特許第6162023号(P6162023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162023
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】ランフラットラジアルタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 17/00 20060101AFI20170703BHJP
   B60C 9/20 20060101ALI20170703BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20170703BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
   B60C17/00 B
   B60C9/20 B
   B60C9/18 K
   B60C9/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-223382(P2013-223382)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-85713(P2015-85713A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】小川 岳
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−063324(JP,A)
【文献】 特開2002−301915(JP,A)
【文献】 特開2012−116212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 17/00
B60C 9/00
B60C 9/18
B60C 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部間に跨るカーカスと、
前記ビード部とトレッド部とを連結するタイヤサイド部に設けられたサイド補強層と、
前記カーカスのタイヤ径方向外側に設けられ、タイヤ周方向に対して60度〜90度の傾斜角度で傾斜するコードを備えると共に、前記サイド補強層をタイヤ径方向に投影したときに、前記サイド補強層と重なる重複幅が、タイヤ断面高さの15%以上の長さとなるように前記トレッド部の両端部のみに配置された補強コード層と、
を有するランフラットラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記補強コード層のタイヤ幅方向外側の端部は、前記トレッド部の接地端からタイヤ幅方向外側へ5mmの位置からタイヤ幅方向外側に配置されている、請求項1に記載のランフラットラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記サイド補強層の下端部からビード部の先端までの高さは、前記ビード部に埋設されたビードコアからタイヤ径方向外側へ延びるビードフィラーの高さの50%〜80%の範囲に設定されている、請求項1または請求項2に記載のランフラットラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記トレッド部の前記補強コード層よりタイヤ径方向内側には、タイヤ周方向に対して15度〜30度の傾斜角度で傾斜する傾斜ベルト層が設けられている請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のランフラットラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記補強コード層は、有機繊維のコードにより構成されている請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のランフラットラジアルタイヤ。
【請求項6】
タイヤ断面高さが115mm以上である請求項1〜請求項5の何れか1項に記載のランフラットラジアルタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランフラットラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤがパンクして内圧が低下した状態でも一定距離を走行可能にするランフラットタイヤとして、タイヤサイド部をサイド補強ゴムで補強したサイド補強型のランフラットタイヤがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−116212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、サイド補強型のランフラットラジアルタイヤでは、内圧が低下した状態での走行時(ランフラット走行時)に、車両が旋回するなどしてSA(スリップアングル)が入力された場合、タイヤサイド部がタイヤ内側に折れ曲がるバックリング現象が発生することがある。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、ランフラット走行時にタイヤサイド部のバックリング現象の発生を抑制できるランフラットラジアルタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係るランフラットラジアルタイヤは、一対のビード部間に跨るカーカスと、前記ビード部とトレッド部とを連結するタイヤサイド部に設けられたサイド補強層と、前記カーカスのタイヤ径方向外側に設けられ、タイヤ周方向に対して60度〜90度の傾斜角度で傾斜するコードを備えると共に、前記サイド補強層をタイヤ径方向に投影したときに、前記サイド補強層と重なる重複幅が、タイヤ断面高さの15%以上の長さとなるように前記トレッド部の両端部のみに配置された補強コード層と、を有する。
【0007】
本発明の第1態様に係るランフラットラジアルタイヤによれば、ビード部とトレッド部とを連結するタイヤサイド部には、サイド補強層が設けられている。また、一対のビード部間を跨るカーカスのタイヤ径方向の外側には、補強コード層が設けられている。ここで、サイド補強層をタイヤ径方向に投影したときに、サイド補強層と補強コード層とが重なる重複幅が、タイヤ断面高さ(セクションハイト)の15%以上の長さとなっている。これにより、バックリング現象の起点となるトレッド端部近傍の剛性を高めることができる。なお、ここでいう「タイヤ断面高さ」とは、JATMA(日本自動車タイヤ協会)のYear Book2013年度版で定義されるように、タイヤ外径とリム径との差の1/2の長さを指す。
【0008】
また、補強コード層を構成するコードは、タイヤ周方向に対して60度〜90度の傾斜角度で傾斜している。これにより、タイヤ周方向に対する傾斜角度が60度未満のコードを用いた場合と比較して、ショルダー部の曲げ剛性を高めることができ、その結果、タイヤサイド部のバックリング現象の発生を抑制できる。
補強コード層は、トレッド部の両端部に設けられているため、補強コード層をトレッド部全体に設けた場合と比較して、重量を軽くすることができる。
本発明の第2の態様に係るランフラットラジアルタイヤは、第1態様に係るランフラットラジアルタイヤであって、前記補強コード層のタイヤ幅方向外側の端部は、前記トレッド部の接地端からタイヤ幅方向外側へ5mmの位置からタイヤ幅方向外側に配置されている。
本発明の第3の態様に係るランフラットラジアルタイヤは、第1態様または第2態様に係るランフラットラジアルタイヤであって、前記サイド補強層の下端部からビード部の先端までの高さは、前記ビード部に埋設されたビードコアからタイヤ径方向外側へ延びるビードフィラーの高さの50%〜80%の範囲に設定されている。
【0009】
本発明の第4態様に係るランフラットラジアルタイヤは、第1態様〜第3態様のいずれか1つの態様に係るランフラットラジアルタイヤであって、前記トレッド部の前記補強コード層よりタイヤ径方向内側には、タイヤ周方向に対して15度〜30度の傾斜角度で傾斜する傾斜ベルト層が設けられている。
【0010】
本発明の第4態様に係るランフラットラジアルタイヤによれば、傾斜ベルト層によって、トレッド部の剛性が高められる。また、補強コード層のタイヤ径方向内側に傾斜ベルト層が無い場合と比較して、ショルダー部の曲げ剛性を高めることができる。
【0013】
本発明の第5態様に係るランフラットラジアルタイヤは、第1態様〜第4態様のいずれか1つの態様に係るランフラットラジアルタイヤであって、前記補強コード層は、有機繊維のコードにより構成されている。
【0014】
本発明の第5態様に係るランフラットラジアルタイヤによれば、補強コード層を金属製のコード等で製造する場合と比較して、重量が軽くなり、且つ材料コストを削減できる。
【0015】
本発明の第6態様に係るランフラットラジアルタイヤは、第1態様〜第5態様のいずれか1つの態様に係るランフラットラジアルタイヤであって、タイヤ断面高さが115mm以上である。
【0016】
本発明の第6態様に係るランフラットラジアルタイヤによれば、タイヤ断面高さ(セクションハイト)が115mm以上のランフラットラジアルタイヤは、タイヤサイド部が曲がりやすくなっているが、このようなランフラットラジアルタイヤであってもバックリング現象の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、上記の構成としたので、ランフラット走行時にタイヤサイド部のバックリング現象が発生するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1参考例に係るランフラットラジアルタイヤをタイヤ軸方向に沿って切断した切断面の片側を示す半断面図である。
図2参考例に係るランフラットラジアルタイヤのランフラット走行時の状態を示す、タイヤ軸方向に沿って切断した断面図である。
図3】ランフラット走行時の比較例のランフラットラジアルタイヤをタイヤ軸方向から見た側面図である。
図4】車両の旋回内側のリム外れ指標と旋回外側のリム外れ指標との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(ランフラットラジアルタイヤ10の構成)
以下、図を参照しながら参考例に係るランフラットラジアルタイヤ10(以下、「タイヤ10」と称す。)について説明する。なお、図中矢印TWはタイヤ10の幅方向(タイヤ幅方向)を示し、矢印TRはタイヤ10の径方向(タイヤ径方向)を示す。ここでいうタイヤ幅方向とは、タイヤ10の回転軸と平行な方向を指し、タイヤ軸方向ともいう。また、タイヤ径方向とは、タイヤ10の回転軸と直交する方向をいう。また、符号CLはタイヤ10の赤道面(タイヤ赤道面)を示している。さらに、本実施の形態では、タイヤ径方向に沿ってタイヤ10の回転軸側を「タイヤ径方向内側」、タイヤ径方向に沿ってタイヤ10の回転軸とは反対側を「タイヤ径方向外側」と記載する。一方、タイヤ幅方向に沿ってタイヤ10の赤道面CL側を「タイヤ幅方向内側」、タイヤ幅方向に沿ってタイヤ10の赤道面CLとは反対側を「タイヤ幅方向外側」と記載する。
【0020】
図1では、標準リム30(図1では、二点鎖線で示している。)に装着して標準空気圧を充填したときタイヤ10を示している。ここでいう標準リムとは、JATMA(日本自動車タイヤ協会)のYear Book2013年度版規定のリムである。また、上記標準空気圧とは、JATMA(日本自動車タイヤ協会)のYear Book2013年度版の最大負荷能力に対応する空気圧である。
【0021】
なお、以下の説明において、荷重とは、下記規格に記載されている適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)のことであり、内圧とは、下記規格に記載されている単輪の最大荷重(最大負荷能力)に対応する空気圧のことであり、リムとは、下記規格に記載されている適用サイズにおける標準リム(または、”Approved Rim”、”Recommended Rim”)のことである。規格は、タイヤが生産又は使用される地域に有効な産業規格によって決められている。例えば、アメリカ合衆国では、”The Tire and Rim Association Inc.のYear Book ”で、欧州では”The European Tire and Rim Technical OrganizationのStandards Manual”で、日本では日本自動車タイヤ協会の“JATMA Year Book”にて規定されている。
【0022】
図1に示すように、参考例に係るタイヤ10は、主として、一対のビード部12と、一対のビード部12間をトロイド状に跨るカーカス14と、カーカス14よりタイヤ径方向外側に設けられた傾斜ベルト層16、キャップ層17及び補強コード層18と、傾斜ベルト層16及び補強コード層18よりタイヤ径方向外側に設けられたトレッド部20と、ビード部12とトレッド部20とを連結するタイヤサイド部22と、タイヤサイド部22に設けられたサイド補強層としてのサイド補強ゴム24と、を備えている。ここで、タイヤ10を標準リム30に組み付けて内圧を標準空気圧とした状態におけるタイヤ外径とリム径との差の1/2の長さをセクションハイトSHとすると、図1のタイヤ10は、セクションハイトSHが115mm以上に設定されており、本参考例では、一例として、セクションハイトSHが129mmとされている。なお、これに限らず、セクションハイトSHが115mmより低いタイヤであってもよい。
【0023】
ビード部12は、タイヤ幅方向に間隔を空けて左右一対設けられている(図1では、片側のビード部12のみ図示している。)。この一対のビード部12には、ビードコア26がそれぞれ埋設されており、このビードコア26の間には、カーカス14が跨っている。
【0024】
カーカス14は、1枚又は複数枚のカーカスプライによって構成されており、カーカスプライは、複数本のコード(例えば、有機繊維コードや金属コードなど)を被覆ゴムで被覆して形成されている。このようにして形成されたカーカス14が一方のビードコア26から他方のビードコア26へトロイド状に延びてタイヤの骨格を構成している。また、カーカス14の一端部及び他端部は、ビードコア26周りにタイヤ内側から外側へ折り返されて後述するトレッド部20まで延びている。なお、本参考例では、カーカス14の一端部及び他端部をビードコア26周りに折り返して係止しているが、これに限らず、例えば、ビード部12に複数のビードコア片を配置して、この複数のビードコア片でカーカス14を挟み込んだ構成としてもよい。
【0025】
ビード部12のカーカス14で挟まれた領域には、ビードコア26からタイヤ径方向外側へ延びるビードフィラー28が埋設されている。ビードフィラー28は、タイヤ径方向外側の端部28Aがタイヤサイド部22に入り込んでおり、タイヤ径方向外側に向けて厚みが減少している。
【0026】
ここで、タイヤ10を標準リム30に組み付けて内圧を標準空気圧とした状態におけるビードフィラー28のタイヤ径方向外側の端部28Aからビード部12の先端までの高さBHは、セクションハイトSHの30%〜50%の範囲内に設定されている。ビードフィラー28の高さBHがセクションハイトSHの30%より低い場合、ランフラット走行時の耐久性を十分に確保できず、また、ビードフィラー28の高さBHがセクションハイトSHの50%より高い場合、乗り心地が悪化するため、上記範囲内で設定するのが好ましい。
【0027】
カーカス14のタイヤ径方向外側には、傾斜ベルト層16が配設されている。傾斜ベルト層16は、1枚又は複数枚のベルトプライ16Aによって構成されており、本参考例では、一例として、2枚のベルトプライ16Aで構成されている。このベルトプライ16Aは、複数本のコード(例えば、有機繊維コードや金属コードなど)を被覆ゴムで被覆して形成されている。ベルトプライ16Aを構成するコードは、タイヤ周方向に対して15度〜30度の傾斜角度で傾斜して配設されており、本参考例では、一例として、26度の傾斜角度で配設されている。また、傾斜ベルト層16は、トレッド部20のタイヤ幅方向の一端部から他端部に亘って形成されている。
【0028】
傾斜ベルト層16のタイヤ径方向外側には、キャップ層17が配設されている。キャップ層17は、傾斜ベルト層16の全体を覆っており、このキャップ層17のタイヤ径方向外側には、補強コード層18が配設されている。本参考例では、一例として、補強コード層18をトレッド部20の両端部に形成している(図1では、片方の補強コード層18のみ図示している。)。なお、これに限らず、トレッド部20のタイヤ幅方向の一端部から他端部に亘って補強コード層18を形成してもよい。また、トレッド部20のタイヤ幅方向の一端部から他端部に亘って補強コード層18を形成し、さらにショルダー部のみに別途補強コード層18を形成してもよい。
【0029】
補強コード層18は、複数本のコードをタイヤ周方向に対して60度〜90度の傾斜角度で傾斜するように形成されており、本参考例では、一例として、90度の傾斜角度で傾斜するように配設されている。また、補強コード層18を構成するコードとしては、有機繊維コードや金属コードが用いられる。本参考例では、一例として、PETを用いている。
【0030】
傾斜ベルト層16、キャップ層17及び補強コード層18のタイヤ径方向外側には、トレッド部20が設けられている。トレッド部20は、走行中に路面に接地する部位であり、トレッド部20の表面には、タイヤ周方向に延びる周方向溝20Aが形成されている。また、トレッド部20には、タイヤ幅方向に延びる図示しない幅方向溝が形成されている。なお、周方向溝20A及び幅方向溝の形状や本数は、タイヤ10に要求される排水性や操縦安定性等の性能に応じて適宜設定される。
【0031】
ビード部12とトレッド部20との間には、タイヤサイド部22が設けられている。タイヤサイド部22は、タイヤ径方向に延びてビード部12とトレッド部20とを連結しており、ランフラット走行時にタイヤ10に作用する荷重を負担できるように構成されている。
【0032】
ここで、タイヤサイド部22には、カーカス14のタイヤ幅方向内側にタイヤサイド部22を補強するサイド補強ゴム24が配設されている。サイド補強ゴム24は、パンクなどでタイヤ10の内圧が減少した場合に車両及び乗員の重量を支えた状態で所定の距離を走行させるための補強ゴムである。なお、本参考例では一例としてゴムを主成分とするサイド補強ゴムを配設しているが、これに限らず、他の材料で形成してもよく、例えば、熱可塑性樹脂等を主成分として形成してもよい。
【0033】
なお、本参考例では、サイド補強ゴム24を1種類のゴム部材で形成しているが、これに限らず、複数のゴム部材で形成してもよい。また、また、サイド補強ゴム24は、ゴム部材が主成分であれば、他にフィラー、短繊維、樹脂等の材料を含んでもよい。さらに、ランフラット走行時の耐久力を高めるため、サイド補強ゴム24を構成するゴム部材として、デュロメータ硬さ試験機を用いて20℃で測定したJIS硬度が70〜85のゴム部材を含んでもよい。さらに、粘弾性スペクトロメータ(例えば、東洋精機製作所製スペクトロメータ)を用いて周波数20Hz、初期歪み10%、動歪み±2%、温度60℃の条件で測定した損失係数tanδが0.10以下の物性を有するゴム部材を含んでもよい。
【0034】
サイド補強ゴム24は、カーカス14の内面に沿ってタイヤ径方向に延びており、ビードコア26側及びトレッド部20側に向かうにつれて厚みが減少する形状、例えば、略三日月形状とされている。なお、ここでいう厚みとは、タイヤ10を標準リム30に組み付けて内圧を標準空気圧とした状態において、カーカス14の法線に沿って計測した長さを指している。なお、サイド補強ゴム24は、タイヤ赤道面で繋がっていてもよい。
【0035】
サイド補強ゴム24の内面には、一方のビード部12から他方のビード部12に亘って図示しないインナーライナーが配設されている。本参考例では、一例として、ブチルゴムを主成分とするインナーライナーを配設しているが、これに限らず、他のゴム部材や、樹脂を主成分としてもよい。なお、本参考例では、インナーライナーとカーカス14との間に1層のサイド補強ゴム24を挟んでいるが、これに限らず、例えば、インナーライナーとカーカス14との間に別途カーカスを配設して、サイド補強ゴム24を分断した構成としてもよい。
【0036】
また、サイド補強ゴム24は、ビードコア26側の下端部24Aがカーカス14を挟んでビードフィラー28と重なっており、トレッド部20側の上端部24Bがカーカス14を挟んで傾斜ベルト層16と重なっている。ここで、サイド補強ゴム24をタイヤ径方向に投影したときに、サイド補強ゴム24と補強コード層18とが重なる重複幅Pは、セクションハイトSHの7.5%以上の長さに設定されている。本参考例では、一例として、重複幅Pは、セクションハイトSHの7.5%の長さに設定されている。
【0037】
また、カーカス14の延在方向に沿ってビードフィラー28の端部28A及びサイド補強ゴム24の下端部24A間の中点Qにおけるサイド補強ゴム24の厚みGBが、サイド補強ゴム24の最大厚みGAの50%以下の厚みに設定されている。本参考例では、一例として、サイド補強ゴム24の厚みGBを最大厚みGAの30%で設定しており、50%以下の厚みとすることで、タイヤサイド部22のバックリング現象が発生した場合であってもサイド補強ゴム24の割れを生じにくくできる。
【0038】
さらに、タイヤ10を標準リム30に組み付けて内圧を標準空気圧とした状態におけるサイド補強ゴム24の下端部24Aからビード部12の先端までの高さLHは、ビードフィラー28の高さBHの50%〜80%の範囲で設定するのが好ましく、本参考例では、一例として、65%に設定している。高さLHが高さBHの80%より高ければ、ランフラット走行時の耐久力が確保しにくく、また、50%より低ければ、乗り心地が悪化するためである。
【0039】
なお、タイヤ10を標準リム30に組み付けて内圧を標準空気圧とした状態における最大負荷荷重下でのトレッド部20の接地端Tの間のタイヤ幅方向の距離をトレッド幅Dとすると、本参考例では、傾斜ベルト層16のタイヤ幅方向の長さは、トレッド幅Dの90%〜115%の範囲に設定している。トレッド幅Dの90%より短く形成すれば、トレッド部20の剛性を確保しにくくなり、トレッド幅Dの115%より長くすれば、乗り心地が悪化するため、上記範囲で設定するのが好ましい。ここでいう最大負荷荷重は、JATMA(日本自動車タイヤ協会)が発行する2013年度版YEAR BOOKに記載された最大負荷荷重のことをさす。
【0040】
また、本参考例では、セクションハイトSHが高いタイヤ10を対象としているため、リムガード(リムプロテクション)を設けていないが、これに限らず、セクションハイトSHが低いタイヤを用いる場合は、リムガードを設けてもよい。
(作用及び効果)
【0041】
次に、車両の旋回内側のタイヤサイド部に発生するバックリング現象の説明を通じて本実施の形態のタイヤ10の作用について説明する。以下の説明において、図3で示すタイヤ100は、本参考例に係る補強コード層18を有していない比較例のタイヤ100を標準リム30に装着したものである。
【0042】
図3にように、ランフラット走行時には、タイヤ100の接地部分が大きく撓んだ状態となり、この状態で、例えば、コーナリングによってSA(スリップアングル)が入力されると、タイヤ100の接地部分が潰れてタイヤ100の撓みが増え、この撓みがタイヤ100の進行方向前側へ伝播することで、踏込側部分Fのベルト径が拡大する(なお、図3の矢印は、タイヤ回転方向を示したものである)。この結果、ビード部に対するタイヤ径方向外側の引張力が大きくなり、車両の旋回内側に位置するタイヤサイド部102がタイヤ100の内側に折れ曲がるバックリング現象と相まって、ビード部が標準リム30から外れる現象(リム外れ)が発生することがある。
【0043】
ところで、図4に示すように、旋回内側のリム外れは、セクションハイトSHが115mm以上のタイヤで発生しやすいことが確認されている。図4に示すグラフは、サイズが215/60R17のランフラットラジアルタイヤを用いて、セクションハイトSHに対するリム外れ指標を調べたものであり、リム外れ指標の数値が大きいほど、リム外れしにくいことを示している。この図4によれば、セクションハイトSHが115mmより低いタイヤの場合は、タイヤの旋回外側の方がリム外れし易くなっており、セクションハイトSHが115mm以上のタイヤの場合は、タイヤの旋回内側の方がリム外れし易くなっている。この結果から、セクションハイトSHが115mm以上のタイヤでは、旋回内側のリム外れを抑制することが重要であることが分かる。なお、セクションハイトSHの高さの上限は特に無いが、例えば155mm以下である。
【0044】
ここで、図1に示すように、本参考例に係るタイヤ10では、トレッド部20の両端部に設けた補強コード層18は、サイド補強ゴム24をタイヤ径方向へ投影したときの重複幅が、セクションハイトSHの7.5%以上の長さとなっているので、トレッド部20の両端部の剛性が高められ、ショルダー部を曲がりにくくしている。これにより、ランフラット走行時のタイヤ10にSA(スリップアングル)が入力された場合であっても、図2に示すように、タイヤサイド部22がタイヤ10の内側に折れ曲げることなく、バックリング現象の発生を抑制できる。
【0045】
また、補強コード層18は、タイヤ周方向に対して60度〜90度の傾斜角度で傾斜したコードによって形成されているので、ランフラット走行時のタイヤ10にSA(スリップアングル)が入力された場合であっても、補強コード層18がショルダー部の曲げ剛性を高め、バックリング現象を発生しにくくしている。これにより、例えば、バックリング現象によってビード部12がタイヤ径方向外側へ引張られ、その結果ビード部12が標準リム30から外れるリム外れを防止できる。
【0046】
また、サイド補強ゴム24の下端部24Aをビードフィラー28に重ねているので、タイヤサイド部22の剛性が増してランフラット走行時の耐久性を向上できる。さらに、ビードフィラー28の端部28Aをタイヤ10の最大幅位置よりもタイヤ径方向内側に設けているので、タイヤサイド部22の剛性が高くなり過ぎない。
【0047】
また、図1の中点Qにおけるサイド補強ゴム24の厚みGBをサイド補強ゴム24の最大厚みGAの50%以下の厚みとしているので、中点Qにおけるカーカス14からサイド補強ゴム24の内面までの距離が短くなり、このサイド補強ゴム24の内面に作用する引張応力を低下させることができる。これにより、バックリング現象の発生時にサイド補強ゴム24が破損するのを抑制できる。
【0048】
以上のように、セクションハイトSHが115mm以上のタイヤ10であっても、本参考例に係る補強コード層18を上記の領域に設けることで、バックリング現象を効果的に抑制できる。
【0049】
なお、本参考例では、トレッド部20の両端部に補強コード層18を設けたが、これに限らず、例えば、タイヤ装着方向内側に位置するトレッド部20の一端部にのみ補強コード層18を設けてもよい。すなわち、リム外れは、パンクしたタイヤ10が旋回外側にある場合に、遠心力で発生するモーメントのため旋回外側のタイヤの垂直荷重が増加するため、タイヤ装着方向内側で発生しやすい。このため、上記対策によってリム外れを抑制できる。また、補強コード層18を複数層形成してもよい。この場合、更にリム外れの抑制効果を高めることができる。
【0050】
(試験例)
本発明に係るランフラットラジアルタイヤの効果を確かめるために、以下の実施例1〜5のランフラットラジアルタイヤと、本発明に含まれない比較例1〜4のランフラットラジアルタイヤを用意して以下の試験を実施した。
【0051】
まず、試験に用いた実施例1〜5のランフラットラジアルタイヤ及び比較例1〜4のランフラットラジアルタイヤについて説明する。試験に用いたランフラットラジアルタイヤのサイズは、何れも215/60R17であり、補強コード層の材質はスチールとした。また、実施例1〜5及び比較例1〜4のランフラットラジアルタイヤは、本参考例のタイヤ10と同じ構造を採用しており、補強コード層のパラメータがそれぞれ異なるタイヤである。
【0052】
なお、比較例1のランフラットラジアルタイヤは、サイド補強ゴムと補強コードとのタイヤ幅方向の重複幅をセクションハイトSHの7.5%未満(4.0%)としたラジアルタイヤである。また、比較例4のランフラットタイヤは、補強コード層の傾斜角度をタイヤ周方向に対して60度未満(50度)にしたタイヤである。実施例1〜5及び比較例1〜4のランフラットラジアルタイヤの各種数値に関しては、表1,2に示す通りである。なお、以下の表1及び表2における「配設箇所(タイヤ幅方向)」とは、補強コード層をトレッド部の両端部(ショルダー部)のみに配設した構成であるか、トレッド部の全体に亘って配設した構成であるかを示したものである。また、「接地端Tからの位置S」とは、接地端Tから補強コード層のタイヤ幅方向外側の端部までのタイヤ幅方向の長さを示したものであり、補強コード層の端部が接地端Tよりタイヤ幅方向外側に位置している場合は負の値とし、補強コード層の端部が接地端Tよりタイヤ幅方向内側に位置している場合は正の値で示している(図1参照)。
【0053】
試験では、まず、供試タイヤをJATMA規格の標準リムに組み付け、空気を充填せずに(内圧を0kPaにして)車両に装着し、20km/hの速度で5kmの距離を慣らし走行した。その後、所定の速度で曲率半径が25mの旋回路に進入して、この旋回路の1/3周の位置で停止することを2回連続で実施した(Jターン試験)。ビード部がリムから外れていないときは、旋回加速度を上げて再度実施した。
ここで、比較例1のビード部がリムから外れたときの旋回加速度を基準値(100)として、実施例1〜5及び比較例2〜4の各ビード部がリムから外れたときの旋回加速度を表1及び表2の「リム外れ指標」の欄に指数で表した。「リム外れ指標」は、ビード部がリムから外れたときの旋回加速度を指数で表したものであり、大きいほど良好な結果を示している。また、各供試タイヤの重量を測定し、比較例1の重量を基準値(100)として、実施例1〜5及び比較例2〜4の各タイヤの重量を表1及び表2の「重量指標」の欄に指数で表した。「重量指標」は、小さいほど重量が小さいことを示している。なお、以下の表1では、比較例1〜3及び実施例1,2の結果を示し、表2では、比較例4及び実施例3〜5の結果を示している。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、比較例1、2及び実施例1〜3の補強コード層のタイヤ周方向に対する傾斜角度は何れも90度に設定されているが、サイド補強ゴムをタイヤ径方向に投影したときの補強コード層との重複幅Pが大きいほど、リム外れ指標が良好な結果となるのが確認された。これは、重複幅Pが大きいほど、トレッド端の剛性が高められ、タイヤサイド部が曲がりにくくなっているためと思われる。なお、補強コード層を有機繊維のコードで形成した場合も同様の結果となった。
【0056】
また、実施例3では、補強コード層を全体に設けた構成としているため、重量指標が大きくなっているが、リム外れ指標は比較例1より良好な結果となっている。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示すように、比較例3及び実施例4〜6では、サイド補強ゴムと補強コード層との重複幅Pが何れもセクションハイトSHの15.0%に設定されているが、タイヤ周方向に対する補強コード層の傾斜角度が大きくなるほど、リム外れ指標が良好な結果となった。これは、補強コード層の傾斜角度が90度に近づくほど、ショルダー部の曲げ剛性が高められ、バックリング現象が発生しにくくなるためと思われる。
【符号の説明】
【0059】
10:ランフラットラジアルタイヤ、12:ビード部、14:カーカス、16:傾斜ベルト層、18:補強コード層、20:トレッド部、22:タイヤサイド部、24:サイド補強ゴム(サイド補強層)、SH:セクションハイト
図1
図2
図3
図4