特許第6162022号(P6162022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162022
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】クローラ用ゴムパッド
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/253 20060101AFI20170703BHJP
【FI】
   B62D55/253 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-222912(P2013-222912)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-85698(P2015-85698A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】000235543
【氏名又は名称】飛島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098752
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 吏規夫
(72)【発明者】
【氏名】桑原 寿伸
(72)【発明者】
【氏名】小林 真人
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−296742(JP,A)
【文献】 特開2010−120549(JP,A)
【文献】 特開2005−343273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/00 − 55/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属プレートと、前記金属プレートの接地側に設けられたゴム体とよりなるクローラ用ゴムパッドにおいて、
前記ゴム体は、内部の低硬度弾性部と該低硬度弾性部の全周を包囲する本体部とからなり、
前記金属プレートは、幅方向と直交する方向の中央に前記ゴム体側へ屈曲した中央突部が形成されており、
前記ゴム体の低硬度弾性部は、前記金属プレートの中央突部と前記ゴム体の接地側面との間に埋設され、
前記ゴム体の本体部と低硬度弾性部の体積割合は、本体部:低硬度弾性部=3:7〜6:4であり、
前記ゴム体の低硬度弾性部と本体部は、それぞれ無発泡のゴムからなり、
前記ゴム体の低硬度弾性部は、その全周を包囲する本体部のゴムよりも低硬度のゴムからなり、
前記ゴム体の低硬度弾性部のゴムはJIS−A硬度5〜30、前記低硬度弾性部の全周を包囲する本体部のゴムはJIS−A硬度60〜90であることを特徴とするクローラ用ゴムパッド。
【請求項2】
前記低硬度弾性部のゴムは、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)であることを特徴とする請求項1に記載のクローラ用ゴムパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械や土木機械等の重機に装着されるクローラのシュープレートに取り付けられるクローラ用ゴムパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械や土木機械等の重機に装着されるクローラ(トラックベルト、履帯、無限軌道とも称される)は、一般的に多数の金属製シュープレートがエンドレス状に連結されたもので構成される。また、クローラには重機の走行時に道路の舗装を痛めないようにするため、あるいは騒音防止のため、シュープレートの接地側にクローラ用ゴムパッドを取り付けたものがあるが、振動対策効果を得るものはない。
また、都市部においては住宅等に近接して様々な工事が行われており、特に地盤の掘削や構造物の解体作業などに大型重機が使われている。これらの作業においても、近年、振動対策が求められている。
【0003】
従来のクローラ用ゴムパッドとして、一層のゴムで構成したもの(特許文献1)、あるいはJIS−A硬度80〜90の硬質ゴム層とその接地側に設けたJIS−A硬度70〜80の軟質ゴム層との二層のゴムで構成したもの(特許文献2)がある。
【0004】
しかしなら、従来の一層のゴムからなるクローラ用ゴムパッドは、重機走行時の防振性(振動吸収性)が十分ではなく、重機の振動によって近接する住宅等の住人から苦情が発生する問題がある。一方、従来の二層のゴムからなるクローラ用ゴムパッドは、接地側が軟質ゴム層で構成されているため、重機の走行時にアスファルト等の路面で擦られて摩耗しやすく、耐久性に劣る問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−296742号公報
【特許文献2】実公平7−42938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、防振性(振動吸収性)が高く、かつ耐摩耗性の高いクローラ用ゴムパッドの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、金属プレートと、前記金属プレートの接地側に設けられたゴム体とよりなるクローラ用ゴムパッドにおいて、前記ゴム体は、内部の低硬度弾性部と該低硬度弾性部の全周を包囲する本体部とからなり、前記金属プレートは、幅方向と直交する方向の中央に前記ゴム体側へ屈曲した中央突部が形成されており、前記ゴム体の低硬度弾性部は、前記金属プレートの中央突部と前記ゴム体の接地側面との間に埋設され、前記ゴム体の本体部と低硬度弾性部の体積割合は、本体部:低硬度弾性部=3:7〜6:4であり、前記ゴム体の低硬度弾性部と本体部は、それぞれ無発泡のゴムからなり、前記ゴム体の低硬度弾性部は、その全周を包囲する本体部のゴムよりも低硬度のゴムからなり、前記ゴム体の低硬度弾性部のゴムはJIS−A硬度5〜30、前記低硬度弾性部の全周を包囲する本体部のゴムはJIS−A硬度60〜90であることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、前記低硬度弾性部のゴムは、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゴム体は、硬度の高い無発泡のゴムからなる本体部によって、硬度の低い無発泡のゴムからなる低硬度弾性部の全周が包囲されているため、重機の走行時に硬度の高い本体部がアスファルト等の路面と接触することになり、耐摩耗性が高い。また、重機の走行時の振動を硬度の低い内部の低硬度弾性部によって吸収することができるため、防振性(振動吸収性)が高い。本体部を無発泡のゴムとすることでゴムを高強度とすることにより、従来技術より耐摩耗性に優れる。また、内部の低硬度弾性部を無発泡のゴムとすることで振動吸収性が向上することにより、従来技術より防振性が高いクローラ用ゴムパットを提供できる。さらに、硬度の低い低硬度弾性部は硬度の高い本体部で包囲されて金属プレートと硬度の高い本体部が接触し、内部の硬度の低い低硬度弾性部は金属プレートと接触することがないため、本体部が金属プレートから剥離する恐れがなく、重機走行時に硬度の低い低硬度弾性部を保護することができ、重機走行時や旋回時等の路面接地によるゴムパット部表面へのヒビ割れや耐摩耗性などの耐久性が低下する虞がない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るクローラ用ゴムパッドの接地側平面図である。
図2図1のクローラ用ゴムパッドの正面図である。
図3図1のクローラ用ゴムパッドの芯体プレート側の平面図である
図4図1のクローラ用ゴムパッドの右側面図である。
図5図1の5−5断面図である。
図6図1及び図2の6−6断面図である。
図7図1のクローラ用ゴムパッドのシュープレートへの取り付けを示す図である。
図8】実験例の各板状体の構成を示す図である。
図9】振動伝達率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1図6に示す一実施形態のクローラ用ゴムパッド10は、金属プレート21と、前記金属プレート21の接地側に設けられたゴム体31とよりなり、図7に示すようにシュープレート51の接地側に取り付けられるものである。前記シュープレート51は、金属製からなりエンドレス状に連結されてクローラを構成する。
【0012】
金属プレート21は、前記シュープレート51の接地側面に合わせた凹凸形状からなる。図示の例の金属プレート21は、幅方向Xと直交する方向Yの中央と両端がゴム体31側(金属プレート21の接地側と同じ)へ屈曲した波形状をしている。前記金属プレート21の幅方向Xの両端付近には、前記シュープレート51への取付に利用される袋ナット26とフック28が溶接で取り付けられている。前記袋ナット26は、前記金属プレート21のゴム体31側の面に固定され、前記袋ナット26と螺合する取付ボルト(図示せず)の挿入孔27が前記金属プレート21に形成されている。また、前記フック28は、フック28の頭部28aが前記金属プレート21のゴム体31側の面に固定され、フック28の脚部28bが金属プレート21の反対側(前記シュープレート51側)へ突出している。なお、符号29は前記金属プレート21の2カ所に形成された孔である。
【0013】
ゴム体31は、板形状からなり、前記金属プレート21の接地側の面に接着されている。前記ゴム体31は、低硬度弾性部33と本体部37とよりなる。
前記低硬度弾性部33は、前記本体部37の内部に埋設され、前記低硬度弾性部33の全周が本体部37で包囲されている。前記低硬度弾性部33は、その全周を包囲する前記本体部37のゴムよりも低硬度のゴムからなる。前記低硬度弾性部33を構成するゴムは無発泡のゴムからなり、硬度はJIS−A硬度5〜30が好ましい。前記低硬度弾性部33を構成するゴムの種類としては、特に限定されないが、例として低硬度での振動吸収性に優れたEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)等を挙げる。また、前記低硬度弾性部33は、1つに限られず、図示の例のように複数に分けてもよい。さらに、前記低硬度弾性部33は、図示の例では、前記金属プレート21においてゴム体31側へ屈曲している中央突部22と前記ゴム体31の接地側面32との間に埋設され、重機の走行時に前記金属プレート21の中央突部22による押圧が前記低硬度弾性部33に効率よく加わって振動吸収が良好となるようにされている。
【0014】
本体部37は、前記ゴム体31の外形を有する板状、特に形状的に、接地側の面の4辺の端部の角部が斜めに面取りされ、角部が路面によって削られないことにより耐磨耗性を向上させた板状からなり、材質が前記低硬度弾性部33のゴムよりも高硬度の無発泡のゴムで構成されている。前記本体部37を構成するゴムの硬度は、JIS−A硬度60〜90、より好ましくは70〜90が好ましい。前記本体部37を構成するゴムの種類としては、特に限定されないが、例としてSBR(スチレンブタジエンゴム)などの耐磨耗性に優れるゴム材が好ましい。前記低硬度弾性部33を構成するゴムの種類としては、特に限定されないが、例としてEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)等を挙げる。前記高硬度の本体部37と前記低硬度弾性部33の体積割合は、本体部:低硬度弾性部=3:7〜6:4が好ましい。言い換えれば、前記低硬度弾性部33の高硬度の本体部37とを含めた全体の体積に対する低硬度弾性部33の割合が、70〜40%が好ましい。この低硬度弾性部の体積割合が40%未満の場合、振動特性が低下するようになる。一方、この低硬度弾性部の体積割合が70%を超えると、本体部37の厚みが薄くなって耐久性と耐磨耗性が劣るようになる。
【0015】
前記金属プレート21への前記クローラ用ゴムパッド10の取付は、前記金属プレート21のフック28の脚部28bを前記シュープレート51の係合孔(図示せず)に係合し、前記シュープレート51の孔に通したボルト(図示せず)を前記金属プレート21の袋ナット26に螺合することにより行う。
なお、前記クローラ用ゴムパッド10の製造は、前記金属プレート21を金型に配置し、それに接するように前記本体部37と低硬度弾性部33とを重ねて加硫することにより、前記低硬度弾性部33と本体部37の一体化及び前記ゴム体31と金属プレート21の接着を行ことができる。
【0016】
本発明のクローラ用ゴムパッド10の防振性を確認するため、厚み25mm×100mm×100mmの板状体を対象とした振動伝達率の実験を行った。図8の実験例1は従来品と同程度のJIS−A硬度70の無発泡高硬度ゴムのみで構成した試験体、同じく実験例2はJIS−A硬度70の無発泡高硬度ゴムとJIS−A硬度15の発泡ゴムで構成した試験体、同じく実験例3は本発明の実施例に相当するJIS−A硬度70の無発泡高硬度ゴムとJIS−A硬度11の無発泡低硬度ゴムで構成した試験体である。これらの試験体に対して、圧縮荷重1552N(バックホウ0.8mクラスを想定)、振幅0.1mm、周波数5Hz〜100Hz、測定ピッチ0.5Hzで振動伝達率を測定した。
【0017】
振動伝達率の測定結果は図9に示す通りであり、JIS−A硬度70の無発泡高硬度ゴムのみで構成した実験例1は振動伝達率が42dB(共振周波数26.2Hz)である。JIS−A硬度70の無発泡高硬度ゴムとJIS−A硬度11の無発泡低硬度ゴムで構成した実験例3(本発明の実施例に相当)は、振動伝達率の値が34dB(共振周波数15.8Hz)で最も小さく、防振性が高くなっている。一方、発泡ゴムを使用する実験例2は、振動伝達率の値が58dB(共振周波数46Hz)で最も大きく、振動伝達率が最も高く(防振性が最も低く)なっている。このことから、本発明のクローラ用ゴムパッド10は高い防振性(振動吸収性)を有することがわかる。
【0018】
なお、JIS−A硬度70の無発泡高硬度ゴムとJIS−A硬度15の発泡ゴムで構成した2層構造の実験例2が、JIS−A硬度70の無発泡高硬度ゴムのみで構成した1層構造の実験例1よりも防振性能が悪い理由は、実験例2は一方の層を発泡ゴムで構成したため、想定した試験荷重では発泡ゴムの部分が潰れて弾性体として機能せず、荷重を受けるのが高硬度ゴム部の端部のみとなったことによる。
また、JIS−A硬度70の無発泡高硬度ゴムとJIS−A硬度11の無発泡低硬度ゴムで構成した本発明の実施例に相当する実験例3が、最も高い防振性を示した理由は、実験例2では発泡ゴムが弾性体として機能しなかったのに対し、実験例3では発泡ゴムに代えて無発泡ゴムとしたことにより、想定した試験荷重でも弾性体として機能したことによる。
【符号の説明】
【0019】
10 クローラ用ゴムパッド
21 金属プレート
26 袋ナット
28 フック
31 ゴム体
33 低硬度弾性部
37 本体部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9