(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162261
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】水平突き合わせ継手大溶着溶接装置及びその方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/02 20060101AFI20170703BHJP
B23K 37/06 20060101ALI20170703BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20170703BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
B23K9/02 G
B23K37/06 K
B23K9/12 350G
B23K9/12 331A
B23K9/095 505B
B23K9/095 501F
B23K9/095 505C
B23K9/12 305
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-557939(P2015-557939)
(86)(22)【出願日】2014年2月11日
(65)【公表番号】特表2016-510263(P2016-510263A)
(43)【公表日】2016年4月7日
(86)【国際出願番号】KR2014001121
(87)【国際公開番号】WO2014129766
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2015年8月14日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0019625
(32)【優先日】2013年2月25日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513049387
【氏名又は名称】デウ シップビルディング アンド マリン エンジニアリング カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨンチュ
【審査官】
篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭54−162648(JP,A)
【文献】
特開昭52−133046(JP,A)
【文献】
特開昭62−220285(JP,A)
【文献】
特開昭62−254972(JP,A)
【文献】
特開昭59−153580(JP,A)
【文献】
特開昭54−033243(JP,A)
【文献】
米国特許第03035159(US,A)
【文献】
特開2002−028780(JP,A)
【文献】
特開平07−266038(JP,A)
【文献】
特開昭58−125368(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0203072(US,A1)
【文献】
特開昭61−147978(JP,A)
【文献】
特開2002−239732(JP,A)
【文献】
特開昭61−269980(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0053978(US,A1)
【文献】
特開昭54−148156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/02
B23K 9/095
B23K 9/12
B23K 37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接チップを上部溶接母材及び下部溶接母材の開先に対して垂直及び斜め方向に搬送させる走行機構部と、溶接チップを有し、前記走行機構部に取り付けられる溶接トーチと、前記溶接チップによる溶接方向に位置するように前記走行機構部に取り付けられて溶接の進行方向とは逆方向に溶銑にガスを噴射する銅当て金と、上部溶接母材に溶接面が形成されないマクロ断面が形成されない所定の溶着量を維持するように、水平突き合わせ継手の開先面の位置別に溶接条件を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記走行機構部が多数の節点を含むウィービング走行及び斜め走行を含む特殊ウィービングパターンに沿って搬送されるようにし、
前記節点と節点との間の移動区間における溶接電流電圧、ワイヤー供給速度、走行速度及び前記節点における停止時間を制御して開先面に対する大溶着溶接が行えるように構成されることを特徴とする水平突き合わせ継手大溶着溶接装置。
【請求項2】
前記溶接電流電圧は、
上部溶接母材と下部溶接母材との間のギャップ(G)の長さに応じて初期値が設定され、
背面ビード(B)を形成する2つの節点において、表面ビード(F)を形成する節点の開先面の断面の垂直幅に比例して増加するように大きさが可変的に制御されることを特徴とする請求項1に記載の水平突き合わせ継手大溶着溶接装置。
【請求項3】
前記停止時間は、
背面ビード(B)の形成のための2つの節点において予熱を行い、欠陥の無いビードの生成のための停止時間をT1としたとき、
開先面の内部に対する溶接を行う前記背面ビード(B)の形成のための2つの節点の各々と、表面ビード(F)の形成のための節点間の各々の節点における停止時間は、約±10%の誤差範囲において0.2*T1の停止時間を有し、
前記表面ビード(F)となる節点における停止時間は、約±10%の誤差範囲において0.8*T1の停止時間を有することを特徴とする請求項1に記載の水平突き合わせ継手大溶着溶接装置。
【請求項4】
前記ワイヤー供給速度は、
背面ビード(B)を設定する節点における初期値は、ギャップ(G)によって設定され、前記背面ビード(B)及び表面ビード(F)を形成する節点の間に位置する節点においては、前記開先面の断面の垂直幅に比例して前記初期値よりも増加するように算出されることを特徴とする請求項1に記載の水平突き合わせ継手大溶着溶接装置。
【請求項5】
前記制御部は、
電圧検出センサーの電圧値及び電流検出センサーの電流値を用いて単位体積当たりに所定の溶着量を維持するように前記走行機構部の走行速度を制御することを特徴とする請求項1に記載の水平突き合わせ継手大溶着溶接装置。
【請求項6】
溶接チップを上部溶接母材及び下部溶接母材の開先に対して垂直及び斜め方向に搬送させる走行機構部と、溶接チップを有し、前記走行機構部に取り付けられる溶接トーチと、前記溶接チップによる溶接方向に位置するように前記走行機構部に取り付けられて溶接の進行方向とは逆方向に溶銑にガスを噴射する銅当て金と、前記走行機構部が多数の節点を含むウィービング走行及び斜め走行を含む特殊ウィービングパターンに沿って搬送されるように制御し、上部溶接母材に溶接面が形成されないマクロ断面が形成されない所定の溶着量を維持するように、水平突き合わせ継手の開先面の位置別に溶接条件を制御する制御部と、を備える水平突き合わせ継手大溶着溶接装置を用いた水平突き合わせ継手大溶着溶接方法において、
前記制御部が、前記節点と節点との間の移動区間における溶接電流及び溶接電圧を算出する溶接電流電圧算出過程と、
前記制御部が、前記各々の節点における停止時間を算出する停止時間算出過程と、
前記溶接電流電圧算出過程において算出された各節点及び節点間の移動区間別の溶接電流、溶接電圧及び前記停止時間算出過程において算出された節点別の停止時間に応じて、前記制御部が、溶接トーチに溶接電圧、溶接電流を供給する溶接器及び前記走行機構部を制御することによって、ルートパス溶接を行うことなく開先面に対する大溶着溶接を行う大溶着溶接制御過程と、
を含むことを特徴とする水平突き合わせ継手大溶着溶接方法。
【請求項7】
前記溶接電流電圧算出過程(S10)において算出される前記溶接電流及び溶接電圧は、
前記上部溶接母材と下部溶接母材との間のギャップ(G)の幅に応じて初期値が設定され、
背面ビード(B)を形成する2つの節点において、表面ビード(F)を形成する節点の開先面の断面の垂直幅に比例して増加するように可変となることを特徴とする請求項6に記載の水平突き合わせ継手大溶着溶接方法。
【請求項8】
前記停止時間算出過程(S20)において算出される各々の節点における停止時間は、
前記上部溶接母材と下部溶接母材との間の背面ビード(B)の形成のための2つの節点において予熱を行い、欠陥の無いビードの生成のための停止時間をT1としたとき、
開先面の内部に対する溶接を行う前記背面ビード(B)の形成のための2つの節点の各々と、表面ビード(F)の形成のための節点間の各々の節点における停止時間は、±10%の誤差範囲において0.2*T1の停止時間を有し、
前記表面ビード(F)となる節点における停止時間は、±10%の誤差範囲において0.8*T1の停止時間を有することを特徴とする請求項6に記載の水平突き合わせ継手大溶着溶接方法。
【請求項9】
前記各々の節点と各々の節点との間の移動中に前記溶接のための適正量のワイヤーを供給するためのワイヤー供給速度を算出するワイヤー供給速度設定過程(S30)をさらに含み、
前記ワイヤー供給速度設定過程(S30)において算出される前記ワイヤー供給速度は、
前記上部溶接母材と下部溶接母材との間の背面ビード(B)を設定する節点における初期値は、前記上部溶接母材と下部溶接母材との間のギャップ(G)によって設定され、
前記背面ビード(B)及び表面ビード(F)を形成する節点の間に位置する節点においては、前記開先面の断面の垂直幅に比例して前記初期値よりも増加するように算出されることを特徴とする請求項6に記載の水平突き合わせ継手大溶着溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平突き合わせ継手の溶接に係り、ルート部の溶接を含む大溶着溶接によって継手部の溶接を行うことのできる水平突き合わせ継手大溶着溶接装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、突き合わせ継手とは、溶接母材を突き合わせて継ぐ溶接のことをいい、鉄板を継ぐときに多用される。
【0003】
図1は、従来の自動溶接時におけるルートパス後の溶接状態を示す図である。
図1において、S側図は断面図であり、P側図は部分断面斜視図である。以下の本発明の明細書及び図面において、Sは断面図を示し、Pは部分断面斜視図を示すものとする。
【0004】
図1に示すように、このような突き合わせ溶接に際して、縦方向に向かい合う両溶接母材1a、1bを水平に突き合わせ溶接する場合、普通、上部及び下部の両溶接母材1a、1bが向かい合い、溶接継手部は開先(Bevel)形状となる。なお、上部溶接母材1aの開先面が上に傾くように形成され、下部溶接母材1bが平面において直角に開先された状態で溶接が行われる。
【0005】
このような水平突き合わせ継手に対して自動装備を用いたフラックスコアードアーク溶接法を適用する場合、
図1に示すように、上部溶接母材1a及び下部溶接母材1bは、製作の度合いに応じて異なるギャップ3を有するように配置され、このようなギャップを埋め込んで溶接が行われる面の背面側に先にルートパス溶接(初層溶接)を行うことによってルート部2が形成される。また、ルート部2付き開先の内部に大溶着溶接を行う場合、低い溶銑の粘性及び溶銑に働く重力などの影響によって溶銑が溶接アークよりも先行されてアークが溶銑の上に形成されてしまう。このように溶銑の上に形成されたアークは母材を十分に溶入させ難いため、溶接金属の内部に融合不良及び鉱滓混入などの欠陥が頻繁に発生してしまう。
また、アーク力が低い場合には、上部主材である上部溶接母材が未溶接のマクロ断面53(
図1を参照すること)を形成してしまう。
【0006】
前記アーク力とは、溶融池を押し付ける力のことをいい、一般に、電流の二乗と電圧の積に比例して増加する。アーク力が弱い場合(50)、すなわち、低い電流及び低い電圧を使用する場合、アーク半径51が小さくなって溶銑52もまた小さく生成される。また、小さい溶銑52を押す力も小さくなって、母材の底面に薄い溶入を形成し、上部溶接母材1aの開先面まで溶銑が押し上げられないため溶接継手部の横断面の上に下部溶接母材1bにのみ溶接が形成されて上部溶接母材1aは未溶接のマクロ断面53を形成しながら溶接されてしまう。
【0007】
さらに、通常の溶接トーチ30の溶接チップ31は外径が約8mmと非常に厚いため、手狭い空間において運棒をする場合、溶接チップが開先面に接触してショートが頻繁に発生してしまう。
図2は、このような従来の技術の溶接チップ30を示す図である。
【0008】
このため、開先の内部を溶接するために5〜7パス(Pass)に亘ってできる限り細かく溶接している。また、開先の内部の溶接を終えた後に表面部の溶接を行う場合、やはり低い溶銑の粘性及び溶銑に働く重力などの影響によって、溶接ビードの垂れ現象が頻繁に発生するため、表面ビードは4〜5パスに亘ってできる限り細かく分けて溶接している。
【0009】
図3は、厚さ23mmの溶接母材を従来の技術の溶接装置を用いて多数のパスに亘って溶接した溶接部#1〜#6の断面図である。
【0010】
従来の溶接方式の場合、厚さ15mmの母材に対しては8パスが求められ、
図3に示すように、厚さ23mmの母材に対して10〜15パスが求められる。このため、厚さ23mmの母材を従来の技術の溶接装置を用いて溶接する場合、上部溶接母材が溶接されていない面を有するマクロ断面53(溶接断面におけるアラビア数字1、3、5、8、9の領域)が生成されて、多数のパス数に亘って溶接を行うことを余儀なくされる。
【0011】
すなわち、従来の技術の場合には、溶接母材の厚さによって決定されるギャップ3に対するルートパス溶接(初層溶接)を行うことによってルート部2が形成され、ルート部2が形成された後に開先面の内部に対する大溶着溶接が行われるが、母材の厚さに応じて大溶着溶接を行う場合にも、#1〜#6の溶接部の断面から明らかなように、小さい溶着量をもって多数の多層パス(10〜15パス)に亘っての溶接を大なわざるを得ないため、パス数の節減を通じた生産量の向上には限界があるのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、上述した従来の技術の問題を解消するためのものであり、水平突き合わせ継手部の自動溶接に当たって、開先面に対する大溶着溶接を行うときにルート部が生成されながら大溶着溶接部位が形成されて、溶接断面の内部及び表面に欠陥の無い大溶着溶接が行えるようにし、これによって、溶接パス数が低減される水平突き合わせ継手大溶着溶接装置及びその方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、大溶着ウィービング溶接に際して、グルーブの表面方向へのビード垂れ及び溶接線方向への溶銑の先行などを防ぐことのできる水平突き合わせ継手大溶着溶接装置及びその方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成するための本発明の水平突き合わせ継手大溶着溶接装置は、溶接チップを上部溶接母材及び下部溶接母材の開先に対して垂直及び斜め方向に搬送させる走行機構部と、溶接チップを有し、前記走行機構部に取り付けられる溶接トーチと、前記溶接チップによる溶接方向に位置するように前記走行機構部に取り付けられて溶接の進行方向とは逆方向に溶銑にガスを噴射する銅当て金と、上部溶接母材に溶接面が形成されないマクロ断面が形成されない所定の溶着量を維持するように、水平突き合わせ継手の開先面の位置別に溶接条件を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記走行機構部が多数の節点を含むウィービング走行及び斜め走行を含む特殊ウィービングパターンに沿って搬送されるようにし、前記節点と節点との間の移動区間における溶接電流電圧、ワイヤー供給速度、走行速度及び前記節点における停止時間を制御することによって、ルートパス溶接を行うことなく開先面に対する大溶着溶接が行えるように構成されることを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記溶接電流電圧は、上部溶接母材と下部溶接母材との間のギャップGの長さに応じて初期値が設定され、背面ビードBを形成する2つの節点において表面ビードFを形成する節点の開先面の断面の垂直幅に比例して増加するように大きさが可変的に制御される。
【0016】
また、好ましくは、前記停止時間は、背面ビードBの形成のための2つの節点において予熱を行い、欠陥の無いビードの生成のための停止時間をT1としたとき、開先面の内部に対する溶接を行う前記背面ビードBの形成のための2つの節点の各々と
、表面ビードFの形成のための節点間の各々の節点における停止時間は、約±10%の誤差範囲において0.2*T1の停止時間を有し、前記表面ビードFとなる節点における停止時間は、約±10%の誤差範囲において0.8*T1の停止時間を有する。
【0017】
さらに、好ましくは、前記ワイヤー供給速度は、背面ビードBを設定する節点における初期値は
、ギャップGによって設定され、前記背面ビードB及び表面ビードFを形成する節点の間に位置する節点においては、前記開先面の断面の垂直幅に比例して前記初期値よりも増加するように算出される。
【0018】
さらに、好ましくは、前記銅当て金は、後方ガス注入部と、前方ガス注入部と、前記後方ガス注入部及び前方ガス注入部が形成された面の反対面に溶接方向に進むにつれて深さが低くなるように溝状に形成され、前記後方ガス注入部及び前方ガス注入部の各々の後方ガス吐出口及び前方ガス吐出口が溶接方向の反対方向を向くように形成されたガス通路と、を備えることを特徴とする。
【0019】
さらに、好ましくは、前記銅当て金によって噴射されるガスは、溶銑の先行力よりも強い圧力をもって噴射される。
【0020】
さらに、好ましくは、前記走行機構部は、前記溶接トーチを前記開先面の垂直方向に搬送させる直交ウィービング軸部と、前記溶接トーチを前記開先面に沿って移動させる走行軸部と、を備える。
【0021】
さらに、好ましくは、前記溶接トーチは、外径が8mm以下である溶接チップと、前記溶接チップの外周面に形成される絶縁コーティング層と、を備える。
【0022】
さらに、好ましくは、前記走行機構部は、溶接電流を検出する電流検出センサーと、溶接電圧を検出する電圧検出センサーと、をさらに備える。
【0023】
さらに、好ましくは、前記制御部は
、電圧検出センサーの
電圧値及び電流検出センサーの電流
値を用いて単位体積当たりに所定の溶着量を維持するように前記走行機構部の走行速度を制御する。
【0024】
上述した目的を達成するための本発明の水平突き合わせ継手大溶着溶接方法は、溶接チップを上部溶接母材及び下部溶接母材の開先に対して垂直及び斜め方向に搬送させる走行機構部と、溶接チップを有し、前記走行機構部に取り付けられる溶接トーチと、前記溶接チップによる溶接方向に位置するように前記走行機構部に取り付けられて溶接の進行方向とは逆方向に溶銑にガスを噴射する銅当て金と、前記走行機構部が多数の節点を含むウィービング走行及び斜め走行を含む特殊ウィービングパターンに沿って搬送されるように制御し、上部溶接母材に溶接面が形成されないマクロ断面が形成されない所定の溶着量を維持するように、水平突き合わせ継手の開先面の位置別に溶接条件を制御する制御部と、を備える水平突き合わせ継手大溶着溶接装置を用いた水平突き合わせ継手大溶着溶接方法において、前記制御部が、前記節点と節点との間の移動区間における溶接電流及び溶接電圧を算出する溶接電流電圧算出過程と、前記制御部が、前記各々の節点における停止時間を算出する停止時間算出過程と、前記溶接電流電圧算出過程において算出された各節点及び節点間の移動区間別の溶接電流、溶接電圧及び前記停止時間算出過程において算出された節点別の停止時間に応じて、前記制御部
が前記走行機構部を制御することによって、ルートパス溶接を行うことなく開先面に対する大溶着溶接を行う大溶着溶接制御過程と、を含むことを特徴とする。
【0025】
好ましくは、前記溶接電流電圧算出過程(S10)において算出される前記溶接電流及び溶接電圧は、前記上部溶接母材と下部溶接母材との間のギャップGの幅に応じて初期値が設定され、背面ビードBを形成する2つの節点において表面ビードFを形成する節点の開先面の断面の垂直幅に比例して増加するように可変となる。
【0026】
また、好ましくは、前記停止時間算出過程(S20)において算出される各々の節点における停止時間は、前記上部溶接母材と下部溶接母材との間の背面ビードBの形成のための2つの節点において予熱を行い、欠陥の無いビードの生成のための停止時間をT1としたとき、開先面の内部に対する溶接を行う前記背面ビードBの形成のための2つの節点の各々と、前記表面ビードFの形成のための節点間の各々の節点における停止時間は、±10%の誤差範囲において0.2*T1の停止時間を有し、前記表面ビードFとなる節点における停止時間は、±10%の誤差範囲において0.8*T1の停止時間を有する。
【0027】
さらに、好ましくは、上述した水平突き合わせ継手大溶着溶接方法は、前記各々の節点と各々の節点との間の移動中に前記溶接のための適正量のワイヤーを供給するためのワイヤー供給速度を算出するワイヤー供給速度設定過程(S30)をさらに含む。
【0028】
さらに、好ましくは、前記ワイヤー供給速度設定過程(S30)において算出される前記ワイヤー供給速度は、前記上部溶接母材と下部溶接母材との間の背面ビードBを設定する節点における初期値は、前記上部溶接母材と下部溶接母材との間のギャップGによって設定され、前記背面ビードB及び表面ビードFを形成する節点の間に位置する節点においては、前記開先面の断面の垂直幅に比例して前記初期値よりも増加するように算出される。
【発明の効果】
【0029】
上述した構成を有する本発明は、ウィービング走行や斜め走行による溶接を行う場合、ウィービング又は斜め走行を停止させる多数の節点を有するように溶接チップのウィービング及び斜め走行を制御し、ウィービング走行や斜め走行による溶接を行う過程において、電圧の強さ、電流の強さ及びワイヤー供給速度は開先面の断面の幅に比例して可変となり、停止時間は、開先面の断面の幅に反比例するように可変となるので、ルート部の溶接を含む1パスの大溶着溶接を行うことによって、開先面の内部の約50%、好ましくは、約80%以上の断面領域がルート部を有する1パス溶接部に形成されることから、母材の厚さとは無関係に、1パス又は2パスの大溶着溶接を用いて水平突き合わせ溶接を終えることができて、水平突き合わせ継手溶接のパス数が顕著に低減され、これによって、溶接作業の速度が大幅に向上する効果を有する。
【0030】
また、本発明は、ウィービング走行や斜め走行による溶接を行うときに、開先面の断面幅に比例して電圧、電流、ワイヤー供給速度及び停止時間を制御することによって、溶接断面の内部及び表面に欠陥の無い大溶着溶接が行われるので、溶接品質が大幅に向上する効果を有する。
【0031】
さらに、本発明は、銅当て金に溶接方向とは逆方向に溶銑にガスを噴射することによって、水平突き合わせ継手のための大溶着溶接に際してグルーブの表面方向へのビード垂れ及び溶接線方向への溶銑の先行が防がれるので、溶接品質がなお一層向上する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、従来の自動溶接時におけるルートパス後の溶接状態を示す図である。
【
図2】
図2は、従来の技術の溶接チップ30を示す図である。
【
図3】
図3は、異なる厚さを有する6個の母材を従来の技術の溶接装置を用いて溶接する場合、マクロ断面53のように多数の溶接パス数が求められることを示す溶接部の断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態による水平突き合わせ継手大溶着溶接装置100の分解斜視図である。
【
図9】
図9は、
図5の溶接装置100の概略的な機能ブロック図である。
【
図10】
図10は、本発明の水平突き合わせ継手大溶着溶接方法の処理過程を示す手順図である。
【
図11】
図11は、特殊ウィービングパターン7のための
図9の制御部60による走行軸部40及び直交ウィービング軸部41の移動制御状態を示す図である。
【
図12】
図12は、前記特殊ウィービングパターン7の溶接における各節点P1〜P5における停止時間、節点間における移動速度、溶接電流、溶接電圧制御をはじめとする溶接条件を示すグラフである。
【
図13】
図13は、特殊ウィービングパターン7を用いた溶接過程を示す図である。
【
図14】
図14は、直交ウィービング軸部41を用いてウィービング運動を行う過程の溶接状態を示す図である。
【
図15】
図15は、走行方向の溶接運動及びワイヤー12を示す図である。
【
図16】
図16は、銅当て金4によって溶銑が上部溶接母材1aに押し上げられる状態を示す図である。
【
図17】
図17は、
図5乃至
図11の構成を有する溶接装置100によって大溶着溶接が行われた溶接状態を示す溶接部の断面図である。
【
図18】
図18は、
図5乃至
図11の構成を有する溶接装置100によって大溶着溶接が行われた溶接状態を示す溶接部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態による水平突き合わせ継手大溶着溶接装置及びその方法について詳述する。
【0034】
図4は、本発明の実施形態による溶接装置100の右側(
図1を基準として)から眺めた分解斜視図であり、
図5は、
図4の溶接装置100の右側面図であり、
図6は、
図4の溶接装置100の底面図である。
【0035】
図4に示すように、前記溶接装置100は、ガイドレールR上を走行する走行機構部9と、走行機構部9の底面に取り付けられる溶接トーチ8と、溶銑に溶接の進行方向とは逆方向に溶銑の先行力よりも強い圧力を有するガスを噴射するように溶接トーチ8の溶接の進行方向側に取り付けられる銅当て金4と、制御部60と、表示部63と、設定部64及び溶接器68を備える。
【0036】
前記
図4の溶接装置100の詳細な構成は、下記の
図9の溶接装置100の機能ブロック図の説明に際してさらに詳細に説明する。
【0037】
図7は、
図5の銅当て金4の斜視図である。
図7に示すように、前記銅当て金4は、右側面に後方ガス注入部20及び前方ガス注入部21が形成され、左側面には溶接方向に進むにつれて深さが低くなる溝状のガス通路4aと後方ガス吐出口20a及び前方ガス吐出口21aが形成される構造を有する。
上述した構造を有する銅当て金4は、
図13に示すように、溶接の進行方向13のうち溶接トーチ8の反対方向に配設されて溶接トーチ8の反対側にガス5を噴射するように溶接装置100に取り付けられた後に、溶接さるべき上部溶接母材1a及び下部溶接母材1bの当接部位に密着される。
【0038】
上述した構造を有する銅当て金4は、後方ガス注入部20及び前方ガス注入部21を介してガスを注入した後、左側面(図面を基準として)のガス通路4aの溶接チップ32の隣の位置に形成される後方ガス吐出口20a及び前方ガス吐出口21aを介して溶銑3(
図13を参照すること)の先行力よりも強い圧力を有するガス5を溶接トーチ8の反対側に噴射して、溶銑3(
図13を参照すること)が溶接の進行方向に流れることを防ぎ、溶銑3(
図13を参照すること)に上方向抵抗力6(
図13を参照すること)を提供する。その結果、溶銑がアークの形成位置に流入することを防ぎながら、上方向に押し上げる力を提供して、上部溶接母材1a及び下部溶接母材1bの開先面が溶銑によってアークが達しないため溶融されないことによって発生するマクロ断面53の生成によって多数のパス数の溶接を行うことを余儀なくされるなどの従来の技術の問題が解消される。
【0039】
前記銅当て金4が噴射するガス5の溶銑3の先行力よりも強いガスの圧力とは、溶銑が溶接の進行方向に流れることを防ぐほどの圧力のことをいう。前記溶銑の先行力は、溶接電流及び溶接電圧によって生成される溶銑の量によって算術的に決定される。このため、前記銅当て金4によって噴射されるガスの圧力は、溶銑の量によって算術的に決定される先行力によって決定され、これは、各々の溶接状況に応じて異なる値を有するものであり、その具体的な数値の限定は省略する。
【0040】
図8は、
図5の溶接トーチ8の断面図である。
図8に示すように、前記溶接トーチ8は、外径が8mm以下、好ましくは、5mm以下である溶接トーチ8と、溶接トーチ8の外周面に形成されるセラミックなどの絶縁コーティング層33と、を備える。上記の構成を有する溶接トーチ8は外径が小さく、表面に絶縁コーティング層33が形成されて溶接チップが小さいので開先の内部における円滑な運棒が可能になる他、溶接チップ32及び開先面が接触しても絶縁コーティング層33によってショートの発生が防がれて連続的に溶接可能になる。
【0041】
図9は、
図4の溶接装置100の概略的な機能ブロック図である。
図4及び
図9を参照して前記溶接装置100についてさらに詳細に説明すると、前記溶接装置100は、
図4及び
図4に基づく説明のように、ガイドレールR上を走行する走行機構部9と、走行機構部9の底面に取り付けられる溶接トーチ8と、溶銑に溶接の進行方向とは逆方向に溶銑の先行力よりも強い圧力を有するガスを噴射するように溶接トーチ8の溶接の進行方向側に取り付けられる銅当て金4と、上部溶接母材1aに溶接面が形成されないマクロ断面53(
図1を参照すること)が形成されない所定の溶着量を維持するように、水平突き合わせ継手の開先面の位置別に電圧、電流、ワイヤー供給速度、走行速度、停止時間、銅当て金4のガス噴射圧力、走行機構部9の直交ウィービング軸部41及び走行軸部40の搬送速度を制御する制御部60と、溶接状態を表示する表示部63と、溶接パラメータを設定する設定部64及び溶接トーチ8に溶接電圧、電流を供給する溶接器68を備える。
【0042】
前記走行機構部9は、
図4に示すように、ガイドレールR上に沿って溶接装置100を移動させる走行軸部40と、溶接トーチ8をガイドレールRの垂直方向である溶接開先面の垂直方向に搬送させるウィービング運動を行う直交ウィービング軸部41と、溶接電流及び溶接電圧を検出するセンサー部61と、を備える。
【0043】
また、
図9に示すように、前記走行軸部40には走行モーター駆動部65が配設され、前記直交ウィービング軸部41にはウィービングモーター駆動部66が配設される。さらに、前記センサー部61には溶接電流を検出する溶接電流検出センサー61a及び溶接電圧を検出する溶接電圧検出センサー61bが配設される。
【0044】
上記の構成を有する溶接装置100は、前記制御部60が開先面の各位置別に溶接トーチ8において生成されるアークの電圧、電流、走行軸部の移動、停止時間、ワイヤー供給速度を制御することによって特殊ウィービングパターン7を有する大溶着溶接を行って、両母材1a、1bの間に形成されるギャップに対するルート部2を形成するルートパス溶接(初層溶接)を行うことなく、開先面の内部における1次パスにおいて直接的に大溶着溶接を行うことによって約50%、好ましくは、約80%以上の1次パス溶接が行えるようにすることを特徴とする。
【0045】
このような1次パス溶接における大溶着溶接を可能にする制御を行うとともに、前記制御部60は、付加的に、様々なギャップの変化に対応して変動されるワイヤー突出長さ12(
図12を参照すること)の変化に起因するワイヤーの抵抗差によって発生する出力溶接電流及び電圧の変動を溶接電流検出センサー61a及び溶接電圧検出センサー61bを用いて検出して表示部63に表示する。また、前記制御部60は、走行モーター駆動部65及びウィービングモーター駆動部66を制御して溶接装置100の実際の走行速度13を変更して単位体積当たりに所定の溶着量を維持するようにする。ここで、設定部64を介してアークのセンシングを通じた実際の走行速度の変更有無を選択することができる。所定の溶接条件(電流、電圧、溶接速度)下において溶接を行う場合において、ギャップが大きくなる場合、すなわち、開先の単位体積が増加した場合に、単位体積当たりの溶着量は小さくなってワイヤー突出長さ12(
図12を参照すること)が長くなり、これによって、溶接電流検出センサー61a及び溶接電圧検出センサー61bに入力される出力電流及び電圧の値が−ΔA、−ΔVに見合う分だけ低くなる。制御部60は、走行モーター駆動部65及びウィービングモーター駆動部66を調節して走行機構部9の走行速度を落として単位体積当たりの溶着量を増加させる効果を有するためワイヤー突出長さ12は再び短くなり、これによって、溶接電流検出センサー61a及び溶接電流検出センサー61bに入力される出力電流及び電圧の値が再び+ΔA、+ΔVに見合う分だけ増加する。これによって、単位体積当たりに所定の溶着量が維持される。
【0046】
図10は、本発明の水平突き合わせ継手大溶着溶接方法の処理過程を示す手順図である。
図10に示すように、本発明の水平突き合わせ継手大溶着溶接方法は、直交ウィービング軸部41及び走行軸部40を有する走行機構部9と、銅当て金4と、溶接トーチ8及び制御部60を備える水平突き合わせ継手大溶着溶接装置100を用いて、底面に開先が形成された上部溶接母材1aと、開先が形成されていない下部溶接母材1bに対して初層溶接を行うことなく水平突き合わせ継手溶接を行う水平突き合わせ継手大溶着溶接方法において、前記制御部60が2つの母材1の厚さに応じて決定される両母材間のギャップGを基準として、ウィービング走行溶接及び斜め走行溶接を行う経路を分割する多数の節点を形成して、各々の節点において停止時間を有して停止溶接を行う特殊ウィービングパターン溶接の多数の節点(第1の節点P1〜第5の節点P5)のうち、背面ビードBの形成位置において溶接を行う2つの節点(第1の節点P1及び第5の節点P5)における初期値としての溶接電圧、溶接電
流と、表面ビードFの形成位置の節点(第3の節点P3)と、前記2つの背面ビードBの形成位置の節点(第1の節点P1及び第5の節点P5)の各々と前記表面ビードFの形成位置の節点(第3の節点)との間の多数の分割された節点(第2の節点P2及び第4の節点P4)における前記初期値に対する関係から溶接電圧、溶接電
流を算出して前記溶接器68に転送する溶接電流電圧算出過程(S10)と、前記制御部60が両母材1a、1b間のギャップGを基準として、各々の第1の節点P1〜第5の節点P5における停止時間を算出する停止時間算出過程(S20)と、前記各節点における停止時間と、前記各節点及び節点の間において算出された溶接電流、溶接電圧を用いて前記特殊ウィービングパターンによる大溶着溶接を行う大溶着溶接制御過程(S100)と、を含むことを特徴とする。
【0047】
上述した処理過程のうち、前記溶接電流電圧算出過程(S10)において算出される前記溶接電流及び溶接電圧は、前記ギャップGの幅に応じて初期値が設定され、背面ビードBを形成する2つの節点(第1の節点P1及び第5の節点P5)において表面ビードFを形成する節点(第3の節点P3)の開先面の断面の垂直幅に比例して増加するように可変となる。
【0048】
また、前記停止時間算出過程(S20)において算出される各々の節点における停止時間は、背面ビードBの形成のための2つの節点(第1の節点P1及び第5の節点P5)において予熱を行い、欠陥の無いビードの生成のための停止時間をT1としたとき、開先面の内部に対する溶接を行う前記背面ビードBの形成のための2つの節点(第1の節点P1及び第5の節点P5)の各々と、前記表面ビードFの形成のための節点との間の各々の節点における停止時間T2及びT4は、約±10%の誤差範囲において0.2*T1の停止時間を有し、前記表面ビードFとなる節点における停止時間は、約±10%の誤差範囲において0.8*T1の停止時間を有することを特徴とする。
【0049】
さらに、上述した水平突き合わせ継手大溶着溶接方法は、前記各々の節点と各々の節点との間の移動中に前記溶接のための適正量のワイヤーを供給するためのワイヤー供給速度を算出するワイヤー供給速度設定過程(S30)をさらに含む。
【0050】
前記ワイヤー供給速度設定過程(S30)において算出される前記ワイヤー供給速度は、背面ビードBを設定する節点における初期値は前記ギャップGによって設定され、前記背面ビードB及び表面ビードFを形成する節点の間に位置する節点においては、前記開先面の断面の垂直幅に比例して前記初期値よりも増加するように算出される。
【0051】
前記大溶着溶接制御過程(S100)は、溶接進行面の反対面において上部溶接母材と下部溶接母材との間の段差を合わせるルートパス溶接(初層溶接)を行うことなく、溶接進行面の開先の内部において1次パスの大溶着溶接を直接的に行う。
【0052】
すなわち、上述した大溶着溶接制御過程(S100)においては、各節点ごとに異なる停止時間、電圧、電流、ワイヤー供給速度を有するように溶接が制御され、節点間の移動速度はギャップGの幅に応じて可変となる値を有するように制御される。
【0053】
各々の節点又は溶接部における溶接条件の充足有無は、
図9の溶接電流検出センサー61a及び溶接電圧検出センサー61bにおいて検出された溶接電流及び溶接電圧によって判断される。
【0054】
また、各々の節点における停止時間及び節点間の移動は、
図9の走行モーター駆動部65及びウィービングモーター駆動部66によって行われる。
【0055】
さらに、前記各々の溶接電流と、溶接電圧及びワイヤー供給速度は、制御部60が溶接器68を制御することによって制御される。
【0056】
図11は、特殊ウィービングパターン7のための
図9の制御部60による走行軸部40及び直交ウィービング軸部41の移動制御状態を示す図であり、
図12は、前記特殊ウィービングパターン7の溶接における各節点P1〜P5における停止時間、節点間における移動速度、電流、電圧制御を含む溶接条件を示すグラフである。
【0057】
図11の上部に示すように、前記特殊ウィービングパターン7は、溶接装置100の内部に配設される直交ウィービング軸部41及び走行軸部40間の組み合わせによって形成される。
【0058】
前記特殊ウィービングパターン7は、第1のルート部である第1の節点P1→第1のミドル部である第2の節点P2→表面部である第3の節点P3の区間においては直交ウィービング軸部41のみがY軸方向に移動するウィービング走行(Weaving)と、表面部である第3の節点P3→第2のミドル部である第4の節点P4→第2のルート部である第5の節点P5の区間においては直交ウィービング軸部41及び走行軸部40が同時に作動して斜め方向に運棒する斜め走行(Traveling)を含む。
【0059】
また、各々の節点において所定の溶着量の生成のために止まる停止時間T、各々の節点の間における搬送速度Sは、母材の厚さに応じて決定されるギャップGの幅に比例する所定の速度値を有し、溶接電流及び溶接電圧は、背面ビードBを形成する第1の節点P1及び第5の節点P5において最小値を有し、表面ビードFを形成する第3の節点P3において最大値を有する。さらに、背面ビードBを形成する第1の節点P1及び第5の節点P5の各々と、表面ビードFを形成する第3の節点P3との間に位置する節点は、開先面断面の幅に比例する大きさを有するように設定される。
【0060】
上述した特殊ウィービングパターン7による水平突き合わせ継手大溶着溶接を行うために、
図11の下部に示す溶接状態図のように、上部溶接母材1aの底面に斜面を形成することによって、下部溶接母材1b及び上部溶接母材1a間の溶接部位としての開先が形成される。
【0061】
図12を参照して、23mmの厚さを有する2つの鉄板母材に対する、5個の節点P1〜P5を有する特殊ウィービングパターン7を用いた水平突き合わせ継手の溶接における各節点別の溶接条件制御の例について説明すれば、下記の通りである。
【0062】
図12において、背面ビードB(
図17及び
図18を参照すること)が形成される第1の節点P1及び第5の節点P5においては、予熱のために1秒の停止時間を有する。また、開先面の内部に対する溶接を行う第2の節点P2及び第4の節点P4においては0.2秒の停止時間を有し、表面ビードFとなる第3の節点P3においては予熱及び大容量の溶銑の形成のために約0.8秒の停止時間を有する。
【0063】
また、第1の節点P1及び第5の節点P5の溶接電流IR及び溶接電圧VRの各々は、約±10%の誤差範囲において263A及び31.2V、第2の節点P2及び第4の節点P4の溶接電流IM及び溶接電圧VMの各々は、約±10%の誤差範囲において359A及び33.2V、第3の節点P3の溶接電流IF及び溶接電圧VFの各々は、約±10%の誤差範囲において421A及び35.7Vを有するように制御される。
【0064】
さらに、前記各々の節点P1〜P5間の移動速度は2cm/secに一定に維持され、これは、ギャップG又は開先面の幅に比例して所定の速度値を有するように増加する。
【0065】
また、前記各々の節点P1〜P5の間におけるワイヤー供給速度において、第1の節点P1と第2の節点P2との間のワイヤー供給速度WRは、約±10%の誤差範囲において1028cm/min、第2の節点P2と第3の節点P3との間のワイヤー供給速度WMは、約±10%の誤差範囲において1727cm/min、第3の節点P3と第4の節点P4との間のワイヤー供給速度WFは、約±10の誤差範囲において2139cm/min、さらに、第4の節点P4と第5の節点P5との間のワイヤー供給速度WMは、約±10%の誤差範囲において1727cm/minを有する。
【0066】
さらに、キャリッジ走行速度は、第1の節点P1から第5の節点P5まで平均約10.6cm/minである。
【0067】
図13乃至
図18は、
図4の溶接装置100による前記大溶着溶接制御過程(S100)を示す図である。
図13は、銅当て金4の開先の上に密着された概略的な状態を示す図であり、
図14は、直交ウィービング軸部41によるウィービング走行を行う過程の溶接状態を示す図であり、
図15は、斜め走行方向の溶接及びワイヤー12を示す図である。
【0068】
図13乃至
図15に示すように、上部溶接母材1a及び下部溶接母材1bを母材1a、1bの厚さに応じた幅を有するギャップGを形成するように配置した後、形成されたギャップGを基準として、
図10の溶接電流電圧算出過程(S10)、停止時間算出過程(S20)及びワイヤー供給速度設定過程(S30)を行うことによって、特殊ウィービングパターン7の各溶接部位における溶接電流、溶接電圧、ワイヤー供給速度、
停止時間などが算出された後に大溶着溶接制御過程(S100)が行われる。
【0069】
上述した大溶着溶接制御過程(S100)においては、背面ビードB(
図17を参照すること)を形成する節点(第1の節点P1及び第2の節点P5)における停止時間が最も長くなって、大容量の溶銑が形成されることによって、ルートパス溶接を行わなくても欠陥の無い良好な品質の背面ビードBが形成される。
【0070】
この過程において、
図6に示すように、銅当て金4の後方ガス吐出口20a及び前方ガス吐出口21aは溶接チップ32の隣に位置し、ガス通路4aは溶接の進行方向の背面に位置するように銅当て金4が取り付けられる。このようにして取り付けられた銅当て金4は、溶接が行われる過程において溶接の進行方向の反対方向に溶銑の先行力よりも大きなガス圧力にてガス5を噴射する。これによって、溶銑3に上方向抵抗力6が働いて、アーク発生領域に溶銑3が流れることが防がれ、上部溶接母材1aに押し上げられる。
図16は、銅当て金4に噴射されるガス及び大きなアーク力によって溶銑が上部溶接母材1aに押し上げられるとともに、溶接トーチ8に向かって移動しない状態を示す図である。
【0071】
図17及び
図18は、
図5乃至
図12の構成を有する溶接装置100及び溶接方法による大溶着溶接状態を示す溶接部の断面図である。
図17において、Sは断面図であり、Pは断面斜視図である。
【0072】
図4の水平突き合わせ継手大溶着溶接装置100に
図10の溶接方法を適用して水平突き合わせ継手溶接を行えば、第1の節点乃至第5の節点P1〜P5において各々停止時間を有することによって大きな溶銑56が形成される。このとき、供給される溶接電流及び溶接電圧は、溶接の対象となる上部溶接母材1a及び下部溶接母材1bの厚さに応じて、
図10の溶接電流電圧算出過程によって算出される。
図10の溶接電流電圧算出過程(S10)において、溶接電流及び溶接電圧が算出されれば、各節点間の移動速度もまた算出される。
【0073】
このような特殊ウィービングパターン7の遂行は、本発明の溶接トーチ8における溶接チップ32の直径を最小化させ、外周面に絶縁コーティング層33を形成することによって溶接チップの
移動操作が自由になり、上部溶接母材1a又は下部溶接母材1bと溶接チップ32が接触する場合にも、絶縁によってアークの発生が停止しないので可能になる。すなわち、前記特殊ウィービングパターン7の遂行は、本発明の溶接トーチ8を適用しない場合に溶接チップ32が
移動操作し難く、未絶縁の溶接チップ32が上部溶接母材1a及び下部溶接母材1bと接触する場合にアークの発生が停止して容易に行われない。
【0074】
次いで、このような溶接過程が行われながら、前記制御部60の制御及び銅当て金4によって溶銑56にガス5が噴射される。前記銅当て金4は、制御部60が溶接電流、溶接電圧、直交ウィービング軸部41及び走行軸部40の走行制御情報を用いて生成した溶銑の量を考慮して既に設定された圧力のガスを溶接の進行方向の反対方向に噴射する。このようなガス噴射過程において噴射されるガスは溶銑の先行力よりも強い圧力のガスによって大きなアーク力によって形成された溶銑が溶接トーチ8に向かって流入することが防がれる。
【0075】
上述したように、溶接過程において形成された大きな溶銑56は、噴射ガスの圧力及び大きなアーク力による圧力によって上部溶接母材1aの開先面まで押し上げられて上部溶接母材が溶接されたマクロ断面58を形成する。
【0076】
アーク力によって溶銑56が形成された後には、
図10の前記停止時間算出過程(S
20)によって算出された停止時間及び節点間の移動速度に応じて直交ウィービング軸部41及び走行軸部40の移動方向、速度、停止時間を制御し、各々溶接位置における溶接電流及び電圧に応じてアークを発生することによって、上部溶接母材1aと下部溶接溶接母材1bとの間に
図11に基づいて説明した特殊ウィービングパターン7による溶接が行われる。
【0077】
上述したように、本発明の特殊ウィービングパターン7の溶接条件制御を行う水平突き合わせ継手大溶着溶接方法を用いて2つの母材に対して水平突き合わせ継手溶接を行う場合、前記溶接電流、溶接電圧、停止時間、ワイヤー供給速度、走行速度などは、1パスの溶接によって、溶接部位に対する50%〜100%の溶接が行われるように算出される。このため、本発明は、水平突き合わせ継手溶接を行うに当たって、ルートパス溶接(初層溶接)を行うことなく開先面の内部における1次パス溶接である初期大溶着溶接を行うことによって、
図17及び
図18に示すように、本発明は、一回の溶接によって良好な品質を有する背面ビードB及び表面ビードFを有する50%〜100%の大溶着溶接を行うことができる。これにより、残りの50%〜0%の部分に対する溶接のみを行えばよいので、水平突き合わせ継手溶接を1パス又は2パスにて行うことができて、水平突き合わせ継手溶接のパス数を大幅に低減することができる。