレアを与えない距離dを算出して、自車両の各ランプユニット20R、20Lによる通常走行時の光度cから各距離(x)に対する必要光度yは次式で求められる。
y=x
2×c/d
2
このように得られた交差点までの距離と光度との関係に基づいて光量を設定することにより、横断車両にグレアを与えることがない。また、信号色が「青色」ではない場合には、交差点までの距離に基づいて必要光量を予め算出しておくことにより、信号色が「赤色」に切り替わったときには速やかにランプユニットの光量の設定値を低くすることができる。
【0037】
図5(A)〜
図5(D)は、車両用前照灯システムによる光照射の様子を概略的に示した平面図である。
図5(A)は自車両100の前方に先行車両101および歩行者102が存在し、かつ交差点の交通信号機103の信号色が「青色(又は黄色)」である場合の光照射の様子を示している。この場合には、光量は通常値に設定され、かつ先行車両101の存在する領域を非照射範囲とした光照射範囲110が形成されている。すなわち、通常のADB制御が実行されている。また、
図5(B)は上記した
図5(A)と同様の条件で自車両100が交差点により近づいた場合の光照射の様子を示している。この場合にも、横断車両は交差点内に存在しないので、通常の光量値による通常のADB制御が実行されている。
【0038】
図5(C)は自車両100の前方に先行車両101および歩行者102が存在し、かつ交差点の交通信号機103の信号色が「赤色」である場合の光照射の様子を示している。この場合には、光量は交差点との距離に応じて通常値よりも低い値に設定され、かつ先行車両101の存在する領域を非照射範囲とした光照射範囲110が形成されている。すなわち、通常よりも減光されたADB制御が実行されている。これにより、交差点内の横断車両104に対するグレアを低減しつつ、歩行者102の視認性を高めることができる。また、
図5(D)は上記した
図5(C)と同様の条件で自車両100が交差点により近づいた場合の光照射の様子を示している。この場合には、交差点までの距離が短いことから光量がより低い値に設定され、
図5(C)の場合によりもさらに減光されたADB制御が実行されている。これにより、交差点内の横断車両104へのグレアを低減しつつ、歩行者102の視認性を高めることができる。
【0039】
以上のような本実施形態によれば、交通信号機のある交差点において横断車両へのグレアを低減し、かつ自車両の前方視認性を高めることが可能となる。
【0040】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。上記した実施形態では、ADB制御の対象となるランプユニットとして発光素子を用いたものを説明していたが、ランプユニットはこの構成に限定されない。また、上記した実施形態では交差点と自車両との距離に応じて光量を増減していたが、交通信号機の信号色が「赤色」である場合には予め決めた光量(通常値より低い値)を設定するようにしてもよい。それにより、制御内容をより簡素化することができる。