(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記実効値信号のうち、前記所定の期間より短い第2の期間におけるサンプリングデータを用いて、フィルタリング処理を行い、第2の動作判定電圧信号を出力する第2のデジタルフィルタをさらに備え、
前記判定手段は、さらに、前記第2の動作判定電圧信号に基づいて、前記タップの切り替えが必要であるか否かを判定する、
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の電圧調整装置。
前記判定手段は、前記第2の動作判定電圧信号が、当該第2の動作判定電圧信号に対して設定された不感帯領域を逸脱した場合に、前記タップの切り替えが必要であると判定する、
請求項5に記載の電圧調整装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0023】
図1は、本発明の第1実施形態に係る電圧調整装置1を説明するための図であり、例えば、三相(a相、b相、c相)の配電線に設置された状態を示している。なお、配電線の代わりに、他の電力伝送線(送電線や引込線など)であってもよい。
【0024】
電圧調整装置1は、例えば、SVR(Step Voltage Regulator)、LRT(Load Ratio control Transformer)、または、TVR(Thyristor type Step Voltage Regulator)などと同様に構成され、
図1に示すように、タップ付き変圧器11、電圧検出器12、および、制御部13を含んで構成される。電圧調整装置1は、電圧検出器12が検出した、タップ付き変圧器11の2次側(出力側)の電圧に基づき、制御部13がタップ付き変圧器11のタップの切り替えを制御することで、出力電圧が適正な範囲内となるように、出力電圧を調整するものである。なお、本実施形態において、電圧調整装置1から出力される電圧を出力電圧、タップ付き変圧器11から出力される電圧を2次側電圧と表現するが、出力電圧と2次側電圧とは基本的に同値である。
【0025】
タップ付き変圧器11は、多段階のタップを有し、当該タップを切り替えることで、入力される電圧を所定の電圧に変圧(昇圧または降圧)して出力するものである。例えば、タップが1段階上がると、2次側電圧が上昇し、タップが1段階下がると、2次側電圧が減少する。タップ付き変圧器11は、タップの切り替えを実行するタップ切替器111を含んで構成される。タップ切替器111は、後述する制御部13からタップを切り替えるための指令(以下、「タップ切替指令」という。)を入力され、当該タップ切替指令に基づき、タップの切り替えを行う。
【0026】
電圧検出器12は、タップ付き変圧器11の2次側に配置され、タップ付き変圧器11の2次側電圧を検出するものである。電圧検出器12は、検出した電圧(以下、「検出電圧」という。)に応じた電圧信号(以下、「検出電圧信号」という。)を制御部13に出力する。
【0027】
制御部13は、電圧調整装置1の全体を制御するものであり、例えば、ROM、RAM、および、CPUなどを備えるマイクロコンピュータで構成される。制御部13は、電圧検出器12から入力される検出電圧信号に基づき、タップ付き変圧器11のタップ切り替えの要否を判定する。そして、タップ切り替えが必要である場合に、タップ付き変圧器11(タップ切替器111)にタップ切替指令を出力する。そのために、制御部13は、A/D変換部131、実効値演算部132、デジタルフィルタ133、判定部134、および、タップ切替指令部135を含んで構成される。
【0028】
A/D変換部131は、電圧検出器12から入力される検出電圧信号を、デジタル化する(デジタル信号に変換する)ものである。A/D変換部131は、所定のサンプリング周期T
s毎に、アナログ信号である検出電圧信号の標本化を行い、量子化を行って、デジタル信号に変換する。A/D変換部131は、デジタル化した検出電圧信号を実効値演算部132に出力する。
【0029】
実効値演算部132は、電圧の実効値を演算するものである。実効値演算部132は、A/D変換部131から入力されるデジタル化された検出電圧信号から電圧の実効値を演算し、演算した電圧の実効値を、実効値信号Vsとして、デジタルフィルタ133に出力する。なお、実効値演算部132は、さらに、演算した電圧の実効値から、通過電流を流したときに発生する電圧降下分を考慮した値(LDC電圧)を演算し、当該LDC電圧をデジタルフィルタ133に出力するようにしてもよい。
【0030】
デジタルフィルタ133は、実効値信号Vsを入力とし、当該実効値信号Vsから、所定の期間T
periodにおける急峻な電圧変動成分を除去するものである。デジタルフィルタ133は、実効値演算部132から入力される実効値信号Vsのうち、所定の期間T
period分のサンプリングデータを用いて、所定の演算式に基づき、演算を行うことで、フィルタリング処理を行い、急峻な電圧変動成分を除去する。
【0031】
具体的には、デジタルフィルタ133は、Z変換演算子をZとし、また、上記実効値信号Vs、上記サンプリング周期T
s、上記所定の期間T
periodを用いて、下記(7)式に示す演算を行うことで、実効値信号Vsから急峻な電圧変動成分を除去した動作判定電圧信号V
Tpを算出する。下記(7)において、N
periodは、所定の期間T
periodにおけるサンプリングデータの数を表わしている。そして、デジタルフィルタ133は、急峻な電圧変動成分を除去した電圧信号(以下、「動作判定電圧信号」という。)V
Tpを判定部134に出力する。なお、所定の期間T
periodに応じて、電圧変動が除去される度合い(平滑化の度合い)が変化する。すなわち、所定の期間T
periodが長いほど、急激な電圧変動成分が除去されやすく、動作判定電圧信号V
Tpの変動は小さくなる(平滑化の度合いが大きい)。一方、所定の期間T
periodが短いほど、急激な電圧変動成分が除去されにくく、動作判定電圧信号V
Tpの変動は大きくなる(平滑化の度合いが小さい)。
【数7】
【0032】
判定部134は、デジタルフィルタ133から入力される動作判定電圧信号V
Tpが、予め設定された、基準電圧を含む所定の不感帯領域を逸脱しているか否かに応じて、タップ付き変圧器11のタップ切り替えの要否を判定するものである。この不感帯領域は、タップ切り替えが必要であるか否かを判断するための、動作判定電圧信号V
Tpの上限値および下限値の範囲である。例えば、基準電圧を6540[V]、基準電圧を中心とした不感帯幅を±1%とした場合、不感帯領域は、下限値を6475[V]とし、上限値を6605[V]とした範囲となる。したがって、「動作判定電圧信号V
Tpが不感帯領域を逸脱する」とは、動作判定電圧信号V
Tpが不感帯領域の上限値より大きいとき、あるいは、下限値より小さい(下限値に満たない)ときのいずれかを満たすときである。
【0033】
具体的には、判定部134は、動作判定電圧信号V
Tpが不感帯領域の上限値より大きい場合、2次側電圧を下げるようにタップ切り替えが必要であると判定する。また、動作判定電圧信号V
Tpが不感帯領域の下限値より小さい場合、2次側電圧を上げるようにタップ切り替えが必要であると判定する。そして、動作判定電圧信号V
Tpがこれらの両方を満たさない場合、すなわち、不感帯領域の上限値と下限値の範囲内(不感帯領域内)である場合、タップ切り替えが必要でない(不要である)と判定する。そして、判定部134は、当該判定結果を、タップ切替指令部135に出力する。
【0034】
なお、所定の期間T
periodおよび不感帯領域の設定範囲に応じて、動作判定電圧信号V
Tpが所定の不感帯領域を逸脱する頻度が異なる。具体的には、所定の期間T
periodが長いほど(平滑化の度合いが大きいほど)、また、不感帯領域が広いほど、動作判定電圧信号V
Tpが不感帯領域を逸脱し難くなり、タップ切り替えの回数を抑制できるが、出力電圧が適正範囲を逸脱してしまう可能性がある。一方、所定の期間T
periodが短いほど(平滑化の度合いが小さいほど)、また、不感帯領域が狭いほど、動作判定電圧信号V
Tpが不感帯領域を逸脱し易くなり、出力電圧が適正範囲を逸脱することを抑制することができるが、タップ切り替えの回数が多くなる。したがって、出力電圧の逸脱抑制およびタップ切り替えの抑制などのバランスを総合的に考慮して、所定の期間T
periodの長さ(平滑化の度合い)、および、不感帯領域の範囲を設定すればよい。
【0035】
タップ切替指令部135は、判定部134から入力される判定結果に基づき、タップ切替器111にタップの切り替えを指示するタップ切替指令を生成し、タップ切替器111に出力するものである。これにより、タップ切替器111がタップ切り替えを実行し、タップ付き変圧器11の2次側電圧が調整される。具体的には、タップ切替指令部135は、判定部134から入力される判定結果に基づき、2次側電圧を上げるようにタップを切り替える場合、タップを1段階上げるようにタップ切替指令を生成し、タップ切替器111に出力する。また、判定結果に基づき、2次側電圧を下げるようにタップを切り替える場合、タップを1段階下げるようにタップ切替指令を生成し、タップ切替器111に出力する。そして、判定結果に基づき、タップ切り替えが必要でない場合(不要な場合)、タップ切替指令を生成しない。なお、タップ付き変圧器11のタップを一度で複数段階変化させることができる場合(例えば、電圧調整装置1をTVRと同様に構成した場合)には、1段階ではなく、複数段階上下させるようタップ切替指令を生成してもよい。
【0036】
次に、このように構成された電圧調整装置1が行う、出力電圧(タップ付き変圧器11の2次側電圧)の電圧調整処理について、
図2を用いて説明する。
【0037】
まず、電圧検出器12がタップ付き変圧器11の2次側電圧を検出する(ステップS11)。そして、電圧検出器12によって検出された検出電圧は、検出電圧信号としてA/D変換部131に出力される。
【0038】
A/D変換部131は、入力される検出電圧信号をA/D変換し、デジタル化する(ステップS12)。そして、A/D変換部131は、デジタル化した検出電圧信号を実効値演算部132に出力する。実効値演算部132は、入力されるデジタル化された検出電圧信号から実効値を演算し(ステップS13)、電圧の実効値信号Vsを、デジタルフィルタ133に出力する。
【0039】
デジタルフィルタ133は、入力される実効値信号Vsを用いて、上記(7)式を演算し、入力される実効値信号Vsから急峻な電圧変動成分を除去するフィルタリング処理を行う(ステップS14)。そして、デジタルフィルタ133は、上記(7)式によって、算出された動作判定電圧信号V
Tpを判定部134に出力する。
【0040】
判定部134は、入力される動作判定電圧信号V
Tpが所定の不感帯領域を逸脱しているか否かに応じて、タップ切り替えの要否を判定する(ステップS15)。具体的には、判定部134は、動作判定電圧信号V
Tpが不感帯領域の上限値より大きいか否かを確認し、当該上限値より大きい場合、2次側電圧を下げるようにタップ切り替えが必要であると判定する。一方、当該上限値以下である場合、続いて、動作判定電圧信号V
Tpが不感帯領域の下限値より小さいか否かを確認する。そして、当該下限値より小さい場合、2次側電圧を上げるようにタップ切り替えが必要であると判定する。一方、当該下限値以上である場合、不感帯領域を逸脱していない、すなわち、不感帯領域内であると判断し、タップ切り替えが不要であると判定する。そして、判定部134は、当該判定結果をタップ切替指令部135に出力する。
【0041】
タップ切替指令部135は、判定部134から入力される判定結果に基づき、タップ付き変圧器11のタップを切り替えるか否かを判断する(ステップS16)。そして、タップ切り替えを実行する場合には(ステップS16でYES)、2次側電圧が基準電圧に近づくようにタップ切替指令を生成し、タップ切替器111に出力する。そして、タップ切替器111が、入力されるタップ切替指令に基づき、タップを切り替えることで、2次側電圧を調整する(ステップS17)。一方、タップ切替指令部135は、判定部134から入力される判定結果に基づき、タップ切り替えを実行しない場合には(ステップS16でNO)、タップ切替指令を生成しない。したがって、タップ切替器111にタップ切替指令が出力されないので、タップ切り替えは行われない。
【0042】
具体的には、ステップS16において、判定部134の判定結果が2次側電圧を下げるようにタップ切り替えが必要であるとの判定結果であった場合、タップ切替指令部135は、タップを1段階下げるようにタップ切替指令を生成し、タップ切替器111に出力する。そして、タップ切替器111が当該タップ切替指令に基づき、タップを1段階下げることで、2次側電圧が1タップ分減少する。または、ステップS16において、判定部134の判定結果が2次側電圧を上げるようにタップ切り替えが必要であるとの判定結果であった場合、タップ切替指令部135は、タップを1段階上げるようにタップ切替指令を生成し、タップ切替器111に出力する。そして、タップ切替器111が当該タップ切替指令に基づき、タップを1段階上げることで、2次側電圧が1タップ分上昇する。あるいは、ステップS16において、判定部134の判定結果がタップ切り替えが不要であるとの判定結果である場合、タップ切替指令部135は、タップ切替指令を生成しない。したがって、タップは切り替わらない。
【0043】
電圧調整装置1は、上記電圧調整処理を繰り返し行うことで、タップ付き変圧器11の2次側電圧から動作判定電圧V
Tpを算出し、当該動作判定電圧V
Tpに基づき、タップ切り替えを制御している。これにより、電圧調整装置1の出力電圧が、適正範囲となるように自動的に調整される。
【0044】
以上より、本発明の第1実施形態に係る電圧調整装置1は、デジタルフィルタ133が上記(7)式に示す演算式により2次側電圧に基づく実効値信号Vsをフィルタリング処理し、タップ付き変圧器11の2次側電圧から急峻な電圧変動成分を除去した動作判定電圧信号V
Tpを算出するようにした。そして、判定部134が動作判定電圧信号V
Tpが不感帯領域を逸脱しているか否かに応じて、タップ切り替えの要否を判定し、タップ切り替えが必要な場合にタップを切り替えるようにした。これにより、動作判定電圧信号V
Tpが不感帯領域を逸脱した場合、即時にタップ切り替えが実行されるため、出力電圧が適正範囲を逸脱することを抑制することができる。そして、急峻な電圧変動成分が除去された動作判定電圧信号V
Tpに基づき、タップ切り替えの要否が判定されるので、平滑化された電圧変動に対して、タップ切り替えの要否を判定することができる。したがって、不要なタップ切り替えを抑制することができる。そして、タップ切り替えの回数を抑制することができれば、電圧調整装置1の機器寿命が延長する効果も奏することができる。
【0045】
上記第1実施形態に係るデジタルフィルタ133において、上記(7)式に示す演算式を用いて、フィルタリング処理を行う場合を例に説明したが、これに限定されない。例えば、下記(8)式に示す演算式、あるいは、下記(9)式に示す演算式を用いてもよい。この場合、当該デジタルフィルタ133を、低域の周波数帯域を通過させるローパスフィルタ、あるいは、低域における必要な範囲の周波数帯のみを通過させるバンドパスフィルタとして機能するように、この下記(8)式および下記(9)式におけるフィルタ次数およびフィルタ係数を設定しておく。
【数8】
【0046】
例えば、上記(8)式の場合、下記(8−1)式のように、フィルタ次数およびフィルタ係数を設定することで、デジタルフィルタ133は、10分で追従する2次のローパスフィルタとして機能し、10分以下の急峻な電圧変動成分を除去する。なお、
図3に、このときの周波数特性(
図3(a))およびステップ応答特性(
図3(b))を示す。
【数9】
【0047】
また、上記(8)式を、下記(8−2)式のように、フィルタ次数およびフィルタ係数を設定することで、デジタルフィルタ133は、30秒の電圧変動成分のみを抜き出す2次のバンドパスフィルタとして機能する。なお、
図4に、このときの周波数特性(
図4(a))およびステップ応答特性(
図4(b))を示す。
【数10】
【0048】
一方、上記(9)式の場合、下記(9−1)式のように、フィルタ次数およびフィルタ係数を設定することで、デジタルフィルタ133は、10分で追従する540次のローパスフィルタとして機能し、10分以下の急峻な電圧変動成分を除去する。なお、係数X
iは、デジタルフィルタ133が
図5に示す周波数特性(
図5(a))およびステップ応答特性(
図5(b))となる係数である。また、このときのフィルタ次数は、サンプリング周期が1[s]にて算出した次数であり、実際に適用する場合には、膨大な計算となる可能性があるため、サンプリング周期T
sを大きくする等の対処をしておくことが望ましい。
【数11】
【0049】
また、上記(9)式を、下記(9−2)式のように、フィルタ次数およびフィルタ係数を設定することで、デジタルフィルタ133は、30秒の電圧変動成分のみを抜き出す46次のバンドパスフィルタとして機能する。なお、係数X
iは、デジタルフィルタ133が、
図6に示す周波数特性(
図6(a))およびステップ応答特性(
図6(b))となる係数である。
【数12】
【0050】
これらのように、デジタルフィルタ133をローパスフィルタあるいはバンドパスフィルタとして機能するように、上記(8)式または上記(9)式のフィルタ次数およびフィルタ係数を設定することで、上記(7)式の代わりに、上記(8)式または上記(9)式を代用してもよい。デジタルフィルタ133に上記(7)式に示す演算式を用いた場合、上記(8)式および上記(9)式のように、フィルタ次数およびフィルタ係数を設定する必要がなく、容易に設計することができる。一方、デジタルフィルタ133に上記(8)式あるいは上記(9)式に示す演算式を用いた場合、設定するフィルタ次数およびフィルタ係数に応じて、除去したい周波数を調整することができる。したがって、除去したい電圧変動成分が分かっている場合には、当該電圧変動成分のみを除去するように、細かく調整することができる。なお、利用する電圧調整装置1に応じて、適宜、上記(7)式ないし上記(9)式のいずれかを利用すればよい。なお、上記(8−1)式,(8−2)式,(9−1)式,(9−2)式におけるフィルタ次数およびフィルタ係数は一例であり、上記したものに限定されるものではない。
【0051】
上記第1実施形態に係る判定部134において、動作判定電圧信号V
Tpが不感帯領域を逸脱したときに、タップの切り替えが必要であると判定する場合を例に説明したが、これに限定されない。例えば、判定部134が、デジタルフィルタ133から入力される動作判定電圧信号V
Tpを用いて、当該動作判定電圧信号V
Tpが不感帯領域を逸脱した期間が所定時間以上継続した場合に、タップの切り替えが必要であると判定してもよい。あるいは、デジタルフィルタ133から入力される動作判定電圧信号V
Tpを用いて、動作判定電圧信号V
Tpと不感帯領域と差電圧を積分し、当該積分値が所定値以上となった場合に、タップの切り替えが必要であると判定してもよい。また、差電圧ではなく、動作判定電圧信号V
Tpを積分し、当該積分値が所定の範囲を逸脱した場合に、タップの切り替えが必要であると判定してもよい。このようにすることで、電圧調整装置1が複数台直列に連系されている場合に、動作ハンチング(前後の電圧調整装置同士で不要動作を繰り返す現象)を防止できる。
【0052】
上記第1実施形態に係る制御部13において、判定部134は、デジタルフィルタ133から入力される動作判定電圧信号V
Tpに基づき、タップの切り替えが必要であるか否かを判定する場合を例に説明したが、少なくとも上記動作判定電圧信号V
Tpを用いてタップ切り替えの要否を行うものであれば、これに限定されない。例えば、判定部134は、動作判定電圧信号V
Tpの他に、電圧検出器12が検出した2次側電圧を監視し、動作判定電圧信号V
Tpが上記不感帯領域を逸脱した場合、および、2次側電圧が当該2次側電圧に対する不感帯領域を逸脱した場合の両方を満たす場合に、タップの切り替えが必要であると判定してもよい。このときの2次側電圧は、実効値演算部132が演算した実効値信号Vsが用いられる。なお、この2次側電圧によるタップ切り替えの要否判定において、上記した時間判定方式あるいは積分判定方式を用いてもよい。
【0053】
また、上記第1実施形態に係る電圧調整装置1において、デジタルフィルタ133が行うフィルタリング処理では、所定の期間T
periodにおいて急峻とされる電圧変動成分を除去できるが、実系統においては、種々要因による電圧変動も存在している。例えば、短期間で急激な変動(乱高下)が発生することもある。このような状況において、上記第1実施形態のデジタルフィルタ133では、所定の期間T
periodにおける急峻な電圧変動を除去するため、当該期間T
periodと比べ、短い期間における急峻な電圧変動をフィルタリング処理により除去してしまう場合がある。したがって、上記第1実施形態では、配電線に設置された機器に悪影響を及ぼす、急激な乱高下を無視してしまう可能性があり、このとき、タップが切り替わらない。そこで、デジタルフィルタ133とは異なるデジタルフィルタをさらに追加し、短期間における急峻な電圧変動に対応できるようにしてもよい。この場合を第2実施形態として、以下に説明する。なお、上記第1実施形態と同一あるいは類似の構成については、同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0054】
図7は、本発明の第2実施形態に係る電圧調整装置2を説明するための図である。電圧調整装置2は、上記第1実施形態に係る電圧調整装置1と比較し、制御部13が制御部23に置き換わっている点で異なる。
【0055】
制御部23は、上記第1実施形態に係る制御部13と比較し、デジタルフィルタ133の他に、当該デジタルフィルタ133と異なるデジタルフィルタ233が追加され、かつ、判定部234によるタップ切り替えの要否判定の方法が異なる。
【0056】
デジタルフィルタ233は、実効値信号Vsを入力として、当該実効値信号Vsから、上記第1実施形態に係る所定の期間(説明の便宜を図り、第2実施形態において「第1の期間」と表現する。)T
periodよりも短い第2の期間T
baseにおける急峻な電圧変動成分を除去するものである。デジタルフィルタ233は、急峻な電圧変動成分を除去した電圧信号(以下、「第2動作電圧信号」という。)V
Tbを判定部234に出力する。なお、以下の説明の便宜を図り、第2実施形態において、上記デジタルフィルタ133が算出する動作判定電圧信号V
Tpを第1動作判定電圧信号V
Tpと表現する。デジタルフィルタ233は、実効値演算部132から入力される実効値信号Vsと、過去の第2の期間T
base分の実効値信号Vsのサンプリングデータを用いて、所定の演算式を算出することで、フィルタリング処理を行い、急峻な電圧変動成分を除外する。
【0057】
具体的には、デジタルフィルタ233は、上記実効値信号Vs、上記サンプリング周期T
s、上記第2の期間をT
base、上記Z変換演算子Zを用いて、下記(10)式に示す演算を行うことで、実効値信号Vsから急峻な電圧変動成分を除去した第2動作判定電圧信号V
Tbを算出する。下記(10)式において、N
baseは、第2の期間T
baseにおけるサンプリングデータの数を表わしている。したがって、デジタルフィルタ233は、デジタルフィルタ133と比較し、第1の期間T
periodよりも短い第2の期間T
baseにおけるサンプリングデータを用いている点で異なる。デジタルフィルタ233において、第2の期間T
baseが第1の期間T
periodよりも短いため、除去される電圧変動成分は少なくなり、第2動作判定電圧信号V
Tbは、同期間における第1動作判定電圧信号V
Tpに比べ、電圧変動は大きなもの(平滑化の度合いが小さいもの)となる。
【数13】
【0058】
なお、デジタルフィルタ233においても、上記デジタルフィルタ133と同様に、下記(11)式または下記(12)式に示す演算式を用いて、フィルタリング処理を行うようにしてもよい。ただし、上記(10)式に示す演算式を用いることで、下記(11)式または下記(12)式に示す演算式を用いる場合に比べ、デジタルフィルタ233を容易に設定することできる。
【数14】
【0059】
判定部234は、上記判定部134と同様に、デジタルフィルタ133から入力される第1動作判定電圧信号V
Tpが、上記第1実施形態に係る不感帯領域(説明の便宜を図り、第2実施形態において「第1不感帯領域」と表現する。)を逸脱しているか否かに応じて、タップ付き変圧器11のタップ切り替えの要否を判定するものである。ただし、判定部234は、デジタルフィルタ233から入力される第2動作判定電圧信号V
Tbが、予め設定された、基準電圧を含む第2不感帯領域を逸脱している場合には、第1動作判定電圧信号に基づく判定結果に関わらず、タップ切り替えが必要であると判定する。なお、当該第2不感帯領域は、第1不感帯領域と同様に、タップ切り替えが必要であるか否かを判断するための、第2動作判定電圧信号V
Tbの上限値および下限値の範囲である。
【0060】
具体的には、判定部234は、第2動作判定電圧信号V
Tbが第2不感帯領域の上限値より大きい場合、2次側電圧を下げるようにタップ切り替えが必要であると判定する。また、第2動作判定電圧信号V
Tbが第2不感帯領域の下限値より小さい場合、2次側電圧を上げるようにタップ切り替えが必要であると判定する。そして、第2動作判定電圧信号V
Tbがこれらの両方を満たさない場合、すなわち、第2不感帯領域の上限値と下限値の範囲内(第2不感帯領域内)である場合、続いて、上記判定部134と同様に第1動作判定電圧信号V
Tpが第1不感帯領域を逸脱しているか否かに基づき、タップ切り替えの要否を判定する。そして、判定部234は、当該判定結果をタップ切替指令部135に出力する。なお、上記第1実施形態と同様に、出力電圧の逸脱抑制およびタップ切り替えの抑制などのバランスを総合的に考慮して、第2不感帯領域、および、第2の期間T
baseの長さ(平滑化の度合い)を設定すればよい。
【0061】
次に、このように構成された電圧調整装置2が行う、出力電圧の電圧調整処理について、説明する。なお、第2実施形態に係る電圧調整処理は、第1実施形態における電圧調整処理(
図2参照)と比較し、ステップS14とステップS15の処理が異なっている。なお、当該第2実施形態に係る電圧調整処理のフローチャートは、第1実施形態に係る電圧調整処理のフローチャート(
図2参照)と略同じであるため、その図示を省略する。
【0062】
上記第1実施形態に係る電圧調整処理のステップS14では、デジタルフィルタ133が上記(7)式を演算することで、入力される実効値信号Vsをフィルタリング処理し、第1動作判定電圧信号V
Tpを算出した。これに対し、第2実施形態においては、デジタルフィルタ133によるフィルタリング処理に加え、デジタルフィルタ233が上記(10)式を演算することで、入力される実効値信号Vsをフィルタリング処理し、第2動作判定電圧信号V
Tbを算出する。
【0063】
そして、上記第1実施形態に係る電圧調整処理のステップS15では、第1動作判定電圧信号V
Tpが第1不感帯領域を逸脱しているか否かに応じて、タップ切り替えの要否を判定していた。これに対して、第2実施形態においては、さらに、第2動作判定電圧信号V
Tbが第2不感帯領域を逸脱しているか否かに応じて、タップ切り替えの要否を判定する。具体的には、判定部234は、まず、第2動作判定電圧信号V
Tbが第2不感帯領域の上限値より大きいか否かを確認し、第2不感帯領域の上限値より大きい場合、2次側電圧を下げるようにタップ切り替えが必要であると判定する。一方、第2不感帯領域の上限値以下である場合、続いて、第2動作判定電圧信号V
Tbが第2不感帯領域の下限値より小さいか否かを確認する。そして、第2不感帯領域の下限値より小さい場合、2次側電圧を上げるようにタップ切り替えが必要であると判定する。一方、第2不感帯領域の下限値以上である場合、第2不感帯領域を逸脱していない、すなわち、第2不感帯領域内であると判断し、次に、第1動作判定電圧信号V
Tpが第1不感帯領域の上限値より大きいか否かを確認する。そして、第1不感帯領域の上限値より大きい場合、2次側電圧を下げるようにタップ切り替えが必要であると判定する。一方、第1不感帯領域の上限値以下である場合、続いて、第1動作判定電圧信号V
Tpが第1不感帯領域の下限値より小さいか否かを確認する。そして、第1不感帯領域の下限値より小さい場合、2次側電圧を上げるようにタップ切り替えが必要であると判定する。一方、第1不感帯領域の下限値以上である場合、第1不感帯領域を逸脱していない、すなわち、第1不感帯領域内であると判断し、この場合、タップ切り替えが不要であると判定する。そして、判定部234は、当該判定結果をタップ切替指令部135に出力する。
【0064】
電圧調整装置2は、上記電圧調整処理を繰り返し行うことで、タップ付き変圧器11の2次側電圧から第1動作判定電圧V
Tpおよび第2動作判定電圧V
Tbを算出し、第1動作判定電圧V
Tpおよび第2動作判定電圧V
Tbに基づき、タップ切り替えを制御している。これにより、電圧調整装置2の出力電圧が、適正範囲となるように自動的に調整される。
【0065】
次に、上記電圧調整装置2を用いた、シミュレーションによる検証結果について、説明する。ここで、従来の電圧調整装置と、本発明に係る電圧調整装置2との性能比較検証を実施した。
【0066】
当該シミュレーションでは、従来の電圧調整装置および本発明の電圧調整装置2において、基準電圧を6540[V]、出力電圧の適正範囲を6400[V]〜6700[V]とした。また、従来の電圧調整装置は、時間判定方式によりタップ切り替えの判定を行い、当該時間判定方式における時間を45秒とした。一方、本発明の電圧調整装置2は、デジタルフィルタ133の第1の期間T
periodを10分間、デジタルフィルタ233の第2の期間T
baseを30秒とし、第1不感帯領域を基準電圧6540[V]の±1%(6475[V]〜6605[V])、第2不感帯領域を6405[V]〜6695[V]とした。サンプリング周期T
sは1秒とした。また、各電圧調整装置に用いたタップ付き変圧器のタップの段階数は9段階であり、5を中心とした上下に4段階のタップを有するものを利用した。そして、これらの電圧調整装置に入力する電圧(1次側電圧)の入力波形は
図8に示すものとした。
【0067】
このような条件下で、シミュレーションをした結果、従来の電圧調整装置では、出力電圧が適正範囲を逸脱したときの差電圧の1分間当たりの平均値(1分間当たりの逸脱量)は、52[V・min]であったのに対して、本発明の電圧調整装置2では、0[V・min]であった。また、タップ切り替えの回数においても、従来の電圧調整装置では82回であったのに対し、本発明の電圧調整装置2では14回であった。したがって、本発明に係る電圧調整装置2は、出力電圧が適正範囲を逸脱することを回避し、出力電圧を適正範囲内に制御できていた。また、出力電圧を適正範囲内に制御しつつ、タップ切り替えの回数が少なくなっており、不要なタップ切り替えを抑制できていた。これについて、
図9に示す当該シミュレーションの詳細結果を参照して、詳しく説明する。
【0068】
図9(a)は、本発明の電圧調整装置2において、デジタルフィルタ133が算出した第1動作判定電圧信号V
Tpの推移を表わしている。
図9(b)は、タップ位置(タップ動作)の推移を表わし、左図が従来の電圧調整装置、右図が本発明の電圧調整装置2の結果である。
図9(c)は、電圧調整装置の出力電圧の推移を表わし、左図が従来の電圧調整装置、右図が本発明の電圧調整装置2の結果である。なお、
図9(c)は、1秒毎の出力電圧の結果をプロットしている。そして、
図9(d)は、1分間での逸脱量の推移を表わし、左図が従来の電圧調整装置、右図が本発明の電圧調整装置2の結果である。
【0069】
従来の電圧調整装置では、タップ切り替えの要否を、
図8に示す入力電圧が所定の不感帯領域を逸脱する時間に基づき判定していたため、
図9(b)左図に示すように、急峻な電圧変動によって、頻繁にタップの切り替えが発生していることが分かる。そして、このタップ切り替えに起因して、
図9(c)左図に示すように、出力電圧が適正範囲を逸脱していることも分かる。したがって、従来の電圧調整装置では、不要なタップ切り替えが発生していると言える。このとき、
図9(d)左図に示すように、1分間での逸脱量は52[V・min]であった。
【0070】
一方、本発明の電圧調整装置2では、タップ切り替えの要否を、
図9(a)に示すデジタルフィルタ133によるフィルタリング処理後の第1動作判定電圧信号V
Tp、および、デジタルフィルタ233によるフィルタリング処理後の第2動作判定電圧信号V
Tbに基づき判定したことで、
図9(b)右図に示すように、タップ切り替えの回数が少なくなったことが分かる。また、
図9(c)右図に示すように、急峻な電圧変動によって、1秒毎の出力電圧では、数回、出力電圧が適正範囲の下限を逸脱しているものの、
図9(d)右図に示すように、1分間の逸脱量では、逸脱は見られず、出力電圧が適正範囲を逸脱することを回避できている。また、
図9(a)において、デジタルフィルタ133によるフィルタリング処理により、平滑化された電圧変動となっていることが分かる。したがって、デジタルフィルタ133が上記(7)に示す演算式によりフィルタリング処理を行うことで、急峻な電圧変動成分を除去できていることが分かる。よって、本シミュレーションにおいて、本発明の電圧調整装置2は、タップ切り替えの回数が少なくても、出力電圧を適正範囲内に制御できていると言える。
【0071】
以上より、本発明の第2実施形態に係る電圧調整装置2において、上記第1実施形態に係る電圧調整装置1にデジタルフィルタ233を追加し、判定部234が、第1動作判定電圧信号V
Tpが第1不感帯領域を逸脱しているか否か、および、第2動作判定電圧信号V
Tbが第2不感帯領域を逸脱しているか否かに応じて、タップ切り替えを行うようにした。これにより、電圧調整装置2は、第1動作判定電圧信号V
Tpが第1不感帯領域を逸脱した場合に、タップ切り替えが実行されるため、上記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第2動作判定電圧信号V
Tbが第2不感帯領域を逸脱した場合にもタップ切り替えが実行されるため、デジタルフィルタ133では除去されてしまう急峻な電圧変動にも対応することができる。したがって、出力電圧が適正範囲を逸脱することを、より抑制することができる。
【0072】
上記第2実施形態において、制御部23に2種類のデジタルフィルタ133,232を備えた場合を例に説明したが、これに限定されず、複数種類のデジタルフィルタを備えておいてもよい。このとき、各デジタルフィルタにおける所定の期間をそれぞれ異なるように設定しておくことで、任意の電圧変動成分を除去できるようになる。これにより、様々な電圧変動成分に対応することができ、出力電圧が適正範囲を逸脱することを、より抑制することができる。
【0073】
上記第1実施形態および上記第2実施形態において、判定部134(234)が判定結果をタップ切替指令部135に出力し、タップ切替指令部135は、判定結果に基づき、タップ切り替えが必要な場合、タップ切替指令を生成し、タップ切り替えが必要でない場合(不要な場合)、タップ切替指令を生成しない場合を例に説明したが、これに限定されない。例えば、判定部134(234)による判定の結果、タップ切り替えが必要であると判定した場合のみ、判定部134(234)からタップ切替指令部135にタップ切替指令の生成を指示し、当該タップ切替指令の生成の指示に応じて、タップ切替指令部135がタップ切替指令を生成するようにしてもよい。
【0074】
以上、本発明に係る電圧調整装置について説明したが、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載の内容を逸脱しなければ、各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。