(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6162509
(24)【登録日】2017年6月23日
(45)【発行日】2017年7月12日
(54)【発明の名称】観測望遠鏡用の回転駆動装置用モータの回転角度追従制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20170703BHJP
G02B 23/16 20060101ALI20170703BHJP
【FI】
H02P29/00
G02B23/16
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-137878(P2013-137878)
(22)【出願日】2013年7月1日
(65)【公開番号】特開2015-12745(P2015-12745A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176730
【氏名又は名称】三菱プレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087756
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 猛
(72)【発明者】
【氏名】中山 聡
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−281867(JP,A)
【文献】
特開平08−140383(JP,A)
【文献】
特開2001−245484(JP,A)
【文献】
米国特許第07081730(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
G02B 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測望遠鏡用の回転駆動装置用モータの回転角度追従制御において、
追従すべき所定間隔の各角度(Pi)に対する各目標到達時刻(Ti)をあらかじめ設定し、
前記所定間隔の角度を角度センサで計測するとともに、その角度(Pi)における到達時刻(ti)をタイマにより計測し、
その後、前記角度センサで計測した角度(Pi)の次の角度(Pi+1)の目標到達時刻(Ti+1)を更新設定し、次に、
今回計測した到達時刻(ti)と次回の目標到達時刻(Ti+1)との差をとりその差を偏差として、
次回の角度(Pi+1)における到達時刻が前記目標到達時刻(Ti+1)となるように順次モータの回転角度を制御することを特徴とする観測望遠鏡用の回転駆動装置用モータの回転角度追従制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙観測駆動装置用モータにおける低角度分解能角度センサを用いた高精度回転角度追従制御方法にするものである。
【背景技術】
【0002】
宇宙望遠鏡等の観測装置では、高精度での回転駆動装置用モータの角度追従制御が要求される場合がある。従来の一般的なモータ角度追従制御では、一定時間間隔毎に目標位置を更新し、その各時点でのモータ回転角度との偏差で制御を行っている。モータ回転角度は、エンコーダ等の角度センサにより計測し、その出力をコンピュータで取得している。
図3は、一定時間間隔(T0,T1,T2…)とエンコーダ測定角度位置(P1,P2…)との関係を示す図である。サンプリング時刻T1における角度センサが示すモータの回転角度の測定位置をP1とする。サンプリング時刻T1において次のサンプリング時刻T2における目標位置がP2に設定されてこれを目標値とする。この目標値P2とサンプリング時刻T1の測定位置P1との差を偏差として、モータの回転角度を目標値P2に相当するように制御する。
このとき、サンプリング時刻T1における真の現在位置(モータの回転角度)はPt1である。角度センサの分解能を1サンプリングについて(P2−P1)の間隔とすると、T1でのサンプリングにおいて真の現在位置がPt1であっても、測定された位置はP1となり、(Pt1−P1)が誤差となる。制御系は、この誤差状態に基づいて、目標値に対して制御することとなる。
【0003】
モータの角度追従制御において、一定変化率(一定回転速度)で変化する目標位置角度に精度よく追従させる場合、一般的な角度追従制御では、一定時間間隔で目標位置角度を更新させ、その目標角度に追従するように位置角度制御を行っている。よって、その位置角度制御分解能はエンコーダの角度分解能に依存する。
例えば、エンコーダの角度分解能が、1回転128pulseとした場合、その角度分解能は以下の式より2.813degとなる。
360[deg]÷128[pulse]=2.813[deg/pulse]
よって、この手法で、要求される角度位置制御精度を満足させるためには、少なくとも要求精度以上の分解能を持つエンコーダが必要である。
【0004】
この制御方法では、角度センサが十分な分解能を有していない場合、高精度での角度追従の実現は困難なものとなっていた。
耐放射線性、耐真空性等の耐環境性と高い確度制御精度が要求される宇宙環境等では、宇宙用高精度エンコーダの価格が非常に高いというコスト面や、機械的電気的に制約が発生する技術的な問題から高分解能回転角度センサを使用することは難しく、特に低速回転時にはセンサの角度分解能が十分でなく、角度追従性が悪化するという問題を抱えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、一定の回転速度すなわち一定の回転角度変化における、モータの角度追従制御において、角度センサの分解能を変更せずに、角度制御分解能を向上させる点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、観測望遠鏡用の回転駆動装置用モータの回転角度追従制御において、追従すべき所定間隔の各角度(Pi)に対する
各目標到達時刻(Ti)を
あらかじめ設定し、前記所定間隔の角度を角度センサで計測するとともに、その角度(Pi)における到達時刻(ti)をタイマにより計測し、
その後、前記角度センサで計測した角度(Pi)の次の角度(Pi+1)の目標到達時刻(Ti+1)を更新設定し、
次に、今回計測した到達時刻(ti)と次回の目標到達時刻(Ti+1)との
差をとりその差を偏差
として、次回の角度(Pi+1)における到達時刻が前記目標到達時刻(Ti+1)
となるように順次モータの回転角度を制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、エンコーダの分解能を宇宙用高精度エンコーダのものに変更せずに、モータの回転速度とタイマ分解能に依存して位置角度分解能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明による位置角度追従制御の原理動作を説明する図である。
【
図2】本発明による位置角度追従制御を説明するブロック線図である。
【
図3】従来の位置角度追従制御の動作を説明する図である。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明の位置角度追従制御の動作を説明する図であり、エンコーダを介して得られる一定角度間隔(P0,P1,P2…)とタイマによる測定時間(T1,P2…)との関係を示す図である。
図2は、本発明の位置角度追従制御を実現する装置のブロック線図である。
【0010】
図1は、位置角度追従制御の原理動作を説明する図である。目標位置Piに対応して目標到達時間Tiを計算しておく。エンコーダ測定角度位置P1におけるタイマ測定時刻がt1であったとする。エンコーダ測定位置P1において次のエンコーダ位置P2における目標時刻がT2にあらかじめ計算されこれを目標値とする。この目標値T2とエンコーダ測定角度位置P1の測定時刻t1との差を偏差として、基準位置P2における時刻がT2になるように、モータの回転を制御する。
図1の位置角度追従制御は、一定時間間隔で目標角度位置を更新するのではなく、エンコーダパルス間隔の時間を測定し、それを目標角度と現在角度との角度偏差とみなし、次のパルスに到達する目標時間を指定(制御)する。
図1の位置角度追従制御における、位置角度分解能は、回転速度、タイマ分解能に依存し、下記式より計算できる。
角度偏差分解能(角度分解能)=目標回転速度×CLOCK分解能
タイマ分解能を10kHzとして、40rpm一定回転速度とすると、
240[deg/s]×0.0001[s]=0.024[deg]
よって、本発明によって、エンコーダの分解能を変更せずに、従来の制御方式から、位置角度分解能を約100倍向上することができることが分かる。ただし、本発明では、目標到達時間の更新周期が、エンコーダ分解能と、回転速度に依存することに注意が必要である。よって、制御周期と合致するエンコーダ分解能の選定が必要となるが、要求精度が非常に高い場合は、非常に有効な手法である。
【0011】
図2において、201は第1の加減算器、202は第2の加減算器、203は積分器、204は第1のLPF(低域フィルタ)、205は第3の加減算器、206は第2のLPF(低域フィルタ)、207は速度制御器、208はモータ駆動回路、209はモータ、210はエンコーダ、211は時間測定部である。
第1の加減算器201の加算入力(+)と第2の加減算器202の減算入力(−)とには、1パルス毎の目標所要時間αが、図示しない制御部の制御により、入力される。
時間測定部211は、制御部の制御により時間測定される。
モータが回転させようとする観測装置が一定の速さで回転移動するために、モータを一定の速さで回転させる必要がある。モータが所定の回転角度位置Pnに移動する時間は
時間=(1/回転角速度)×回転角度
(*ただし 回転角速度=1s当たりの回転角度変位)
で得られる。そして、この時間は、速度が一定で回転角度速度が一定のときは等間隔に選定した回転角度位置に対し、等間隔となる。この等間隔の一定時間間隔を目標所要時間αとして、所定一定間隔に設定した目標位置に対応する時刻の実時間を測定し、目標所要時間αと、前記実時間との差を偏差として、速度制御器207を介してモータ駆動回路208により電流制御をしてモータ209の速度を制御する。
エンコーダ210は、モータ209の1回転を所定の角度できざんだ角度毎に、モータ209の回転に応じて1パルスを出力する。1パルスを出力する時のパルスの立ち上がりを、モータ209が回転する前記所定の回転角度位置Pnに対応させる。時間測定部211はエンコーダ210からのパルス信号の立ち上がりを受け、1つのパルス信号の立ち上がりから次の立ち上がりまでの時間をカウントする(P201)。パルス信号の立ち上がり間隔をカウントするから、モータ209の回転の全過程においてその経過時間を測定せず、立ち上がり毎にカウント値を出力するとともにクリアしてカウントを再開することにより、経過時間を測定することになる。エンコーダ210の出力パルスの立ち上がりがあるか監視(P202)し、次の立ち上がりを検出した時のタイマカウント値により1パルスの時間間隔tωを検出したこととなる。この時間間隔tωがパルスの立ち上がり毎に出力され(P203)、この時間間隔tωを第2の加減算器202の加算入力(+)、第3の加減算器205の加算入力(+)に加える。タイマカウンタはこの時間間隔tωを出力した後、タイマカウント値をクリアする(P204)とともに、タイマカウントを開始する(P201)。前記時間間隔tωを加算入力(+)した第2の加減算器202は減算入力(−)に目標所要時間αが入力されており、これらの入力を加減算する。この加減算で得た目標時刻と時間間隔tωとの誤差が積分器203に入力される。積分器203は今までの時間誤差の積分値すなわち角度追従誤差を積分し、第1のLPF204はこの値の雑音を除去する。第1の加減算器201の加算入力(+)には目標所要時間α、減算入力(−)には第1のLPF204の出力が加えられる。第1の加減算器201の出力tθは、次パルスカウントまでの目標所要時間とされ、第3の加減算器205の減算入力(−)に加えられる。第3の加減算器205の加算入力(+)には、時間測定部211からのタイマカウント値として1パルスカウントの時間間隔tωが加算される。第3の加減算器205の出力は、第2のLPF206を経由して、速度制御器207に入力する。速度制御器207は入力した値にしたがってモータの回転速度を得るようにモータ駆動回路208を制御する。モータ駆動回路208は速度制御器207の制御にしたがってモータ209の駆動電流を与える。モータ209はモータ駆動回路208の電流にしたがった回転速度で動作する。
1パルスの時間間隔tωが、次パルスカウントまでの目標所要時間tθよりも、値が大きいと、モータ回転速度が遅く、モータの回転角度が目標よりも遅れてい、1パルスの時間間隔tωが、次パルスカウントまでの目標所要時間tθよりも、値が小さいと、モータ回転速度が速く、モータの回転角度が目標よりも進んでいるから、これらの遅れ進みがないように制御する。
図1に示すように、例えば、エンコーダ210による回転角度位置P1のときの、タイマカウント値がt1であるとすると、エンコーダ210の次の回転角度位置P2のときの目標時刻をT2とする。このT2は、回転角度位置P1のときの目標時刻T1と、
T2−T1=T3−T2=…
となり、等間隔である。
位置分解能は、タイマ分解能で進む移動量となり、
図3で示した従来の目標位置更新による追従制御と比較して、十分なタイマ分解能を有する場合、角度制御分解能は向上し、高精度回転角度追従制御が要求される場合に非常に有効である。
さらに、宇宙環境で使用する観測機器等に応用できる。
【0012】
発明者は、以下の条件で、従来の手法と、本発明による手法での評価を行った。
回転速度:40rpm 一定
角度分解能:2.813°
上記条件での回転角度制御分解能の計算結果
従来技術の手法:2.813°
本発明による手法:0.024°(10kHz タイマを使用)
分解能が100倍向上
【符号の説明】
【0013】
201 第1の加減算器
202 第2の加減算器
203 積分器
204 第1のLPF
205 第3の加減算器
206 第2のLPF
207 速度制御器
208 モータ駆動回路
209 モータ
210 エンコーダ
211 時間測定部