(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162405
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】コイル型生体吸収性分岐部用ステント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/88 20060101AFI20170703BHJP
A61F 2/89 20130101ALI20170703BHJP
【FI】
A61F2/88
A61F2/89
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-1860(P2013-1860)
(22)【出願日】2013年1月9日
(65)【公開番号】特開2013-240576(P2013-240576A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2016年1月6日
(31)【優先権主張番号】13/476,336
(32)【優先日】2012年5月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513055252
【氏名又は名称】マンリ インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シー−ホン ス
【審査官】
田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0203610(US,A1)
【文献】
米国特許第05772668(US,A)
【文献】
特表2010−507451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/88
A61F 2/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き込み状態と拡張状態との間で形態変化可能な生体吸収性ステントであって、
2プライ繊維を形成する第1の繊維および第2の繊維と、長手方向に延びる第1の支持繊維とを備える、第1のセグメントであって、コイル構造をとる当該2プライ繊維は、第1のコイル構造体を規定し、前記第1の支持繊維は、前記第1のコイル構造体の周りに間隔を空けて設けられ当該第1のコイル構造体の長さ方向に沿って選択された各点において取り付けられる、前記第1のセグメントと、
前記第1の繊維の一部と、長手方向に延びる第2の支持繊維と、第1の可撓性を有する繊維の短いセグメントとを備える第2のセグメントであって、前記第1の繊維の当該一部は、第2のコイル構造体を規定し、前記第2の支持繊維は、前記第2のコイル構造体の周りに間隔を空けて設けられ当該第2のコイル構造体の長さ方向に沿って選択された各点において取り付けられ、前記第1の可撓性を有する繊維の短いセグメントは、前記第1のセグメントから前記第2のセグメントに延びている、前記第2のセグメントと、
前記第2の繊維の一部と、長手方向に延びる第3の支持繊維と、第2の可撓性を有する繊維の短いセグメントとを備える第3のセグメントであって、前記第2の繊維の当該一部は、第3のコイル構造体を規定し、前記第3の支持繊維は、前記第3のコイル構造体の周りに間隔を空けて設けられ、当該第3のコイル構造体の長さ方向に沿って選択された各点において取り付けられ、前記第2の可撓性を有する繊維の短いセグメントは、前記第1のセグメントから前記第3のセグメントに延びている、前記第3のセグメントとを備え、
コイル構造をとる前記繊維および前記支持繊維の全ては、生体吸収性ポリマー材を含む、生体吸収性ステント。
【請求項2】
薬物溶出ステントである、請求項1に記載の生体吸収性ステント。
【請求項3】
コイル構造をとる前記繊維の各々および前記支持繊維の各々は、中空である、請求項1に記載の生体吸収性ステント。
【請求項4】
コイル構造をとる前記繊維の各々の直径は、0.01mm〜2.5mmの範囲である、請求項1に記載の生体吸収性ステント。
【請求項5】
コイル構造をとる前記繊維の各々、または前記支持繊維の各々は、薬物を含有する、請求項2に記載の生体吸収性ステント。
【請求項6】
前記薬物は、前記生体吸収性ポリマー材中に0.1〜99.9重量%で存在する、請求項5に記載の生体吸収性ステント。
【請求項7】
所定の分解速度を有する、請求項1に記載の生体吸収性ステント。
【請求項8】
前記コイル構造体の各々は、それぞれ独立して、長さおよび直径を拡張できる、請求項1に記載の生体吸収性ステント。
【請求項9】
前記コイル構造体は、それぞれ異なる直径を有する、請求項1に記載の生体吸収性ステント。
【請求項10】
前記第2のコイル構造体の拡張時の直径は、前記第1のコイル構造体の拡張時の直径よりも小さい、請求項9に記載の生体吸収性ステント。
【請求項11】
前記生体吸収性ポリマー材は、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリラクチド類、ポリ−L−ラクチド、ポリ−D,L−ラクチド、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−トリメチレンカーボネート)、ポリヒドロキシ吉草酸、およびエチルビニルアセテートからなる群より選択される、請求項1に記載の生体吸収性ステント。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
冠動脈分岐部は、冠動脈の側枝が本幹から分岐する箇所である。2010年の間に米国で行われた700,000件の経皮的冠動脈インターベンションのうち、おおよそ15%〜20%が、冠動脈分岐部に関連する狭窄、すなわち、分岐部病変を、処置するために行われた。技術的に難易度が高い分岐部病変の処置は、分岐部以外の病変の処置と比べて手技成功率(procedural success)が低く、臨床転帰も良好ではない。
【0002】
代表的には、分岐部病変の処置では、ステントを側枝ではなく本幹に埋め込む、いわゆる暫定的手法(provisional approach)を取る。より具体的には、そのステントによって側枝の開口部を覆わず、将来的に必要があれば側枝の処置ができるようにしている。この手法が採用されるのは、2つのステントを埋め込む慣用法が、1つだけステントを埋め込む場合に比べ優れた結果を出していないとの事実に起因する。しかしながら、この手法は、側枝に重大な狭窄を残存させる頻度が高い。
【0003】
2つの別個のステントを利用して分岐部病変を処置する手法が開発されている。このような手法における重要な問題は、2つの別々のステントが重なる部位で血流が妨げられ、血栓の形成が誘発されることである。さらに、標準的な非生体吸収性のステントを使用した場合、代表的には、慢性的な異物反応を生じる。
【0004】
本幹および側枝の両方に同時に埋め込むことができ、動脈壁を物理的に支え、狭窄領域に薬物を溶出して再狭窄を防止し、時間とともに生分解して、慢性的な異物反応の発生の低減または排除をなす、分岐部専用のステントを開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主な目的は、高い強度と可撓性との両方を備えた生体吸収性分岐部専用ステントを提供することである。このようなステントを使用して、バルーン血管形成術およびアテローム切除術の後に、またはそれと同時に生じる分岐部病変を処置し得る。また、そのようなステントは、内腔を開いた状態で特定の期間に亘り物理的に維持する必要がある他の組織に埋め込むように適合させ得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明の主な態様は、巻き込み状態と拡張状態との間で形態変化可能な(convertible)生体吸収性分岐部用ステントに関する。当該生体吸収性分岐部用ステントは、3つのセグメントを備える。
【0007】
第1のセグメントは、2つの並行繊維を備え、これらの並行繊維は、コイル構造をとる2プライ(ply)繊維を形成し、この2プライ繊維は、コイル構造体となるように配置される。また、第1のセグメントは、長手方向に延びる支持繊維を備え、この支持繊維は、そのコイル構造体の周りに間隔を空けて設けられ当該コイル構造体の長さ方向に沿って選択された各点において取り付けられている。上記コイル構造体は、主ローブおよび周辺ローブを備え、これらのローブは、拡張状態にしたときに、周辺ローブが主ローブに統合され、巻き込み状態時よりも直径が大きいコイル構造体となるように配置される。
【0008】
第2のセグメントおよび第3のセグメントはともに、コイル構造をとってコイル構造体を形成する繊維を備える。第2のセグメントでコイル構造をとる繊維は、第1のセグメント内でコイル構造をとった繊維を構成していた2つの並行繊維のうちの一方から連続しているものである。他方で、第3のセグメントのコイル構造をとる繊維は、その第1のセグメントの2つの並行繊維のうちの他方から連続しているものである。
【0009】
別の実施形態では、第2のセグメントでコイル構造をとる繊維は、第1のセグメントでそのコイル構造をとる繊維を支持する長手方向支持繊維から連続しているものである。一方、第3のセグメントでコイル構造をとる繊維は、第1のセグメントの第2の長手方向支持繊維から連続している。
【0010】
第2のセグメントおよび第3のセグメントは、第1のセグメントと同様に、長手方向に延びる支持繊維を備え、この支持繊維は、コイル構造体の周りに間隔を空けて設けられ当該コイル構造体の長さ方向に沿って選択された各点において取り付けられる。第2のセグメントおよび第3のセグメントのコイル構造体も、主ローブおよび周辺ローブを備える。これらのローブは、拡張状態にしたときに、周辺ローブが主ローブに統合され、巻き込み状態時よりも直径が大きいコイル構造体となるように配置される。その周辺ローブは、主ローブの内側に配置してもよいし、外側に配置してもよい。
【0011】
さらに別の実施形態では、コイル構造をとる3つの別々の繊維が、2つの長手方向支持繊維により結合される。第1のコイル構造体に接続されている、これら2つの長手方向支持繊維のうちの一方が、コイル構造をとる第2の繊維にも接続しているため、第2のセグメントの長手方向支持繊維としての役割も果たす。また、その第1のセグメントにおける第2の長手方向支持繊維は、第3のセグメントの長手方向支持繊維の1つとしても用いられる。
【0012】
上記3つのセグメントを結合する長手方向に延びる上記2つの支持繊維に加えて、この3つのセグメントは、長手方向に延びる支持繊維をさらに備え得る。この追加的な支持繊維は、コイル構造体の周りに間隔を空けて設けられ当該コイル構造体の長さ方向に沿って選択された各点において取り付けられる。上記3つのセグメントの各々のコイル構造体も、主ローブおよび周辺ローブを備える。これらのローブは、拡張状態にしたときに、周辺ローブが主ローブに統合され、巻き込み状態にしたときよりも直径が大きいコイル構造体となるように配置される。その周辺ローブは、主ローブの内側に配置してもよいし、外側に配置してもよい。
【0013】
上述した、コイル構造をとる繊維および補強するための繊維の全ては、生体吸収性ポリマー材から構成される。
【0014】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細が、図面および以下の説明において記載される。本発明の他の特徴、目的、および効果は、以下の説明および特許請求の範囲から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る拡張可能なコイル型分岐部用ステントの3次元構造を示す模式図である。
【
図2】
図2A、2B、2C、および2Dは、本発明の一実施形態に係る、巻き込み状態におけるコイル型分岐部用ステントの1つのセグメントを単独で示す模式切断図である。
【
図3】
図3は、代替的な実施形態に係る拡張可能なコイル型分岐部用ステントの3次元構造を示す模式図である。
【
図4】
図4は、さらに他の実施形態に係る拡張可能なコイル型分岐部用ステントの3次元構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、高い強度と可撓性とを備えた専用の生体吸収性分岐部用ステントを提供する必要性に基づくものである。このようなステントは、現在入手可能なステントに付随する長期的問題を引き起こすことなく分岐部病変の処置に用いることができる。
【0017】
したがって、本発明の主な態様は、巻き込み状態と拡張状態との間で形態変化可能な生体吸収性分岐部用ステントに関する。
図1に示すように、1つの好ましい実施形態において、生体吸収性分岐部用ステントは、3つのセグメント(101、102、103)を備える。第1のセグメント(101)は、2つの並行繊維(104、105)を備え、この2つの並行繊維は2プライ繊維(119)を形成し、この2プライ繊維は、コイル構造体となるように配置される。第2のセグメント(102)および第3のセグメント(103)の各々は、コイル構造体となるように配置された単独の繊維(117、118)を備える。第2のセグメント内でコイル構造をとる繊維(117)は、繊維(104)から連続している。その繊維(104)は、第1のセグメント内では、繊維(105)とともに、コイル構造をとる2プライ繊維(119)を構成している。第3のセグメント内でコイル構造をとる繊維(118)は、第1のセグメント(101)内で並行する2つの繊維のうちの一方である繊維(105)から連続している。したがって、第2のセグメントおよび第3のセグメントは、第1のセグメントと連続している。繊維の短いセグメント(109)が、第1のセグメントから第2のセグメントに延びている。このセグメントは、可撓性であり、第1のセグメントと第2のセグメントとの間の角度が容易に調整可能となる。別の繊維の短いセグメント(110)も、第1のセグメントと第3のセグメントとの間に延びている。この分岐部用ステントのセグメント間の可撓性によって、変化に富んだ形状の部位に当該ステントを埋め込むことを可能とすることは、有益である。
【0018】
第2のセグメント(102)の詳細図を
図2に示す。当該セグメントにおける、コイル構造をとる繊維(117)は、1つの主ローブ(201)および3つの周辺ローブ(202)を有するコイル構造体を形成する。これらの周辺ローブ(202)は、主ローブの内側または外側に設けることもできる。拡張状態にしたときに、周辺ローブが主ローブに統合され、巻き込み状態のときよりも直径が大きいコイル構造体となるように、これらのローブは配置される。3つのセグメントの全ては、主ローブと周辺ローブとに関して類似の配置を有し、これにより、セグメントの各々の拡張を容易にする。
【0019】
なお、各セグメントのコイル構造体には、任意の数の周辺ローブを組み込むことができることに留意すべきである。周辺ローブの数は、セグメントを巻き込み状態から拡張状態へと形態変化した際に当該セグメントの直径をどれだけ増加させたいかによって選択することができる。例えば、4つの周辺ローブを備える主ローブは、周辺ローブを3つしか備えない主ローブよりも大きく直径を拡大することができる。
【0020】
図2とともに
図1を再び参照すると、3つのセグメントの全ては、各コイル構造体の周りに間隔を空けて設けられ長手方向に延びる支持繊維(106、107、108、111、112、113、114、115、116)を備えており、これら支持繊維は、そのコイル構造体の長さ方向に沿って選択された各点において取り付けられている。上記の周辺ローブの数と同様に、必要とされる支持の程度に応じて、異なる数の支持繊維を3つのセグメントに設けることができる。一般的には、セグメントの支持繊維の数は、各セグメントが有する周辺ローブの数に等しくする。例えば、
図2Cに示すように、3つの周辺ローブ(202)を有するセグメントは、同じく3つの支持繊維(111、112、113)を有する。5つの周辺ローブを有するセグメントであれば、5つの支持繊維を有することになる。
【0021】
代替的な実施形態を
図3に示す。第1のセグメント(301)は、コイル構造体(318)となるように配置された繊維(304)を備える。第1のセグメント(301)における、このコイル構造体(318)は、3つの長手方向支持繊維(305、306、307)により支持されている。第2セグメント(302)および第3のセグメント(303)もそれぞれ、コイル構造体となるように配置された単独の繊維(316、317)を備える。この第2のセグメント内でコイル構造をとる繊維(316)は、第1のセグメント(301)の3つの長手方向支持繊維のうちの1つ(305)から連続している。第3のセグメント内でコイル構造をとる繊維(317)は、第1のセグメント(301)における別の長手方向支持繊維(307)から連続している。したがって、第2のセグメントおよび第3のセグメントは、第1のセグメントから連続している。
【0022】
上記第2のセグメントおよび第3のセグメントは、各コイル構造体の周りに間隔を空けて配置され長手方向に延びる支持繊維(310、311、312、313、314、315)を備えており、これら支持繊維は、そのコイル構造体の長さ方向に沿って選択された各点において取り付けられている。支持繊維の数は、前述の通り変更可能である。
【0023】
第1のセグメントから第2のセグメントまでの間に、繊維からなる短いセグメント(308)が延びている。このセグメントは、可撓性があり、第1および第2のセグメント間の角度が容易に調整可能となる。繊維からなるもう1つの短いセグメント(309)が第1のセグメントと第3のセグメントとの間に延びている。分岐部用ステントのセグメント間の可撓性によって、変化に富んだ形状の部位に当該ステントを埋め込むことを可能とすることは、有益である。
【0024】
さらに他の実施形態を
図4に示す。第1のセグメント(401)は、コイル構造をとる繊維(404)および長手方向に延びる3つの支持繊維(405、406、407)を備える。この3つの支持繊維のうちの1つ(406)は、第1のセグメント(401)を越えて第2のセグメント(402)内にまで延びており、そこでも支持繊維としての役割を果たす。第2のセグメントも、コイル構造をとる繊維(408)および長手方向に延びる支持繊維(406、409、410)を備える。支持繊維の数は、前述の通り変更可能である。
【0025】
同様に、第1のセグメント(401)の他の支持繊維(407)は、第3のセグメント(403)内にまで延びており、そこでも支持繊維としての役割を果たす。第1のセグメント(401)および第2のセグメント(402)と同様に、第3のセグメント(403)は、長手方向に延びる支持繊維(407、412、413)とともに、コイル構造をとる繊維(411)を備える。また、支持繊維の数も前述の通り変更可能である。
【0026】
第1のセグメントから第2のセグメントまでの間に、繊維の短いセグメント(414)が延びている。このセグメントは、可撓性があり、第1のセグメントおよび第2のセグメント間の角度が容易に調整可能となる。繊維からなるもう1つの短いセグメント(415)が、第1のセグメントと第3のセグメントとの間に延びている。分岐部用ステントのセグメント間の可撓性によって、変化に富んだ形状の部位に当該ステントを埋め込むことを可能とすることは、有益である。
【0027】
上記各実施形態の3つのセグメントのそれぞれにおける、主ローブ、周辺ローブ、および支持繊維の配置は、米国特許第7,128,755号に記載されるものと同様である。
【0028】
一実施形態では、各コイル構造体の直径は同じであってもよいし、別の実施形態では、各コイル構造体の直径は互いに異なっていてもよい。例えば、ステントを拡張した状態において、第1のセグメントの直径を、第2のセグメントおよび第3のセグメントのいずれよりも大きくすることができる。この構成は、本幹の直径が分岐部から延びるいずれの枝の直径よりも大きくなっている冠動脈分岐部にステントを埋め込む用途にとって有益である。
【0029】
上記のような三部分構造を持つ分岐部用ステントは、各セグメントの巻き込み時の直径を等しくするように構成することにより、カテーテルを介した当該分岐部用ステントの埋め込みを容易にすることができ、また、拡張時においては、各セグメントの直径が異なるよう構成することができる。
【0030】
上記のように、3つのセグメントの全ては、コイル構造をとる繊維および支持繊維を備えている。これらコイル構造をとる繊維および支持繊維の各直径は、特定の利用に応じて0.01mm〜2.5mmの範囲とすることができる。また、コイル構造をとる繊維および支持繊維の一方または両方は、中実としてもよく、多層構造としてもよく、中空としてもよい。中空繊維の切断図を
図2Dに例示する。コイル構造をとる繊維(117)は、内腔(203)と、それを取り囲む生体吸収性ポリマー材(204)とからなる。
【0031】
上記のコイル構造をとる繊維および長手方向支持繊維の全ては、生体吸収性ポリマー材により構成される。生体吸収性ポリマー材の例としては、ポリジオキサノン[polydioxanone]、ポリグリコリド[polyglycolide]、ポリカプロラクトン[polycaprolactone]、ポリラクチド類[polylactides]、ポリ−L−ラクチド[poly−L−lactide]、ポリ−D,L−ラクチド[poly−D,L−lactide]、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)[poly(L−lactide−co−glycolide)]、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)[poly(D,L−lactide−co−glycolide)]、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)[poly(L−lactide−co−D,L−lactide)]、ポリ(L−ラクチド−co−トリメチレンカーボネート)[poly(L−lactide−co−trimethylene carbonate)]、ポリヒドロキシ吉草酸[polyhydroxyvalerate]、または、エチルビニルアセテート[ethylvinylacetate]が挙げられるが、これらに限定されない。上記のポリマーのうちの2つ以上の混合物も、コイル構造をとる繊維の作製に用いることができる。
【0032】
繊維作製に用いられるポリマーは、特定の利用で必要とされる所望の分解時間に応じて選択される。例えば、ポリカプロラクトン含有繊維は、ポリD,L−ラクチド含有繊維よりも遅い速度で分解する。また、分解速度は、ポリマーの平均分子量によっても影響を受け、高分子量のポリマーは、低分子量のポリマーより遅い速度で分解する。所定の分解速度を有する繊維は、特定の種類のポリマーおよび特定の分子量の組み合わせを選択することにより作製できる。
【0033】
上記の分岐部用ステントは、薬物溶出ステントとすることができる。例えば、再狭窄を防止する薬物を、ステントの作製に用いる繊維材に含有したり、中空繊維の中心に添加したりすることができる。このようにしてステントに含有することができる薬物の量は、ステント作製に用いる生体吸収性ポリマー材中に、例えば、0.1〜99.9重量%の範囲とすることができる。本発明の分岐部用ステントに用いることができる中実、多層、および中空の薬物搭載繊維は、米国特許出願第13/435,487号に記載されている。
【0034】
本明細書に引用される全ての文献は、参照によって全体として本明細書で援用される。
【0035】
さらなる詳述はせずとも、当業者は、上記の記載に基づき、本発明をその最大のまで実施することができると考えられる。以下の具体的な実施例は、あくまで例示的なものとして解釈されるべきであり、いかなる意味においても以下の開示を限定するものとして解釈してはならない。
【0036】
(実施例1)
(コイル型分岐部用ステントの作製)
3つのパーツ、すなわち、1つの本幹用マンドレル(mandrel)および2つの分岐部用マンドレルを備えるマンドレルを用いて、コイル型分岐部用ステントを作製した。2つの分岐部用マンドレルの各々を、本幹用マンドレルの端部にねじ込んで、Y字型のマンドレルを形成した。
【0037】
上記ステントの作製は、以下のようにして達成された。最初に、生体吸収性の2プライ繊維を、分岐部用マンドレルがねじ込まれている本幹用マンドレルの端部に達するまで、当該本幹用マンドレルに巻き付けた。次に、その2プライ繊維を2つの別個の繊維プライに分割した。一方の繊維プライを、本幹用マンドレルに取り付けられた2つの分岐部用マンドレルのうちの一方に巻き付け、他方の繊維プライを他方の分岐部用マンドレルに巻き付けた。
【0038】
3つのコイル構造体を形成した後、当該3つのコイル構造体のそれぞれに、3つの長手方向支持繊維を取り付けた。当該長手方向支持繊維は、コイルの外側の面および内側となる内腔側の面のうちのいずれに取り付けてもよい。
【0039】
長手方向支持繊維をコイルに取り付けた後、次のようにしてコイル構造体をマンドレルから取り外した。最初に、分岐部用マンドレルのねじ込みを外し、次に、これらのマンドレルをスライドさせて本幹用マンドレルから離し、そして、コイルをスライドさせて本幹用マンドレルから取り外した。
【0040】
2つの長手方向支持繊維の取り付け点の間の中間点であって、そのコイル上の中間点付近にホックを配置し、当該ホックを360°回転させることにより、周辺ローブを形成した。この一連の過程を、3つのセグメントの全てを含む全体の長さ方向に沿って繰り返し、コイル型分岐部用ステントを形成した。上記ホックの回転により形成した周辺ローブは、主ローブの外側に形成された。この周辺ローブは、このままの位置に残すことができる。また、主ローブの内側にひっくり返すこともできる。
【0041】
このようにして形成された周辺ローブは、その対応するセグメントの中心線に対して垂直とすることもできるし、平行とすることもできる。使用時に、分岐部用ステントをバルーンカテーテルに縮めて取り付けると、周辺ローブは全て、ステント本体の中心線に対して平行となる。
【0042】
(実施例2)
(コイル型分岐部用ステントの他の作製)
上記Y字型マンドレルを用いて、コイル型分岐部用ステントを作製した。
【0043】
上記ステントの作製は、以下のようにして達成された。最初に、生体吸収性繊維を、分岐部用マンドレルがねじ込まれている本幹用マンドレルの端部に達するまで、当該本幹用マンドレルに巻き付けた。次に、3つの長手方向支持繊維を、得られた第1の繊維のコイル体に取り付けた。これら3つの長手方向支持繊維は、第1の繊維のコイル体の外側の面および内側となる内腔側の面のうちのいずれに取り付けてもよい。その3つの長手方向支持繊維のうちの2つを、残り1つの長手方向支持繊維よりも長くし、コイル構造をとる第1の繊維の端部を越えて延びるようにした。これら伸ばした2つの長手方向支持繊維は、2つの分岐部用マンドレルにそれぞれ巻き付け、2つのコイルセグメントを形成した。
【0044】
上記長い支持繊維が分岐部用マンドレルに巻き付けられた後、これにより形成された繊維による2つのコイル構造体に、長手方向支持繊維を取り付けた。第1の繊維のコイル体と同様に、これら長手方向支持繊維は、繊維コイルの外側の面および内側となる内腔側の面のうちのいずれに取り付けてもよい。
【0045】
上記コイル構造体を、前述と同じ方法で、マンドレルから取り外した。
【0046】
周辺ローブも、前述と同じ方法で形成した。また、周辺ローブは、主ローブの外側に配置してもよいし内側に配置してもよい。また、周辺ローブは、その対応するコイルセグメントの軸に対して垂直であってもよいし平行であってもよい。
【0047】
(実施例3)
(コイル型分岐部用ステントのさらに他の作製方法)
3つの生体吸収性繊維をそれぞれ別々のマンドレルに巻き付け、コイル構造をとる繊維による3つの構造体を形成した。2つの「長い」長手方向支持繊維および1つの「短い」長手方向支持繊維を、上記3つのコイル構造体のうちの1つに取り付け、本幹用セグメントを形成した。上記2つの長い支持繊維は、これらが取り付けられた第1のコイル構造体の端部を越えて延びるように構成された。2つの長い支持繊維のうちの1つは、上記3つのコイル構造体のうちの2つ目に取り付け、この第2のコイル構造体を支持させた。他方の長い長手方向繊維は、上記3つのコイル構造体のうちの3つ目に取り付け、この第3のコイル構造体を支持させた。追加の短い長手方向支持繊維を、コイル構造をとる、上記第2の構造体および第3の構造体にそれぞれ2つずつ取り付けた。
【0048】
周辺ローブも、前述の方法と同じ方法で形成した。また、周辺ローブは、主ローブの外側に配置してもよいし内側に配置してもよい。また、周辺ローブは、対応するコイルセグメントの軸に対して垂直であってもよいし平行であってもよい。
【0049】
(その他の実施形態)
本明細書中に開示される全ての特徴はどのように組み合わせてもよい。本明細書中に開示される各特徴は、同一、均等、または同様の目的を果たす他の特徴により置き換えられてもよい。したがって、特に記載されない限り、開示されている各特徴は、一般的な一連の均等または同様の特徴の一例に過ぎない。上記説明から、当業者は、本発明の本質的な特徴を容易に確定することができ、また、本発明の要旨および範囲から逸脱することなく、種々の使用および条件に適合させるために本発明の種々の変形および修正を行うことができる。したがって、その他の実施形態も、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【0050】
(本発明の例示的な実施形態の概要)
第1のセグメントと、当該第1のセグメントのコイル構造をとる繊維の延長である第2のセグメントおよび第3のセグメントとを有する、生体吸収性の拡張可能なコイル型分岐部用ステントが開示される。また、第2のセグメントおよび第3のセグメントが第1のセグメントの支持繊維の延長である構成とした3つのセグメントを有する拡張可能なコイル型分岐部用ステントが開示される。さらに、第1のセグメントの支持繊維が第2のセグメントおよび第3のセグメントも支持する構成とした拡張可能なコイル型分岐部用ステントが開示される。上記3つのセグメントは、変化に富んだ形状に合わせてそれぞれ独立して調整可能である。